*****************

April 15, 2000
7:27pm
outskirts Washington, DC
ワシントンＤＣ．郊外


Mulderはその日、朝から嫌な予感に囚われていた。

彼はケプラーベストをもう一度確認し、Scullyの方を見た。
彼女も彼と同じようにＦＢＩのシャツとケプラーベストと通信用のヘッドセットを装備していた。
Mulderはこれから突入する予定の倉庫に目を向けた。
近所の住民から不審者の姿を見たと通報を受け、潜伏場所をこの倉庫に特定したのはつい一時間ほど前のことだった。
再び胸騒ぎに襲われたMulderは、ちらりと横目でScullyの様子を窺った。
こういうのを虫の知らせというのだろうか――
とにかくScullyにはこの場にいて欲しくないと強く思った。

彼の心中を察したのか、Scullyが口の端だけ上げて微笑んだ。
それはいつもの彼女の微笑みだった。
決して満面の笑みではないけれど、強い意志を宿した瞳でもっていつも彼を納得させてしまう。

Mulderは小さく頷くと、もう一度武器を点検した。
すぐに突入の指示があり、彼らは用心深く倉庫に近づいていった。
ドアの手前でScullyの肩に手をかけ、彼女が振り返った時、Mulderはこの光景をどこかで見たような気がした。
この正体の分からない不安を何とか口で説明したい――
そう思ったが、どう説明したらいいのか見当がつかなかった。

姿勢を低くして最終合図を待つ間、Mulderは頭の中で突入した後の一連の行動を思い巡らせた。
倉庫の中には、頭のイカれた殺人犯が一人潜伏している。
突入して素早く犯人を取り押さえ、相手の生死にかかわらず、ここから引きずり出す。
アカデミー時代も、卒業してからも、何度も訓練を重ねてきた基本的な任務だった。

彼が武者震いをしたその時、突入の最終指令が下った。
Mulderがドアを蹴破り、Scullyが銃をかざしながら用心深く倉庫の中に踏み込んだ。
中には人の気配がなく、ダンボールの箱や布で覆われた家具の間をぬって左手に進んだScullyの背中を、Mulderは妙な違和感を持って見つめた。
なぜScullyは直進しないのだろう？前回は確か直進していた――
そこで彼は我に返った。

何言ってるんだ。前回っていつの話だ――？

その時突然、彼の中で何かが閃き、その正体を確かめる間もなく、Mulderは銃口をScullyに向け、引き金を引いた。
それとほぼ同時にScullyも後ろを振り返り、無駄のない動作で彼の肩越しに発砲した。

全ての時間が止まったかのような一瞬の静寂の後、呆気に取られて互いを見つめる彼らの背後で、二人の男が床に崩れ落ちた。

Scullyの脳裏には津波のように膨大な記憶が蘇っていたが、それが現実にあったことなのか、何者かによって植え付けられたイメージなのか、まだ量りかねていた。
彼女が口を開こうとしたその時、銃声を聞いたSkinnerが数名の捜査官とともに踏み込んできた。

「何が起きたんだ！？」
Skinnerの目の前には、呆然としながら突っ立っている部下と、血を流して倒れている´二人の´男がいた。
「Scully捜査官！この状況を説明しろ！」

「は、はい・・・あの、私達は・・・」
Scullyは口篭ったが、気持ちを奮い立たせ、目の前の相棒からSkinnerに視線を移した。
「合図とともに突入しました。そして・・・」
彼女は再び口篭り、困惑の眼差しをMulderに向けた。

勝手に体が動いたなんて説明しても誰が信じるだろう――？

MulderはScullyの困惑を察し、代りに続けた。
「そして、Scullyの背後に男の姿を発見しました。銃を持っているようだった
ので、防衛のために発砲しました。」

「私が振り返った時、Mulderが発砲した時の炎で、彼の背後にもう一人の男の姿が浮かび上がりました。男はすでに銃をかまえていたので、私もすかさず発砲しました。」
Scullyはそう締め括ったが、自分でも釈然としていなかった。
今話したことは真実ではない――
そこに何が潜んでいるのかを事前に知っていたかのように、勝手に体が動いたのだ。

Skinnerは二人の部下をかわるがわる見つめた。
他の捜査官達が現場に立入禁止の黄色いテープを張り巡らせている間に、救急車のサイレンが聞こえてきた。
目の前で絡み合う微妙な視線に、この二人が本当のことを話していないのは分かっていた。
しかし、Skinnerにとってもう一つ確かなのは、発砲していなければ、今頃この二人は死んでいるということだ。
話を聞きたくても、頼りになるはずのScullyは何かを考え込んでいるかのように深く自己に埋没してしまい、心がここにないのは明らかだった。

「これからの手続きは知っているだろうが、まずは銃を置いていってもらうぞ。」
Skinnerが咳払いをして言った。
「今日はこれで帰っていい。詳しい事情は明日私のオフィスで聞かせてもらう。」

MulderとScullyはぼんやりと頷き、Skinnerに銃を預けて現場を後にした。
二人は無言のままトーラスに乗り込み、まるで暗黙の了解のように、ジョージタウンに向けて車を走らせた。


***********
***********


Dana Scullyのアパートメント
8:32pm


鍵を開けて自分の部屋に入った時、Scullyの身体はまだ震えていた。
彼女はここまで向かう車の中でずっと考えていた。
あの記憶は幻なんかではない。現実に起きたことだ――
しかし、鮮明に思い出したにもかかわらず、それらの記憶はScullyにとってひどく異質なものだった。
彼女はフッと一つため息をつくと、カウチに腰掛けた。

MulderもScullyの後に続き、静かに彼女の隣に座った。
彼もまたScullyと同じように混乱していた。
どうやって切り出したらいいのだろう？
全てを思い出したことを。
自分の今の気持ちを――
そして、Scullyが今何を思っているのかも知りたかった。
Mulderは大きく息を吸った。
「Scully？」

彼が呼びかけると、Scullyは彼の方を向き、心細そうに微笑んだ。
「私達、話し合わなくてはいけないことがたくさんあるみたいね？」

「ああ。その通りだ。」

二人はそれからしばらく黙って見つめ合っていたが、二人同時に口を開いた。

「あのさ・・」

「あの・・・」

Scullyが気まずそうに笑って頷き、Mulderに先を続けるように促した。
Mulderは何から話したらいいのか分からず、俯いて居心地悪そうに座り直したが、思い切って顔を上げて話し出した。

「Scully，今日起きたことについては、正直言うと僕も何て説明したらいいか分からないんだ。
でも、僕の意見を聞く前に君に知っておいて欲しいことがある。」
彼はそこで一旦言葉を区切り、目をぎゅっと瞑ってからゆっくりとScullyの瞳をのぞき込んだ。
「愛してるよScully，今日思い出したから言ってるわけじゃない。ずっと前から僕は君だけを愛していた。」

思いがけない告白に、Scullyは目頭が熱くなるのを感じた。
Mulderが自分を愛してくれていることは知っていた。
バミューダトライアングルから生還した時も、彼は愛していると口に出して言ってくれた。
しかし、それは兄弟のような家族愛に近いものだと思っていた。
いや、そうであると自分に言い聞かせてきたのかもしれない。
そうしないと二人の絆は均衡を失うことになるから。
でも全てを思い出した今では分かる。
彼女と同じように、彼も自分の気持ちを偽り、隠し続けてここまで来たのだと。

「私も・・・」
Scullyは唇を噛んで俯いたが、すぐに顔を上げて微笑んだ。
「愛しているわ。この気持ちに気付いて欲しいとずっと思っていたけど、どうやって伝えたらいいのか分からなかった。初めてあなたに会った時に、何だか懐かしい気がした理由が今やっと分かったわ。」

Mulderは手を伸ばしてScullyをしっかりと胸に抱き寄せた。
「Scully今日は・・・」

「危なかったわね。一歩間違えたらまた前回と同じ結果になってたわ。」

まさに言おうとしていたことを先に言われ、Mulderが驚いて見下ろすと、Scullyが少し怯えた瞳で彼を見上げていた。
考えてみれば、二人ともほぼ同時に記憶を取り戻したのは、奇跡に近い偶然だ――
彼は信じていないはずの神に感謝しながらゆっくりと屈み、Scullyにそっと口付けをした。

「Scully，何を思い出したか話してくれないか？」

Mulderが答えを待ちながらScullyの表情を窺っているうちに、その頬が少しだけ赤らんでいくのが見えた。

「７年前よりずっと前にあなたに出会っていたことを思い出したわ。」
Scullyはそこで神経質そうに唇を舐めた。
「あなたは？」

Mulderはシャイな微笑みを見せた。
「僕も・・・まあ同じようなものだ。あの当時も今と同じくらい君を愛していたこともね。」

「私もよMulder，あの時の気持ちは今も変わっていないわ。オレゴンのモーテルで初めてSamanthaの話を聞いた時には、私はもうあなたに恋していたのよ。」
Scullyは彼から視線を逸らし、自分の膝に視線を落した。

「なあScully，僕達は本当に同じ記憶を取り戻したんだよな？っていうことは・・・その・・・何か思い出したことがあるだろ？つまり・・・」

「ええ・・・まあ・・・」
Scullyはしばらく言いづらそうにしていたが、やがて悪戯っぽい微笑みをMulderに向けた。
「´初めての人´だと信じていたボーイフレンドと初めてセックスをした時、何度言っても彼は私がヴァージンだって信じてくれなかったわ。」
Scullyは意味深な視線をMulderに送った。
「その理由が今判明したわね。」

Mulderは体温が上昇するのを感じた。
自分から催促したにもかかわらず、Scullyからあからさまな返事が返ってくると、彼は動揺を隠し切れなかった。
「と、とにかく・・・僕達は無事に記憶を取り戻したんだ。」
彼は咳払いをして姿勢を正した。
「Billが僕を異常に嫌うのもこれで納得がいったよ。」

Scullyは思わず吹き出した。
確かに、今までなぜBillがここまでMulderを毛嫌いするのか分からなかった。
彼らには大きな´過去の遺恨´があったのだ。
「そうね、多分あのことが大いに関係しているわね。」
彼女は真顔に戻り、Mulderを見上げた。
「明日、ママのところへ行って確認してみましょう？」

Mulderは大きく頷いた。
「君のママが僕達の記憶をさらに補足してくれるかもしれない。それにしても、僕達はどうしてあの時死なずに、もう一度人生をやり直すことができたんだろう？何だか・・・」

「スプーキーな話よね。」
Scullyがそう言うと、Mulderは穏やかに微笑んだ。

「Scully愛してるよ。こう言っている自分がすごく自然に思えるんだ。」

Scullyは彼の頬を包み、静かに答えた。
「私の事、思い出してくれてありがとう。」


二人はその夜、カウチに毛布を持ち込んで一晩中思い出話をして過ごした。
二人ともただ抱き合い、時折笑いながら静かに話をしているだけで満足だった。



************
************


翌日
Margaret Scully宅


Margaret Scullyが玄関のドアを開けると、そこには娘と、娘の相棒が立っていた。
彼女は二人の突然の訪問に驚きつつも、微笑みを浮かべながら彼らを招き入れた。
「Dana，Fox，入って。」

Scullyは母親に続いてリビングに入ったが、突如不安に駆られて立ち止まった。
こんな話、一体どう切り出せばいいのか――
自分達が求めている情報を、正気を疑われずに母親から引き出せるのか、Scullyには全く自信がなかった。

不安を察したMulderに肩を抱かれて促され、Scullyは大きく息を吸い込んだ。
「ママ、私達が今日ここに来たのはね、ちょっと聞きたいことがあったからなの。」

Maggieはその時はたと気付いた。
今日は週の真ん中の平日で、しかもまだ日も高く、娘が訪ねてくるような時間ではない。
そしてこの二人の深刻な表情――
何か悪い報せなのだろうか？
Maggieの心臓の鼓動が早さを増した。
「何を聞きたいのDana？」

Maggieは二人をキッチンへ促した。
ScullyはMulderとともにテーブルにつくと、ゆっくりと呼吸をして頭を整理した。

「変な言い方だけど――」
Scullyは慎重に言葉を選んだ。
「私達がこれから質問することには、どんなことでも必ず正直に答えて欲しいの。」

「分かったわDana」

「ママ、実は私とMulderは・・・昔のことで思い出したことがあるの。それで、そのことについて知っていることがあったら教えて欲しいんだけど・・・。」

Maggieは娘の言葉にハッとした。
しかし、早合点は禁物だ。
全てを語るには、もう少し詳細を聞かないと――
「何を思い出したの？」

言いよどむScullyの手をMulderが握り締め、それに後押しされてScullyはおずおずと訊ねた。
「・・・私、大学の時にMulderを家に連れてきたことがなかった？」

しばらく重苦しい沈黙が流れた。
Scullyはその沈黙が怖くなり、上目遣いで恐る恐る母親の様子を窺った。
しかし、嘲笑を覚悟していたScullyの目の前には満面の笑みがあった。

MaggieはScullyと目が合ったと同時に嬉しそうに叫んだ。
「あなた達！思い出したのね！」

「じゃあやっぱり本当にあったことだったんですね？」
Mulderが興奮しながら訊ねた。

「ええ、そうよ。だから、Missyが私達にあの話をしに来た時は信じられなかったわ。Missyは少しだけ事情を話してはくれたけど、もちろんそれだけでは納得できるものではなかったし。」

「本当だったのね・・・」
Scullyは脱力して背もたれにもたれかかり、独り言のように呟いた。

「ちょっと待ってね。見せたいものがあるから。」
Maggieはそう言ってキッチンを出て行き、数分後に嬉しそうな顔でいそいそと戻ってきた。
「あったわ、これよ。Melissaに、絶対に表には出すなって釘をさされていたから、現像してからずっとしまってあったの。」

Scullyは母から渡された２枚の写真を見て息を呑んだ。
二人は父親の船の上で幸せそうな笑顔を浮かべていた。
おそらくMelissaがこっそり撮ったのであろう、Mulderが背後から彼女を抱き、周りには目もくれずにお互いだけを見つめている若い二人がいた。

もう取り戻せない時間を思い、Scullyは滲んだ視界をまばたきで払いながらMulderに写真を渡した。
Mulderはそれを長い間じっと見つめていたが、お互いの目が合った時、Scullyは彼の心の中がすべて見えたような気がした。

三人はそれからしばらく当時の思い出話を和やかに語り合った。
数時間後、母親に別れを告げて車に乗り込むと、Mulderがすかさず助手席に座ったScullyに手を伸ばして指を絡めてきた。ScullyはちらりとMulderの横顔を見てからすぐに目の前の道路に視線を戻したが、絡められた指は彼女のアパートに着くまで離されることはなかった。



**************
**************

Dana Scullyのアパートメント
2 hours later...
２時間後・・・



Mulderはカウンターに寄り掛かり、Scullyを見つめていた。
彼らはMaggieの家を後にしてからというもの、車の中でも、ディナーを食べている最中もずっと当たり障りのない会話を続けてきた。
彼はScullyがテーブルの上を片付けているのを見ながら、彼女も自分と同じ気分なのだろうかと考えていた。

彼は緊張していた。

Margaret Scullyによって二人の記憶が現実に起きた出来事であると証明された以上、この期に及んで彼女と二人きりになって緊張するというのもおかしな話だが――
しかし、つまりは、自分が記憶していることの´全て´が現実なのであって――
ということは、もちろんあの夜のことも――

・・・何を興奮してるんだ、いい年して。
彼はため息をついて首を振り、雑念を追い払った。


Scullyはちらりと横目でMulderの様子を窺った。
彼の視線がずっと自分を追っていることには気付いていた。
Mulderが何を考えているかは分かっている。
彼女自身考えずにはいられないあの出来事――

二人に肉体関係があったというその事実。
忘れていたとはいえ、その後に彼等は友人として、時には異性として惹かれあいながら７年間共に働いた。
過去に自分たちが恋人同士であったことを知らずに――

そこまで思考が及ぶと、Scullyは何だか悲しくなってしまった。
もちろん、過去の記憶が蘇ったからといって、今のMulderに対する自分の気持ちが変わるわけではない。
むしろ、過去の自分も現在の自分と同様にMulderを愛していたということは、至極当然のことのように思えた。
ここで克服すべきなのは、Mulderとの何とも言えない気まずい雰囲気だった。
表面上は平静を装っている。しかし二人は、このあまりにも衝撃的な事実によって受けたショックから、いまだ立ち直れずにいた。

「Scully？」

「――何？」
Mulderの問いかけに、Scullyは思考の底からハッと我に返った。

「ここ２〜３日はいろいろあったけどさ・・・」

「そ、そうね、何だか本当にいろいろ・・・」
Scullyはそう言ってから、自分の口調が空々しかったことに気付き、唇を噛んで俯いた。

「あの・・・君は一人になっていろいろ考えたいんだろうと思っているんだろう？だから・・・僕はそろそろ帰るよ。」

そう言ったMulderの声は低く掠れていた。
Scullyは彼のその口調の中に、'引き止めて欲しい'という言外の懇願を読み取った。

「Mulder，私一人になりたいなんて思ってないわ。」
Scullyは静かに答えた。
「昨日言ったことは本当よ。私はあなたをずっと前から愛してる。記憶を取り戻した今でもこの気持ちは変わらないわ。失った時間を・・・取り戻せて本当によかったと思ってる。」

Mulderはしばらくその言葉の真意を測っていたが、やがて苦笑しながら首を振った。
「どうして君みたいな人が僕なんかを愛してくれたんだろう――」
彼は窓の外に視線を移し、遠くを見た。
「・・・でもすごく感謝してるよ。僕も記憶を取り戻せて本当によかったと思う。だけど今は、過去の記憶よりも欲しいものがあるんだ。」

「何？」

「Scully，僕たちはせっかく記憶を取り戻したのに、どうしてこんなにギクシャクしているんだろう？僕は記憶だけじゃなくて、全てを取り戻したいんだよ。あの時の二人に戻りたいんだ――今日見た写真のような二人に。」

Scullyはその言葉に目の奥が熱くなるのを感じた。
それは、´愛している´という言葉よりもはるかに心を揺さぶる告白だった。
「Mulder――私も、そう思っていたの。」
彼女は一歩ずつ踏みしめるようにしてMulderのそばへ行き、手を伸ばして彼を抱きしめた。
「私達の選択は間違っていなかったと今では思うことができる。でも、別れを決めたあの夜に考えたの。いつかこの運命に感謝できる日が来るのだろうかって。それが今日なのかもしれない。」

「あの時、僕たちは精一杯出来るだけのことをしたんだよ。でも、時は経っても君への想いはちっとも色褪せなかった。」

「私達はあの日の二人に戻れるかしら？」
ScullyはMulderの首に腕を絡め、強引に彼を引き寄せると、２０年分の想いを込めてキスをした。
Mulderもすぐにそれに応え、二人のキスは抑圧されていた情熱で瞬く間に激しくなっていった。

やがてMulderは空気を求め、名残惜しそうにScullyから離れたが、すぐに音を立てて短く彼女の唇にキスをした。
それは、以前の二人が時間さえあれば交わしていたキスだった。
「寝室で続きがあれば戻れるかもしれないぞ。」
彼は乱れた息でからかうように言うと、Scullyの身体をすくい上げた。

「２０年ぶりなんてちょっとドキドキするけど・・・」

二人は再び熱い口付けを交わしながら寝室へ向かった。




そして、寝室へ消えていく恋人同士の背中を満足げに見送る姿があった。




〜〜
〜〜


エピローグ


私はもう何年もお前を見守ってきた。
お前に起きた全てのことは、いつも私がすぐそばで見ていた。
お前も覚えていると思うが、５年前、お前は私の世界に足を踏み入れそうになった。
私の世界の概念では時間というものがないから、あれが５年も前と言われてもピンと来ないが――あの時、私はお前に´ここへ来るのはまだ早い´と諭して帰した。

そして、今回もまだここへ来るには早過ぎた。
お前にはまだやるべき事がたくさんある。
幸せをつかみ、新たな試練にも立ち向かっていって欲しい。
この２度目のチャンスは有効に活用した方がいい。
こんなことは滅多にないのだから。
お前は１００年に一度巡り合えるかどうかの相手と巡り合えた。

あの時のMelissaの話――お前が連れてきた彼の名前を２度と持ち出すなと言われた時・・・
それがお前の幸せのためだと言われて、私達は渋々承知した。
しかし、父親の直感が告げていた。
彼がお前の運命の相手だと。

どうやら私の直感は正しかったようだ。

お前は今安全で温かい胸に守られている。
娘が幸せな事――それが、全ての父親が望むことだ。

私は間もなくお前の目の前に現れるだろう。
姿を変えて――

それまで、しばしの別れだ。



おやすみ、Starback




ＥＮＤ