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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox
Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: The wisdom of a man
作：Lydia Bower
訳：tomo
*この作品はシーズン4「Paper Hearts」事件直後という設定です。
なぜスカリーのアパートまで来たのかはわかっている。
しかしどうやって来たのか覚えていない。
どうやって来たのか・・・自分の部屋を出て、運転してきたことを覚えていなかった。
どうしても彼女に会いたかった。
スカリーの部屋の窓を見上げると、リビングルームの窓から柔らかな光がもれていた。
よかった、まだスカリーは起きている。
きっとそうだろうと思っていた。
「家に帰って少し眠ったら？」
あのときスカリーはそう言って微笑んだ。
僕には笑うことしかできなかった。
なぜなら今回のことは全て僕の眠りが、夢が引き起こしたことだったからだ。
しかし、ともかくこの事件は終わった。
いや、終わったという言葉はふさわしくないだろう。
まだ誰のものか特定できなかったハート形の布が手元に残ってしまった。
きっとどこかで娘の行方を失って、悲嘆にくれて暮らしている家族がいることだろう。
僕もその一人だ。
しかし今日、僕はその解決口のすぐそばまで近づいた。
僕は控えめにスカリーの部屋のドアをノックした。
ドアの反対側で、彼女が近づく足音と、ドアスコープをのぞいて僕を確認する気配がした。
彼女はチェーンを外して、ドアを静かに開けてくれた。
「Hey、スカリー。」
僕は申し訳なさと、入りたい要求を声にこもらせて挨拶した。
スカリーは少し微笑んで、身をひいてドアを大きく開けた。
「入って、モルダー。」
僕は昼と全く違うスカリーの姿をもう一度眺めた。
スカリーは昼間着ていた地味な色のスーツではなく、ペールグリーンのカーディガンに
ブルーのジーンズをはいていた。
彼女はシャワーを浴びた後らしくメイクを落としていたが、素顔は柔らかく、瞳はまるで
無垢な子供のように明るく澄んでいて、唇はピンク色のバラの花びらのようだった。
まだ毛先がわずかに濡れていて、顔の周りをカールしてふち取っていた。
「家に帰って少し眠ったらって言ったはずなんだけど？」
僕は肩をすくめて笑って見せた。
「ああ、そうだけど・・・」
「何か食べた？」
スカリーは裸足でキッチンへ向かいながら、肩越しに僕に話しかけた。
「今オムレツを作ってたのよ。もし良かったら一緒に食べる？」
僕の口は「いらない」と言いそうになったが、胃が猛烈に音を立てて抗議して、今日一日
何も食べてなかったことを思い出した。
「ああ、ありがとうスカリー。何か手伝おうか？」
スカリーはキッチンの奥から振り向いて、まるで僕がどうかしたのかとでも言うような
表情をした。
僕がいつもすすんで家事を手伝うようなタイプには見えないし、スカリーもそう思って
いたらしい。
彼女は僕を見つめていたずらっぽく笑った。
「ありがとう、モルダー。でも一人で十分よ、座ってて。できあがったら呼ぶから。」
僕は肩からジャケットをすべらせて椅子に投げ、カウチに体を預けた。
柔らかくて、快適だった。
CDプレーヤーからベニー・ゴッドマンの曲が優しく流れていた。
背後からはスカリーが食器やナイフを並べる音がし、フライパンから溶けたチーズと
焼けたバターの香りがおいしそうに漂ってきた。
僕はスカリーのもの達に囲まれて、気持ちよくリラックスしていった。
僕はスカリーの部屋に来ると、いつも自分の場所に帰ってきたように心が落ち着いた。
この部屋こそ自分のいるべき場所のように感じていた。
僕の部屋ももちろん落ち着くが、まるで倉庫のようでただ夜休む場所でしかなく、
こんなにくつろいだ気分を感じることはできない。
スカリーの部屋は、僕のとっておきの隠れ家のようだった。
今夜は特に強く感じる。
クッションに顔をうずめるとスカリーの香りがわずかにして、僕は目を閉じ、
耳で食器達が奏でる音を聞いていた・・・。
スカリーが肩に手を置いて僕を起こした。
びっくりして目を開けると、カウチの後ろに彼女が立って、僕の様子を面白そうに見て
微笑んでいた。
「モルダー、用意できたわ。食べる？それとも眠る？」
言葉ではそう尋ねたが、もうスカリーはカウチの後ろに置いてあるブランケットに手を
伸ばしていた。
僕はそのブランケットを自分のもののように思っていた。
なぜなら僕はこれまでたくさんの夜をこのカウチの上で過ごし、このあたたかい
ブランケットをかけて眠っていた。
「いや」
僕は彼女の手を止めて、唇をなめて大きくあくびした。
「食べるよ。」
「こっちまで運ばないわよ。前にあなたがここで食べたとき、ラグの上にたくさんシミ
をつけたでしょう。」
スカリーは意地悪っぽく微笑んだ。
僕も笑って立ち上がると、彼女の後を付いてテーブルへ向かった。
もちろんスカリーは僕のことを許してくれている。まるで昔のサマンサのように。
テーブルの上にはフォークやナイフがキャンドルの光に照らされ、氷の浮かんだ
アイスティー、ランチョンマットの上の皿にはオムレツが盛りつけられ、
溶けたチーズのおいしそうな匂いを漂わせていた。
横のバスケットにはいい色にトーストしたパン、ガラスの小さなボウルの中には
ラズベリージャムが入っていた。
スカリーはこんなふうにテーブルの上を飾るのが好きだ。
決して局では見られない彼女の部分。
僕はこんなスカリーの優しさに触れることのできる、数少ない幸運な人間だ。
スカリーは僕の横の椅子に座って手を組んだ。
僕はナプキンを膝の上に置き、目の端で彼女が食事の前に祈りを捧げるのを待った。
彼女は部屋にいるときと、母親の家にいるときだけこうして食前の祈りを捧げていた。
僕は時々スカリーのように信仰を持てることをうらやましく思っていた。
スカリーは僕も信仰を持っていると言うだろう・・・いや、言っていた。
それはサマンサの行方を突き止め、真実を見つけだすこと。
この数日の事件は、その僕の信仰の動機を根底から覆すようなことだった。
この事件に対して僕の感情はあまりに無防備すぎた。
しかし結果的には、僕の信仰は少しも減ることはなかった。
僕たちは静かに食べ出した。
静かだが、それは心地よい静けさだった。
もう僕たちの間には、ぎこちない空気を埋めるためだけの会話は必要なかった。
僕はこれまで、心地よい静けさを共有できる関係を、パートナーや友人に感じたことが
あっただろうか。
僕はこれまでスカリーほど長いパートナーを持ったことはなかったし、友人にしても
そうだった。
いつも自分が与えられること以上を相手に要求し続け、友情をあっという間にこわして
ばかりいた。
しかしスカリーは正真正銘の僕の友達だ。親友だ。これはほとんど奇跡に誓い幸運だと
思う。
熱いオムレツがハーブの香りを口の中に残して溶け、カリカリののトーストと甘い
ジャムを味わい、グラスの周りに水滴を点けた冷たいアイスティーでのどを潤した。
簡単な食事を食べ終えると僕たちのまなざしの間に何かが通り過ぎ、僕は目を伏せ、
もう一度彼女を見つめると、不思議な気持ちが心の中に起こった。
僕たちは時々まなざしの中だけで会話することができた。
それはいつも言葉を超えて心の中を表すことができた。
スカリーは今、なぜ僕がここに来たのかを考えているようだった。
今夜僕が来たことを喜んでいるが、同時に心配し、理由も知りたいと思っている
ようだった。
結果的にはなってしまっているが、いつも僕は彼女に心配させたくなかった。
だが僕はいつも彼女の心配をわかった上で、平気で自分を暴走させてしまっている。
スカリーはいつも「情熱」という言葉で僕を形容するが、たいていはそれを
「クレイジー」だとか「スプーキー」だと言う。
スカリーの唇の上にジャムが少し付いていた。
僕は考えるより早く腕を伸ばして親指でそっと拭き取り、そのまま自分の口に入れて
なめ取った。
「甘い。」
僕をじっと見つめているスカリーに笑いかけた。
彼女は謎めいた表情をしていて、僕には読みとれなかった。
少なくとも、今夜はふざける気分ではないようだ。
それは僕もだ。
僕はただ彼女に会いに来た訳じゃない。
それは二人ともわかっていた。
僕は椅子の上で体を伸ばし、手を組んだ。
さあ、どちらから始める？
張りつめた沈黙に耐えられなくなったのは僕の方だった。
「僕にはわかっていたんだ、スカリー。」
スカリーは眉を上げ、僕が続けるのを待った。
「サマンサが連れ去られる夢の中で、直感したんだ。」
「何を直感したの？」
「あれはいつも見ていた夢じゃなかった。ロシェが夢の中にいただけじゃなかったんだ。」
僕は夢の一片一片を話そうとしたがうまくいかず、言葉をとぎらせた。
スカリーは我慢強く僕が続けるのを待ってくれ、迷いを蹴散らすように言葉を促してくれた。
「どう違ったの？モルダー。」
「僕は夢の中でもう12歳じゃなかったんだ。今の大人の姿でサマンサと遊んでいたんだよ。
でも全く同じようにあれが始まった。夢の中の僕はこれから起きることを全て知っているのに、
これまでと同じように恐怖で怯え、家が揺れだし、強い光が入ってきて・・・」
「同じように終わってしまったの？」
「ああ。でも違ったのはそこにロシェがいたんだ。僕は凍りついたように動けずにいて、
目の前で奴がサマンサを連れ去っていくのを見ていたんだ。スカリー、僕はもう12歳じゃ
なかったのに動けなかったんだよ。」
僕は目を伏せ、スカリーから視線を逸らした。
スカリーは少し黙ってから、静かに話し出した。
「どういう意味の夢だと思う？モルダー。大人としての追体験なのかしら？」
「スカリー、心理学は僕の方が得意だと思っていたのに。」
僕は顔を上げて笑った。
「あなたのためなら、どんなことでもするわ、モルダー。」
僕は驚いて口をぽかんと開けたままスカリーを見つめた。
言葉だけでない彼女の優しさが、愛情が頭の中をこだまして、一瞬オフィスでの彼女の姿が甦った。
「家に帰って少し眠ったら？モルダー。」
僕たちは微笑み合い、少しの間お互いの体を抱きしめた。
あの時、彼女の体に頭をもたれさせ、目をつぶってやさしく髪を撫でられるのを感じることは、
この世で一番自然なことのように思った。
ただの友人としての慰めだけじゃなかった。
彼女の母性がそうさせただけでもなかった。
この二つを合わせてもまだ足りない、あふれるような気持ちが彼女の指から伝わっていた。
このことは今までの僕たちのお互いへの姿勢を変えたと思う。
なぜかはわからないし、別に知りたいとも思わない。
でも僕は、もしサマンサの事がなければ、ここにこうしていたのだろうか。
しかしたとえサマンサや事件がきっかけとしてなくても、必ず僕はここに来て、同じ気持ちに
なってスカリーを見つめていただろう。
「モルダー、口を閉じて。」
僕は言われたとおりに口を閉じたが、微笑んでる彼女に向かってまた口を開いた。
「気をつけてくれよ、スカリー。君の言葉は男をこんなふうにしてしまうんだから。」
「わかってるわ、モルダー。」
口の中が急に乾いて、アイスティーに手を伸ばした。
僕はてっきりスカリーはいたずらっぽく笑ってると思ったが、彼女は静かに立ち上がって
テーブルの上を片づけだした。
僕は困惑して下を向いた。
ベニー・ゴッドマンの曲が終わり、静かにプレーヤーがディスクをチェンジし、
ヴィヴァルディの「四季」が流れ始めた。
局の連中はスカリーのことを「ミセス・スプーキー」「氷の女」「赤毛」と勝手にレッテルを
つけて呼んでいたが、彼女はそんな奴らの想像も付かないほど、様々な魅力的な面を持っていた。
局の連中が点けたようなレッテルはどれ一つとしてふさわしいとは思わない。
僕にとって彼女はいつも、スカリーであり、ダナなんだ。
そしてどの彼女も魅了して、決して離さなかった。
また僕が手伝わないうちにスカリーは後片づけを終え、テーブルへ近づいて僕を見下ろし、
僕の表情から何かを読みとるようにじっと見つめた。
「さあ、カウチの方で話しましょう。ここだとリラックスできないでしょう？」
僕はリビングの方へ歩いていく彼女の腰を見つめ、従順な子犬のように後を付いて彼女の隣に
腰を下ろした。
スカリーは膝を抱えるように座って、僕に顔を向けた。
「その夢のことをどう思う？モルダー。」
僕は視線を下ろして彼女の膝の上に置かれた小さな手を見つめ、腕を伸ばして指で優しく撫でた。
さっと触るだけだったが、なぜそんなことをしたのか自分でもわからない。
スカリーの目を見ると、彼女は静かに、僕が本当の事を話すのを我慢強く待っているようだった。
「それは・・・どういう意味で聞いてるんだい？」
僕は頭を振った。
「わかってるはずよ。」
彼女はごまかせない。
スカリーは視線を横にずらしてため息をついた。
「私を信じてる？モルダー。」
僕はもう一度彼女の手に指を重ね、そのままにした。
「君は僕が信じているたった一人の人間だよ。」
スカリーは僕の手を重ねさせたまま、じっと僕を見つめた。
「それなら信じて、話して。」
ふいに目が熱くなって涙があふれそうになり、急いでまぶたを閉じた。
疲れすぎている。
本当に眠らなければならない。
しかし眠れば夢を見る。
今夜夢を見るのはあまりにも耐えられない。
「僕は大人になったんだと思うよ、スカリー。」
僕は出し抜けに、スカリーが笑い出すんじゃないかと心配しながら話した。
しかし目を開けて彼女を見ると、スカリーは静かな表情で部屋の隅をじっと見つめ、
何かを深く考えているようだった。
笑わないでくれてありがとう、スカリー。
「つまりあなたが見た夢は、幼い頃のサマンサの誘拐事件への罪の意識が現れてのことだったと
思うの？宇宙人が誘拐するところを止められなかったことへの後悔の気持ちが、宇宙人ではなく、
ロシェを誘拐犯人に変えていたんだというの？」
スカリーの声はつぶやきのようだったが、言葉ははっきりしていた。
僕は片手を彼女の手に重ねたまま、もう片方の手で髪をかき上げた。
「スカリー、君は僕と長くいすぎだよ、影響を受けすぎて、まるでスプーキーが言ってるみたいだ。」
スカリーは苦笑し、僕を見つめた。
「あなたもそう思うの？」
「かなりの部分ね。」
僕は認めた。しかしこの夢は、事件はまだ氷山の一角だと感じていた。
まだ僕たちはスタート地点にいるにすぎない。
「あとの部分はどう思うの？補足して、モルダー捜査官。」
僕は鼻をこすって考えをまとめようとした。
「僕がこれまで信じてた記憶を変えることはないよ、ただ、僕はロシェがサマンサを誘拐した可能性
を怖れていたんだよ、スカリー。ものすごくね。怖れているのが何なのかははっきりしないが・・・
奴が真実を話すのが怖かったのか、奴の言う真実が、僕がずっと信じ続けたことを全てがウソだと
言われるのが怖かったのか・・・わからない。いずれにしても、この事件は僕の生涯で初めて別の
可能性を考えなければならなかったんだ。その恐怖心が夢に現れたんだと思うよ。」
「ええ。でも私はこうも考えたわ。それはあまりに長い間真実を探し続けてきた疲れが、別の可能性
を見つけて終わらせたいと思ったためにロシェと関係付けたんじゃないかって。あなたはいつも燃え
尽きるまで探そうとしているわ。あなたは気が付いてないけど、今にも疲れて崩れ落ちそうなぎりぎ
りの縁を歩いているのよ。私はそこが心配なのよ。」
僕は苦笑した。
“今にも崩れ落ちそうな縁”か、その通りかもしれない。
いつも追いつめられたように考えなしで行動してしまう、僕のばかげた行動を説明するのには
ぴったりだ。
でもそこからいつも僕を救い出してくれるのは君なんだ、とスカリーに伝えたかった。
信じられないことだが、全てはたった一週間の間に起こった。
ロシェを殴り、サマンサと関係ないことを証明したかったばかりに奴を監獄から出し、関係のない
少女を危険にさらしてしまった。
全て自分の満足のために、やりたいようにやった。
そのあげく、僕たちは最後のハートの持ち主を見つけることができなかった。
それらを説明はできても、何も言い訳することはできない。
僕自身も何も言い訳する言葉を持っていなかった。
「でも信じないかもしれないが、スカリー。今僕は以前より気分がいいんだよ。説明はできないけど、
今回のばかげた事件は僕にまた希望を持たせてくれたんだ。」
「何の希望を？」
「サマンサさ。ロシェに誘拐されたのはサマンサじゃない。いつか必ず真実を知り、サマンサに本当
に起こったことを突き止めるんだ。」
「その真実が、たとえあなたが想像していたことと違っていても？」
「それはどこかにいる殺人鬼が、サマンサを殺して墓に埋めている可能性があることかい？」
スカリーは僕の返事を怖れているように、苦しそうな表情でうなずいた。
「アディ・スパークスの父親が言った言葉を覚えているかい？『行方が知れないでいるのは、死んだ
とわかるより辛いことだと。なぜならその子に何が起こってるのか知ることができないから』と
言っていた。」
「覚えてるわ。」
「スカリー、知らないでいることは何よりひどいことなんだよ。だから僕は探し続けるんだ。確かに
僕は大した根拠を持ってないけど、それでも真実があることを信じることができる。それにもし最悪
の結果になっても、僕は立ち直ってみせるよ。何より強い支えが僕を守ってくれているからね。」
「いつからそんな事を思っていたの？モルダー。」
僕はカウチから立ち上がり、リビングを歩き始めた。
口で説明するのは難しかった。
また曲が変わり、スピーカーから僕の知らない女性ヴォーカルが「Who's going to save my
soul（私の魂を守るのは誰)」と歌い出した。
その答えは知っている。
僕はスカリーに背を向けたまま腰に手を当てた。
「あの夜何があったのか、サマンサの影と答えを君と探し始めたその日から、ずっとだよ。
でもいつも証拠は手の中から消え、何の事件も解決していない。スカリー、その間僕たちはあまりに
たくさんのものを見続け、知った事への高すぎる代償も払い続けてきた。血を流して、後悔もして
何度も泣いた。僕は君に会うまで真実を見つけるためだけに生きてきたが、僕の人生は、もうそれ
だけじゃなくなったんだ。もちろんそれは僕にとって重要なことに代わりはないけど、かつての
気持ちだけではないんだ。そしてその新しい気持ちが、僕をずっと支え続けていたんだよ。」
「いつからそんな事を思っていたの？」
スカリーはこれまで黙って聞いていたが、もう一度さっきの言葉を繰り返した。
僕は彼女の質問を無視して続けた。
「君に会う前の僕だったら、真実を見つけるためだったらどんな犠牲だって喜んで払っていた。
僕は心の中でそんな自分にうぬぼれてもいたんだよ。目的のために全てを捧げる姿にね。
さっき僕は自分が大人になったんだと言ったけど、それはたった一人で戦っていた時の自分を、
シニカルに見返しただけなのかもしれない。でもその姿も事実なんだ。」
僕は苦笑いし、スカリーの方に振り向いた。
彼女はまるで僕と視線を会わさないようにするために顔を下げた。
「君はこれまで、僕のオフィスに入ってきたあの日から今日まで、どれだけ僕の人生を変えたか
考えてみたことはあるかい？」
スカリーは頭を振った。
「スカリー、君は僕を地に着かせてくれたんだよ。そして考えさせてくれたんだ。僕は君がいること
で自分が信じてきたこと・・・自分自身についても何度も見つめ直し、考え続けることをしていたん
だ。君は一緒に戦ってくれ、僕がもう一人でうずくまってる子供でないことを教えてくれたんだ。
時には自分が信じていることが君が疑ったとおりにくつがえりそうになって、君を嫌いに思いたく
なったときもあった。でもいつも僕を最後まで信じてくれたのは君だった。君がいなければXFは
僕には続けられなかったし、その前に僕は生きていたかわからない。」
「モルダー。」
スカリーが顔を上げて僕を見つめた。
澄んだ大きな瞳には涙がきらめいていた。まるで僕の心を締め付けるように、涙の中に彼女の
美しい心が映って輝いているようだった。
「違うわ、モルダー。私はただ・・・」
「全てだ。」
僕はスカリーに近づいてひざまずき、彼女の膝に手を乗せた。
僕たちの目線はまっすぐにつながった。
スカリーの顔立ちは遺伝子が作り出した素晴らしい奇跡に違いない。
それになにより彼女の心の美しさが、表情を通してまわりを輝かせるようだった。
スカリーは唇をそっと噛んだ。
「君は僕の全てを救ってくれたんだよ。僕のヌケた部分をカバーしてくれた。君は膨大な時間も、
君の姉さんを失っても、僕を信じて助け続けてくれた。数え切れないほど僕が自分を失って暴走
したときも、いつも君は冷静に僕を落ち着けようとしてきてくれた。僕にとって君がどれほど重要
な存在か、スカリー、わかるかい？。でも僕はまだ、君が無限に与えてくれていることのほんの
少しでも、君に返してあげることができないでいるんだ。さっさと僕を捨てていってしまわない
のが不思議なくらいなんだよ。」
「理由はわかっているでしょう、モルダー。」
スカリーはそっとささやいた。
僕は目を閉じて彼女の言葉を受け止めた。
するとこれまで縮み上がっていた心の中に暖かさが流れてきて、思わず口元がほころんだ。
僕は目を開け、そっと彼女の両手を包み込み、体の緊張を解くように大きく息を吐いた。
「君がとても必要なんだ、スカリー。僕は傲慢で、自分勝手でクソみたいな男だ。よくわかってる。
でも、君が必要なんだよ、スカリー。どこにも行かないでくれ。やっと君に何かを返せるように
なれたばかりなんだ。」
僕は目を伏せた。
もうスカリーの瞳を見つめることができなかった。
心臓が激しく鼓動し、口の中が乾ききって震え、息もできなくなり、僕は小さなかすれ声で
つぶやくのがやっとだった。
「問題は、スカリー。君に僕以外の何もあげられないことなんだ。それだけではとても
足りないのはわかっている。でも、スカリー、愛してるんだ。君を愛させてほしいんだ。
今日も、明日も、永遠に僕をそばにいさせてほしいんだよ、スカリー。心から君を愛している。」
スカリーは手を引いて僕の顔を包み込み、そっと僕の唇にキスした。
彼女の唇は甘く優しく、とても柔らかかった。
「モルダー、わかってないわね。私にとってあなた以上のプレゼントはあり得ないのよ。」
スカリーは輝くように微笑んだ。
「クリスマスにあげた、シュミレーション手術ゲームよりかい？」
「ええ、もちろんよ。」
「スカリー、賭けてもいい。今僕が打ち明けた気持ちは、すぐ本当のことだと証明してみせるよ。」
スカリーはくすっと笑ってカウチから立ち上がると、僕に手を伸ばした。
「遅いわ、モルダー。私の方が先に証明してあげるわ。」
僕は笑って手を取り、彼女のベッドルームに近づいていった。
「Hey、スカリー、前もって言っておくけど、僕はいびきをかくからね。」
スカリーは振り返り、僕を見上げて微笑んだ。
彼女の目は僕と同じように輝き、まるで光を放っているようだった。
「眠らせてもらえるとでも思ってるの？」
僕たちは笑ってベッドルームに入り、そしてまなざしを絡ませたまま、ドアを閉めた。
THE END
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