Title : 「Part-owners（共有者）」
Author : みっち
「豆腐の角に頭ぶつけて死んじゃえ！」
彼女は扉を開けた彼の顔を見るなり、いきなりぶっそうな言葉を呟いた。
スカリーの、上目遣いに自分を見上げる怒った視線に、
モルダーは3秒固まったあと、
「や、やぁ、スカリーこんな時間にどうした？」
と、辛うじて笑顔を作ることに成功した。
こんな時間に…そう、こんな夜中に逆のことはしょっちゅうだが、
スカリーがモルダーの部屋を訪れるなんて、滅多に無い。
咄嗟に、゛何か事件なのか？！゛と思ってはみたが、どうもそうでも
ないらしい。
その点に関しての、彼の分析は９７％の確率で当る。
しかし…、夜中に自分の部屋に、美しい大人の女性がやってきたというのに、
例えそれが彼の仕事の相棒だったとしても、最初に浮かぶことが
゛事件゛の2文字だったという、おおよそ色気のない言葉しか
思いつかない事自分に、モルダーは少なからずショックを受けていた。
しかしスカリーは、彼のそんな憐れな思考など無視して、無言のまま
彼の腕の下をくぐり、ツカツカと部屋の奥に入って行った。
モルダーは扉を開けたポーズのまま唖然として、今まで彼女が
立っていた廊下を見つめ、
゛なんだ？スカリーは何を怒ってる？
僕は今日、彼女に何かしたか？…いや…何も無い…はず。
今日は…。だって、夕方には普通に別れたじゃないか。
じゃぁ、何なんだ？
…！！いや、ちょーっと待ったぁーっ！！
そんな事より、僕は今アダルト・ビデオを見てたんだったーっ！！゛
およそ２秒でそれだけの事を考えると、彼はバタンとドアを閉め、
クルッとフィギア・スケーター顔負けの華麗なターンで振り返り、
スカリーの背中を目で追った。
彼女はたった今、モルダーがさっきまで寝転がってひまわりの種を
食べていたカウチに、ストンと腰を下ろしたところだった…。
画面では、あられもない姿の一組の男女が、淫らなポーズで
絡みあっている。
スカリーはそんな画面を、眉間に皺を寄せ難しい顔で見ていた。
焦ったモルダーは、あわてて画面を消そうとしたがリモコンが見つからない。
彼女の傍らに突っ立ったまま、キョロキョロと忙しなく視線を動かし、
必死でリモコンを探していた。
探し物というものは、得てして欲しい時には見つからないもので…。
彼は、テレビ本体の電源を消そうと思ったが、彼女が何故だか
真剣に画面を見ている様子なので、悪あがきを諦めた。
そして、少しきまりの悪そうな笑顔で、
「何か飲むかい？」
と聞いてみた。
スカリーはチラッとモルダーのほうを見ると、自分で持ってきていたらしい
茶色の紙袋の中から、ガサゴソとビールを２本取り出して、
そのうちの１本を無愛想にグッと彼に差し出した。
受け取ったビールはキンキンに冷えていた。
きっと彼女が、こっちに来る途中で買って来たのだろう。
それを受け取った彼は、彼女の「突然の夜中の訪問」の
理由を聞き出すことを止めにして、この、奇妙なビデオ観賞会に
自分も出席することに決めた。
゛どうやら彼女は、僕とレスリングをする為に来たって訳じゃないらしい。
にしても、まさか2人でアダルト・ビデオを見るハメになるなんて…゛
そう思いながら、モルダーはスカリーの隣に静かに座った。
チラッと彼女のほうに目をやると、カウチの背もたれと彼女の背中の間に
彼がさっきまで必死で探していたテレビのリモコンが、居心地悪そうに
挟まっているのが見えた。
゛ほらね…無用になったとたん見つかったりするんだ。゛
その間の悪さは、自分の間の悪さと重なって、モルダーは恨めし気に小さな
四角い物体を見つめていた。
スカリーはゴクッと喉を鳴らし、ビールを一口飲んだ後、
「すごく嫌なことがあったの。」
と、ぽつりと一言呟いた。
「うん？」
その言葉にモルダーは彼女の横顔を見たが、彼女はそれ以上言葉を
続けるわけでもなく、相変わらず難しい顔で画面を見つづけている。
彼女の視線は画面に向けられているものの、美しいブルーの瞳は時々
小さく左右に動き、彼女が何か別のことを考えているのであろう事に、
隣に座る優秀な心理分析官は気が付いた。
「そうか…。」
彼も一言だけそう言うと、視線を画面に戻した。
彼女は今、自分の感情をコントロールしようと、必死に戦っているのだろう。
理由を言わないのは、それが実は人に聞かせるにはあまりにも
くだらない事だったり、いや、もしかしたら本当に言いたくないような事
だったりするかもしれないけれど。
けれど、彼女がその「小さな戦いの場」に、自分の隣を選んでくれた事を
彼は嬉しく思う。
言いたくて言えない言葉と、言いたくないから言わない言葉の、
その狭間に多く点在する「沈黙」を彼は好きだった。
だから彼も、何も聞かず画面を見ていた。
四角い箱の中の男女は、『ハァハァ…』と息を弾ませながら、
恥かしげもなく「愛の営み」とやらを見せつけている。
静かな部屋には、その激しい息遣いと、横の水槽からポコポコと
金魚に酸素を供給するマヌケな音だけが響いていた。
『あ〜〜んっ…』
素っ頓狂な女の嬌声に、2人はビクッとして思わず顔を見合わせた。
画面の男女が、まさにクライマックスを迎えようとしているところらしい。
その場違いな喘ぎ声に、自分達が今共有している、奇妙な時間を
まざまざと思い出させられて、急に可笑しくなってきた。
そして、同時に吹きだした。
散々笑った後、どっかりと背もたれに体を預けたスカリーは、正面を
向いたまま
「ありがとう。」
と小さくモルダーに言った。
゛付合ってくれてありがとう。
何も聞かないでくれて、ありがとう…。゛
モルダーは悪戯っぽい笑みを浮かべ、
「それは、僕の愛蔵版を君に披露した事に？」
そう言って、可笑しそうにクスクス笑った。
スカリーは彼を小さく睨み、
「バカみたい。このビデオちっとも面白くなかったわよ。」
と言ったけど、その瞳は笑っている。
「そうか、君に気に入ってもらえなくて残念だな…。」
彼はちっとも残念そうでない顔でそう言うと、彼女にグッと近づいて、
「なんなら…僕達が実際に試してみる、ってのはどう？」
と耳元で囁いた。
彼女は3秒固まって、そしてゆっくりと向き直り唇を彼の横顔に近づけた。
「それはまた凄く刺激的で、面白そうなお誘いね…。
でもまた別の機会にするわ、残念だけど…。」
そう甘く囁いて、彼の唇の端を小さくつねった。
モルダーは、今度は本当に残念そうな顔をして、
「それは、本当に残念なお知らせだな…。」
と、大げさにため息をついて見せた。
スカリーはクスクス笑って、彼の肩に頭を預け
「ありがとう。」
と、もう一度言った。
モルダーは、それでも結構満足そうに「どういたしまして」とひとつ頷くと、
少しぬるくなったビールを飲み干した。
〜〜〜〜Fin〜〜〜〜
HISAYOさんへ
うっ…全く申し訳ないです。(ﾉ_<｡)
こんなものがお礼だなんて…。
ほんとに甘いの書けなくて…訳の解らない小道具（アダルト・ビデオ）
なんか持ち出したりして…。
もう、自分に目眩がしそうです。（←あまりの意味不明さ加減に）
どうか気持ちだけでも汲み取ってやって下さいませ。m(;∇;)m
素敵なバナー、ありがとうございましたーーーっ！！（絶叫）