From：http://www.angelfire.com/ms/KtblleStorage/supernova.html
Disclaimer：Not mine; don't sue.
The Marionette Rebellion
-5-
注：この作品はシーズン9「The Truth」のスポイラーficです。ネタバレをお避けの方はお読みにならないでくださいませ。
*この作品は、モルダーとスカリーが希望を信じて、力を尽くしてウィリアムを取り戻す物語です。
*長めの作品ですので、できればお時間のあるときにゆっくりお読みいただけたらと思います。
作：supernova
訳：tomo
-X-
Chapter Five
-X-
Scullyは呆然と僕を見つめていた。
うつろに。
怒りと。
悲しみ。
血のにじんだ拳。
涙で濡れた顔。
「ごめんなさい。」
彼女のつぶやき。
後悔。
床に散らばった破片。
彼女の心のように、粉々に砕け散ったガラス。
もう元に戻せない。
1秒、1分、1時間。
時が僕たちの間を流れる。
気まずさ。
静寂。
〈それ以上苦しまないでくれ。〉
〈僕が慰めてあげるから。〉
そう言ってあげたかった。
きっとScullyはうなずき、両手を上げてこう言うだろう。
〈慰めて、Mulder。〉
だが、何も言えなかった。
その代わりに彼女を支えながら立たせ、バスルームへ行って洗面台に水を流した。
拳の傷の間を水が流れ、薄い血の色に染まって円を描きながら流れていく。
痛み。
〈泣かないでくれ、Scully。〉
心の中でつぶやいた。
彼女にそんな事は言えない。
彼女が受けてきた痛みは、例え100年泣いても追いつかないほどだ。
僕は待っているよ、Scully。
君は必ず立ち直ってきた。
ゆっくり時間をかけていいんだよ。
僕は待っているから。
「明日ここを発とう。」
僕はＴシャツを脱いで切り裂き、彼女の手を包んだ。
「なぜ？しばらくデンバーにいると思ったのに。」
「ここも安全かどうか分からない。」
「わかったわ・・・。」
あきらめ。
震えながら僕の髪をなでる指。
無力。
〈消えていかないでくれ、Scully。〉
身勝手。
彼女はベッドに横たわり、シーツの間に顔を隠して眠った。
安らぎ。
〈おやすみ、Scully。〉
僕は心の中でつぶやいた。
おやすみ、昔君が満ち足りて、幸せだったことを夢に見て。
僕たちが笑顔だった頃を夢に見て。
-X-
-Goodland, Kansas-
「大丈夫かい？Scully。」
「ええ。」
-X-
-Junction City, Kansas-
「少し休んで何か食べよう。」
「いいわ。」
-X-
-Topeka,Kansas-
「何か話してくれ、Scully。」
「停めてくれる？」
「どうした？気持ち悪いのか？」
「ええ。」
-X-
-Columbia, Missouri-
「手の具合はどうだい？まだ傷むかい？」
「平気よ。」
-X-
-St. Louis, Missouri-
「疲れたかい？今日はここに泊まろうか。」
「ええ、少し眠りましょう。」
-X-
-Marion, Illinois-
「きっと解決できるよ、Scully。眠ったのかい？」
-X-
-Nashville, Tennessee-
「Scully、何かほしい物はあるかい？給油するついでにひまわりの種を買ってくるから。」
「お水と、なにか頭痛薬を買ってきて。待って、タイレノールがいいわ。妊娠中はこの薬がいいの。」
「おなかの子の具合は？」
「いいわ、大丈夫よ。」
-X-
Knoxville, Tennessee-
「ネバダの施設で何を見つけたの？」
「大量のファイルだ。」
「何か驚く内容はあった？」
「ああ。」
「私に話してないことがあるでしょう？」
「・・・後で話すよ。」
-X-
-Asheville, North Carolina-
ドアノブをまわすとキーッとにぶい音を立てて、モーテルのドアが開いた。
背中を痛めながら、国を半周するほどの長距離ドライブの末にたどり着いたこのモーテルの部屋は、これまで泊まってきたモーテルと何ら変わらない部屋だった。
薄いマットレス、大量生産の安物の家具、19インチTV、ミラーの付いたクローゼット、すり切れたカーペット。
Scullyがダッフルバッグをひきずりながら入ってきた。
バッグは僕が持つと言ったが、彼女は自分は病人じゃないから、と言って断った。
病人じゃなくても、彼女の手はまだ痛んでいるだろうに。
僕は部屋のキーとひまわりの種の袋をテーブルに置いて、さっきから痛むほどたまっていた膀胱の中身を出すためバスルームへ行った。
Scullyは4日前と変わらない、うつろな表情でベッドに座った。
「Hey、Scully、僕はシャワーを浴びるよ。」
僕は最高の開放感を感じながら、肩越しに声を掛けた。
「わかったわ。」
シャワーを浴びて出てくると、Scullyは僕のTシャツを着てもう眠っていた。
彼女が僕のTシャツを着ている姿は好きだ。
こんな逃亡の途中ではあるけれど、まるで普通に生活しているカップルのように思えてくる。
僕もベッドに入り、彼女と向き合って横になった。
数え切れないほど多くの夜を一緒のベッドですごし、同じように車の中でも一緒に過ごしてきた。
Scullyの頬にそっと指をすべらせた。
彼女の肌は僕の硬い肌とは反対に柔らかく、あたたかかった。
彼女の体はリラックスしたままで、無言で“続けて”と言っているようだ。
髪はまるでシルクのようで、指ですくい上げるとサラサラとこぼれていく。
皮肉なことに、僕の目には彼女の髪は赤く映らない。
どんな人でももう一人の人間が見る世界を、完全に分かりきることはできないだろう。
僕は彼女の瞳に景色がどんな美しさで映っているのか、きっと永遠に知ることはできないだろう。
彼女の手は繊細で、とても強い。正反対の意味だが、彼女の手はまさにその通りだ。
手だけでなく、彼女自身も。
僕の頬に涙が流れた。
「ごめんよ、Scully。」
彼女が目を覚まさないように、そっと小声でささやいた。
僕たちが望んでいた暮らしは、手のひらにすくい上げた水のようにこぼれ落ちていってしまう。
こぼさないように指に力を入れて止めようとしても、それでも気付かない内に水は一滴、一滴とゆっくりとこぼれ続けて、いつの間にか手は空っぽになってしまう。
君に謝りたい言葉が何度も何度も繰り返し、頭の中を飛び交い続けた。
しかしそれ以上言葉は出ず、僕は魂を奪われたように抜け殻のような自分の手を見つめていた。
だが眠っている彼女の手をそっと取り、心の中で静かにつぶやいた。
どれだけWilliamが恋しいか、君に言っただろうか？
Skinnerから君の決断を聞いたとき、僕の心臓は凍りつき、次の瞬間笑い出して、心配げに見ているヤツに言った。
悪いジョークはやめてくれ。僕の息子だぞ。
彼は『分かっている』と真剣な顔で言い、僕はこれがくだらないジョークでないことを悟った。
ジョークでも、朝になれば抜け出せる悪夢でもない。彼は真実を話していた。
Skinnerは君から電話があった日のことを話し出した。
君は彼に電話し、部屋に来た彼の前で泣いたそうだね。
僕はそれを聞いて嫉妬したんだよ。
Skinnerが他のどこでもない、君のそばにいられたからだ。
おかしいだろう？君がつらくてならないときに、僕こそがそばにいてあげるはずだったのに。
そしてWilliamのことを聞いて、僕は怒りたかった。
君に“間違っている”と言いたかった。
僕抜きで決断したことを責めたかった。でも、僕には君を責める資格などないだろう。
それに怒りと同時に、君に他の選択がなかったことも同時に分かることができたんだ。
Skinnerはあんなに感情的に、我を忘れて失望して、絶望的になっている君を見たことがなかった、と言っていた。
Scully、もしそのことを知っていたら、僕が戻ったことを知っているかい？
もし知ったら僕は必ず戻り、君とWilliamを守っていただろう。
何よりも守るために懸命になっていただろう。
君は決してひとりじゃないことを知っているかい？
僕の心がどれほど痛んでいることを知っているかい？
僕はもう昔のような若造じゃない。
昔の僕は自己中心的で、いつも何かに取り付かれて、自分の真実の追究のことだけ考えて突っ走ってばかりいる男だった。
君は今でもそうだというかもしれない。
だが、その目的は昔とは違うんだよ。
君は気付いてないのかい？
君こそが僕の人生の中で、最大の、最重要なことなんだ。
君は僕の希望。そして良心。僕の心そのものなんだよ。
そして暗闇から僕を導いてくれる、たった一つの光なんだ。
-X-
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
眠りで霧がかかった耳に携帯が鳴る音と話し声が聞こえ、そして優しく腕を撫でられた。
「Mulder起きて、Skinnerからよ。」
寝返りを打つと、Scullyがシーツで体を隠しながら僕の携帯電話を持って見つめていた。
僕は電話を受け取って耳に当てながら、枕に頭を乗せ直した。
「僕だ。」
目をこすりながら眠気を追い出した。
「Doggettから聞いたぞ、Mulder。ネバダで金塊を見つけたそうだな。」
Skinnerの声は珍しく嬉しそうだった。
「ああ、Knowle Rohrerの情報もあった。僕たちを消す指令の証拠だ。これで奴がマウント・ウェザーで死んでいない証明になるだろう。」
「そうだな、だが軍はまだKnowle Rohrerの死に君が関与していることは取り下げていないぞ。」
Skinnerは少しの皮肉も混ぜずに言った。
「そうか・・・、だがSkinner、君自身はファイルを見てどう思う？」
「君ははめられたようだな。」
Skinnerははっきり言った。
「その通りだ。」
「Scullyもこのファイルの内容を知っているのか？」
「いや。」
急いでScullyの方に振り返った。
「なぜだ？Mulder。」
「まだその時期じゃない。そんな簡単にいかないんだ。」
Scullyはチラッと僕を見て、微笑みながらまたベッドに横になった。
簡単でないのはいつものことだ。
だが、彼女とおなかの子のことを考えて、あの施設で見たことを伝える言葉がまだ僕には見つかっていなかった。
「二人でずっといて、まだ話さないのか？」
「もう少し時間が必要なんだ。」
「彼女が電話に出たから知っているのかと思ったぞ。」
「いや、後で僕から話す。だからまだ黙っていてくれ。」
「わかった。」
Skinnerははっきり答えた。
「だが、これで僕がRohrer殺しと関わってないことが分かっただろう？」
Scullyが振り向き、眉を上げて問いたげな表情をした。
「まだ二つの事件が関連があったと言い切るだけの状況ではない。」
Skinnerは言いづらそうに言った。
「そうか・・・。ところでファイルにあった“白”と“赤”はどういう意味か分かるか？」
「まだ正確にはわからないが・・・」
Skinnerの声は一段と低くなり、伝えるのを迷っているようだった。
「教えてくれ、Skinner。」
「Scullyとおなかの子の“赤”は恐らく奴らにとって利用価値のある人物で、君とWilliamの“白”は普通の、または価値がなくなったことを表しているのだろう。この分け方で考えられるのはそれだけだ。WilliamはSpenderの注射で普通の遺伝子-能力に戻ったから、君と同じ白になっているんじゃないのか？」
「それでWilliamのことは放っておいて、僕たちの後を・・・赤ん坊を追っているのか。」
僕は腕を顔の上に投げ出した。
やはりそうなのか・・・。
だが、まだこのことをScullyにそのまま伝えることは僕にはできない。
奴らがもう既に彼女の妊娠に気付いていて、しかもその子を狙っていることをどう説明すればいいんだ？
彼女の体と子供が狙われ続けていることを、うまく説明できる言葉を見つけてから伝えなければ、彼女にとってどれだけショックなことか。
「そうだ。奴らはSpenderがWilliamに注射をして能力を無くさせたことを知っているんだろうな。だからSpenderのことも血まなこで探しているだろう。」
「どうなっているんだ？Skinner。どうやって奴らは今の僕たちのことを知っているんだ？それに前に言ったな？ワイオミングの養父母達は僕たちのことを知っていると。どういうことなのか説明してくれ。」
「今は・・・」
「肝心なところをいつまで延ばすつもりだ！？逃げずにはっきり言ってくれ！」
「分かった。落ち着け、Mulder。ワイオミングへ様子を見に行ったReyesからの報告なんだ。Williamの養父母達に事情を説明しようとしたら、その前に彼らがコーヒーを飲みながらこんな事を話し出したそうだ。」
「何だ？」
「Van de Kamp夫人が言うには、Williamを引き取って以来、夫人は普通の子ではないような気配を感じていたそうなんだ。言葉に表せない漠然とした不安だったそうだが、それについて数週間前にある人物が現れて、彼女に興味深い話をしていったそうだ。」
「誰だ？どんな話をしたんだ？」
Skinnerは息を吸い込んで、決心したように話し始めた。
「男の身元はわからない。夫が仕事で出かけている間に見知らぬ男が一人で家を訪ねてきたそうだ。その男は唐突に『Williamについて話がしたい』、と言ったんだ。夫人は見ず知らずの男に自分の名やWilliamの名を呼ばれて危険を感じて警戒したが、その男はすぐに『自分を怖れる気持ちも分かるし、Williamを引き取ってから感じていた漠然とした不安も知っている』、と彼女の気持ちを言い当てたそうだ。そして彼は、『あなたの感じている全ての疑問に答えましょう』と言ったそうだ。」
「なんと言ったんだ？」
「その男は、『Williamには全てを解決する能力を持っていた』と言ったそうだ。『Williamは世界の先例がない敵と戦う軍隊を指揮し、本当の父親と一緒に戦うだろう、そして父親が死んだ時は、Williamこそが人類の最後の宝になるはずだった』と言ったそうだ。」
「それで？」
僕は唖然としながら先を促した。
Skinnerは大きくため息を付き、とうとう聞きたかった核心を話した。
「そしてその男は、Williamの本当の両親が別人のふりをしてここに来るだろう、だが時が来るまではWilliamを連れては行かないだろう、と言ったそうだ。」
「その男は僕たちがいつ来るか、何か手掛かりになるようなことを言ったのか？」
「いや、“すぐに分かる”とだけ言ったそうだ。」
「夫人はその男の言葉を信じたんだな。」
「Mulder、君たちはその翌日に現れたんだぞ。普通の人間が信じるには十分だろう？」
Skinnerは重苦しく笑った。
「そうだな。その男は自分のことを話したか？」
「いや。Williamが部屋で泣き出し、夫人が抱え上げて振り向いたときにはもう消えていなくなっていたそうだ。これで君たちが安全でないことは分かっただろう。」
「ああ。それに今の生活を続けることはできないということもだ。連中はWilliamがどこにいるか把握していて、逆に僕たちは彼から離れられない。もういくら逃げても無駄だ。」
「そうだMulder。だが今はよく考えろ。Williamは今は危険でない。だが必要とあらば君たちをおびき寄せるカードにするだろう。おなかの子供さえネバダの施設で情報を管理され続けていたんだ。逃げないとなると・・・。」
「僕たちはD.C.へ戻る。」
Scullyが頭を起こして目を見開き、どうしたのかと問うように手を僕の腕に置いた。
Skinnerは渋ったが、僕はこの逃亡を根本的に解決するためにはD.C.へ行く必要があると主張した。
そしてD.C.に着いたら必ず連絡することを約束して、携帯を切った。
「Scully、D.C.へ行こう。理由はその間に話すよ。」
僕は気持ちを固めながら天井を見上げた。
彼女はうなずき、何も聞かずに荷物をまとめ始めた。
-X-
-Petersburg, Virginia-
「それで、私とこの子は“赤”のカテゴリーに分けられていたのね。」
「ああ。そしてWilliamと僕は“白”だった。Skinnerが言うには、“白”はもう奴らに利用価値はない、ということらしい。」
「Williamにはもう危険はないの？」
「まだ分からないんだ、あまりに情報が少なすぎる。だがこれだけは言えるのは、奴らもWilliamの居場所を知っていて、必要があったらすぐにでも行動を起こすだろう。」
-X-
-Richmond, Virginia
突然目の前に彼女が現れて僕にささやき、現れたのと同じくらい早く、彼女の幻が消え去った。
僕は呆然としながら車を走らせ、前を見つめた。
「Scully、僕を信じるかい？」
ハンドルを硬く握ったまま、落ち着こうと息を吐いた。
「ええ、もちろんあなたを信じてるわ、Mulder。」
「これ以上D.C.には行けない。」
僕は冷たい汗をかきながら、きっぱり言い放った。
「どうして？」
「『これ以上は危険だ』と言われたんだ。」
「いつ？」
「今だ。」
「一体何を・・・？ああ、分かったわMulder。また誰かの霊に言われたのね？誰？教えてくれたのは。」
「Skinnerに計画を変えることを連絡しよう。」
「あなたが狂ったとは思いたくないけど、Mulder。あなたは私が出会った中で一番クレイジーな人だわ。」
「ありがとう、Scully。」
僕は顔をこわばらせながら笑った。
「それで？誰なの？」
「言わない方が・・・」
「Mulder、いいから言って！」
「・・・Skinnerに連絡してから・・・」
「停めて、Mulder。」
「Scully？」
「停めて！」
僕は急いでウィンカーを出して速度をゆるめ、緊急レーンに停車して目を閉じた。
「なぜ私を信じて言ってくれないの？Mulder。これだけあなたと一緒にたくさんの事をくぐり抜けてきたのに、まだ足りないと言うの？それは私も弱かったときもあったわよ、でも私を優しく守ろうだなんて思ってほしくないわよ。つらいわ、Mulder。私はこれまでの10年間に起こったことからも学んでいるのよ。でもいつまでもあなたが守ろうとしてばかりいる限り、私はいつまでも強くなることができないのよ。」
Scullyは呼吸を整えた。
「あなたに霊が見えること、それは真実として認めるわ。死んだ人々があなたの所を訪れてアドバイスしてくれるのはある意味で心強くもあるわ。でも同時に寂しくもあるのよ。私には見えないし、あなたのそんな能力を説明することも、科学的に証明することもできないけど、でも認めるわ。だからお願いよMulder。教えて。」
「Scully・・・」
僕は静かにつぶやき、彼女に顔を向けた。
「Mulder、言って。誰の霊が来たの？」
僕は彼女の手を握り、頭をさげた。
「君のママだ。」
-X-
〈Continued in Chapter 6〉
