作：Girlie_girl17
訳：tomo

D.C.のダウンタウンの真ん中に、“Andy's Barbershop”はある。
そこでは一番歳よりの店主のアンディと、3人のスタイリスト達が今日も忙しく働いていた。

その中の一人、タミーはこの店で唯一の女性スタイリストで、歳は40を少し越え、チョコレート色の肌をして、背はそれほど大きくはないが恰幅良く太り、いつも大きな口を開けて元気良く笑っていた。
ここにくる客達はみんな彼女の楽しいおしゃべりが大好きで、アンディの店の看板的存在だった。

タミーがいつものように客の髪をカットし終え、手を洗って振り向くと、ちょうど店に背の高い男が入ってきたところで、彼女は驚いて口を開けた。
その男は顔を上げてタミーを見て、少し長く伸びたブラウン・ヘアーを手でかき上げた。

「ちょっとアンディ！珍しいお客が来たよ！モルダー捜査官じゃないかい！まったくどこに行ってたんだい？ずーっと顔を見せなかったね！」
タミーはエプロンで手を拭き、入り口のドアに近づいた。

「Hey タミー、久しぶり。でももう捜査官じゃないんだ、ただのモルダーだよ。」
モルダーはジャケットを脱いでラックに掛けた。

タミーは目を大きく見開いて、真っ白な歯を見せて笑った。
「なんだって？それじゃFBIはこのハンサム君を捨てたってのかい？」

「そんなところだね。」
モルダーは微笑みながら彼女の方に向かった。

「じゃあこっちに座って。」
タミーはビニールのスツールを回して叩き、モルダーを座らせた。
「長い間何してたんだい？」

「ずっと街から離れてたんだ・・・事件でね。」
モルダーは首の回りにケープを巻かれながら答えた。

「そりゃずいぶん大っきな事件だったんだろうね。どれくらいここに来なかった？1年？1年半かい？」
タミーはモルダーの髪を手でとかし、両手で肩をポンと叩いた。

「タミー、実は世界の果てまで行ってたんだよ。いや、宇宙かな。」

「そうかい、そりゃすごいね。こっちはずーっと寂しかったっていうのにね。それで？その間は誰がこのゴージャスなブラウン・ヘアーをカットしていたんだい？」
タミーはそう言いながらカウンターからコームとハサミを取り出した。

「わかった、白状するよタミー。」
モルダーはニヤッと笑って答えた。
「実は友達がカットしてくれてたんだ。」

タミーは髪の様子を調べるように、モルダーの頭を両手で抱えながら鏡に映した。
「へぇ、その彼はなかなかやるねぇ。」

「“彼女”だよ、タミー、僕のパートナーで・・・。彼女は医者でもあるから切るのはお手の物さ。」

タミーはコームでモルダーの髪をとかし、切る分のところで手を止めてハサミを入れた。
「そうかい、いつもあんたが言ってるスカリー捜査官とやらが、あんたの髪を切ってたのかい。妬けるね！でもどうしてそんな事になったんだい？」

「自分じゃ切れなかったからね。」

タミーは切るのを一旦止め、彼のあごに手を当ててそっと振り向かせた。
「まさか病気でもしてたのかい？」

「まあ、そんなところかな。」
モルダーはクスッと笑った。

「まったく、いつだって話をはぐらかしてばっかりだよ、Cutie！。」

「ごめんよ、タミー。でもプライベートなことだから。」

「いいよ、無理になんて言わなくたっていいさ。でもね、モルダー！あたしは何年もあんたの髪をカットしてきてるんだよ？あんたの人生で、そのかわいいパートナーの次にあんたを知る女なのにね？これまでガールフレンドの一人だっていなかったくせに。」

モルダーは座っている赤いビニール製のスツールと同じくらい顔を赤くしながら振り向いた。
「ああ・・・うん。タミー、実はガールフレンドはいるんだよ。」

タミーは鏡越しにモルダーの赤くなった顔を見た。
「モルダー捜査官！からかってるんじゃないだろうね、本当かい！？・・・それで？あんたのハートを奪ったのは誰なんだい？」

モルダーは目をきらめかせて鏡を見、そして照れくさそうに下を向いた。
「実は、僕のパートナーなんだ。いやパートナー“だった”かな。いや、そうじゃなくて・・・何というかな、僕の全てのパートナーであるんだよ。」

「“スカリー捜査官”なんだね？やれやれ、やっとくっついたんだね。」

「“やっと”ってどうしてだい？」

「頭を動かさないで。」
タミーは振り向いたモルダーの頭を戻した。

「当たり前だろ？あんたはここに来るたびに彼女のことばかり話し続けてたんだから、うすうすわかるってものさ。彼女の方だってあんたのことを好きでもなきゃ、もうとっくにあんたから離れてただろうよ。」

「彼女が僕のことをどう思ってたかはわからないけど、今も僕のそばにいてくれてるよ。それが僕には一番重要なんだ。」
モルダーはほとんどつぶやくように言った。

「フーン？それで？これからの計画は？切るから少し下を向いて。」

モルダーはクスッと笑った。
「タミー。君はFBIで働いたら、きっと優秀な捜査官になっていたよ。うん、僕たちは2週間後に結婚する予定なんだ。」

タミーはカットしていた手を止めて、鏡の中のモルダーを見つめた。
「2週間後！？そう言ったのかい？教えてくれなかっただなんてひどいじゃないか、あたし達はこの5年・・・6年かい？ずっと友達だったのに。そんなこと全然知らなかったよ！これまであんたとスカリー捜査官がそんな中だったなんて、ちっとも言ってくれなかったじゃないか。」

タミーはモルダーの頭に顔を近づけて、彼の肩を鷲掴みした。
「じゃあ、あたしがあんたと結婚する可能性もなくなったわけだ。」

モルダーはクスクス笑った。

「モルダー、じゃあもう婚約したんだね？今は結婚式を待つだけじゃないか。幸せなんだろうねぇ。」
タミーはモルダーの後頭部をカットしながら、首に掛かった髪を払いのけながら話した。

「結婚式ではスカリーは家族や友人を大勢招待する予定なんだ。」
モルダーは大きくため息をついて続けた。
「でも僕にはそんなに招待できる人はいない。同僚を何人かと、友人も少ししか・・・。タミー、よかったら君も来てくれないかな？」

タミーは瞳を輝かせ、大きな口を開けて笑顔になった。
「結婚式に？本気かい？」

モルダーは顔を赤くしたままうなずいた。

「もちろん行くよ！嬉しいね！」
タミーは彼の肩をポンと叩いて答えた。
「本当に行っていいんだね？じゃあその日はアンディに休みをもらって・・・と。あ、ほら、まだ動くんじゃないよ！ほら・・・。」

「ありがとう、タミー。」

タミーはモルダーの首の回りに付いた髪をブラシで払い、ケープを外してスツールを回した。

「OK、元G-man、できあがりだよ。」

モルダーが立ち上がって財布から札を2枚出して渡そうとした時、入り口のドアが開いてドアベルが鳴った。
そして赤い髪に大きな蒼い瞳の小柄な女性が入ってきた。
腕には彼女によく似た蒼い瞳の、男の子の赤ちゃんを抱いていた。その子は小さなよだれかけをかけていて、小さな足には赤いスニーカーを履いていた。

「モルダー、終わった？」

「紹介するよ。」
モルダーは手招きで彼女を呼び寄せた。

「タミー、彼女が僕の・・・ダナ・スカリーだ。」

タミーは顔中を笑顔にしながら片手を出した。
「Hi、 ダナ、ついに会えたね！嬉しいよ！とうとう名前と顔が一致したよ。」

スカリーも微笑んで握手した。
「こんにちは、タミー。私も会えて嬉しいわ。」

「これまでモルダーの髪を切ってたんだよ。」

「彼から聞いてるわ。ありがとう、今日もとっても素敵。」

モルダーはスカリーからウィリアムを抱き上げ、タミーに近づいた。
「タミー、この子は僕たちの息子のウィリアムだ。」

ウィルは2本の指をしゃぶりながら目をぱちくりさせたが、タミーを見ると恥ずかしそうに笑って、モルダーの胸に顔を隠した。

「これはこれは！驚いたね！あんたはあたしを驚かせすぎだよ。何てかわいいこと！」

モルダーも嬉しそうに笑った。
「そうだろう？」

スカリーがそっとモルダーの腕に触れた。
「モルダー、もう行かないと遅れるわ。」

モルダーはウィルをスカリーに戻して、ラックに掛けていたジャケットをはおった。
そしてスカリーの背に手を当てながらドアに向かい、ふと立ち止まって振り向いた。
「タミー、忘れるなよ！」

「必ず行くよ！モルダー。それにダナ！おめでとう！彼はきっといいダンナになるよ！」

スカリーは頬を赤くして振り向いた。
「ありがとう、タミー。」

二人が出ていくとタミーは座り、窓の外を見ながらイスを回した。
「アンディ、信じられるかい？あのモルダーが結婚して、奥さんと子供を持つだなんて。」
タミーは一つため息を付いた。
「彼女もラッキーだね！」
そう言うと立ち上がり、お客の方に笑って振り向いた。

「さて、お次は誰だい？」







〜The End〜




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Girlie_girl7さんは、いつも幸せな生活を送っているモルスカの姿を書いて下さっていて、私のとーっても大好きな作者さんの一人です。
このお話には続きがあって、そこではウィル君がカットをしにやってくるんですよ〜(^^)
このお話の「タミー」は、私の中ではSimple GiftのRoseに重なってまして♪そんな楽しい人達に囲まれて幸せにしているモルスカの姿が想像できて、より幸せな気分になっていました。
彼女の描くモルファミの世界を、コツコツと訳して行けたらいいな〜、と思っています。


tomo