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この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり
この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、
1013、20世紀フォックス社に帰属します。
TITLE : - Platinum の 雨 -
by yuria
暗い灰色の空からプラチナのネックレスのように切れ目なく雨が降り続いている。
白いペンキが剥げかけている寒々とした玄関ポーチでMulderとScullyは、
その家のビール腹の主人から話を聞いていた。
といっても、もっぱら話を聞いているのはMulderのほうで、Scullyはというと興味がなさそうな様子で
ここ２日間というもの降り止まない雨を憂鬱気に眺めている。
広いが手入れの行き届いていないこの家の庭は木が生い茂り、その木々は黄色く色を変えた葉を
半分ほど落としていた。その枯葉が古い玄関のポーチや壊れそうな階段の隅に積もっている様子は
ますます心を寒くした。
話を聞き終わり、Mulderが最後にその家の主人に礼を言うと、その男が玄関のドアを閉めるのを
待たずにScullyは傘を開いて玄関ポーチの階段を足早に降り始めた。
Mulderは男に軽くうなずきながら礼儀正しい笑みを見せるときびすを返し、雨の中を５段ほどの
ポーチの階段を駆け下りた。そしてScullyの後を小走りに追って、長身をかがめて彼女の黒い傘に
入った。
「Mulder、右手に持っているものは何？」
ScullyはMulderが彼女の傘に入ってきても、まったく歩調を緩めずに、しかも注意深く水溜りを
よけながら彼に聞いた。
「ん？」
「あなたが右手に持っているものは英語ではなんと言うの？」
相変わらずScullyはMulderのほうを見ようともしないで再び尋ねた。
「．．．カサ、だな」
Mulderは自分が右手に持っている黒い大きな傘を見下ろして答えた。
Mulderが腰をかがめているために、彼の声はScullyの耳元で響いた。
Scullyはいつも彼女より20ｃｍ以上背の高いMulderのために、傘を高くさしかけることはしない。
Mulderも、いつもScullyがさしている傘を自分が持とうとはしなかった。
彼はいつも窮屈そうに、その長身をかがめてScullyの傘に入る。
二人の頭上では傘に降り注ぐ雨の音がバラバラと大きく響いている。
「Mulder、傘を持っているのなら、さしたらいいじゃない。濡れるわ」
「平気さ、僕は気にならない」
「私が濡れたくないのよ。車に乗ったときに気持ちが悪いし、服がシワになるわ」
「Wow！Scully、見てみろよ！」
MulderはScullyの話にはおかまいなしにそう言うと、ハァーーーーっと息を吐いた。
「息が真っ白だ。子供の頃に見た怪獣映画を思い出すなぁ」
そう言って無邪気に微笑むMulderをScullyは冷たく一瞥しただけで、また足元に視線を戻して呟いた。
「怪獣映画ねぇ、きっとFox少年は小さな怪獣のおもちゃを数え切れないほど集めて
机に並べて遊んでいたんでしょうね。そしてその一つ一つの名前、身長、体重を正確に覚えていた」
「．．．なんでわかる？」
Mulderの素直な質問に、Scullyは溜息で答えた。
二人が停めた車に近づくとMulderは首をすくめてScullyの傘から飛び出して、運転席側へと走って
回り込み、ドアを開けて車の中へスルリと長身をすべり込ませて車のエンジンをかけた。
Scullyもいつものように助手席側のドアを開け、傘の水を軽く切って素早く車内へと入った。
冷え切った車の中で、Scullyは不機嫌そうに濡れた服をタオルで拭きながら言った。
「Mulder、帰ってこのことをスキナーに報告しなければいけないのよ。上手い言い訳でも考えたら？
スキナーの反対を押し切ってピッツバーグまで来たものの、あなたが宇宙人によるアブダクト
だと主張したものは妻が愛人と駆け落ちしたことを隠すための夫の作り話で、
夜の闇に浮遊する２つの光る物体がムササビの目だった、なんて副長官には話せないわ」
Scullyは早口にここまで言うと、最後に事務的な口調でこう付け加えた。
「かわいそうに、あの男性。あなたが逃げた奥さんの話を細かく聞くものだから泣いてたじゃない」
「はっ！かわいそうだって？それはお優しいことで。僕はてっきり君は雨のことにしか興味が
ないんだと思ってたよ」
Mulderはスーツの水滴を手で払いながらScullyを覗き込んで、ニッと笑った。
Scullyは一つ溜息をつくと、自分が使ったタオルを無言でMulderに差し出した。
彼もやはり無言で当然のようにそれを受け取り、濡れたスーツの肩を無造作に拭き始めた。
「Mulder、前から言おうと思ってたんだけど、傘を持っている時には使ったらどう？」
「君の傘に入るのが好きなんだ」
「それは自分の傘を濡らしたくないから？」
「君の隣にいたいから」
Mulderがすまして答えた。
「愛の告白ね」
うんざりしたように言うと、Scullyはヒーターで曇ったフロントガラスに目を戻した。
Mulderはご機嫌をうかがうようにScullyの横顔をチラリと見て、わざと一言一言はっきりと
発音しながら答えた。
「どうして僕は自分の傘を使わないのか。
なぜなら、こんな雨の日には、離れていると話していることが聞こえないからだ。
大声で事件について話し合う間抜けな捜査官にはなりたくないからだ。
そして君の隣は僕の場所だからだ。
それゆえに、傘は1本あれば充分だ。．．．今度の答えは合格？」
「傘は1本あれば充分だし、机も1つあれば充分だ。あなたはいつでもそうよね、Mulder」
Scullyは曇ったフロントガラスに向かってあきらめたようにそう言ってから、
Mulderへと体の向きを変えて続けた。
「Mulder、確かに私の隣はあなたの場所だわ。そしてあなたの隣は私の場所でもある。
でもね、自惚れないでね、Mulder。
私の場所はあなたの隣だけじゃないのよ。
モルグも私の場所だし、私の部屋の居心地の良いソファもそう。
ママの家や、いきつけのカフェのいつもの席。
あなたの知らない場所や知らない人の隣にも私の場所はあるのよ。
私の人生は、あなたやX-ファイルだけじゃないの」
Scullyの挑戦的な言葉をMulderは涼しい顔で聞いていた。
「君の場所はたくさんあるらしいな。
でも僕の場所は、XFオフィスと僕の部屋の黒いカウチ、それと、君の隣だけだ。
それでも僕は充分幸せだよ」
Mulderが横顔で微笑みながらカーステレオにCDを入れると、The Platters の"Twilight Time"
が車内に流れ始めた。
♪ Heavenly shades of night are falling
It is twilight time
Out of the mist your voice is calling
It is twilight time
When purple colored curtains mark the end of day... ♪
どこかノスタルジックなその曲のせいか、冷えきった車内にヒーターがやっときいてきたせいなのか、
Scullyには車内が急に暖くなったように感じられ、心の中までほんのりと暖められた。
Mulderは曲にあわせて軽く口笛を吹きながらワイパーを動かすと、ハンドルを右に切りながら、
ゆっくりと車を発進させた。
プラチナの雨の中、二人を乗せたグレーのセダンは徐々にスピードを上げ、
雨に煙る灰色の景色に溶け込み、まもなく赤いテールランプも見えなくなった。
- end -
HISAYOさんの、あの素敵なコラージュ「under one umbrella 」を毎日一度はポ〜っと
思い出しておりましたら、モルスカのこんな情景が浮かんでまいりました。
モルスカ、雨、黒い傘に白い息．．．。
これだけでもう私は、うっとりです♪
注）３０数年前のアメリカに怪獣映画があったのか？
ピッツバーグにムササビがいるのか？
そんなことはまったく私は知りません。<(_ _)>
* yuria * 2001 Nov. |
