|
この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり
この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、
1013、20世紀フォックス社に帰属します。
TITLE：
- Star light , Star bright -
SPOILER: ｓ7「存在と時間」
by yuria
* この作品はｓ７「存在と時間」の直後から始まります *
鳥は鳴くのをやめ、木々たちは息を潜める。
冷気があたりを包んでいた。
誰もが押し黙ったまま、遺体をひとつひとつ掘り出していった。
幼い魂は静かにその時を待っていた。
彼らは冷たい土の下で、どんな夢を見ていたのだろう。
アイスクリームやジャングルジム、それとも誕生日のケーキのことだろうか。
運命とは あまりに理不尽だ。
幼い魂が再び蘇ることは？
僕は信じたい。
我々には窺い知れない真実が、きっと存在することを。
生命は限りなく、永遠に続くということを。
僕は信じたい。
人知を超えた大いなる意志が、働いていることを。
生を受けし物は、冷たい地中に留まることなく、いつか蘇る日まで
星となって 永遠に輝き続けることを。
-----------------
「僕は自由だ」
星を見上げて呟いたMulderの声は震えていた。
しかし彼の瞳はどこまでも澄んで、穏やかだった。
「Mulder、部屋へ帰って休みましょう」
Scullyは星空を見上げて立ち尽くすMulderにゆっくりと近づき、彼の腕にそっと手をかけた。
彼女の指に彼の皮ジャンのヒヤリとした感触が伝わる。
「ひどい顔よ、ここ何日もろくに食事も睡眠もとらずに働き続けたんだもの」
「スキナーに追加手当を申請できるな」
皮ジャンのポケットに両手を入れて夜空に顔を向けたまま、
瞳だけでScullyをチラッと見下ろした彼がニヤリと笑った。
「そんなことはしないほうが賢明よ。あなたがとうに忘れている請求書を
経理からまわされるのがオチだわ」
．．．久しぶりに彼のいつもの軽口を聞いた．．．
彼女は心の中で安堵の溜息をついて、クスリと笑った。
ここ数日というもの、Mulderにとって辛い日々が続いていた。
サマンサを思い出さずにはいられない、少女アンバー・リンの失踪事件。
その捜査中の母の自殺。それによって判明した母親の重い病気。
そして、長い間彼が探し続け、情熱を傾け続け、その情熱の源とも言える
サマンサ捜しの旅の悲しい結末。
そのため彼はもう二度と笑顔を見せることはないのではないか、
このまま自分にも心を閉ざして孤独な世界へと堕ちて行ってしまうのではないかと
Scullyが本気で思い始めていた時に彼が見せたかすかな笑顔だった。
CSMが彼女に言った、
『サマンサの死を知れば彼は希望を失う』
その言葉がScullyの心に重くのしかかっていた。
Mulderが星を見上げたままで口を開く。
「Scully、あの星の光は太古の昔のものだよ。それが今僕らの目に映っている。
この地球に辿りつくまでに、どんな冒険の旅をしてきたんだろう。
あの小さな光は何億光年もの長い光のトンネルを抜けてきたんだ」
ScullyはMulderの腕に軽く手をかけたままで、彼と並んで夜空を見上げた。
「あの無数に輝く小さな星の一つ一つに魂が宿っていて、
神によって定められた地上に蘇る順番をじっと待っているのだとしたら？」
「あなたから神様の話が聞けるとは思わなかったわ」
そう言ったScullyの深く柔らかい声には、からかいの響きはまったくなかった。
「科学者の君には子供じみたおとぎ話に聞こえる？」
Mulderは星空から目を離さずに尋ねた。
「そうね、おとぎ話かも。
でも初めて告白するけど、私はあなたが話すおとぎ話が大好きよ。
そんな話をしている時のあなたの声のトーンや表情も大好きだわ」
Mulderは予想外のScullyの言葉に、その真意を確かめるように彼女の顔をまじまじと見つめた。
Scullyはそんな彼に、はにかんだような微笑みで答えた。
Mulderは彼女の答えに安心したように、めずらしく皮肉のかけらもない笑顔を返した。
くったくのないMulderの笑顔にScullyの笑顔も大きくなった
しかしその一瞬後にMulderの瞳は曇り、Scullyさえ数えるほどしか見たことがないほどの
彼の美しい笑顔は失われた。
ScullyはMulderには笑顔が似合うと思っていた。笑顔の彼はとても魅力的だったから。
孤独で淋しげな彼の瞳は、笑顔になると人懐こい少年のように輝きを増し
ふっくらと優しげなその唇からは、楽しそうな笑い声が漏れる。
しかし残念なことにScullyはMulderの顔から美しい笑顔が消える瞬間を今までに何度も
その目で見てきたのだった。
Mulderはたった今、心霊捜査官と名乗っていた男、ハロルド・ピラーが走り去っていった暗闇へと
目をこらしていた。
「彼は今までの僕の姿だよ、Scully。
僕は信じたかった。だから小さな希望にすがりついていた。
それは本当に希望だったのか、それとも僕が作り上げた妄想のかけらだったのかはわからない。
でもサマンサの死を受け入れて、彼女を捜すことを止めることでサマンサを解放し、
僕自身も解放される。今こそ長い旅が終わる時だ。
彼にもそれを伝えたかった．．．」
「Mulder、あなたにとってはここが旅の終わりの地。でも彼には違ったのよ。
でもきっと、彼にも旅の終わりは訪れるわ。
．．．さあMulder、本当に風邪をひいてしまう。部屋へ帰りましょう」
ScullyはMulderの腕にかけた手にそっと力を込めて止めてある車の方へと彼を促がした。
車へと歩きながらScullyがふと後ろを振り向くと、サマンサを治療したドミニク・サビオ記念病院の
元看護婦の部屋はもうすでに明かりが消えていて、ひっそりと静まり返っていた。
--------------------
レッド・キャリッジ・モーテル
サクラメント
ワインのハーフボトルと２人分のグラス、そして小さな紙袋を抱えたScullyが
Mulderの部屋の白いドアを遠慮がちにノックした。
「開いてる」
中から疲れた声でMulderが答える。
Scullyが静かにドアを開けて部屋へ入ると、彼は靴のまま薄暗い部屋でベッドに仰向けに寝転んで
音の消えたＴＶを見ていた。
白い壁に花柄のカーテン、寝心地の良さそうな大きめのベッドのあるこの部屋は
先日までMulderが泊まっていた狭くて殺風景な部屋に比べて、小奇麗で気持ちが良かった。
「何をしているの？」
「ベッドサイドのランプが壊れてるんだ。だから代わりにＴＶをつけてる」
「ランプの代わりにＴＶを？それも音を消して？」
「そう。ランプがしゃべったらうるさいだろ？」
ニヤリと笑いながらMulderはそう言うと寝転んだままScullyを見上げて、
彼女の抱えているものを興味深げに見つめた。
「君がワインを持って僕の部屋にくるのは、これで２度目だな」
「フロリダのモーテルでは、あなたはワインと私をおいてさっさと出て行っちゃったけど、
今夜は逃げないで一緒に飲んでくれるのよね？」
Scullyは小さなテーブルにワインとグラス、紙袋を置き、それをベッドの側に引き寄せて、
部屋の隅から自分のために椅子を持ってきた。
そして床に脱ぎ捨てられた彼の皮ジャンを拾い上げるとハンガーにかけた。
Mulderはぼんやりとそれを見ながらベッドから起き上がり、ヘッドレストに背中をもたせて
気だるげに座りなおした。そしてScullyが椅子に座ろうとすると、体を少しずらし、
彼女のための空間をベッドに作ると、おやすみ前のお話をねだる子供のようにおずおずとした笑みで
彼女を見上げた。
Scullyもまた、子供の願いを聞き入れる母親のような微笑をMulderに向けると、
彼のベッドに腰をおろした。
Mulderはベッドに伸ばした自分の足があまりにもあからさまに彼女の体に触れないように、
でも離れすぎてもしまわないように注意した。
Scullyは紙袋から２人分のサンドウィッチを取り出すと、Mulderの前へおき、
もうすでに半分ほど抜いてあるワインのコルクをポン！といい音を立てて引き抜き
赤い液体をそれぞれのグラスに注いだ。
ＴＶの明かりで青ざめた部屋にワインの赤が暖かみを添え、サンドウィッチからはいい匂いがした。
「こんな時間に開いている店を探すのは一苦労だったわ。
味の保障はないけれど、なにか少しでもお腹にいれなければ体に悪いわよ。
最近あなたが物を食べているところを見てないわ。
ダイエットをしているわけではないんでしょ？」
Mulderの瞳を覗き込むようにして尋ねるScullyに、彼はただ小さく肩をすくめて
淋しげな笑みを見せただけだった。
「適量のアルコールは血行を良くして、ぐっすり眠る手助けをしてくれるわ」
Mulderの主治医は彼にワインの入ったグラスを渡すと、自分もグラスから一口赤い液体を流し込んだ。
Mulderもそれに習ってワインを口に含むと、なんとも言えぬいい香りと
葡萄の渋みが口の中に広がって、熱い液体が食道を通ってカラッポの胃へと落ちていくのがわかった。
そういえばテーブルについて食事をとったのは、いったい何日前だろうか。
Mulderは自分の体を気遣って、こんな夜中に食事を用意してくれたScullyのために、
一切れサンドウィッチをつまんでワインで無理やり流し込んだ。
そんなMulderをさりげなく観察していたScullyは、彼の小鳥並みの食欲に心の中で溜息をついた。
ジーンズをはいた長い脚を投げ出して、ベッドにもたれている今の彼は、傷ついた心を
無防備にScullyにさらけだしている少年のようにも見えた。
しかしその疲れた瞳には、どこか安堵の色が見える。
「Scully、もし僕が死んでその体は地中に埋められても、僕の魂は星となって旅を続け、
いつか蘇る時がくるまで空で永遠に輝き続ける。父や母、そしてサマンサと共に。
君はこんな話を信じるかい？」
Mulderがいつもより微妙に高いトーンで穏やかに、そして少し甘えるようにScullyに尋ねた。
「Mulder、あなたが死んだらって例えは趣味がいいとは言えないけど、死後の世界や
輪廻転生の話は昔から語り継がれているように、人間の究極の願望なのかもしれないわね。
私も星になって魂が生き続けられることを願うわ。そう信じたい」
Scullyは彼のトーンにつられないように注意しながら冷静にそう答えると、一呼吸おいて、
努めて明るい声で続けた。
「ねぇMulder、これはおとぎ話ではないけれど、ケニアの諺にこんなのがあるわ。
”地球を大切にしよう。それは親からもらったものではなく、
子供達から借りているものだから”
もしもずっと遠い未来に生れ変った時にも、青く美しい地球のままであってほしいと思うわ」
「その諺は日曜学校で教えてもらった？
『人には親切にしよう！動物に優しくしよう！地球を大切にしよう！』
それとも教会の掲示板に貼ってあった？『ドラッグは止めよう！老人をいたわろう！
地球を大切にしよう！』」
明るい話題を選んだつもりがあっというまに皮肉屋のMulderが戻ってきて
Scullyは自分の選択が失敗に終わったことに後悔の溜息をついた。
「まあ地球の存続もドラッグの撲滅も、今のままじゃ望みは薄いね。
人間の欲求はとどまるところを知らない。神やエイリアンの領域を侵してね」
皮肉屋Mulderはいつもの口調でそう言うと、ニヤリと笑いながらワインをグッと飲み干した。
Scullyは空になったMulderのグラスに２杯目のワインをついでふと視線を動かした。
そして彼の枕もとにおいてある、こげ茶色の表紙の小さなノートに気がついた。
それは彼が捜し続けた妹の日記。
小さい頃によく自分をいじめた栗色の髪の兄が、いつか読んでくれることを願って
幼いサマンサが書き続けた心の日記だった。
それを見た途端Scullyは胸がキュっと締め付けられ、それとともに鼻の奥にツンとした痛みを感じた。
日記を見つけた晩にレストランでそれを読んだMulderをScullyは一生忘れないだろう。
すべての感情を押し殺したような静かで抑揚のない彼の声、そして波のない夜の海のような彼の瞳。
そこに映っていたものは深い悲しみと憐憫、愛情、そして喪失。
彼の長すぎるほどのサマンサ捜索の旅で得た、たったひとつの真実。
その日記の中で、たった１４歳の彼女は自らのことを
『彼らの思うままに引きずられる古いスーツケースのようだ』とたとえていた。
たった１４歳の彼女は、ブルーのインクの文字で
『彼らがそうしたいときには、いつでもそのスーツケースを開けてみることができる』と書いていた。
たった１４歳の彼女は．．．。
「Mulder、妹さんのことは残念だったわ」
Scullyはグラスを持っているMulderの左手に彼女の右手を重ねて声を震わせた。
しばらくの沈黙の後、Mulderは静かにゆっくりと話しはじめた。
「サマンサは迫っている残酷な死の運命から逃れて苦しまずに旅立った。
Scully、僕はずっと、空白になった日記を読んでいた。
すると見えてきたんだ。あの日のサマンサが．．．。
サマンサは彼女の日記が空白になった日に、計画を実行した。
暗闇の中で、彼女は恐怖に急き立てられながら走って走って走り続けた。
しかし長い実験の日々によって彼女の体は弱っていた。
彼女の心臓は破裂しそうだ。喉の奥が熱くなって息ができない。足がもつれる。
．．．やつらは苦もなくサマンサをつかまえたに違いない。
そのとき彼女は自分に迫っている残酷な死の運命を悟ったはずだ。
そして．．．迎えがきた。
彼女は人としての最後のプライドをかけて、自ら旅立っていったのかもしれない。
星の光につつまれて．．．。
今は安らかな場所にいて、守られている。
彼女はずっと前に旅立っていたんだ。
彼女は．．．サマンサは、僕が捜し始めるずっと前にはもう．．．」
Mulderは途中何回か休みながらもそこまで話すと、気持ちを静めるように大きく息を吸い込んで、
ゆっくりとそれを吐いた。
今、彼の頭にはあの日サマンサに起こったことが、まるで鮮明なスライドショーを見ているように
映し出されているに違いない。
彼の類まれなその能力は諸刃の刃、犯人を追いつめると同時に、彼の神経をもすり減らす。
Mulderの表情は痛々しいほどだったが、Scullyはそんな彼から目をそらすことはできなかった。
「Scully、君は信じないだろうけど、僕はさっき森の中でサマンサに会ったよ。
大勢の子供達の中で彼女は穏やかに微笑んでいた。
僕の記憶の中のサマンサより少し大きくなった彼女を抱きしめて、僕は旅の終わりを悟った。
そして．．．彼女を 僕から解放した。
大丈夫、僕は希望を失いはしないよ、Scully。
これからが僕の本当の人生だ、そうだろ？
母はそれを言いたかったのかもしれない。
僕とサマンサが写っている１枚きりの写真を焼くことで、僕に妹を捜し求める人生ではなく
自分の人生を歩けと、そう伝えたかったのかもしれない。
．．．でも、できれば僕は母から直接その言葉を聞きたかった。
母が見たもの、伝えたかったこと、僕はそれを一生考え続けるだろう」
ヘッドレストに頭をもたせたまま、Mulderは目を閉じて小さくため息をついた。
彼の顔には音を消した薄青いＴＶの明かりがチラチラと映り、そのために少し青ざめて見えた。
次の瞬間、ScullyはMulderの栗色の髪を胸に抱きしめていた。自分のその行動に彼女自身驚いたが、
今、このときに、Mulderを抱きしめてあげる人がどうしても必要だと感じていた。
そして、とうとう本当に一人ぼっちになってしまった彼の孤独を癒すことができるのは、
自分以外にはないということも知っていた。
突然のことにMulderは一瞬目を開けたがScullyの甘い香りに包まれて、
あまりにも居心地のいい彼女の腕の中で再びその瞳を閉じると、
ワイングラスを持っていないほうの右手をほっそりとした彼女のウエストに優しくまわした。
そしてScullyに抱きしめられて、Mulderはどれだけ今の自分が彼女のぬくもりを必要としていたかを
思い知らされた。
Mulderを守るように抱きしめながらScullyもまた、彼の柔らかい髪に頬をよせて瞳を閉じた。
そしてまるでMulderの哀しみや孤独を吸いとってしまおうとするかのように、
抱きしめる腕に力をこめた。
どれくらいそのままでいただろうか。
ScullyはMulderを抱きしめながら、泣く子をなだめるように、わずかに前後に揺れつづけていた。
Scullyの香りとぬくもりの中で、Mulderがぼんやりとした思考とまどろみの波間を漂っていると、
ヒヤリとした空気とともに、ふいにScullyから解放された。
Mulderがそれに抗議しようと口を開きかけると、Scullyはその唇を細い指先でそっと触れてきた。
そして自分を見つめる彼女の青い瞳が涙で美しく潤んでいるのを見て、
Mulderは、かじかんで縮こまった孤独な心がゆっくりと暖められ、ほぐれていくのを感じた。
「じゅうぶんよ。あなたは、もうじゅうぶんすぎるほど苦しんだわ。
お母様のことで自分を責めてはダメよ」
「Dana．．．」
Scullyの柔らかい指先を唇に感じながら、Mulderはほとんど聞きとれないほどに低くかすれた声で
彼女の名を呟いた。
Scullyが諭すように話し続ける。
「Mulder．．．。あなたがもし、もしそれをお母様から直接聞いたとしても、
あなたはそれを100％信じることができた？
お母様の告白を受け入れるだけの心の準備と余裕があなたにあった？
自分が納得したことしか信じない。それがFox Mulder ではないの？」
MulderはScullyを見上げて何か言おうと口を開きかけたが、そのまま目をそらして言葉を飲み込んだ。
Scullyは彼の唇にふれていた指を、大きくて繊細な手へとうつした。
「あなたの心の奥には妹さんがいなくなって以来ずっと動かない時計があるのよ。
そこではあなたはまだ１２歳の少年で、１９７３年１１月２７日から日にちは進まない。
でもMulder、壊れた時計は動き出したわ。Fox少年は大人になって、今のあなたに
おいつかなければ」
Scullyは包み込むように穏やかな微笑をMulderに向けた。
２人はしばらく無言で見つめあい、静かで居心地のいい沈黙に身をゆだねた。
MulderはScullyのウエストに回したままの右手にわずかに力を入れて自分の方へと引いてみた。
するとScullyはそれに抗議することなく、顔を少しだけ右に傾けながら、ゆっくりとかがむように
近づいてきた。
MulderはScullyにあわせるようにわずかに顔を左に傾けながら上向かせて、彼女の唇を迎え入れた。
それは激しい、情熱的なキスではなく、静かで甘く、優しい、蜂蜜のようなキスだった。
そしてお互いに少し名残惜しそうに唇を離すと、静かに微笑みあった。
「Scully、君は北極星のようだよ」
口を開いたMulderの声はとても静かで低かった。
それに対してScullyは少し小首をかしげて、難しい顔で尋ねた。
「Mulder、それは遠まわしにアイスクイーンってことを言いたいわけ？」
それを聞いてMulderは、あきれたように小さく笑ってこう言った。
「違うよ。そんな皮肉じゃないんだ。北極星は世界のどこから見ても北の空に輝いている。
だから旅人の指針になる。君はそんな人だって言いたかったんだ。
君は僕にとっての北極星だ。どんなに僕の周りで世界が歪もうと崩れ落ちようと、君は変わらない。
どんな時も変わらずに正しい位置で輝いて僕を導く」
「Mulder、私はあなたを導くことなんてできないわ。私はただ あなたを守りたいだけ」
「君が、僕を．．．守る？」
ほとんど呟くようにMulderが尋ねた。
「あなたの信じ続ける心を守りたいの。その少年のように純粋で無垢な、
それゆえにとても傷つきやすいあなたの心を．．．。
あなたの最大の武器でもあり、そして最大の弱点でもある信じる心。
あなたの敵はそれを恐れているわ。だから執拗にそれを奪おうと追ってくる。
私はそれを奪おうとする者たちから、あなたを守りたいのよ．．．」
ScullyはテレたようにMulderに微笑みかけた。
彼は目を伏せている。
「Mulder、あなたにしかできないことがある。
あなたにはそれを追いつづけて欲しいの」
「．．．」
うつむいたままのMulderからの返事はない。
「．．．Mulder？」
ScullyがMulderの顔を覗き込もうと顔を近づけると、彼の規則的な息遣いが聞こえた。
「眠ってるの？」
Scullyはあきれたように小さく溜息をつくと、Mulderから空のワイングラスをそっと受け取り
その大きな体を支えてベッドに沈ませ、そっと毛布をかけた。
「あなたは大切な人よ。言葉では言えないくらいだわ。
Mulder、私は．．．。
．．．この続きはあなたが起きているときに言うことにするわ」
Scullyはにっこり微笑むと、眠るMulderの栗色の前髪に軽く指をすべらせ、優しく髪にキスをした。
そしてそっと立ち上がり、ＴＶを消す。
「Mulder、今日くらいＴＶは消して眠るといいわ。
Sleep tight, Mulder. Sleep tight.」
Scullyは最後の言葉を祈るように呟くと、彼を起こさないようにそっと部屋を出た。
----------------
「Star light , Star bright , 願いをかなえて。
彼に朝までのやすらかな睡眠と、永遠に続く心の自由を．．．。」
モーテルの前の人気のない駐車場で
Scullyは澄んだ冷たい空気の中、コートのポケットに手を入れたまま、
無数に輝く小さな星を見上げて、ひとり立ち尽くしていた。
- end -
最後までお読みいただいて、ありがとうございました。
暗い？暗いですよね．．．『存在と時間』のSPOILERをずっと書いてみたいと思っていたのですが、
エピを見るたびに、モルの逃げ場のない悲しみを感じて押しつぶされそうになりました。(T_T)
ｓ7ではモルダーとスカリーはすでにお互いに愛を確認しあっていたはず！と確信している私ですが
なんかこのFicではそのへんも曖昧になってしまいまして．．．。
どこかにわずかでも、モルへの希望を描きたかったのですが、それもまたう〜〜〜ん(-.-)
という状態で。
なんか言い訳のようなあとがきになってしまいました。
すみません。
でも私のFicの中で初めてモルにスカリーのことを『Dana』って呼ばせることができて
そこだけはちょっと満足です♪
Jan．2002
- yuria - |