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この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり
この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、
1013、20世紀フォックス社に帰属します。
TITLE： - My Very Special Happy Birthday -
by yuria
++ この作品の中のMulderとScullyは恋人同士ではありません ++
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October 13th Friday
7:10 pm.
XFオフィス
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Fox Mulderはファイルキャビネットからファイルを一束つかむと、デスクに戻り
それを順に開いていった。
彼は今日、この単調な作業を果てしなく繰り返していた。
静かな部屋の中にMulderがファイルをめくる音だけが響いた。
Dana Scullyは時計を気にしながらチラチラとMulderの様子をうかがい、
デスクに広げたノートパソコンをぼんやりと見つめていた。
彼女はもう一度チラリと腕時計を見てから、コホンと咳払いをして口を開いた。
「Mulder」
「なに？」
「７時を過ぎたわ」
「ああ、だから？」
眼鏡をかけたMulderは、ファイルから顔も上げずに答えた。
デスクの上のスタンドの光りが反射して、Mulderの眼鏡のレンズがキラリと光った。
「まだ仕事を続けるの？」
「もう少し」
「・・・そう」
Mulderは開いていたファイルを、古いファイルでほぼ一杯になった足元のダンボール箱に投げ入れて、
次のファイルを開いた。
このぶんで仕事を続ければ、朝の局のエレベーター並みに混みあっているファイルキャビネットの中にも
少しは余裕ができるはずだ。もっともそれには明日の朝まで仕事を続ける必要があるが。
しばらくしてScullyが再び遠慮がちに声をかけた。
「Mulder」
「ん？」
Mulderは仕事の手を止めず、心ここにあらずの返事を返した。
「スキナーの呼び出しはなんだったの？」
「今月も残業が多すぎるそうだ」
「だから？」
「今日は定時で帰れと」
「帰らないの？」
「仕事が終わらない」
「・・・そう」
再びオフィスに沈黙が流れ、Mulderはキィっと音をたてて椅子から立ち上がると
ファイルキャビネットとデスクとの間を、ファイルの束を持って今日何度目かの往復をしていた。
整理し終えたファイルをキャビネットへ戻し、新しいファイルを持ってデスクへ戻ると
彼は黙々とファイルの整理を続ける。
今日１日のデスクワークを物語るように、彼の白いＹシャツの背中や肘までまくられた袖には
無数の細かいシワができていた。
「・・・Mulder」
Scullyの呼びかけにMulderは苛立たしげに開いていたファイルをパンと音をたてて閉じると、
眼鏡を外し、彼女を真っ直ぐに見据えて答えた。
「なんだよ」
「あの・・・こんな時間だし、食事にしたらどうかと思って」
Scullyの言葉に、Mulderがこれ見よがしに大きな溜息をついた。
「僕に気兼ねしないで先に帰っていいよ。いつもそうするじゃないか」
「その・・・仕事がまだ・・・終わらないのよ」
Scullyは曖昧に微笑んで、両手でPCを示した。
Mulderはスクリーンセーバーの海賊船がのん気に行ったりきたりしている
ScullyのPC画面をチラリと一瞥すると、外した眼鏡をかけなおして無表情のまま、
再びファイルに目を落とした。
Scullyは慌ててマウスを素早く動かして、画面を行き来している海賊船の姿を消し、
開いていた報告書のファイルを呼び出した。
「腹が減ったのなら、なにか買ってくるといい」
Mulderはファイルから目を上げず、興味なさそうに言った。
「Mulder、あなたは今日もここでテイクアウトのチャイニーズやチキンを食べるっていうの？
そんなの悲しいわ。お誕生日じゃない」
そう言いながらScullyは立ち上がるとMulderのデスクに近寄って気遣わしげな眼差しを彼に注いだ。
MulderはScullyの言葉を聞くとファイルから目を上げ、眼鏡をゆっくりと外すと
挑戦的な瞳でScullyを見上げた。
彼の瞳の色を読んで、Scullyは『しまった！』と心の中で舌打ちした。
「知ってたのか？
だから君は用もないのにオフィスに残り、一人きりの誕生日を過ごす僕を哀れんでここにいたのか？
それはご親切なことだが僕は哀れんでもらわなくても結構だ。
これが僕の誕生日の過ごし方なんだ。
子供のころからずっとね」
Scullyの経験上、彼のこの表情は物事がややこしくなる前兆だということを知っていた。
と言うより『彼』がややこしいのだ。
なのでScullyは戦術を変えてみた。彼はサプライズよりも真実を求めるタイプだから。
「哀れんでなんかいないわ。
正直に言えば、言い出せなかったのよ。
・・・あなたを食事に誘いたかったの」
「ほう」
Mulderの瞳がキラリと光り、皮肉な微笑が唇にひろがった。
これはよくない兆候だ。
「世界中の可哀想な男を救済してまわるのが君の高尚な趣味なのか？
それとも手軽で安っぽいボランティアのつもりかい？
それなら他をあたってくれよ。僕は君の自己満足の道具になるつもりはない」
ScullyはMulderを見つめたまま、予想通りの彼のひねくれた質問と辛辣な言葉には答えなかった。
『僕は一筋縄ではいかないぞ』という子供っぽい彼の意思表示は無視するに限る。
これも経験上知っていた。
「・・・ごめん、言い過ぎたよ。
君がそんなつもりはないことはわかってる」
Mulderは後悔したように目を閉じて、右手で目頭を軽く揉んだ。
Scullyは「よろしい」と言うように軽く頷いた後、
Mulderの柔らかな栗色の髪に愛情深く触れると、穏やかな微笑を浮かべた。
「あなたが子供のころからの習慣を守りたいのなら無理にとは言わないけど、
食事でもどう？Mulder」
MulderはScullyの提案に眩しげにヘイゼルの瞳を上げると、はにかんだように微笑んだ。
「ＯＫ。でも金曜の夜だし店はどこも混んでるんじゃないか？
１３日の金曜日だ、Scully。モンスターボーイにはぴったりな誕生日じゃないか」
「Mulder、そういう言い方はよして。ちっとも面白くないどころか悲しくなるのよ」
「気にしないでくれ、いつもの癖さ」
ニコリともしないScullyに、Mulderは両手を力なくあげて『冗談さ』というポーズを見せた。
両手を胸の前で組んでMulderの前に立っていたScullyは、笑いとも溜息ともとれる吐息を吐いて、
気持ちを切り替えるように、明るいトーンでMulderを促がした。
「大丈夫、じつはお店の予約はすませてあるの。素敵なバースデーになるわ。
さあMulder、コートを着て。局の近くなのよ、歩いて５〜６分」
******************
黒いシルエットとなった街路樹の続く夜の街を、MulderとScullyは肩を並べて歩いていた。
２人の吐く息が白く見える。
昼間はダークスーツを着た忙しげな人々で溢れているDCの街も、金曜の夜は静まり返っていた。
金曜日は、家族のもとへ、恋人のもとへ、彼らを待っている人々のもとへと帰る日だった。
Mulderは厚手のロングコートのポケットに無造作に両手をつっこみ、
隣を歩くScullyもコートをはおり、寒そうに両腕を胸の前で組んでいる。
時々彼女は左手をコートのポケットに入れて、そこに忍ばせた小さな包みのリボンが
とれてしまっていないかどうかを注意深く確認した。
空には星一つなく、一面重そうな雲に覆われていた。
ところどころにある街灯と、時おり通り過ぎる車のライトが舗道に長い２人の影を映し出した。
雨の匂いのする夜の街に２人の靴音が響いていた。
Mulderが沈黙を破って口を開いた。
「Scully、さっきは本当に・・・」
「いいの」
ScullyがMulderの言葉を優しくさえぎる。
「子供のころから誕生日とクリスマスは特別な日だった。
でもそれは友人達が思っているような意味の『特別』ではなくて、
家にいちゃいけない日って意味だ。
僕の１２歳の誕生日を最後に、家では誕生パーティーは開かれないし
サンタもパッタリと来なくなった。
きっとサンタの秘書がリストからうっかり僕の名前を削除したんだろうな。それっきりさ」
Mulderは暗い道を歩きながら肩をすくめた。
Scullyは真っ直ぐ前を見て彼の隣を歩いていたが、彼女にはMulderの表情が手にとるようにわかっていた。
「だから僕はそれ以来、誕生日とクリスマスには無理やり用事を作る。
子供のころは誕生日には自転車で遠乗りに出かける日と決めていた。
隣町や、そのまた隣町まで行ったものだよ。あてもなくね。
困るのは雨の日で、そんなときには図書館に行って本を何冊も読んで閉館時間までねばったよ。
昔から僕は辛抱強かったからね」
Mulderはそう言うと腰をかがめて隣のScullyを覗き込み、ニヤリと笑ってみせた。
「もちろん大学時代はそれなりの誕生日を過ごしたけど」
「もちろんそうでしょうね、きっとあなたの誕生日をお祝いしたいお友達はたくさんいたでしょうから。
スカートをはいたお友達がね。そしてあなたは嬉しそうにシッポを振るんでしょう？」
「話の腰を折るなよ、Scully。お行儀が悪いぞ。
それに今のはセクハラだ。注意したほうがいいよ、デリケートな問題だからね」
意味ありげに人さし指を立てるMulderにScullyは力なく首を左右に振った。
「あきれたわね。あなたにセクハラ発言について注意されるとは思わなかったわ」
２人は顔を見合わせてクスクス笑った。
大学時代の彼の誕生日はさぞ華やかなものだっただろうとScullyは考えた。
本人が自覚しているかどうかは別として彼のルックスから考えると、他の女子生徒が放っておくはずがない。
しかし彼が子供の頃の誕生日に感じた孤独や淋しさは、その後の華やかな誕生日でも埋められないほど
彼の心の奥深い部分に今でも残っていることもScullyは知っていた。
しばらくそのまま肩を寄せ合って歩いてから、Mulderが続けた。
「入局してからもその習慣は抜けなくて、ああ、間違えるなよScully。
大学時代のじゃなくて子供の頃からの習慣だ。・・・で、その日はファイルの整理日と決めたんだ。
習慣とは恐ろしいものだな、Scully」
Scullyは黙ったまま組んだ両手をほどき、Mulderのコートのポケットにそっと右手を滑り込ませ、
ポケットの中で縮こまっている彼の手を軽く握った。
パラパラと降り始めた雨が、２人の肩や髪に水滴を光らせた。
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オフィスビルの入り口に長い金髪を肩までたらし、黒ぶちの眼鏡をかけたひょろりとした男が姿を見せ、
しばらく外の様子を伺うと、きびすを返してビルの地下へと続く狭い階段を駆け下りて行った。
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「あの店よ、Mulder」
Scullyが指差した方向に彼が顔を向けると、オフィスビルの入り口に小さなネオンが光っていた。
「地下の小さな店なんだけど、美味しいピザが食べられるわ。
あなたもきっと気に入るはずよ」
「僕もデリバリーピザの店なら少しは顔がきくんだがな」
「でしょうね」
雨の中２人は小走りにビルの内部へと駆け込み、肩を触れ合わせながら狭い階段を下りていくと
すぐにその店の前へ出た。
レンガ造りの壁には「Oreilly's」と店の名前がグリーンのネオンで光っていた。
新しくはないが暖かい印象を受けるオーク材でできた小さなドアの前に立つと、
中から軽快な音楽がもれ聞こえてきた。
ドアの脇の小さなディスプレイ用のテーブルの上には、赤と白のチェックのテーブルクロスがかかり、
イタリアの旗と『手作りピザの店 Oreilly's へようこそ！』という看板を持って
陽気な笑顔をふりまくコックの人形が置いてあった。
「ここではピザボーイにチップを払わなくてもいいのかい？」
いつもの軽口を言いながら、ガーリックのいい香りに誘われてMulderが右手をドアノブに伸ばし
Scullyを振り向くと、彼女の前髪に真珠のような水滴が美しくきらめいていた。
Mulderは右手をドアノブにおいたまま、もう一方の手でそっと彼女の前髪についた真珠のきらめきを
優しく拭った。彼は水滴のついた長い指先をScullyの顔の前でゆっくり広げると、
少年のような笑顔を見せた。
そしてそのあとこの指をどうするべきかと少し躊躇した。
Scullyの白く柔らかい頬はすぐそこにある。手を少しだけ伸ばせば触れることができる。
Scullyの長いまつ毛に縁取られた蒼い瞳は、真っ直ぐにMulderを見上げていた。
その瞳の奥に微かな感情の揺らめきを見た気がしたが、彼は静かな笑顔を見せて、
いつものように左手をScullyの背中にあて、いつものように彼女のためにドアを開ける。
そして彼は心の中でこう呟くのだった。
『Scully、君が君らしくいられるように、今の僕はここで指を止める。
だけど、いつも僕は君の後ろにいるよ。いつでもだ』
賑やかな音楽が流れる店の内部では、ラングリー、バイヤース、フロヒキーの３人組とスキナー副長官、
ペンドレル捜査官が、今か今かとクラッカーを持ちながら、ちょっとばかりspookyだが
彼らの大切で愛すべき友人がドアを開けて現われるのを待っていた。
店の外では、ドアをゆっくりと押し開きながらScullyの背後でMulderが囁いていた。
「Scully、何か企んでるな」
「Happy Birthday! Mulder!」
陽気なクラッカーの音と友人たちの暖かい大きな笑顔がMulderを迎え入れ、今夜のパーティーは始まった。
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HAPPY BIRTHDAY MULDER !!
普通だけど、とびっきり特別なお誕生日をモルに贈ります。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。<m(__)m>
yuria
Oct. 2002
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