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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox
Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Fireworks at Falls River, Every Fourth of July
作：Jenna Tooms
訳：tomo
*この作品では、二人は既に恋人同士の関係です。
「一体どうしたんだ？」
オフィスに入るなりモルダーはつぶやいた。
オフィスの中はこの7年間で一度もないほど何人もの人が動き回っていて、何か大量の虫が羽音をさせて飛び交い、モルダーの顔にもブーンと音を立ててかすめた。
「スカリー？」
モルダーは鼻先に飛んできた虫を手でいらだたしげに払いながらパートナーを呼んだ。
スカリーがPCの影から顔を上げ、しかめっつらで彼の方に近づいてきた。
「どこかから入ったテントウ虫が、このオフィスで大量に繁殖したのよ。」
スカリーはジャケットにとまった虫を払いながら説明し始めた。
「この部屋を消毒して虫を駆除する前に、まず成虫を捕まえなくちゃならなくて・・・、今、この人達が作業してるのよ。」
「・・・なるほどね。」
「とにかく今日成虫を退治して、明日から消毒を始めて・・・」
スカリーはまたジャケットにとまった虫を払った。
「・・・消毒が終わるまで、最低でも木曜までかかかるそうよ。その間オフィスを閉めるのよ。
仕事を休まざるを得なくなったわ。」
「それは素晴らしいな。」
二人が会話している横を、作業着を着た男達が駆除する機械を持って忙しそうにドアから出入りし、モルダーは邪魔にならないように壁に寄った。
「私は今持ち帰る仕事をファイルにコピーしていたのよ。あなたも休暇中にできる仕事を持ち帰って。木曜日にまた会いましょう。」
「木曜まで！？」
モルダーは驚いて声を上げたが、オフィスに人がたくさんいることに気が付いてすぐ口を閉じ、落ち着いて言葉を言い直した。
「ああ、急に休みが取れるなんて嬉しいよ。」
モルダーがそう言うと、近くにいた作業員の一人が彼を見てニヤッと笑った。
モルダーはオフィスを見回して、何を持って帰ればいいか考えた。
だが本当は休暇に仕事など持って帰りたくなかった。
スカリーを見ると、PCからフロッピーディスクに何枚も何かをコピーし、大きな茶封筒一杯に詰め込んでいた。
「Hey、スカリー、たった5日間だぞ？」
モルダーは彼女のそばに近づいて、何をコピーしているのかのぞき込んだ。
「休暇中に事件の解決の糸口がひらめくかもしれないでしょう？」
肩までかがみ込んで画面を見ると、モルダーはプッと吹き出しそうになって頬の内側を噛んで笑いをこらえ、スカリーも顔を上げてちらっと彼をにらんだ。
彼女がコピーしているのは、二人がやりとりしているEメールの記録だった。
その大量のメール達は、タイトルや出だしは真面目で礼儀正しい文章なのだが、しかしすぐ文体が変わって、
“今すぐ君が欲しい”
“君の肌を唇で思う存分味わいたい”
という内容であふれていた。
スカリーはそばにあった付せん紙に走り書きし、彼の鼻の下に張り付けた。
“メールは捨ててって、何回言わせれば気がすむの？”
「いつもそうしようと思ったんだよ・・・。」
モルダーはそこまで言ってまたスカリーににらまれ、あわてて口を閉じた。
だが作業員達は虫の駆除の方に忙しく、二人の怪しいやりとりなど、誰も気が付かないようだった。
モルダーはため息を付いて休暇中にできるような書類を探すためキャビネットを開け、2、3のファイルをブリーフケースに入れた。
しかし、モルダーは休暇中にこれらのファイルを読みたいなどと思っていなかった。
読むような時間ができてほしくもない、と思っていた。
「さて、じゃあ来週の木曜にまた会おう。」
モルダーはチラッと笑顔を見せ、スカリーが仕事に戻る姿を見てオフィスから出ていった。
***
モルダーはアレクサンドリアへ向かう途中に、車の中からスカリーの携帯に電話した。
「もう帰ったかい？」
「まだよ。あなたは？」
「まだだ。スカリー、せっかく早く帰れるんだ、早く出発してしまおう。」
「モルダー、私はまだ用意も終わってないのよ。」
しかしスカリーの声は言葉とは反対に、生き生きと楽しげに弾んでいた。
「昼にここを出れば、5時にはフォールズ川に着く。そしてホテルにチェックインして、ゆっくりディナーを食べて、川べりを散歩して・・・。」
スカリーがクスッと笑った。
「わかったわ。迎えに来てくれる？」
「ああ。」
モルダーは何かロマンティックな言葉を付け足したかったが思いつかず、「すぐ行くよ。」とだけ答えた。
「愛してるわ。」
スカリーはつぶやいて携帯を切った。
もうモルダーは携帯を切っていて、彼女の目には、家に急ぐ彼の姿が見えるようだった。
***
目的地までのドライブはずっと楽しかった。
スカリーのお気に入りの曲を集めたテープからは、モルダーもお気に入りの女性ロッカーの激しい歌声が鳴り続けていた。
そして彼が期待したとおり、スカリーはスーツを脱いで、体にぴったりとした白いVネックのTシャツと、脚を美しく見せるパンツからのぞく素肌にサンダルを履いていた。
「Hey、スカリー、今年の夏はホルターネックの服が流行ってるんだって？」
モルダーは彼女の脚から胸元まで舐めるように視線をはわせた。
スカリーは眺めていた雑誌から顔を上げた。
「あなたが女性のファッションに詳しいとは知らなかったわ、モルダー。」
「露出が高い物には関心があるのさ。」
モルダーは少し黙った後続けた。
「ひょっとして君もそんな服をスーツケースにまぎれこませてないかい？」
スカリーはサングラスの奥で瞳をいたずらっぽく笑わせながら彼を見つめた。
「さあ、どうかしら。」
そう言って雑誌のページをめくった。
***
フォールズ川はチャールズ川と合流し、その名の通り風光明媚な渓谷に囲まれ、滝（Falls）の多い川だった。
二人は高台に車を停めて屋根の上に座り、轟音と共に霧のような水煙を上げて落ちる滝をしばらくの間見つめていた。
モルダーは美しい滝を眺めながら、手のひらでスカリーの膝をゆっくり撫で、丘の上に立つホテルを指差して言った。
「スカリー、見えるだろう？あれが僕たちの泊まるホテルだ。カーニバルもあの近くでやるんだ。こんなふうに川を見下ろせるんだよ。」
「モルダー、私はまだこの場所のことを何も知らないわ。」
「この間記事を読んだんだ。」
モルダーは夏の澄みきった青空を見上げた。
「“7月4日に毎年行われる、フォールズ川の花火”という記事をね。すごく興味をそそられる内容だったんだ。」
「あなたがちゃんとトラベルガイドを見て旅行を計画したなんて、信じられないわね。」
「僕が見たのはトラベルガイドじゃないよ。」
「じゃあ一体何を・・・？」
モルダーは空を見上げて言うべきか迷うような表情をした後、ついに告白した。
「『全米幽霊スポット』」
しばらく沈黙が続いた後、そっとモルダーがスカリーの様子をうかがうと、彼女も空を見上げ、何か苦い物でも味わったような表情をして唇を開いていた。
「『全米幽霊スポット』。素敵ね。」
スカリーはあきれたようにゆっくりつぶやいた。
「ここか、ウィンチェスターのミステリーハウスかウィリアムスバーグにするか迷ったんだけど・・・」
「それで？モルダー。私たちのホテルに幽霊が出るわけ？夜になると幽霊船がこの川を渡るの？南北戦争の兵隊の幽霊達が行進するの？それともエドガー・アラン・ポーがあのホテルに泊まっていたの？」
スカリーは怒っておらず、モルダーをからかって楽しんでいるようだった。
「いや、君も見れば分かるよ。それまで秘密だ。」
「それはとっても楽しみね。」
「きっと君も気に入るよ、きっと楽しいよ。自信がある。」
「フーン？」
スカリーはそう言って彼の肩にもたれ、美しい滝の光景に再び目を奪われていた。
***
予約したときはそこまで気が付かなかったが、モルダーはあるテーマのついた部屋を予約していた。
「こちらがドラゴン・ルームのキーでございます。」
フロントでキーを渡され、スカリーはエレベーターに向かいながらモルダーに微笑んだ。
「“ドラゴン”。きっと中世風の部屋なのね？ロビン・フッドになってみたいって思ったことは？」
「あるよ。」
スカリーはクスッと笑ってエレベーターのボタンを押した。
二人の部屋は、想像したような中世風の部屋ではなかった。
部屋全体が赤と黒と金色で彩られ、アジア風のテイストで、壁には大きな扇が飾られ、ガラスと真ちゅうでできた入れ物には陶器の人形が飾られていた。
テーブルの上には小さな噴水の置物があり、上から出た水が緑と黒の石の間を通って、真ちゅうでできた水盤にたまり、巡回するようになっていた。
ベッドはヘッドボードもフットボードも黒壇の板でできていて、マットには対照的に真っ白なベッドカバーが掛けられていた。
ベッドの上には小さな天蓋が付いていて、2つのランプと時計、そして陶器でできたドラゴンが向かい合わせに上から見下ろし、まるでベッドの守り神のように設置されていた。
一匹は口を開けて牙をむいて空へ駆け上がるような姿で、もう一匹は対照的に口を閉じ、首を下に向けて下界へ下りてくるようだった。
ドラゴンたちの表情は気高くどう猛で、金色の大きな目を輝かせ、長く細い体のそばに、同じく陶器でできた雲をたなびかせていた。
モルダーはこのドラゴンたちが見守ってきたゲストたちのことを考えて微笑んだ。
スカリーは部屋を見回し、無表情のまま窓のそばへ行ってカーテンを開け、目の前に広がるすばらしい景色を眺めた。
「もし気に入らなかったら・・・」
モルダーが少し不安になって尋ねると、スカリーは振り向いてにっこり微笑んだ。
「気に入ったわ、モルダー。とっても。まるでゲイシャが住んでいるような部屋ね。」
モルダーは声を低くして、誘うようにささやいた。
「僕のゲイシャになってくれるかい？スカリー。」
「お断りよ。」
スカリーはツンとして答えた。
***
二人は真っ白なベッドに横たわり、時間をかけてキスを交わしていた。
ベッドは二人に程良い大きさと柔らかさで、とても落ち着くことができた。
特に黒い光沢のあるモダンなベッドフレームをモルダーは気に入った。
「こんなベッドを買おうか、スカリー。」
スカリーはクスッと笑って答えた。
彼のベッドの好みは毎週クルクルと変わっていた。
スカリーとこうして眠るようになってから、彼はカウチでなく、マットレスのあるベッドで眠ることができていた。
スカリーはモルダーに抱きしめられながら、頭を彼の肩にもたれさせてウトウトしはじめた。
モルダーはまだ眠らずに彼女の寝顔を見つめていたが、そっと目を閉じて枕にもたれ、規則正しい呼吸を聞いているうちに彼も眠りに落ちた。
部屋の中は、テーブルの小さな噴水の流れる音だけが静かに続いていた。
***
モルダーが目を開けると、部屋はもう薄暗くなり始めていた。
スカリーは先に目が覚めたようで、スーツケースを開けてコットンのワンピースやシャツを黒壇のワードローブの中にしまっていた。
彼はそのまま動かずに、スカリーの動きと、フローリングを歩く彼女の素足の足音を聞いていた。
スカリーはもう、モルダーの荷物をワードローブへしまい終わっていた。
「おなかへった？モルダー。」
スカリーはワードローブの方に向いたまま話しかけた。
「ああ。」
二人は途中に路上のスタンドで桃を買って食べたが、食事といえる物は朝食以来とっていなかった。
「レストランを探しましょう。」
スカリーはそう言いながら、一枚のサマードレスをクローゼットから取りだした。
「これを着た方がいい？」
スカリーはドレスを体にあてて、彼に見せた。
部屋が薄暗くて色がはっきりと分からなかったが、モルダーが望んでいたとおりのホルターネックのトップにロングスカートの、セクシーなサマードレスだった。
「もちろん。」
モルダーはこのサマードレスを着た彼女の肌が、月の光を浴びて輝くのを想像して、嬉しそうにうなずいた。
***
フロントにパンフレットが置いてあり、近場のレストランや地元のイベント情報などが紹介されていた。
「こちらは独立記念日の花火大会がとても有名です。お客様もそうですよね？」
パンフレットを見ているとフロント係がニッコリ笑いながら話しかけてきて、モルダーも「もちろんそうです。」と調子を合わせて答えた。
ホテルから出てレストランへ向かう間、二人はずっと手をつなぎながら、独立記念日のために飾り付けられた道を歩いていた。
「まるでディズニー・ワールドのメインストリートみたいね。いいえ、それよりもっと綺麗だわ。」
「ウィリアムスバーグに行かなくて良かった？」
「ええ！」
モルダーはそっとスカリーを抱き寄せ、彼女は包まれるような腕の中でモルダーの方に向き直った。
「ここを選んでくれて嬉しいわ。きっと花火もとても綺麗に違いないもの。」
「ああ、もちろんだよ。」
モルダーは更に抱きしめる腕に力を込めながらささやいた。
「きっと心に残るよ。」
***
二人はレストランで“オーセンティック・コロニアル・キュイジーヌ”を注文した。
モルダーは彼女がコーンブレッドをハチミツに浸して食べるのを、ひじを突いて手を顔にあてながら、微笑んで見つめていた。
「あなたも食べる？」
スカリーは見つめているモルダーに、眉を上げて尋ねた。
「いや、いいよ。君が食べるのを見ていたいんだ。」
かつてスカリーが病に苦しめられていた間、彼女はどんな料理も一口か二口かじっただけで食べるのをやめてしまっていた。
それは病ばかりか化学療法による治療の影響で、モルダーは何とかたくさん食べさせようと心を砕いたものだった。
だから今、彼はスカリーの旺盛な食欲を見ることがとても嬉しくて、もし彼女が望むなら、いくらでも追加オーダーするつもりだった。
「あの日を覚えてる？」
モルダーが言うと、スカリーはまた眉を上げた。
「ピクニックした日だよ。」
「もちろん覚えてるわ。あなたはバレーボールで勝ったのよね。」
「あの時君はクーラーボックス一杯にアイスクリームを入れてきて、コーンまで別に持ってきてただろう？あの・・・トゥティ・フルーティ・ライスポップだとか何とか言うアイス・・・」
「“トーフルッティ・ライス・ドリーム・サイクル”よ。」
「君がそのアイスを食べるところをずっと見てたんだ。その時気がついたことがあったんだよ。知ってるかい？」
「何が？教えて？」
「他の男達も君を見てた。スキナーまで君を見ていたんだ。」
「え？」
さらにスカリーの眉が上がった。
「君がアイスクリームをなめているところをじっと見ていたんだ。君がコーンをほおばって、舌でアイスクリームをなめているところを汗をかきながら見ていたんだ。僕の目はごまかせない。」
「どうしてそんなことを言うの？」
スカリーの瞳に一瞬光がスパークした。
モルダーにはいまスカリーが何を考えているのかが伝わり、彼が挑発した少しの怒りがさらに彼女を美しく輝かせた。
「僕はただ君と、君を見てた奴らを見て、考えていることを言っただけだよ。奴らも僕がずっと知りたがっていたことを知りたいんだよ・・・」
モルダーは一段と声を低くした。
「・・・君の唇がどんなに甘いかってことをね。」
「やっぱり作り話なのね。」
スカリーはささやき声に近いほどの小声で言った。
彼女はいつもモルダーのたくらみに引っかかってしまう。
モルダーは日中のパートナーである関係から、優しい恋人に変わるときのスカリーの表情が何より好きだった。
テーブルの上の彼女の手にモルダーが手を重ねると、そっと指で撫でながらスカリーは続けた。
「誰も私が食べるところなんて見ないわよ。」
「見てるよ、君が気付かないだけさ。食べてるときの君は特にセクシーで美しくて・・・いや、他の時ももちろん綺麗だけどね。」
「モルダー。」
スカリーは頬を染めて視線をそらした。
「私はあなたのものなのよ。そんなお世辞なんて言わなくていいのよ。」
「本気で言ってるんだよ。」
モルダーはそう言ってスカリーにまなざしを送り続け、ウェイターが咳払いしてメインコースをテーブルに並べるまで、二人は見つめ合ったまま手を握り合っていた。
***
食事が済むと、二人は独立記念日のためにきらびやかにデコレーションされたアーケードを眺めながら散歩し、次に見る映画の話をしていた。
公園でバンドがレゲエ風の曲を演奏していた。
モルダーは曲を聞くとスカリーを腕に抱き込み、スカリーも腕を彼の首にまわしてゆっくりとダンスのステップを踏み始めた。
「“Is this love, Is this love, is this love that I'm feeling?”」
ヴォーカルの声に合わせてモルダーは唇を動かしてスカリーを見つめた。
彼はスカリーの蒼い瞳から、その問いかけの答えをしっかりと受け止めた。
***
柔らかなスカリーの肘の内側を見ると、モルダーはいつもうっとりしてしまう。
膝の内側を見るとまるで魔法をかけられたようになり、柔らかな耳たぶには心を奪われっぱなしだ。
彼女の美しい胸の曲線を見るともう何も目に入らなくなり、背中のカーブにはすっかり降参し、唇と鼻の間の溝にはキスせずにはいられなくなる。
モルダーはゆっくりスカリーの肌に触れ、そっと唇で彼女の手に、唇にキスした。
二人が愛し合うときは炎が一気に燃え、一つになろうと熱にうかされたように激しく求め合うことも多いが、今のようにゆっくりと時間をかけて愛し合い、深いキスでお互いの唇を味わいながら余韻に浸るときもあった。
モルダーはそっと手を伸ばしてスカリーの胸の横に指を伝わらせた。
「何してるの？」
スカリーはくすぐったそうに笑いながらささやいた。
「君の肋骨を数えてるんだ。」
「ちゃんとある？」
モルダーはクスッと笑った。
「ああ、たぶんね。」
「よかった。」
スカリーはあくびして体を伸ばし、頭をのけぞらせた。
「なくなってたら困るもの。」
「足りなかったら僕のをあげるよ。」
「サイズが合わないわよ。」
スカリーは笑ってクシャクシャになった髪の間からモルダーを見上げた。
「でもいいアイディアね。」
「そうだろ？ずっと前からそう考えてたんだ。」
「あら、私の方が先よ。私もそう思ってたんだから。」
スカリーは彼の胸を手のひらで撫でて肋骨に当たる部分にキスし、頭をそっとその上に置いて目を閉じた。
「とても、とても素敵なアイディアよね。」
「眠ったのかい？」
しばらくしてモルダーがささやきかけるとスカリーからの返事はなく、そっと彼女の髪にキスしてモルダーも目を閉じた。
一時間後にまたモルダーは目を覚まし、手探りでテーブルの上の噴水の装置のスイッチを切った。
そしてため息を付くと、また深い眠りに入っていった。
***
バスルームも部屋と同じように赤と黒、そして所々に白と金色で装飾され、イミテーションの翡翠でできた中国風のオーナメントが置かれていた。
カウンターの上には木製のボウルが置いてあり、中には漢字と英語が彫り込まれている四角い石がたくさん入っていた。
モルダーは石を一つ一つ取り上げて読んでみた。
「愛」「信頼」「希望」「平和」「喜び」・・・。
モルダーは石を並べ、暑い湯煙を上げているシャワーの中へ進んだ。
頭を下げて熱いシャワーを体中に浴び、ゆっくりと息を吐き出した。
日常的に彼が味わっている痛みや疲れが熱いシャワーの滴と共に溶けていき、その代わりに心地よさが全身に広がって体が軽くなっていくようだった。
彼はシャワーの中で頭をゆっくり振り、心地よい熱さが体中を打たせるままにした。
腰にタオルを巻いてバスルームを出てベッドを見ると、スカリーはクリーム色に輝く肌を出してまだ眠っていた。
モルダーはその姿を見るとニヤッと笑い、腰のタオルを放り投げてベッドに潜り込み、柔らかな肌に頬ずりした。
「・・・まだびっしょりじゃない・・・。」
「シャワーを浴びたばかりなんだ。」
「そうね、いい香りがするわ。」
「ありがとう、dear。」
スカリーはクスッと笑った。
これまでモルダーは愛情のこもったいろいろなニックネームを彼女に付けて呼んでいて、彼女も一度もいやだと思ったことなどなかった。
スカリーはそっと頭を上げて、彼の濡れた髪にキスした。
「今日は何するの？」
「“何もしない”っていうのはどうだい？」
「最高ね。」
スカリーは優しく微笑みながら体をずらし、モルダーをより優しく抱きしめ直した。
「モルダー、もう髪が乾き始めたわ。おかしいわね。」
「髪なんてどうでもいいよ。今日は何も考えない。何も構わない。ただ流れるままに過ごそう。」
「そうね・・・。」
スカリーはもう一度髪にキスして地肌に指をすべらせ、モルダーはそっと目を閉じて、ゆっくりと心地よく流れる時間に身を任せた。
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「ここは本当にいいところね。」
「ああ。」
二人はオークの木陰に横たわり、そよ風に揺れる緑の葉を見つめていた。
カーニバル会場のメイン・グラウンドからさっと風が吹き、草と土の匂い、それに少しの家畜
の匂いが飛んできて、川から吹く風の、冷たい水と水草の匂いと競争した。
カーニバル会場からは子供達の笑い声やはしゃぎ声、豚の鳴き声やオモチャの鉄砲の音、ローラーコースターやメリーゴーラウンドの動く音、客寄せの威勢のいい声、ベルの音、そしてブラスバンドの演奏する音が聞こえていた。
毎年100近いブラスバンドが全米中からここに集まり、このフォールズ・リバーのフェスティバルのために演奏し、コンテストを開いているのだった。
そのブラスバンドはその日9番目のバンドで、まだまだたくさんのバンドが演奏を待っているはずだった。
広場には審査用のパネルが置いてあり、パフォーマンスや演出、振り付け、そして総合点が示されるようになっていた。
二人はホテルのレストランでサンドイッチや氷、ケーキやフルーツ、それにクッキーを買い、クーラーに詰めてカーニバル会場を見渡せるピクニック広場に持ってきて、大きなオークの木陰にピクニック用のシートを広げてカーニバルを楽しむことにした。
午前中は乗り物に乗ったり品評会に出されている馬や牛を見て、お昼は木陰に戻って持ってきたお昼を食べた。
気温は既に34度を超えようとしていて、二人はもう木陰から出ようと思わなかった。
涼しい木陰で昼寝を楽しんでいるのは二人だけでなく、ほとんどの木陰に人々が集まり、そよ風に吹かれながらピクニックを楽しんでいた。
野原に置いてあるピクニック用のテーブルは、日光がまともにあたっていたので誰も使おうとしなかった。
スカリーは寝返りをうってモルダーを見つめた。
「ここに連れてきてくれたことに、お礼を言った？」
「いや。」
モルダーも微笑んで見つめ返した。
「ありがとう、モルダー。」
「どういたしまして、スカリー。」
「生まれ変わったみたいにいい気持ちだわ。すごくいい気持ち。10歳は若返った気分よ。」
「君はいつ見ても素晴らしいよ、どんな時でも。」
今日スカリーは体にぴったりとしたTシャツとショートパンツをはいていた。
モルダーがこの姿を永遠に胸に焼き付けておきたいと思うほど、とても綺麗だった。
「ありがとう、モルダー。」
「どういたしまして、sweetie。」
スカリーは笑って彼の方に近づき、胸に頭を乗せた。
モルダーは彼女の背中を優しく撫でながらささやいた。
「今夜またここに来て、星空を見よう。」
「いいわよ。素敵なコーディネートね。“10：30pm、星空を見る”。」
スカリーはクスッと笑って続けた。
「あなたは私のコーディネーターね、モルダー。」
「僕もそう言おうと思ったんだ。」
モルダーは彼女の額にキスして、サラサラと風に揺れるオークの葉を見上げた。
***
夜になり、カーニバル会場はまぶしいほどのネオンや電飾が輝き、音楽が川の水面を通って辺り一面に響いていた。
スカリーとモルダーはディキシーランド・ジャズの曲に合わせてステップを踏み、カーニバル会場の中を歩いていた。
二人はたくさんの乗り物に乗り、会場で一番大きなローラーコースターにも乗り、大きな急降下を乗り切るとスカリーは腕を上げて、「ローラーコースターって楽しいわ！」と喜んで叫んだが、モルダーはまだバーにつかまったまま、「どこかに座らせてくれ。」とやっとの思いで言った。
二人は風船めがけて水鉄砲を撃つゲームや輪投げなど、たくさんのゲームも楽しんだ。
野球ボールを投げて壺に入れるゲームのブースで、黒い大きな目と緑色の頭をした、エイリアンのルームランプが賞品として棚に置いてあり、スカリーは一目見て絶対に取ろうと決心した。
20ドルも払って6回も挑戦し、それが最後のボールになったとき、ついにボールが壺の中に入った。
「皆さん、こちらのレディが成功しました！」
店主がベルを鳴らして大きな声で叫んだ。
「さあ、どちらの賞品がよろしいですか？」
「あれよ。」
スカリーはエイリアンのランプをまっすぐに指差した。
店主は棚から下ろして、彼女に手渡した。
「モルダー、あなたにプレゼントよ。」
スカリーはエイリアンのランプをモルダーに渡し、彼はランプの顔を見て笑った。
「レチクル星人の肌はグレーなんだぞ、スカリー。」
「いらないならいいわよ。私がもらうから。」
スカリーが取り返そうと手を出すと、モルダーは笑いながらランプを腕で守るように抱きしめ、彼女の手をよけるように背を向けて逃げ出した。
「だめだよ、もう返さない。僕にプレゼントだって言っただろう？だからこれは僕の物だ！喜んでベッドの横に飾らせてもらうよ。君が名前を付けて。」
「いいの？ずいぶん優しいのね。」
二人はカーニバル会場からホテルへの道を歩き始めた。
「僕は優しさの固まりだろう？」
「特にベッドに入ると、でしょう。」
スカリーは彼の髪を手でクシャクシャにした。
「こんなあなたもかわいいわよ、モルダー。ベッドでも、いつでも魅力的よ。」
「おい、聞いたかい？」
モルダーはエイリアンに向かって話しかけた。
「証人になってくれよ、今確かにスカリーは僕を魅力的だって言ったんだよな。」
エイリアンはまじめな顔をしたまま、うなずいて見せた。
***
スカリーは暑さに参ってしまっていた。
彼女がぐったりしていると、会場の係員達はこのフォールズ川周辺の気候に慣れていない観光客にそうするように、同情的なまなざしと共に、「カーニバルを楽しんでくださいね、マダム。」と声をかけていった。
ハンドメイド・キルトの展示会場を見ながらスカリーが言った。
「あなたの言ってた秘密って何？モルダー。ここにいる人たちもビックリするようなことなんでしょう？」
「大体の人たちは、ここにはカーニバルとブラスバンドのコンテストのために来てるんだ。だからほとんどの人たちはこの秘密を知らないと思うよ。」
「でも有名なんでしょう？」
モルダーは、彼女が暑さに参っていても、この話を楽しもうとしているのが分かった。
「ある世界ではね。」
「『全米幽霊スポット』。あなたの世界ね。」
「でもその本はちゃんと教育的な本なんだよ、スカリー。それにすごくおもしろいんだ。」
モルダーは彼女に腕をまわし、ゆるめに抱きしめて頭の上にあごを乗せた。
「教えてくれないのね、モルダー。」
スカリーは彼の腕を撫でながら言った。
「驚かせたいんだよ、スカリー。知っているより、知らずに出会った方がずっとおもしろいだろう？」
「驚くのは嫌いだわ。」
「嘘つき。最後に知るのが好きじゃないだけだろう？」
***
毎日気温が34度を越えた。
モルダーはスカリーをいつも木陰や展示会場の中にいさせるようにしたが、とうとう月曜の午後になると、
「エアコンのきく部屋に戻りたいわ。」
とスカリーが言い、二人はホテルの部屋に戻った。
スカリーは部屋に入ると、モルダーがドアを閉めるなりTシャツを脱いだ。
彼女の肌は、モルダーの努力もむなしく日に焼け、腕や首や脚の裏の肌が赤くなってしまっていた。
「モルダー、カーテンを閉めてくれる？」
部屋を横切り、薄いレースのようなカーテンを閉めて振り向くと、スカリーは脱いだTシャツで胸の汗を拭いていた。
「服を脱いで水に浸かった方がいいよ、スカリー。」
彼女はうなずいてバスルームへ向かいながら、一枚ずつ服を脱ぎ捨てていった。
モルダーがバスタブに少し冷たいくらいのぬるま湯をためると、スカリーは大きく息を吐きながらその中へ身を沈めた。
「コールドクリームは持ってる？」
モルダーが尋ねるとスカリーは目を閉じ、バスタブに体をもたれさせながらバッグを指差した。
「念のためと思って持ってきたわ。アロエベースのローションが入ってるから。」
モルダーはバッグの中からローションのボトルを見つけ、キャップを開けてその香りに微笑み、中身を両手で伸ばしてからスカリーの後ろに回り、バスタブのそばに膝を突いてデリケートな肌にローションを塗り始めた。
うなじに塗り終わると手にもっと取り、ほてった肩と腕にも冷たいローションを塗りだした。
スカリーは水の表面に腕を浮かせ、気持ちよさそうに鼻から声を漏らした。
「脚はどうする？」
スカリーの肩をマッサージしながらつぶやくと、彼女は少し体を水の中に沈め、ピンク色の脚を上げてバスタブの縁にかけた。
モルダーは笑って冷たいローションを直接脚の上にかけ、ゆっくりと上下にローションを塗ってマッサージした。
スカリーは頭だけを残してすっかり水の中に体を浸し、もう一度体を浮き上がらせて髪をかき上げた。
「だいぶ良くなったわ。」
「よかった。」
「あなたも日焼けを冷やした方がいいわよ。」
彼女はそう言って眉を上げ、モルダーはTシャツを脱ぎ、ベルトをはずした。
***
7月4日、独立記念日。
二人は夜のうちに川から吹く冷たい風が部屋にはいるように窓を開けていたので、夜が明けると共に、どこか遠くでトランペットが演奏する、“America the Beautiful”を演奏する音が二人の耳に届いた。
トランペットは美しく哀しげに、一音一音を伸ばしながら、素晴らしい音を奏でた。
スカリーはベッドの上に起きあがり、膝を抱えて演奏に耳を傾けた。
振り向くとモルダーも目を覚ましていて、彼女はかがみ込んで朝のキスをした。
彼はスカリーの顔を両手で包み、親指で優しく頬を撫でた。
「きれいな音よね。」
「ああ。」
モルダーは彼女の瞳の奥を見つめ、遠くから響くトランペットの音に包まれながら二人はキスを交わした。
***
カーニバル会場はこれまでより最もたくさんの人で混雑し、そのたくさんの人々の期待にこたえるように、ブラスバンドのチーム達も素晴らしい演奏を披露していた。
そして会場の中心では町を代表する人たちの固いスピーチや子供達の聖歌隊が並び、今日は赤と白のシャツにブルーのジーンズをはいて愛国心を称える歌を合唱していた。
お昼のバーベキューを食べながらスカリーが尋ねた。
「パレードはいつ頃あるの？」
「日没後かな。」
モルダーは食べていたスイカの種をプッと出した。
「その時全部のバンドが演奏するの？」
「1チームずつね。」
彼はそう言ってまたスイカをほおばった。
スカリーは困惑したように彼を見つめていて、その表情からはまるで、とてつもなく大きなパレードを想像しているようだった。
スカリーは肩をすくめ、ちょっと口を開いて歯を出した。
「ねえ、何か歯に付いてない？」
「ああ、ほら。」
モルダーは手を伸ばして、スカリーの前歯に付いている果物の皮を取り除いた。
「ありがとう、でも直接取ってくれなくても良かったのに。」
「どういたしまして。」
彼はペーパーナプキンで指を拭きながら言った。
「僕の指が口に入るのをいやだと思わないでくれよ。」
「いやだなんて思ってないわ、私は・・・」
スカリーは少しの間言葉をとぎらせた。
「・・・あなたがこうしてくれることが、自慢なくらいよ。」
「ありがとう、スカリー。いつでも言ってくれ。」
***
日も落ちて涼しくなった頃、フォールズ川の縁に立てられたステージの周りに観客が集まり、それぞれピクニックシートを広げたりキャンピング・チェアを置いて座り、式の開会を待っていた。
モルダーはクーラーボックスにソーダとアイスクッキーを詰め、スカリーも薄手のセーターをはおって準備し、シートとブランケットを持って会場にやってきた。
二人は混雑しているステージ近くから少し離れたなだらかな斜面にシートを敷き、荷物を下ろして腰を下ろした。
ここからだとステージの全体も、大勢の観客達も見渡すことができ、何よりライトにきらめく川を見下ろしながら、暗闇の中で二人きりになることができるのだった。
「それでモルダー、どうやってそのすごい秘密が分かるの？」
スカリーは指に付いたチョコレートをなめながらささやいた。
「そのうち分かるよ。」
モルダーは横になり、腕を組んで星を眺めながらニヤニヤした。
スカリーも彼の横にかがみ込むように横になり、彼の髪に向かってささやきかけた。
「どうしてもくすぐられたい？」
モルダーは笑い出した。
「どんな拷問をしてもいいよ、おまわりさん。でも絶対に喋らないからね。」
スカリーは彼の頭をそっと抱きしめ、額に向かってささやいた。
「それなら、キスしたら話してくれる？」
「え・・・あ・・・ああ、キスしてくれるなら・・・。」
スカリーはそっとモルダーの唇にかがみ込んだ。
「スカリー！」
突然モルダーが彼女の肩をつかんだ。
「聞こえたかい？」
「パレードよ。」
スカリーも子供のように笑顔を輝かせ、二人は起きあがってパレードが近づいて来るのを見守った。
30チーム以上ものブラスバンドがきらびやかなユニフォームを着て行進し、それぞれ輝く楽器を吹き鳴らし、行進の合間にはダンスのステップを踏んで編隊を組み、まるで音楽でできた川のようにどこまでも長く続いていった。
スカリーはモルダーの手を強く握りしめ、パレードをじっと見つめていた。
「すごくたくさんあるのね、トロンボーンが76本はあるわよ。」
「それ以上だ。」
パレードの先頭がステージに到着したが演奏は止まず、そのままステージ上で最後の列が到着するまで“Stars and Stripes Forever”と“The Liberty Bell March”を交互に演奏し続けた。
だがおかしなことにステージの一角だけが、どのバンドも並ばずに場所を空けていた。
「変ね、なぜあそこだけ空けているのかしら。」
「待って。」
最後のバンドがステージに到着し、観客達は一斉に拍手した。
ステージ上でコンテストの審査員達がそれぞれの賞をバンドに授与していたが、モルダーの耳にはまるで聞こえていなかった。
モルダーは次を待っていた。
このフェスティバルのフィナーレを飾るすばらしい秘密を。
司会がコンテストの優勝チームの名を読み上げ、一段と大きな拍手が湧き起こった。
モルダーが予想したとおり、ディキシーランド・バンドが優勝し、司会がバンドリーダーにマイクを渡した。
リーダーはトランペットを片手に持ち、一歩前に進み出た。
「このすばらしい栄誉を受けることができて、大変光栄です。僕たちのバンドは毎年このコンテストに出場して、もう30年近くになります。まるで奇跡のようです。今年もまた皆さんにお目にかかれてとても嬉しいです。」
彼はそこで言葉をとぎらせ、またマイクに向かった。
「また来年もここへ来て、このフォールズ・リバーのフェスティバルで演奏をお聞かせしたいです。かつてここで演奏した、古い仲間達と共に。」
「モルダー・・・？」
「待って。」
モルダーは目を輝かせて微笑んだ。
バンドリーダーはトランペットを掲げ、甘く、哀しいメロディーを吹き始めた。
観客達は一人立ち、二人立ち、次々と立ち上がってこの哀しみの漂う、美しい音色に静かに耳を傾けた。
彼は大きく息継ぎし、もう一度トランペットを吹き鳴らすと、もう一本のトランペットの音がそれに続いた。
観客達は一斉に息をのんだ。
そのトランペットの音はステージの誰もいない一角から立ち上がり、誰も、楽器も何もないはずのないスペースから、トランペット、トロンボーン、ドラムと次々に音が輪のように広がり、完璧な演奏が響き渡った。
モルダーは振り向いてスカリーを見つめた。
彼女は口に手を当てて、驚きで目に涙を浮かべていた。
「秘密ってこれなのね！？」
「彼らは毎年帰ってくるんだ。」
モルダーはそっと彼女の肩を抱き寄せてささやいた。
「言っただろう？君を驚かせたかったんだって。」
「あなたがそんなことを言うときは、決まっておかしな事ばかりなのに・・・。」
「こういうのも悪くないだろう？」
スカリーは微笑んでモルダーの胸に頭をもたれさせ、目に見えないバンドの演奏に耳を傾けた。
観客達は無人のスペースから奏でられる演奏に、水を打ったように静まりかえっていたが、演奏の最後の音色が空に消えると一斉に割れるような拍手を送り、口々に「信じられない」とつぶやき、「本当にあったんだ」という結論にたどり着くまで興奮して話し続けた。
「みんな何て言ってるのかしら。」
「さあね。記事ではあのゴースト・バンドは一曲だけ演奏することもあるし、ある年は一時間近くも演奏することがあったそうだよ、ほら。」
スカリーは彼の腕の中で目を閉じ、耳を澄ませた。
ステージからまた演奏が始まり、観客達は一瞬息をのみ、すぐに大きな歓声を上げた。
今度は勇ましいマーチが始まり、ステージにいた目に見えるたくさんのバンド達も彼らの音に従い、心から楽しむような演奏を始めた。
もう、いつゴースト達の演奏が終わったのか分からなくなった。
バンド達は“The 1812 Overture finale”、“Scotland the Brave”、“You've a Grand Old Flag”・・・数々の心弾むような曲を演奏し続け、夜の空気を楽しげに震わせた。
そしてバンド達の演奏が終わると共に、フィナーレを飾る花火が夜空に続々と大きく打ち上がった。
スカリーとモルダーは抱き合ったまま横になり、夜空に星のように残った花火の跡を見上げた。
「モルダー、約束してほしいの。」
スカリーはいたずらっぽくモルダーを見つめ、彼はその瞳に映る言葉を受け取ったように微笑んだ。
「約束するよ、今度の週末は花火を見に行こう、絶対だ。もっともっとたくさんの花火だ。」
モルダーは彼女を抱きしめたまま体を横にした。
「数え切れないほど、もっともっとたくさんの花火よ。」
スカリーは顔を上げて彼の唇にキスした。
モルダーが頭を上げた。
「何か聞こえないかい？」
「ん・・・きれいな曲・・・。」
***
二人の後ろの木のそばで、一人の透けて見えるトランペット吹きがセレナーデを奏でていた。
彼は来年ここへ帰って来るまで、その美しい演奏をすることができない。
だが彼はその前に、幽霊の存在を信じたこの若い恋人達のために、
甘いプライベート・コンサートを開いてあげたのだった。
End
この作品はJenna Toomsさんが、2000年7月に描かれた作品です。
モルスカにリゾートに行ってほしい、のんびりしてほしいなと思ってこの作品を訳しました。
7月4日は過ぎてしまいましたが、7月という時期と34度の気温なら、今も十分味わえるな〜と思って訳しました。
のんびりと休暇を楽しむモルスカって、大好きです〜。
tomo
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