作：supernova    訳：tomo

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Chapter Two

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今Scullyはバスルームの中で、買ってきた検査用スティックを使って調べている。
僕たちの二人目の子供を妊娠しているかどうかを。

僕はずっと以前からScullyが妊娠しない限り父親にならないと決心していた。
そして今の現実とは裏腹に、心の中には普通の家庭像に憧れる自分がいる。
Scullyと結婚して二人か三人の元気な子供達に囲まれ、庭にはSparkyという名の犬が一匹。
彼女とそんな家庭的な生活ができたらどれだけ幸せなことだろう。

運命とは皮肉なものだ。

僕とScullyはあの時、まだ一緒に寝たことがないのに二人の子供を作ろうとして人工授精を試みた。
念入りに準備をし、必要なリストも作って何度も確認し、すべての事を考慮して、何があっても僕たちの関係をずっと保ち続けることを約束し合った。
そして子供ができた後のことも考えて、一緒に住む場所への引っ越しも話し合っていた。
おかしい話かもしれないが、僕たちはまだベッドを共にしていないのに、一緒に住み、人生を共にすることを話し合っていた。
まるで普通とは逆の進み方だ。
しかしある夜彼女が部屋に帰り、人工授精が失敗だったことを僕に告げて、僕たちの計画は元に戻ってしまった。
僕は運の不公平さに頭を振って彼女を抱きしめ、『奇跡を信じろ』と言った。

その夜僕たちは一緒のベッドで眠り、そしてついに愛し合った。

僕は笑って彼女にささやいた。
『ほら、奇跡は必ず起こるだろう？』

Scullyが妊娠していた9ヶ月と半月の間に僕はアブダクトされ、僕の葬式と復活があり、そしてまた奇跡が起こった。
だがその出産の時、僕は彼女のそばにいてあげられなかった。

運命はまた僕たちに試練を与えたんだ。

あのジョージアの最悪な隠れ家にたどりつくと、床中にしたたった血が目に飛び込み、産後の彼女にシーツが掛けられているのを見て足から力が抜けて立っていられないほどになった。
彼女のそばにいてあげられなかったことと、僕たちの子供が産まれる瞬間に立ち会えなかったことで怒り狂いそうになった。

Scullyと赤ん坊を病院に運び、その後D.C.の病院に搬送したときに、Reyesが何があったかを話してくれた。
Scullyがどんなに叫び、泣き、Billy Milesとレプリカント達に子供を連れて行かないでと何度も何度も懇願し続けたかを。

僕にはScullyが懇願するような姿など想像できなかった。
彼女のそんな姿は見たことがない。
僕の知っているScullyはいつも闘い、大声で命令し、どんな人より強く優しい。
Scullyは決して懇願などしないのに。

事実を聞いて僕は怒りを込めて壁を力いっぱい殴り、結果としてMargaret ScullyやSkinner、Doggett、それにReyesが彼女を家に連れ帰る間に医者に捕まり、エックス線で手を調べられるザマになった。
そしてScullyの部屋に戻ると、LGMの連中が彼女の見舞いとお祝いを持ってきていたところだった。

Scullyと僕はWilliamを抱き、キスをした。
僕たちの新しい始まりのキスだった。

僕たちはキスをしながら、無上の喜びに包まれていた。

だがその後Kershの奴が僕を呼びつけ、FBIから離れるように命令した。
僕は危険からScullyとWilliamを守るため、そして自分自身の命のためにも離れなければならなかった。
彼女とEメールで気持ちを伝え合ったが、当然気持ちはつのるばかりだった。
そしてKnowle Rohrerの殺人容疑で僕が軍に捕らえられ、望んでいなかった形ではあるが彼女に再会することができた。
Scullyは以前と少しも変わっていなかった。
変わらずに彼女自身や僕の人生に望みを持ち続け、変わらず美しく、変わらず僕を想い続けていてくれた。
言葉でも、まなざしでも、体のぬくもりからも彼女の溢れるほどの愛情が伝わってきた。

だが、彼女は僕たちの息子を手放さなければならなかったことを言った。
頬に涙が滝のように長れ落ち、まるで蒼い瞳が溶けたように涙が青みがかって見えるほど彼女は泣いていた。

やがて僕は脱獄し、ロズウェルの町の小さなモーテルでScullyと話し合った。
話をしながら彼女は僕の気持ちを読みとり、これ以上ないほど僕の心のそばにいた。
僕は彼女を抱きしめてキスし、『希望はあるかもしれない』とつぶやいた。
そして微笑みながら一緒に横になり、朝から始まる何千マイルもの逃避行の前に、何時間かだけ平穏に眠った。


そして今、僕たちはここにいる。
生まれた息子とは離ればなれになり、また“奇跡”の妊娠があるかどうかの結果を待っている。

もし妊娠していたとしても、その子と一緒にいられない理由が100も、1000もあった。

だが僕自身は彼女の妊娠を望んでいた。
なぜなら、僕は彼女を愛している。愛しているScullyと僕の子供なんだ。
理由はそれだけで十分だ。

何より、どんなことよりも僕が欲しいものなんだ。


Scullyがバスルームから出てきて検査スティックを僕に見せた。

「妊娠してるわ。」

時間が一瞬止まり、周りの音がやんで静寂が広がった。
彼女の姿と今の言葉だけが頭の中を回り、外の鳥のさえずりも車の音も聞こえずにいた。
だがゆっくりと地球が回りだし、ゆっくりと僕の周りの時間も流れ出した。
エアコンの低い音が聞こえ、遠くでクラクションを鳴らす音、そして疲れ切ったようにScullyが座ってベッドがきしむ音が低く響いた。

「何と言っていいか分からないよ。」
僕は独り言のようにつぶやいた。

「私もよ。あんなに注意していたのに、まるでふざけた冗談みたいだわ。今子供なんて持てないのに。ああ、おなかの子が聞いてるかもしれないわね・・・。今度はひょっとしたら女の子かもしれないわよ？
ともかく急いでこの子を愛してあげて、Mulder。でないとすぐにこの子は死ななくちゃならないんだから。人工授精までしてあんなに赤ちゃんがほしかったのにその時は失敗して、もう私は二度と子供が産めないと思ったわ。でもその後Williamを妊娠して・・・。でもその後どうなったかはあなたも知ってるわよね。そして私は毎朝7時にピルを飲んで妊娠を避けていたのにこの通りよ。運命の女神がいるとしたら、私を見て大笑いしてるでしょうね。」
Scullyは唇ををゆがめて笑った。

「君はどうしたい？その子を産みたいかい？」
僕は自分の気持ちも決まらないまま、ためらいがちに尋ねた。

「もちろん産みたいわよ、Mulder。この子は私とあなたの一部でもあるのよ。でも産んではいけないとも思うわ。初めての子でさえ自分の手で守れずに手放したんだもの・・・。それにあの子はSpenderの打った注射で普通の体になることができたけど、この子はどうなのか全く分からないわ。」
Scullyは鼻をならすように笑った。

僕は崩れ落ちてしまいそうな彼女を支えようと抱きしめた。

「きっと解決できるよ、Scully。」
僕に言えるのはそれだけだった。

「ええ、きっとそうね。私もそう思うわ。でも私が考えていたのは“解決”になるまでの長い道のりのことなのよ。これからどんなに苦しんで、どれだけの血を流すことになるのかしら。」


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それから数日の間、僕たちはおなかの子供についても、“解決”の方法についても話し合わなかった。
しかし毎日Scullyは朝から夜まで何度もつわりでバスルームに駆け込んで、僕は彼女の体が心配でならなかった。

「つわりがこんなにあるなんて、これで普通なのかい？」

Scullyは顔を上げ、僕を見てうなずいた。
「Williamがおなかにいた時も、初めの2、3ヶ月はこうだったわ。」

「そんなに？何ヶ月もつわりが続くのか？」

「ええ、Williamの時と同じ状態よ。朝も昼も夜もつわりがあったわ、つまり一日中って事ね。」
Scullyはだるそうにベッドに乗って体を横たえ、天井を眺めた。

「病院へ行って医者に体の状態を診てもらったほうがいいんじゃないのか？」
僕はギシッとなる安物の椅子に座り、聞き入れられるはずはないと分かっていたが、そう言わずにいられなかった。

Scullyはただ首を振って天井を眺めていた。

「考えていることを話してくれ、Scully。何を考えてる？Williamのことか？おなかの子のことかい？」
僕は彼女のお腹を手で差した。
「僕たちはまだこの子のことについて何も話し合ってないだろう？その子がおなかの中で順調なのかどうかも分かっていない。」

「私は医者よ、Mulder。普通かそうでない症状くらい分かるわ。それに一度経験しているもの。3ヶ月か、運が良ければ2ヶ月この状態が続くのは普通なのよ。必要なのは適度な運動をしてタンパク質とビタミンををたくさんとるの。この子は順調よ。ねえ、Mulder、きっとこの子が生まれたら、私たちはかわいがって愛情を注いで育てるでしょうね。でもある晩誰かが部屋にきてベビーベッドの柵を壊すんだわ、そして乱暴に連れ去ってしまうのよ。私たちはまた愛する子供を連れ去られて苦しむんだわ。これまで不妊だったかどうかなんて関係なく、これからいくら産んでも私は一生母親になれない運命なのよ。」

「Scully・・・。」

「やめて、Mulder。憐れみなんてほしくないわ。それにむなしい慰めもいらない。“心配ない”なんて言ってほしくないのよ。今Williamは他の人をパパとママと呼んでいるのよ？あの子は私たちから何千マイルも遠く離れた場所にいて。あの子のことを毎晩夢に見るわ。私が何を考えているか本気で聞きたい？Mulder。ずっとワイオミングの農家であの子を抱いたときのことを思い出していたのよ。あの子は私を覚えていたわ。私が抱いていた短い間に、あの子は私の愛情を感じ取って思い出してくれたわ。あなたもそうよ。誰が見たってあの子の父親だって分かるわ。でもあの子は自分の父親がどんな人かも知らずに育っていってしまうのよ。私だったらあの子にあんな趣味の悪いシャツを着せたりしない、髪だってもっときちんとしてあげる、あの子の髪がカールしはじめたのだって気付いてあげられるのよ。なのに私は何もできずにここにいるわ、もう自分が嫌でたまらなくなるのよ。せめてあなたがもっと私を責めてくれたら、少しは気持ちが楽になるのに。」
Scullyは言葉を切って息を整えた。

「あの子は怖い夢を見て泣いていないかしら？注射の傷はまだ残っているのかしら？あの子は部屋で泣いていて、ベビー・ベッドのシーツには血がついていたわ。私が何を考えているか教えてあげるわ、もうゲームに闘うのに疲れたのよ。正義という名の白いマントの裏で、愛している人たちが引き離されていくのにもう耐えられないのよ！」


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アリゾナは予想したほどひどい場所ではなかった。
壁に穴の空いたモーテルの部屋や、うだるような太陽の熱は確かにひどかったが、貧弱な舗装のハイウェー・ドライブ自体がその荒れた場所へのレッスンのようで、着いたときにはひどさに慣れて、たいして悪く感じなかった。

そしてアリゾナから、最終的に僕たちはカリフォルニアへ向かっていた。
Skinnerが僕に頼まれていたプレゼントを、パーム・スプリングスの郵便局の私書箱へ送ったそうだ。
つまり僕たちはそれを受け取るために移動している。
Skinnerは僕たちが逃避行を続けている間、ずっと手助けしてくれている。
それに僕がアブダクトされていた間も、Scullyを助けするために動いてくれていたそうだ。


二時間おきにつわりのために車を路肩に停めた。
僕はトラックを降りて彼女がうずくまって吐いている後ろから背中をさすり、髪が汚れないようにかきあげてあげた。
一日に何度も苦しそうに吐き続けて、彼女の顔色は青ざめて冷たい汗がにじんでいた。

代われるものなら代わってあげたい。

背中をさすると肋骨がシャツ越しでも手のひらに感じるほど、彼女は痩せてしまっていた。
妊娠した女性は皆太るものだと思っていたのに。

Scullyは痩せこけた手を膝に置き、もう吐く物もないのに苦しそうに嗚咽を繰り返していて、僕はこれ以上自分の心配を抑えることができなかった。

「病院を探そう、Scully。そして医者に診てもらおう。」

「まだ大丈夫よ、Mulder。」

「Scully・・・。」

今日でもう何度目かのつわりが終わり彼女は立ち上がろうとしたが、足下がふらついていた。
僕が肘を持って支えると、冷たくなった指先で僕につかまり寄りかかった。

「何でもないわ、ただの脱水症状よ。」

「荷物に水があったはずだよ。」

彼女ははうなずいてトラックに向かい、荷物の中からボトル入りの水を見つけてキャップを回し、少し口に含んで道に吐き出した。
そしてまたキャップをしめると座席に乗り込んでドアを閉め、出発するサインをした。
僕は運転席に乗り込み、トラックを発進させた。

それから20マイル走ったとき、Scullyが気まずい沈黙を破った。

「いつ、どうやってウィリアムを取り戻すの？Mulder。」

このことは僕が一週間近くさんざん話し合おうとしては拒否されていた問題だが、いつか彼女もWilliamやおなかの子のことで話し合ってくれるだろうと思っていた。
ただ、それが今なのには驚いたが、一方でこうした彼女の心の動きを分かってもいた。

Scullyはいつもこうだった。彼女は必要なだけゆっくり時間をかけて考え、心の準備ができるとこうして話をしてくれる。
彼女はいつだって待つ価値がある。

それにしても、どうしたら僕たちの息子を取り戻せるのだろうか？

「まだわからないよ、baby。」

彼女はうなずき、僕たちは深夜になる前にカリフォルニアへ到着した。


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〈Continued in Chapter 3〉