Disclaimer: These characters belong to Chris Carter and 1013 Productions

自尊心があって健康なすべてのアメリカの独身男性同様、僕は小さなブラックリストを持っている。
だが、僕のはその用語の広く認識されている定義での『小さなブラックリスト』ではない。

“僕の”小さなブラックリストは時間の経過をマークするために使われている。
僕の手により、日付の列が整然と丁寧なブロック体で書かれているもので、２８日ごとに一度という程度の記入を必要とする。

――― もしかしたらそれを意地が悪いという人もいるかもしれない。
しかし、僕はそれをひとつの「自衛本能での行使」と呼んでいる。
銃とメスを持っており、どちらの使い方も知っている女性と毎日過ごしていると、早期警報システムを適切に作動させることは必ず必要となることだ。

７年前にスカリーと僕がパートナーになった時、フルタイムの仕事で成人の女性の側にいるということがどういうことか、僕は忘れてしまっていた。
僕の母親がかつて言い習わした『その月のあの時間』がどのように、僕たちの働いていく関係に影響するかもしれないのか、全く考えたことがなかった。

僕たちがパートナー関係になってからの最初の何ヶ月かは、僕は大変幸福なことに気が付かなかった。
望まぬパートナーを抱えさせられて、僕の理論を防御するだけでなく、彼女の科学的な精神を満足させうる証明を見つけることを強いられたことに、僕はまだふてくされていたからだと思う。

それからしばらくすると、普段はモルダーたち(Mulders)ではなくて、殺人犯たち(murderers)やミュータントたち(mutants)に取っておかれているダナ・スカリーの激怒で、僕はものすごい攻撃を受けた。
僕がその攻撃を受けつつも、それに相当するような‘しでかしてしまった何か’を割り出そうとしている間、彼女は１時間の間に３度目のトイレに突進して出て行って、それで僕はどうにか思いつくことができた。

「簡単だよ、ワトソン君。ドクター・スカリーとミス・ハイドの不思議な事件の犯人は、ＰＭＳ(月経前症候群)に他ならない。」

(もちろん、それには僕にもそれだけの大きな理由があったことは否めないが・・。)

僕の理論は妥当だと思ったが、不可解なスカリー捜査官は僕に確固たる証拠を集積する重要性をこれまで教えてきていたので、僕は机の引き出しに小さな手帳を見つけると最初の記入を行った。

そして２８日後、それは見事なまでに再演された。

短気・疲労・トイレへの頻繁な往復。および、彼女の引き出しに保管されているバッグから２個のチョコブラウニーとＭ＆Ｍを消費した後にもかかわらずタイトスカートに関しての愚痴。

かくして僕の小さなブラックリストは誕生した。
多少のズレはあったが、僕が今までやってきた中で一番続いた最も正確な記録だ。
それは、僕の背後を保護するために僕の足元や口に気を付ける必要のある時期を思い出させてくれる、生命維持に欠かせない手立てとなった。

しかし、僕は一度危険を冒したことがあった。
慎重さを捨て去り、『進歩的な男性』を装って敵と正面対決したのだ。

「スカリー。電気がこの世に誕生する以前の時代、すべての女性の身体は月の光のレベルに影響されていたので月経周期が同時だったという理論があるのを知っているかい？しかし、現代は人口の光がどこにでもあることにより、女性の周期が各自違うらしいってことはきっと――― 」

「モルダー。今、あなたが持ち出そうとしているそういった魅力的なちょっとした逸話が、私をものすごくいらだたせると感じているって『あなた』知っているかしら?」

僕は二度と試さなかった。

ある時、事件で家から出かける前、僕の小さなブラックリストを調べるのをうっかり忘れてしまった。
そういうわけで、僕は備えがまったく出来ておらずスカリーにこっぴどくしかられて、出っ歯の保安官の至る所で彼女がものすごく喜ぶのを見てその週を過ごす羽目になった。
勿論、(出っ歯のところを含めて)スカリーは違う風に覚えているのだが・・・。
テキサスでの行動はＰＭＳ(月経前症候群)の直接の結果であったことを僕が示唆した時、彼女は意外にもそれを認めた。

ＰＭＳが、「モルダーのたわごとに我慢する」ことを表していたのよ、と彼女は言った。

それから、僕の小さなブラックリストはアメリカン・エキスプレス・カードと同様になった。
僕がそれなしで家を出かけることは決してない。

幸運にも、スカリーは僕の小さなブラックリストを独身の男たちが「通常」使う用途の小さなブラックリストだとすっかり思っていたので、最近まで僕は書き留める時にそれを隠したりしたことはなかった。

「また女性の戦利品かしら、モルダー？」
僕がカレンダーをチェックして記入した時に彼女が言った。

「んー、星３つと半分。」僕は返答した。
「ハイストッキングの代わりにパンストを着用した事により星半分の喪失。」

彼女は頭を振って「モルダー、あなた病気よ。」と呟き、それから仕事に戻った。

だがそれからすぐ彼女はハイストッキングを履くようになった。
僕が気付いたのを彼女は確認した。

今ではスカリーと僕は肉体的な関係になっていた。
五回目か六回目の外泊の時、僕がダナ・スカリーと眠りの神の腕の間を彷徨っていると、寝室のために取っておくその官能的でセクシーな彼女の声が僕にささやいた。

「それで、あなたの小さなブラックリストは今では引退させられたの?」
「引退じゃないよ。」僕は夢うつつに返答した。「焼いたんだ。」

勿論、嘘だ。僕たちの新しい関係になって、僕のノートは今それまでより(特にＰＭＳにはセックスの衝動の増加や極度のオルガズムのような肯定的側面もあることを分かってからは)更に重要だ。

だが‘慎重’でなければならない。

もしスカリーが僕がこの何年間での僕の小さなブラックリストの実際の使用法を見つけたら、彼女はそれをずたずたに裂き、それから、僕を切り裂いて僕を更正させるだろう。




僕の乗った機体がレーガン国際空港に着陸する準備をするとワシントンの灯りが下できらめいていた。
腰に回したシートベルトを引っ張った時に肩に刺すような痛みを感じ顔をしかめる。― 僕はバーモントでの事件で疲れていたし、化け物に変身した嫉妬した郊外の主婦に、ぬいぐるみのように転げまわされ、そのせいで全身がズキズキと痛んだ。
僕のたった一つの望みは、早々に家に辿り着き、スカリーを僕の腕で包んで、彼女の柔らかなあの肌で僕の痛めつけられた身体を癒してもらうことだけだった。

その時だった。
僕がバーモントへ発つ前にみすぼらしいサウスイーストの建物で僕たちがした最後の議論や、最後の何日間か彼女の不機嫌な、愚痴っぽい電話があったのを思い出したのは。
僕は上着のポケットからノートを取り出して日付をチェックした。
うん。確実に、僕は間もなく特種な女性の獣と直面することになるだろう。

僕は空港からの帰り道、途中にあるギフトショップの前を通りかかると『７５％オフ』と書いてある手書きの看板の後ろにあるお宝が何なのか見ようと立ち止まるのを我慢できなかった。
それはこれから待ち受けている避けては通れないものを遅らせる方策の一つのつもりだった。

しかし僕はその特価品売り場に‘完璧な和平の贈り物’を見つけたのだ。

そこからは地下鉄に短時間で飛び乗り、僕は彼女のドアを軽く叩いて、それから僕の鍵を使った。
僕の理論が正確かを確かめるのに今以上の機会はない。
だから僕は頭が突き出るくらいだけドアを開けた。
出来る限りの甘い声を出して「ハニー、帰ったよ！」と僕は大声で呼んだ。

「もう一度私を『ハニー』って呼んだら、モルダー。あなた、病院のベッドの上で導尿カテーテルを使用することになるわよ。」

僕は以前、約９８．９パーセントの割合で正しいと一度スカリーに言ったことがあった。
９９に変更だ。

僕が錠から鍵をはずし、ドアのそばにスーツケースを置くと、彼女がすでにサテンのパジャマを着て寝室から出てくるのが見えた。
彼女が目の前に止まって僕のぴかぴかの靴の上に素足を乗せると、僕は微笑んだ。
その高さが加わっても、僕の首に腕で抱きしめるのに彼女はまだ爪先で立たなければならない。

「どうして遅くなったの？」彼女は尋ねると、僕の唇を彼女の唇に引き寄せ、彼女の歯が僕の下唇を掠めながら彼女の舌は精力的に探求した。
僕はＰＭＳのセックスの衝動の増加について言及していたかな？

空気を求めて彼女が僕を離した時、僕は質問に答えた。
「きみにプレゼントを買うのに寄り道したんだよ。」

僕が背中から贈り物を出すと彼女の目が輝いた。
数秒のうちに、僕がイースター・キャンディーの特価品売り場から選び出した箱が開封され、中に入っていたチョコレートのウサギは精巧に耳がたれていた。

「モルダー。」彼女はそのチェリー・レッドの唇の間でそれぞれの指先を魅惑的に舐めながら言った。
「私、一日中チョコレートがとっても欲しかったの。どうして知っているの？」

僕は彼女を腕で包んで近くに引き寄せ、彼女が先にしてくれた歓迎に匹敵する喜びでお返しする準備をした時、僕の上着のポケットの中の小さなブラックリストが僕の胸に押し付けられた。
突然の罪の意識の波が僕に押し寄せた。
真実を語るべきだろうか?
どんな風に彼女をずっと欺いてきたのか告げるべきか?
ひざまずいて理解と赦しを乞うべきか?

僕は彼女の瞳の奥深くを見つめ決断し、即答した。

「今知ったよ。」


THE END