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From：ephemeral@ephemeralfic.org
Disclaimers：M&S used to belong to CC but I think Fox now owns them.
Will belongs to M&S, who love him too much to sell him.
TITLE
Man to Man Talk7
〜Fox Mulder is Spending Thanksgiving with the Scully's〜
作：Girlie＿girl17
訳：tomo
身が引き締まるように寒い11月のある日。
フォックス・モルダーは起きると急いでシャワーを浴びてひげを剃り、ウィルに服を着せて車に乗った。
今日は心休まる祝日でもあり、また大変な一日になる予感がした。
〜Fox Mulder is Spending Thanksgiving with the Scully's〜
モルダーは後部座席のスカリーとウィルに振り返った。
ウィルはひどい風邪をひいていて、スカリーは今日は家にいた方がいいと言ったのだが、彼女の母親がどうしてもウィルの初めての感謝祭を家族と一緒に過ごしたいと願ったため、スカリー家へと車を走らせているのだった。
ウィルは熱があり、機嫌は最悪だった。
ウィルは抗生物質の入った薬を飲まされたが一晩中泣いてぐずり続け、中耳炎になったんじゃないかとスカリーが疑うほどだった。
しかもモルダーは泣きやまないウィルを12時間以上抱っこし続け、なんとか泣きやませてなだめようと一生懸命にささやきかけ、優しく揺らし、またささやきかける繰り返しをして疲れ切ってしまっていた。
昨晩は二人ともほとんど眠っていなかった。
だから今日は本当は静かで落ち着いた家にいたくて、ビル・スカリーやその家族達に会うのはあまり気が進まなかった。
「大丈夫かい？スカリー。」
モルダーは彼女の顔が見られるように、バックミラーの角度を調整した。
「ええ、大丈夫よモルダー。あなたのほうこそ疲れてるでしょう？昨日は一晩中ウィルを抱えて部屋を歩き回ったんだもの。」
「子育ての仕事の内さ、スカリー。それに僕はあまり眠らなくても平気なんだ。」
「でも・・・ありがとう、モルダー。」
「スカリー、僕は好きでやってるんだ、誰にもこの役を回さないでくれよ。」
二人はミラー越しに微笑み合った。
マギー・スカリーの家に到着すると、モルダーはウィルのキャリアーを抱え下ろし、スカリーはおむつの入ったバッグを持ちながらウィルを厚いブランケットで覆った。
二人が玄関に向かおうとすると、ドアが勢いよく開いてマギー・スカリーといとこの子供達が飛び出してきた。
「ダナ！」
マギーが嬉しそうに娘を抱きしめた。
「Hi、ママ。」
スカリーも喜んで抱きしめ返した。
「フォックスもよく来てくれたわ！」
マギーはモルダーも優しく抱きしめ、彼も赤くなりながらも抱きしめ返した。
「Hi、ミセス・スカリー。」
「フォックス、「ミセス・スカリー」なんて固い呼び方、やめてちょうだい。さあ、かわいい孫を見せて！」
「ママごめんなさい、ウィルは風邪を引いてるのよ。早く中に入りましょう。」
「そうね、さあ早く入って。」
モルダーはリビングルームにキャリアーを置き、スカリーがコートを脱ぐのを手伝って自分のコートと一緒に廊下のコート掛けにかけ、その場に少しの間たたずんだ。
彼は大勢の集まる場所が苦手だった。
スカリーはキャリアーからブランケットを外して、中から丸い大きな蒼い瞳をしたウィリアムを抱き上げた。
ウィルの頬はまっ赤であかぎれのように荒れていて、ハナも出ていた。
ウィルは取り囲む大勢の人間を首を回して見回しながら指をくわえた。
マギーは娘からウィルを抱き上げて高い高いをした。
「気を付けて、ママ。ずっとぐずって機嫌が悪いのよ。」
誰かがスカリーのセーターを下から引っ張り、見下ろすとマシューが微笑んでいた。
「久しぶりね、マシュー。元気だった？」
スカリーは照れくさそうに笑うマシューを抱きしめた。
「あの赤ちゃんはだれ？」
「ウィリアムよ、マシュー。あなたのいとこよ。」
マシューはシャツのすそを指でいじくりながらはにかんだ。
「それってぼくの子供？」
スカリーは大きく笑った。
「違うわ、私とフォックスの子供なの。仲良くしてね。」
マシューは興味深そうにウィルをじっと見つめた。
モルダーは輪の中に入らずにリビングと廊下の境目でぐずぐずしていた。
「ダナ！久しぶりね、子供を産んで一段ときれいになったわよ！」
タラがスカリーに抱きついた。
「ありがとう、タラ、久しぶりね。」
「フォックスはどこにいるの？」
「たぶんどこかに隠れてるんじゃないかしら。」
タラはキョロキョロと首を回してモルダーを見つけ、リビングの中に引きずって抱きしめた。
「あなたも早く慣れなきゃ、フォックス、私も最初はそうだったわ。」
「アドバイスをありがとう、タラ。」
ビルがキッチンから片手にグラスを持って出てきた。
「ビル！」
スカリーが兄に走り寄って抱きしめた。
「ダナ、元気そうだな、ウィルが生まれてから好調みたいだな。」
「そうね、それからずっと幸せだわ。」
モルダーがそばに寄って片手を差し出した。
「ビル。」
「モルダー。」
ビルはモルダーの手を握って握手した。
玄関のドアが急に開いた。
「誰かいるかーい？」
チャールズ・スカリーが陽気な声と共に顔を出し、妻と三人の小さな子供も一緒に中に入ってきた。
スカリーはチャールズに走り寄って彼の首に腕を回して抱きついた。
「チャーリー！会いたかったわ！」
「久しぶりだな、ダナ！」
「カレンも！」
スカリーはチャールズの妻にもハグした。
「ダナ！元気そうね。」
「あなたもよ、カレン。」
「それで、かわいい赤ちゃんはどこにいるんだい？」
「ママが今抱っこしてるわ。でも今日はとっても機嫌が悪いのよ、ひどい風邪をひいていて。」
マギーがウィルを抱いてキッチンから出てきた。
スカリーはマギーからウィルを抱き取ってリビングへ行った。
「カレン、チャーリー、この子がウィリアムよ。」
スカリーはそう言って横にいるモルダーの手を握った。
「そして彼がフォックス・モルダー。」
チャールズが嬉しそうに片手を出した。
「フォックス、とうとう会えたな！」
「よろしく、チャールズ。」
ウィルがスカリーの腕の中で一瞬体を固くし、次の瞬間大きな声で泣き出した。
「おむつを換えてほしいのね？sweetie。」
スカリーがウィルの額にキスして優しくささやきかけた。
「僕が換えてくるよ、スカ・・・ダナ。」
モルダーがウィルを抱き取りながら言った。
「ありがとう、フォックス。」
モルダーは自分の名前を呼ばれたことに苦笑しながらベッドルームへ行った。
「Hey、buddy、どうした？」
ウィルはつまった鼻をふんふんいわせながら父親を見上げた。
スカリーとタラとカレンがキッチンをのぞくと、中でマギーが忙しそうに動き回っていた。
「ダナ、フォックスはとても緊張してるようね。」
カレンが話しかけた。
「そうね、でも初めは誰でもそうじゃない？親戚なんかに囲まれたら。」
スカリーは鍋の中身をかき回しながら答えた。
「緊張しちゃって、まるで小さな男の子みたいだったわ。」
タラも参加した。
「そうね、でもその内慣れるわよ。ああ、ママ、何か手伝うことある？」
スカリーが話をそらそうとするようにマギーに顔を向けた。
「ええ、たくさんあるわよ！ゆで卵の殻をむいて、ゼリーを型から抜いてポテトの皮をむいて、それからそれから・・・。」
三人は一斉に笑った。
「ごめんね、ママ。参戦するわ。」
スカリーは笑いながらピーラーを持って椅子に座り、ポテトの皮をむき始めた。
「さあ、取り替えたぞ、これで気持ち悪くなくなっただろ？ウィル。」
ウィルはくしゃみをしてハナを手でこすり、まだぐずっていた。
モルダーはバッグからクリームのチューブを取りだした。
「お前のほっぺのあかぎれにいいってママが言ってたからな。」
モルダーはそっとクリームをウィルの頬と鼻に塗った。
「さあどうだ？ウィル。これでまたみんなの所に戻れるか？」
モルダーは笑いかけてウィルを抱き上げ、ベッドルームを出てキッチンに顔を出した。
「スカリー。」
キッチンの中の女性全員が顔を上げ、モルダーは顔を赤くした。
「私の事よ。」
スカリーが立ち上がってタオルで手を拭きながらモルダーの元に走り寄った。
「スカリー、ウィルの薬の時間だと思うんだけど。」
モルダーがささやき、彼女は時計を見てうなずいた。
「そうね、モルダー。私が飲ませるわ。」
モルダーがこっちを見ている女性達に顔を上げた。
「その、お互いをこう呼ぶクセがなかなか直らなくって・・・。」
彼はそう言いながら顔を赤くした。
「フォックス、私たちも“モルダー”って呼んだ方がいいかしら？」
タラが二人を見つめながら言った。
「そうしてくれると嬉しいです。」
モルダーはホッとしたように答えた。
モルダーはウィルをスカリーに渡すと手持ちぶさたになり、ぶらぶらとリビングルームへ入っていった。
そこではビルとチャールズがカウチに座ってTVのフットボールを観戦していた。
「どこのチーム？」
モルダーがアームチェアに腰掛けながら尋ねた。
「デトロイト対シカゴだ。」
チャールズが顔を上げて答えた。
「よし！」
得点にビルが声を上げた。
「フットボールは好きかい？フォックス。」
チャールズが尋ねた。
「ああ、好きだよ、チャールズ。それから僕のことは“モルダー”と呼んでくれ。」
ビルがチラッと彼を見たが、何も言わずにまたTVに視線を戻した。
スカリーがウィルを抱えてリビングに入ってくると同時にチャールズの子供達がはしゃいで足下を駆け抜けた。
「こら！家の中で走り回っちゃだめだろう！」
チャールズが大声で叱った。
モルダーは反射的に立ち上がり、驚いてウィルを落としそうになったスカリーの腕を支えた。
「ありがとう、フォックス。」
モルダーはウィルを受け取って、安心させるように微笑んだ。
「もうそう呼ばなくて大丈夫だよ、スカリー。みんなも僕のことをモルダーって呼んでくれるからね。」
「そうなの？よかったわ、最後まで呼び通せるか自身がなかったから。」
それを聞いてチャールズがクスッと笑った。
「ママを手伝ってくるから、ウィルを見ててくれる？」
「いいよ。」
ウィルはくしゃみや咳を立て続けにして、モルダーがどんなに腕の中で優しく揺らして撫でてあげても、全く効果がないように暴れてぐずり続けていた。
モルダーはとうとう降参してキッチンに向かって声を上げた。
「スカリー、ウィルはおなかがへってるのかな？」
スカリーは手にソースをつけたままキッチンから出てきた。
「さっきあげたばかりだからまだだと思うけど、ジュースの入ったほ乳瓶を冷蔵庫に入れてあるわ。あげてみる？」
「熱もあるみたいだ。」
「ええ、でも今薬を飲ませたばかりだから、すぐに別の薬をあげられないわ。」
二人の会話を聞いたマギーが冷蔵庫からほ乳瓶を取り出してモルダーに渡した。
マギーにお礼を言ってモルダーはリビングに戻った。
アームチェアに腰掛けてほ乳瓶をくわえさせようとしたが、ウィルは少し飲むとすぐにまたぐずり始めた。
「タラ！」
ビルがキッチンに向かって声をかけた。
「何！？」
タラもキッチンから返した。
「何か飲んでもいいかな？」
「飲めば？誰も止めやしないわよ！」
キッチンから大きな笑い声が響いた。
「全く。まるでコメディアンだな。」
ビルがブツブツ言いながら立ち上がり、横で笑っているチャーリーの足をまたぐようにしてキッチンへ行った。
「くつろいでるかい？モルダー。」
チャーリーが尋ねた。
「ああ、だいぶね。」
「それで、君と“スカリー”はうまくいってるのかい？」
チャールズがからかって言った。
「ああ、うまくいってるよ。少なくともまだ彼女は僕を蹴り飛ばしてない。」
モルダーもニヤッと笑って答えた。
ウィルが手足をバタバタさせて泣き出した。
「“Walk and talk”の時間みたいだな。」
チャーリーがウィルにかがみ込んで言った。
「え？」
「“Walk and talk”だよ。夜泣きやぐずる赤ん坊を抱えて部屋中を歩いて話しかけることさ。僕もさんざんやったんだ、なかなか泣きやまなくってね。」
「昨日は僕も一晩中それをしたよ。」
「まだまだこれからさ、僕なんか子供一人につき100回は“Walk and talk”をやらされた。慣れるようにがんばれよ。」
ビルがキッチンから戻ってきてカウチにドサッと腰を下ろした。
「モルダーはどうした？」
「“Walk and talk”に行ったよ。」
「ああ、俺もさんざんやったな。」
モルダーはウィルを揺らしながら廊下の壁にかけられたスカリー家の写真を眺めていた。
一枚一枚にスカリーを見つけては微笑み、スカリーが子供だった頃のことを想像した。
「ウィル、お前もママみたいな楽しい子供時代を送ってほしいな。」
モルダーは微笑んでウィルの額にキスした。
「やっぱり熱があるな。」
モルダーは勝手口のあるランドリー・ルームへ行った。
「もうお前は洗濯の仕方を習得しただろ？ウィル。こんどビルに教えてやろうな。」
モルダーは笑いながら勝手口に向かった。
ウィルはまだ泣き叫んで腕の中で身をよじっていた。
「シー・・・、あんまりお前が泣くと、パパがお前の面倒をうまくみられてないって思われるだろう？」
モルダーはそう話しかけながらアヒルのおもちゃをつかませようとしたが、ウィルはいやがってアヒルを放り投げた。
ウィルはあまりに力いっぱい泣きすぎたために体中に汗をかき、後頭部や髪がすっかり濡れてしまっていた。
「涼しいところに行って少し休もうな、buddy。」
モルダーは勝手口を開けて芝生の敷かれてある裏庭に出て、ガーデン用の椅子に腰掛け、ウィルの頭をそっと撫でた。
ひんやりとした空気のお陰で体の熱がおさまってくるようだった。
「外は気持ちいかい？ウィル。」
ウィルは泣きやんで口を大きく開けてあくびし、さっきは飲まなかったジュースを飲みだした。
そして静かにまぶたを下げ、うとうとと眠り始めた。
モルダーはゆっくりと揺らしながら静かにウィルを見つめていた。
「モルダー、そんなところで何してるの？」
スカリーが勝手口から出てきて彼の横にしゃがみこんだ。
「外の涼しい空気を吸ったら落ち着いたみたいだよ。」
スカリーはウィルの熱っぽい額に触った。
「そうね、でもあまり長くいすぎちゃだめよ、モルダー。あなたまで風邪ひいちゃうわ。」
そう言うと彼女はモルダーの髪をクシャクシャッとなでて家の中に戻った。
スカリーがキッチンに戻ってくると、マギーが顔を上げた。
「ウィルの具合はどう？ダナ。」
「今眠ってるわ。モルダーが裏庭で涼ませてあげたら落ち着いたみたい。」
スカリーはそう言ってまたポテトの皮をむき始めた。
マシューがキッチンに入ってきてスカリーの腕に飛びついた。
「ねえ、ウィルと遊んでもいい？」
「ごめんね、sweetie、ウィルは風邪をひいてるし、今眠ってるの。」
「じゃあウィルのパパと遊んでもいい？」
「モルダーと？」
「遊んでもいいでしょう？」
「ごめんねマシュー、モルダーは今ウィルの面倒を見てるのよ。」
「マシュー、他の子達は庭で遊んでるわ。一緒に遊んできなさい。」
マギーが優しくマシューに話しかけた。
「はーい、おばあちゃん。」
マシューはそう言うとすぐキッチンから走り出て、マギーとスカリーはクスッと笑った。
タラとカレンがカードテーブルと椅子を持ってキッチンに顔を出した。
「ママ、子供達用にこれをダイニングに並べておくわね。」
「ええ、お願い。ちゃんと拭いておいてね。」
「私も手伝うわ。」
スカリーが声を掛けた。
モルダーはまだ涼しい裏庭に座っていた。
「ウィル、パパはまだ初めてのことが多くてお前をうまくあやせてあげられないけど、お前は好きにしてていいんだからな。」
モルダーはウィルの胸に鼻をすり寄せた。
「ただ、ママをがっかりさせたくないんだ。ママは僕のためにたくさんのことを犠牲にしてきたけど、お前が生まれてから、それを忘れられるほど毎日幸せそうに笑ってくれるんだよ。それがパパにとっての一番の幸せなんだ。僕は誰よりママを愛している。僕はこれまで、ママが僕に望んでいることを叶えてあげられないんじゃないかって不安に思っていたときもあるけど、これからは、僕の人生をかけてママの幸せを守って、全てをかけてずっとママの望みを叶え続けたいんだよ。」
ウィルはモルダーの腕の中ですやすやと眠っていた。
「・・・お前は食べて飲んで眠って、パパの気も知らないで気楽だな。でも、パパも生まれた頃はそうだったからな。」
モルダーは笑ってウィルの体にブランケットを掛け、小さな手にキスした。
家の中に戻ろうとして立ち上がると、勝手口のドアのフレームにスカリーが微笑みながら体をもたれさせて立っていた。
「ス、スカリー、いつからそこにいたんだ？」
「さっきからずっとよ。」
「さ、さっきの聞いて・・・。」
「何も言わないで、モルダー。」
スカリーは微笑みながら彼に近づいて、腕をしっかり抱きしめた。
モルダーはかがんで彼女にキスした。
「君に知ってほしいことなんだよ。今言ったことは、全部僕の気持ちだ。」
「分かってるわ、モルダー。」
スカリーが微笑みながらキスを返した。
「さあ、ウィルをベッドに寝かせましょう、あなたも休まないと。」
モルダーはあくびした。
「ああ、僕もなんだか眠くなってきた。」
「あらダメよ、私をあの中で一人にするつもり？」
スカリーはモルダーの腕に頬を付けながら、ゲスト用のベッドルームのドアを開けた。
「かして。」
スカリーが彼の腕からウィルを受け取ってベビー・ベッドに寝かせようとしたとき、突然マシューや他の子供達が賑やかな声を上げて部屋に飛び込んでウィルを取り囲み、眠っていたウィルは目を覚まして大きな声で泣き出した。
「こら！」
スカリーが大声で子供達を叱った。
子供達はまたキャーキャーと声を上げながら部屋を走り出ていき、モルダーはベビーベッドからまっ赤になって泣いているウィルを抱き上げた。
「大丈夫さ、スカリー、また“Walk and talk”をするよ。」
「“Walk and talk”？」
「いいんだ、後で話すよ。ここは僕がするから君はママの手伝いに行っておいで。」
「いいの？モルダー。」
スカリーはウィルの泣き顔を見てためらった。
「スカリー、僕はプロだよ。」
「知ってるわ、前にも聞いたもの。」
スカリーは苦笑してため息を付いた。
そして黙って微笑んでいる彼にキスして、マギーを手伝うためにキッチンへ向かった。
モルダーはウィルの服を脱がせておむつだけにし、窓を少し開けて涼しい風に当たらせた。
ウィルはハナを手でこすりながら泣き叫び続けていた。
「ウィル！手でこするんじゃない。」
モルダーはハナをふいてやり、ジュースの入ったほ乳瓶を口にくわえさせようとしたが、ウィルはただ泣き叫んで首を振り続けた。
スカリーはキッチンのテーブルから立ち上がってバッグを開け、何か薬がないかと探してベッドルームへ向かった。
「ダナ、モルダーだけで大丈夫なのか？」
スカリーが通り過ぎるときビルが声を掛けた。
「うるさいわよ、ビル。」
スカリーが切り捨てるように答え、奥でチャールズが笑った。
スカリーがベッドルームにはいると、まだモルダーはジュースを飲ませようとがんばっていた。
「モルダー、熱止め薬があったわ。もう飲んでも平気な時間のはずだから。」
スカリーは子供用の水薬をスプーンに取り、ウィルの唇にたらすと、ウィルは抵抗せずに飲み込んだが、まだ泣きながら咳き込んでいた。
二人はウィルを抱いてベッドに座り込んだ。
「モルダー、もう帰った方がいいかもしれないわね。」
スカリーがため息を付いた。
「スカリー、でもずっと楽しみにしてたことだろう？大丈夫、ちゃんと僕がみるよ。僕とウィルは最近テレパシーで通じ合えるんだから。」
モルダーは笑って彼女の肩を抱きしめた。
「さあ、戻って手伝っておいで。僕もウィルが落ち着いたら行くから。」
「わかったわ。でもウィルがずっと泣いているようだったら帰りましょうね。」
スカリーはそっとウィルの額にキスした。
「泣きやんで眠ってね、ウィル。」
スカリーがまたキッチンに降りていくと、モルダーは腕の中のウィルに話しかけた。
「ウィル、もう薬を飲んだから安心していいんだぞ、後は薬が効いてくるのを待てばいいんだ。
すぐに良くなるから。」
ウィルはまだ咳き込みながら泣いていた。
「ダナ、いいところに来たわ、テーブルの用意をしてちょうだい、オーブンから七面鳥を出すから。」
スカリーがキッチンに戻るとマギーがオーブンを開けながら言い、タラとカレンも冷蔵庫からボウルを取りだした。
モルダーはウィルを抱いて揺らしながら話しかけ、なんとか泣きやまそうとしていた。
「まだ薬が効かないみたいだな。」
モルダーがウィルの頬に頬をつけると高い熱が伝わってきた。
ウィルは泣いて手をバタバタさせて、モルダーの首をひっかいた。
「OK、わかったわかったウィル、フォックス・ウィリアム・モルダーの名にかけて熱を冷ましてやるから。」
モルダーはウィルを抱いてバスルームへ行き、洗面所のシンクに水をためだした。
そしてウィルのおむつを取り外して裸にし、そっと静かにウィルを水につけた。
ウィルは冷たい水の感触に一瞬縮こまったが、すぐにリラックスしていった。
「さあどうだい？ウィル。気持ちいかい？」
背中を水につけながら、片手で水をすくって胸にかけながら話しかけた。
「もう大丈夫だ。」
ウィルはモルダーを見上げながらあくびした。
「落ち着いて眠くなったか？ウィル。パパもだよ。昨日の晩からたくさん“Walk and talk”をしたからな・・・。」
ウィルを水から上げてバスタオルでくるんでベッドルームへ戻り、窓を閉めてラジオをつけ、優しい曲を流した。
そしてウィルのおしめを取り替えて、もう一度頬にクリームを塗ってやった。
ベッドへ寝かし、モルダーも隣に横になって、ジュースの入ったほ乳瓶を口にあててやると、ウィルはいやがらずに飲み始めて徐々にまぶたを下ろしていった。
「もう大丈夫だ、ウィル。そのまま眠るんだよ。」
モルダーもあくびしながらささやきかけた。
ウィルのまぶたが完全に降り、やがてすやすやと寝息を立て始めた。
スカリーはテーブルをセットしてグラスに水を注いでいた。
子供達がキッチンのシンクに並んで手を洗っていると、ビルとチャールズも顔を出した。
「ダナ、フォックスとウィルも呼んできて。もうディナーを始められるわ。」
「わかったわ、ママ。」
スカリーはゲスト用のベッドルームへ行き、そっとドアノブを回した。
ダイニングルームはお腹を減らした子供達や大人がぎっしりと集まり、モルダー達が戻るのを待っていた。
「ママ、モルダーとウィルは後で食べるわ。別のお皿にとっておいて。」
スカリーが戻ってきて言った。
「じゃあ“スカリー”ばかりのディナーだな。」
ビルがおどけて言うとスカリーの眉が上がり、ビルの手を鷲掴みにしてそのまま廊下へひきずった。
「ビル、見せたいものがあるわ！」
ダイニングにいた大人たちもその後についていった。
スカリーはゲスト用のベッドルームの前に着くと人差し指を唇にあてて見せ、そっとドアを開けた。
モルダーがウィルの横で囲うようにして眠っていた。ウィルの頭はモルダーの方に向いていて、モルダーは額をくっつけるようにしたかっこうで、二人とも穏やかな寝息を立てていた。
部屋の入り口で二人を見た全てのスカリーたちが微笑み、ダナは静かにドアを閉めた。
「なんてかわいいの！」
タラが微笑みながら声を漏らした。
「かわいいとは違うのよ。」
スカリーの声は苛立っていた。
「モルダーは昨日からほとんど眠らずにああやってウィルをみてるのよ、疲れ切っていて当然だわ！あれが本当の愛情溢れる父親の姿なのよ。それを何よ、ビル！あんたはママの手伝いすらしないで。」
ビルはみんなの視線を受けながら下を向いてため息を付いた。
「わかった、悪かったよ、ダナ。」
「わかってないわよ！」
スカリーは声を上げながらキッチンへ戻り、苛立たしげに洗い物を拭きだしたが、ビルがすぐ追いつくと正面に向き直った。
「ダナ、悪かったって言っただろう？もうやめよう。」
「やめようって？私だってもう5年もモルダーを嫌うのをやめてって言ってるわ！」
スカリーは腰に手を当ててくってかかった。
ビルは腕を組んでカウンターにもたれて目をそらし、スカリーはまた皿を拭きながら声を荒げた。
「時々あなたのことがよく分からないわ、ビル。」
スカリーも振り向いてカウンターにもたれた。
「なぜモルダーを嫌うの？彼に嫉妬してるの？彼は自分で人生を切り開いて自分の人生を生きてるのに、あなたはパパと同じ道しか選べなかったから！？」
「ダナ、俺は・・・。」
「黙ってビル！まだ終わってないわ。」
他の家族達はダイニングに戻って二人のやりとりを聞いていた。
誰もビルを援護しようと行く者もいなかった。
「棘のある言葉を言うのはいい加減にして！それに私に起こったことをモルダーのせいだと言うのもやめて！何一つ彼の責任じゃないんだから。」
スカリーはビルの横に立った。
「私は誇りのある仕事をして、愛する人も愛してくれる人も、それに子供もいるわ。その幸せは彼がいたからこそ持てたものなのよ。これ以上彼に何を望むって言うの？ビル。私は今十分に幸せなのに！」
「ダナ、聞いてくれ、俺は・・・」
「黙ってビル！まだ終わってないわ。」
*****************
ドアが開く音がして、モルダーは目を覚ました。
どれくらい眠っていたのか分からなかったが、ウィルは横でまだすやすやと眠っていた。
ベッドの端に足をかけて起きあがり、目をこすった。
スカリーが入ってきて彼の横に座り、手を優しくなでた。
「スカリー家の感謝祭を寝過ごしちゃったわね、モルダー。」
「怒ってるのかい？」
「何言ってるの、あなたはウィルを眠らせて看病してくれたでしょう？感謝祭のディナーなんかよりずっと大切な事よ。ありがとう、モルダー。」
モルダーが眠そうな目で微笑むとスカリーは彼の手をぎゅっと握り、眠り続けるウィルを見つめた。
「もうそろそろウィルのお腹がすく時間ね。」
「ああ、それは君に任すよ、スカリー。」
モルダーはそう言いながら立ち上がり、腕を上げて大きくのびをした。
ドアにノックの音がして、ビルがそっと入ってきた。
彼の両腕には料理がいっぱいに盛りつけられた大皿が乗っていた。
「あ・・・、えーと、モルダー、疲れて腹が減っただろう？」
モルダーが驚いて目を大きくした。
「ありがとう、ビル。」
ビルは何度か小さくうなずき、いかめしい顔をぎこちなく微笑ませながらドアを閉めて出ていった。
モルダーは問いたげな表情をしてスカリーの横に座った。
「一体何があったんだい？」
「ちょっとケンカしたのよ・・・。少し誤解があって・・・。気が付かなかったけど、ビルも少しずつ変わろうとしているみたいだったわ。話をしないと分からない事ってあるのよね・・・。この間会ったんでしょう？ビルに。あなたとまたゆっくり話がしたいそうよ。いい？モルダー。」
モルダーは彼女の肩を抱いてキスした。
「ああ、喜んで。」
立ち上がってビルが運んできた料理を選んでいると、後ろでウィルが目をさまして小さな声を上げた。
「さ、お前にも感謝祭のごちそうだ。」
モルダーはウィルを抱き上げてスカリーに渡し、モルダーも料理を食べ始めた。
「ねえ、モルダー。」
「何だい？スカリー。」
「来年の感謝祭は家で落ち着いてしましょうね。」
End
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