注：この作品はシーズン9「The Truth」のスポイラーficです。ネタバレをお避けの 方はお読みにならないでくださいませ。

*この作品は、モルダーとスカリーが希望を信じて、力を尽くしてウィリアムを取り 戻す物語です。
*長めの作品ですので、できればお時間のあるときにゆっくりお読みいただけたらと 思います。

作：supernova    訳：tomo

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Chapter Three

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「盗聴されてないか？」

「ああ。」

「こっちはいい天気だよ。ところでプレゼントは受け取った。」

「そうか。次にどうするかはわかるだろうな？Mulder。」

「ああ。この時をずっと待っていたからな。だが僕とScullyで侵入するには問題が出たんだ。」

「どういうことだ？何があった？」
Skinnerは少し不安げな気配を声に漂わせた。

「なんと表現するかな、強いて言えば“興味深い発展”だ。」

「ふざけるな、Mulder。お前のたわごとにつきあっているヒマはないぞ。」

「Scullyの体のことだ。」

「彼女に何かあったのか？」

僕は思わず苦笑した。
SkinnerにとってScullyは弱点の一つだ。
多分彼女は知らないが、Skinnerは彼女のことを愛しているのだろう。もっともそれは父親が娘を愛するような愛情だったが。僕もその違いは分かっているつもりだが、それでもチラッと嫉妬の炎が胸をくすぐる。

「その前にSkinner、Williamを取り戻すことで話があるんだが---」

「それはいい考えではないぞ、Mulder。」

一瞬黙った後、僕は彼の警告の声を無視した。

「Scullyが妊娠したんだ。」

「・・・なるほど。」
Skinnerの声には驚きと戸惑いの声が混ざっていた。
「君たちが中西部へ行ったことは聞いている。しかしそれはあまり良いとは思えない行動だったな、Mulder。だが君たちの気持ちもよく分かっている。とにかくワイオミングには様子を見に行かせたぞ。」

「何事もなかったか？」

「ああ。だがそれだけじゃないんだ、Mulder。Williamの養父母は君たちが何者であるかを知っていたんだ。だが、この話はまた後にしよう。」

「何だと？どういうことだ？」

「今はまだそれ以上話せない、Mulder。今はまずい。」

「そっちはどんな状況なんだ？」

「新しく赴任した長官代理がKersh以上に手に負えずに困っている。」

「相変わらずだな。」
僕はフッと笑った。
「まだKershのことも何も分かってないんだろう？」

「まだだ、調べているが何の新しいニュースもない。すまないがもう切るぞ、Mulder。また連絡する。“用心して動け、そして待機しろ”。」

Skinnerはそう言って電話を切った。
僕とSkinnerの間には事前に暗号コードを決めていて、それは僕たちの会話を万が一聞かれた場合でも居場所がばれないようにするためだったが、今Skinnerはその一つを使った。
僕の頭の暗号解読器が今の言葉を、“デンバーへ行き、しばらく潜伏していろ”と解読した。


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「“私たちを知っていた”ってどういうこと？」
Scullyは眉を上げて髪をかき上げた。彼女も僕と同じく困惑していた。

「Skinnerが言ったのはそれだけなんだ。作り話でもないらしい。だがすぐにまた連絡がとれてはっきりするよ。」
僕は彼女を落ち着けようとしたがあまりに疲れていて、おまけに僕自身も落ち着いていることができなかった。

「今すぐ聞きただすのよ、Mulder。何が私の子に起こっているのか知らなくちゃ。」
Scullyは電話に急いで近づいた。

「“僕たちの子”だよ、Scully、僕たちの子供だ。」

「ごめんなさい---ただ私たちの子に何があったのか知らないと---。」
Scullyは目を伏せて言い直した。

僕は電話の前に立って彼女を止めた。
「Scully、今僕たちの方からSkinnerに連絡することはできないんだ。彼がかけ直せるまで待つしかないんだよ。
」
僕は疲れからか激しい頭痛がして、眉間をさすりながら説明した。

「何が起こったのか知らないでいられるの？Mulder、今すぐかけるのよ。」

僕が目を開けてScullyを見ると、まるで10年前と変わらないようにまっすぐに強い瞳で僕を見つめていた。
あれから10年、彼女は決して弱くなることなく、さらに強くなっていた。

「Skinnerがかけ直してくるまで待つんだ、Scully。最後まで話せなかったのは何かわけがあったんだよ。必ずかけ直してくる、だから今は待つんだ。Williamを取り戻したかったら落ち着いて待つことも必要だよ。」

「わかってるわ。」

「Skinnerに国防省施設への侵入に君が行けなくなって、別の計画がいることを話したんだ。今ヤツは別の計画をたてようとして動いているに違いない。」

「私は行けるわよ。」
少しのためらいが声に混ざっていた。

「今はやめておいた方がいい、君にもおなかの子も安全でいてほしいんだよ。国防省の施設に侵入するのはあまりに危険すぎる。僕たちは今の生活を送っているだけで十分に危険なんだから。わかってくれ、Scully。」

「・・・OK。」
Scullyはあきらめたようにため息を付いた。

「少し休もう。Skinnerが次に僕たちがどこに進めばいいか教えてくれたよ。そこまで2、3日かかるだろうが、それだけの価値はある場所さ。」

「何て言ったの？」

「“用心して動け、そして待機しろ”。」

「デンバー？」

「デンバーだ。」
僕はうなずいた。


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-Barstow, California-

「気分はどう？Scully。」

「大丈夫よ、Mulder。」

「よかった。」


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-Las Vegas, Nevada-

「Scully、僕がいなかった間のことを話してくれるかい？もちろん君がくわしく話したくないのは知っているけど、でも僕が戻ってきてからもう1年たつんだ。話してくれないかい？」

「いやよ。話したくないのよ、Mulder。」


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-St. George, Uta-

「大丈夫かい？Scully。今日は3度目だな。警官の前で吐いたらどうなるかと思ったよ。」

「もう大丈夫よ、Mulder。」

「OK。」


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-Hurricane, Utah-

「どうして妊娠したのかしら？Mulder。」

「それは僕たちが愛し合った結果だろう？」

「ちゃんと避妊していたのに。」

「ピルは100パーセント避妊が可能なのかい？」

「違うわ。」

「それならScully、僕たちがただラッキーだったってことさ。」

「もっと違う言い方して。」

「ん・・・。」

「Mulder。」

「なんだい？」

「Williamの能力のことをどう思う？あの子は本当にJeffrey Spenderが言ったような子なのかしら。」

「いや、違うよ。君がアブダクトされていた間に奴らは君の卵子を奪ったけど、全部じゃなかったんだ。もしかしたら君が蜂のウィルスに感染したときに南極で注射したワクチンのせいか、それとも西アフリカの海岸にあった宇宙船の影響で・・・君はその船のそばで、死んだ魚が生き返ったのを見たと言っただろう？君がその船に接触したことで卵巣の機能が再生されて、DNAに何か影響があったのかもしれない。Williamの能力はGibson raiseと似ているんじゃないかと思うよ。能力はもっと激しいのかもしれないけれどね。Spenderは影の政府に言われたことをそのまま信じていたんだよ。彼はWilliamのDNAをマグネタイト鉱物液の注射によってノーマルに戻したと言ったが、もしWilliamがSpenderの言ったとおりの存在なら、戻るどころか注射液の影響で死んでいたんじゃないのか？僕が思うにSpenderは影の政府に信じ込まされて行動し、僕たちも信じ込まされてWilliamを手放して、奴らに有利なカードを与えてしまったんだ。」

「つまり肺ガン男は自分の息子を陥れれば、私が安全のためにあの子を手放すことを分かっていたって言うの？」

「そうだ。」

「そのことが肺ガン男が言っていたことなの？あなたが絶望して崩れていく姿を見届けるためって？」

「それも一つだろう。」

「なぜ？」

「奴は僕らを憎んでいたんだ。息子であろうと、なかろうとね。」

「この子もWilliamと同じなのかしら。」

「わからない。」


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-Green River,Utah-

「愛してるわ、Mulder。」

「僕もだよ、Scully。」


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-Grand Junction, Colorado-

「デンバーに着いたら病院を探して診てもらうわ。そこでこの子と体の状態をチェックしましょう。」

僕は微笑んで答えた。
よかった。
Scullyはまた時間をかけて考えて、受け入れる準備ができたんだ。
彼女はどんなことでも待つだけの価値がある。

「そうしよう。」

彼女の手が横のコンソールボックスの上を通って僕の膝に置かれた。
僕は彼女と延々と続く長い道の上を交互に見ながら思った。

彼女は美しい。

今度は妊娠しているときから彼女のそばにいられることが嬉しかった。
妊娠で彼女の体や心の少しずつの変化を見守り続けることが何より嬉しい。

僕は彼女の手を唇まで上げ、そっと誓いのキスをした。

　　僕は君のそばを二度と離れない
　　だから何も心配しないで
　　僕もこの子をどれだけ望んでいるか・・・持つべきではないと分かってもいるが・・・。
　　そして、僕たちは必ずWilliamを取り戻す。
　
　　全てうまくいくよ。

Scullyは僕の心の中の言葉が聞こえたように微笑んだ。きっと彼女には聞こえていたに違いない。


-X-


-Denver, Colorado-


Skinnerからの早いクリスマスプレゼントの中身はネバダにある国防省施設に侵入するための、三セットの証明書だった。
“秘密のショッピング”をするためのパス・キー、施設の青写真、そして“ショッピング”リスト。
さらにSkinnerは僕たちの新しい銀行口座も用意してあり、おかげで僕たちの逃亡資金は心配なくなった。

さらに僕は今乗っている‘slick silver’のトラックから、別の車に変える必要性があった。
僕たちはもうこのトラックを3ヶ月も使っている。もう別の車に変えないとアシがつくかもしれない。

「Scully、車を変えよう。」

「そうね、私もここに着いたときからそう思ってたのよ。」

「まずモーテルを探して休んでからディーラーを探そうか？疲れてるだろう？」

「おやつは宿題をしてからよ。」
Scullyはため息まじりに冗談を言い、僕は微笑んで見せた。

僕はカー・ディーラー店を探しながらデンバーの街をドライブすると、すぐに中古ディーラー店を見つけることができた。
Scullyと僕が‘slick silver’のトラックから降りると、店からうっとうしいほどの営業スマイルを浮かべたセールスマンが近づいてきて、僕はそれを見ただけでうんざりした気分になった。
僕は店員の動きから目を離さず、緊張しながら新しく買った車の代金を現金で払った。
そしてデンバーに到着してたった1時間30分後には、大型で豪華な‘Ford Excursion’に乗って店から出発した。
車は大きく豪華な内装で、まるで快適なバスにでも乗っている気分になった。
Scullyは3マイルの間笑い続け、交差点で僕が慣れない車幅に四苦八苦していると、もっと笑って冗談を言った。

「大きな車を選ぶ男のモノは小さいって言うわよね、Mulder。大きな車でなんとか威厳を保とうとするのよ。」

僕たちは今夜過ごすモーテルを見つけた。
Scullyはここにしばらくいるのならモーテルでなく、マンスリー・アパートを借りた方がいいとと言った。そして日用品の買い出しにも行かなければならない、と。
僕は「OK」とつぶやいて彼女の頬にキスした。
Scullyはベッドの上で丸くなり、僕もその後ろで彼女を覆うように横になった。
そして彼女の穏やかな寝息を聞いて、僕も徐々に眠りの中に入っていった。


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ナイトスタンドの上に置いた携帯電話が鳴りだし、僕はシーツの中から腕を伸ばして寝起きのしゃがれ声で答えた。

「もしもし？」

「Mulder、私だ。」

「そんな言い方ができるのはScullyだけだぞ。」

「ふざけるな、Mulder。」
Skinnerの声は真面目でジョークを面白がる気配は少しもなかった。

「午前3：30だぞ、何の用だ？」

「侵入する時の助っ人を送ったぞ。」

「助っ人？誰だ。」

「信頼できる元FBI捜査官だ。君も良く知っている。」

「僕が信頼できる元FBI捜査官はScullyだけだぞ。」

「“信頼できる元FBI捜査官”だぞ・・・他にも心当たりがあるだろう？」

「John Doggettと一緒に行く気はないぞ。」

「今は意地を張っている場合ではないだろう、Mulder。Doggettなら事情をすべて知っているじゃないか。Scullyは君と一緒に行くことはできないんだ、彼に力を貸してもらう他はない。ドゲットも喜んで力を貸してくれるそうだぞ。君とScullyとWilliamと、おなかの中の子供と一緒に暮らせる未来を考えて見ろ。」

Skinnerは僕の弱い部分を全て知り尽くしている。それも感情的になることなく、冷静に指摘されるから反論できなくなってしまう。

「いつDoggettと合流できるんだ？」

「明後日だ。場所のことは午後2時から5時までの間に連絡する。」

「楽しみだな。」

「もちろんだ。」



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〈Continued in Chapter 4〉