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この作品はあくまでも作者の個人的な楽しみに基づくものであり
この作品の登場人物、設定などの著作権はすべて、クリス・カーター、
1013、20世紀フォックス社に帰属します。
TITLE： - These Happy Golden Years -
* このFicはｓ7のMulderとScullyをイメージして書いています *
by yuria
デスクに向かってPCをぼんやりと見つめる。
ベッドに入る時間はとうに過ぎているのに、今夜は眠れそうもない。
- Scully's residence - 12:03 a.m.
私はいつまで彼の隣をパートナーとして走り続けられるのだろう。
私はあと何回「Mulder」と呼びかけることができるのだろう。
私達の道はいつまでも隣り合っているのだろうか。
夜が更けると、いつも決まって繰り返されるこの疑問。
答えのない 迷路。
『明日も彼は、私のパートナーでいるだろうか』
最後に必ずたどり着くこの想いに、デスクの上の電話におもわず手を伸ばす。
しかし今夜はいてもたってもいられずに、電話の隣で鈍く光る車のキーをつかんで部屋をでた。
***************************
彼のアパートの前の通りに車を寄せて止め、エンジンを切り、キーを引き抜く。
運転席に座ったまま彼の部屋を見上げると、窓にはブラインド越しに薄く明かりがもれている。
数え切れないほど、彼の部屋の階数を押したエレベーター。
数え切れないほど、彼の部屋へと歩いた廊下。
何も恐れることはないはずの、いつもの風景。
でも私の胸には、一抹の不安。
彼の部屋の前に立ち、同じフロアの住人を気遣いながらの深夜のノック。
knock , knock , knock ...
ドアの向こうはシンとして、人の気配はない。
私の胸で不安が少しふくらむ。
今度はあまり大きすぎず、でもビデオを見ながらカウチで寝てしまっているかもしれない彼には
じゅうぶん聞こえるくらいのノック。
knock , knock , knock ...
やはりknockに答える気配はない。
私は恐怖にも似た胸騒ぎに襲われ、夢中でコートのポケットにあるはずの合鍵を探し始める。
と、その時突然ドアが内側へ大きく開き、眠そうな顔をして見おろしている彼と目が合う。
一瞬の沈黙の後、彼は軽く微笑みながら
「Come on in.」
頭をクっと部屋の方へ傾けて私を迎え入れる。
深夜の私の突然の訪問に、驚くこともなく、まるで約束をしていたかのように．．．。
やわらかく照明を落とした部屋に入ると、ビデオがついている。
コートを脱いでTVの前のカウチに座ると、女吸血鬼がいまにも男を襲うところだ。
彼はこの映画を何回見たと言っていただろう．．．確か ４０何回目．．．。
そんなことを考えているところへ、黒いＴシャツを着た彼がめずらしくビールを２本持って現われた。
「寝てたんでしょう？もう帰るわ」
彼は何も言わず、床に転がっていたバスケットボールを軽く蹴ってどかしながら私にビールを渡し、
自分も隣に座って飲み始めた。
「車で来たのよ、Mulder。飲めないわ」
「飲みたそうな顔をしてるからさ。週末だし、タクシーで帰ればいい」
私はあっさりMulderに降伏して、冷えたビールを一口流し込んだ。
ほろ苦い味を残して、ビールがゆっくりと喉を通っていく。
私は何回この部屋を訪れて、このカウチの彼の隣に座っただろう。
私は彼の隣で、不器用だけれど彼の真っ直ぐな優しさで暖められて、癒されていく。
傷だらけの心も、疲れた体も．．．。
今まで感じていた漠然とした不安や恐れが、彼に暖められて溶けていく。
まるで親鳥の羽の下で守られるヒナのように、なんという絶対的な安心感。
しかし彼と離れると、この不安や恐れはまたムクムクと目を覚ますのを私は知っている。
．．．夜は繰り返される．．．。
「大丈夫？」
彼の声にハッとして目を上げると、Mulderが私を覗き込んでいる。
優しく深いヘイゼルの瞳、私のすべてを見透かすような、大好きだけれど油断のならないその瞳。
私がこんなにも彼の小さな仕草の意味を一人で考えていることなど、
彼はまったく気がついていないだろう。
「もちろん、私は大丈夫。」
私は無理に笑って、お決まりの答えを返す。
私の瞳の中の炎を彼に気づかれないように．．．。
彼のぬくもりを体の右側に感じながら、ビールを飲んでビデオを見ている振りをする。
いつもとは少しだけ質の違う沈黙で、部屋が息をひそめる。
「Scully」
Mulderが沈黙を破った。
私は隣の彼を見あげる。彼の静かな横顔にTVの光が青白く映る。
私は彼の伏せた睫毛の影が揺れるのを見つめながら、次の言葉を待つ。
Mulderは飲み終わったビールの小ビンをテーブルの上に置き、リモコンでTVのスウィッチを切った。
青く四角い光を失うと、部屋の中はランプの灯りでセピア色になる。
そして彼は少し前かがみになって、両手を足のうえで組み、
自分のすんなりと長い指をしばらく見つめた後、やっときりだした。
「僕はずっと君に伝えたいことがあった。いつ、どうやってそれを言ったら一番いいのか
ずっと考えてきた」
Mulderは彼の指に視線を落としたままで言った。
「．．．伝えたいことって、それは私にとって良いことかしら？
Mulder、話というものは良いことと悪いこと、サンドウィッチを作るように進めるものよ。
そのほうがショックが少ないの」
私はいつもと違う彼の様子に少し警戒しながら答えた。
「悪いこと．．．ではないと思うよ、Scully。そう願うよ」
彼は目を伏せたまま、軽く笑った。
「僕らはあのオフィスで出会って、もう７年以上になる。
その間に僕も君も多くの大切なものを失った。僕は立ち止まることを許さずに走り続けた。
がむしゃらに手を伸ばして真実を．．．真実だと思えるものを追い続けた。
僕の隣にただ１つの真実があることに気づこうともせずに」
彼はやっと瞳を上げて私を見つめた。
「Mulder．．．」
「７年前の僕は心に高い壁を作って、人と何かを分かち合うことなど考えてもいなかった。
自分を分かってもらおうとも、いや、分かってもらえるとも思っていなかった。
この心は、ただ真実を追い続けることのみで癒されると思い込んでいた。
でもScully、君に出会えたことで僕は確かに変われたと思う。
君がこんな僕に惜しみなく与えてくれた勇気、信頼、そして．．．そう呼んでいいものならば
愛情は、僕の渇いた心を潤した。長い長い間、君はずっと側にいて、僕を暖めてくれた。
僕はもう昔の僕じゃない」
Mulderはそこまでいっきに話すと、再び口を閉じた。
私はこれから彼が言おうとしていることに、少し怯えて彼を見つめ続けた。
「I love you , Scully.」
唐突にそう言った彼の声はかすれていた。
「ずっと前から僕は君を愛していた。僕が気づくずっと前から、僕の心は君を求めていた」
「Mulder．．．」
突然の彼の言葉に私の心が警告音を鳴らす。
『さあ心を閉じて。彼への思いを悟られてはいけない』と．．．。
何者にも縛られない彼を好きになった。
ひたむきに真実を求める姿に心を動かされた。
心に作った高い壁の中で、人一倍傷ついている彼を愛した。
だから、私が重荷になってはいけないことはわかっている。
自分の意思とは関係なく涙が溢れてくる。
嬉しいのか、悲しいのかさえもわからない。
***************************
「Mulder．．．」
彼女は僕の言葉をさえぎった。
その瞳には、今にも溢れそうなほどの涙を浮かべている。
「Mulder、私は．．．」
彼女の蒼い瞳は涙でキラキラと美しく輝いていた。
僕はその涙を、自分に都合よく解釈した。
何の根拠もなしに、彼女の僕への愛を疑わなかった。
彼女から出た次の言葉を聞くまでは．．．。
彼女は１つ小さく咳払いをして、言葉を続けた。
「Mulder、あなたは私にとって最高の同僚で、最高の友人で、家族のように大切な人よ。
私達にとって、これ以上Bestな関係はないと思うわ。
今までの関係を壊したくないの」
そう言ってScullyが目を伏せたのと同時に、彼女の瞳から涙がひとしずく流れ落ちた。
「どうして？」
僕は自分の声のひどく傷ついた響きに、少し驚いた。
彼女が僕を愛してるって？なんでそんなバカげたことを信じたんだ？
なにを理由にそんな確信を持ったんだ？
彼女にとって僕はただの仕事のパートナーでそれ以上でもそれ以下でもない．．．。
そんなことはとうに分かっていたはずなのに、時おり見せる彼女の表情、瞳の色、仕草．．．
それを勝手に自分にいいように思い込んだだけだ。
なんてマヌケな男なんだ。
彼女を永遠に失うかもしれないのに、それと引き換えに勝ち目のない賭けをした。
まるでドンキホーテじゃないか。
．．．でも、本当に僕に勝ち目はないのか？
言葉にはしなくても心の底で通じ合っていると思えた、あの感覚は間違いだったというのか？
****************************
「どうして？」
Mulderはとても傷ついた表情でScullyを見つめている。
「二人が二人でいられるためには、今の関係が一番いいの。
このバランスを崩したら、私はもう、あなたの隣を走れない」
Scullyは白く色が変わるほど自分の手を強く握り締めていた。
Mulderは彼女のその手を切ない瞳で見つめていた。
「一度自分の弱さを許してしまうと、どこまでもあなたに寄りかかってしまいそうな自分が怖いの。
対等でいたいのよ」
「Scully、自分の心に素直になることで僕らの関係が対等でなくなるとは思わないよ。
心を開いて、ほんの少しの勇気を持つことで僕らはもう少し近づくことができる」
「いいえ、それは違うわ。あなたはきっと私を庇おうとする。
私のせいで、あなたに判断を誤ってほしくないの。
それはあなたの命と私の命をも危うくすることになる。
重荷になりたくないのよ」
「重荷だなんて思わないさ！そんなふうに思ったことは一度もない！
君らしくない考え方だね」
Mulderの強い視線にも、Scullyはひるまなかった。
「今に思うようになるわ！捜査中にもし私がケガをしたら、あなたはきっと自分を責める。
そうならないように私を庇う。私はあなたに借りを作りたくないわ！」
「借りがあるのは僕のほうだろう！僕は今までに何度となく君に助けられてきた。
君は僕に対してこれっぽっちの借りも負い目もないし、これからだってそれは同じだ！」
Mulderは激しい口調で言った後、小さく溜息をつく。
そして少し声を落として続けた。
「僕は君がいてくれるから仕事ができるんだ。君が僕の側にいるから、他人は僕を信用してくれる。
『どういう理由かわからないが、あのDana Scully』 が信頼している男だから、
『みんなが一目置いているあのDana Scully』 が認めた男だから、Fox Mulder 自身はイカレた
男に見えるが、あのScullyが彼の側にいるなら信用してみるか．．．ってね」
Mulderはお得意の皮肉な笑みを浮かべた。
その悲しい笑みはいつもScullyの胸を苦しくさせる。
『あなたは一人ではないのよ』その栗色の髪を胸に抱きよせたい衝動にかられる。
「君の捨て身の愛情が、僕を人間的な感情を持てる男に生れ変らせたんだ．．．。
Scully、僕らはそろそろ、もう一歩踏み出してもいい頃じゃないかな。
僕が自惚れていたのなら謝るよ。君にイヤな思いをさせてしまったのなら謝る。
でも、もし君が僕らの新しい関係に少しでも価値があると思うなら
君は自分の心に素直になるべきだ」
Scullyはキュっと唇を噛んで、Mulderから目をそらした。
体が小刻みに震えている。
「君が今日のように、深夜に突然僕の部屋を訪ねてきたりすると、僕はまた自惚れてしまう。
いつも冷静でいようとする君が、少しだけそのベールに包まれた心の奥を
僕に見せてくれたようで．．．。僕だけに、見せてくれるんだろ？
はにかんだような君の笑顔や、包み込むような瞳の色や、
時には、どうしようもない不安や恐れも．．．。」
彼の方を見ようともしないScullyに向かって、Mulderは穏やかに話し続ける。
「Scully、君が辛い時には僕に寄りかかっていいんだ。
それは僕が男で、君が女だからではなく、僕らはお互いに支えあって、信じあって生きている
人間同士だからだ。僕の前で強がる必要はないんだよ。
息を切らして僕の隣を無理に走らなくていいんだ。僕は、いくらでも待てる．．．。」
Mulderは、ハラハラと流れる涙を拭おうともせずに横を向いたままのScullyの、陶磁器のように
白くほっそりとした顔を両手で包み込み、優しくこちらを向かせた。
「７年間という長い歳月を、僕は君だけを探していたんだということに、やっと気がついた。
でも、遅すぎてはいないと思う。だって君はこれからも、僕の隣で微笑んでくれるだろ？」
Scullyは自分の顔をすっぽりと包んでいる彼の大きな手に、彼女の小さな白い手を添えて
ゆっくりとそれを胸へとすべらせた。
「Mulder、私の心の中には、ずっと前から いつもあなたのための特別な場所があったわ。
これからもこの場所は、いつもあなたのためだけにとっておく。
あなたが必要な時には、いつだって暖めてあげられる。
だからMulder、約束して。どこへ行っても、かならずここへ戻ってくることを．．．。
．．．忘れてしまうくらいにずっと前から、私もあなたを愛してたわ」
「Scully、僕が戻れる場所は君の隣しかない．．．。」
Mulderはそう言うと、彼女をそっとひき寄せて、優しく唇を重ねた。
彼女も涙で濡れた睫毛を伏せて、彼の唇を自然に受け入れた。
セピア色の明かりの中で、二人は静かに愛を確かめ合った。
７年間という月日を経て、二人は二人でいることの意味を考え直すシーズンが
めぐって来たのかもしれない。
MulderとScullyは、お互いの温もりの中で、平穏と、やすらぎと、確かな未来を感じていた。
- end -
＜HISAYOさま＞
最後までお読みいただいて、ありがとうございました。<(_ _)>
いや〜、私にはこれくらいがイッパイイッパイです！（笑）
しかし途中でスカリーがゴネだした時にはどうなることかと思いました。^_^;
ハッピーエンドになって良かったわ〜〜〜
歯の浮くようなFicにお付き合いいただいて、ありがとうございました♪
そして遅ればせながら、 Happy Birthday !
Sept. 2001
* yuria *
yuriaduchovny@hotmail.com
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