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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox
Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Dance Without Sleeping
作：Lydia
Bower
訳：tomo
注：この作品は「メメント・モリ」でガンの宣告を受け、その後のエピで全快するまでの間、
スカリーがどうやって強く生きていくことを決心したのか、そして、どうやってモルダーが
彼女を支えたのかを描いた物語です。
*この作品はシーズン4「メメント・モリ」のスポイラーficです。
*作品には出血シーンが含まれています。
*この作品は18歳以下の方はお読みになれません。
*どうか以上のことをご了承の上お進み下さいませ。また、長めの作品ですので、できれば
お時間のあるときにゆっくりお読みいただけたらと思います。
Dance Without Sleeping
\ Full Circle
この心の痛みを、きっと彼女は知らない。
僕がどれほど怖れていたか、きっと彼女は知らない。
どれほど怖れていたか・・・心臓が激しく鼓動し、内蔵をつかまれたように僕の体は震えていた。
心が痛みで震えていた。
奴らはサマンサを奪った後、スカリーまでも僕から奪い、そして戻してきた。
くそっ。
ICUの扉を駆け抜けて彼女のベッドへ走り寄ったときのことを、まるで昨日のことのように覚えて
いる。
あの時彼女の瞳を見られなかった。
くそっ、スカリーの目はテープで覆われていたんだ。
あの時僕の中の何かが木っ端微塵に砕け散った。
そして僕はその後凍えるほど寒いアラスカでバウンティ・ハンターと直面し、ニュー・メキシコで
クリーチャーの死体と共に燃やされかけ、恐怖を味わった。
モデールとのロシアン・ルーレット。
僕は恐怖と直面するたびに、子供の頃のこと、妹のことを思いだしていた。
でも、もし僕がこの数ヶ月の間に感じた恐怖を感じないですむのだったら、喜んで過去の恐怖を
味わう目になってもいい。
ガン病棟でスカリーの口から聞かされた「私はガンよ。」という言葉を聞かないですむのだったら。
その言葉を聞いた瞬間、かつて無い恐怖と罪悪感が僕を打ちのめした。
それからずっと味わった苦しみは、他とは比べ物にならないほどの恐怖だった。
真実を深く追いつめるよりも、全てあきらめて流されてしまった方が楽なのかもしれない。
だが悲劇を受け入れてばかりの自分が恥ずかしく、とてつもなく情けなかった。
僕に関わっていなければ、こんな悲劇は彼女に起こらなかったはずなんだ。
デュエン・バリーから摘出した証拠を、僕は何の考えもなしに彼女に渡してしまった。
それが全ての元凶なんだ。
奴らは彼女を僕の手の届かない所に連れ去り、それに対して僕は何も、何もできなかった。
僕はいつかあの肺ガン男の頭を撃ち抜いてやる日を心待ちにしていた。
いつか正義と真実さえ手に入れられれば、きっとその日は来る、僕たちは勝てると思っていた。
だがいつも僕の口の中には苦い味しか味わうことができずにいる。
僕は以前、『自分はどうなってもいい、だが妹の誘拐の真実は必ず見つけてみせる。』と
スカリーに言ったことがある。
僕が言ったのは“自分”だ。
自分はどうなってもいいと言ったんだ。
スカリーを失うことはできない。
もし彼女を失ったら、僕も死んだも同然になるだろう。
まるでくだらないメロドラマみたいだろう？
でもこれが現実なんだ。
僕はかつての、自分の気持ちを素直に認めずに時間を無駄にしていた自分を呪い、後悔した。
僕たち二人とも素直じゃなかった。
だが、まだ遅くはない。
僕は理性や事情でお互いの気持ちを抑えていたことを止めて、自分の気持ちを認めることから
始めたが、一度その門をくぐると、自分でも驚くほど彼女を深く、心の底から愛している自分自身
に直面した。
ひょっとしたら、今こうやって彼女への気持ちに気がついたのも運命だったのかもしれない。
お互いへの気持ちをずっと心の中で育み続け、この事実をきっかけに揺るぎない愛をお互いに
伝えられるタイミングだったのかもしれない。
そして僕たちはその運命をしっかり受け止め、人生での本当のパートナーになった。
ペニー・ノーサンが亡くなった病院でスカリーが見せた勇気に驚いた。
彼女は病気を押しやり、真っ正面から事実に立ち向かうことを決心し、恐怖を克服したように見えた。
僕は彼女を抱きしめながら自分自身に誓った。
〈スカリーの決心と希望を支え続けよう。何があろうと、僕は彼女のそばに居続け、支え続ける。〉と。
僕はスカリーの勇気に、強さに、そして怒りにかけて誓いをたてた。
僕の人生は三つのことを追求するためにある。
サマンサの真実の追究。
スカリーの真実の追究。
そして僕自身の救済。
最後の三つ目は、初めの二つの真実を見つけだしたときにかなうだろう。
そう信じている。
この数ヶ月間は驚くべき瞬間と恐怖に駆られる瞬間の連続だった。
スカリーは強い。
だが彼女が強く振る舞えば振る舞うほど、僕の心は失うことの恐怖で震えていた。
僕は彼女を助けたいだけだった。
いつどんな時も彼女のそばにいたいだけだった。
仕事が終わるととにかくいろんな理由を付けて、一緒にすごすために僕達の部屋へ行った。
今“僕たちの部屋”と言ったけど、僕はスカリーの部屋をもうすっかり自分の部屋だと思いこんで
いるんだ。
僕のいるべき部屋だとね。
自分のアパートで1、2時間いることもあったが、それはどうしても必要な事があった時と、
スカリーに追い出された時だけだった。
ある夜スカリーが僕に二つのプレゼントをくれた。
一つ目は、ついに心の壁を崩して僕に心の内側を見せてくれた。
そして二つ目は、涙で書かれた彼女の願いのリストだった。
こういうものをスカリーが望んでいたことを知らなかった。
彼女は僕をそれまで近くに寄らせてくれなかったから。
あの夜スカリーが涙の合間に痛々しく綴ったリストを、僕は頭の中に一つ残らず焼き付けた。
外見からスカリーが病気だと信じるのは難しかった。
彼女は変わらず、美しいままだったからだ。
ひょっとしたら少し肌が青白くなり、少し痩せたかもしれないが、それでもこの上なく美しいまま
だった。
今考えればおかしいことだが、僕はスカリーの体には何も起こっていないのだと信じ込もうとし
始めていた。
〈一体彼女のどこが病気だと？誰が見たって彼女は健康で、誰が見たって病を抱えているようには
見えないはずだ。あの病院での事は悪い夢だったに違いない。〉
だからアイオワで出血したのは本当にショックだった。
今でも思い出すと震えが走る。
僕は人があんなに出血するのを見たことがなかった。
僕はあの時、あのアイオワの小さな町でスカリーを失ってしまうのかと思った。
しかしまるでスイッチが止まったように出血が止まってくれた。
だが出血よりもっとショックだったのは、スカリーが自分の出血に少しも驚かなかったことだった。
もし僕が彼女だったら、ああも落ち着いていられたか分からない。
スカリーは血に染まったハンカチを顔に当てて座り込み、自分の命が今にもなくなろうとしている
のに、病院へは行かないと言い張っていた。
僕はあの時ほど激高して「病院へ行け！」と怒鳴り散らしたことなどなかった。
僕はバカのように天井を見つめてあせりを落ち着かせようとした。
〈彼女には今何が起こっているのか分かってないのか？今の自分の状況は見えてるはずだろう？
それとも、病院へ行く必要はないと確信できるほど、これまで何度もこんな出血をしていたのか？
僕の知らないところで？〉
僕はスカリーをモーテルに送り、すぐベッドに入らせ、椅子に座って彼女を見つめた。
熱い涙が頬を伝わり落ちて、いつまでも止まらなかった。
〈僕たちの時間が刻一刻と短くなっている。〉
恐ろしい考えが次から次へ浮かび上がってきて、僕の心は麻痺しそうになっていた。
自分が愛している人とすごせる時間があとどれくらいあるのか、それは誰にも分からない。
でも、これまで自分が幻想していたのと違い、二人で過ごせる時間のリミットを見せつけられた
ようだった。
あのアイオワの小さな町でわたあめを見つけられたときは、幸せな気分で自分を誇りに思った。
やっと彼女が望んでいることを、このわたあめからかなえてあげられることができると思ったからだ。
やっと気持ちを具体的に表せる手段を見つけられたと思ったんだ。
彼女に気持ちと共に手渡して、心の中は純粋な喜びで満たされていた。
だがその喜びはつかの間の喜びで、次の日どうなるかは自分にも分からなかった。
翌朝起きると、僕の気持ちは違った形へ変化していた。
昨日とはうって変わり、スカリーを自分からできるだけ遠くに離そうとしていた。
僕はスカリーを愛する痛みと直面できず、彼女が僕の腕からすり抜けていくこれからのことが
恐ろしくて考えられず、耐えられなかったのだ。
それで彼女を離そうとした。
でもまだ僕には全部を離してしまうことはできず、毎晩電話をしていた。
パートナーとしての義務を怠ったと指摘されないためにした部分もあっただろう。
僕は自分自身の欺瞞と、あの時・・・一度サマンサを取り戻しながら、自分の選択でまた失って
しまった時に感じたのと同じ気持ちを感じていた。
僕の選択でまたサマンサを失ったと知った時に、父が僕を責めた言葉を思い出す。
あの時、妹に起こったことの責任が、父から僕へ移ったのだ。
一週間、僕はオフィスから帰るとスカリーの部屋にも行かずに部屋に引きこもり、父の言った
言葉を思い出しながら、ピンク・フロイドの“The Dark Side of the Moon”を聞いてすごしていた。
なぜ誰も僕の罪を責め、訴え、捕まえに来ないのかと不思議だった。
きっと皆事件のいきさつを聞いて、“とうとうスプーキー・モルダーは狂った”と思って放って
おいたのだろう、いやな評判もこういう時はありがたい、と思っていた。
そうして僕はスカリーとの距離をもっと開けるために、彼女の助けなしでも仕事ができることを
示そうとして、馬鹿げた事件を引っ張り出してきた。
スカリーがいなかった間は自分一人でやっていたことを彼女に思い出させようとしたんだ。
僕は本当にバカな男だ。
救いようのない大バカだ。
僕は自分でそんなことを考えていながら、自分には彼女を離すことなどできないことも分かって
いたんだ。
そして本心では違うことを怖れていた。
自分で原因を作っておきながら、スカリーに捨てられることが怖くてたまらなかった。
複雑だが、僕は不安で、何かスカリーからも示してほしいと、苦しいほど望んでいたんだ。
僕だけでなく、彼女も僕を想っていることを見せてほしかった。
愛している人を失う恐怖におののいてるのは僕だけじゃない、と知りたかった。
彼女の言葉がほしかった。
“そばにいてほしい”と言ってほしかった。
スカリーに“行かないで”と言ってほしかった。
でも、聞くことはできなかった。
もっとも今考えれば、もしあの時スカリーが言ってくれたとしても、それは本当の言葉ではなく、
僕を憐れんでだったかもしれない。
僕は暗い部屋でカウチに座り、ピンク・フロイドの曲の最後を聞きながら、スカリーの姿を
思い浮かべていた。
彼女は病院のベッドに横たわり、死を待っていた。
頬と瞳は暗くよどみ、体は弱々しくやせこけ、以前は輝くように美しかった髪は枯れたように
生気が抜け、頭はコードやチューブが刺さって固定されていた。
僕はスカリーに全てを伝えたかった。
僕の気持ちの全てを知ってほしかった。
でも僕の体は動けず、口もきけずに立ちつくしていた。
声を出したいのに口が開かず、胸が破裂するほど痛くなり、のどが熱く締め付けられた。
スカリーが僕の方に弱々しく手を伸ばしたが、ふっと力が抜け、まぶたを閉じて彼女が逝った。
その瞬間全ての光景が目の前から消え去り、まるで泡がはじけたように何も見えなくなった。
僕は電話に飛びついて現実のスカリーを起こした。
僕は何とか話をしようとしたが、震えて、うまく言葉が出てこなかった。
彼女が部屋に来てほしいと言った。
ダメだ。
すると今度は彼女の方が来ると言った。
もっとダメだ。
もし彼女が来たら、僕が何をするか分かっている。
スカリーが一歩でも部屋に入ってきたら、その瞬間彼女に飛びかかって床に押し倒し、できる限り
彼女の深い部分へ自分の体を埋め込むことだろう。
彼女の中に、そして自分の中に生きている証を見つけるためにするだろう。
夢をうち消すため、死が僕から彼女を連れて行かないと確信するために。
野蛮で原始的で本能的な行動だ。
僕がしたいのは愛することだ。
自分が愛している女を、怖がらせたり不安な思いにさせたくなかった。
次の朝、空港でスカリーは僕を心底びっくりさせた。
空港のターミナルで人混みの中に立ち、はっきりと大きな声で僕を愛してると言ってくれた。
僕は思うより早く彼女に駆け寄り、ありったけの想いを込めて唇を重ねた。
その後コロラド行きのフライトの間中、僕はバカみたいにこみあげてくる嬉しさに逆らえずに、
笑顔になりっぱなしだった。
スカリーはそれからすぐ放射線治療を始めた。
最新のスキャン映像で、腫瘍が大きくなっていたからだった。
その結果が分かったときも、スカリーは冷静に落ち着いていた。
僕は彼女の肩をつかんで揺さぶりたかった。
〈なぜそんなに冷静に、乱れもせずに論理的に説明できるんだ？“君”の腫瘍が広がっているん
だぞ！？〉
僕はそう叫ぶ代わりに、スカリーの部屋をチョコレートで埋め尽くした。
何か彼女にこの世の現実的な物を、なんでもいい、生きてる、と思い出せる物を手につかんで
ほしかったんだ。
僕はVISAカードを駆使してホテルのディナーをセッティングし、ドレスと、セクシーな靴も買って
デートしようと計画した。
スカリーの、あの素晴らしいドレス姿。
彼女は信じられないほど美しかった。
それに僕が丸ごと一本のアスパラガスを指で食べさせてあげたときの、あの官能的な表情。
僕たちはドレスアップして食事中ずっとふざけあっていた。
心の底から楽しかった。
僕たちの初めてのデートは、考えるよりずっと簡単に成功しそうだった。
僕はコレクションの中から好きなビデオをフロヒキーに渡し、その代わりに教えてもらったバーへ
食事の後連れて行った。
あの夜の結果がああなったのはフロヒキーのせいじゃない。
スカリーは僕の腕の中にすっぽりと包まれていた。
踊り出すと周りの人混みは消え、二人だけになれたようだった。
僕とスカリーと音楽だけ。
〈この時間が永遠に止まればいいのに。僕が今感じている幸せを、なんとか形にして、スカリーに
渡したい。〉
でもその後世界が砕け散った。
スカリーの目は凍りついたように頭上のミラーボールを見つめ、後ろによろめきながら、何か頭の
中でフラッシュバックしたものを見つめていた。
僕の腕につかまり、力無く倒れたと思うと、何かと闘うように暴れ出した。
スカリーの瞳は大きく見開かれて恐怖におののき、何かをつぶやき、叫び、そして糸がフッと切れた
ように崩れ落ちた。
僕は救急車を呼んで2分待ったがそれ以上待てず、スカリーの体を抱き上げて車へ運び、しっかり
彼女を抱きながら病院へ飛ばした。
皮肉な事にこの病院は、モデールと死のゲームをした病院だった。
僕は看護婦に「ぐずぐずしないで早くドクターを呼んでこい!!」とどなりまくった。
僕は救命室から追い出されそうになるたびにバッジを見せ、ドクター達が診察している間スカリーの
そばに立ち、看護婦がハサミでドレスを切り裂かないように目を光らせていた。
それ以上自分にできることが見つからなかったんだ。
彼女は興奮状態で、意識が戻ったり失ったりしていた。
10分ごとに看護婦が来て彼女の脈をチェックした。
彼女は身体的には無事だった。
これは彼女の心が、記憶が引き起こしたものに違いなかった。
スカリーはうなされてたくさん言葉をつぶやいていた。
ほとんどは聞き取れなかったが、「やめて」「切らないで」「モルダー」「ペニー」と繰り返し
つぶやいているのは分かった。
彼女は誘拐されていた間のことを夢に見ているようだった。
目を覚ますと、スカリーは素晴らしい微笑みを見せてくれた。
まだ夢から覚めず、僕が夢の中の奴らを止めて助けに来たと思ったようだった。
〈神よ、力を与えてください。〉
僕は無力で、何の価値もない男だ。
罪のない言葉を僕に投げかける彼女に、何も言葉をかけられなかった。
スカリーは誘拐されていた間、自分に何があったか思い出しかかっていた。
どれだけ思い出しているのか、僕は知らなければならなかった。
僕は、小さな保管装置の中に入っていた彼女の卵子のことについてはまだ直接話したくなかった
からだ。
僕が言うにはあまりにつらすぎる。
くそっ！
一体なぜこんな目にあわせたんだ。
奴らにとっては、スカリーを戻さずに殺してしまった方が簡単だっただろう。
だが奴らはそうせずにもっと残酷なことをして、冷たく笑いながら、彼女に残された時間を数えて
いるのだ。
『何ヶ月か彼女の時間を奪おう。その間に卵子も戴こう。そして手術不可能な脳にガンを作って
やるんだ。いいアイディアだろう？もし俺達のことを追求し始めたら、最高の医師を派遣して
やって殺してしまえばいい。』
〈信じられるか？何があろうと許すものか！〉
スカリーは僕が何か知ってることに気が付いたようだった。
彼女は氷のような視線を投げて、あの場で全て明白にしようとした。
だがその時ドクターが入ってきて、スカリーは延期を認めたように視線を落とした。
スカリーは一晩入院するようにとのドクターの薦めを断り、その代わり担当医の診察を受けることを
約束して、僕の腕につかまりながら病院を後にした。
彼女の強さには、いつもながら驚かされる。
僕はスカリーを部屋に送り、着替えてベッドに入るようにさせた。
僕には少し一人になる時間が必要だった。
〈こんなのフェアじゃない。〉
どう考えてもおかしかった。
ひどかった。
〈なぜスカリーがこんな目にあうんだ？スカリーは僕なんかを信じてこうなったんだ。僕なんかを
信じて受け止めてくれるスカリーこそスプーキーだ。僕なんかを信じて、僕のパラノイアのような
推測を受け止めてきた。〉
僕はいつも彼女に要求してばかりだ。
僕を信じろ、信用しろ、一緒に闘ってくれ。
〈愛してくれ。〉
スカリーを傷つければ僕をつぶせることを奴らは知っていた。
奴らは今の状況をずっと計画していたのだろうか？
それともフザケたジョークなのか？
僕は父の犯した罪をこうして償わなければならないのか？
かつて僕は、スカリーと僕は恋人になる最後のラインを越してはならない、と自分に言い聞か
せていた。
もし僕たちが恋人になり、奴らがそれを知ったら、僕をつぶすための取引材料が手に入ったと
喜ばせることになってしまうと思っていた。
でもすぐに自分のそんな努力は無駄なものだと気が付いた。
たとえ恋人として一つになる喜びを知らなくても、僕はもうすでに彼女を愛してしまっていたのだ。
それに、僕とスカリーはもうずっと前から恋人同士だった。
ずっと愛し合ってきたんだ。
ただ最近までセックスをしなかっただけにすぎない。
この世にはいろいろな愛し方が、そして結ばれ方がある。
奴らにもそれが分かっていたんだ。
僕の唯一の幸せは、スカリーが僕と共にあることだ。
だから奴らは彼女を奪い、ずっと後ろで糸を引いているのだ。
だが、もう僕たちは後戻りしないと心に決めた。
僕たち二人で生きることにチャンスをかけたんだ。
あの夜、スカリーは泣いている僕を見た。
そしていつものように・・・僕を慰めようとした。
僕にキスして痛みを和らげようとした。
スカリー。
あの夜スカリーがしてくれた羽のようなキスを思い出すと、今でも昂ぶってくる。
スカリーにそうされた時、絶望と、恐怖の間に隠れていた何かエロティックなものが現れた。
スカリーはシルクのパジャマ以外何も来ていなかった。
彼女のキスの素晴らしい感触、天国のように甘く香る肌。
あの夜彼女を狂いそうなほど欲しかった。
ずっとたまっていた彼女への想いが一気にあふれだし、止めることなどできないと思った。
だが何かが違かった。
息ができないほどキスし、苦しいほど抱きしめたはずなのに、腕の中でスカリーは僕のスカリーで
なくなっていた。
生きることをあきらめ、死に身をゆだねた女だった。
違う、僕はスカリーが欲しい。
世界中でただ一人しかいない、僕のスカリーが欲しいんだ。
立ち上がってくれ、スカリー。
愛しているんだ。
スカリーはそれから悪夢を見るようになった。
自分の叫び声で目が覚めるような激しい悪夢だった。
スカリーは僕が横にいないと眠れなくなった。
僕がカウチにいると彼女が来て、一緒にベッドに移動して眠った。
僕たちは話す言葉は少なかったが、その言葉の間に想いを込め、たくさんのことを分かり合えていた。
僕たちだけにしかない言葉で通じ合うことができていた。
ベッドでは時折指を絡ませて眠った。
そしていつも、悪夢にうなされた夜も僕はすぐそばで彼女を引き寄せ、抱きしめながら眠った。
僕は自分の朝の生理現象について少し考えなければならなかった。
男は一生それとつきあっていく。
目覚めたときにスカリーのあたたかく小さなお尻が僕の腰のそばにあると、考えずにはいられな
かった。
スカリーは毎朝固くなっていた僕に気が付いていただろうか？
気が付いていたようには思わなかったが、特に彼女は何も言わなかった。
でもスカリーはいつだって気付かない振りして全てを知っている。
このこともきっと分かって知らないふりをしてくれていたのだろう。
XOXOXOXOXOXOXO
とうとう僕は知っている全てをスカリーに話した。
悪夢に苦しめられるのは、真実を知らないために、心が勝手に増幅して生み出す恐怖心の現れだ。
前を向いて歩くには意識の下に眠ろうとしている恐怖と闘って、征服しなければならないと、僕は思った。
例え思い出すことで傷ついても、彼女の中でたまっている怒りや恐怖が悪夢や幻想になって苦しめることは
なくなると思ったのだ。
それに、彼女は全てを知る権利がある。
それで僕は決心して、僕にできる限りの医療の知識と共にDr.スカンロンのことや、
カート・クロフォード、そして僕の手元で凍結保存されている彼女の卵子・・・
陰謀の中身をスカリーに伝えた。
彼女の動きの一つ一つに目を配りながら。
一瞬スカリーの瞳が光り、すぐに消え、静かになった。
何の反応もなかった。
カウチに座って手をぎゅっと膝の上で握りしめ、何の表情も崩さずにこう言った。
「教えてくれてありがとう、モルダー。」
それだけだった。
僕は2、3日の間スカリーを一人にしようと思った。
僕が言ったことを受け入れるのに少し時間が必要だと思ったからだ。
その時はそれ以上の反応を押しつけることは僕にはできなかった。
彼女が反応を示すまで、見守っていようと思った。
だが彼女はすっかりあきらめてしまったように何もしなくなった。
本を読むことも、一緒に古い映画を見ることさえしなくなった。
地下オフィスに来ることも、僕が彼女の誘拐事件に関係ありそうな事件を調べようとしたときも
何の関心もなくし、僕の推論に反論することはおろか、質問することも、何も関心を示さなかった。
スカリーは僕の言ったことで、心のバランスを崩して絶望してしまった。
そこで僕は自分の気持ちを一時心の外に置き、客観的な目で今のスカリーの状態をプロファイルし、
心理学的な要素を集約してみた。
あまりに多くのことが・・・ほとんどが理不尽で、怒りに通じることがあまりに多くスカリーの
身に起こりすぎていた。
身を、心を守るために麻痺したようになっているのだ。
心の柔らかい部分を必死に守るために、心全体がかじかんだような状態になって麻痺するのだ。
だが心の麻痺は、心の死にも通じてしまう。
僕は同時に自分のなすべき事が分かった。
〈神よ、力を貸してください。〉
僕以外に彼女の心に触れられる人間はいない。
僕は一つの賭をした。
あまりに難しい賭だった。
彼女の心を取り戻せるか、破滅になるか。
しかしなんとしても彼女の心を、希望を取り戻したかった。
僕は行動に出た。
僕はあの日の自分がいやでたまらなかった。
一体誰が喜んであんなことを彼女にできるというんだ？
無理矢理スカリーを苛立たせ、怒らせ、彼女の中にたまっている怒りに直面させ、吐き出させようと
チャレンジした。
怒りのターゲットは僕自身だ。
僕は彼女の手首をつかんでもっと怒らせ、ほぼギリギリのところまで追い込んだ。
スカリーは僕のしつこさにとうとう怒りを爆発させた。
僕は腕を下ろし、横を向いて彼女に打たせるままにした。
〈もっと怒れ、もっと吐き出すんだ。〉
初めはつぶやきのように小さかった声がすぐ大声になり、ついにスカリーは叫び声で怒りを
訴えだした。
悲鳴のような怒りの叫び声が彼女の中から吐き出された。
全ての悔しさに誓いと宣言で訴え、言葉で奴らを叩きのめし、やっと本来の彼女に戻ってくれた。
スカリーの全てが僕のもとに帰ってきてくれた。
スカリーの激しい怒りと痛みのエネルギーをいやというほど体に浴び、強くぶつかってくる彼女に
涙が出るほど嬉しかった。
僕はスカリーを包み込むように抱きしめ、すすり泣きに変わる声を聞きながら、抱き合いながら
床に座り込んだ。
すすり泣きは、いつの間にか笑い声になった。
明るく、澄んだ笑い声が僕の耳に鈴のように鳴り響いた。
僕はダナ・スカリーの強さと勇気にいつも驚かされてばかりだ。
スカリーは希望を捨てず、生きることを決心してくれたのだ。
XOXOXOXOXOXOXOXO
マッサージクリームの香りは僕に催淫効果をもたらすようになった。
人が聞いたらおかしいと思うかもしれないが、あの日以来本当だ。
僕たちはお互いに、あのマッサージが結びつけるきっかけになるとは思わなかった。
でもそのお陰で、僕たちはとても自然に結ばれた。
もしスカリーが僕の腰に座らずに、あのお尻の重みを感じずにいたら、ひょとしたら我慢することが
できていたかもしれない。
でも、そうされた瞬間から体中の血が下半身に集まって、みるみる体温が上昇していった。
スカリーがかがみ込んで背中を覆うたびに柔らかな胸が背中にあたり、前後に動くのを感じて、
既に耐えられなくなっていた。
僕が何とか仰向けになる言い訳を考えていると、彼女の方から仰向けになれと言ってくれ、僕は
その通りにした。
スカリーは片手を僕の胸の上に置いてもう片方の手で肩をマッサージし、その間中、無垢な表情で
僕を見つめていた。
ついに僕はこらえきれなくなり、彼女を腕の中に抱きしめた。
腕の中のスカリーはさっきまでの無垢な表情は消え去り、その代わり僕と同じほど強い欲望の光が
濡れた瞳から放たれていた。
僕たちがベッドへ移るのに長い時間はかからなかった。
ダナ・スカリーと愛し合うのは、心の底から震えるほどの感動だった。
僕はずっと前からこの時が特別なものになるだろうと分かっていたが、こんなに想像を遙かに超える
ようなセックスだとは分からなかった。
おかしな事かもしれないが、彼女と愛し合った時、僕は以前の自分の体験が何一つ思い出せなく
なった。
脈打つ僕自身をスカリーの熱い中心へ深く沈み込めると、彼女の内部が力強く僕をつかみ、
どんなオーガズムより心も体も満足で満たされ、彼女のあえぎ声は僕をどこまでも狂わせていった。
僕はスカリーに悦びを与えるために生まれてきた。
スカリーが僕の体の下で身もだえし、甘いため息と共にもらすあえぎ声と、悦びですすり泣く声を
聞くために生きている。
僕を見つめる彼女のまなざし。
甘いため息。
僕の下で悶える姿。
髪のはえ際や胸の間にビーズのようにきらめく彼女の汗。
腰をすり寄せ、突き上げたときにもれる彼女のあえぎ声。
僕の肩、首、唇、そして膝の内側を甘く噛む彼女の歯と唇。
彼女のエクスタシーの表情。
彼女の微笑み。
彼女の香り、匂い、味。
スカリーは僕の人生に贈られた、永遠に尽きることのないプレゼントだ。
誰にも僕から奪えない。
誰が何をしようと、僕は決して渡さない。
先週、僕はリストのことを思いだして残っていたことを考えた。
これには悩み、いろいろ情報を集めてランチの時間を過ぎても考え続けていた。
自分のアイディアがいいアイディアかどうか分からなかった。
つまり、僕はいいアイディアだと思ったのだが、果たしてスカリーもいいアイディアだと思うか
自信がなかった。
先週の日曜、財団経営で全てボランティア達が管理している、AIDSベビー達のホームへスカリーを
連れて行った。
僕は彼女には行き先を教えずに、車を発進させた。
ホームの場所は、町とへだてるような柵も標札もなく、看護棟を中心にヴィクトリア調のきれいな
コテージが何軒も並び、庭にはブランコやジャングルジムがあり、三輪車があちこちに放ったらか
しに置かれていた。
以前僕が一人でここに来たとき、この光景に少しショックを受けた。
ここには自転車がなかったからだ。
ここの子供達は皆、自転車が乗れる歳になる前に亡くなるか、ここを出て別のホームへ行くのだ。
このホームには生まれながらにしてHIVに感染した子供達や、誰からも世話を望まれなかった
子供達がここでボランティア達と一緒に暮らしていた。
僕はスカリーの問いかけるような視線に気付かないふりをして、ホームの中心にある責任者の家に
案内した。
ドアを開けると子供達の笑い声と音楽、そしてケンカした子供の泣き声と、オモチャがぶつかる音が
僕たちを出迎えた。
中は普通の家庭の家と何も変わらず、あたたかい雰囲気に包まれていた。
ここの責任者のロマーナ・ベケットが、スカリーにこのホームのことを説明している間、僕は彼女の
顔をじっと見つめていた。
スカリーはいくつか質問し、僕たちが来た理由が分かると僕の方に振り向いた。
彼女の瞳は明るく輝き、深い森の中の湖のように澄みきっていた。
僕は返事の変わりにうなずいて答えた。
スカリーは僕を見つめた後ロマーナの後について、子供達が遊んでいるプレイルームへ行った。
僕は1時間ほどしてから、彼女の後を追った。
スカリーはベビーベッドとロッキング・チェアの並んだ部屋にいた。
彼女はロッキング・チェアに座り、きれいなチョコレート・ブラウンの肌をした赤ん坊を腕に抱き、
隣で同じように子供を抱いている、85歳位の老婦人と何か話していた。
老婦人は静かに腕の中の赤ん坊を揺らしながら、背中を愛しそうにゆっくりなでていた。
スカリーがドアのそばに立っている僕に気がつき、優しく微笑んだ。
僕には今になっても、この時の彼女の瞳の表情が何を僕に伝えようとしていたのか・・・わからない。
彼女に見つめられている間、まなざしが胸を貫き、彼女の優しさが大きく僕を包み込んだ。
のどが痛いほど締め付けられるように熱くなって震え、涙があふれてきた。
彼女にそんなふうに見つめてもらえるだけの価値が僕にあるだろうか。
いや、いつかそれだけの価値のある男に僕はなってみせる。
これから何度も彼女にそんなまなざしで見つめられたい。
ずっと、いつまでも。
スカリーは立ち上がって抱いていた赤ん坊をベビーベッドへ寝かせ、老婦人の方に膝を曲げて声を
かけ、僕の方へまっすぐ力強く歩いてきた。
そして僕の手を握り、部屋から出た。
帰りの車の中で、スカリーは僕の手を握ったままずっと静かにしていた。
その夜、僕が椅子に座って本を読んでいるとスカリーがそばに来て、手をそっと僕の腕に置いた。
僕は彼女の瞳を見つめたまま引き寄せ、きつく抱きしめた。
彼女が静かに涙を流している間、しっかりと抱きしめた。
その涙はこれまでの悲しみの涙なんかじゃない。
心を洗うような、いい涙だった。
希望にあふれた涙だった。
僕も一緒に涙を流した。
愛し合う時スカリーの一部になったように、この時も彼女の一部になって涙が流れた。
僕は全てをスカリーと分かち合っている。
涙だって当然だ。
そして僕はスカリーの小さな、強い体を抱き上げてベッドへ運び、お互いの涙をキスでぬぐい去りながら、ゆっくり、本当にゆっくりと愛し合った。
僕には自分があげたいと望んでいることの、ほんの一部しか彼女に与えられない。
僕は彼女に何の保証もしてあげられない。
しかし彼女は生きることを決心し、僕も決心した。
これからたとえ逆風に吹かれる時があっても、二人で全てを分かち合い、一緒に人生を築いていく。
僕たちはこれまで失ってきたことのがれきを集めて、僕たちだけの安全な場所を造り上げ、二人だけ
の平穏な世界を見つけだした。
誰にもここは触れられない。
奴らにも、誰にも。
ここは僕たちの心の深いところにあるのだから。
人の命はいつ果てるともしれない。
だが、彼女の死も、僕の死も、僕たちが分かち合っている世界を奪うことはできない。
真実はそこにある。
僕たちは真実を見つけ、必ずスカリーは助かると確信している。
その時まで、僕たちには生きる命がある。
それまでやることも、くぐり抜けなければならないことも多いことだろう。
でも、僕は必ずスカリーのそばにいる。
僕にはもっと彼女に贈りたいものが、止むことなく湧いてくる。
新しい僕たちがこの夜から始まるんだ。
そしてこの新しい夜から
永遠に二人で踊り続けるんだ。
XOXOXOXOXOXOXOXOXOXOXOXOXOXO
To be continued?
Dance Without Sleeping
by Melissa Etherdge
I don't want to talk about it
I 've done enough, I think
Don't want to spend more money
Don't want another drink,
I would scratch out all the images
If I had the chance
Don't ask me what I'm thinking
Can't you see I only want to dance?
CHORUS:
Dance Without Sleeping
Dance without fear
Dance without sensus, no message I hear
Dance Without Sleeping I'll dance till I'm numb
Dance till I think I can overcome
Walking on the edge of rage and understanding
Between the black and the white
This child is so angry
Alone here tonight
Alarming desperation leads me to believe
With all my shields and protection
It's only me I deceive
(CHORUS)
The eyes on the magazine
The voice on the radio
The kiss on the movie screen
This is the story I know
Fathers hold on and they never go
Mothers hold on and they never go
Lovers hold on and they never go
Lovers they come and they never go
(CHORUS)
------------End of attached file--------------
この作品はLydia Bowerさんが、1997年3月に書き上げた物語です。
英ficを読み始めて間もない時に初めて読んだのですが、驚きと、ショックと、感動で、ずっと
心の中で忘れられない作品でした。
スカリーが闘病中という、私にとっては苦しく、重いテーマの中、モルダーとスカリーのあまり
にも強い愛と、人間くさい心の揺れにとても感動しました。
そしてこのあとシーズン5の「帰還2」を見て、感動していました。
そんな気持ちを分かち合えたら、と思い訳しました。
訳し終わることができて、本当に嬉しいです。
tomo
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