From：http://www.angelfire.com/ms/KtblleStorage/supernova.html
Disclaimer：Not mine; don't sue.
The Marionette Rebellion
-7-
注：この作品はシーズン9「The Truth」のスポイラーficです。ネタバレをお避けの方はお読みにならないでくださいませ。
*この作品は、モルダーとスカリーが希望を信じて、力を尽くしてウィリアムを取り戻す物語です。
*長めの作品ですので、できればお時間のあるときにゆっくりお読みいただけたらと思います。
作：supernova
訳：tomo
-X-
Chapter Seven
-X-
最高速度で空港まで車を飛ばした。
Scullyは車の中で黙ったまま唇を噛み、手をぎゅっと握ったまま窓の外を眺め、これから起こることを想像して心配していた。
空港の駐車場に車を突っ込みチケット・カウンターに駆け寄ってワイオミングへの一番早い便を求めたが、その便はあと3時間後しかなかった。
仕方なくその便のチケットを買い、Skinnerに電話して事情を説明した。
彼はワイオミングのほとんどの郡を扱っているデンバー支局に連絡し、Van de Kamp家へ代理を派遣して自分もワイオミングへ行く、そこで会おう、と言った。
運が良ければ僕たちよりも早くワイオミングに着けるかもしれない。
-Cheyenee Airport Cheyenee, Wyoming-
Scullyがレンタカーの手続きをしている間に、僕はバゲージ・サービスのベルトが回りだし、乗客達の荷物が流れてくるのをイライラしながら待っていた。
もう40分も前にワイオミングに到着しているのに、こんなときに限ってすべてに時間がかかる。
やっと最後になって僕たちのバッグがベルトに乗って運ばれてきた。
僕はそれをつかんでScullyに駆け寄った。
彼女もレンタカー会社のカウンターから鍵をもらうと人ごみをかき分け、出口に向かって走り車を探した。
砂で荒れたワイオミングのI-25の道は、僕たちの前を永遠につながっているように長く続いていた。
大地はひからびて疲れ切ったように乾いた風を吹き荒らし、まるで砂を叩きつけて僕たちの行く手を邪魔しているようにさえ感じる。
窓からは容赦なく強い太陽の光が照りつけ、日差しから少しでも離れられるようにScullyは腰をずらして僕の方に寄った。
ジーンズのポケットに入れていた携帯が鳴り、僕はなんとか手を動かしながら抜き取って耳に当てた。
「もしもし。」
「Mulder、今どこだ？」
Skinnerの声だった。
「今I-25を通ってウィートランドへ向かっている。どうしたんだ？何かあったのか？」
「Van de Kampの家についてウィリアムを保護した、だが事件が起こったんだ。急いでこちらへ来てくれ。」
「Williamは大丈夫なのか！？」
「ああ、ここにいる。」
「Skinner、何があったんだ？」
「ここに来れば分かる。だから早く来てくれ。」
「わかった。急ぐよ。」
僕はさらにスピードを上げながら、携帯を切った。
「何なの？」
Scullyが心配げに僕を見つめた。
「詳しいことは分からない。だがWilliamは無事だったよ。」
僕はなるだけ安心させるように言い、彼女は固く唇を結んで微笑んだ。
「こんな時に何も分からないのね。」
Scullyは窓を指先で撫でながら言った。
「何が？」
「Williamよ。私たちがあの子を迎えに行くのにノース・カロライナで3ヶ月も待って安全を確かめていたのに、この肝心なときに何も分からないだなんて。大体3ヶ月も待つ必要はなかったのよ。それにまず・・・、私があの子を養子に出すべきではなかったのよね。」
Williamは神経質にそわそわしながら言った。
「あの時はそれがWilliamにとって一番良いと思ったからそうしたんだろう、Scully。自分の気持ちを犠牲にして、あのこの幸せを願って決定したんだ。自分を責めることはないんだよ。」
「でも、おなかの子の妊娠が分かったからじゃないのよ。」
「何が？」
「私がWilliamを取り戻したいと思ったことよ。気持ちはいつも強くあったのよ。あなたの殺人罪の疑いが晴れたときに、きっとこのことを解決できる方法を話し合えると思っていたの。その間は自分のした選択はあの子のためにも間違いなかったって自分で思いこめると信じていたけど、違ったわ。毎日、毎日後悔しない日はなかったのよ。」
「わかるよ、僕もWilliamを取り戻すことを毎晩夢に見る。」
「あの子を守りきれないと思って手放したら、今度は私たち自信が逃亡しなくちゃならなくなって・・・、そして今あの子が危険な目にあっているというのに迎えに行くどころか、まだ逃亡中だなんて笑えるわ。」
Scullyは苦しそうに鼻で笑った。
「今朝空港でSkinnerと連絡したときに、君やWilliamへの危険が消えるまで過ごせるようD.C.か、その周りで安全な場所を探している、とSkinnerは言っていたよ。」
「Williamを連れては逃亡はできないわよ。もうこれからどうなるのかわからないわ。」
Scullyはため息を付いた。
「ああ、僕もだ。」
「私たちが“Williamを返して”と言ったら、養父母はなんて言うかしらね。」
「わからないよ。でも僕はD.C.へ戻ったらすぐに養子縁組をした協会へ行って、“父親としてこの縁組を知らなくて、同意していなかった、この縁組は無効のはずだ”と言ってみるよ。Kamp氏には悪いと思うがWilliamは狙われているんだ。それにもしそうでないとしても、Williamを取り戻さなければならない。Scully、僕たちの元にね。」
「Skinnerは“事件”と言ったのよね？今Williamに何が起こっているのかしら。」
「すぐに分かるよ。」
僕たちは手をつないで前を見つめた。
以前来たときに見た標識が道に出始めて、砂利道の上をさらにスピードを上げてKamp家へ急いだ。
だが僕たちがが近づくと共に、5、6台のパトカーと乗用車が家の前に停まり、不吉なサイレンを光らせているのが見えてきた。
「何なの・・・！？」
Scullyはあえいだ。
車を警察のクルーザーの横に停め、車から飛び出てSkinnerの姿を探していると、家の中から40歳くらいの背の高い男が出てきて僕たちを呼び止めた。
「Fox MulderさんとDanna Scullyさん？」
「ええ、そうよ。FBIのSkinner副長官はどこ？」
Scullyは表情を固くしてその男に聞いた。
「私はプラット郡警察のMichael Shanksです。」
男はそう言って握手の手を出した。
「Skinner副長官はここにはいません、あなたたちの息子さんを病院へ連れて・・・」
「あの子に何があったの！？どうして病院に！？」
「息子さんは大丈夫です、落ち着いてください。ただ念のため病院で診察してもらうだけです。」
「一体ここで何があったんだ？説明してくれ。」
僕はScullyの手をきつく握りしめた。
「FBIのデンバー支局から派遣された二人の捜査官がこの家を訪れ、鉢合わせになった侵入者に至近距離で撃たれました。一人の捜査官は死亡し、もう一人は重体で病院に搬送されました。この家のBarbara Van de Kamp夫人も撃たれて死亡、主人のVan de Kamp氏は格闘して侵入者を撃ったが自分も撃たれて死亡しました。侵入者の身元はまだ判明していませんが、Kamp氏の散弾銃を浴びて出血多量で死亡しました。ですがあなたたちの息子さんは無傷で助かりましたよ、ただ念のためをと思い、病院で診察しています。」
夕日の光が針葉樹の森を照らし、空をブルー・グレイに染めながら、大地の上一面に木の陰を投げかけた。
パトカーのサイレンの光が頭の中で渦巻いて、これまで僕が経験してきた犯罪現場が呼び起こされ、識別がつかないほどひどい死体やパジャマの胸の部分をハート形に切り抜かれた少女の死体が頭の中で蘇り、ここで起こったことがスライド・ショーのように頭の中で再現されて僕の胸を押しつぶした。
Williamがそんな中にひとりぼっちでいただなんて。
あの子の明るい澄んだ瞳で、その惨状を目撃してしまったんだろうか。
僕はWilliamが惨状から離れた部屋で、何も知らずに眠っていてほしい、と心の中で願った。
「Kamp夫妻が・・・亡くなったの？」
「ええ、残念ですが。」
「Williamはどこの病院にいるの？病院にはどう行けばいいの？」
「プラット郡記念病院です、ここから8マイルしか離れていません。左の道を行って町に出て最初の信号を右に曲がれば、すぐ病院です。」
「ありがとう。」
僕とScullyは同時に言い、車に乗り込んだ。
-X-
-Platte County Memorial Hospital Wheatland, Wyoming-
「子供がここに運ばれたのよ、会わせて！」
Scullyが息を切らせながら受付の看護士に訴えた。
「名前は？」
看護士は無表情に事務的に答えた。
「“William Mulder”だ。」
僕が答えると、看護士はキーボードを叩いて検索し、首を傾げた。
「“William Mulder”という患者はいませんが。」
「“William de Kamp”の名前かもしれないわ、それで調べて。」
“Steven Prest”と名札にある看護士はまたキーボードを叩こうとしたが途中で指を止め、
「すみません、何というお名前でしたか？」
と聞き直し、のんびりとまた調べ直し始めた。
「分かりましたらお呼びしますので、それまでお掛けになってお待ち下さい。」
僕たちがいくらイライラしていても看護士はまったく気に掛ける様子もなく、机の上の書類を整理しながら椅子を指差した。
僕はScullyと目を見交わした。
彼女の瞳には夢と希望を託したそのものの存在であるWilliamを心配する、女性としての、母親としての強いまなざしが光っていた。
「いいから今すぐ調べるのよ！息子がFBIのSkinnerに連れられてここに来ているはずなのよ！Williamは今さっきあった殺人事件の唯一の生存者なのよ？分かったらぐずぐず言ってないでさっさと調べなさい！」
Scullyはのろまな看護士と顔をつきあわせて一気にまくし立てた。
「そ、そ、そんなに怒らないでください、わかりました、い、い、今すぐお調べしますから。」
看護士はキーボードの前に座り、今にもちびりそうな顔をして名前を調べ始めた。
Scullyをあんなに怒らせておいて、無事だった奴など一人もいない。
張りつめた空気の中、Scullyは怒りを我慢しながら震えていた。
僕たちは看護士の答えを待ちながら、Kamp家で起こったことを思い出していた。
あまりにも突然の不幸で、信じられないほどだ。
そしてその事件の責任の一端は僕にあることも感じていた。この事件の予想はできたかもしれないのに。
だが、今はWilliamの無事な姿を見たいことで頭がいっぱいで、それ以上考えることはできなかった。
まず息子のことだ。僕の罪のことは後で考えよう。
ScullyはERの扉の前を、まるで檻に入れられた動物のように落ち着かなげに歩いていた。
僕は彼女のそばによって肩に手を置いた。
彼女は僕の手で少し落ち着いたように足を止めて頭を振り、前屈みになって腕の中に抱きしめられた。
僕たちは少しの間そのまま抱き合い、気持ちを分かち合いながらWilliamの無事を願った。
顔を上げると廊下の端からSkinnerのシルエットが歩いてくるのが見えた。
僕は彼女の顔を手で包んで上げ、額にキスしてそっと肩を回し、後ろを向かせた。
トレンチコートをなびかせながら僕たちの方に向かって歩いてくるSkinnerの姿を、今でも一瞬一瞬が目に焼き付いている。
彼の腕にはブラウンのカーリー・ヘアをしたWilliamが抱かれ、Skinnerが一歩一歩歩くたびに髪が弾んでいた。
Skinnerは少し疲れたような顔をしていたが、それでも微笑んで大股で近づいてきた。
Scullyは手を口に置きながらWilliamを見つめ、これまで続いていた苦痛を洗い流すように涙を流した。
今ようやく、彼女が心も体も痛めて思い続けてきた息子が彼女の元に返ってきたのだ。
僕の目にも涙があふれた。
僕のこれまでの息子を思う気持ちが解放され、涙が出ずにいられなかった。
Scullyは恵みの雨のように涙を頬に降らせながら、両腕を上げた。
Skinnerは立ち止まり、Willamを彼女の腕に、しっかりと抱きしめさせた。
「私のWilliam・・・。」
ScullyはWilliamの耳元で静かにささやいた。
「会いたかったわ・・・。」
僕は彼女とWilliamを胸にしっかりと抱きしめながら、心の中でささやきかけた。
おかえり、William・・・。
-X-
〈Continued in Chapter 8〉
