Scent of a Womanより――

「南の島にさらって行って、一日中ビーチで君を抱いていたい。」

「一日中そんなことしてたらお腹空いちゃうわ。」

「お腹が空いたらバナナをあげるよ。水は現地の人に持ってきてもらうから心配いら
ない。眠くなったら砂の上で眠って、シャワーを浴びたい時は海に潜るんだ。ほら、
カモメの鳴き声が聞こえないかい？」

TITLE : Atoll

作：Terma99　訳:由美

「ほら、またやってる。」
彼が私の耳元で呟き、私はハンモックの上で寝返りを打って彼の肩先に顔を埋めた。

「やってるって、何を？」
彼の言っている意味が分かっていたが、私は一応訊ねてみた。
私たちのハンモックを支えている二本の椰子の木から砂浜までは５０フィートほどで、じっとしていると波の音がすぐ近くに聞こえた。

「また考え込んでるだろう。」

「そんなことないわ。」
私は彼の日焼けした胸に手を滑らせながら答えた。
彼の素肌はこの３日間ですっかりキャラメル色に変化していた。

「いいや、考えてた。だって、ここに皺が寄ってたぞ。」
彼はそう言って、私の眉間を指でつまんだ。

「そうね。ちょっとだけ考えてたかも・・・。もうしないわ。」

彼は満足気にため息をつき、椰子の木に足をついて身体を支え、私たちのハンモックを揺らし始めた。
目を閉じて彼の肌と汗とココナツオイルの匂いを嗅ぐと、様々な不安が一瞬にして消え去り、眉間がリラックスするのを感じた。
彼が髪の毛にキスをするのを感じるとすぐに、私は眠りに落ちていった。


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彼は荷物を全てスーツケースから出してしまい、床には彼のシャツやボクサーショーツなどがだらしなく散乱していた。
理由は分からないが、私はなぜか彼の服をきちんとたたまなくてはいけないという衝動に駆られ、それらを一枚ずつたたんでいった。

彼の衣類を一通りたたみ終え、整頓された部屋に満足すると、私はリネンのサンドレスを脱ぎ、タオルをつかんで素っ裸でシャワーに向かった。
・・・いや、これはシャワーと呼べるような代物ではない。多目的に水を貯めておく水がめのようなものだ。
この島には水道がない。
あるのは砂浜と、椰子の木と雑草と貝殻、そして海鳥。
あと、蟹もいる。
私は内心面白がっているのだが、Mulderは蟹が怖いらしい。

私はバンブーの扉を開き、高い場所に設置してある蛇口の下に立ってフットペダルを踏んで水を汲んだ。
いい頃合いで目の前に垂れ下がっているチェーンを引くと、ちょろちょろと頼りない勢いで水が垂れてきて、それで髪の毛を湿らせて何とかシャンプーを泡立てた。

ここだけがこの島で唯一四方を壁に囲まれているプライベートルームだ。
ここにはトイレさえない。
でも、砂だけはたくさんある。
そして、この島には私たち以外誰も住んでいない。
Mulderはトイレに行くときはいつも「穴を掘ってくる」という例えを使った。
私はその光景をあまり想像しないようにしているけれども。

私は何度も石鹸を泡立てては水を汲み、ココナツオイルの匂いとベタベタした感じがなくなるまで洗い流した。


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私たちが滞在しているコテージは（コテージと言えば聞こえはいいが）、実際は壁のない高床式住居のようなものだ。

波状のトタン屋根が、このカリブの海に時折訪れるスコールから私たちを守り、四方はロールアップ式のカンヴァスが壁の役割を果たしていた。
もっとも、この無人島で私たちがカンヴァスを降ろすことはほとんどなかったけれども。
私は、自分がカリブ海のどこにいるのかさえ知らなかった。
計画を立てたのはMulderなので、きっと彼は知っているのだろうが、私に教えてはくれなかった。

私たちは３週間前、６年間にわたる自己抑圧から解放され、恋人同士になった。
しかし、一旦解放されてしまったものはもう元には戻せない。
オフィスではプロフェッショナルな捜査官に戻り、以前のように自分を抑えて振る舞わなければならないというのは、私にとってはかなり負担になっていた。
そのテンションは私たちを蝕み、フラストレーションばかりがつのって、私と彼は一触即発寸前だった。
そんな時、彼から突然飛行機のチケットを渡された。
チケットの入った封筒には、“もっと仲良くなろう”という彼の走り書きがあり、持って行く物のリストが添えられていた。

ここに着いて最初の２４時間は、自分たちにまとわりついていた仕事の余韻を振り払うだけで終わってしまった。
でも今はすっかり落ち着いて、他のことに集中する余裕もできた。
例えば食べたり、眠ったり、濡れた砂の上に自分の足跡をつけて遊んだりとか、それら諸々のことを。

私がシャワーから戻ると彼はベッドの上で大の字になって眠っていた。
ここにある家具といえばこのベッドだけで、それさえも作りはいたって簡素だった。
木箱の上にコットンのシーツがかけられていて、あとは数枚のブランケットがあるだけ。
でも私たちはブランケットをかけて寝ることはなかった。
夜でも２５度を下回ることはなかったし、お互いの温もりがあればそれで十分だったから。

彼は熟睡していた。
深くてゆっくりとした呼吸の仕方で分かる。
彼がこんなによく眠っているのを見たのは初めてで、その姿は冬眠中の熊を連想させた。
一年のうち、１０ヶ月は餌を求めて走り回っているけど、２ヶ月間は貪るように眠る熊。
こんなに気持ちよさそうに眠っているのを起こすのは可哀想なので、私は彼をそのまま寝かせておいた。

ふと空を見上げると、本島の方から黒い雲が流れてくるのが見えた。
この辺り一帯は環礁になっていて、本島をはじめ、私たちが滞在している島や、他の小さな島々の周りは全て珊瑚礁に囲まれていた。
迫ってくる雨雲を眺めながら、稲妻が光ればいいのにと思った。
透き通った海面に反射する稲妻はきっと怖いくらい美しいだろう。

私はコテージの柱にもたれて膝を抱えて座り、スコールが通り過ぎるのをじっと眺めていた。



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「Ｓcully・・・」

彼は絶頂の中で私の名前を呼び、身体を震わせながら私の中で果てた。
やがて彼が出て行き、隣にぐったりと崩れ落ちるまで、私は彼の背中をさすり、柔らかい髪の毛にキスを落とし続けた。

彼は私の胸に顔を埋め、頭を撫でられながら眠りに落ちるのが好きだった。

私たちは今、砂浜に敷いたブランケットの上で抱き合っている。
昨日も一昨日も私たちはここで眠った。
生まれたままの姿で。

私たちは毎日夕方になると愛し合い、暗くなって星が輝き始めるのと同時にぴったりと身体を寄せ合いながら眠りにつき、朝はギラギラと眩しいくらいの朝日の中で目覚めた。

「Ｓcully？」

彼はもう眠りに落ちる寸前の声をしていた。

「なあに？」

「蟹を見張っていてくれ。」


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私たちは一日に２回、ボートで本島に出掛けた。
ボートの操縦の仕方は私のほうがよく知っていたが、私はいつもＭulderに操縦を頼んでいた。
なぜなら、彼の背中の筋肉の動きを後ろから見るのが私のお気に入りだったから。

Ｍulderはようやく船の揺れに慣れてきたようだったが、ここに到着した日はひどいものだった。
メーンランド港からここまでの８時間の船旅で、彼はすっかり顔面蒼白になっていたのだ。
しかし、この付近は珊瑚礁による浅瀬で波もゆるやかなので、どうやら船酔いは避けられているようだった。

本島には珊瑚礁を保護し、周辺の島々を管理している人々のための住居が数棟立ち並んでいて、その先にはオープンテラスのダイニングバーがあった。

私たちは椰子の葉陰のテーブルに座り、ココナツの殻でできた器からフローズンマルガリータをすすりながらＭensahが料理をするのを眺めた。
Ｍensahはこの島に生まれ育ったアフリカン−カリビアンで、毎朝メーンランド港から届く新鮮な食材と、この島で保存用に干してある乾物を利用して最高のスパイシーフードを作る達人だった。
Ｍulderと私はパインカレーばかりではなく、覚え切れないほどの様々なディッシュを楽しんだ。
それらの材料は大豆、エンドウ豆、魚、ライス、色とりどりのフルーツ、そして、見たことのない野菜などで、どのディッシュも鮮やかに印象に残っていた。
そしていつも最後には冷たくて甘いデザートが私たちを待っていた。

毎日ここで私たちは飲料水を分けてもらい、バナナやグラノーラやドライフードを仕入れ、私たちの２週間だけのプライベートパラダイスに持ち帰った。

今夜のディナーはロンドンから来たというカップルと相席だった。
彼らは私たちの島からもう少し南西に進んだ所にある無人島に滞在していた。
Mulderとイギリス人のカップルはアメフトの話で盛り上がっていたが、私はあまり興味がなく、パパイヤスープを持ってその場を離れ、砂浜に向かった。

夕日を眺めていると、Mulderたちの笑い声が聞こえてきた。
あの笑い声から察するに、初対面にもかかわらずMulderは彼らとの会話を心から楽しんでいるのだろう。

海からはボウリングの玉ほどの巨大な蟹が上がってきて、落ちていた椰子の実を大きな爪で叩いていた。
おそらくこの蟹は一時間もしないうちにこの椰子の実を割ってしまうのだろう。


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Mulderは毎日新しい遊びを思い付いてはそれに熱中し、私はその間木陰に座って本を読んでいた。
今日のMulderのアクティビティーは貝拾いだった。

読んでいる小説から顔を上げると、彼は膝まで水に浸かって足先で貝を掘り起こしていた。
この周辺はずっと浅瀬が続いていて、泳げる深さになるには数百フィートも沖に行かなければならないほどなので、彼の行動範囲はかなり広かった。

Mulderはサングラスをかけ、膝丈でカットしたジーンズとビーチサンダルを履いていた。
ここ数日、彼は上半身裸で過ごしている。
ディナーの時はシャツを着るように注意しているのだが、二日ほど前からは彼は面倒がってボタンさえ留めようとしない。

彼はつま先で砂を掘り返し、一斉に舞い上がった砂が沈むのを待ってから、水の中に手を突っ込んで貝を拾い上げていた。
彼はそうやって拾い上げた貝を品定めし、気に入らないのは水の中に戻して、別の場所でまた同じことを繰り返した。

掘って、しばらく待って、貝を拾い上げて、品定め――。
彼はようやく気に入ったのが見つかったらしく、私の方を向いてそれを誇らしげに高く掲げてみせた。
私が頷くと彼は岸に上がってきて、まだ水が滴っているその貝を差し出した。
私は読んでいた本が濡れないようにタオルの下に隠し、微笑んで貝を受け取った。

「紫色なんだ。」
彼はそれが何か大変なことであるかのように言った。

「素敵ね。」
私は彼にそう答えて、他の貝と一緒に砂の上に並べた。
私が座っている椅子の周りにはすでに２０個以上もの貝が並んでいて、半月状に私を取り囲んでいた。

彼は嬉しそうに頷き、再び海に戻っていった。

彼は私の周りを全て貝で埋め尽くしてしまおうと考えているのだろうか。


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Mulderは私をその気にさせることにかけては天才的な才能がある。
私たちは椰子の木の下に座り、彼が拾ってきた貝に囲まれながら他愛のないお喋りをしていた。
しかし、彼は突然黙り込み、私をじっと見つめた。

そのヘーゼルの誠実な瞳を何年も見てきたが、その奥に燃え盛っている欲望の炎に私は今まで気付いていなかったのだ。
彼は私を見つめるだけでいい。
それだけで私は魂さえ売ってしまうだろう。

その日、私たちはブランケットまで辿り着くのももどかしく、砂浜の真ん中で抱き合った。


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今日の遊び――フィッシング。

Mulderは昨夜、私たちのコテージの裏にある物置小屋から網を持ち出してきた。
今朝になって、彼は私が起きるまでずっと隣で脚をばたつかせ、“外に行って遊んできていい”と私が許可を出すのを待っていた。

私が彼の脚をピシャリと叩き、海で遊んでくるように言うと、彼は笑って私の耳にキスをした。
「僕の恋人のために朝食を獲ってくるよ。」
そう言うと、網を片手に跳ね起きた。

彼はきっと網を抱いて寝ていたに違いない。
嬉しそうに鼻歌をうたいながらベッドから出て、バンブーの梯子を下りて海へ駆けていった。

４０分後、彼は戻ってきてドライフードが入った棚の中をあさり始めた。
私はすっかり眠るのをあきらめ、あくびをして起き上がった。

「干した豆を持ってきていたよな？」
彼は誰にともなく呟き、棚の中からプラスチックの入れ物を出した。
「餌にするんだ。」
そう言うと、再び海に駆けていった。

私はシャワーを浴び、グラノーラとココナツミルクとバナナを食べて、彼の姿を探して海を見渡した。

彼はかなり沖の方で網を持って格闘していた。
その付近は数日前にサバに似た魚の群れを見た場所だったが、今はまだ陽も高いので魚たちはもっと深い場所にいるはずだった。
しかし、彼はそこから動こうとはせず、水の中に跪いて魚が現れるのを辛抱強く待ち続けていた。

やがて彼は網とともに海の中にダイブをしたが、すぐに水面に浮き上がってきて、うんざりしたように口から海水と砂を吐き出した。

私は椰子の木陰からその様子を見ていて、思わず笑わずにはいられなかった。


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２時間後、Mulderはようやくホクホクとした顔で戻ってきた。
彼は日焼けした顔でニッコリと微笑み、得意気に私に網を差し出した。
網を覗くと、中には５インチほどの小さな魚が一匹だけ入っていた。

「あなたは私のヒーローだわ。」
私は彼から網を受け取り、プラスチックの容器の中に魚を入れた。

彼は大いに満足したように微笑み、私を引き寄せて砂だらけで塩辛いキスをしてきた。

「いらっしゃい野生児さん。」
私はそう言って彼の手を引いてコテージに向かった。
「私のハンターはシャンプーが必要みたいね。」

私はラウンジチェアーに彼を寝かせ、バケツ一杯に汲んだ水を手ですくって彼の髪の毛に注ぎ、丁寧に砂粒を洗い流していった。
私がハーブのシャンプーを泡立てながら彼の頭皮をマッサージすると、彼は目を閉じてしまりのない顔で微笑み、気持ちよさそうにため息をついた。
私は必要以上に時間をかけてシャンプーをし、仕上げにバケツの中の残りの水を全て彼の頭に注いで泡を洗い流した。

「もうランチだから着替えてきたらいいわ。Mensahに魚をさばいてもらいましょう。」

「着替えを手伝ってくれるかい？」
Mulderは立ち上がって犬のように全身を震わせて水滴を振り払い、私の頭を抱え込んでコテージへ向かった。


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彼の髪はまだ濡れていて、切なげに首を左右に振るたびに枕を湿らせていた。
彼は裸のままベッドに四肢を投げ出して横たわり、低い呻き声を上げながら私の口の中で果てた。

私は彼のエッセンスを飲み干し、呼吸が落ち着いてうっすらと瞼を開けた彼に微笑みかけた。

「オフィスで僕が君にコーヒーを持っていっても、ここまでする必要はないからね。」

「じゃあ次回はメープルスコーンを持ってきてみて。」
私はそう言って彼にシャツを放り投げた。
「私に剥かれたくなかったらちゃんとボタンを留めるのよ。」

「午後は何も着ないで過ごそうかな。」
彼はいたずらっぽく言いながらシャツを羽織った。


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何も着ないで過ごそうという彼の言葉は冗談ではなかった。
彼は帽子を編むと言って、膝までカットしたジーンズを裂いて巨大な穴を開けてしまい、私がこの旅行のために買ってあげたカーキのパンツも履くことを拒否した。
彼が今身に付けているのは、自分で編んだ（ひどく下手な）帽子だけだった。

Mulderがサンダルと帽子だけという格好でビーチを歩いてる光景は、是非ポストカードにおさめておきたいものだった。
しかし、文明の利器は持っていかないと決めていたので、カメラやビデオなどは遥か8,000マイル離れたワシントンに置いてきてしまっていた。
だからこの光景は私の記憶の中にしか残らない。

私は彼にお尻を焼き過ぎて焦がさないように注意をした。
なぜなら私はセックスの最中に彼のお尻に爪を立てるのが好きだったから。
当然ながら、もちろん前の器官だって焦げてもらっては困る。
前には毛むくじゃらの保護層があるけれども、それでも全体を覆っているわけではない。
私がその部分に日焼け止めを塗っても、彼はあえて抗議をしなかった。

夕焼けの中で乾いた椰子の葉や枯れ草を集めて焚き木をつくろうとしている彼の姿は、まるで何かのCMのモデルのようだった。
私たちはランチを食べに本島に行った時に持ち帰ったマシュマロを焼こうとしていた。
Mulderの今日のランチは、午前中に捕まえた魚で調理してもらったカレーだった。
私はどんなに食べてごらんと言われても、丁重にお断りして食べなかったのだが。

私はブランケットの上にあぐらをかいて、マシュマロに刺す串にするために、針金でできたハンガーを解いていた。
Mulderは数回点火に失敗した後、せっかく編んだ帽子を犠牲にしてようやく焚き木に火を点ける事に成功した。

彼は素っ裸で立ち上がり、腰に手を当てながらしばらく風に吹かれていた。
やがて炎が勢いよく燃え上がってきたのを見ると、私に向かって頷いた。
「日が暮れたから、何か着ようかな。」

「その方がいいわよ。」
私はそう言って串にマシュマロを刺していった。


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夜も更けて、風が東から吹き付けていた。
私は起き上がって東側のカンヴァスだけを下ろした。
全てのカンヴァスを下ろすには、ここは暑過ぎたから。

Mulderがバンブーの梯子を上ってくる音が聞こえた。
彼が「穴を掘りに」行ったのは、今夜はこれで３度目だった。

彼が青白い顔で歩み寄ってきたのを見て、私はベッドに横になりながら苦笑した。
彼は微笑み返そうとしたがすぐに顔を歪め、ベッドによじ登ってきて、私の太股を抱えて呻いた。

「大丈夫？」

「何とか生きてるよ。」

「水を飲んだ方がいいわ。」
私はそう言って、水の入ったボトルに手を伸ばした。

「飲んでる。」
彼は目を瞑り、私の太股に向かって弱々しく答えた。
「今夜はずっと水を飲んで過ごすんだ。」

起き上がって彼の額に触れてみると、うっすらと汗をかいていた。
「何か薬を飲んだ方がいいわね。確か・・・」

「いや、いいんだ。ただの食あたりだから。」

彼はそう言うが、私たちはここに着いてから全く同じものを食べているのだ。
もっとも、今日のランチで彼が食べた“獲物”を除いてはだが。
私は太股にまわされた彼の腕をほどき、枕元まで彼の身体を引き上げてブランケットをかけ、優しくお腹の周りをさすった。

「もうフィッシングはダメよ。」

私が言うと、彼は即座に同意した。

「もうフィッシングはしない。」


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END（１／２）


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