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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox
Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: BARE RUIN'D CHOIRS
作：Secret Squirrels
（Bonetree, Brandon D. Ray, Char Chaffin, CindyET, David Hearne, Lala Means,and mimic117）
訳:tomo
*この作品はシーズン8以降の、ウィリアムが誕生した後の時間枠です。
*この作品は「AND THERE WAS A WAR IN HEAVEN 作 CindyET,Brandon D. Ray 」という作品の続編でもあり、その中でジョン・ドゲット捜査官はエイリアンウィルスの調査に行ったため、この作品では登場しません。
(この作品は本編のストーリーを思い出しながらお読みいただくとわかりやすいと思います。また、本編でスカリー家と親交のあるマキュー神父の教会のオルガニストが、半年前にエイリアンウィルスのため亡くなっているという設定です。）
*意訳です。
PROLOGUE
-X-X-X-X-X-X-
神が見る私は めぐる一年の季節の姿か
黄ばんだ葉が 二つ三つ散り残って枝にかかり
木枯らしの空にふるえている
かつては小鳥の聖歌隊席
いまは花も葉もないただの枯れ木
神が見る私は また 過ぎゆく一日のたそがれ時か
日は西に沈み 空に漂う薄ら明かりも
やがて 夜の闇のなかに呑みこまれる
夜の分身「死」の憩いに封じ込められる私たちの命
神が見る私は また 燃え尽きる火のひと時の輝きか
燃えさかる情熱の 名残の灰を臨終の床として
いつか消えていくべき身
かつての炎の養分のなかに 横たわる余韻
これを思えば---命に終わりがあることを知
れば
人の愛は もっともっと 強くなるであろう
ウィリアム・シェイクスピア
-X-X-X-X-X-X-
ST.JOHN カトリック教会
ヴァージニア州 アレキサンドリア
2003年3月20日
10：23 AM
「遅いんじゃないでしょうか、神父様。」
モルダーは心配げに尋ねた。
「大丈夫だよ、フォックス。落ち着きなさい。」
マキュー神父は安心させるように答えたが、モルダーは少しも耳に入らないように、
ST.JOHN教会の長いヴァージンロードの先を緊張して見つめていた。
教会の大扉は開かれていたが、誰もそこに現れる気配がなかった。
「フォックス」
マキュー神父は手をモルダーの肩に置いて振り向かせた。
「落ち着きなさい。」
今度はモルダーに聞こえ、彼はうなずいてなんとか微笑もうとした。
「すみません、少し緊張していて。」
「わかるよ、私もだ。」
モルダーには神父が緊張しているようには見えなかったが、神父は言葉を続けた。
「私は年寄りだし・・・もうずいぶん長いこと結婚式を取り仕切ってないからね、
こう見えても緊張しているんだよ。」
モルダーはうなずき、また視線を扉へ戻した。
ST.JOHN教会は大きな教会である。
信者のためのベンチ式の座席が何十列も並び、それらを真ん中から分けるように、
入り口から50ヤードもの回廊が引かれてある。
今朝はその回廊に赤いヴァージンロードが敷かれ、広すぎる講堂には少な目の列席者達と聖歌隊が
座り、式の開始を待っていた。
マキュー神父は講堂に集まった人々を眺めた。
15年間、マキュー神父はこの教会で司祭を務めていたが、今日ほど心が乱れたことはなかった。
〈大勢の人間でうまってなくてもいい。〉
神父はそう思っていた。
〈この人たちは全て二人を心から祝福しに来たのだ。神もここにおわすだろう。〉
神父は今日の集まりを特別に重要なことと考えていた。
結婚式はとても神聖なもので、人生において最も重大であり、体が結ばれるだけでなく、心と愛、
魂と魂を永遠に結びつける重要な儀式なのだ。
そしてさらに、今日結婚する新郎と新婦は神父個人にとっても特別だった。
彼には二人がずっと昔から、魂と魂が結ばれている関係だということを知っていた。
しかし時として神の試練が二人を離し、苦しませることがあったが、ついに今日、彼は
フォックス・モルダーとダナ・スカリーの結婚を宣言して祝福することができるのだった。
新郎は来たときからずっと・・・おそらく式が終わるまで・・・緊張し、頭からつま先まで
石のように固まってしまっていた。
「フォックス、“信じるものは救われる”と言うだろう？」
神父はモルダーをなだめようと試みた。
「神はずっと力になってくれなかったんです、マキュー神父。今日のことも神が忘れてるん
じゃないかと不安なんですよ。」
「ダナならきっと違うと言うだろうね、彼女は・・・」
「パパーーーーーーー！！！！」
モルダーの幼い息子ウィリアムが、列席者達の中から甲高い声で叫んだ。
ウィリアムは父親と同じように落ち着かない様子で体を動かし、メルヴィン・フロヒキーの
膝の上から声を上げていた。
フロヒキーが小さなウィルの耳に何かささやくと、今度は楽しげにクスクス笑いだした。
しかしフロヒキーがモルダーにウィンクして合図すると、
またウィリアムはサイレンのように叫びだしてしまった。
「パパー！パパー！パパー！パパー！！」
-X-X-X-X-X-X-
Part1：FROHIKE'S STORY
By mimic117
さて何から話そうか？
この大いなる野性中年フロヒキーは、今日は大きなおしめ相手に戦ってるよ。
そう、この小さなウィリアム・スカリー・モルダー君だ。
もうすぐモルダーになるんだが・・・なあ、Big guy、頼むよ。頼むから落ち着いてくれよ。
今日はお前のパパまで、おむつはいたガキみたいな有様なんだから。
今日はモルダーとスカリーの結婚式なんだ、まだ信じられないよ。
くそっ！バイヤースがいてくれたらな。
あいつだったら緊張して汗かいてるモルダーの姿を見たら、ケリぐらいいれてやっただろうに。
あいつは前の女房のスザンヌ・モデスキーと一緒になって、もうずっと連絡がない。
全く・・・。な、ウィル、お前のパパは何だってあんなに緊張してるんだ？
自分を愛してる美しい花嫁がこれから来るのに、わんぱく小僧のお前に俺だってここに座って
見守ってやってるのに、一体どうしちまったんだ？
でも、だからってあいつを責められないよな。
だって俺だって嬉しくて、この場でジャンプしたい勢いなんだから。
スカリーみたいな花嫁を待つ身になったら、誰だってああなっちまう。
素晴らしい日だろ、な？ウィル。
そういえば、スカリーの兄貴が今日結婚式を挙げるなんてバカバカしいって言ってたな。
全くあの兄貴、それならいつ挙げればいいって言うんだ？
何でこんな素晴らしいことを祝ってやれないんだ？
スカリーがあの兄貴とちっとも似てなくて良かったよ。
生きてる時間ってのは、あっという間に過ぎていくって事をわかってないんだろうな、ウィル。
あいつはモルダー達が何と戦ってるか、どんな危険と戦ってるか、少しもわかっちゃいないんだ。
なあ、ウィル、もし俺にモルダーみたいな事が起こったらどうだっただろう。
あいつがスカリーを愛して危険から身をはって彼女を守ったように、俺も自分の愛する女を守り抜く
ようなことができたら、今日みたいな日を俺も迎えることができたんだろうか。
きっともっと地味な結婚式になるかもしれないが、それでも愛し合える女性と結婚できたんだろうか。
なあ、ウィル、もし俺の人生にそんなことがあったら、きっと今頃お前くらいの孫を持って、
一緒に遊ばせてやることができたんだろうな。
きっとたくさんの子供や孫に囲まれることもできたんだろうな。
お前のママは勇敢で、激しくて、お前のパパへの気持ちにずっと忠実で、まさに輝く星みたいな
存在だったよ。
後から聞いた話だけど・・・おかしな兵士達が村にいるママとお前を狙いに来たときも、
少しも怖じけづかなかったそうだ。
全部の話を聞いた訳じゃないが、賭けてもいい。
その時のママはとっても勇敢に振る舞っていたと思うよ、Amigo。
それにしても二人が危険な目にあって一時は墓にまで埋められたっていうのに、政府の役人達め、
軍とグルになりやがって、「村での発砲は、軍の誤発射があったものと思われます。」の一言で
片づけようとしやがった。
一体どういう事なんだ？二人を狙ってやってたくせに。
それで撃たれた人たちの命はどうなるっていうんだ？
官僚どものクソッタレのクソ野・・・。
ごめんよ、ウィル。脅かすつもりはなかったんだよ、泣かないでくれ。
大丈夫だよ、野性中年フロヒキーは元に戻ったよ。
おお、キスをありがとよBig guy、おかげで元気が出てきたよ。
汚い言葉は使っちゃいけないよな。汚い言葉ばかり使ったら、ママが怒るもんな。
お前のママは怒るとすごく怖いんだぞ？知ってるか？
さあ、気を取り直そうぜ。
結婚式はどうなってる？
式が始まるはずの時間からもう15分たっている。
みんな講堂に集まって、お前のママがウェディングドレスを着て現れるのを首を長くして待ってる
のに。
きっとママは天使みたいに輝いて見えるだろうな、ウィル。ああ、最高にきれいだぞ・・・お前は
俺のジャケットの下に隠れて遊ぶ方に夢中みたいだが、ママが来たらちゃんと見るんだぞ、ウィル。
すごくきれいなんだからな。
変なふうに取らないでくれよ、でもお前のママはとってもセクシーなんだ。
もうだいぶ昔になるけど、お前のママ、ダナ・スカリーに初めて会ったとき、「セクシーだ！」って
言っちまったんだ。俺としては敬意を表しての表現だったんだが・・・どうかな、ウィル。
今の彼女は昔よりさらに魅力的になったよ。おかげでまた恋をしちまった。さっき、この教会で。
教会でお前を手渡すとき、片眉を上げて俺にこう言ったんだ。
「あなたには本当に感謝してるわ、フロヒキー。あなたがいなかったら、私たちはここまでこれな
かったわ。」
おかげで俺の目は魔法がかかったみたくなってしまってな、ウィル。お前のママはこんなふうに俺に
影響してしまうんだ。
俺にとっては、お前のママがドレス選びや何かで外出するときにお前を預かるのは、最高に嬉しい
ことなんだよ。
お前のパパもきっとそう思っているだろう。
あそこに立ってるパパを見て見ろよ、ウィル。
体中からあいつの愛情がにじみ出て、まるで光りを出してるようじゃないか。
ママもパパも、お互いあんなに愛しあってるんだよ。
あんなのを見たら、俺の夢なんてすぐあきらめがつくよ。
もっともお前が俺の子だったら、バスケットボールで奨学金を取る才能は渡してやれないしな、
それはいやだろう？
俺もそう思うよ。
あの二人はどんなことをしたって引き離せっこない。
パパは南極からだって彼女を連れ戻したんだ。
俺だってそうしたいけど、俺は自分のいるべき場所を知ってるからな。
俺には時々お前のパパが、ドン・キホーテみたく一人で風車小屋相手に戦うように見えたよ。
スカリーはさしずめ恋人のダルネシアという所かな。
俺はそんな二人を助ける役割なんだ。
俺は自分のできる範囲で二人を助け続けるんだよ。
それにしても、今日ラングリーが何をスピーチするのか楽しみだ。
まあ、お前の面倒を見るよりは適役だけど、モルダーがあいつに祝辞のスピーチを頼むとは夢にも
思わなかったぜ。
あいつの頭の中にコンピュータやヒッピーの本以外の良い本や言葉が入ってるとでも思ったのかな。
でもラングリーはこういう日にデフ・レパードのTシャツを脱いで、ちゃんとスーツを着てくるだけ
の常識は持ってたようだ。
窮屈そうな様子だが、髪も洗って後ろでちゃんと一つに縛ってある。
小さな奇跡に、神に感謝しなくちゃならないな。
奇跡と言えば、あそこのお前そっくりなBig guyにも奇跡が起こって落ち着かないといけないな、
ウィル。
お前のパパは緊張しすぎだぞ。
これまで経験した大事件に比べれば、今日なんてそんなにビクビクすることじゃないだろうに。
神父にも責任があるのかな。
あの神父はスカリーとは親しいけど、お前のパパとはそんなでもないだろうし・・・あいつは
信仰とは縁のない生活が長かったからな。
なあ、神様。あいつが敬虔な信者だとは言えないかもしれないが、あいつはいい奴なんですよ、
本当に。
どうかあんな奴でも、見放さないでやってください。
-X-X-X-X-X-X-
握りしめた手をポケットに突っ込んで何度もつま先立ちしながら、モルダーは教会のドアを見つめ
続けた。
「彼が現れなかったら、ケツをケッとばし・・・」
モルダーは口を閉じて、神父に謝るように目を伏せた。
「すみません、マキュー神父。ただ・・・彼が遅れてないか誰かに聞いてみます。」
「きっと来るよ、フォックス。彼には少し時間が必要なだけだ。」
神父は落ち着いて立ち上がり、モルダーの背中を軽く叩いた。
「必ず来る。」
「僕も落ち着きたいんですよ。」
「簡単なことだよ、彼が来るのを信じればいいんだ。そうだろう？」
「え、ええ、しかし・・・」
モルダーは50ヤード先のドアを眺めると、また落ち着かない様子になった。
マキュー神父はフォックス・モルダーとビル・スカリーの困難な関係を知っていた。
だが今回の結婚式で、モルダーはビルに新郎の介添人になるよう依頼し、ビルもすぐに引き受けた。
おそらく家族としてのプレッシャーが、ついにモルダーを受け入れる勇気を与えたのではないかと
思っていたのだが、今日になってまるで考え直したかのように、ビルが教会に現れないのだった。
スケジュール通りであれば、結婚式は20分前に始まっているはずだった。
出席者達もざわつきはじめ、モルダーはグルグルと落ち着かなげに歩き回っていた。
「フォックス・・・。」
モルダーはパニックに陥っているようだった。
「ビルは結婚指輪を持ってるんですよ、マキュー神父！」
「大丈夫、必ず来るよ。」
「いいえ、とてもそうだとは・・・」
モルダーは指でラングリーを講堂の側廊に呼び寄せた。
ラングリーは飛び跳ねるように座席から立ち、ニヤニヤ笑いながらモルダーのそばに近寄った。
「よお、色男！お前の介添人はどこ行ったんだよ。」
「きっと来ないつもりなんだ。」
ラングリーのニヤニヤ笑いが瞬時に消えて、真剣な表情になった。
「じゃあ、俺が代わりになるのか？俺は・・・」
「フォックス来ましたよ、さあ始めます。」
マキュー神父が口を挟んで、ドアから現れた人影を指差した。
-X-X-X-X-X-X-
Part2：BILL JR'S STORY
By Char Chaffin
教会の外を歩き回ってもうずいぶんになる・・・45分は歩いてるだろう。
行かなければならない。
あのドアから入って、いまいましい結婚式の音楽を聞かなければならない。
妹の頬にキスして、俺にとって今日がどんなに嬉しいか言わなければならない。
わかっている。
じゃあなぜ俺はこんなところをうろついているんだ？
妻のタラによれば、俺は他の人よりガンコでところどころ始末に負えないほどバカなんだそうだが、
俺には喜んでるふりなんかできないんだ。
たとえそれが自分の妹の結婚式であってもだ。
あのかわいい甥のためであってもできないんだ。
甥の父親はもちろんあの子を愛してるし、甥にもあいつが必要だということもわかっている。
モルダーは盲目的なほどにウィルを愛してかわいがっている。
ウィルもあいつに愛情を返している。
それに俺が文句をつけるつもりはない。
問題なのは安全のことなんだ。
果たしてあいつのそばで安全に暮らしていけるのか？平穏に暮らしていけるのか？
不穏なことばかりのこの世の中で、妹と甥が平穏に暮らしていける保証がほしいんだ。
父が亡くなってから、俺は父が愛して守ってきた家族への責任を引き継ぎ、俺なりに家族を
守ってきたつもりだった。
いや、そうしたかったんだ。
父が死んで以来、家族に予想もつかないほどひどいことが起こり続けてしまった。
ダナが何者かに誘拐され、死の直前まで行ってしまった。
そしてメリッサが残忍に殺された。
このひどいこと全てがあの男・・・いつもモルダーに関わって起こったのだ。
ウィルの父親、妹の恋人・・・そしてもうすぐ妹の夫になってしまう。
神よ、力を与えてください。
確かに、メリッサに致命的な傷を負わせたのはモルダーじゃない。
ダナを誘拐したのもモルダーじゃない。
俺が言いたいのは・・・いつも言ってるのは・・・あいつがいつも「エイリアン」になんでも
関係付けて妹を翻弄し、その結果として俺の家族を傷つけたのが許せないんだ。
妹は危険を覚悟してFBIに入ったが、あまりにこれはひどすぎる。
ダナがFBIに入るとき、父は許したが俺は最後まで許さなかった。
俺はいつもダナが医者として成功して、平穏に、幸せに暮らしてくれることを望んでいた。
俺はいつもダナを誇りに思ってきたんだ・・・たとえダナが信じなくても。
しかしそのダナが選んだ仕事を一生懸命にした結果が、フォックス・モルダーのような奴の相棒に
なっただなんて、俺は信じたくなかった。
あんな、UFOばかり追いかける、超常現象のプロファイラーなんかの。
母はいつもあいつをかばった。
弟のチャーリーもあいつをあたたかく迎えた。
タラはあいつを抱きしめ、子供達は「フォックスおじさん」と呼びながら猿みたいにあいつの首から
ぶら下がった。
それをダナは愛しそうに見つめて・・・。
もし全く別の機会に、これまで家族に起こったこと無しであいつに会うことができたら、
ひょっとしたら友達になれたかもしれない。
言いたくないがモルダーと俺には共通点があると思う。
家族をとても愛し、家族のために何でもするところが。
もちろんモルダーの家族は・・・もう生き残ってるのは奴自身しかなく、あとモルダーのそばには
ダナとあの変な三人組の友人と・・・あとは彼の元上司のスキナー氏だけだ。
スキナー氏は母やタラに優しく、子供達までかわいがってくれている。
彼はダナを尊敬しているようだ。
俺には自分の妹たちの、ダナの苦しみと、メリッサの死を、どんなにばかげているとわかっていても、
どんなにフェアじゃないとわかっていても、俺はあいつ以外、どこに気持ちをぶつけたらいいかが
わからないんだ。
教会の庭の部分を歩き回った。
夏には色とりどりの花が咲き乱れるこの庭も、今はまだ土があるだけだ。
確か毎年シスター達が苦労して、マリーゴールドやバラやベゴニアを植えていたっけな。
それに俺の知らない種類の花々も一緒に。
メリッサならその花の名前を言えるだろう。
頼みもしないのに一つ一つ指差しながら、ベラベラ花の名前を並べ立てただろう。
メリッサは花が好きだった。
生きてるうちに、誕生日でも、バレンタインの日でも、もっと花を贈ってやればよかった。
俺は彼女の葬式に花を捧げることになってしまった・・・何て兄貴だ俺は・・・。
バカ、何考えてるんだ！
妹の結婚式の日に葬式のことを考えるだなんて！
タラが知ったらあきれかえるぞ。いや、もうタラは俺の態度に愛想を尽かしてるかもしれない。
今朝俺は刑の執行前の囚人のように、うつむいたままノロノロと支度をした。
タラはすでに準備を整え、出かけるだけになっていたのに、俺はまだ下着姿のままで椅子に
座っていた。
「ビル！早く服を着てよ！結婚式は3時間後なのよ、あなたの妹の結婚式よ！絶対に遅れるわけには
いかないんですからね！今になって何やってるのよ、もうちゃんと話し合ったでしょう？」
タラは俺にドレスシャツを投げながら大声で続けた。
「ダナは幸せなのよ、ビル・・・お願いだから邪魔するようなことしないでちょうだい！」
タラは小さなベルベットの箱からタイピンを取りだして、黙って座ったままの俺に渡し、
マシューの小さな足に靴を履かせながら振り向いた。
「ビリー、お願いよ・・・。」
俺は立ち上がってタラの後ろに立った。その拍子に膝に乗せていたシャツやタイピンが床にこぼれ
落ちたが構わなかった。
「せかさないでくれ、タラ！俺にはまだ時間が必要なんだ。ダナは間違ってる。結婚なんか認める
もんか。俺が反対してるのはママもダナも、モルダーさえ知ってるだろう、ダナがあんな狂った奴と
結婚して幸せになるわけがないんだ。あんなの父親とは・・・」
俺は言葉を切った。
タラが立ち上がって俺をにらみつけたからだ。
彼女と結婚して何年もたってるが、あんなに怒ったのを見るのは初めてだった。
「ビル・・・黙って！本気よ。二度と同じ事は言わないわ。どんなにあんたが簡単に忘れようとも、
ダナを救ってるのはモルダーなのよ。あんたが彼のことを気に入らないのはずっと知ってるけど、
早くその考えをつぶしておけば良かったわ。ちゃんと頭を働かせて耳を澄ませて聞きなさい！
ダナはフォックスを愛してるのよ。ダナは私たちが二人を知る前から、ずっと彼を愛し続けて
いるのよ。二人で辛いことも乗り越えて、深い絆で結ばれてるのよ。そして一緒に暮らして、
子供もできたのよ。愛する人と一緒になれてダナは幸せになるのよ。さあ、わかったらさっさと
服を着て！」
タラはそうきっぱり言い切ると、口をあんぐり開けて立ちつくしてる俺にキスすると、
微笑みながらマシューの手を引っ張って部屋から出ていった。
俺はシャツを手に握りしめながら、呆然として椅子に座った。
タラはおとなしくて、優しい女性だ。
しかし時に怒りや感情が高ぶったときは、ブルドッグのように強くなれる。
そこが彼女の素晴らしいところだ。大切なものを守るためにはどう猛にもなれる。
タラは俺の家族を自分の本当の家族のように愛してくれている。
彼女の両親はまだ幼い頃に亡くなっていたので、ずっと兄弟や妹がほしかったと言っていた。
だから結婚して、ダナを本当の妹のように思ってくれるのは、俺にとって本当に嬉しいことだった。
でもその愛情で、モルダーの奴まで守ろうとするなんて・・・。
俺にだってわかってる。
俺がどんなにあいつを責めたくても、それがどんなに方向違いかって事は、頭ではわかっているんだ。
何年か前に病院の廊下であいつと鼻をつき合わせたとき、「お前は最低の人間だ」と言ってやった
ことがある。
あいつはうなずいた。
ちくしょう！俺の言ったことにうなずきやがった。
あいつは俺の気持ちが分かったんだ。
でもそれであいつが妹と関わることが終わりになったわけじゃなかった。
ダナは病気から回復すると、すぐにまたモルダーの所に戻ってしまった。俺や家族の所でなく、
あいつの所にだ。
だから俺は今日までずっとあいつとのことに反対し続けたんだ。
でも俺はやるだろう。
今日は俺はフォックス・モルダーの介添人を務めるんだ。
教会でモルダーの後ろに立ち、神の前であいつとダナが神聖な式の中で結ばれるのを見届け、
彼女が幸せで光り輝く姿を見るために。
ダナのために。
あいつを信じてたメリッサのために。
それにあいつを大事に思ってる母のために。
小さなウィリアムのために。
そして大切なタラのために。
いつも良心に従って、俺の分まで心優しい彼女のために。
さあ、考えが変わる前に行かなければ。
俺は少しの間教会の裏庭を歩き続けた。
庭には伸びすぎた雑草が生えていて、その間の土から若い芽が力強く芽生えていた。
なんだかその光景が気に入った。
なぜだか人間の生き方に似てると思ったからだ。
どんな悪いことが自分にかぶさってきても、くじけずに生きていく・・・
タラが言ったことは正しいだろう。モルダーはくじけることなくダナを救い続けてきた。
俺がどんなに敵意をぶつけても、いつもあいつなりの敬意を俺に払い、礼儀正しく接していた。
今頃あいつはマキュー神父の横に立って、緊張して汗をかきながら、俺の顔をぶん殴ることでも
想像してることだろう。
心の一部ではそんなモルダーの姿を喜んだが、ほとんどの部分では、早く教会のドアから入って
母をエスコートしなければ、後で絶対に後悔するぞと告げていた。
驚くほどの早さで庭を横切り、教会のドアめがけて走り抜けた。
ロビーにいた母が早足で俺に近づいてきて、腕をとった。
母は心配といらだちが混じった瞳で俺をじっと見つめた。
俺は母の表情に気が付かないふりをした。
「ビル、どこに行っていたの？早く席に着かせてちょうだい・・・さあ、そしてフォックスの横に
並ぶのよ。」
俺は全て見透かしてるような、全て知ってるような母の目から逃げないように力を込め、
肩をすくめてなるだけ普通の声を出した。
「少し外にいたんだよ。ちょっといろいろあって・・・」
母はため息を付いて、記録的な早さで俺の言い訳を見破った。
俺の真っ正面に立ち、しっかりと目を見据えて強い声で言った。
「お前はバカだわ、ビル。そんな言い訳で私をだませると思ってるの？お前がフォックスにどれだけ
長いこと怒りをためてても、いい加減にしなさい！今日で全て忘れなさい。結婚式の日にダナを
がっかりさせたいの？何かお前が今日フォックスに復讐したいとでも思ったなら、私が許しません
からね。」
母はつかんでいた俺の腕に力を込めて爪を立てた。
これは警告だ。
俺はもう一度言い訳しようと口を開いたが、何の言葉ものどから出てこなかった。
母はドアのところで立ち止まり、俺を前に進むように駆り立てた。
「ビル、下手な言い訳なんか聞きたくないわ。思い出してごらんなさい、タラとの結婚を彼女の
叔父のミッチさんに反対されたでしょう？しかも結婚式当日になってもよ。でも私は彼が許して
くれる希望をなくさなかったわ。そしてそれが叶って、お前はタラと幸せな日々を送って、
かわいい子供達に恵まれることができたわ。どんなに素晴らしいことか、お前にもわかるでしょう？
ダナもそれを望んでいるのよ、フォックスとの幸せを。ビル、フォックスを受け入れなさい。
お願いだから、二人の結婚を祝福してちょうだい。」
母は語りかけながら回廊を歩き、俺をとうとう講堂の中へ入らせた。
俺は何とか微笑んでる表情を作りながら母をエスコートし、足をギクシャクさせながら歩いていった。
母はユニティ・キャンドルの置いてあるテーブルに近づき、2本のキャンドルに火をともして席に
座った。
俺は重い足取りでモルダーに近づいていった。
くそっ何で俺がこんな事を・・・。
顔を上げてモルダーを見ると、おかしな事が起こった。
そこにはものすごく緊張した男が立っていた。
そいつはまるで、俺が自分の結婚式に心配したことと全く同じことを心配しているようだった。
タラがミッチさんの反対を受けて俺との結婚を考え直すんじゃないかと、胸がしめつけられるような
思いで神に祈り続けていた、あの時の俺そのものだった。
モルダーが俺を見つけたとき、その表情に怒りがあることもわかった。きっと俺が現れないことに、
冷や汗をかくほど心配でいらだっていたのだろう。
あいつの目は不安と心配でいっぱいになっていたが、しかしその中に誰にも負けないような強い光が
あった。
・・・おそらく誰にもモルダーの未来を奪う事なんてできないだろう。
俺はニヤッと笑って未来の義理の弟の後ろに並び、ST.JOHN教会の奥を眺め、ダナが現れるのを
待った。
かわいいウィリアムにウィンクすると、ウィルははしゃいで笑い出した。
ウィルの横に座っているフロヒキーが俺に親指を立ててサインした。
俺はモルダーの奇怪な友人にまで励まされてしまったようだ。
しかし奇妙なことだが今の気分は・・・良かった。
頭を振ってモルダーの様子をうかがいながらつぶやいた。
「おめでとう、モルダー。」
俺がそっと横目で様子を見ようとしたとき、モルダーがホッとしたようなため息を付いた。
「モルダーって名前なんだビル・・・ありがとう、来てくれて。ダナのためにも来てくれて・・・
ありがとう。」
俺はモルダーの方に向きなおり、片手を差し出した。
モルダーは驚いて俺の目をしばらく見つめたが、彼もゆっくり片手を出した。
俺達は男らしく固い握手をした。
もう何も言わないで良かった。
もう本当に、何も言わないで良かった。
-X-X-X-X-X-X-
「ナイフ！ナイフ！」
ウィリアムはビルの持ってる儀式用の剣に小さな指を差して声を上げた。
「みて、おばあちゃん！」
ウィリアムは目をまん丸にして、マギーとフロヒキーの間の席から立ち上がった。
フロヒキーはウィルの腰を持って、席の間でバタバタ動くのを抑えた。
「シーッ。」
マギーは優しく微笑んでウィルを静かにさせた。
その表情は、娘がウィルに向ける愛情のこもった表情ととてもよく似ていた。
「ビルおじちゃんはパパをおいたするの？」
小さなウィルが問いかけた。
「違うのよ、ウィル。パパとビルおじさんは握手してるの。」
「あくす？」
ウィルは意味がわからないように、手をふりながら首をかしげた。
「握手よ。お友達になるって意味なの。」
マギーはささやいてウィルの手をとり、そっと握りしめながら二、三度揺らした。
「ビルおじちゃんとパパはおともだち？」
ウィルは確かめるようにフロヒキーの方に振り向いた。
フロヒキーは咳払いしてから答えた。
「ああ・・・ああ、そうだよ。二人は・・・うん・・・アミーゴだ。」
「ミーゴ。」
ウィルは納得したようにうなずいた。
マキュー神父はマギーとウィルを見つめていた。
ビルが心の傷を乗り越えて、フォックスの横に並んでくれたのが心から嬉しかった。
神父はもう何年もスカリー家とつきあっていて、マギーは彼のたくさんの信徒の中でも、
特に敬虔な信者だった。
マギーは息子と娘の恋人の関係にずっと悩み、心を痛めてきていた。
神父はマギーの告白と懺悔を聞き、罪に神の許しを与えていた。
きっと今日のことでマギーの心の中の痛みは癒され、彼女だけでなく、心配した全ての人の心が
軽くなり、すがすがしい風が吹いたことだろうと思った。
-X-X-X-X-X-X-
Part3：MAGGIE'S STORY
By Bonetree
手を握ると、ウィルは無邪気に笑いだした。
心が明るくなるようなその笑い声は、危険を知らない、とても純粋な笑い声だった。
毎晩テレビのニュースを見て、ダナとフォックスに関係あるニュースが流れるんじゃないかと
心配して過ごした長い年月。
まるでレンガやコンクリートに囲まれたような気分で過ごしていたわ。
光が入るはずの心のガラスは、あちこちしみが付いているようだった。
もうそんなことは忘れていいのね。
ウィルが泊まった夜は、時々寝顔を確かめに行ったわ。
この子が産まれたことで、さらにダナは強くなった。
この子はダナたちにとっても、私にとっても希望そのものの存在よ。
ST.John教会の椅子に座りながら、これまで私を支えてきてくれたことを思い出していた。
私の気持ちはいつも神のところに、家族のところに、そして自分自身に忠実であろうとしてきた。
本当にこんな日が来てくれるなんて。
祭壇の前の座席に座って、こうして二人の結婚式を眺めることができるだなんて。
今日で、足かせをはめられていたような息苦しさから解放されるのね。
フォックスはヴァージンロードの先を見つめ、マキュー神父がいつも通り祭壇の真ん中に立って、
ビルはまるで若い頃の夫のようにあたりを眺めている。
あの子は知らぬ間に夫と同じ役目を果たそうとがんばっていたわ。
ええ、大変なことだとわかってるわ。
回廊を歩きながらあの子に言った言葉は厳しすぎたかもしれないわね。
フォックスが関わることだといつも厳しくあの子に接してしまう。
あの子はあの子なりにダナを守ろうとしてはできずに、怒りをため込んでいた。
あの子のやり方はいつも、ダナの意志を無視したり、ダナが決めたことを横から指図しようとして
ばかりだった。
でも一度としてダナを思うとおりにはできなかったわね。
今日の結婚式の決心も、ダナの方が正しかった。
ウィルの手をそっと離した。
ウィルはメルヴィンの膝の上でおとなしくしていた。
きっとこの子にも厳粛な雰囲気が伝わって、これから重要なことをするのがわかったのね。
これまでこんなにおとなしくしていたことなんてなかったのに。
さっき控え室で椅子に座ったダナの後ろに立って、真っ白なヴェールをそっと顔にかけてあげた時も、
今と同じ気持ちになったわ。
私たちは一緒に壁に掛けられた鏡を見つめていた。
ドレスは思った以上にダナによく似合ってた。
初めにダナの口からドレスを着たいと聞いたときは驚いたわ。
なぜならいつもダナはスーツを着てて、きっと結婚式でもそうなんじゃないかって想像していたから。
今思えばおかしな事だけど。
ダナはウィルが産まれる前も、言葉で言えない深い絆でフォックスと結ばれていた。
誓いの言葉を言わなくても、二人は将来をずっと共に歩いていったでしょう。
フォックスへの深い愛や義務がダナの目を覆ってしまい、時に本当のことが見えなくなってしまう
ことがあったわね。
これまで信じていたことを、フォックスのために永久にどこかへ閉じこめてしまおうとした時も
あったわね。
でも、今はあなたの探していたことが、はっきり見えるでしょう？
フォックスはずっとあなたの目の前に、そしてこれからはあなたの隣にずっといるわ。
ヴェールの具合をなおしてもう一度鏡を覗き込むと、心の中が幸せで一杯になったわ。
ダナの口元からシャイな微笑みがこぼれて、とても美しかった。
私は夫が伝えられなかった大切な言葉を、今日やっとダナに伝えたわ。
彼が生きていればきっと言った言葉。
夫がダナのウェディングドレス姿を見たら、きっと言った言葉。
「お前を誇りに思うよ、ダナ。愛してる。」
祭壇の方に振り向くと、さっきの通りフォックスにビル、マキュー神父が静かに立っていた。
家族の間で、フォックスのことを何度も話し合った。
メリッサの死、ダナの病気と危険の連続。
私自身も彼を責めたいときもあった。
でも、今日の彼を見て、フォックスは私たちから奪うのではなく、この瞬間、この場所で、
永遠にダナと家族に幸せを与えられる人だと確信した。
「あなたを誇りに思うわ、フォックス。愛してる。」
-X-X-X-X-X-X-
〈パイプオルガンがあってくれたら・・・〉
マキュー神父は思いだしていた。
結婚式ほどパイプオルガンの音色が似合うことはないのに。
ST.John教会のパイプオルガンは一ヶ月前に起こった火事のために水をかぶってしまい、
また教会のオルガニスト、フラニー・オニールも半年以上前に亡くなってしまっていた。
神父の心の中で、フラニーの奏でる素晴らしい音色がよみがえった。
モルダーとスカリーが式の相談に来たときに、ST.John教会の火事のことと、パイプオルガンが
使えずに、音楽はスピーカーから流れることを神父は伝えていた。
「何かテンポのいい音楽が良いですよ、ダナ。ヴァージンロードを歩くときに歩きやすいからね。」
「バッハの『御身が共にあるならば』はどうですか？」
「定番すぎるよ。」
モルダーが口をはさんだ。
「『Blue Suede Shoes』がいいな。」
「エルヴィスの曲はダメよ。」
「結婚式でエルヴィスを流したっていいだろう？」
「そういうのはラスベガスとかで流れてる曲よ。」
神父は微笑んで人差し指を立てた。
「曲目はまた後で検討しましょう。ダナ、ヴァージンロードをエスコートする人は決まったかね？」
「初めはビルがいいと思ったんですが・・・。」
ダナは肘を立てて指を見つめながら言葉をとぎらせた。
「今は？」
「別の人に・・・私がつらいとき、そばで支えてくれた人にお願いしようと思って・・・
モルダーがいなかったときに・・・。」
ダナは目をつぶって古い悲しみをぐっとのみこんだ。
神父はモルダーの失踪事件を知っていた。
モルダーは一時期死んだとされたが、信じる者たちの起こした奇跡か、3ヶ月後に彼はダナのもとへ
戻ってきた。
ダナは瞳をぬらして目を開けた。
「ウォルター・スキナー氏にお願いしようと思うんです。彼はリスクを負って私たちを助け続けて
くれました。」
「墓で寝てる僕のケツを蹴り上げてくれたんです。もし彼がいなかったら、僕はウィルの誕生日に
ケーキの上のろうそくを吹き消すこともできずに、墓場の土にデージーの花を咲かせてました。」
スカリーはモルダーの手に指を重ねた。
「結婚式にウォルターと一緒に歩けたら、私たちにとってとても光栄なことだと思ったんです。」
素晴らしい選択だった。
曲目よりあっという間に決定した。
スカリーの入場まで、神父は講堂を流れる「Love Me Tender」に合わせて体を揺らした。
ふと音がやみ、ヘンデルの「Allegro Maestoso」が教会中に響き渡り、出席者達は花嫁を見ようと
首を伸ばした。
ダナ・スカリーはこれまで誰も見たことがないほど緊張した表情で現れた。
真っ白な美しいドレスと霧のようなヴェールに身を包んで、スキナーの腕に手をあずけ、
反対側にいるモルダーを見つめながらヴァージンロードを歩き出した。
ダナとは反対に、モルダーは彼女の姿を見たとたんに緊張がほぐれ、しっかり立ち、スキナーが
花嫁を彼のもとへ連れてくるのを辛抱強く待った。
スキナーは喜びに満ちあふれたような表情だった。
-X-X-X-X-X-X-
Part4：SKINNER'S STORY
By Lala Means
こんなに緊張した彼女を見るのは初めてだ。
不安げで、こわがって、式のことを心配している。しかしそんなに緊張しなくてもいいはずだ。
今日は彼女の結婚式なだけなんだ。
これまでもっと危険で、緊張を強いられる時がいくらでもあったはずだ。
いや、それは全て彼女が捜査官として対応した場合ばかりでプライベートな時ではない。
しかしスカリーを知ってる人で、今の彼女を信じられる人が果たしているだろうか？
いつだって彼女は強かった。
彼女は私が知ってる中で、最も強い人間だ。
彼女なら自分の結婚式だって緊張せずに行えるはずだ。
ミセス・スカリーは最後に彼女のヴェールを直して手を握ると、ロビーに行って、遅れてきた息子
の腕をつかんだ。
ビル・スカリーは母親に腕をつかまれて教会の中に引きずられていくまで、私を冷たい目で
にらんだようだった。
妹をエスコートする名誉を私に奪われたと思ったのだろうか。
しかし私は気にしない。
これは彼自身のせいでなったのだから。
数週間前、二人にディナーに呼ばれたときは、まさかこんな申し出があるとは夢にも思わなかった。
もちろん二人の結婚式のことは知っていたし、喜んで出席するつもりだった。
ようやく二人が落ち着いた幸せを手に入れられるのだ。
二人にはそれだけの権利がある。
しかし同時に、私は嫉妬の痛みを胸に感じてもいた。
私も彼女が好きだった。
もちろんモルダーとは違う意味でだ。
誰にもモルダーのように彼女を愛することなどできないだろう。
しかしスカリーと知り合った男は皆、彼女を好きにならずにいられなかったのだ。
以前ペンドレル捜査官も彼女にべたぼれだったと聞いたことがある。
フロヒキーも最初に会った時から首ったけになったとモルダーが言っていた。
しかしジョン・ドゲット捜査官の気持ちを知ってるのは、私だけであろう。
彼はモルダーが失踪していた間スカリーと仕事をし、好意を寄せていた。
モルダーが彼女のもとに戻って来たときに感じた孤独感は相当のものだっただろう。
私にはわかる。私も同じように感じていたから。
ウィリアムが生まれた後も私は友情を重ねてきたが、もう私は必要なくなったんじゃないかと
感じていた。
モルダーとスカリーが一緒にいることで、お互いの何もかもが満たされているようだった。
しかしまた一緒に仕事を再開したとき、また二人を近くに感じることができた。
そしてあのディナーの夜、この光栄な役目を二人が頼んでくれたとき、二人にとっても私が大切だと
言ってくれたようで、とても嬉しかったのだ。
ディナーはとてもくつろぎ、楽しい話を交わして幸せで満ち足りていた。
私は大事にしまっていたとっておきのワインを持っていき、モルダーは母親から譲り受けた
クリスタルグラスを出して、三人で楽しんだ。
ディナーが終わると私たちはウィルと遊び（ウィルに私は“ウォリーおじちゃん”と呼ばれている）、
ウィルが寝付くとリビングでコーヒーを飲んだ。
私はディナーによばれたときから思っていたことを二人に聞いてみた。
おそらく今夜はただディナーを食べ、三人で昔話をするためだけに私をよんだわけではないだろう。
「今夜はなにか話があって私を呼んだんじゃないのかね？」
モルダーとスカリーは視線を合わせた。
誓ってもいいが、二人はまなざしの中で会話していた。
二人は手を重ね、モルダーが口を開いた。
「ウォルター、実は一つ頼みがあるんです。」
「ぜひ私たちのためにしていただきたいことなんです。」
スカリーが付け加えた。
私は黙って、捜査官達の報告を聞くようにうなずいた。
二人は顔を見合わせると、モルダーはうなずき、スカリーが大きくため息をついて話した。
「結婚式で、私をヴァージンロードでエスコートしていただきたいんです。」
まさか・・・。私はこんな申し出に何の心構えができていなかった。
私は驚きすぎて声も出ず、しばらくただ二人の顔をかわるがわる見るしかできなかったが、
ようやくどもりながら答えることができた。
「しかし、その役目にはもっと適任な・・・たとえば君の兄さんがいるだろう？」
スカリーは微笑んだ。
「はい、最初は私もそう考えました。でも兄弟だからではなく、もっと大切なことで一緒に歩く人を
選びたかったんです。」
私は困惑して眉をひそめた。
「モルダーを私に連れ戻してくれたのは、あなたしかいません。」
スカリーはきっぱりと言った。
「僕たちはずっと長い間支え合って来ました。」
モルダーが付け加えた。
その声はまるでスカリーだけに向けられているように聞こえた。
スカリーは彼の手をぎゅっと握りしめた。
「そういう僕たちの関係を理解してくれる人にお願いしたいんです。ビルは・・・僕たちの関係を
ずっと支持してはもらえませんでしたから。」
モルダーはフッと笑った。
私もスカリーの兄に初めて会った時のことを覚えている。
彼女がガンで死と戦っているときだった。
彼は妹を守ろうとするあまりに方向違いの怒りをモルダーにぶつけ、敵意を前面に出していた。
あれでは二人に選ばれないのは当然だろう。
「ぜひあなたにお願いしたいんです、ウォルター。あなたなら僕たちのことを知っています。
僕たちが出会った初めの頃から、今までどんなことを僕たちが乗り越えてきたかを知っています。
それに・・・」
「それに、私たちの大切な友人です。」
スカリーが言葉を続け、私に手を伸ばした。
「とても大切な友人です。」
私は彼女の手を握り、二人が言った言葉をかみしめた。
私は二人のことを良く知っている。
二人がどんなに苦難を乗り越えて来たかも知っている。
しかし二人が私を大切な友人だと思ってくれているとは、たった今まで知らなかった。
スカリーは私を見つめて、まるで花が咲いたような美しい微笑みを見せてくれた。
めったに見られない、とても貴重な瞬間だった。
そして今日、私はここにいる。
彼女のためにできる、ささやかでとても光栄なことだ。
講堂前の控え室で、スカリーはウェディングドレス姿でやり場のない緊張を抑えるように、
落ち着かなげになんども同じ所を歩いていた。
ドレス姿では歩きにくいだろうに。
私は彼女に近づいて、落ち着かせるように手を取った。
「どうしたんだね？」
「何でもないです。」
彼女はしっかりとした口調で答えた。
「何でもないんです・・・ただ、初めてのことなので待ってる時間が長く感じられて・・・。
私が人生で一番愛してる人と結婚することを思うと、手が震えてしまうんです・・・。」
私は握っていた彼女の手を見た。
「大丈夫。もう震えてない。」
スカリーは眉を上げてわずかに微笑んだ。
「・・・そうね、震えてないわ。」
「それにもし・・・」
私はテーブルの上に置いてある、一輪の赤いバラをそっと彼女の手に渡した。
これは彼女がブーケの代わりに望んだ、美しい大輪のバラだった。
「もしまた震えてきたら、私の腕につかまればいいさ。」
スカリーは瞳を輝かせて私の首に腕を巻き、とびきりの笑顔を見せてくれた。
「ありがとう。」
私もヴェールを動かさないように、しっかり彼女を抱きしめた。
「そのために友達がいるんじゃないか。」
エルヴィスの“Love Me Tender”の最後のメロディが流れ、ヘンデルの曲に変わった。
「用意はいいかね？」
スカリーは大きくため息をついてうなずいた。
「はい。」
スカリーは片手にバラをそっと握って私の腕に手を回し、教会の正面ドアへ近づいた。
スカリーは回していた手に力を込め、私を見上げてつぶやいた。
「ウォルター・・・あなたは本当に素晴らしい友達だわ。」
私は歩き始めると同時に、喜びが顔中からあふれ出るのを止められなかった。
ヴァージンロードの先にモルダーが待っていた。
この幸せ者め。
どんなに私たちがスカリーを好きでも、彼女が愛しているのはモルダーただ一人なのだ。
-X-X-X-X-X-X-
スキナーは喜びに満ちあふれた表情で、スカリーが長いヴァージンロードを歩くのをエスコートした。
白いドレスのすそがヴァージンロードをゆっくり流れ、薄いヴェールから透けて見える彼女の頬と
微笑みは、彼女が持っているクリムゾン色のバラのように紅く、まさに咲きこぼれるようだった。
とうとうモルダーのそばまで二人が着くと、スカリーはスキナーの腕を離し、彼の横に並んだ。
スカリーの表情は緊張で硬く、手も少し震えていて、それを見てモルダーもリラックスした表情を
真剣なものに変えた。
スキナーがそっとモルダーに近づいてささやいた。
「おめでとう、モルダー。しっかりやれよ、でないとケツをケッとばすぞ。」
モルダーがうなずくと、スキナーはマギーの横の席に着いた。
マギーに抱かれていたウィリアムが“ウォリーおじちゃん”に近づこうとして、体をじたばた
動かした。
「ママ、きれえ！」
「ああ、きれいだとも。」
スキナーがウィルに微笑んで答えた。
その隣では、フロヒキーが涙を拭いていた。
スカリーのウェディングドレス姿に感動したように、周りに恥ずかしがることもなく涙を拭き、
マギーがティッシュを渡すと音を立てて鼻をかんだ。
マキュー神父は咳払いし、列席者達の注意を祭壇の方にひきつけた。
「ようこそダナ、フォックス。そしてご列席の皆さん。本日こうしてフォックス・モルダーと
ダナ・スカリーの結婚を共に祝えることを、大変嬉しく思います。それでは式を始める前に、
主に祈りを捧げましょう。
“神よ、あなたは夫婦の絆を清く尊いものとし、神の御子イエス・キリストを通じて、精霊との
交わりとの中に、結婚をキリストと教会の一致の象徴となさいました。慈しみ深い神よ、
どうかこの二人の上にあなたの祝福のあらん事を。”アーメン。」
「アーメン。」
「お座り下さい。」
「皆さん、私たちがこうして神と大衆の前に集ったのは、この男女を夫婦とするため、すなわち人
未だ罪をおかさざる前に、神が定めし聖なる絆を彼らに結ばせ給うのです。」
神父は2列目の席に座っているラングリーに顔を向けた。
「Mr.ラングリー、準備がよろしかったら聖書の朗読と、祝辞をお願いいたします。」
ラングリーは何枚かの原稿を手に握りしめて、バネ仕掛けのように立ち上がり、演壇へまっすぐ
近づいていったが、演壇の上に原稿を置くと、緊張で焦ったように原稿を何度もガサガサ言わせて
かき回した。
「がんばれ、ラングリー。」
フロヒキーがぼそっとつぶやいた。
「用意できました。」
ラングリーはとうとう原稿を順番通りに直すと、神父に向かって答えた。
「今僕は、国防省のネットワークにハッキングした時みたいな気持ちです。その時に学んだのは、
“何事も焦るな”ということです。」
-X-X-X-X-X-X-
Part5：LANGLY'S STORY
By David Herne
俺は口を開けて、まず俺のバイブルの言葉を読み上げた。
「“神は俺達を投げ捨てるのか？もうお前の微笑みはこれきりなのか？”」
頭の中で、ハードロックの神様、レミー・キルミスターがこの歌詞をステージで吠えるように
歌い叫んでいる姿がよみがえった。
「“二千年の間、人間は神の名の下に拷問され続けた。偽善が最高の価値となり、妄想狂が法を
作った。それを神と呼んできた、サディスティックな野郎達。”」
レミーの父親は牧師だったな、俺の家は農家だけど。
でも俺達は同じ信仰を持ってるぜ。
俺は教会に行ってた子供のとき、周りで目をつぶって祈ってる人たちを見てこう思ったものだ。
“神の奴隷たちめ。神がここにいるなんて、本当に思ってるのか？俺には牧師が大声を出して
自己陶酔してるようにしか見えないぜ。これ以上説教を続けやがったら、牧師が大事そうに
しまってる絵皿コレクションの上に吐いてやる。”
それから俺は家を出た。
家から出てまず良かったことは、もう教会に行って説教を聞かないで済むことだった。
不毛のオクラホマでこんな事を考えてたのは俺だけじゃなかった。
俺は同じようにして家を出てきたアウトサイダーたちと合流した。
でもあいつらの考え方も、俺をうんざりさせるだけだった。
第一あいつらは悪魔を崇拝していた。
知ってるだろ？真っ黒な服に真っ黒な髪に、真っ黒な爪をした連中だよ。
アレスタ・クロウリーの書いた魔術書を信じて、まるで中世にいるような生活をしていた。
俺は仏教徒の連中も知ってる。
彼らはブッダの教えは“無限の情”だと信じていた。彼らになら今でも会いたい。
会って、ダライ・ラマがCIAに対してとった態度や人間嫌いについて尋ねてみたい。
まあ、そんな経験をいろいろして、俺は無神論者になったんだ。
つまり若いとき信仰を持って生きることに興味がなかったんだな。
神になりたいと思ったことはあったけど。
ある時ダンジョン＆ドラゴンというRPGゲームのコンテストがあった。
その時俺は自分の手で、想像力で世界を一からゲームの中で作り上げたような気分になった。
あの時の気分は最高だった。もっとこの快感を続けていたいと思った。
それで俺はコンピューターに夢中になったんだ。
キーボードの上に手を置いてIBMのモニターが点くと、まるで懐かしい我が家に帰ってきたみたいな
気分になる。
この中では俺が全てを決め、全てを俺が支配できていた。
モニターの中の世界では、ただの農家の息子が自分の王国を作れる場所だった。
ダンジョン＆ドラゴンがなくても、俺はやっぱりコンピューターに夢中になってたかもしれないな。
よく親父に口答えしたもんだ。
「これからはコンピューターの時代だ！」ってな。
やっぱり俺は正しかった。
でも俺はコンピューターを利用して、ビル・ゲイツみたいになりたいわけじゃなかった。
俺はただ世界中のコンピューターをフリーケーブルでつないで、自由に遊んでいたいだけだった。
例え俺の王国が無くても。
そこで俺は考えた。
俺の王国が持てないなら、他人が持ってる王国を少しずつかじってやろうってな。
そうすればいつかそいつの王国は、自分のものになる。
俺は神じゃないけど、他人のPCシステムに忍び込み、とっておきの秘密をひったくる悪魔に
なれたってわけだ。
まあ、そう驚くなよ。
これはただ一つの考えなんだ。
いつもの俺はTVゲームでモンスターを倒し、黙示録を読んでるただの男さ。
さて、今俺がなすべき事をしちまおう。
さっきのはちょっとした前座ってやつだ。
さっきの言葉でぶっ飛んだみんながこれから感動で泣き、喝采を送るような言葉を読もう。
今日俺は、ここで聖書の詩編を読む重要な役目なんだ。さあ行くぞ。
「“私の声を聞きたまえ、神よ。敵に怯える恐怖から私を守りたまえ。罪深い言葉から我が身を
守りたまえ・・・”」
聖書の詩篇はこうしたスピーチの始まりにふさわしい言葉だ。
俺のスピーチはスムーズに始まったが、原稿の中はあらゆる言葉でごった返していた。
とにかくいろいろなところから気の利いた言葉を抜き出して、書き留めていた。
聖書からだけでなく、シェイクスピア、ダンテ、プラトン、その他大物詩人達の残した言葉だ。
俺は何時間もかけてインターネットライブラリから、愛と神をたたえる言葉を探し出した。
その結果、これまで俺が見たこともないような言葉が集まった。
俺が素晴らしいと思う言葉はいつもロックの世界にあったが、驚いたことに既に死んだ詩人や
哲学者の言った言葉は、思っていたよりクールだった。
おい、フロヒキーは気が短いな。
しかめっつらでベンチの上で腰をもぞもぞさせて、膝の上のウィルを揺らしてやがる。
それに周りの雰囲気を読め、と俺に合図してやがる。
出席者達の顔を見ると、確かにみんな浮かない顔だ。
ハゲた親父は静だがしかめっ面で俺をにらんでる。
あそこの新顔は確かXFで新しく働いている捜査官だな、名前は確かモニカ・・・何て名前だったかな。
モニカは爪をいじくっている。
スカリーの母親も俺をじっと見てる。
新郎と新婦も眉をひそめている。
ああ、バイヤースがいてくれたらな。
あいつだったらきっといいスピーチができただろうに。
なんであいつはスザンヌのとこなんかに行っちまったんだ？
バイヤース、助けてくれよ。
お前は俺が知ってる中で、一番クールな男なんだよ。
ローンガンメンはお前なしじゃ成り立たないんだぞ。
なのに何で友達を捨てて、スザンヌみたいな女のもとから帰ってこないんだよ。
まあな・・・あいつはスザンヌを愛してるからな。
俺だって今目の前に座ってるみんなを愛してるよ。
俺は握ってた原稿を演台の上に置くと、手を後ろで組んで背筋を伸ばした。
「今日僕がスピーチすることは、大した意味はないと思います・・・つまり、今日のような日は、
他と比べようがないほど素晴らしいことだからです。長い間この日が来ることを待って、ローンガン
メンは、二人が結婚式をするかしないか賭をしました。掛け金は長い間にたくさんたまりました。」
「賭は誰が勝ったんだ？」
モルダーが笑いながら尋ねた。
俺はフロヒキーの方に顔を向けた。
フロヒキーは『もういい加減にやめろ』という顔をして俺をにらんでいた。
俺もそんな気がした。俺にはスピーチなんて大役は務まらないんだよ。
俺はメガネを取って目をこすった。
「まあ、それは言わない方がいいな。」
モルダーにささやいて、俺は演壇に向き直った。
「僕たちはこの二人が完璧なカップルだとわかっていました。完璧に支え合ってる二人だと
わかってました。今ここにいる皆さんも、それはわかってると思います。僕は今日のために
たくさんの詩や言葉を探しましたが、ぴったりな言葉を見つけられませんでした。
俺はそんな知的な人間じゃないから・・・それにどんな詩の言葉も二人がつかんだ幸せを形容
できないし、それに何を言おうと、二人の幸せに影響しないと思います。二人がつかんだのは、
そこらにあるようなヤワな幸せじゃない、そうでしょう？」
出席者達は皆顔を上げて、俺が続けるのを待った。
俺は一分近く黙って考えて、胸の中に持ってる正直な答えを探そうとした。
「ですが・・・この結婚式は、モルダーとスカリーの二人だけのためにあるんじゃないんです。
僕のためでもありました。友人のフロヒキーのため、そこにいるウィルのため、ミセス・スカリー
のため、マキュー神父のため、それにレイス・・・」
「レイヤス。」
新顔が訂正した。
「あ、すみません、レイヤス。それにあなたは？スキナー。二人に結婚式を挙げてほしかった
ですか？」
「どんなことよりもだ。」
彼はまるで海軍士官のような、むっつりとした低い声で答えた。
「僕もです。みんな一同に集まって、二人の幸せを祝福したかった。その夢が叶ったんです。
これ以上何の喜びがあるんでしょうか。今日ここで、僕たちみんなで二人を祝福できたことは、
僕たちにとって最高の幸せだと信じています。」
俺はモルダーとスカリーの方にまっすぐに体を向けた。
「幸せになってくれ、二人とも・・・二人にはそれだけの権利がある。世界中がお前達二人が
幸せになるのを願ってるんだから。」
モルダーは驚きと喜びが一緒になったような表情で俺を見つめた。
多分俺がこんなノーマルなことを言える人間だとは思ってなかったんだろう。
俺だってビックリだよ。
スカリーの唇が俺に向かって「Thank you」と動いた。
俺はうなずいて、大きく息をついて演壇に向き直った。
「以上です。ありがとうございました。」
自分の席に戻る途中、フロヒキーの前を通った。
「よくやったな、ヒッピー。」
「ありがとよ、ドワーフ。」
-X-X-X-X-X-X-
「Mr.ラングリー、ありがとうございました。あなたが伝えてくださった詩や言葉はとても・・・
刺激的でした。」
マキュー神父はそう言うと、説教を始める前にラングリーが席に着くのを静に待った。
彼は聖書を閉じたまま両手で持っていた。
これから言う言葉は、まるで彼の心の中から浮かんでくるようだった。
「夫婦の聖なる絆。それは神によって定められたものです。その愛に満ちた強い絆の上で、
幸福で健全なる家庭により社会が築かれているということを、我々は忘れてはなりません。」
マキュー神父は優しい微笑みを見せ、列席者の面々に注意を払った。
出席者達はじっと動かずに耳を澄まし、彼の声に耳を傾けていた。
しかしこの席で一番熱心に耳を傾けていたのは、おそらく新郎と新婦だろう。
「長い間ダナとフォックスには試練が課せられてきました。二人は社会の安全や他人の幸せのために
自らを尽くし、自分たちの普通の生活や幸せをずっと後回しにしてきました。」
二人の瞳に過去の思い出が悲しい影となって瞳によみがえり、その表情を見た神父の胸にも、
二人のこれまで受けた痛みがわずかながらも伝わった。
しかし今日の喜びの式典は、決して二人が失ってきたことを慰めたり、償ったりするために
開かれたのではないのだ。
二人が乗り越えてきた喜びにこそ、今日の意味があるのだ。
神父は顎をあげて気を引き締めた。
「フォックスとダナは、耐えるべき愛の強さを、私たちに教えてくれました。」
神父はそう言うと、フォックスモルダーとダナ・スカリーを結ぶ言葉・・・聖書の中の、
『コリント人への第一の手紙第13章』を暗唱した。
「“愛は寛容であり、愛は情け深い。また、ねたむことをしない。
愛は高ぶらない、誇らない。
そして、愛はすべてを忍び、すべてを望み、すべてを信じ、すべてを耐える。
愛はいつまでも絶えることがない。”」
出席者達は皆うなずいた。
ラングリーの隣に座っていたモニカ・レイヤスの瞳は涙で光っていた。
彼女はハンカチで涙を拭くこともなく、頬に涙が流れるままにした。
-X-X-X-X-X-X-
Part6：REYES'S STORY
By Brandon D. Ray
モルダーとスカリーがこの日を迎えるのは、当然の権利だわ。
私は出席者達の顔を見回した。
みんなも私以上に、二人の幸せを願ってたような表情をしてる。
今ラングリーが演壇で何かスピーチしてるけど、たとえよく聞いてみても、何を言ってるんだか
ちっとも意味が分からないわね。
でも別にかまわないわ。
重要なのは、ラングリーは二人の友人で、言葉は下手でも二人の幸せを心から祝福してる
って事だもの。
彼が何とかそう言葉にしようと一生懸命なのは、とても良く伝わってくるわ。
私は頭を振って反射的にタバコに手を伸ばし、気が付いてすぐ手を引っ込めた。
もちろん教会の中では禁煙ね。
でも我慢できない。
フロヒキーや出席者全員に断ってでも、今すぐマルボロを吸いたい。
でも、今ここではダメよ。
気分を変えようと、フロヒキーの膝の上でワンパクにはねてるウィルの顔をじっと見つめた。
ウィルは本当にかわいい子だわ。
でもこの子の存在は、私たちに何と戦うべきか・・・どんな未来と戦わなければならないかを
思い出させる。
でも目を閉じれば、この子が私たちの望んでいる未来の世界で、父親に似て背が高く、強く誇り
高い大人に成長する姿を見ることができるわ。
私はそんなにたくさんの時間をウィルと過ごした訳じゃないけど、この子が産まれる瞬間に
立ち会った。
でも思い出すと恐ろしい。
ダナがウィルを産むとき、大勢のレプリカントたちが彼女を取り囲んでその時を待っていた。
そしてついに・・・そうよ、ダナとモルダーに素晴らしくかわいい男の子の赤ちゃんが神から
贈られたのよ。
〈でも・・・〉
ここまで考えたとき、私の頭の中が気持ちとは反対のことを想像し始めた。
ええ。目をつぶれば、ウィルが大人になった姿が見えるわ。
でも今私が想像したのは、最強兵士として成長した彼の姿。
エイリアン達が侵攻してきた時のために、運命を定められた彼の姿。
エイリアン達を迎え撃ち、徹底的に反撃して、奴らを自分の星に追い返してやる役目。
でも私にはわからない。
そんなことをして何になるの？
たとえ奴らを一度や二度追い返したって、きっとまたいつかやってくるわ。
私たちはそんなことを繰り返すの？
いつも用心深く空を見上げて、エイリアン達が再びやってくるのを怖れて暮らしていくのかしら。
ええ、おかしいわ。
兵士を作って戦うなんて、いつまでも終わりのないことなのよ。
彼は兵士にはならないわ。
ウィルだけじゃない。
これから産まれて育っていく子供たちみんなそうよ。
古い世代が考える、先が見えない戦いじゃなく、他の方法を考えられる人間に成長するのよ。
犠牲を高らかに主張するようなことを無くしていくんだわ。
私はそのためになら、いくらでも戦う。
ジョンも結婚式に出席して、隣に座ってくれれば良かったのに。
今頃ジョンは任務を遂行中ね。
死んでしまったりしてないかしら。
いいえ・・・私には感じる。
わかるわ。
口ではうまく説明できないけど、彼が無事に任務を遂行してることを、私の心がキャッチしてる。
心の深いところから、それが信じていいことだとささやいてるのよ。
もし彼がここにいてくれたら、一体彼が何を思うか考えた。
でも答えは簡単ね、わざわざ彼に聞かなくても分かるわ。
きっとダナを祝福したわ。
きっとジョンは二人を祝福したわ。
ジョンは・・・とても思いやりのある男だから。
それに最近では本当に見かけないタイプの紳士だから。
もし彼がここにいたら、きっと優しげで友情にあふれた握手をモルダーと交わし、ダナの頬に
キスして、心からの祝福を贈ったことだろう。
でもきっと心の中では痛みを感じているはずだわ。
私は彼の前妻のパトリシアよりもよく彼のことを知っている。
初めてジョンがダナと一緒にいるのを見たときから、ジョンがダナに思いを抱いているのが私には
わかった。
彼のまなざしや、話しかけるときの声、肩の雰囲気からその想いが伝わってきていた。
ジョンは彼女のことが好きだったのよ。
でもダナの気持ちがどこにあるかも、もちろんジョンはよくわかってた。
彼女の心の中はどんなところにも隙間なく、たった一人の男、モルダーだけしか住んでいなかった。
モルダーの死体が発見されて、埋葬されていた間でさえも、ジョンも、スキナーも、フロヒキー
でさえもダナのそばに近寄ることはできず、ダナは心の中でモルダーと話していた。
モルダーが復活すると、さらに誰も間に入れなくなった。
私がデューク事件でD.C.に行ったとき、ダナの心が落ち着いて、方向付けができたように感じられた。
ジョンが想えば想うほど、それは自分を傷つけるだけだったわ。
でもジョンはもっと大きな人間なのよ。
彼は私が知ってる中で、きっと最も素晴らしい人間だわ。
たとえ傷ついても、それに負けない人間よ。
だからやっと結ばれた二人を見て・・・二人の喜びをきっと自分のことのように喜んで、
幸せを分かち合ったはずだわ。
彼がここにいたら、きっとそうしてる。
私は自信を持って言えるわ。
-X-X-X-X-X-X-
「ダナ、そしてフォックス。」
神父はスカリーとモルダーの顔をそれぞれ見た。
「神はあなた方に祝福を与えることでしょう。神は既にあなた方に洗礼を施し、あなた方の愛の強さ
をご存じのことと思います。ですが結婚は、絶えることなくお互いに愛情と、誠実さを捧げねばなり
ません。ゆえに結婚という厳粛な行為は、熟慮の上に慎みて行わなければなりません。
それでは、神と私たち一同の前で、夫婦としての誓いを述べていただきます。」
列席者達は一斉に立ち上がった。
スキナーはあごを上げ、胸を張って姿勢を整え、マギーの瞳は涙で輝いていた。
レイヤスとラングリーは微笑み、フロヒキーはウィリアムを高く抱き上げ、神父の前で両親が誓いを
交わすところをしっかり見られるようにした。
「フォックス・ウィリアム・モルダー。あなたは厳粛かつ一点の曇りもない心で、ダナ・キャサリン・
スカリーを正式な妻とし、変わらぬ愛と誠実を誓いますか？」
「誓います。」
「ダナ・キャサリン・スカリー。あなたは厳粛かつ一点の曇りもない心で、フォックス・ウィリアム・
モルダーを正式な夫とし、変わらぬ愛と誠実を誓いますか？」
「誓います。」
「フォックス・ウィリアム・モルダーと、ダナ・キャサリン・スカリーは、キリストと教会の名に
おいて、神から授かった子を愛することを誓いますか？」
モルダーはスカリーを見つめて、ウィリアムにまなざしを移した。
ウィルはまじめな顔をして父親を見つめていた。
その大きな蒼い瞳はスカリーによく似ていて、モルダーは愛しさで胸が締め付けられた。
「はい、誓います。」
「誓います。」
「それではお互いの右手をつなぎ、神と教会の前で、自らの結婚の宣言をしてください。」
-X-X-X-X-X-X-
Part7:MaCUE'S STORY
By CindyET
2週間前私はダナのアパートへ行き、ダナとフォックスと三人で、結婚式での宣誓の言葉を
決めるために話し合った。
「“死が二人を分かつまで・・・”これは僕たちにはあてはまりません、神父様。」
フォックスが宣誓の文章を見て言った。
「あ・・・少なくとも、僕は死んでもダナのそばにいると思います。」
私は微笑んで彼に同意した。
「これはあくまで伝統的な言い回しにすぎないから、特に従わなければならないというわけでは
ありません、フォックス。式では君自身で選んだ言葉で宣誓しなさい。」
「聞いたかい？スカリー。こんなのはどうだい？“僕を突き倒して踏んづけてもかまわない、
でもマイ・ハニー・・・”」
「エルヴィスの曲の歌詞なんてダメよ。」
「でも神父様は自分で選んでいいって・・・」
「ダメ。」
「じゃあ、“All Shook Up”と“I promise to obey”の歌詞をまぜて・・・」
「ダメ。」
私たちは話題をフォックスの信仰について移した。
フォックスは信者でないため、カトリック教会で式を挙げる場合は事前に地区の司教に結婚の申請を
する必要があった。
そのため二、三の質問に、教会側が満足するような答えをしてもらわなければならなかった。
「フォックス、あなたはカトリック教会で結婚式を行う心構えはできていますか？」
「もうずっと前からできています。」
フォックスはダナに微笑みかけて答えた。
「ダナ、あなたはこの結婚で、夫と子供に神の教えを伝えなければならない義務が与えられます。
それができますか？」
「はい、神父様。」
彼女の答えに私は満足した。
ダナはすでにウィリアムの洗礼を教会から受けており、彼女が教会に来るたびにウィルもつれて
きている。
彼女が来れないときは、マギーがウィルを抱いて礼拝に来ていた。
何の問題もない。
私は二人の答えと裏付ける行動に満足し、今度は式の場所を決める質問をした。
「さて、それで式はどの教会で行いたいかね？」
「ST.John教会で。他に考えられません。」
ダナがきっぱりと答えた。
「ST.Johnかね、しかしあそこは・・・」
私はダナの申し入れを受け入れるべきか迷った。
私が15年間教えてきたその教会は、以前のような姿ではなくなってしまっていた。
先月放火により、一部が火事になってしまったのだった。
「神は裏切り者だ！」
あの夜信仰を失った者たちが、叫びながらガソリンの入ったボトルを屋根に投げつけた。
その者たちの目は信じたばかりに裏切られたと思いこんでいる、怒りと悲しみに満ちた表情だった。
私は教会の屋根が燃えるのを呆然として眺めていた。
私の人生で初めての絶望だった。
私は神に見放されたように孤独を感じ、突然怒りが炎のように燃え上がって、心の中をむさぼり
食おうとした。
そして同時に、自分がこれまで信者達に教えてきたことはウソだったのではないかと疑い始めた。
信じたばかりに、愛を、恵みを、助けを求めて得られなかった哀れな者たち。
私の頭の中に、半年前に謎のウィルスによって亡くなったオルガニスト、フラニー・オニールの
ことが甦った。
地球上にはないはずのウィルスが、彼女の体を蝕んだ。
地球上にないはずなら、一体何が、誰が作り出したというのだろうか。
私は神がどうしてこんな事をお許しになっているのかわからなかった。
神の使いを務めている私でさえ、神の御心がはかれなかった。
良いときは「神のお恵み」、悪いときは「神の試練」・・・。
私たちが苦しみや悲しみに打ちひしがれているとき、私を含め、聖職者達はそう励まそうとしてきた。
しかし実際はどうなのだろう？苦しんでいる間、私たちはわずかな希望を分かち合い、祈りを捧げて
いるというのに、神の偉大なる計画の中で、あっさりと命を奪われてしまうときがある。
〈神よ、なぜ愛する人々が傷つけられるのを、黙って見ていることができるのです？
なぜ罪のない人々が苦しみ、死んでいくのを見ていられるのですか？
フラニーが亡くなった原因のウィルスが、フォックスとダナたちが言うようにエイリアン達によって
もたらされたものならば、なぜその者たちを罰しないのですか？
そもそもエイリアンとは何者ですか？
一体どこからやってきたんですか？地獄から？
それとも神御自らの手で作られたのですか？
私がこの世に産まれて役目を果たしていることと同様に、その者たちも意味があって作られたという
のでしょうか？
一体その者たちとの間に、どんな和解のシナリオを用意されているというのでしょう。
神は本当にいらっしゃるのでしょうか？
神への不満と怒りが、人々に教会に火をつけるような行動に駆り立ててしまったのです。〉
しかし私にできるのは、彼らの代わりに神に祈りを捧げることだけだった。
どうしても祈りを捧げずにはいられなかった。
信じること意外に、どうやって神を見いだす方法があるのかわからなかった。
神よ、どうかこの者たちの罪をお許し下さい。
神よ、どうかお許し下さい。
神よ、どうか・・・
空から雨粒が降ってきた。
静かに降り出した雨は、すぐどしゃぶりの雨に変わった。
2月の寒い空からみぞれ混じりの冷たい雨が、燃えている屋根をたたきつけ、集まった人々が雨を
よけるために散らばった。
しばらくの間、私は雨に打たれて立っていた。
数日後、燃えてしまった部分のがれきや灰の下から、
私たちは信者席やベンチを引っ張り起こす作業を始めた。
「お手伝いさせてください、神父様。」
多くの人々がボランティアとして、教会の修復を手伝ってくれた。
「大仕事だ。」
2月の冷たい風が、屋根を失った教会に吹き込む中での作業だった。
「足下に気をつけて」
私が教会の入り口のドアに近づくと助手が呼びかけた。
割れたガラスが足の下で、音を立てて細かく割れた。
ドアを開けると、水をかぶってしまったパイプオルガンが朝日を浴びて、変わらず厳粛で美しい姿の
ままあった。
その瞬間、風に乗って荘厳なオルガンの音色が私の耳をかすめた。
気のせいかと思ったが、続いて第2、第3の調べが講堂の中を荘厳な音色で輝かせた。
「聞こえました？神父様！誰かがオルガンを弾いてますよ！」
助手はすすで黒くなった顔に満面の笑みを浮かべて叫んだ。
繊細なオルガンが、水をかぶった後再び音を出すのは不可能に近かった。
しかし大きなパイプからは聞き間違えるはずのない、美しい賛美歌のメロディが流れていた。
「風のせいでしょうか。」
ボランティアの一人が困惑して私に尋ねた。
ひょっとしたらそうかもしれない。
パイプに直接風が入り、音を出しただけなのかもしれない。
しかし・・・そう考えるには、あまりに音色は正確だった。
「“My heart ever faithful・・・”」
助手がオルガンの音色に合わせて歌い出した。
助手だけでなく、その場にいた者たちが皆手を休め、立ち上がって耳を澄ませた。
私は演奏者席に、フラニー・オニールが座ってないか目をこらした。
いないことはわかりきっていたが、オルガンの音色はまるで彼女が、日曜のミサごとに奏でる
ものとそっくりだったのだ。
私は目をつぶり、ウィルスに冒されたフラニーの最後を、病院でみとったことを思い出した。
“My heart ever faithful, Sing praises, be joyful,
Sing praises, be joyful, Thy Jesusu is here・・・”
ボランティア達が講堂の中に集まり、皆で歌い始めた。
私たちの目の前で、奇跡が起きているのだ。
今、神が私たちに語りかけてくれている。
私の凍った心は、涙と共に熱くとけていった。
それが神が私たちに聞かせてくれた、ST.John教会のパイプオルガンの、最後の調べだった。
きっとこの話を信じない者も多いだろう。
私があまりに神の声を聞きたかったばかりに、風の音をオルガンの音と間違えただけだと
指摘する者も多いだろう。
しかしここで私の心の中に、しっかりと神の声が受け止められたのだ。
人は生き、人は死に、
人は苦しみ、人は幸せをつかむ。
私たちは神の命令から逃れることはできないが、神はいつもそばにいて下さる。
私たちを支配しているのではなく、一緒に苦しみ、一緒に喜んでくださる。
神は私たちが産まれたときから、いつも見つめていてくださる。
私たちの限られた命が果てるまで、ともにそばで、その者の人生が愛にあふれたものになるよう
導いてくださるのだ。
ST.John教会の屋根は消失した。
しかし今、ここにいる人々の手によって、さらに強く、さらに美しく作り直そうとしている。
空から見ればちっぽけにしか見えない人間かもしれないが、私たちはけっして弱くない。
幸せと愛を求めて、力強く生きている。
人間にそうした生き方を教えてくださったのが、神なのだ。
今日、私は修理されたST.John教会の祭壇の上に立ち、フォックスとダナの結婚式を執り行っている。
今日は希望の門出であり、二人の愛を証明する日であり、奇跡を証明する日であるのだ。
私は教会の窓に目をやった。
真っ青な空の下で、小さな芽を吹き出した木の枝が3月の風に揺れていた。
小鳥の聖歌隊達がこの素晴らしい日を、一緒に喜ぶようにさえずっていた。
-X-X-X-X-X-X-
モルダーはスカリーの手を右手で包み込んだ。
静まりかえった中でモルダーは一度咳払いし、自らの誓いの言葉を宣誓した。
「ダナ・キャサリン・スカリー」
モルダーは手に力を込めた。
「君は、僕の人生に規則正しさと常識を教えてくれ、僕の足を地に着かせてくれました。
何度も何度も僕は君に頼り、いつも君は僕の心の礎でした。
君はいつも僕を信頼し、忠実に、誠実に僕を支え続けてきてくれました。
君と出会ったおかげで、僕はまともな人間になれました。
君がいれば、僕はどんなことにも耐えられる。
君がいれば、僕は強く自信を持って生きていける。
今日、神と、ここに列席された方々の前で僕は誓います。
僕はいつも君の隣にいます。
そして永遠に僕の全てを捧げます。
もし君がいなくなるようなことがあっても、僕はどんな山も越えて、地の果てまでも探し出して、
絶対に君を取り戻してみせます。
君への愛は銀河にちりばめられた星の数より多く、僕は永遠に光を降り注ぎます。
君は僕たちが選んで探し求めた真実そのものの存在です。
僕の一生のパートナーとして、僕の恋人として、僕の親友として、永遠に僕と一緒に
歩き続けてほしい。
僕は永遠に君のものだ。」
スカリーはモルダーの言葉で緊張がなくなり、愛と尊敬で輝いた瞳で彼を見つめ返して微笑んだ。
「フォックス・ウィリアム・モルダー、あなたは私の人生に驚きをもたらしてくれました。
私に可能性の目を開かせてくれました。
私が証明できないようなことに当たるたびに、あなたはいつも助けてくれて理解させてくれました。
あなたは信じることの大切さと勇気を教えてくれました。
今日、神と、ここに列席された方々の前で私は誓います。
私は一生をあなたのパートナーとして、恋人として、そして親友として生きていくことを誓います。
幸せなときも、健康なときも、成功したときも、ずっとあなたとともにあります。
悲しいときも、病めるときも、失敗したときも、ずっとあなたとともにあります。
私たちが選んだ道を、ずっとあなたと歩んでいきます。
私はいつもあなたが休めるよう肩を差し出し、憩いの場所にもなるでしょう。
永遠に私の全てを捧げます。
これからどんなことが起ころうとも、あなたは私の愛そのものです。
永遠に私の心にはあなたが住み続け、あなたの心にも私が住み続けるでしょう。」
出席者達の間から涙を流し、鼻をすする音があちこちから聞こえた。
神父も目を赤くして二人に微笑んだ。
「神もこの宣誓に祝福を持って同意するでしょう。神は二人を一つの魂に結びたまわれました。
もはや二人を離せるものはありません。慈悲深い神よ、これからの二人に祝福のあらん事を。
アーメン。」
「アーメン。」
出席者達も声をそろえて祈った。
ビルはジャケットのポケットから二つの結婚指輪を取りだし、マキュー神父の聖書の上にそっと
置いた。
神父は目をつぶって、その上で十字を切った。
「この指輪は神の祝福を受けた愛のしるし、貞節のしるし。この指輪で汝と結ばれ、この日より
二人は永遠に一つとなる。」
モルダーは二つの指輪のうち小さい方を取り、スカリーの指にそっとすべらせてささやいた。
「この指輪は僕の愛のしるし、貞節のしるし。僕のすべてを込めて。」
彼の声は愛情にあふれ、低く優しく響いた。
スカリーはもう一つの指輪を取り、モルダーの指にそっとはめた。
「この指輪は私の愛のしるし、貞節のしるし、私のすべてを込めて。神と子と精霊の御名において。
アーメン。」
「アーメン。」
神父は続けて二人をユニティ・キャンドルの方へ導いた。
スカリーはモルダーの腕を取り、キャンドルテーブルの方へゆっくり移動した。
二人はそれぞれ火の点いてる小さなキャンドルのホルダーを持ち、大きなキャンドルの方へ近づき、
同時にキャンドルへ火を近づけた。
キャンドルのろうが数滴落ち、二人が点けたユニティ・キャンドルは大きく、明るい光を辺りに
放った。
二人が祭壇の前に戻ると、神父は大きな声で式の最後の祈りを捧げた。
「フォックス、ダナ、今日ここであなた方は神聖な誓約を行いました。私は神の名と、ヴァージニア
州法において、二人を正式な夫婦となったことをここに宣言致します。あなた方二人はこれから一つ
です。愛を惜しみなく分け与え、幸せな家庭を築いてください。全能の神よ、この夫婦に祝福をあれ。アーメン。」
「アーメン。」
ウィリアムがフロヒキーの腕の中で、自由に動こうとして手をバタバタさせた。
「アーメンアーメンアーメンアーメン！」
モルダーが唇に指をあてて息子に振り向いた。
ウィリアムがその仕草をまねして、「シーッ」とささやいた。
「もうすぐですよ。」
神父はウィリアムと他の列席者たちに微笑みかけ、もう一度慈愛に満ちた瞳で二人を見つめた。
「フォックス・モルダー、花嫁にキスを。」
「やっとだ。」
モルダーは笑ってスカリーのヴェールを上げてダナにかがみこんだ。
二人の友人、家族、そして神の前で、二人はくちづけを交わした。
「ヤットダ！」
ウィリアムがまねをして声を上げた。
「みて！」
ウィリアムは手をたたいて指差した。
「パパとママはミーゴだよ！」
End
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