From：http://www.angelfire.com/ms/KtblleStorage/supernova.html
Disclaimer：Not mine; don't sue.
The Marionette Rebellion
-9-
注：この作品はシーズン9「The Truth」のスポイラーficです。ネタバレをお避けの方はお読みにならないでくださいませ。
*この作品は、モルダーとスカリーが希望を信じて、力を尽くしてウィリアムを取り戻す物語です。
*長めの作品ですので、できればお時間のあるときにゆっくりお読みいただけたらと思います。
作：supernova
訳：tomo
-X-
Chapter Nine
-X-
「“注射した”？」
「ええ。」
「何を注射したんだ？まさか君は自分からやったのか？」
「ええ、やったわ。それしか・・・道がなかったから。注射は3本あって今日は初めの一本を打ったのよ。後の2本は8週間おきにまた打つ必要があるわ。」
「なぜだ？なんのために？」
「これはWilliamにした注射と同じ成分なのよ。ただ、まだ胎児の赤ちゃんを驚かせたくなかったから一回の濃度を薄めて三つに分けたのよ。赤ちゃんと・・・そして私自身をノーマルに戻すために決心したわ。」
Scullyはしっかりとした口調で答えた。
「どうしてそんなことができたんだ？君とおなかの赤ん坊を危険にさらすかもしれないのに、どうしてだ！」
ScullyはシンジケートがGibson Praiseの能力を持つ子供を作るために遺伝子を変えた胎児を妊娠させられた女性について、Spenderが説明したことを話し出した。
彼はまずシンジケートの実験施設で実験の胎児をみごもっている女性達が収容されている施設の様子を話し出した。
そこにいる女性達は1990年代前半に誘拐され、その後戻されたときに妊娠していることが判明したMUFONのメンバーが含まれていた。
女性達はみなどうして自分が妊娠しているのかに疑問を抱え、病院へ行って血液などの検査をしたが、それらはもちろんシンジケートへつながっていたのだ。
Spenderはが彼女たちにコンタクトを取ると、喜んで自分たちの体験と、抱えている心配を彼に話したという。
そうしてSpenderは女性達がシンジケートの実験の一部として使われているという事実を知り、マグネタイト混合液を彼女たちに注射していったのだ。
その後出産した赤ん坊も母親も健康で、他の子供と何も代わることのない普通の子供として生まれてくることに成功した。
しかしSpenderは多数の女性達に注射をして治していったたが、その内3人の女性は最後の注射後に死亡してしまったそうだ。
なぜ彼女たちが死んでしまったのか、前の2本の注射に耐えられて、どうして最後の注射に耐えられなかったのかは全く不明だった。
そしてWilliamのこと。
かつてWilliamはGibsonより強い能力を持ち、遺伝子の変化の仕方も特殊な、まさに奇跡のような確率で生まれた赤ん坊で、能力の発達を誰も予想できないほどだったという。
また、シンジケートの計画を進める上で欠かせない大切なパズルのピースだったのだ。
そこで連中はScullyの妊娠を監視し続け、病院で検診するたびに妊娠状態をチェックし、テストを行い、出産後も検診の度に密かにテストしてWilliamの遺伝子を調べ続けていた。Scullyは検診がそんなことに使われていたとは知らずにいたのだ。
出産後ウィリアムの血液テストでとったサンプルに基づいて、シンジケートはScullyと僕で作り上げた新しい命を模造しようとして遺伝子を合成し、誘拐した女性を使って実験して、妊娠させようと企んでいた。
だが実験は悲惨でたとえ出産までたどりついた胎児でも、マグネタイト混合液の注射をしなければ、たった1年も生きられなかった。
赤ん坊達は脳細胞の活動が止まってしまうため、彼らは実験に失敗した赤ん坊達を殺して始末していったのだった。
また、Marita Covarrubiasの事も。
MaritaとJeffrey Spenderは一緒に働いていて、彼女がわずかな情報と薬品を渡し、Spenderがリスクを負ってその女性達や赤ん坊を救っていた。
一見MaritaがSpenderを手先に使っているようにも思えるが、彼女は自分が安全なところにいて十分な距離を保ってさえいれば、そうした手助けをする面も持っていた。
Spenderは女性達や赤ん坊の命を救うことでシンジケートの計画を妨害し、実の父親に復讐しているのだった。
「知らなかったよ、Scully。君がそんなに・・・勝手だとはね。」
怒りや他の感情が噴き出て、考えるより先に言葉が舌の上で踊った。
「よくこんな事ができたな、Scully。君はあの男の用意した話を全部うのみにしたのか？そんな得体の知れない注射を打つ前に僕と話し合うべきだったよ。」
僕の言葉は独善的だったかもしれない。
「Mulder、あなたこそどうしてそんな偽善的になれるの？あの状況の中では私たちにとってベストなことをしたつもりよ。去年あなただってマウント・ウェザーで見つけたことを言うくらいなら喜んで死ぬ、と私に言ったのを覚えてないの？あなたはそういうときにいつも私にただ“信じろ”って言うけど、私がそういう立場になったときは信用してくれないのね。」
Scullyは自分の権利を怒りを込めて主張した。
「もういい、Scully。」
僕は彼女の言葉から自分を守ろうとして言った。
「よくないわよ。あなたはもうずっと得体の知れない影の言うことを信用して決定していって、私の言うことに少しも耳を貸さなかったわ。全て私のためだと言って相談してくれないわよね。心配している私の気持ちをいつも放っておいて。でもあなたがもし私の立場だったらということを考えてよ。Williamやおなかの赤ちゃんの安全のために何ができるかを考えて、決断しなければならなかったのよ。この十年の間、あなただけが失っていったんじゃない、私たち二人が・・・この十年であまりに多くのものをなくしてきてしまったことを、あなたは時々忘れているように見えるわ。あなた一人じゃないのよ。私もずっとそこにいたのよ、Mulder。分かって、この闘いは私の闘いでもあるのよ。」
「分かっているよ、この闘いは僕の闘いであるし、君の闘いでもある。」
僕は気短に言葉を切った。
これまで隠していた恐怖が矛盾する考えとなって現れた。
Scullyと巡り会って以来、彼女を失いたくないという思いが僕の最大の弱点だった。
だが現在のように追いつめられ、出口のない生活にも終わりを迎えなければならないことも分かっていた。
「そうよ、そしてあなたもきっと私と同じ事をしたに違いないわ。」
Scullyはそう言ってため息を付いた。
「でも僕に何も聞かずに決めたのは間違っている。危険のない、もっと別の道があったかもしれないのに。このやり方はあまりにリスクがありすぎるんだぞ？」
「一体私にどうして欲しかったの？待って祈るだけ？私たちにできるのはそれしかないの？Spenderが打った注射のお陰でWilliamは他の子と変わらない、普通の子になれたのよ？Mulder。これは事実よ、間違ってないわ。だから私は決心したのよ。」
「もう今は聞きたくない。外に出てくる。」
Scullyは止めなかった。
僕は寝室へ行きダッフルバッグを開けてジョギング用のTシャツとスウェットパンツを探し、それに着替え、ジョギングシューズに足を突っ込んで壁際にあったチェストを蹴った。
思ったより大きな音がたち、Williamが目を覚まして頭を起こした。
「ごめんよ、William。」
僕はベビーベッドに近づいた。
「外にジョギングに行って来るよ、すぐ戻るから。」
Williamは笑って答え、僕は新鮮な空気を求めて外に出た。
家に振り返るとScullyはキッチンに立ち、僕が外に出る間彼女も気を鎮めるために掃除をしようとしていた。
外の湿度の高い空気は暑苦しくて深く吸い込めなかったが、呼吸するうち新鮮な空気が体を回ってきた。
僕はまだ彼女のしたことを受け入れられずに頭の中が熱くなり、恐怖に駆り立てられ、衝動を吐き出すようにして走り始めた。
影の政府に抵抗する最後のメンバー達が、まるで同盟するように動いている。
Marita Covarrubias。
情報を売る卑怯者。シンジケートの共謀者でありながら裏切り、自分でなく、他人を操って救済を支援する。
Jeffrey Spender。
最も最悪な男の息子。
実の父親に裏切られ、撃たれ、拷問され苦しめられた。
彼は復讐だけのために、父親への憎悪に駆り立てられて利用された人々を助けてきたのかもしれない。
だが彼を追い立てている考えは、彼が憎んでいる父親と何ら変わるところがない。
Spenderの目的は他の人を助けていても、それは結局自分のために行っていること、実の父親、C.G.B.Spenderへの復讐のためにしているのだ。
C.G.B.Spenderは権力欲の固まりだった。
Jefferey Spenderがどれほど多くの子供を治しても、どれだけ多くの女性を治しても、どれほどシンジケートの計画を妨害しても十分ではないだろう。
彼が世界を救おうとしても父親が更に傷を与え、彼のやっていることなどかすり傷にもならないことを思い知らされるだろう。
Scully。
かつては科学的な論理を携え、希望に満ちた瞳で配属された新任捜査官。
だがそれから10年の間にアブダクトされ、ガンにされ、子供を連れ去られた。
そしてそこに僕もいたのに、ただそばで見守ることしかできなかった。
僕は真実を探し、陰謀と嘘を暴露するまで止まらず暴走し続けている。
真実が僕に呼びかけてくるんだ。
その声はいくら地中深く埋めてしまおうとしても、まるで霊が呼びかける声と同じように、僕に聞いてくれ、と要求してくる。
Scullyは前にだけ進める一本の道しか僕たちに残されていない、と言った。
Maritaは僕が最も大切な選択をしなければならない、と言った。最も大切なもののためになら残りを犠牲に出す覚悟がいる、と。
自分の魂を売る奴もいるだろう。
妻子を犠牲にする奴もいるだろう。
今まさに、僕も選択をする時が来たのだ。
だが、今は失う物があまりに多すぎる。
バイブルの中にこんな一行がある。
“わたしたちの父は罪を犯し、同時に罪を犯していない。しかしわたしたちは父の罪を引き継いだ。”
父はSamanthaを選択した。同じように僕も選択しなければならないのだろうか？
犯した誤りは消えずに、親から子へつながっていってしまうのだろうか？
William Mulder。
僕の心の父親。
だが僕は彼と反対の方向を行っている。
僕は自分の求める真実のために、子供達を犠牲になど出しはしない。
愛する人を犠牲になど出さない。
その代わりに人間性のかけらを犠牲に出してきた。
希望と夢が次々と破れ、正気を失い、魂を奪われては涙し、そして散っていった。
父は死ぬとき、きっと自分でない誰かが引き金をひいてくれたことに喜び、最後の瞬間は罪から解放されて安息に満ちていたのかもしれない。まるで殉教者のように。
僕を真実の探求者に仕立て、自分の罪を僕にゆだねて。
この闘いにはあまりに多くの人が亡くなっていった。
僕たちも秘密の実験の犠牲になり、真実の名の下に多くのことを失ってきた。
そして闘いをやめることなく続け、心も体も痛めながらここまで引きずってきた。
僕たちの父親は―どちら側でも同じだが―息子を犠牲に出し、結果的に僕たちは彼らの望み通りに生きて役割を果たしている。
まるで生け贄の羊のように自分自身を差し出し続け、父親の影を追いながら自分の運命を呪うのだ。
僕の靴はアスファルトの上をスタッカートを切りながら走り続けた。
そして一歩一歩足が地面に着くたびに、Samanthaを探し続けていた頃のことを思い出していた。
僕にScullyを責める資格はない。
今の彼女の立場をうらやましく思うこともない。
僕もずっと彼女の場所にいた。
探求の牢獄のような場所に。
怒りの審判の中に。
Scullyが抱えてきた痛みや愛する者を失ったつらさに、これまで何のちゃんとした答えが出ていなかった。
ずっと幻と嘘や仮説があるだけで、彼女の痛みを説明するだけの本当の答えがなかった。
彼女の人生のコントロールを、今こそ取り戻さなければならない。
これまでEmilyの思い出が彼女を襲っていたことも知っている。
Williamと引き裂かれ、その決定をした自分への罪の意識が彼女を重く苦しめていたことも分かっている。
Williamを危険から守り、安全に暮らさせたかった思いで下した決断だということも。
そして今またおなかの子供を守り、救いたい気持ちで下した決断だということも分かっている。
彼女が事実を受けとめ、リスクを計算して答えを出したということは僕も頭では分かっている。
だが頭で理解することはできても、心が、感情が彼女のやったことを受けとめられなかった。
僕の耳に届いたのはその注射のせいで三人の女性が死んだことだった。
だが彼女の頭にあったのはその注射によって赤ん坊が救われるということだった。
僕たちは袋小路にはまりこんだ。
全身の筋肉が痛くなり、疲れが出てきた。
僕は林の中を通ってScullyの元へ戻る近道をした。
〈できる限り彼女を支えよう〉
突然父親として、おなかの子に本能的に父性愛と守ってやりたい思いがあふれそうになった。
そして彼女への愛情が胸からこみ上げてきた。
注射を受け、立ち向かわなければならないのは彼女の体だ。そしてまた反撃し、結末を見届けるのも彼女の体だ。
僕が守り抜いてみせる。
彼女が選んだ解決への道を、僕も最後まで、ともに歩んでいこう。
家の近くまで来て速度を落とし、ゆっくり歩いて近づいていった。
道には一台の車が停まっていて、そこには二人の捜査官が僕たちの護衛のために家を見守っていて、僕が通り過ぎると手を振った。
Scullyがポーチの前の階段に座って僕を待っていた。
ポーチの明かりが彼女の周りを照らし、彼女を後光のように照らしていた。
彼女は僕の帰りを辛抱強く待っていてくれたのだ。
Scullyはうつむいたまま腕をきつく体に巻き付けてじっとしていた。
僕も何も言わずに彼女の隣に座った。
そして肩に腕を回すと彼女はためらいがちに顔を上げ、僕はうなずいた。
今の僕たちには何も言葉を交わす必要などない。
言葉など交わさなくとも、まなざしを見つめることでお互いの気持ちを分かり合えた。
僕たちの間に謝ることはないし、あえてお互いへの不滅の愛を誓い直す必要もない。
ここで一緒に座っている事実。
夜空の星座がオリオンとカシオペアになっていく様子を伝えるのも言葉では伝えるのに限界があるのと同じように、言葉だけでは今の想いを伝えきれない。
だが、僕たちは二人だけに通じるまなざしで、想いを通じ合うことができた。
Scullyは腕を伸ばして立ち上がって家の中に入っていき、僕も後に続いて入っていくと、リビングのコーヒーテーブルの上に古いトランクが乗っていた。
「Skinnerが戻ってきてこれを私に届けたわ。もっと早く渡すつもりだったそうだけど、色々あって遅くなってしまったそうよ。」
「何が入ってるんだい？」
「母からの手紙よ。」
「読んだのか？」
Scullyの表情はイエスと言っていた。
彼女はうなずき、僕も読んでみたければ開けてもいい、と言って、遅い食事の準備をしにキッチンへ行った。
僕は中から封筒を取り出して、その端を親指で撫でた。
白地に金色の浮き彫りの模様のついた便せんはまだ新しかった。
Margaret Scullyが娘のために最後に書いたであろう手紙の中には、許しや、叱る言葉は何一つ書いてなかった。
だがその言葉は短いながらも、二人の関係をしるした確かなものだった。
そしてScullyがもう一度聞きたいと思っていた言葉で、これで二人のこれまでの関係を、母親の気持ちを再確認することができただろう。
手紙にはたった一行の文が記してあった。
“愛しているわ。”
-X-
一日、一週間、そして数ヶ月がゆっくりと流れていった。
ScullyがJeffrey Spenderから2回目の注射を受けに行く以外、僕たちは外にほとんど出なかった。
三本目の最後の注射をする日はもう明日だ。
たいていの午後をWilliamと一緒に家中で遊びながら過ごした。
Williamは子供の目を通して世界を表現し、新鮮な驚きを僕たちに与えながら家中を歩いて回った。
僕たちはたくさん絵本を読んでやり、新聞のスポーツ面の、特にニックスのゲームを詳しく読んで実況し、部屋の中でボールを投げてシュートを見せて遊んでやったりした。
Williamの父親だということは、まるで奇跡のように幸せなことだ。
“パパ”という存在はWilliamが頼る親であり、彼のよだれだらけのキスを受け取れ、彼の笑い声で日々を喜びで満たしてもらえるのだ。
そしてScullyが笑いながら話しかけ、叱り、なだめ、幸せそうにクルクルと変わる表情を見ていると、彼が本当に奇跡の存在なんだと信じられる。
Scullyは胎児検診を受けないことを気にしていた。
だがそれは外に出るリスクを考えると仕方のないことだった。
Monica Reyesが月に二度ほど立ち寄ってグロッサリーで買い物した物を届け、Scullyのためにビタミン剤とWilliamのためのおもちゃを届けてくれた。
最後に彼女が立ち寄ったとき、赤ん坊の心臓の鼓動がScullyのおなかから聞くことができて驚いていた。
「大丈夫、順調よ。」
とScullyは微笑みながら彼女に言った。
ウィートランドの警察はこの数ヶ月の間、Van de kamp家で捜査官との銃撃で死亡した侵入者及び殺人者が誰なのか特定できずにいた。
侵入者の指紋もFBI及び全警察機関のどのデータでも一致する物がなく、男の死体はクァンティコに送られたが搬送の際に消え、FBIも地元警察も何があったのか説明することができなかった。
自分から情報を取りに行くことも困難だった。
保護されているのだから、自分から外に調べに行くわけにも行かないのだ。
僕はもう昔にネバダで得た情報以来、何も新しい情報を得ていなかった。
僕たちに今できることは、息子を育て、おなかの子が無事に産まれてくれることを願うだけだった。
僕がScullyが毎日綺麗に見えることを言うと、彼女は『この家と同じくらい大きい体よ！？』と笑って答えた。
彼女はおなか以外は痩せているが、おなかは本当に大きくなっていて、おなかのでっぱりの上に皿やミルクの入ったグラスを置いてバランスを取って遊ぶことまでして見せた。
僕は妊娠期間を一緒に楽しみ、毎日の変化を楽しんで、時々赤ん坊がScullyのおなかをける音や動いている様子を見る喜びで満たされていた。
出産予定日まで、もうあと6週間だ。
僕の真実を探る欲求がムクムクと湧いてきて、ある日とうとう行動を起こした。
今僕は椅子から取ったワッシャーを使って、彼女のおなかの妊娠線のひとつひとつにはわせて赤ん坊の“真実”を探っている。
便利な現代の技術がなくても、これが僕たちのバージョンの超音波検診だ。
これでおなかの子の性別を当てて見せよう。
Scullyは僕の検診の間中笑いっぱなしで、大きなおなかが笑いで振動し続けた。
「笑って動かないくれよ、Scully。僕は本気なんだから。いいか、当ててみせるぞ。」
僕は言いながら一番真面目な顔を作って見せた。
Scullyは笑いをかみ殺しながら頬をピンク色に染めて僕の手を見つめ、Williamも彼女のおなかに近づいてキスした。
そして僕とWilliamは少し後ろに下がっておなかの動きを観察した。
瞬きもせずにじっと見ていると、おなかの子ははじめほんの少し動いて、そして弾みがついたように大きく動き、僕はその動きが前後に動いたのに気が付いた。
「前後に動いた！きっと男の子だ！William、弟だぞ！」
Williamは手を叩いてはしゃぎ回った。
「おとうとだ！おとうとだ！」
Scullyが輝くように微笑んだ。
Skinnerがドアをノックする音で僕たちのセッションが中断し、Scullyは大きなおなかを支えながらベッドから起きあがろうとした。
僕は彼女が起きあがるのを手伝い、優しく彼女の肩を支えて僕の方に引き寄せた。
Williamはベッドの上にはい上がって母親の後ろに行き、2歳児でできるかぎり彼女の背中を押して立たせるのを手伝おうとした。
「William、そのままブッダママを手伝ってやってくれ、パパがドアを開けてくるから。」
僕がウィンクすると、“ブッダ”の表現にScullyは唇をとがらせたが、目は微笑んでいた。
この数ヶ月の間、数え切れないほどSkinnerは家に寄っていった。
時々彼はシンジケートの噂やその周辺から出た情報を伝えに突然寄ることもあったが、今日ここに来たのは明日のScullyの最後の注射に備えて様子を見に来たのだと分かった。
「Mulder、悪いニュースがある。」
Skinnerは言葉を切り、大きなため息を付いた。
「3時間前、銃で頭を撃ち抜かれたSpenderの死体が見つかった。」
振り向くとScullyがWilliamを抱いて立ちつくしていた。
今Skinnerが言ったことは、彼女にもはっきり聞こえていたようだった。
彼女はWilliamにおもちゃで遊んでなさい、と言い、Williamも素直にそうすると、すぐにSkinnerに聞きただした。
「どうして？何があったの？」
「MaritaからSpenderが死んだという連絡を受けたんだ。それで調べてみると聖十字病院のモルグに彼の死体が運ばれているのが発見されたんだ。私も直接行って確認した。」
「何てこと・・・。」
僕たちはお互い目を見交わしながらその場に立ちつくし、レゴの積み木で遊ぶWilliamを見つめながら、はしゃぎ声とオモチャがぶつかる音を聞いていた。
言葉では言わなかったが、もちろんSpenderは殺されたのだと分かっている。
僕の心には重く一つの疑問だけが渦巻いた。僕もSkinnerも聞きたくないことだった。
だが聞くしか方法がない。
「Scully、最後の注射はどうなるんだ？」
「2回目の注射をしたとき、Spenderは最後の注射に必要な物を全部私に預けていったわ。何かあったときの用心のためにと言って。だから薬については問題ないのよ。Mulder、あなたが打ってくれる？」
「無理だ。」
僕はとっさに答えた。
「Mulder・・・。」
僕は彼女が言い終わらない内に腕をつかんでベッドルームへ引いていき、小走りで中に入りながら彼女は心配そうに、しかし怒りながら僕を見つめた。
「Scully、忘れたのか？この注射で3人の女性が死んだんだろう？君にもしものことがあったらどうする？僕にはできないよ、絶対に！」
「わかったわ、それなら自分でやるわ。」
Scullyはそう言ってウォークイン・クローゼットの中に入って何かを探した後、手に小さな金属製の箱を持って出てベッドに置いた。
「最後の注射は明日なんじゃないのか？」
「本当は明日だけど、たった一日の違いならそんなに大したことはないと思うわ。Spenderが殺されたとなれば、いつ奴らが私を捜して来るか分からないもの。奴らは近づいているのよ。だから少し早くても今打ってしまうわ。」
「SkinnerにWilliamから目を離さないでいてもらえるように言ってくる。」
僕は部屋から出てリビングへ戻り、今注射を打つことと、その間Williamから目を離さないでもらえるように頼んだ。
Skinnerはすぐに承諾して、「とにかく慎重にやってくれ」、と言った。
ベッドルームに戻るとScullyはグラス・シリングから薬液を注射器に移し入れているところだった。
注射器に入れ終わると針にキャップをかぶせ、ベッドに座り直し、アルコールを浸したコットンで腕の内側を消毒した。
そして大きく深呼吸をして針からキャップを外し、液を少しだけ針先から出して空気を抜いた。
ポタ、ポタとゆっくり数滴の液が針を伝い落ちた。
彼女の指先は震え、とても針を自分の腕に打てるようではなかった。
Scullyは額に汗を浮かべながら僕を見た。
様々な想像が頭の中を渦巻いて何も考えられなくなり、僕は腕を伸ばして彼女の腕を支えた。
彼女の震えは止まり、ゆっくりと腕を近づけて鋭い針先が入るとともに僕たちは息を吐いた。
彼女はそのままゆっくりと注射器のシリンジを押して薬を注入していき、注射器の中の液体が少しづつ少なくなって彼女の体に入っていった。
すべての液の注入が終わり静かに針を引き抜くと、跡に赤いビーズを置いたように血がにじみ出た。
Scullyはため息を付いて注射器を置き、コットンで注射跡をそっと抑えた。
「これで終わったわ。」
「ああ。終わった。」
僕は注射跡にそっとキスした。
「少し横になるわね。Skinnerに帰ってもらって。」
Scullyはベッドに横になりながら言った。
「なにかいるかい？」
Scullyは首を振って「いらない」、と言い、僕は部屋を出てレゴの積み木で家を作っているWilliamとSkinnerの所へ行った。
僕はSkinnerがそんな似合わないことをしていることを考えている余裕はなかった。
注射が終わったことを伝え、彼は連絡をとり続けるように言って帰っていった。
Williamと僕は夕飯にホットドッグを食べ、風呂に入れ、ベビー・ベッドに寝かせるまでの少しだけ、横になっているScullyの隣で遊ばせた。
Scullyに体の具合を何度も聞くと、その度に“具合は悪くないけど、だるいのよ”、と答えていた。
しばらくして僕は彼女が眠ったのを確認して起きあがり、隣の部屋でPCを立ち上げてSpenderについて何か情報が出回っていないか調べ始めた。
だがTLGの手助けなしで法務省関連への情報にアクセスすることはできず、僕は自分の無力さに打ちのめされた。
D.C.やその周辺エリアでアクセスが可能だった部分では、Spenderの死亡報告や身元不明の死体発見の報告も入っていなかった。
もっとも彼の死亡報告書があったとしても、それがどれくらい正確な物かも疑わしい。
メディアがでっち上げの報告書をそのまま書き記せば世間はそれで納得し、真実は誰も知らないまま葬り去られるだろう。
Jeffrey Spender。
僕の異母兄弟。
陰謀を阻止しようとする気持ちを持っていた同士。
とうとう彼も陰謀の犠牲になった多くの人々の内の一人となった。
この犠牲は本当に価値があることなのだろうか？
どれだけの人の命が危険にさらされ、そして奪われていったことだろう？
一体どれだけ犠牲を出せば気が済むんだ？
寝室で物音がし、腕時計を見ると調べ初めてからもう2時間もたっているのに気が付いた。
ドアを開けるとScullyが起きあがり、真っ青な顔色で壁に手を付いて立ち上がろうとしていた。
僕はドアから飛び込んで彼女を腕で支えた。
「Mulder・・・、病院へ連れて行って・・・。」
「どうしたんだ！？何があった！？」
「最初はただ子宮が収縮しているだけだと思ったのよ。」
Scullyは力が入らないようにぐったりと僕の腕に体を預けている。ふと見ると彼女の下腹部に大きな濡れたしみが広がっていた。
彼女は大きく息を吸い込み、苦しそうに息をしながら消え入りそうな小声で言葉を続けた。
「破水したんだと思ってバスルームへ行ってみたら、あんなに出血していて・・・。」
「ああ、くそっ！Scully、ここに座って。外のAdams捜査官とGreer捜査官を呼んで病院まで車を出させるから。それにSkinnerにも連絡してWilliamも連れて行くから。何も心配するな、Scully。絶対に大丈夫だ。だから落ち着いて待ってくれ、すぐ呼ぶから。君も赤ちゃんも絶対に大丈夫だから。」
僕は彼女をカウチに座らせながら言い、玄関のドアを開けて外に飛び出て大声で叫んだ。
「早く来てくれ！」
そして捜査官達が車から出てくるのも待たずに手につかんでいた携帯でSkinnerの番号を力任せに押した。
4回目の呼び出し音でSkinnerが出て、状況を早口で話した。
話ながら頭の中でWilliamに必要な荷物のことを考え、バッグの中におむつや必要な物を詰めて肩に掛けたとき、やっと二人の捜査官が家に駆け込んできた。
そして同時に電話の中でSkinnerが直ちにこっちへ向かい、ここに一番近いShady Grove病院で会うことを約束した。
携帯をバッグに投げ込んでScullyの元に駆け戻った。
「彼女は僕が連れて行くから、君はWilliamを連れてくれ。」
僕を手伝おうとしたGreer捜査官にそう言い、ベビー・ベッドを指差して立っていたAdams捜査官に指示した。
「車を玄関につけてくれ。ここに一番近いShady Grove病院に連れて行く。」
用心深くそっとScullyをカウチから抱き起こし、腕を僕の首に巻かせて抱き上げた。
彼女はぐったりと力が抜けたように頭を僕の胸にもたれさせ、僕がしっかりと腕に抱き直すと、目にカウチのクッションが血でびっしょり濡れているのが飛び込んできた。
「Scully！大丈夫か？しっかりしてくれ！」
彼女は目をつぶったまま、ぐったりと頭をもたれさせながらつぶやいた。
「Mulder・・・、赤ちゃんが・・・。ごめんなさい、ごめんね・・・。」
-X-
〈Continued in Chapter 10〉
