Love for all Seasons 
-4-
 Winter into Spring

作：Kate Rickman
訳：tomo

Scully's Apartment 
Friday, March 19, 1999 
7:46 PM 

左腕にグロッサリーの買い物袋を抱えたままスカリーの部屋のドアを開けようとして、チャラチャラ音を立てながら、キーホルダーの中から鍵を何とかして取り出そうとした。
だがうまく鍵穴に入らずにしばらくもたつき、重い袋を高く持ち直して再チャレンジした時・・・。

「モルダー捜査官。」

聞き覚えのある声にあやうく飛び上がりそうになった。
そのはずみでキーがガチャッと鍵穴に入り、その代わりにグロッサリーの袋が猫のように腕から床めがけて落ちようとした。
僕は必死で腕をもがかせてキャッチしようとしたが一瞬遅く、指先ですべってはじき飛んだ紙袋は空中に投げ出された。

くそ！

スキナーはまるでラグビーのパスを受け取るように簡単に紙袋を受け取り、冷静に胸の所に持ち上げた。

「モルダー捜査官？」

タートルネックにジーンズ姿、それに有罪の証拠品であろう合い鍵を持って冷や汗をかいている僕を、奴は徹底的に疑る目つきで話しかけてきた。

「邪魔したかね？」

「い、いえ、サー。」

頭の中がグルグル回転しながらも何とか言葉をひねり出した。
何か奴に見つかるとまずい物があっただろうか？
奴に見られてバレるものはあったか？

車。そうだ僕の車は？
いや、今日は地下鉄で来たから、車は自分の所に停めてある。

週末用の服の詰まったダッフルバッグは見られたか？
大丈夫、今日はスカリーの部屋に置いといた物を使うつもりだったから持ってきてない。

この合い鍵はどう見られる？
奴の疑惑の視線が背中に突き刺さっている・・・。
状況。今の状況を冷静に整理するんだ。
・・・僕はただ買い物袋を持って、パートナーの部屋の前に立っているだけだ・・・。

「今夜はスカリーと一緒に夕食を食べながら、事件の話をしようと思ったんですよ。」
僕はその後に予定している楽しい事を大幅に削った事実を話した。

背後できしむ音がして、白いドアがゆっくり開かれた。

「モルダー。・・・Sir・・・？」

スカリー・・・。
もちろん今の廊下のやりとりは全て聞こえていただろう。

「スカリー捜査官。」

彼女は眉を上げてドアの所に立ちすくんだ。
僕は床に落ちた鍵を素早く拾い上げ、中に入りながらポケットにすべり込ませて壁際に立った。
部屋の中はほのかに甘い香りを漂わせて燃えるキャンドルが美しい光を放って輝いている。
もっともどんなにキャンドルがロマンティックな光を放っていても、僕たちの関係の証拠にはならないだろうが・・・。
ダイニングテーブルの端には数件のケースファイルが並んでいる。
キッチンからは炒めたガーリックのいい匂いがしてきて、条件反射で腹の虫が騒ぎ出した。

スキナーは落ち着かなげに廊下で身体を揺らしていた。
こんな状況でなければ、こうして動揺している彼を見られためったにないチャンスかも知れなかったが。

「あ・・・その、君たちにトマス・ローウェル捜査官についてオフレコで聞きたいことがあって来たんだが・・・。」

特別捜査官トマス・ローウェルは最近の数件の事件で一緒に捜査をした新米捜査官だ。
彼には容疑者の生い立ち等のバックグラウンドを調べてもらい、僕らが現場で調査している間、DCでのホームベースとして役に立ってもらった。
僕は彼のことは上から送られたスパイだと疑っているが、スカリーは優秀な新人だと評価していた。
僕たちと仕事をしたいと思った動機はともかく、一応彼は仕事の役に立つ人間だということで僕らの意見は一致していた。

「Sir、あなたもどうぞ。」
スカリーはドアを広く開けて後ろに下がった。
スキナーはもじもじとして僕らを見て、ためらっていた。

「ではお邪魔でないなら。」
彼はドアをくぐり、買い物袋を彼女に渡した。

タッチ・ダウン。

僕が初めて来た客のように壁際に立ちつくしていると、スカリーも緊張した表情で、袋を僕に渡してキッチンに運ぶように言った。
言われるままにキッチンへ向かい、中身を冷蔵庫に詰めながら振り返って彼女を見ると、スキナーのコートを受け取って中へ入るように促していた。
全部入れ終わり、いつも彼女がそうしているように袋を折り畳んでいると、スキナーがジャケットを脱いでタイもはずし、シャツの袖をまくりながら彼女に声をかけた。


「私も何か手伝おうか？」
彼は僕にではなくスカリーに声をかけた。
そうだ。僕もただのゲストの一人のはずなんだった。

ディナーが始まり、僕たちはローウェル捜査官に対して行動を監視するために来ているのではないかという、疑いも含めた率直な評価をスキナーに話した。
そしてその話は当然事件そのものにも及び、調査状況になると話に熱がこもっていった。

ディナーの半ばになって、やっと僕は置かれている状況に慣れてきた。
今は夜のいつもの僕たちではなく、昼の捜査官の顔で事件の問題点を話し合う。
この分ならうまく切り抜けられるだろう。
ディナーの後、僕たちはリビングへ移動してケースファイルを見ながらワインを飲みながら、また話をした。
だがメガネを落としてかがみこむと、コーヒーテーブルの下に僕のサイズ13のシューズが置きっぱなしになっているのが見えてぎくっとした。
くそっ！
スキナーが彼女に話しかける声が聞こえる。

「・・・それで君はこの件について・・・」
用心深く身体をずらし、ワインのボトルを床に置いて影を作り、ヤツからシューズが見えないようにした。

「“ワンシャン・ドゥール”です。」
スカリーが僕の行動に気付かずに話を続けた。

僕は片手でケースファイルを床に立てかけ、証拠品をさらにカバーした。

「何だね、そのワンシャ・・・ワシャ・・？」
スキナーは聞き慣れない言葉を発音しようとして口をもごもごさせた。
「その人物は変身した後、また元に戻るというのかね？」

「モルダーはそう考えています。」
彼女はそう言って僕の見解を、ユーモアを含ませながら話した。

僕はそっとファイルを動かしながら、一インチずつシューズをカウチと床の隙間に押し込もうとしていた。
二人とも僕の不自然な沈黙にまだ気が付いていない。
僕はさりげない表情を保ったまま、つま先に渾身の力を込めて最後のかかとの部分を押し込んだ。

とにかく助かった。

僕はゆっくり息を吐き出し、パニックを起こしかけていた自分を鎮め、ポーカーフェイスを保ったままファイルをテーブルの上で整えながら話に戻った。

「まあ、つまりそれは人をだまそうとして化ける中国の神話の犬なんです。」

「神話はこの事件の鍵なんでしょう？モルダー。」
スカリーは神話という言葉を強調した。

「神話と歴史上の事実には大きな違いもあるけどね。」

「全く関係ないようにも見えるがね？」
スキナーが割り込み、現実の理論として謎の犬の仮説を現実の世界に導こうとした。

やがて僕たちは別の事件に話が移り、今度は悪魔の仕業の可能性について議論した。

そしてさらに話は飛び、エリア51問題のことさえ話し出した。
いつもと違って皮肉無しで、楽しく笑いながら。
想像から事実の部分を切り分け、あらゆる角度で検証する。
今夜のスキナーはずいぶん機嫌がいいようだ。
彼の検証を聞いていると、局は彼を現場から離したことで莫大な損をしたのではないかと思えるほどだった。

電話が鳴り、スカリーが席を離れた。
スキナーと事件の現場写真を広げながら、背後に聞こえる彼女の話し声を聞いていた。

「あら、ママ。」

目の端に彼女が微笑む姿が見え、そのまま聞いていると彼女が受話器を持って近づいてきた。

「モルダー、あなたと話したいそうよ。」

ミセス・スカリーが？
どうやら明日彼女の入っているガーデンクラブが何かの賞を受ける事になったそうだ。
そしてそこでセレモニーとちょっとした昼食会も開かれる、と。
僕はスカリーをチラッと見た。
彼女は出席するか否かは僕に任せると言うように、少し首を傾けて僕を見つめていた。
誰が断ることができる？

「もちろん喜んで。9時ですね？」

スキナーが目だけ上げて僕たちの様子をチラッと見て、またファイルに目を戻した。

パートナーの母親に対して不自然に親しそうに思われたか？
「・・・この容疑者には共犯者がいるはずだな？スカリー君。」

「でも犯人が言っている共犯者は2年前に死んでいるんです。」

「君はこの自供をそのまま受け取る気なのかね？」
彼は僕が立ち上がって受話器を戻そうと立ち上がったことに全く気付かないかのように、表情を変えずにスカリーに話し続けた。

「いいえ。」
僕が彼女の代わりに答えた。
「必ず別の人物が関わっているはずです。」

「もしくは霊かもしれません。・・・死んだ者の霊が殺人を手伝ったのかも。」
信じられないことに、スカリーがこう付け加え、僕とスキナーは驚いて彼女を見つめた。

「スカリー。」
ゾクゾクするほどの嬉しさが背筋を走り抜けた。
彼女が超自然現象の存在に歩み寄ったときはいつもこの快感に襲われる。

「つまり、外傷を残さずに人間の身体から心臓を抜き取ることは、そうでも考えなければ説明が付けられませんでしょう？」
彼女は無邪気に笑った。

「なるほど。」
スキナーはワインを飲み干した。
「それで“本当は”どう考えているんだね？」

急にトイレに行きたくなって立ち上がりかけ、ふと思い出した。
もちろんバスルームがどこにあるのかは分かっているが・・・そうだ！忘れていた！


「私の推測では・・・」

僕は議論の輪から失礼して廊下へ行き、急いでバスルームのドアを開けた。
そこには僕たちの関係の証拠品の山が、まるでスキナーに見つかるのを今か今かと待ちわびているように照明の光を反射させて光っていた。
一人暮らしの女性の部屋にふさわしくない男物の数々・・・ひげ剃り、僕のイニシャル入りの古いタオル、アフターシェーブローション等々・・・。
僕は一気にそれらをまとめて腕に抱え、そっと寝室のドアを開けて入り、静かに部屋の隅に置いて隠した。
そしてまたバスルームへ戻って座り込み、排水口の所にくっついている髪の毛をていねいに集めてゴミ箱に捨てた。
彼女の赤い髪以外のブラウンの短い髪。
一緒にバスタイムを過ごしていることがバレてしまう。
僕はバスルームを見渡して、残っている物がないかもう一度確認し、ため息をついて再び議論の場に戻っていった。

また数時間の間、僕たちはゾンビの存在の可能性と科学的な説明について白熱した議論を繰り広げたが、目の疲れと、ワインやスナック類の残りも少なくなり、もう夜中になっていることに気付いた。

スキナーも気が付き、腕時計を見た。
「これは長居したな。」

午前2時。
いつそんなに時間がたったんだろう。
僕たちは立ち上がって伸びをした。
スキナーは彼女に礼を言ってジャケットを着、コートをはおりながら僕を見た。
「一緒に帰るか？モルダー。」

「いえ、Sir。自分の車で帰ります。」

スキナーは額にしわを寄せていぶかしげな表情をした。
「変だな。ここに来る前に君の所に行ったが、車は駐車場に停めてあったぞ。」

くそっ！知ってて言ったのか。

「いっ、いえ、きっとそれは間違いです。僕の車のはずはありません。同じ車種を乗っている住人と間違われたんでしょう。」
僕はとっさに取り繕いながら、癖でつい横にいるスカリーの腰に腕を回してしまいそうになるのを必死で抑えていた。
安全のため、手はジーンズのポケットに突っ込んでおこう。

「・・・そうかもしれんな。」
スキナーはうなずいてドアから出ようとして立ち止まり、ゆっくり僕たちの方に振り返った。

「・・・私は誰にも言わないし、何も聞かない。」
彼は秘密めいた言葉を残して自分でドアを閉めた。

「ああ・・・！」
一瞬たった後、スカリーが僕の胸に顔をうずめてうめいた。

「スカリー。」
僕はポケットに封じていた手を勢いよく出して、彼女を強く抱きしめた。

「何・・・？」

「疲れすぎたよ、ベッドへ行こう。」

「ええ・・・。」

僕たちはどっと疲れを感じながら足をもつれさせながら歩き、バスルームへたどり着いた。
ドアを開けて一番最初に目に飛び込んできたのは、ハブラシが2本、もちろん僕のが
彼女のハブラシの隣に行儀良く置かれている洗面台だった。

何てこった！
今夜スキナーのヤツは2回はここに入ったはずだ。

「どう・・・したの？」
スカリーがあくびしながら尋ねた。

僕は証拠品となる物をベッドルームに隠し、用心深く排水口まで掃除したことを打ち明けた。

「本当に？」
彼女は眠たげに笑い、ハブラシを取って歯を磨き始めた。

「本当だよ、ほら。」
僕はベッドルームのドアを開け、彼女に品々を見せた。
彼女はおかしそうに笑いながら口をすすごうとして洗面台にかがみ込み、僕にお尻を向けた。もうこれまでの忍耐力が完全に切れ、強引に抱き寄せた。

「ちょっと！」

あごから水の滴が飛んでセーターの上で弾け飛び、抵抗するほどコップの水が身体にかかって服を濡らす。
水に濡れる彼女はセクシーだ。
僕が今夜やっと手に入れた彼女の感触を楽しむ前に彼女は水をかけて応戦してきた。

ますます気に入った。
僕はニヤッと笑い、両手で目をこすって水気を取りながら、もっと彼女を濡らすためにバスタブの蛇口から仕返しした。
服は水で盛大に濡れ、バスルームはタイルから壁まで水がしたたって、歯を磨き終わるまで僕たちは笑い続けた。
薄明かりのさす寝室まで僕たちは光る水の足跡をつけながらペタペタ歩き、着ている物を脱ぎ始めた。
スカリーはセーターを脱いで椅子にかけ、ジーンズとパンティを脱ごうとして象牙色の肌を曲げた。
彼女の腰のカーブの動き。腕にパジャマを通そうとしてはらりと外れ、象牙色の肌が光る。
シルクのパジャマをはいて腰まで引き上げる眺めに僕の心臓の鼓動は一気に早まった。

やっと二人だけの週末が始まる。

僕は一刻も早く腕の中に彼女を抱きたくて、びしょびしょの服の中でほとんど爆発そうになっていた。
僕は来ている物を全部脱ぎ、ベッドに横になって彼女が来るのをのどをならしながら待った。
スカリーはうっすらと寝室を照らしていた照明のスイッチを切ってベッドに上がり、まるで僕の身体があたたかいブランケットであるかのように頬ずりして、幸せそうに微笑んだ。

全く今夜はとんでもない邪魔が入った・・・。

僕はようやく彼女を独占して、手をそっとパジャマの下へすべりこませてなめらかな肌の感触を楽しんだ。
スカリーは甘いため息をついて、身体の力を抜いて僕に身体を預けている。
今スキナーが飛び込んできてこの光景を見ても、はたして彼は何も言わずにいられるだろうか？
僕はクスッと笑って彼女の香りを楽しみながら、まだ濡れている髪をなでていると、ゆっくりと僕たちの呼吸が重なっていった。
彼女の呼吸を子守歌にして眠りに落ちていくことが、いつの間にか僕の習慣になっている。

もう誰にも邪魔させない。

腕の中で眠っているスカリーの微笑みとあたたかさを感じながら、僕も深い眠りに落ちていった。


***

END