Manipulations by Fiona 

Friday, July 16, 1982
William and Margaret Scully Residence
Scullyの両親の家
Washington, D.C.
ワシントンD.C.


「パパ！」
Scullyは父親に駆け寄り、嬉しそうに腕の中に飛び込んだ。

「久しぶり、Starbuck」
William Scullyは娘をきつく抱きしめた後、その隣に立っている若い男性に顔を向けた。
「彼は？」

「パパ、彼はえーと・・・私のお友達なの。Fox Mulderよ。」

「初めまして。」
Mulderが手を差し出すと、Williamはそれをがっしりと握り、力強い握手を交わした。
「Danaはいつもあなたのことを話していますよ。」

Williamは微笑みながら二人を家の中に通した。
「Maggie！Charlie！Danaが着いたぞ！」

その時、どこからともなくニンジン色の髪の毛をした少年が飛び出してきてScullyにタックルをした。
少年は無防備だったScullyを簡単に押し倒し、身体中をくすぐり始めた。

「Charlieやめてったら！」
Scullyはゲラゲラ笑いながら身体をよじってCharlieの攻撃から逃れ、今度は反対に弟をうつぶせに押し倒して背中に跨り、腕を押さえ付けた。
「反撃開始よ！」

Scullyが得意気に顔を上げると、ニヤニヤしながら彼女の背後を指差しているMulderがいた。
殺気を感じて恐る恐る後ろを振り返ると、そこに立っていたのは兄だった。
「Bill！！」
Scullyは慌ててCharlieの背中から飛びのこうとしたが、その前に宙に抱え上げられ、抵抗する間もなく背負い投げを食らっていた。

Billに抱き起こされると、Scullyは息も絶え絶えに紹介をした。
「Mulder,見ての通りこれが私の兄と弟でBillとCharlieよ。二人とも、彼はFoxMulderっていうの。」

「ねえ、みんなMulderって呼ぶの？」
Charlesが興味深そうに聞いた。

「もし自分の名前がFoxだったら、君もそう呼んで欲しいと思わないか？」

「うん・・・そうかも・・・」

「Melissaはもう着いているの？」
Scullyが辺りを見回しながら訊ねた。

「まだだ。何分か前に電話が来て、今向かっている最中らしい。Taraは裏庭にいるぞ。」
Billが裏口を指差した。
「お前に会いたいってずっと言っていたんだ。」

「じゃあちょっと挨拶してくるわね。」
ScullyはMulderの唇の端に軽くキスをして裏庭へ向かった。

一人取り残されたMulderが所在無くキョロキョロと部屋の中を見回していると、Billの冷たい視線とぶつかった。
「・・・それで、君はどういうつもりで妹と付き合っているんだ？」

Mulderは突然のBillの態度の変化にたじろいだ。
「ど・・・どういう意味ですか？」

「妹はまだ何も知らない子供だ。遊びで付き合っているんだったらさっさと別れてくれ。自分の妹が傷つくのを見たくはないんでね。」

「僕は誰よりもDanaを愛しています。彼女を傷つけるようなことは決してしません。」

「そう願いたいもんだ。」
Billはぶっきらぼうに言うとその場を立ち去った。

Charlesが同情に満ちた目を向けた。
「ごめんよ、Billはさあ、Danieのこととなるとすっごい過保護になるんだ。だから気を悪くしないでね。」

「ああ。Billの気持ちは分かるからね。」
Mulderは新しく同士となったScully家の末っ子と顔を見合わせて苦笑いをした。

その時、玄関のドアが開いて若い女性が入ってきた。
「あらCharlie,久し振りね。」
彼女はそう言うとCharlesの頭を抱え込んで髪の毛をくしゃくしゃにした。

「Missy,Danieの友達を紹介するよ。彼は――」

「Fox Mulderさんでしょ？きっと今日みえると思ってたわ。Danaったらいつもあなたのことを話しているんだもの。それが本当にいつもあなたのことばかりなの。」
Melissaは微笑むと、首に下げているガラスのチョーカーに手を持っていき、首をかしげてMulderを見た。
「Mulderさん、あなたは前世を信じる？」

「ただのMulderでいいですよ。ええ、僕は前世を信じます。」
そう言った瞬間、先日見た奇妙な夢が頭をよぎった。
「でもどうしてそんなことを聞くんです？」

「理由はないわ。ただ何となくよ。」

「またMelissaがサイキックな話をしてるのね？」
Scullyが部屋に入ってきてMellisaとハグをした。

「Missy？」
手を小麦粉で真っ白にした女性がキッチンから姿を現した。
「あらDana！ごめんなさいね、来ていることに気付かなかったわ。チキンに小麦粉をまぶすのに必死だったものだから。Charlie,パパのところへ行って火を起こすのを手伝ってあげてくれる？」

CharlieとMelissaが出て行ったのを見届けると、Maggieは暖かい微笑を向けた。
「あなたがFoxね。」

ファーストネームで呼ばれたにもかかわらず、なぜかMulderは全く悪い気がしなかった。
「Fox Mulderです。初めまして、Mrs.Scully」

「あら、そんな堅苦しい呼び方はやめて。Maggieでいいのよ。」


〜〜
〜〜


2:23AM


Mulderは真夜中に突然目が覚め、泊まっていたゲスト用の寝室を見回した。

どうして目が覚めたんだろう――？

目を閉じて耳を澄ますと、ドアの向こうからくぐもったすすり泣きが聞こえてきた。
廊下を挟んで向かいの部屋はScullyの寝室だった。
彼はベッドからそっと抜け出してScullyの部屋に忍び込み、彼女が寝ているベッドの横に跪いた。

「Scully・・・ハニー、目を覚まして。」
彼が囁きながら指先で頬を撫でると、Scullyの目が開き、ぼんやりと瞬きを繰り返した。
「大丈夫かい？」

「Mulder・・・」
Scullyは身体を後ろにずらしてスペースを空け、手を伸ばしてMulderを引き寄せた。
彼は誘われるままにScullyの隣にすべり込み、彼女をきつく抱きしめた。
「夢の中で男の人に拉致されたの・・・何度もあなたの名前を呼んだんだけど・・・
あなたは現れなくて・・・」

彼女のその言葉で、彼の中で何かの映像がフラッシュバックしたが、はっきりと形をとる前にそのイメージは消えた。
「Scully安心するんだ・・・僕はここにいるから。ただの夢だよ。」

「あれが？」
Scullyが困惑した眼差しを向けた。
「見るたびにいつも・・・すごくリアルなのよ。」

「現実のはずはないよ。」
Mulderは彼女に口付けをした。
それは慰めをこめたごく軽いキスだったが、思いがけず彼女が敏感に反応をした。
彼はScullyが今のように動揺している時は決して手を出すまいと心に決めていた。
彼女の弱味につけこむようでフェアではないと思っていたからだ。
しかし、Scullyはそんな彼の決意を嘲笑うかのように熱くなった手足を絡め、舌を差し入れてきた。
彼はキスに応えながらも必死に理性と格闘していたが、いつまで持ち堪えられるのか自信がなかった。

Scullyが彼のＴシャツの中に手を差し入れてきて、胸に軽く爪を立てた。
彼はその感触に鳥肌が立つのを覚えながらScullyのわき腹を撫でていたが、その手をこれからどこへ移動させたらいいか迷った。
これがギリギリのラインなのか、それとも彼女がこれ以上を求めているのか・・・。

「Mulder」
Scullyが彼の首筋に唇を押し当てたまま囁いた。

「んー・・・？」

「私に触って、Mulder」

自分の考えに没頭していた彼は突然現実に引き戻された。
驚いてScullyの顔を覗き込むと、彼女は恥ずかしそうに頷き、伸び上がって再び彼に熱い口付けをした。
Mulderはシャツの下に手をすべり込ませ、彼女の乳房の先端を親指で愛撫しながら徐々にシャツの裾をたくし上げていった。
彼女の頭からシャツを抜き去ると、彼は露になった肩や鎖骨にキスを這わせ、その唇を胸の谷間へと移動させた。

Scullyの片方の乳房を手のひらで包み、もう片方の先端を口に含むと、彼女が背中を仰け反らせて小さく喘いだ。
すかさずMulderは手を下へと移動させ、ショーツに手をかけたが、そこで逡巡した。
カウチでお互いの身体に触れながら抱き合うことはあっても、Scullyがここから先を許したことはなかった。
ここでScullyが彼を押し留めても仕方ないと覚悟をしていたが、驚いたことに彼女は彼の手に自分の手を重ね、ショーツを引き下ろすのに手を貸した。

Mulderが探るようにScullyの瞳を覗き込むと、彼女は微笑んで小さく頷いた。
彼は軽い眩暈を覚えながらかぶりつくようにScullyの唇を奪い、少しだけ強引に舌を差し入れて口腔内をかき回し、下唇を吸い上げながら荒い息で呻いた。

「Scully・・・」


Mulderの指が足の間に触れた時、Scullyはビクッと身体を震わせた。

彼女は自分でも驚いていた。
ここまで熱烈に男の肉体を欲したことはかつてなかった。
Mulderの指に煽られ、自分の身体を駆け抜ける感覚は全く未知のものだった。

すぐに、Mulderが指を差し入れてきた。
Scullyは大きく喘ぎ、腰を浮かせて彼をより深く誘い込んだ。
ゆっくりと彼の指が出入りするのを感じ、親指で一番敏感な部分を探り当てられると、一瞬意識が遠のくような錯覚を覚え、縋りつくようにMulderの首に腕を回し、キスをせがんだ。

彼女は徐々にその時が近づいてきているのを感じていた。
今までも、自身の手によってその極みまで達したことはある。
しかし、今のこの感覚はそれとは全く違っていた。
他の誰にも触れさせたことのない部分を、生まれて初めてこの目の前の愛しい男に委ねている。
そう考えただけでScullyの身体の中心が熱くなり、その波は瞬く間に下腹部から全身に広がっていった。

彼女は目を固く瞑り、背中を仰け反らせてMulderの名を呼びながら果てた。


Mulderはオーガズムに達した彼女の表情に魅入っていた。
自分を見つめていたスカイブルーの瞳は徐々に濃さを増し、やがて快感に耐えられないように目を固く瞑り、身体を仰け反らせて彼の名を呼んだ。
彼は今自分の名をつむいでいたその唇を塞ぎ、収縮の収まった彼女の中から自分の指を引き抜いた。

Scullyは畏怖をこめた眼差しでMulderを見た。
この時点で彼女の気持ちは決まっていた。
彼が欲しい――
彼の全てを自分の中で感じたい。

彼女は手を伸ばしてMulderを引き寄せ、ボクサーショーツの中に手を差し入れた。
今の行為ですでに熱を持ち、固く勃ち上がっている彼の分身に触れると、彼女は感嘆の息を漏らし、ためらいがちにボクサーを引き下ろしてそっと手で包んだ。

「Scully・・・待って。」
不器用に上下に動き始めた彼女の手をMulderが止めた。

「いいのよ。こうしたいの。」

「君はそれでいいのかい？僕は・・・僕達が愛し合うときは最高のシチュエーションの時がいいんだ。君がこんな悪夢を見た後ではなくて。」

Scullyは少し迷ったような表情になったかと思うと、唐突に彼を組み敷き、悪戯っぽい微笑を見せた。
「誰かに言われたことある？あなたは最高のジェントルマンよ、Fox Mulder！」

「いいや、今夜初めて言われたよ。」
Mulderは彼女をきつく抱きしめた。

「愛してるわ。」

「僕も愛してる・・・今は眠って・・・ハニー・・・」


〜〜
〜〜

6:00 AM


「Dana？」
ノックの音が部屋に響いた。
「まだ寝ているのか？もう起きる時間だぞ。」
そう言いながらドアを開けたBillの顔から笑顔が消えた。
彼が目にしたものは、一つのベッドでMulderに寄り添うようにして眠る妹の姿だった。
Billは乱暴にドアを閉め、つかつかとベッドへ歩み寄った。


ドアが閉まる音で飛び起きたMulderが一番最初に目にしたものは、物凄い形相で近寄ってくるScullyの兄の姿だった。
彼が事情を説明しようと口を開いたと同時に、左頬にカウンターパンチを食らった。

「この野郎！！妹のベッドで一体何をしているんだ！？」

「Bill！やめてよ！！」
目を覚ましたScullyが頬を押さえてうずくまったMulderを庇いながら怒鳴り返した。

「よりによってこの屋根の下で妹を誘惑する気だったのか？」

「あなた達！」

３人が一斉に振り向くと、Margaret Scullyがドアのところで仁王立ちになっていた。
Maggieはドアを閉め、低い声で問い詰めた。
「どういう事か説明して頂戴。今すぐ。」

「Danaを起こそうとドアを開けたら、こいつがベッドに潜り込んでいたんだ。Danaを誘惑するつもりだったんだ！」

「一緒に眠ってただけよ！」
Scullyが怒りをこめて抗議した。
「Billが勝手に部屋に入ってきたと思ったら、いきなりMulderを殴ったのよ！」

「Bill，庭に行ってパパの仕事を手伝ってあげてくれる？」
Maggieが抑揚のない口調で言った。

「でも――」

「いいから行って！」

「言っておくが、俺は納得していないからな。」
Billはそう言い残して渋々部屋を出て行った。

「ママ、本当よ。私達はただ眠っていただけなの。夜中にすごく怖い夢を見て、Mulderに一緒に寝てくれるように頼んだの。彼が隣にいると、いつもよく眠れるから・・・」
Maggieの眉が吊り上ったのを見て、Scullyは言わなくていいことまで言ってしまったことに気付いた。

「Fox，キッチンに行って氷で頬を冷やした方がいいわ。」

「Mrs.Scully，僕は真剣な気持ちでDanaと付き合っています。彼女を愛しているんです。」

「分かってるわ。あと、私を呼ぶときはMaggieでいいと言ったはずよ。さあ、下に行って頬を冷やしていらっしゃい。私は娘と話すことがあるから。」

MulderはScullyの頬にキスをしてその場を去った。

「ママ、私――」

「ハニー、彼を愛している？」

「ええ。」
Scullyは何のためらいもなく答えた。
「私、彼を心から愛してるわ。」

「そう、よかったわ。その返事が聞きたかったの。ただし、慎重にね。何事にも。」

Scullyは３年前の誕生日に母から贈ってもらったクロスに触れた。
「ママ、私達はまだ――」

「いいの。約束さえしてくれれば。」

「約束するわ。」

Maggieは微笑み、Scullyをきつく抱き締めた。
「さあ、Billが何か余計なことを喋っていないかどうか様子を見に行かないと。」

Scullyは母の後姿を見送ると大きなため息をつき、着替えに手を伸ばした。
BillにはMulderを好きでいてもらいたかったが、誤解がとけるにはもうしばらく時間がかかるだろう。
まずは自分達がまだ清い仲であることを主張しなくてはならない。

まあ完全に潔癖とは言えないけど――

Scullyは昨夜のことを思い出し、口の端を上げた。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


Mulderはキッチンのカウンターに寄りかかり、目を閉じて頬の痛みと闘っていた。

あれはまずかった――

彼は夜明けが来る前に自分のベッドに戻るつもりでいたのだ。
皮肉な笑いが彼の口から漏れた。
考えてみれば、あれを見たのがBillだったからまだよかったのかもしれない――。
彼女の父親ではなかっただけ・・・。
しかし、庭でBillが父親にあることないこと吹聴しているかもしれない。
初めて訪れた彼女の実家で、不適切な行動がもとで追い出されるなんていう事態は避けたかったのだが。
その時足音が聞こえ、振り向くとMaggieがキッチンに入ってきたところだった。

「どう？腫れてる？」

「あ、いえ、大丈夫みたいです。本当に。」

何か言わなくては――
Mulderは言葉を捜したが何も思い浮かばず、焦った。

「座って、Fox」
Maggieはダイニングテーブルを指差して言った。
言われたとおりMulderは素直に座り、向かい側にMaggieが座った。
Maggieはしばらくの間、ただ黙ってMulderを見つめていた。
「今Danaと話してきて、事情は大体分かったわ。私はDanaを信じるわ。あなた達二人の間にはまだ何もないということも。」

Mulderは耳が熱くなるのを感じた。
「誓って僕はDanaを誘惑なんかしてません。」

Maggieは頷き、Mulderの手を握った。
「Fox,あなたは本当にDanaのことを愛してる？」

「ええ、僕は彼女を心の底から愛しています。」

Mulderの返事を聞いて、Maggieは満足そうにニッコリと微笑んだ。
「そう、分かったわ。ただ、あなたたち二人ともに言っておきたいのだけど、くれぐれも慎重にね。お互い後になって後悔することのないように。」

Mulderはキッチンから去っていくMaggieを呆然と見送った。
追い出されることを覚悟していた彼にとっては、気の抜けるような展開で、正直面食らっていた。
どうやらMaggieは彼がScullyと一緒のベッドに寝ていたことを全く怒っていないらしい。
慎重にさえしていればいいのだと――
彼が立ち上がろうとした時、背後から腕をつかまれた。

「大丈夫？」

振り返ると、Scullyが心配そうな顔で立っていた。

「ああ。君は？」

「私は大丈夫よ。」

'私は大丈夫――'

彼女がそう口にするのを何回か聞いたことがあったが、そのたびに彼はいつも奇妙な胸騒ぎを覚えた。
どうしてかは分からないが、彼女が本当のことを言っていないような気にさせられた。

彼の心の動きを読み取ったのか、Scullyが一歩後ずさり、不安げに彼を見上げた。
「Mulder？」

「Scully,実は・・・あることについて君と話し合いたいんだ。」

Mulderは思い切って切り出した。
彼は今までもScullyが眠った後に、頻繁に見る奇妙な夢について夜通し一人で考えることがあった。
しかし、彼だけではなく、Scullyも死を連想させる悪夢に苛まれているのは明らかだった。
Mulderは彼女の頬を両手で包み、クリスタルブルーの瞳を覗き込みながら言った。
「悪夢のことだよ。」

Scullyは一瞬身体を強張らせてから俯き、戸惑いに満ちた表情で彼を見上げた。
「ただの悪夢ではないと言いたいの？」

「まだはっきりとは分からないけど、僕が思うに・・・」

彼がそこまで言ったところで、MaggieがBillを伴って家の中に入ってきた。
Maggieが身振りで座るように促すと、Billが渋々とキッチンの椅子に座り、3人は母の前で神妙に頭を垂れた。

「さあDana,あなたからBillに今朝のことについて説明してくれる？」

Scullyが口を開きかけた時、Maggieが手を上げて制した。

「ただし、みんなこの事はパパには黙っていること。さっきも言った通り、私はあなた達二人を信じるわ。Billを納得させられるかどうかはあなた達次第よ。」

Scullyはこの時ほど母に感謝したことはなかった。
彼女は大きく頷くと、勢い込んでBillの方を向いた。

「Billy,頼むから私の話を聞いて。今朝のことは、あなたが考えているようなこととは違うのよ。」

「では、一体どういうことだったと？」
Billは憎々しげにMulderを睨んだままで訊ねた。

「いやな夢を見たの。それがとびきり怖い夢で・・・私が泣いていたらMulderが心配して見にきてくれたの。それで、一人になるのが怖かったから、彼に一緒に眠ってくれるように頼んだのよ。彼は私が安心して寝られるように、一晩中頭を撫でていてくれたわ。」

Billは妹とその隣に座る男の顔を交互に見つめた。
「お前がそう言うなら疑う理由はないが・・・だが、これだけは念を押しておく。もし妹を傷付けたり泣かせるような真似をしたら、俺はお前をぶち殺すからな。よく覚えておけ。」

MulderはScullyの目を見て無言の会話を交わしてからBillの方を向いた。
「Bill,今朝のことで不快な思いをさせたことは謝ります。ただ、さっきも言った通り、僕はDanaを傷付けるようなことは決してしません。あなたが僕を信じようが、信じまいが一向に構いませんが、これは事実です。」

Billは短く頷くと立ち上がってMaggieの方を向いた。
「外で仕事の続きをしてくるよ。」

「ええ。でも私の言ったことを忘れないでね。」

Maggieが釘をさすと、Billは不満そうに唸りながら部屋を出て行った。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


４時間後・・・

二人はMelissaらとともに父親が所有する船で沖に出ていた。
ScullyはMulderの胸にもたれかかって無邪気な笑い声を上げた。
こうしてしばらく顔を合わせないでいるうちに、Billのほとぼりも冷めるだろうと彼女は楽観していた。

「何を考えているの？」
Mulderが深刻な顔をしているのに気付いてScullyが問いかけたが、彼の返事はなかった。
「Mulder，あなた大丈夫？」

「え？あ・・・ああ、大丈夫だよ。」

「Mulder，一体どうし・・・」
彼の身体が震えていることに気付き、Scullyは驚いて身を引いた。

「Scully，さっきの話の続きをしたいんだ。」

「さっきの話って？」

「君が昨日見た夢を話してくれないか？」

「もう話したでしょう？男の人に拉致されて・・・彼は知らない人だったわ。それから車のトランクに押し込まれたの。あなたが助けにきてくれるように必死で祈ったけど、あなたは来なかった・・・」
ScullyはMulderがなぜこんなにも夢のことにこだわるのか理解できず、困惑していた。
「あと覚えているのは目もくらむような眩しい光だけよ。」

Mulderは納得したように頷いた。
「僕が初めて君の部屋に泊まった時に見た夢は？」

「・・・もう忘れたわ。」

「分かった。じゃあ僕がここのところ繰り返し見る夢を話すよ。数日前、僕は君がいなくなった夢を見て夜中に飛び起きた。君が見た夢と同じさ。君が僕の名前を繰り返し叫んでいるのが電話から聞こえるんだ。僕は必死で駆けつけたけど間に合わなくて・・・君の姿はなくて、そこにいたのは男だけだった。あとは君と同じく、明るい光が見えた。」

ScullyはMulderの夢の話を聞いて激しいショックを受けた。
彼も悪夢に悩まされているということを今日まで知らなかったのもショックだったが、何よりも、その夢が自分のものと同じ内容であるという事実に、背筋が凍るような戦慄を覚えた。どうして自分達は同じ夢を見ているのだろう？
そんなことは有り得るのだろうか？
彼女は無意識に身震いをし、Mulderの腕にすがりついた。

「それに、夢だけじゃないんだよScully，時々フラッシュバックみたいに奇妙な映像が頭をよぎるんだ。それはとてもリアルなんだけど・・・でも、現実のはずはないんだ。」
彼はたまらずに首を振った。
「初めて君の部屋に泊まったとき、僕は君が銃で撃たれて死んでしまう夢を見たんだ。
そうしたら君が目を覚まして、銃で撃たれた夢を見たと話してくれた。」

Scullyはその夢を思い出して頷いた。
「そうだわ。とてもリアルですごく怖かったのよ。何だか・・・」

「そう、実際に体験したみたいな感じだ。」

「フラッシュバックと言えば、私も思い出したことがあるの。」

「何だい？」

「あなたが肩を撃たれて地面に横たわっている姿が頭をよぎったことがあるのよ。私はなぜか銃を持っていたわ。」

「何かの啓示みたいじゃないか？一体僕達に何が起きているんだ？」

「分からないわ。私達は同じ夢を共有しているっていうこと？でも、そんなことは有り得ないわ。」

「何を共有しているですって？」
Melissaが背後から彼らの話に加わってきた。

「Missy・・・いいえ・・・何でもないの。」

Melissaは二人の顔をかわるがわる見つめた。
この二人が何かを隠していることは明らかだったが、そのことはあえて口には出さずにおいた。
彼女は後で妹を問いただそうと心に決めてその場を去った。


「Scully，何が起きているのか僕にもまだ分からないよ。それに、自分が本当にその真相を知りたいと思っているのかどうかも分からない。でも・・・何か不安なことがあったら必ず僕に話してくれ。いいね？」

「分かったわ。あなたも私には何でも話してね。」

「ああ。これから先、どんなことが起きようとも、全て二人で切り抜けよう、約束だ。」
MulderはかがみこんでScullyの唇に優しくキスをした。
Scullyもそれに応えて彼の首に腕を回し、舌で彼の下唇をなぞった。
Mulderは幸せそうにため息を漏らし、Scullyの髪に指を差し入れて引き寄せ、口付けを深めていった。

やがてMulderは名残惜しげに唇を離し、彼女と額を摺り合わせながら囁いた。
「愛しているよScully」

「私も愛してるわ。」
Scullyは彼の唇を指先でなぞって微笑んだ。
「私達に何が起きているのか調べる必要がありそうなのは確かね。でも、それは来週からでも出来るわ。今はこの週末を楽しみましょう？」

「Scully，それは素晴らしいアイディアだ。」

彼はScullyに同意すると、再び彼女の唇に吸い寄せられていった。