作：supernova
訳：tomo

-X-

Chapter One

-X-


Scullyは以前、私はマリオネットのような運命なのかしら、と僕に言った。
見えない糸によってつり下げられ、一つ一つの関節が曲がり、動き、そして壊れることのない一体のマリオネットのようなのかと。

影の陰謀者達が木製のクロスを動かして糸を引き、彼女の手を、足を、そして体中を意のままに動かして遊び、疲れてくると冷たい地面の上に彼女の体を投げ捨てる。
しかしすぐにまた拾い上げては陰謀のために、もしくはただの娯楽のために彼女の体をもてあそび続けてやめようとしない。

Scullyは人生をもてあそばれ、操られることに疲れ切っていた。
しかし彼らは犠牲にまだ満足していないように何度も苦しみを与えて追いつめ、心の糸を狂わそうとしてもてあそび続けている。

　　なぜ奴らは私から離れてくれないの？
　　なぜいつもいつも私をオモチャのようにもてあそんで苦しめようとするの？
　　なぜ？

僕は彼女の顔を手で包み込み長い間沈黙のまま考え、瞳を見つめながら答えた。

奴らが何度も何度も繰り返し戻ってくるのは、たったひとつの単純な理由だ。

　　君を壊すために。

奴らは君を屈服させるために君の姉を、子供を、安らぎを、無邪気な明るさを、そしてパートナーの僕まで君から奪い去ろうとした。
だが君は強くて、奴らは君の尊い誇りも、愛も、希望も奪い去ることはできなかった。
だから闘いのたびに君に惨敗しても、奴らはあきらめずに自分たちの強さを示そうとして、何度も君に襲いかかってくるんだ。
闘いに敗れると奴らは少しの間だけ君から離れるが、その間にまた新しいゲームの計画を練り、また君を計画通りに操ろうとして戻ってくる。

だが奴らはわかっていない。

例えどんなに巧妙な計画を立て、うまい人形使いを使ったとしても、君を完全に操ることなどできやしないんだ。
奴らはクロスを使いこなして君の動きを振り付けできるかもしれないが、決して君の心を操ることなどできない。

奴らはそれが我慢できないんだ。
だからさらに過酷なゲームを君にけしかけてくる。
奴らはゲームに勝つためなら、平気で悪魔に魂を売るような連中だ。

君の美しいヴェールのような髪、いつも着ている趣味の悪いスーツ。
だが君には奴らでさえ否定できない明晰な頭脳や知性、そして揺るぎない誠実な心を持っている。
時がたっても君は衰えることを知らずに輝き続け、知性をさらに磨いて経験を積み、視野を広げ、誠実な心はさらに不動になったんだ。

Scullyは僕の言葉を聞いて優しく微笑み、納得したようにうなずいた。
そして彼女はしばらくうつむいて、顔を上げて僕の目をまっすぐに見つめてこう言った。

　　だから奴らはあなたにもそうし続けているのね。

僕はうなずいて答えた。
僕もそうだ。
僕も奴らに降伏せずに闘い続けている。
無駄でくだらない闘いだと分かっているが、僕たちは決して負けない。

この話は遠くを見つめているScullyの横顔を見つめたときに思い出したことだ。
何か赤ん坊に関係した物の前を通った時やWilliamの写真を見つめているとき、または荷物をまとめて名もないモーテルから人々に忘れ去られたような町へ繰り返し移動している間、彼女は止まってしまったように静かに遠くを見つめていた。

僕は彼女を見つめながら、マリオネットを操る糸がすり切れてボロボロになり、そしてそんな時に崖の上でぐらついて糸が切れてしまったら、マリオネットは底知れないほど深い谷底へ落ちてしまうのではないかと考えた。

僕はScullyに“希望はあるかもしれない”と言った。
だが希望は“ある”んだ。
しかし長いトンネルの先の光が見えないときがある。
長すぎるトンネルの終わりへの旅路には、血と汗とあふれるほどの涙がびっしりと敷きつめられ、きっと出口に到着したときには疲れ切って、喜ぶどころか何も感じられなくなってしまうのではないだろうか。

あのロズウェルの夜から100ものモーテルを渡り、何千マイルの距離を謎の“奴ら”の手から逃れるために移動し続けている。

僕たちに希望はある。
だが今僕たちは疲れ、弱っていた。

今日はWilliamの2歳の誕生日なのだ。

Scullyは移動中黙りこくっているようになった。
景色が次から次へ現れては消えていっても、彼女の瞳には何も映らず、何も話そうとしなかった。
だが黙っていても、彼女が何を考えているのか僕にはよく分かっていた。
彼女は100マイルもの移動中Williamの写真をずっと手に持ち、感情がこみ上げてくると端が折れてよれよれのスナップショットを大切そうにリュックの中に戻した。

僕は彼女の膝に手を伸ばして、上に置かれていた手を優しく握りしめた。
Scullyは振り向いて頭を下げ、弱々しく微笑んだ。
僕がうなずくと彼女はまた過ぎ去る景色や色に、ぼんやりと戻っていってしまった。

僕たちは二人ともあまりに疲れ切って、景色に何の感動も感じなかった。

デンバーの街に入った標識を見つけると僕はほっと息をついた。
ようやくまた文化的な人間らしい生活を送れる。
さらに進んでバーの看板を見つけると、ほんの少し救われたような気分になった。
ここでビールを飲んで苦しさを和らげ、モーテルを見つけてほんのひとときでも生きていることを実感するように愛し合い、悲しみから抜け出す。
パリッとして清潔なシーツの上に身を横たえて愛し合い、キスでお互いの苦しみを拭い去ろう。
それはこれからも続く長い道のりの中の、ほんのひとときの小さな救いなのだ。

Pete's Barの駐車場に車を入れるとScullyは重いため息を付いたが、ここに寄ることに反対はしなかった。
彼女は車から降りるとアスファルトの上をだるそうに足をひきずって歩き、僕は後ろから彼女を支えるようにして歩いた。
重い木製のドアを開けると中は薄暗く、タバコの煙でくもり、孤独な人々が哀しみをアルコールと共に飲み干し、店の一方では特大のTVの前で誰かが歓声を上げていた。

Scullyは一番離れたブースに近づいて、すべるように中へ入り腰を下ろした。
僕が彼女の向かい側に体をすべらせて座ろうとすると顔を上げて、もっと近づいてと言うように優しく横のスペースを指で叩いた。
僕は誘われるまま横に座って、ぴったり腰をつけて彼女の膝に手を置くと、すぐに彼女は僕の肩に頭をもたれさせ、もう一度疲れを吐き出すような重いため息を付いた。
僕たちの胸の中で鼓動している痛みを表すのに言葉はいらない。言葉で表現などできない。

片手で彼女の顔にかかる髪をそっと払って頭の上にキスし、ウェイターがオーダーを取りに来るまで、手で痛みを和らげてあげられるように頬をなでた。

二人分のテキーラをScullyが注文するとウェイターは一旦戻り、驚くような早さで注文した品を持って来ると、琥珀色の液体で満たされた小さなグラスをテーブルに置き、その横に強いアルコールをあおる助けになるライムを皿に乗せて置いた。
Scullyはグラスを取り、僕もグラスを取って彼女を見た。
彼女は乾杯のためにグラスを掲げて握りしめ、何か心の中で考えるように長い間をおいていた。
人から見たら僕たちはバカのように見えたかもしれない。
乾杯するまでの長い間僕らは出口のない苦しみを表情に表し、空いた腕をお互いへ伸ばして触れあいながら、黙ったまま言葉が湧いてくるのを待った。

「私たちの選択が正しかったことを信じて、乾杯。」

やっと彼女は言葉を紡ぐと、塩やライムの助けなど借りずにテキーラを一口で飲み干した。
彼女はわざとそうしてのどを灼けさせ、Williamが思い出の中だけに存在するのではなく、実際にこの世にいることを感覚から思い出そうとしているように見えた。
僕もすぐ彼女に続いてグラスを空け、強いアルコールがのどを灼いて胃で燃えるのを受けとめたが、今日の僕たちの痛みはこんなことでは少しも癒されなかった。

僕は手を上げてウェイターを呼んで会計させ、再びトラックに乗って今夜過ごすモーテルを探しながら、僕たちが失ったあまりに大きなことへの痛みとそれを和らげる方法を考え続けていた。


-X-

いつものScullyだったら必ず確認したと思うが、あの時彼女はSkinnerがWilliamを養子にした経緯を僕に説明したことについて、何を話したのか詳しく聞こうとしなかった。
僕はそのことに感謝している。
これまでWilliamがどこにいるのかを知っていても、言わなくてすんでいたからだ。
しかし結論から言うと、やはり前もって言っておくべきだっただろう。
砂や岩に囲まれた道を走り続けてワイオミングの小さな農家に到着すると、彼女は困惑したように僕を見つめ、これから僕が一体何を言うのか予想も付かないような表情をしていた。

「ここに住んでいるんだよ、Scully。」
僕はなるだけ落ち着いた声を出した。

彼女は古い農家のたたずまいを見つめ、すぐに僕に振り向いた。

「誰が？Mulder、誰がここに住んでいるの？」

「Williamだよ。」
僕は彼女の手を握りながら答えた。

「何を言っているの？Mulder、ふざけないで。」
Scullyは怒ったように僕の手を振りきった。

いきなりここに連れてきたのはやはり良いアイディアではなかっただろう。
だが彼女がひと目でもWilliamが元気で暮らしている姿を見れば、気持ちの救いになるのではないかと思っていたのだ。
しかし僕は自分の浅はかさにようやく気が付いた。

今Williamに会うということは、つまり彼女以外の母親を「ママ」と呼ぶWilliamの姿を見なければならないのだ。
僕自身だってそうだ。Williamの養父に会わなければならない。
一体僕は何を考えていたんだ？

「ごめん、Scully、ただ僕は・・・」
僕は言葉をとぎらせながらエンジンを掛け、ここからすぐに引き返そうとした。

Scullyは僕を見ずにただぼんやりと目の前の小さな家を見つめていた。
彼女は何も言わなかったが、もうすでに僕のしたことを許していて、僕がこうしたことには彼女を心配してだったことを分かってくれているようだった。
だがその場を離れようとしたとき、僕たちのシルバーのトラックの隣に白いトラックが入ってきて停まり、中年の男が降りて『何か用か』と話しかけてきた。

「道に迷ったんだ。最近この近くに越した家族を捜していたんだが、どうも違う方角に来てしまった。大丈夫、戻れますよ。」
僕は反射的に嘘を付いて答えた。

その男は僕の言葉を疑わずにそのまま信じたようで、微笑みながら探している家族の名前を尋ねてきた。

「Billy Haleと言うんだ。」

男は少し考えた後こう答えた。
「悪いが心当たりはないな。うちの電話を使って連絡してみるかい？たぶん正しい道を教えてくれるだろうよ。」

「ええ、よろしければ。」
Scullyが突然割って入った。

「さあ、どうぞ。」
男が微笑んで家に案内した。
僕はハッとしてこのことがどうなるのかわかった。

僕たちは全く同時にドアを開けてトラックを降り、同時にお互いへと手を伸ばして砂利を踏みしめた。
僕は彼女の手を握りながらこのシンクロした動きに驚き、勇気付けられた。

Scullyが僕を見てかすかに微笑みながら玄関に近づくと、突然内側からドアが開き、中からブラウンのカーリー・ヘアーの男の子が「パ-パ、パ-パ」と言いながらよちよちと出てきて、すぐ後ろに中年の女性が立って見守っていた。

僕は足が凍りついて立ち止まり、胃がきつく締め付けられて前にかがみ込んだ。
Scullyも同時に止まり、僕に手を握られたまま目の前の光景に立ちつくしていた。

あの男がドアに近づいてWilliamを抱き上げ、柔らかそうな髪にキスしたのを見て顔を上げた。

Williamが赤ん坊特有のかわいい声を上げると、男はしっかりと胸の中で抱きしめ、心配げに僕たちに“大丈夫か”と尋ねながら近づいてきた。

「ああ、何でもない、ちょっと運転で疲れていて。」
僕は急いで取り繕った。

「この子は私たちの息子、Williamだ。」
彼は誇らしげにWilliamを見せた。

「Hi、William。」
Scullyの声にはこれまでの心の痛み全てと、優しい母親の愛情に満ちていた。

誓ってもいいが、この時Williamは彼女を思いだしたようにじっと見つめていた。
そしてぽっちゃりした可愛い腕を彼女の方に伸ばしたのを見て、僕の心は張り裂けそうになった。
ScullyがWilliamの手を触ると、今“パパ”と呼ばれている男が真実を知らないまま、幸せそうに彼女に話しかけた。

「この子は人見知りしないんだ。抱っこしててみるかい？」

「ええ。」
Scullyは反射的に答え、腕を伸ばした。

今WilliamはScullyの腕の中にそっと抱かれ、我が家に帰ってきたように安心して彼女の肩に頭をもたれさせていた。
Williamは母親と同じ心を貫くような蒼い瞳をしていて、髪の色と顔立ちはScullyが言う僕の“ユニーク”な顔立ちを受け継いでいた。
やっと再会できたことに、この瞬間だけは何も痛みを感じずに、言葉も出ないほどの感動を溢れさせながらこの小さな僕たちの結晶に感動していた。

彼女は微笑みながら僕を見上げ、黙ったままWilliamを僕に渡した。
急がなければ、僕たちがこうしていられる時間はあまりない。

僕がそっと抱き取るとWilliamは小さな声を上げた。
「Hey、William。」

僕は微笑んでその小さな頭にキスすると、Williamの体温と赤ん坊の香りがフワッとした。
僕は生きている限りこの香りを忘れないだろう。

Williamは僕の肩に同じように頭をもたれさせて体を預け、そうされている間、僕の中の全ての痛みが消え去った。
もちろんこの幸せなときはすぐに終わることは分かっている。
Williamの残像を胸に焼き付けてここからすぐに立ち去らなければならないのは分かっていたが、今はこの腕の中に息子を抱き、麻痺した心に血を通わすことができているのだ。

「さあ、家で電話をどうぞ。」
Williamの“父親”が微笑んで僕の腕からそっと抱き取り、その瞬間腕も、心の中も空っぽになった。

僕たちは道を思い出したとか何とか言って別れを告げ、トラックに大股で引き返した。

心の重荷のどこかが軽くなり、そして何かがさらに重くなった。


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帰りの358マイルの間中、僕たちは一言も話さず黙りきったままだったが、とうとうScullyが口を開いた。

「バカなことをしたわね、Mulder。」
Scullyは僕を見ないままつぶやいた。

「僕はただ君を慰めたかったんだよ、Scully。君が毎日苦しんでいるのを見ていられなかったんだ。確かにバカなことかもしれないけど、一度でもWilliamが元気で幸せそうに暮らしているのを見れば気持ちが楽になると思ったんだよ。」

「そんなことを言ってるんじゃないわ、Mulder。私が言ってるのは“奴ら”の事よ。今も奴らに追跡されているかもしれないのにあの子に会いに行くだなんて、知られたらどうするの？それにMulder、どうやってあの子の居場所が分かったの？」

「Skinnerが知らせてくれたんだ。何かあったときのためにWilliamの居場所を把握しておいた方がいいからと、Reyes捜査官が調べて知らせたそうなんだ。」

「驚いたわ。」
Scullyはため息を付いた。
「それなら今すぐにReyesと連絡を取って、私たちが行ったことであの養父母に危険が迫る可能性があることを伝えなきゃ。何も知らないあの人達がWilliamを守れるのかわからないもの。」

「わかった、連絡しよう。」

「早くモーテルで休みたいわ、Mulder。熱いお風呂に入って本当のベッドで眠りたいのよ。今日は疲れすぎたわ。」

「わかった。」

僕はモーテルの“空室”サインを探しながら運転し、あのワイオミングの小さな農家から401マイル離れた駐車場に車を停めた。


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僕は携帯電話からReyesに連絡し、すぐにWilliamの様子を見に行ってほしいと伝えた。
彼女は僕たちがあの子に会いに行ったことを知っても何も言わなかった。
様子を見に行った結果を連絡する約束をし、これからも連絡を取り合うことも約束して電話を切った。

Scullyはバスルームにこもっていた。
多分今彼女の顔は赤くなり、まぶたも腫れてしまっているだろう。
いつもなら彼女がそんな状態になったら何があろうとすぐそばに行って、涙をふいて悲しみや怒りを慰めるのだが、今日だけは彼女を一人にしておいたほうがいいと思った。

僕がベッドで待っているとScullyが裸のまま出てきてそばに寄り、僕の体を抱きしめて、「Williamのこと、ありがとう。」とささやいた。
それは言葉通りにWilliamに会わせたことなのか、彼女がWilliamを手放したことを僕が責めないことなのだろうか。
恐らく両方の意味だろう。
Scullyは僕の唇にキスし、そばに丸くなって眠ろうとした。
僕は体をよじりながら着ていたTシャツとジーンズを脱いで床に落とし、Scullyの体を抱きしめると、彼女は腕の中で寝返りを打って僕に向かい合った。
表のモーテルの看板の光がカーテン越しに彼女の顔を照らし、瞳がまるでクリスタルのようなブルーに輝いていた。



弱々しい鳴き声が聞こえて目が覚めた。
手探りでScullyに触ろうとしたがベッドは空で、シーツは冷たかった。
寝返りを打って体をずらすと、バスルームのドアの下から光が漏れている。
僕は起きあがってバスルームに向かい、Scullyを驚かせないようにドアをそっと開けた。

床に座っていたScullyは顔を上げ、赤くなった目で僕を見て首を振った。
「間違ってたわ、Mulder。あの子を取り戻したい。取り戻したいのよ。」

「何を言ってるんだ？」
僕は彼女を慰めようと隣に座り、肩を抱き寄せた。

「あなたは養子承諾書の書類にサインさえしていないわ、あなたはあの子の本当の父親なのに、サインすることもできずにあの子を手放さなくちゃならなかったのよ。」
Scullyは泣きながら話した。

「Scully・・・。」

僕は何と言っていいか分からなかった。
僕が知ったときはもうWilliamは養子に出されてしまった後だった。
Williamにとって、僕たちといるよりも安全に暮らせると思ったから手放したと聞いたのに。

だが彼女の気持ちも分かっている。
どこに行ってしまおうとWilliamは僕たちの大切な息子なのだ。
しかし今また彼を取り戻すなら、今度は幸せに暮らしたあの家から奪い返すことになる。
僕たちに彼らと同じ以上の幸せと安全をあの子に贈り、守ることができるのだろうか？

「もう遅いわ、Mulder。もう、ここにも・・・。」
Scullyはそれ以上声にならないように、苦しそうにおなかに手をやり、僕を見つめた。
彼女の瞳には涙と苦しみが光って、頬にあふれ出た。

何て事だ。

Scullyは偽名を使って産婦人科病院へ行き、避妊ピルの処方箋をもらっていた。
僕たちは次の妊娠は避けなければならなかったから。

「Scully、君は・・・どうしたい？」

「わからないわ。もう他の子供は欲しくないのよ。Jeffrey Spenderの言うことを信じるなら、マグネタイト鉱物の合成液注射を受けて、あの子は普通の子の体になったわ。でもこの子はどうなの？私たちに何ができるの？Mulder。今あの子さえ守れない私たちに、この子が特別でも普通でも、産んで育てることが一体できるの？」

「まだ妊娠と決まってないかもしれないよ、Scully。」

「そうね。」
Scullyは弱々しくささやいた。

「今夜はもう眠ろう、Scully。明日になったら検査薬を買いに行こう。」

Scullyはもう何も言わずにうなずき、バスルームの床から立ち上がってだるそうにベッドへ入った。
僕も彼女の横に横たわり、部屋の天井を見上げて考えた。

僕たちがWilliamを返すように要求して、一緒に今の逃亡を続けたらどうなるだろうか。
やはりあの子のために離れた方がいいのだろうか。
しかし僕たちにもう一人子供が産まれたら？
僕たちはWilliam一人でさえ守りきれずに手放した。
そして問題の一つとして、産まれてくる子が普通の子供であるかどうかも分からない。

僕は目を閉じていたが、その夜は一睡もできなかった。


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〈Continued in Chapter2〉