TITLE : Atoll

作：Terma99　訳:由美

私たちは手を繋ぎながら、島の中心にある椰子の木の林の中を散策していた。
Mulderは大学時代のルームメイトの手提げカバンの中に砂やボウリングの玉を入れてイタズラをした話をしていたが、私はその話の内容にはあまり耳を傾けておらず、彼の声のトーンに心を奪われていた。

次にMulderは美味しそうな実がなっている椰子の木を見上げながら、果実を取ってくるように訓練されたインドネシアの猿のドキュメンタリーの話をしてくれた。
「すごい簡単そうに登っていたんだよ。」

しばらく歩いて、彼は少しだけ背の低い椰子の木の下で立ち止まった。
その木は、この島に吹き付ける貿易風のせいで少しだけ南側に傾いていた。
彼が根元を蹴ると、上の方でなっている実が今にも落ちそうに大きく揺れた。
Mulderはそれを見て瞳を輝かせ、私に後ろの方に下がっているように言ってから幹の周りをぐるりと一周した。

「僕たちは結婚するべきだと思う。」
Mulderは突然何でもないことのように言い、心細そうにぶら下がっている実に狙いを定めた。

私はその場に立ち尽くし――彼の言葉に驚いて――でも、彼は椰子の実を取ることに熱中していて、その事についてそれ以上言及する素振りはなかった。
Mulderが幹にしがみついて少しずつよじ登っていくと、木が彼の体重に耐えられず、ミシミシといやな音を立てて傾き始めた。

私は彼に言われたことで頭が真っ白になっていたのだが、目の前の光景は、それが彼の遺言になってしまうのではないかという新しい恐怖に取って代わるのに十分だった。
私は思わず口を開いたが、何も言葉は出てこなかった。
感謝すべきは、今日の彼は服を着ていることだ。

彼が椰子の実に向かって手を伸ばした瞬間、幹が遂に大きな音を立て始め、木全体が激しく揺れた。

「Mulder・・・？」

次に彼が再び手を伸ばした時、木がロデオのように跳ね上がり、Mulderはバランスを崩して６フィート下の地面に滑り落ちた。
私は慌てて彼の元に駆け寄った（内心では彼の尻を蹴り上げてやりたい気持ちで一杯だったが）。

「Mulder,大丈夫？」

彼は肘をさすりながら起き上がった。
「ああ。下の砂がクッションになって助かったよ。」

私たちの頭上ではまだ木の先端が激しく揺れていて、すぐに彼の足元に大きな音を立てて椰子の実が落ちてきた。

「やったぞ！！」
彼は私に手を引かれながら言った。
「君はこんな真似しちゃダメだぞ。」


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私たちは無言でコテージまで歩いた。
Mulderは得意そうに、擦りむけた腕で椰子の実を抱えていた。
私は何と言っていいか分からなかったし、彼もあえてその話題を持ち出したりはしなかった。
でも、私の腰に添えられた彼の手が、答えは急がなくていいと言ってくれていた。

コテージに着くと、彼は椰子の実を割る道具を持って砂浜に下りて行った。
私は暖かい服に着替え、彼が椰子の実を割る音をぼんやりと聞きながら、一人になりたいと思っている自分に気付いた。

頭を整理しようとベッドの端に横になると、涙が溢れてきて、私はそれを急いで振り払った。
いつの間にか椰子の実を割る音は途絶え、もしかしたらMulderが下で私を待っているのかもしれないと思った。

梯子を下りると、彼が砂浜に座って上を向いてココナツミルクを飲んでいる姿が見えた。

彼は私に気付くと、微笑んで言った。
「美味しいから飲んでみろよ。」

私はそれを受け取り、上を向いて飲んでみたが、何も出てこなかった。

「吸わなくちゃダメだよ、Scully」

彼は“吸う”という部分をやたらと強調して言い、私が笑っているとココナツミルクが垂れてきて私の鼻にまで入った。

「美味しいわ。」
私は咳き込みながら手の甲で鼻を拭き、彼に椰子の実を返した。

Mulderは立ち上がって私にキスをすると、椰子の実を片手に私の手を引いてコテージに戻った。

彼は残りのココナツミルクを３日くらい洗わないで放置してあるグラスに注ぎ、空になった椰子の実を足元に置いて、これ以上はないほどじっくりと時間をかけて私を愛した。

彼は私の隣で気持ちよさそうに眠っていたが、私は彼が与えてくれた快楽の余韻で身体が熱くて寝付けず、横たわったまま彼の規則正しい呼吸に耳を傾けていた。
こうして彼の隣で眠っていると、幾つもの矛盾した感情が押し寄せてくるのを感じる。
目を閉じると、彼が椰子の木に登り、グラグラと揺れている先端にしがみついている姿が瞼の裏に浮かんだ。


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朝になって、私はMulderに激しく揺さぶられて目が覚めた。
彼はパニックの表情で何かを指差していた。

私は彼の表情を見てすぐに何か異変が起こったのだと気付き、一気にアドレナリンが放出され、心臓が激しく高鳴った。
しかし、緑色のエイリアンでも現れたのかと思って飛び起きた私が見たものは、珊瑚色の侵入者だった。

椰子蟹がMulderが持ち帰った“戦利品”を狙って現れたのだった。
私はそれを確認するとすぐに横になり、ブランケットを頭までかぶって目を閉じた。

「Scully・・・！？」
彼は再び私を揺さぶった。
「何とかしてくれよ！」

「Mulder,銃はワシントンに置いてきたのよ。どうしても捕まえたかったら、素手で何とかするのね。」

彼は枕元に這い上がってきて、私からブランケットを剥ぎ取ってそれを腰に巻きつけた。
「ちょっと出掛けてくるよ。」
そう言ってサンダルを履き、つま先で出来るだけ蟹から離れて歩きながらコテージから出て行った。

Mulderには椰子の実を持たせてはいけない。


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私がMulderのアクティビティーリストからフィッシングと椰子の実狩りを削除したので、彼は少しだけまともで少しだけお金のかかるアクティビティー――シュノーケリングに趣旨変えした。

私たちはゴーグルとシュノーケルとフィンをレンタルし、半マイルほど沖に進んだ場所で珊瑚礁の海の中を泳いでその景色を楽しんだ。

最初の数時間は私も彼と一緒に泳ぎ、色鮮やかな魚やイソギンチャクや珊瑚の群れを見て楽しんでいた。
Ｍulderは魚のことをよく知っていて――エンドウ豆で魚を誘うと、彼らは一斉に私たちの手に寄ってきた。

私は水の中にいるのが好きだった。
しかし、私の肌は長く日光にさらされていることに耐えていることができなかった。
だから私は途中でリタイヤし、ボートに上がって日傘の下でバナナを食べながら読書をした。

私がタオルの上に寝そべって舳先の下に響く波の音を聞いていると、突然Ｍulderが海草を身体に巻きつけながらネプチューンにようボートに這い上がってきて、シュノーケルの下で口をパクパクさせながら訳の分からないことを喋り始めた。

「何なの？」

彼はゴーグルとシュノーケルを取り払い、カーキパンツの中から緑色の物体を取り出した。
「Ｍensahが言っていた難破船を見つけたんだよ！ほら、コインも！」
興奮気味に言うと、私の手の中にそれを落とした。
おそらくその銅貨はスペインの物だろうと私は推測した。

「すごい貴重なものじゃないかな？」
彼は子供のように無邪気に問いかけてきた。
私は彼を失望させたくはなかったが、正直に言ってしまった。

「私、これと同じようなイアリングをＭacy'sで売っているのを見たことがあるわ。」

「そうか・・・」
彼はそう言って肩をすくめると、ゴーグルとシュノーケルをかけ直して、舳先から再び海の中に潜っていってしまった。


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Mulderは、私の日焼けのケアをするのを自分の仕事だと思い込んでいるようだった。
彼は私を日陰のブランケットの上に寝かせ、つま先から顎まで、身体のすみずみにひんやりと冷たいアロエを塗っていった。

その奉仕が終わる頃には、彼はすっかり興奮してしまっていたのだが、自分のことはいいと言いながら私の太股の内側に手を伸ばし、日光には全く当たらない部分までアロエを塗り始めた。

やがて彼は静かに私の足の間に唇を落とした。
彼はそこに濡れたキスを繰り返し、時折舌先で弄びながら、手のひらで赤く火照った私の素肌を愛撫していった。

「日が完全に沈むまでは君を離さないよScully」

私は彼の奉仕を受けながら夕日を見つめた。
太陽は徐々にその赤みを増し、水平線に溶けながら海に沈んでいった。


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Mulderはその後２日間難破船の探索を続け、コインや、マスケット銃の弾丸や、錨を繋いでたであろうと思われる鎖などを収集してきては、得意気にMensahに見せていた。

今夜のMensahのバーは混んでいて騒がしかった。
この島に停泊している客船の乗客たちが、ここで一斉にディナーを食べているせいだった。
Mensahは１６歳の彼のいとこのBobbyもよび、調理場の手伝いやジャズバンドの演奏をさせるなど、大忙しで店を仕切っていた。

今夜のディナーは分厚いマグロのステーキがメインの豪勢なフルコースだった。
このマグロを見て、Mulderは再びフィッシングに行きたいと言い出し、BobbyもさかんにMulderをマグロ漁にさそっていたが、私は何とか彼を説き伏せた。

私が一通りのコースを平らげ、ラムパンチを数杯飲んだところで、Mulderが踊ろうと言い出した。
私たちは恋人同士になってから人前でこういうことをしたことがなかったが、私のこの酔い加減からして、バカみたいな踊りをして恥をかいてしまうことは必至だった。
私は一旦断ったのだが、彼は私を軽々とベンチから持ち上げ、暴れる私を小脇に抱えて歩き出した。

本当にバカみたいだ。

彼は私のウエストに腕をまわし、もう一方の手を取って、タンゴのようなスタイルで踊りだした。
私たちのバックで演奏されているのはカリプソジャズという、リンボーダンスに使われるような曲だったが、Mulderは背筋を真っ直ぐに伸ばし、優しい微笑を浮かべながらゆっくりと私をリードした。

「Scully捜査官、君は酔っているだろう？」

「酔ってなんかいないわ。」
私はふらつく足でケラケラ笑いながら答えた。
たぶん酔いが回ってつぶれてしまうまで、そう長くはかからないだろう。

１曲だけのつもりが２曲、３曲となり、私は目を閉じて彼の胸にぴったりと寄り添いながら、心地よい心臓の鼓動を聞いていた。
突然、私の手を握っていた彼の手が離れ、すぐに首に何かがかけられるのを感じた。
一歩下がって見下ろしてみると、それは草で編んだネックレスで、私の胸元には彼が最初に難破船から拾ってきたコインがぶら下がっていた。

「Macy'sのじゃないけどさ、婚約ネックレスだと思ってくれよ。」

私はその場に立ちすくみ、釣り上げられた魚のように呆然と口を開けていた。
涙で視界が滲み、嗚咽が喉元まで込み上げてきたが、私は彼の目をじっと見つめた。
彼の瞳は誠実で、愛情が一杯込められていて、私の答えを期待していて、私は信じられないほど幸せで、私は・・・

「何だか吐きそう・・・。」


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Mulderは私を抱えてダッシュで入り江まで走ったが、ありがたいことに私は吐かずに済んだ。
私はその場に突っ伏しながら深呼吸を繰り返し、吐き気がおさまるのを待った。
しばらくして気分が良くなると、私は顔を上げて彼に弱々しく微笑んでみせた。
なぜなら、スーパーボウルのビデオやキーホルダーより何千倍も大事なプレゼントのお礼をまだ彼に言っていなかったから。

「タイミングを選ばない奴だなんて言わないでくれよ。」
Mulderが私の背中をさすりながら言った。

私は胸元のコインを握り締めながら笑った。
「ありがとうMulder」

「どういたしまして。」

私たちはそれから砂浜に沿ってゆっくりと歩き始めた。


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本島は私たちが滞在している島の約２倍の大きさがあり、Mensahのレストランから遠く離れた砂浜まで歩いてきた頃には辺りはすっかり暗くなり、空には星が輝き始めていた。
私は彼に寄り添って座りながら、彼の小学校の時の初恋の話を聞いていた。
彼の初恋はStacy Bretcherといういかにもお転婆そうな名前で、長い赤毛を二つのおさげにした、とても口の達者な女の子だったと話してくれた。
彼はその初恋を「即席でバカみたいなガキのお遊び」とよび、私の手の甲にキスをして髭でざらついた頬をすり寄せてきた。

「彼女は僕のことが嫌いだったんだ。だって、僕の頭に泥を投げつけたんだから。」

「私もあなたの頭に泥を投げつけたくなったことは何回もあるけど、あなたのことは嫌いじゃないわ。」

「僕は“泥を投げつけてくれ”っていう顔をしているのかな？」
彼はそう言って私の鼻にキスをした。
私は彼を砂の上に押し倒し、激しく唇を重ねながら彼の髪の毛を砂まみれにしていった。

すぐに彼の股間が反応したのを感じ、腰を少しだけ持ち上げると、彼はスカートの裾をたくし上げて私のパンティの中に手を差し込んできた。
彼の長い指が私を弄び、私は喘ぎながら震える手で彼のジーンズのボタンをはずしていった。

「Mulder」
私は彼の中に身を沈めながらうわ言のように呟いた。
「こんなことしちゃダメなんだわ。ここは私たちの島じゃないもの。」

彼は下から突き上げ、私の中を一杯に充たしながら掠れた声で囁いた。
「今は僕たちのものだ。」


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私たちが島に近づいた時には既に波は高くなり、雨がポツポツ落ちてきて、雷が鳴り始めていた。
私たちは懐中電灯――ワシントンから唯一持ってきた仕事絡みのもの――で海を照らしながらようやく岸に辿り着いた。

Mulderはエンジンを切ってボートを陸に上げ、私はボートを波にさらわれないように杭にしっかりと繋いだ。

「急げScully！」
生温い雨の中、彼は叫びながら私を急かした。
「雷に打たれるぞ！」

私たちはコテージまで全力疾走し、息をつく暇もなく、タオルをつかんで四方のカンヴァスを全て下ろした。
Mulderが濡れた服を脱いで棚から新しいブランケットと枕を取り出している間、私はランタンに火を灯し、濡れた床をモップで拭いた。

床を拭き終えた後、私もドレスとパンティを脱ぎ、ネックレスだけを身に付けてあぐらをかいていたMulderの膝の上に座った。
私たちの座っている場所からは、このコテージに唯一あるプラスチックの小窓を通して雷がよく見えた。
紫色の稲妻は一瞬で空一面に広がり、荒れる海を蒼く照らしていた。

Mulderはランタンの明かりを落とし、私の髪の毛をタオルで乾かしてくれた。
私が彼の胸にもたれてネックレスのコインを指でいじっていると、彼は私を抱き寄せて耳元で囁いた。

「愛しているよ。」


彼のその言葉さえあれば私は他に何もいらない――


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私たちはこの島での最後の朝食にグラノーラとマシュマロを食べ、最後に裸で海の中で過ごした。

私たちは腰くらいの高さのところで水をかけながらじゃれ合っていたが、突然Mulderは海の中に潜ったかと思うと私の足をすくい、肩に私を担いで海の中に放り投げた。
私は派手な水しぶきを上げて海中に沈み、目を開けると、魚の群れが驚いて散っていくのが見えた。

午後になり、私は一人でコテージの端に座ってボートに積み込まれた私たちの荷物を見ていた。
間もなく船がやってきて、私たちにこの島から去るように合図があるはずだ。

Mulderは最後にもう一度この島を見ておきたいと言って散歩に出掛けた。
彼は絶対に途中で椰子の木を何本も揺すっているだろう。
この時間がもうすぐ終わるのだと思うと、私は寂しさが込み上げてくるのを抑え切れなかった。

しばらくして、彼が砂の上を歩いてくる音が聞こえた。

「また考えていただろ。」
彼はそう言って背後に座り、私を抱き寄せた。

「ええ。」
私は海を見つめながら答えた。
「きっとすぐにここが恋しくなるわ。」

「いつかまた来よう。」

「いいえ。」
その返事に、私は自分でも驚いた。
「私はもうここには来ないわ。そして大切に思い返すのよ。私たちが“もっと仲良くなれた”場所として。」

私たちがこの旅を始めるきっかけとなった彼の言葉を私が口にしたことに、彼は笑いながら頷いた。
たった２週間前のことなのに、もう一年も前のことのようだ。

「Mulder,あなたここに着いてから私にずっと問い続けていたわよね。ここを去る前にその問いに答えるわね。」

私の背後でMulderが首を振ったのが分かった。
「今答えなくてもいいよScully,好きなだけ時間をかけていいんだ。」

「今答えなければ、いつ答える時があるの？」

何が私を駆り立てたのか分からない。
でも一つ言えることは、私にとって彼以上の男性は他にはいないということだ。Mulderは私の恋人で、私の保護者で、時にはどうしようもないくらい子供だけど、私が尊敬してやまないパートナーだ。
これ以上返事を先延ばしにする理由があるだろうか？

「あなたと初めて出会った日から分かっていたの。」
私は彼の手を取ってキスをした。
「答えはイエスよ。」

海を見ると、船が近づいてきていて、ライトで私たちに合図を送っていた。


旅立ちの時間だ。



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END　（２／２）

おまけ

もしScullyがポラロイドカメラを持って行っていたら、こうなっていたでしょう――

エアメイル
USA,ワシントンD.C.FBI内　ウオルタースキナー副長官宛

＜−誰かさんの真っ黒に焼けたお尻のクローズアップ写真−＞

親愛なるウオルター、私たちは楽しくやっています。
あなたもここにいたらいいのに。

愛をこめて−Dana