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この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり
この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、
1013、20世紀フォックス社に帰属します。
TITLE： - FBI agents のクリスマス・イブの過ごし方 -
SPOILER: 「クリスマス・イブの過ごし方」
by yuria
* この作品はｓ６「クリスマス・イブの過ごし方」から１年後の設定になっております。
December 24 8:29 p.m.
「FBI！」
バンッ！という大きな音と共に倉庫の重いドアが内側に大きく開き、
拳銃とマグライトを体の前で交差させて構えたMulderが現われた。
Mulderのむかって右側にはScullyが壁に背中を合わせるような姿勢で、やはり拳銃とマグライトを
交差させてMulderを援護する体勢をとっていた。
物音一つしないシンとした倉庫の中に人影がないことを確かめると、MulderはScullyと視線を合わせ
軽くうなずき合って拳銃を構えたままでゆっくりと中へ入っていった。
２本の強力なマグライトの光の筋が、暗い倉庫内を交わったり離れたりしながら行き交った。
ガランとした倉庫の中に２人の靴音のみが響く。２人ともしばらく無言で人気のない倉庫を
注意深く調べて異常がないことを確認すると、Scullyが構えていた銃を体の脇に下ろして口を開いた。
「Mulder、これはやはりハズレみたいね。
ガセネタだったか、寸前で感づかれて逃げられたのか．．．。
大体これはX-Fileじゃないわ」
倉庫の中央に立っていたMulderはScullyへと振り向いて肩をすくめ、拳銃をホルスターに収めた。
「クリスマス・イブの夜は局も人手不足なのさ。
Monster boy にもノーマルな事件が回ってくる」
「異常なしなら早く出ましょう。局に戻ってスキナーへの報告はあなたにまかせるわ。
今日は用事があるの。先に帰らせて」
「用事？」
Mulderは靴音を響かせてScullyのほうへと近づきながら尋ねた。
「Mulder、今日はクリスマス・イブよ」
「知ってるさ。明日は君は早起きで、家族全員が６時きっかりにツリーの下に集まるんだ」
何か言いたげな彼の様子にScullyは首を振りながら後ずさりした。
「．．．Mulder、．．．いやよ、もうメリーランドのお化け屋敷へは行かないわ。
今年こそクリスマスは家族と過ごすの。ママに約束したのよ、必ず行くって。
今年もすっぽかしたら殺されるわ」
Scullyはくるりと振り向くと、早足でドアへと向かった。
Mulderはニヤリと笑いながら彼女の後を小走りに追って、ドアに１歩早くたどりつくと
彼女とドアの間にすべり込み、意味ありげに笑って見せた。
「Mulder、なんなの？」
Scullyはそう言った瞬間にハっと息を呑み、彼女のコートのポケットを探り始めた。
「これをお探しですか？」
Mulderは彼のコートの内ポケットから親指と人差指で、鈍く光るScullyの車のキーを取り出して、
彼女の顔の前でチャリンと振って見せた。
Scullyは自分の顔の前にぶる下がった車のキーを素早くMulderの手から奪い返し、
しっかりと手の中に握った。
「Mulder、いいかげんに子供じみたことはよして」
強い口調で言った後、Scullyは少し後悔したような表情を見せて付け加えた。
「よければ、あなたも一緒にクリスマスを過ごさない？ママも歓迎すると思うわ」
その口調からは社交辞令的な響きは感じられなかったし、
彼女はそんなお世辞を言うような人間ではない。
「ありがたく辞退するよ。僕はblack sheepにはなりたくない」
MulderはScullyの親切な、そして心からの申し出に対して自分の口から出てしまった皮肉な言葉に
後悔しておもわず両目を瞑った。
「Ahh．．．ごめん。君の気持ちはありがたいよ、それは本当だ。でも．．．」
「でも．．．ビルも来るし、居心地が悪いわよね。私こそごめんなさい」
「いや、そんなことは．．．」
「ところでMulder、FBIエイジェントの車のキーをラクラクと盗めるなんて、あなた転職した方が
成功するんじゃない？」
Scullyは素早く話題を変えた。
Mulderにはその気遣いがありがたかった。
ScullyはいつでもMulderに負担のかからない方法で、彼を気遣ってくれる。
「君こそ素人の僕にやすやすと、しかも２度もキーを盗まれるなんて、それこそ転職を考えた方が
いいかもな」
「．．．Mulder、やっぱり去年もあなたが隠したの？」
都合が悪くなったMulderはScullyに背中を向けると、ドアのノブに手を伸ばして内側へと引いた。
しかしドアはガタンと音がしただけでピクリとも動かない。
Mulderはドアを開けようと今度は力強く、２〜３度ノブを引いたが結果は同じだった。
彼の背後で腕を組んでその光景を見ているScullyの鋭い視線を背中に浴びて、Mulderはじっとりと
汗ばんでくるのがわかったが、恐々小さな声で言ってみた。
「ロックされてる．．．」
「冗談でしょ」
Scullyははき捨てるようにそう言って続けた。
「Mulder、これはやりすぎよ。Jokeにもならないわ。早く開けて」
「僕も開けたいけど．．．開かないんだ」
Mulderがドアの前の位置をScullyに明渡すと、今度は彼女がドアを開けようと試みた。
ドアはピクとも動かない。ドアノブを両手で力任せにガチャガチャやってみたが、
やはり同じだった。
ScullyはMulderのほうへ振り向くと、大きな声でまくし立てた。
「Mulder、これは一体どういうことなの？説明して頂戴！
このドアからさっき私たちは入ってきたのに、どうして今は開かないのよ！
あなた、またなにか企んでるんでしょう、こんなことにあなたのその頭を使う時間があるのなら
たまには報告書を書いてみたらどうなの！いつもいつもあなたの後始末は私なのよ。
これ以上あなたには付き合えないわ！
なんてことなの！私はまだクリスマスのプレゼントも買ってないのよ！
早くこのドアを開けなさい！」
Scullyの声は倉庫の中で程よいエコーがかかり、響き渡った。
そして彼女は細くて白い人差指で、その憎らしいほどに大きくて重そうなグレーの
ドアをまっすぐに指差した。
「でも今回僕は無実だ」
Mulderは力なく肩のあたりまで両手を上げて、降参の合図をしてみせながら上目遣いに
彼女をうかがい見た。
「じゃ、どうして開かないの？」
ScullyはMulderの返事を待たずに再びドアを開けようと、ノブを揺すり始めた。
「ロックされてるわ．．．」
「だからさっきからそう言って．．．」
Scullyの一睨みでMulderは後の言葉を飲み込んだ。
Scullyはドアの前でしばらく途方にくれていたが、おもむろにホルスターから銃を抜くとドアロック
に狙いをさだめた。
「Mulder、さがって」
あっけにとられたMulderがその声で我に帰ってドアから飛びのいた瞬間、
耳をつんざくような音と共にScullyの銃から３発の銃弾が発射された。
銃声の余韻がしばらく倉庫に響き渡り、耳鳴りをおこしたように渦巻いている中、
Scullyは無表情にドアに近づくと呟いた。
「信じられない．．．」
「Scully、これは銃弾にも耐えられる最新の防犯ドアのようだな。
ってことはやはり普通の倉庫じゃない。ここを武器の保管庫としていて
極最近なんらかの取引があったという情報もあながちガセネタではないのかも．．．」
長い指をドアにすべらせ、銃弾の跡を注意深く観察しながらMulderが言った。
しかしMulderの話をまったく聞いていない様子のScullyは、スーツのポケットから携帯電話を
取り出すとダイヤルしはじめた。
「繋がらない．．．」
携帯を耳にあてたり離したりしながらイライラとつぶやくScullyにMulderがおずおずと自分の携帯を
取り出してその画面を彼女に見せて言った。
「Scully、圏外だ。倉庫の中からは携帯は使えない」
ScullyはMulderの言葉に絶望したように目を閉じた。
「大丈夫、今夜僕らが帰らなければ誰かが探しに来るさ」
Mulderはわざと明るく言ってみた。
「コンヤ、ワタシタチガカエラナケレバ？」
Scullyは初めて聞く言葉のようにそれをくり返した。
「クリスマス・イブをあなたと二人で、この暗くて寒くて汚い倉庫で過ごせって言うの？」
「ほかに何か方法があるのなら君に従うよ」
Mulderの言葉にScullyは沈黙した。確かにほかには手はなさそうだ。
放心したように倉庫の中を見回すScullyの目に、嬉々として床に散らかったダンボールを
集めているMulderの姿が映った。
「Mulder、なにしてるの？」
「ダンボールを集めてるのさ」
「見ればわかるわ。それを集めてどうするつもり？路上生活者の仲間入りでも考えてるの？」
力なく問いかけるScullyにMulderはニヤリと笑って答えた
「路上に出られれば問題解決のはずだがね。外に出られるまでこれで寒さをしのぐのさ。
これからもっと冷えてくるから」
「Mulder、なんだかあなた嬉しそうね．．．。」
Scullyは腕を組んでMulderに強い視線を投げた。
「とんでもない、嬉しいはずないさ。できることなら今すぐ君をここから出してママの家まで
送り届けてやりたい。それができない自分が情けないよ」
Mulderは軽く眉を上げてそう言うと、ダンボールを持った両手を大げさに広げてみせた。
「さあ、これでよし。これで少しは寒さをしのげる。
Scully、君もこっちへ来いよ」
Mulderはいつものように首をクイっと傾けてScullyを呼ぶと、彼女は渋々彼に従った。
時間がたつと共にMulderの言うとおり、倉庫の中はシンシンと冷えてきて、
２人が体を寄せ合って、倉庫の隅に巣のように寄せ集めたダンボールの中で両足を抱えて座っていると
Scullyが寒さのために小刻みに震えているのがMulderの体に伝わってきた。
Mulderはコートを脱ぎ、それで自分と彼女の肩をすっぽりと包むようにおおった。
そのために２人の体の間にはまったく隙間はなくなった。
「ありがとう、Mulder」
「まだ寒い？」
「いいえ、暖かいわ」
近すぎる距離と囁くようなお互いの声に、少し気まずさを覚えながら
しばらく沈黙が続き、Scullyはうつむいた。
「．．．Scully」
Mulderの声に顔を上げたScullyの目に飛び込んできたのは、マグライトの明かりを自分の
顎の下から照らして白目をむいている、Ｂ級ホラー映画のワンシーンのようなMulderのアップだった。
大きく息を吸って喉まで出かかった叫び声をScullyは寸前でこらえると、
Mulderが持っているマグライトをひったくってそれを乱暴に床においた。
「Mulder、悪ふざけはよして！２年続けてクリスマス・イブにあなたのそんな顔を見せられる
身にもなってよ！」
「２年続けてクリスマス・イブに君の心臓発作寸前の顔を見られる僕は幸せ者だよ」
Mulderがめずらしく、低い声で心から楽しそうに笑うのを見ているうちに
Scullyもこらえきれずにつられて笑い出した。
２人が笑うたびに体が揺れてお互いにぶつかり合った。それがまた面白くて、笑いの波はなかなか
静まらなかった。
ひとしきり笑ってその波が去った後、また沈黙が訪れようとした時、低い声でMulderが言った。
「なにか話せよ。眠くなるから」
「なにを話せばいいの？」
「．．．例えばクリスマス」
「クリスマス？」
「そう、君が子供の頃のクリスマスの話を聞かせて」
Mulderの深いヘイゼルの瞳にはScullyがくっきりと映っていた。
彼女は彼の瞳に映った自分を見て、おもわず眼をふせた。
「子供の頃、もちろんクリスマスはとっても楽しみだったわ。１年で１番ワクワクした。
私は自分の誕生日よりも、クリスマスが好きだった」
「自分の誕生日より、神様の誕生日のほうが好きだった？それはなぜ？」
Mulderは穏やかな笑顔で興味深げに尋ねた。
Scullyは少女時代を思い出すかのように目を細めて話しはじめる。
「クリスマスにはみんなが集まったから。海軍の仕事で留守がちだった父もクリスマスには必ず
帰ってきたわ。母はキッチンで七面鳥を焼き、私とメリッサはデザートのアップルパイを
作るのを手伝った。必要以上に味見をしながらね」
Scullyは悪戯っぽく微笑んだ。
その瞳は床に置いたマグライトの光をうけてキラキラと蒼い星のように美しく輝いていた。
「ビルと弟のチャールズは大騒ぎで部屋を飾りつけ、手の届かないところは父が手伝った。
暖かい部屋にごちそうのいい匂いが漂い、色とりどりに飾られた大きなツリーを囲んで
みんなの笑い声が外まで響いたものだわ。
少女の頃の私は、そんなふうに両親に守られて、幸せで、笑いの絶えない家族揃った生活が
あたりまえだと思っていた。
ずっとずっと永遠に続くものだと信じて疑わなかった。
そんなわけないのにね。子供達はいつか大人になり独立し、両親はいずれ老いていくわ。
そして父とメリッサは、今はもういない。
家族揃って過ごせる幸せな時はほんの一瞬なのに、そのことには過ぎてから気がつくの」
Scullyの瞳の輝きが一瞬にして失せてしまったかのようだった。
「その頃に帰りたいと思う？」
静かに、とても低い声でMulderが尋ねるとScullyはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。帰りたいとは思わないわ。そんなの不自然だし、今の自分に誇りもある。
でも父やメリッサに会えるものならば、もう１度会って話したいことがたくさんあるの。
今になって思えば、心で思っていることの半分も伝えていなかったわ。それが残念よ」
「Scully、心で思っていることをすべて言葉にするのは難しいよ。
愛する人を失って、なんの後悔もしない人はいないはずだ。
ああ言えばよかった、こうすればよかったと、君が彼らを愛しているぶんだけ
後悔の気持ちも強くなる。君が心の中に少しでもそのことで罪悪感を持っているのなら
それは間違いだよ」
２人は静かに視線を合わせ、Scullyがかすかに頷いた。
「．．．次はあなたの番。あなたの子供の頃のクリスマスの話も聞かせて」
ScullyはMulderの瞳を覗きこむようにして微笑んだ。
「僕の？僕は．．．１１歳の時までしかクリスマスの思い出はない。
サマンサがいなくなった年、＜僕が１２歳の時のクリスマス＞は最悪で、
母はその頃毎日泣いていたし、父は家ではろくに口もきかなかった。
僕はクリスマスのことなど口にするのは悪いことのように思えて、忘れているふりをした。
だけど子供はキリストの誕生日は忘れても、サンタの来る日を忘れるはずがないんだ。
でも僕はサンタに何を頼めばいい？サマンサを返してくれと？」
Mulderは淋しく微笑んでScullyをチラリと見ると、すぐにその視線を自分の足元に落としてしまった。
「Mulder．．．」
Scullyは彼女の手で、窮屈そうに折り曲げた足を抱えているMulderの手を強く握った。
彼女の手をとおして暖かいぬくもりがMulderの体に染み入ってきた。
Mulderは声のトーンを変えて、努めて明るく続けた。
「でも妹がいる間は僕にも平等にクリスマスは来たよ。プレゼントももらったし、父に連れられて
毎年大きなクリスマスツリーを買いにも行った。
母が焼いた星型のクリスマスクッキーをサマンサと取り合ったりもした。
サマンサは『お兄ちゃんの意地悪！』が口癖で、そのくせ僕の後をいつもくっついてきた。
でもそれも今となってはセピア色に変色した古い思い出だ。
家族の中にいながらも孤独だった子供の頃のクリスマスより、
家を出て一人アパートで過ごす今のクリスマスのほうが気楽だよ」
「でも去年も今年もちょっと変わった状況ではあるけれど、
あなたは孤独なクリスマスを過ごしてないわよ」
「ちょっと変わった状況なのはお互い様だよ」
MulderとScullyは顔を見合わせて微笑みあった。
「次は何の話をする？君が歌を歌ってくれるのもいい。クリスマスの気分がでるよ」
「イヤよ。もう歌は歌わないわ。」
「ジェレマイアはウシガエル．．Joy to the world．
君があのとき、フロリダの森の中でこの曲を歌いだした時は正直驚いたよ。
いや、君の頭の中にこの曲がインプットされていたこと自体が驚きだ。
でも不思議に心が落ち着いた。
今の状況はあのときと似ていなくもないけど、まあ蛾男がいないだけましかもな」
体を揺らして面白そうに笑うMulderにScullyも冗談めいて答えた。
「Mulder、よして。これは警告よ。あの時はなぜかあの曲しか思い浮かばなかったの」
Mulderは低く笑い続けた。
「Mulder．．．」
Scullyの警告の声は続く。
２人の話し声や笑い声ははその後もしばらくは倉庫に響いたが、徐々に声は低くなり、
途切れ途切れになり、そしてついに聞こえなくなって倉庫には静寂が訪れた。
クリスマス・イブの夜、１筋のマグライトの白い光がガランと静まり返った倉庫の壁を
あてもなくボンヤリと照らしていた。
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December 25 6:45 a.m.
遠くから数台のパトカーのサイレンの音が聞こえ、それが徐々に近づいてくる。
複数の車のドアを開け閉めする音が、かすかに倉庫の外から聞こえる。
Mulderのコートにくるまって額と額をくっつけるようにして眠っていた２人は
大きな物音に驚いて目を覚ました。
ドアは内側に大きく開いており、そこから眩しいほどの白い光と冷気が入り込んでいる。
２人が眩しげにその光に目を細めると、ドアからドヤドヤと大勢の男達が拳銃を構えて入ってきた。
その中でも一際体格のいい男が２人に近づいて来て、コホンと一つ咳払いをしてから話しかけた。
「２人ともケガはないか」
「．．．Yes, sir.」
目の前に立ったスキナーを見上げて、２人は気まずげにノロノロと立ち上がった。
Mulderは意味もなく笑ってみせ、Scullyは手で素早く髪の乱れを直し、
コートの埃を払う振りをした。
「Ah．．．閉じ込められました」
Mulderが曖昧にドアのほうを指差して言った。
スキナーは黙って２人を見つめたまま口を開かず、しばらく沈黙が続いた。
「Merry Christmas, agents. 外は雪だ。気をつけて帰れ。報告は明日でいい」
それだけ言うと副長官は倉庫の奥へと早足で歩きながら他の捜査官に指図を出し始めた。
Mulderはコートに袖を通してドアへと近づき外を眺めた。
そこには真っ白な雪景色が広がっており、昨日までとはまったくの別世界に
迷い込んだかのようだった。
「寒いはずね」
いつのまにか隣に並んだScullyも眩しげに目を細めてコートの襟を立てた。
「Merry Christmas, Scully.」
「Merry Christmas, Mulder.」
２人はしばらく見つめあった後、Mulderが口を開いた。
「腹が減ったな。朝食でも一緒にどう？それともまっすぐにお母さんの家へ行くかい？」
「ここまで遅れたんだもの、今さら慌ててもしょうがないわ。何か食べて暖まりましょう。
クリスマスの朝だもの」
それを聞くとMulderは嬉しそうにニッコリ微笑むと、ちょっと待っての合図に人差指を１本Scully
に立ててみせるとその場を離れた。
『それにしても車の中はきっと冷凍庫なみの寒さだわ』
木の下に停めてあったために運良く雪の被害を被らずにいるMulderの車と比べて
すっかり雪に覆われてしまって哀れな雪だるまと化している自分の車を見てScullyは溜息をついた。
Mulderは倉庫のドアからせわしなく出入りしている若い捜査官の一人をつかまえてチラチラと
こちらを見ながらなにやら話している。
話を終えコートの裾をひるがえし、ポケットに両手を入れて大またでこちらに向かって歩いてくる
Mulderは、なぜか機嫌がいい。
「君の雪だるまは責任を持ってあの坊やが家まで送り届けてくれるそうだよ。
Scully捜査官の車だから注意して運転してくれって言ったら『光栄です』って顔を赤くしてたよ。
緊張しすぎてぶつけないといいが」
Mulderは最後の言葉をかがんで、事情を飲み込めない顔のScullyの耳に囁くように言った。
「だってMulder、彼は車のキーを持ってないわ．．．」
Scullyはとっさにコートの両ポケットに手を入れた。キーがない．．．。
「Mulder、またなの？」
MulderはScullyの非難をこめた質問には答えずに自分の車に近づくと、
助手席のドアを彼女のためにスマートな仕草で開けて、
驚くほどハンサムでプレイボーイ風の笑顔をScullyにむけた。
Scullyは軽い溜息をついて思わず吹き出しそうになるのをこらえ、
まんざらでもない表情で、開けられたドアから助手席に身をすべらせた。
数台のパトカーが赤いライトを点滅させながら停車している間を縫ってMulderの車は動き出し、
倉庫の喧騒を後にして、早朝のクリスマスの白い街へと消えていった。
空には灰色の重そうな雲が切れ目なく広がり、その雲からは塵のような雪が舞い降りる。
その雪はクリスマスにはあまりにも無粋で無表情な捜査官達の肩や髪に積もりはじめ、
まるで雪自体が意思をもって、それらすべてを白で埋め尽くそうとしているかのようだった。
真っ白に色を変えた倉庫の前ではクリスマスのイルミネーションのかわりに
パトカーの赤いライトが光り、鈴の音のかわりに捜査官の携帯電話のベルが鳴り止まなかった。
- end -
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。
一度は書いてみたいと思っていたクリスマスFic。
内容はどうであれ（←え？^^;）それが書けたということで満足しています。
私の自己満足にお付き合いしていただいて、暮れのお忙しい時期に時間を割いてくださった方が
いらっしゃいましたらば、まことに申し訳ございませんでした。。。<m(__)m>
* MulderとScully、そして新しい小さな命に、幸せなクリスマスが、
そして明るい２００２年が訪れますように。 *
- yuria - 2001 Dec.
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