From：http://www.angelfire.com/ms/KtblleStorage/supernova.html
Disclaimer：Not mine; don't sue.
The Marionette Rebellion
-8-
注：この作品はシーズン9「The Truth」のスポイラーficです。ネタバレをお避けの方はお読みにならないでくださいませ。
*この作品は、モルダーとスカリーが希望を信じて、力を尽くしてウィリアムを取り戻す物語です。
*長めの作品ですので、できればお時間のあるときにゆっくりお読みいただけたらと思います。
作：supernova
訳：tomo
-X-
Chapter Eight
-X-
Scullyが微笑みながらWilliamを僕に抱かせ、小さな頭を撫でながらためらいがちに言った。
「もう逃げる生活はできないわ。」
「そうだ。」
Skinnerが間に入って答えた。
「Williamの養父母が亡くなった今でも、まだ法律的にこの子はKamp家の子供だが、実の父親であるMulderがこの養子縁組に同意していなかったことを言えばWilliamを更に取り戻しやすくなるだろう。時間はかかるかもしれないがな。それに正式に判断が下されるまでの間、私はこの子は君たちの元にいるべきで、身柄も私自身が保証する、と言ったんだ。そしてその事は保護監督所にも認められた。監督所の連中にそれ以上言わせないようにいろいろとコネを使ったがね。それから今朝君から連絡をもらってすぐ、メリーランドのロックビルにある家を使えるようにしておいた。当分の間身を隠すためと、Williamの親権を正式に奪回できるまでの当分の住居として使いたまえ。」
「誰の家なんだ？Skinner。」
「秘書のArleneと夫の持ち家だ。二人は古い家を不動産として購入していて、修繕して売ろうとしていたところだったんだ。
だから私はその家の修繕状況を聞いて---彼女の夫はかなり腕がいいらしいが---もう綺麗に直って売り出しを待っている状態だというので、しばらくその家をFBIで借りることにしたんだ。彼らは私が誰に貸すのかは知らない。ただ家賃収入があれば、FBIの仕事に使われようと構わないようだ。ただ子供もいることを伝えると、彼女はすぐに家具や調度品を入れて、台所用品に食べ物まで用意する、と言っていた。だから君たちはここの後始末が終わるまで、そこで身を隠していてほしい。」
「わかった、そうしよう。感謝するよ、Skinner。ところでいつそこに行けばいい？」
「明日の朝11：30の便を予約してある。空港まで遅れずに来てくれ。」
Skinnerは腕時計を見て時間を確認した。
「Shanks警部に君たちのことを伝言しておいたんだが、無事にここが分かって良かったよ。だがこれからKamp家には戻るな。まだ危険が去ったとは言えないからな。」
Skinnerは頭を振りながら言った。
「わかった。」
「Williamのおしめや服を買い行きましょう、Mulder。今何もないもの。」
Scullyは僕の腕からWilliamを抱き取りながら言った。
「ああ、モーテルを探しながら行ってみよう。」
僕はWilliamの頬にキスしながらささやいた。
「私の車にレンタルしたチャイルド・シートがある。君たちの車につけたまえ。」
昔の上司とおむつやチャイルド・シートのことを話すだなんて、とても現実とは思えないシチュエーションだ。
Skinnerは去年奴らの張った陰謀からリスクを負って僕を守り、僕たちの逃亡の手助けもして、そして財産まで管理してくれていた。
「Mulder、聞いてるか？」
Skinnerは副長官としての威厳のある声を出した。
「え、ああ、もちろん。」
「モーテルはここの通りを横切ったところにある。」
Skinnerは病院の窓から通りを指差した。
「私はKamp家に戻って状況を再確認してくる。君たちはいろいろ買って、Williamに支給してやれ。」
捜査官や軍人でもないよちよち歩きの2歳児に「支給」とは。僕は思わず笑いそうになった。
「Mulder、金はあるのか？」
「ああ、ノース・カロライナで現金をおろした。まだ十分あるよ。」
僕たちはERの前から出口に向かって歩き出した。
信頼できる友人、Skinnerのお陰で僕たち家族は再会することができた。
僕がチャイルドシートを車に取り付けていると、肩越しにSkinnerがかがみ込んでScullyの耳元になにか話しているのが見えた。
話し声が小さすぎて何を話しているのか聞こえずに、また、振り向いて僕の様子を気にしたScullyの表情からも何も読みとれない。
そしてWilliamの頭を撫でるSkinnerの表情からも何も読みとれなかった。
Williamをチャイルドシートに乗せ、僕たちは軽い冗談を挨拶代わりに言ってそれぞれの場所へ別れた。
-X-
Skinnerが軍隊式に「支給」と言ったのは正しいかもしれない。とにかく赤ん坊には必要物品があまりに多い。
Scullyは、僕が『耳ではかれる体温計のほうがいいんじゃないか？』と言う前に直腸体温計を手に取った。
耳で計るのはその5倍もする値段かもしれないけど、そんなこと別にいいじゃないか。
直腸で計るだなんて、こわいドクターだ。我が息子ながら同情する。
それにしても、赤ん坊には必要な物が多すぎる。
おむつ、お尻ふき、お尻用クリーム、幼児用鎮痛剤、せきどめシロップに幼児用風邪薬、おなかの薬、バンドエイド、そして部位によって使い分けるたくさんの種類のクリーム、ベビーパウダー、服を18着、靴を3足、くつしたを2パック、おむつバッグ、小さなコップ、2本の幼児用ハブラシ、子供用歯磨き粉、目にしみないシャンプー、ベビーソープ、3種類の子供用の小さな皿やボウル、その蓋、ブランケット、動物のぬいぐるみを2つ、それに知能発達用のおもちゃ、絵本、などなど。
そして最後に、これら支給品を運ぶための大きなスーツケースをカートに乗せて、買い物はようやく終了した。
僕はScullyの新しい面を発見した。
彼女は買い物の間中「D.C.へ戻るまでは必要最低限のものですごさないとね。」、「節約しなきゃ」と言っていたが、その言葉の意味をわかって言っているのだろうか。
僕はScullyの新しい面を発見した。
彼女はずっと楽しそうに笑いながら、次々と品物をカートに積んでいった。
キャッシャーに並んで会計の順番を待っていると、丁度スーパーのスピーカーから宣伝コピーが流れた。
「愛する人と子供達のために、素敵な物をみんなカートに入れて、今日も楽しいショッピングを。」
Scullyにもはっきり聞こえ、微笑みながら100ドル札をはじいて音を鳴らし、Williamの髪をなでた。
グロッサリーに入ってから1時間半後、僕とScullyは笑いながら30袋の買い物と、僕の肩で眠っているWilliamをつれて店を出た。
Scully、君の笑顔はどんな宝石よりも美しいよ。
-X-
-Rockville, Maryland-
15分前からWilliamはパパとママを求めて泣き続けていた。
それが事件のショックのせいなのか、単に眠いだけなのか、寂しいからなのか僕には分からなかった。
だが昨晩ここに来て以来ずっとおとなしかったのに、今はとにかく嵐のように泣きわめいていた。
Scullyが抱き上げながら揺らしたが効果はなく、僕も背中を撫でて安心させようとしたが少しも効果はなかった。
「大丈夫よ、ママはここにいるわ。」
Scullyは優しくささやきかけた。
Williamは一瞬泣きやんだが、また大きく口を開けて泣き出した。
「Scully、ひょっとしておなかが減ってるんじゃないのかな。」
僕が言うと、Scullyはまるで僕が今世紀最高の発見でもしたかのように見てキッチンへ行き、バナナを持ってきた。
そしてWilliamをキッチン・テーブルの上に座らせると、皮をむきながら話しかけ、大切な贈り物を贈るようにバナナを少し手渡した。
Williamはバナナを手でつかむと、汁をたらしながら口いっぱいにほおばって笑い声を上げた。
どうやらバナナも支給しなければならないらしい。
Williamがバナナを食べ終わると、手と口を拭いてあげてScullyは抱き上げ、家の中の散歩を始めた。
昨夜はWilliamが眠っている内にこの家に着き、朝の目覚めと共に一緒に朝食をとってさっきまで外で一緒に遊んだが、まだ家の中の探検と、なぜWilliamがここにいるのか説明してあげていなかった。
Scullyは部屋から部屋へ歩きながら、「ここが新しいおうちよ。」とWilliamにささやきかけ、家中を見せて歩いた。
家具は間に合わせで少なかったが、それでもここはとても良い家だ。
Arleneは十分なほどの食べ物を冷蔵庫や棚にストックしておいてくれていた。
外には2名のFBI捜査官が護衛として見守っていてくれていて、僕は少しだけ安心を感じていた。
Scullyの声が静かな家の中で、まるで音楽のように柔らかく聞こえていた。
僕は微笑みながらその声を聞いていた。
確かに今の状況は僕たちが望んでいたことを全て叶えているとは言えないが、最も重要なWilliamを取り戻せた。
今はただそれだけで、心が満ち足りるような気持ちだった。
今はこれで十分だ、これからいくらだってできる。
僕はホールをできるだけ静かに歩きながら、Scullyが“母親”の優しい声でWilliamに話しかける声を追いかけていった。
彼女は寝室に入り、僕がドアからそっと覗くと、庭の花園を見下ろせる窓のそばに立っていた。
「あのお花はバラよ、William。」
Scullyはささやきながら、庭で満開に咲いている白バラを指差した。
「バラって言える？バ・ラ。」
「ラー・ラ」
「ママのこと覚えてる？William。ママと一緒にいた時のこと、まだ覚えてる？きっと混乱してるわよね、sweetheart。ずっとママ達は離れていなくちゃならなかったから。でも、もう安心していいのよ。」
彼女の声は小川のせせらぎのように優しく、ゆったりと流れていった。
まだあまりにWilliamが幼くて、詳しく説明してやる言葉が見つからないようだ。
Scullyは静かに、優しく、Williamを慰めるように言葉をつむいでいった。
「あなたのパパが離れなくちゃならならいことを言ったときのこと、覚えてる？」
Scullyは眉を上げておどけて見せた。
「でもね、パパも戻ってきたのよ、William。背が高くて、お鼻が大きくて、ポテト・ヘッドもできるパパよ。」
「パパ。」
Williamは手を叩いてキャッキャッと笑った。
もしかしたらWilliamはJeff Van de Kampを思い出しているのかもしれない。
僕はKamp家に起こった惨劇をとても言うことはできない。
だが、僕達はWilliamを守るために全力を尽くして、いつもWilliamのことを考え続けていた。
僕たちがこの子の親なんだ。
単純で、しかも難しい役目だが。
「パパはあなたのことをとっても愛してるのよ、William。私も。パパもママもあなたを愛しているわ。ひどい間違いをしたこともあったけど、でも、今、やっとあなたと一緒にいられるの。」
Scullyは自分の鼻でWilliamの鼻をこすり、寝かせるようにそっと肩に小さな頭をもたれさせた。
Williamは揺らされながら、Scullyの肩越しに彼女そっくりの、探求的で、どこまでも澄みきった大きな瞳で僕を見つめていた。
“Jeremiah was a bullfrog
was a good friend of mine
never understood a single word he said
but I helped him drink his wine.”
「思い出した？William。覚えているわよね。」
Scullyは歌いながら、Williamの背中をポンポンと優しく叩いた。
彼女は3回歌いながらWilliamの背中を揺らしたが、Williamは1回目のコーラスが終わると同時にうっとりと目をつぶって眠ってしまっていた。
確かに彼女とWilliamは1年も離れてしまっていたが、それでも母親の歌声はWilliamの潜在意識を呼び起こしてくれたのだ、と分かった。
センチメンタルかもしれないが、僕の声を聞いて、いつか僕のことも父親として思い出してほしい、と願った。
僕もどれほどお前を愛していることか、William。
以前に一緒に過ごした時間は、この2日間ですごした時間のたった半分になるかもしれないが、僕がどれほど愛しているかを知っていてほしい。
これから何が起ころうとも、僕たちは決してお前を離さないよ。
Scullyが振り向いて、ドアの所に立っていた僕に気が付いて微笑み、Williamをベビーベッドに寝かせた。
そしてまっすぐ近づいてきて僕の手を取り、部屋を出た。
僕は彼女の後を子犬のようについていき、彼女が振り向いて微笑むと、僕の顔にも微笑みが広がった。
そしてリビングで立ち止まり、しっかりと抱きしめた。
僕はScullyの顔を包んでキスした。
彼女の手が僕の背中から腰へ流れ、ベルトの部分に指がかかった。
深くキスしながら顔を動かして息を吸うために唇を離すと、Scullyは僕をアームチェアに優しく押した。
そしてゆっくりと服のボタンを外し、僕のジッパーを下げ、そしてボクサーショーツを降ろして直立したぼくのものに指をすべらせて、ゆっくりとした速度で上下に手を動かし始めた。
僕は目を閉じたまま息を吐き、彼女の指が与えてくれる感覚を味わいながらシャツを押し上げて、柔らかい胸の上に唇をはわせると、彼女は後ろにのけぞって胸を露わにして、僕はさらに胸のふくらみにむしゃぶりついた。
彼女のシャツからかすかにベビー・パウダーとバナナの香りがした。
オーガンジーのカーテンのような髪の間から熱く濡れた唇が覗き、僕の上に乗ると同時に肌にさざ波が起こり、僕は優しく胸のふくらみをもみながら、先端を指で転がした。
彼女は妊娠で以前より丸く、柔らかくなったようだった。
かつては何もなかったおなかは僕たちの子供で丸くふくらみ、胸も丸く、より大きくなっていた。
お尻はまだ小さかったが、それでも何となく丸くなった感じがする。
妊娠でより彼女は魅力的になり、僕はその美しさに目を見張らずにいられなかった。
僕は優しく彼女の乳房をもみ、乳首を指で転がした。
僕のもやがかった頭のどこかで、何か鳴った音が聞こえた。
「Mulder、今ドアベルが鳴らなかった？」
「無視しよう。」
僕は答えながら彼女の首筋を甘噛みした。
僕の手は彼女のなめらかな背中を降りて僕たちのつながった部分へ触れ、お尻をつかむとまた胸のふくらみを、肩を、そして顔に触れようと絶え間なく動き回った。
そして彼女の体をさらに引き寄せ、下からゆっくり突き上げた。
「・・・Mulder、私たちがいることを知っているのは・・・。」
僕はScullyの言葉をキスで封じて舌を絡ませた。
「Mulder？Scully？私だ、Skinnerだ。開けてくれ、話がある。」
Skinnerがドア越しに呼びかけた。
「なんて奴だ・・・。」
僕はつぶやいて、彼女の胸にうなだれた。
Scullyがシャツを下ろして床に散らばった服を集めている間に、僕はジッパーを上げ、盛り上がっている部分を隠すためにシャツをすそから出した。
Skinnerめ、なんて最悪のタイミングだ。
「すぐ戻るわ。」
Scullyはささやいて服を手に持ちながらバスルームへ行った。
僕は後に走り寄って頬にキスし、Skinnerが帰った後に続きをすることを約束した。
彼女はうなずいてバスルームに入り、服を着直し始めた。
「Mulder、何かあったのか？早く開けてくれ。」
Skinnerめ。
「ああ、今開けます。」
僕はドアを開けながら、〈お前が来なければ、今頃は・・・〉と心の中でブツブツ言った。
「どうぞ。お待たせしてすみません、聞こえなかったもので。」
Skinnerは心配げな表情で僕を見た。
彼がこんな表情をしているときは、たいてい良いニュースではない。
「ワイオミングでScullyに話した件で来たんだ。そのことはもう彼女から聞いているだろう？」
「いや。」
僕はムッとして答えた。
「昨日の晩にここに着いてから、一度もその話は聞いてないが。」
「そうか。」
Skinnerは下を向いて眉根を寄せた。
「何の話なんだ？」
「Scullyはどうしたんだ？」
「すぐ来る。何の話をしたんだ？」
「それは彼女が来てから話した方がいいだろう。」
「私を待って、何の話をするの？」
Scullyがバスルームから出てきた。
「Skinnerは君が僕に教えてくれない話について来たそうだよ。だから僕にはさっぱりわからない。なぜ僕に話してくれないんだい？」
ScullyはSkinnerをサッと見て、彼と同じように足下を見つめた。
「Scully？僕を守ろうとして、何の秘密を隠してるんだい？」
「決断の前に、Williamと一晩ゆっくり過ごしたかったのよ。他のことは何も考えずに。」
Scullyは顔を上げ、ため息を付いた。
「Spenderが私のおなかの子について知らせたいことがある、とSkinnerに連絡してきたそうよ。でも私一人に話したいそうなの。落ち着いたらすぐに、私一人で来てほしいと。」
「絶対にだめだ、Scully。一人でなんか行かせられない。」
僕は反射的に言い返した。
「Mulder？私は子供じゃないわよ、自分の面倒は自分で見られるわ。」
「分かってるさ、Scully。でもSpenderに一人で会うなんて、危険の方が多すぎる。君の体はもう君一人の物じゃないんだよ。」
僕は彼女が手をあてているおなかを指差した。
「Mulder、いつまでも隠れた生活を続けていられると思う？またWilliamを奪おうとして奴らが近づくかもしれないわ。奴らはまだ私たちに襲いかかってこないけど、それはこの子が生まれるのを待っているだけなのかもしれないわ。」
Scullyはおなかの上をゆっくり撫でた。
「でもそんなことさせないわ。私たちもただ逃げ回る生活を続けてはいけないのよ。私はあきらめてWilliamを手放して、奴らのゲームを有利にさせてしまったわ。でも、もうそんなことはしない。私はSpenderに会うわ。」
Scullyはきっぱりと言い放った。
「Spenderからさらに連絡が来たんだ。明日会いたいそうだよ。ただ条件として、私も付き添えるように話を付けた。」
Skinnerが口を挟んだ。
「何時に？どこで？」
「昼のランチタイムに、ジョージタウンのバーだ。」
「家のそばね。」
Scullyは笑った。
「行くと伝えて。MulderがWilliamを見ている間、あなたも一緒に来て。」
僕が口を開けようとするとScullyはサッと振り向いて反論するのを止めた。
「Mulder、後で話しましょう。」
「では明日11時に迎えに来る。」
Skinnerはそう言ってドアから出ていった。
Scullyは鍵を閉めて振り向くまでしばらくドアの前に立ち、これからはじまる僕たちの話を予想して深いため息を付いた。
「Scully、人前で言い争うところを見られたくないって言うのはよく分かってるよ。だからSkinnerが出ていくまで待ったんだ。でも、Spenderに一人で会いに行くなんて絶対にさせないぞ。」
「声を下げて、Mulder。Williamが眠ってるのよ。」
「Scully、聞いてくれ。行かないでほしいんだ。これはきっと罠か・・・」
「Mulder、Spenderはあの裁判の時にあなたに有利な証言をしたのよ、忘れたの？」
「Scully、奴がWilliamに何をしたのか忘れたのか？奴が何を証言しようと、それが僕に有利だったかなんてどうだっていい。全員買収されたか脅されたかしていたんだ。これは罠だよ、Scully。」
思い出すんだ、Williamを手放すようにと言ったのは奴だったんじゃないのか？Scully。
君がそのためにどれだけつらい思いをしてきたか。
「行かないでくれ、Scully。」
「もしSpenderが敵なら、Williamをきっと殺していたに違いないわ。でもそんなチャンスがあっても、彼は殺す代わりにあの子を助けたのよ、Mulder。それにWilliamだけじゃなくて私のことも、あなただって殺すことができていたと思うわ。今また連絡してきたのは、どうしても私に話すことがあるからだと思うのよ。ただ、kinnerが一緒にいて話すかどうか疑わしいけど・・・。」
僕は彼女の勇気と、どんな状況にも怖じ気づかない強さを今度ばかりは憎んだ。
「奴の考えなんか分かったもんじゃないぞ、Scully。君を危険な目にあわせたくない、行くなら僕も行く。」
「そうしたら誰がWilliamのそばにいるの？奴らが襲ってきたら誰が守るの？あなた以上に信じて預けられる人はいないのよ？Mulder。Williamには守る人が必要だわ。でも私は違う、自分のことは自分で守れるわ。そして行かなければならないのよ。奴らにいつまでも私たちを操れると思わせておくわけにはいかないわ。奴らのゲームで踊らされるのはもういやなのよ！もうこんなゲームは続けられない！今度だけは私たちがアドバンテージをつかめるのよ。そのチャンスがSpenderなら、私は十分に利用するわ。」
「君を危険から守りたいだけじゃないんだよ、Scully。僕が言いたいのはこの話があまりにうますぎる、ということなんだ。奴らはおなかの子を何が何でもほしがっているだろう？君が行く、と言うことはおなかの子も行くということだ。もし失敗したらWilliamはまた母親を失い、僕は・・・」
僕は続きが言えずに言葉を切った。
「僕は君を、そしておなかの子まで失ってしまうのに耐えろと言うのか？君は僕の全てなんだよ、Scully。」
彼女は僕の手を取り、カウチへ引いておなかの丸みの上に乗せて、ダイニングルームの飾り窓をじっと眺めた。
午後の柔らかい光が部屋中を黄色と白に照らしていた。
僕が彼女の顔を見ようとすると光が横から入ってきて、まるで光の束の中に彼女がいるように見えた。
「あなたがアブダクトされてしまった時、ここにあなたの一部が宿っていたわ。あの時私は、Williamは私とあなたの子意外の何者でもないと思いこんで、それがあなたが戻ってくるまでの間、私を支える大きな柱だったのよ。奇跡が起きたんだと信じたかったのよ。でもその時もっと疑問に思うべきだったかもしれないわね、Mulder。あんなに奇跡を盲目的に信じるべきではなかったのよ。でも私はあの子を産みたくて、どうしてあの子ができたのかの理由なんて、どうでもいいことだったわ。でもあの子を産むときに周りを囲まれて、私はなぜこの子の誕生の訳を考えなかったんだろう、と後悔したわ。けどね・・・、あの子が産まれるのを見たとき、そんな疑問はまた心の奥に隠してしまったの。そして今、その答えが分かることができるのかもしれないのよ。遅いかもしれないけど・・・でもいつかはこうなることを分かってもいたのよ。」
「Scully・・・。」
「奴らにうまく操られたために、私たちは1年もWilliamと離ればなれにならなければならなかったわ。初めは、私もWilliamの能力を信じるのが怖かった。そして、能力が何であれ私から連れ去られることが怖かった。でも、私はまだ怖いのよ、Mulder。これまで以上に怖いのよ。今私たちは子供達がいることで反撃ができないのに、奴らはいつか来るかもしれない。でもこれからはそんな恐怖で私をコントロールなんてさせないわ。ずっと奴らの作ったルールの中で暮らしてきたけど、もうそんなことはさせない。この場所も見つかるのは時間の問題かもしれないけど、今度は奴らが追いつく前に私たちが手を打つのよ。Mulder、私は絶望してやけになっているんじゃないわ、反対なの。今私はチャンスを握ったことで希望でいっぱいなのよ。もう奴らにも怪物にも、私の体も、子供達も操らせやしない。もうそんなことは終わりなのよMulder、延々と続いていたような輪は、ここで切れるかもしれないのよ。」
もう僕には何の言い返す言葉がなく、うなずいてScullyをしっかりと抱きしめた。
僕はいつも彼女の苦痛や怒りを見守り続けてきた。
今度こそゲームの主導権を握ろうとする彼女を止めることは、僕にはできない。
数ヶ月前、デンバーのモーテルで僕が思ったことは間違っていた。
僕はあの時あまりの苦しみで彼女の糸が切れてしまい、壊れてしまったと思った。
あまりの苦痛と怒りが彼女の心を襲って、彼女は自分を見失ってしまったと思った。
時間や愛でも、もはやScullyの傷は埋まらないのではないだろうか、とも思った。
彼女が起きあがり、希望を持つまで僕は辛抱強く待っていよう、と思っていた。
僕がそんなことを考えていた間、彼女の中では何が起こっていたんだろう。
Scullyは僕たちの人生を取り戻す計画をじっと考えていたのだろうか？
奴らを叩きつぶす計画を考えていたのだろうか？
Scullyは精神の端に押いつめられ、もう崩れ落ちる寸前にいるのかと思っていたが、だが彼女はつま先を地面に刺して、これ以上端に追いやられないように抵抗していたんだ。
奴らはScullyを過小評価していただろう。
奴らは彼女を限界点に追いつめる代わりに、もう後戻りのできないまっすぐな道の前に彼女を押し出したのだ。
沈黙や涙、そして怒りと引き替えに崖を上り、岩肌で爪がはがれ落ちても底からはい上がり、とうとう闘う順番をつかみ取った。
涙がこぼれ落ち、どんなに心を痛ませてもくじけることなく、
Williamを取り戻すために懸命にはい上がったんだ。
復讐するために。
だが彼女の復讐はさびれた家系を血で染めるような方法ではない。
取引や妥協、トレードもない。
これまで受けた苦しみを奴らにはらし、命よりもっと大事にしている物をもぎ取るだろう。
奴らが一番ほしがっている物---権力を。
奴らはきっとダメージの大きさに降伏し、彼女が求めている物を全て与えなければならなくなるだろう。
Scullyはきっとこのゲームに勝利する。
-X-
「3時間ずっと電話し続けたんだぞ！君とScullyはどこにいってたんだ！？」
ドアが開いてSkinnerが入ってくるなり僕は怒鳴りつけた。
「逃げられたんだ！」
Skinnerも足を踏みならしながら怒鳴り返した。
「逃げられただと？どういうことだ？Scullyはどこだ！」
僕は腕にWilliamを抱きながら繰り返した。
「Spenderと一緒にドアから逃げたんだ。D.C.中を5時間探し続けたが、まだ彼女は見つかっていない。」
「何があったんだ？！どうして逃げたんだ？！」
「Mulder。」
SkinnerはWilliamを見て声を落とすように警告した。
「Scullyはどこに行ったんだ？」
僕は我に返り、声をなるだけ抑えて尋ねた。
「わからない、消えたんだ。」
Skinnerはメガネを直しながら答えた。
「Spenderがこうするように計画していたのかもしれん。私がちょっとバーのドアに気を取られて、彼らに戻したときにはもういなかったんだ。Spenderはあらかじめ裏口のドアから逃げることを計画していたに違いない。」
「みすみす逃がしたって言うのか？Scullyがどれほど危険か分かっていたんじゃなかったのか？なぜ目を離したんだ！」
僕は怒りにまかせて叫び、Williamをきつく抱いて部屋中を歩き回った。
Williamは僕の声に驚いたように目を大きくさせて固まっていた。
僕はハッと気が付いて、Williamの耳に「大丈夫だよ。」とささやきかけた。
「私はまるで疫病神だ。」
Skinnerはキッチンの椅子にドサッと腰を下ろした。
「オレゴンの時は彼女が自分で行く代わりに私を君と一緒に行かせ、そして君はアブダクトされた。今日私は君の代わりに行って、彼女は消えてしまった。」
Skinnerは頭を振り、眉間に深いしわを寄せた。
僕は彼を気の毒に思い、声を落とした。
「Skinner、どうしてScullyは付いていったんだろう？無理に連れて行かれたんじゃないのか？」
「どうして彼女が行ってしまったのかは分からない。私たちがバーに行くとSpenderはもう座って待っていたんだ。Scullyは私に別のテーブルに座るように言い、彼の横に腰掛けた。それで私は横のテーブルに座って二人を見張っていたんだ。二人は30秒ほど話し、私がドアから入ってきた客をチェックして二人に振り向くと、もう二人は席から走り出していた。私も後を追いかけたが、バーはランチタイムで混んで邪魔で前に進めにやっと裏口から外に出ると、二人の姿はもうどこにもなかった。」
「今すぐScullyを探しに行く。」
「Mulder、Williamはどうするんだ。父親のお前がそばにいてやらないと。」
「だがここで座っている間も危険な目にあっているかもしれないんだぞ！？探しに行かなければ！」
僕は自分の怒りをコントロールできなくなり、大声で叫んだ。
Williamが驚いて泣き出し、僕は抱き直して安心させるために額にキスした。
「すまない、Mulder。」
Skinnerは僕と目を合わさずにつぶやいた。
僕が自分の怒りを何とかコントロールしようとして立ちつくしていると、ドアがゆっくり開いた。
「心配させてごめんなさい。」
まるで買い物か日曜日の散歩でもしてきたような足取りで、Scullyが帰ってきた。
「Scully・・・！どこに行ってたんだ！」
僕は彼女を責めるのと、もうどこにも行かせないように抱きしめたい気持ちに同時に襲われた。
Scullyは中に入り、Skinnerに近づいた。
「Sir、勝手な行動をしてすみません。でももう大丈夫です。これからMulderと二人だけで話をします。」
Skinnerは本当に無事なのかと質問し、彼女が“大丈夫です”と答えると椅子から立ち上がり、ドアを開けて出ていった。
Scullyはキッチンを歩き回り、落ちつかなげに食器や髪を触り、着ている服のしわを伸ばした。
「何があったんだ？Scully。これまで一体どこにいたんだ？ずっと心配していたんだぞ！」
「Williamを部屋に寝かせてきて。話をしましょう。」
僕は長い廊下を歩いて寝室のベビーベッドへウィリアムを寝かせ、背中を撫でながらさっき怒鳴ったことをあやまった。
〈ごめんよ、William、ただママのことを心配しただけなんだ。〉
「さあ、Scully、教えてくれ。何があったんだ。」
僕はキッチンに戻るなり彼女に聞いた。
彼女はストーブの脇のキャビネットからグラスを出し、水をなみなみとついで一口飲み込んだ。
だが緊張しているようで落ち着かず、グラスを握りしめながら不安な思いを抱えているように見えた。
僕は彼女のそばに近づいてそっとグラスを取り、カウンターの上に置いて彼女を抱きしめ、頭の上にキスした。
「何があったんだ？Scully。」
「・・・Spenderが私に・・・」
「奴が何かしたのか？もし君に何かしたなら、奴を殺す。」
まるで火にあぶられたように怒りが肌を燃え上がらせた。
僕は彼女のおなかを触ろうとしながらScullyの表情をうかがった。
彼女の目はまだ不安な表情のままで、顔色も青ざめて見えた。
「違うわ、Mulder。そうじゃないの。私がしたのよ、私が・・・」
Scullyは言葉をとぎらせ、顔を僕の胸に埋めた。
「言ってくれ、Scully。何があったんだ？」
「Mulder、私は操られることがもういやだったのよ。でも私がしたことを聞いたら、あなたはきっと怒るわ。」
Scullyは僕から離れると背を向けてうつむいた。
「何をしたんだ？」
僕は彼女の肘を持って振り向かせた。腕に力を入れたつもりはなかったが、彼女は顔をしかめて腕を戻した。
「奴が何かしたのか？殴られたのか？」
僕はブラウスの袖を上げて傷がないか確認しようとすると、Scullyは振り向いて僕を見上げた。
彼女が家に帰ってきてから、やっと目と目を合わせて見つめ合った。
だが彼女の瞳の中の瞳孔は異常なほど開き、瞳全体も充血していた。
「Scully、目をどうかしたのか？」
彼女はためらわずに一息に答えた。
「これはSpenderが注射した薬の副作用よ。」
-X-
〈Continued in Chapter 9〉
