DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : Fumbling Towards Ecstasy

作：Jenna Tooms　　訳:tomo

11　-　Fear

“この孤独な場所で
　何も与えることも得ることもなく
　ただ多くのものをなくすだけだった
　僕は怖い
　そんな僕を君は抱きしめてくれるだろうか”


1.

スカリーは僕の胸から顔を上げ、じっと僕を見つめた。
「何なの？モルダー。」
彼女の手がそっと僕の胸をなぞった。
僕は手を取って優しく口づけ、手のひらを親指でゆっくりさすった。
スカリーの表情には、僕への愛と信頼がにじみ出ていた。とても純粋で、優しい表情だった。

「君を愛してる。」
スカリーの口元がほころんで、優しい笑みが広がった。
「ええ、わかってるわ、モルダー。」
「君の幸せだけが望みだ。」
スカリーの笑みがさらに広がって、顔を上げて僕にキスした。
「ええ、モルダー。私もあなたの幸せだけが望みよ。」

「・・・スカリー、子供について、君はどう思ってる？」
スカリーはこんな質問をされるとは全く思ってなかったように、少し僕から身を引いた。
「子供って？」
「ああ。前に僕たちは子供の話をしたけど、その時は真面目に話してなかったろう？」
「ええ、覚えてるわ。“モルダー家の遺伝子はサンプルになるくらい正常”なんでしょう？
でも、そんなに単純に行かないのよ。私にとってはね・・・」
スカリーは言葉を切って深いため息を付いた。
「最近分かったことだけど、卵巣が治療で使った放射線のダメージを受けてしまったの・・・
私は妊娠できないのよ、モルダー。」
僕は両手でスカリーの顔を包み、深く口づけた。
「知ってるよ、スカリー。」
「知ってる？なぜ知ってるの？」
「君が不妊になったのはガン治療のためじゃない。スカリー、実は僕が見て、知ったことで、
まだ君に言ってないことがあるんだ。去年行ったアレンタウンの病院のことは覚えてるかい？」
スカリーは眉を曇らせた。
「覚えてるわ。」
「不妊治療の研究所で、僕はカート・クロフォードに会ったんだ。」
「ええ、それはあなたが話してくれたわね。」
「まだ話してないことがあるんだ。」
「OK・・・わかったわ、話して。」
スカリーは用心深い表情をした。
僕は深いため息をついて、とうとう話し出した。

「君が誘拐されたとき・・・同じようにアレンタウンの女性達も誘拐され、高い放射線で卵巣から
全ての卵子を排出させられたんだ。・・・君も同じ事をされたんだよ。」
スカリーの瞳は恐怖で見開き、僕の手をぎゅっと握った。
まだスカリーに話さなければならない。

〈神よ、力を貸してください。〉

「以前僕はペンタゴンの中で見たんだ。同じ顔をした女性が・・・タンクの中で培養されていた。」
「なんてこと・・・。」
「スカリー、奴らは一体どこから遺伝細胞を持ってきたんだと思う？」
「誘拐された女性達ね。」
スカリーは不安げに僕の胸に頬を乗せた。

「モルダー・・・それでカート・クロフォードは皆似てたのね。では彼も私の子供である可能性が
あるのね。」
「可能性は否めない。彼は・・・クローンは・・・誘拐された女性達が彼らの母親だと言っていた。
君もその中に含まれているんだよ。」
「モルダー・・・。」
スカリーの爪が僕の手に食い込んだ。
「僕は研究所でクローン以上のものを見つけたんだ。」
スカリーは顔に恐怖の色を浮かべて僕を見た。
「何なの？モルダー。」
「保管装置だ。大量の卵子が中にラベルを付けられて保管されていたんだ。」
スカリーは息を止めて僕を見つめた。
もう後戻りはできない。
「僕は1つのケース管を持ち出した。スカリー、君の卵子が入っているものだ。今アーリントンの
産婦人科病院で、“キャサリン・ヘール”という名前で保管してもらってる。スカリー、卵子は
全て健康で、何のダメージも受けていないそうなんだ。医学の力を少し借りるだけで、いつでも
健康な子供を持てるんだよ。」

長い間スカリーは動かずにずっと僕を見つめていた。
しかし、信じられないと言うように頭を振り、僕から体を離してベッドから降りて、僕が脱い
だシャツをはおった。
彼女の体も、唇も震えて顔色はひどく青ざめてしまっていた。
僕はその表情を見て、口がきけなくなってなってしまった。

とうとうスカリーは僕に向き直り、冷静な声で話した。
「モルダー、あなたはこのことを1年近くも私に黙っていたの？私がどんなに子供をほしがって
いるか知ってて、それでもこのことを黙り続けていたのね？」
僕はうなずいた。震えてどんな声も出なかった。
「なぜ？モルダー、なぜなの？」
僕はひどく口ごもりながら答えた。
「僕は・・僕は・・それが・・あの時にはそうした方がいいと思ったんだ。君が奴らにされた
ことを・・知ったら・・・それを病気の時に・・知ったら・・・」
「それなら私の病気が治った時に、なぜ言わなかったのよ！」

「わからない。」

スカリーは手を腰に当て、首を振りながらゆっくり話し出した。
「あなたはわからなかったのね、それが私にとってどんなに大切なことかが。あなたが手に持った
ものを、私がどれほど望んでいたかを、あなたはわからなかったのね。」
「違う！スカリー、違うよ！それがどんなに大切なものか、どんなに君が望んでるかわかってたよ。」
「でも黙ってたのね。あきれたわ、モルダー。私は泣いたのよ、どんなに普通の女性として生きて
行けたらって。でもあなたは黙っていたのね。」
「スカリー、お願いだ・・・」
「黙って！5分くらい黙ったらどうなの？あなたの横暴さにはうんざりだわ。自分勝手よ。
エゴイストで、自分のことしか考えてないんだわ。」
スカリーは力を込めて手をぎゅっと握りしめた。

〈僕を殴ってくれ。〉
「私の問題なのよ！私の未来、私の体、私の可能性よ。子供を作る決定は私が決める事よ。あなたに
とめる権利なんてこれっぽちもないはずよ。ただ黙り続けていたなんて、あなたは私から奪っていっ
た奴らと同じよ！」
「スカリー、お願いだ、違うんだよ、お願いだ僕は・・・」
「違うですって？もし私の立場だったらどう思う？モルダー。自分が一番信頼して、愛してた人に
裏切られたら？」
「スカリー！」

スカリーは大股で部屋を横切り、僕の頬を平手打ちした。
「少しは悪いと思ったらどうなの？これくらいじゃきかないのね！」
僕はのどが痛いほど熱くなって、ささやき声しかでなかった。
「僕はそんなつもりで言ったんじゃないんだ。」
「じゃあどういうつもりなの？いいかげんにして！モルダー、最低よ！これは私の体よ、自分で
決めるわ。そんなことで私を支配しようとでも思っていたわけ？」
「君を支配しようなんて絶対に・・・」
「誰にも支配なんてさせないわよ！」
スカリーは怒りで体を震わせていた。これほどまで怒ったスカリーは初めてだ。

「私の顔の前に子供をぶら下げれば、私が飛びついてあなたを愛するとでも思ったの？」
「そんなことは絶対に考えてない。本当だ、スカリー、本当だ。」
「考えてない？頭の中をよぎってもない？あなたは・・・あなたは・・・」
スカリーの瞳から大粒の涙があふれ出し、全身が震えてしまっていたが、スカリーはかまうこと
なく続けた。
「あなたを愛してなかったらどうしてたの？モルダー。もし私が別の人を選んでいても、私に打ち
明けた？」
「スカリー・・・」
「答えて、モルダー。あなたを選んだから、私が母親になれることを言ったんでしょう？」

僕には答えられなかった。本当に答えが分からなかった。

スカリーの声がさらに厳しくなった。
「モルダー、これがあなたの愛し方だというなら、こんな愛ほしくないわ。」

僕は胸を思いきり蹴られたように息ができなくなった。
「スカリー・・・そんな風に言わないでくれ・・・。」
「愛は支配する事じゃないわ、モルダー。力でも権力でもないわ、あなたがここでずっと読んでた
本にも書いてあったでしょう。あなたは力で支配しようとしていたのよ。最低だわ、モルダー。
あなたはもう私に必要ないわ。」
「スカリー、僕がわざと君を傷つけるようなことを言った事なんてないだろう？」
「そうよ、それが問題だわ。わざとじゃなくても、私を傷つけてるのよ。あなたはされたことが
ないから、自分のしたことが分からないのよ。まず自分に重要かどうかしか考えてないんだわ。」
「スカリー、お願いだ、聞いてくれ。」
「答えてモルダー、私が傷つくか考えたことある？」
「考えたよ。」
僕はかすれ声で答えた。

「私たちはここで毎朝一緒に起きてすごして・・・隠し事無しにたくさん話し合ったはずよ。
それなのにあなたは大切なことだけはずっと黙っていたのね。一体どうして？」
「それは・・・それは・・・たくさんのことを考えすぎて・・・」
「そう！私はあなたを信じて行動したためにたくさん犠牲を払って、次の年の誕生日も祝えるか
分からなかったのに、あなたはこんな重大なことを迷っていたの。クズよ。最低よ。無神経で
自分勝手で・・・」
「スカリー・・・baby・・・」
「私をbabyなんて呼ばないで！」
「わかった、わかったよ、呼ばないよ。僕が悪かったんだ。僕が悪い。ごめんよ、スカリー、
僕が間違ってた。間違ってるって自分で分かっていたんだ。でも君が傷つくのが怖かったんだよ、
僕はただ君を守りたかったんだ！」

「どうして？」
スカリーは僕の肩をつかんで激しく揺さぶった。
「なぜ私を守ろうとするの？助けなんか入らないわ、私は赤ん坊じゃないのよ、すぐ気絶して男の
助けがなければ生きられない女の子でもないのよ！」
「スカリー！僕は一度もそんな風に思ったことなんかないよ！」
僕は彼女の手をつかんで揺さぶるのをとめた。
「そんな風に思ったことなど一度もないよ。ただ君を愛して君を幸せにしたかったんだ。でも間違っ
てた。僕はいつもおかしいんだ。ごめんよスカリー、許してくれ。僕が間違ってた。僕では君を幸せ
にできないんだ。全て忘れて最初からやり直そう、結婚も・・・あと・・・あと・・・全て忘れて。」
「そうするべきね。」
スカリーは静かに答えた。

僕はスカリーの顔をもうこれ以上見られず、目を閉じて彼女に背を向けた。
「許してくれ、スカリー。」
床に涙が落ちていった。もうずっと僕は泣いていた。

手で涙を拭い、スカリーの方に振り向いた。
スカリーの表情は変わってなかった。唇を強く噛んで、怒りを体中にためていた。
そしてジーンズを手に取り、服に着替え、ハイキングブーツをはき始めた。
「スカリー、どこに行くんだい？」
僕は打ちのめされたように震えていた。
スカリーは僕を軽蔑したような視線を投げ、クローゼットからコートを取りだして羽織った。
「出ていくわ。」
「行かないでくれ。」
涙で声にならなかった。
「スカリー、行かないでくれ。ここで、二人で話し合えばきっとうまく・・・」
スカリーは振り向いて僕に指を突き立てた。
「今、あなたと話しなんてしたくないわ。顔も見たくない。」
「スカリー・・・スカリー・・・もう夜中だよ・・・」
「これ以上あなたへの怒りがひどくならなければ帰ってくるわ。朝になるかもしれないけど、
待ってなくていいわよ。」
スカリーは階段を駆け下りて下から怒鳴った。
「ついてきたら許さないわ！」
そしてドアを力まかせに閉めて外に出ていった。

僕は体中が麻痺してベッドに沈み込んだ。
〈スカリーを失った。〉
あの夜、病院の廊下でスカリーに言うべきだったんだ。言ってさえいれば、彼女をあんなに怒らせる
ことはなかった。きっとスカリーは喜んだだろう。
病院のベッドに横たわってる間も、きっと母親になる将来を夢見て喜んだだろう。なのに・・・。

僕は枕に顔をうずめてむせび泣いた。
〈それは僕の夢でもあったんだよ、スカリー。君の夢は、僕の夢でもあったんだ。君の子供達の父親
になって、君と未来を一緒に歩いて行きたかったんだ。許してくれ、許してくれ、君を裏切ったも同
然だ。〉

僕は死ぬほどバカな男だ。
今、その報いを受けた。


2.

びくっと体が震えて、一人ぼっちで目が覚めた。
窓に風が当たって音を立て、部屋の空気が我慢できないほど冷たくなっていた。
僕は立ち上がって服を着て、以前僕の部屋だった場所へ行った。
部屋にスカリーはおらず、ベッドもきちんと整えられたままだった。
他の部屋も探したがスカリーはいなかった。
〈きっとすぐ戻ってくる。〉
僕は一階へ下りた。
キッチンにも、リビングにも、バスルームにもいなかった。
僕は玄関ポーチに向かって車があるか調べた。
車は車庫の水たまりの中に停まったままだった。
〈よかった、スカリーは遠くへは行っていない。でも、なぜそれならこんなに戻ってこない？〉

風はますます強くなり、雪が見る見るうちに積もりだした。
〈スカリーは一体どこに行ってしまったんだ？なぜ戻ってこないんだ？もし一人で森に入って道に
迷ってケガしていたら？どうしたらいいんだ！！〉
ソファに沈み込んで頭を抱えた。
これは僕の罰なんだ。僕の低脳ぶりと浅はかさでスカリーにこんな思いをさせてしまった。
これまでも僕のせいで数え切れないほど彼女を危険な目に遭わせてしまった。
そしてまた、彼女を危険な行動に追いつめ、そして・・・。

突然うなじがゾクゾクした。また来た。
おそるおそる顔を上げると、目の前に霧のようにぼんやりとした女の姿があった。
襟の高いドレスとブーツを履いていたが、彼女の体は透けて、部屋の反対側の壁が体を通して
見えていた。
肩まで髪を垂らし、優しい表情をしたきれいな女性だった。

ただ瞳は百年もひとりぼっちで過ごしたような孤独が映っていた。
彼女は僕の方に手を伸ばし、近づいてきた。

「レイチェル」
僕がささやきかけると、彼女は驚いたように手を止め、うなずいた。
「レイチェル、君はダナが好きだろう？彼女が危ないんだ。探すのを手伝ってくれ、頼む。」
レイチェルの声が風のように部屋のどこかから聞こえた。
「吹雪が来るわ。」
「何だって！」
僕はうめいた。レイチェルが言った意味は・・・もしスカリーを見つけられなかったら・・・。
「来なさい、フォックス。」
レイチェルはまた手を僕の方にさしのべた。しかし僕がその手をつかもうとすると、スッと
消えてしまった。
「レイチェル！」
「フォックス。」
「レイチェル、何か声を出して目印をしてくれ。歌ってくれ、僕はその後を付いていくから！」
レイチェルは澄んだ声で歌い出した。

「“いつまたお会いできますか　
　　いつまたお会いできますか
　　毎日それを願ってます
　　毎日愛に疲れていきます
　　死と悲しみが私を支配します
　　いつまたお会いできるのでしょう”」

外は雪が激しく降り、道や森にあっという間に厚く積もっていった。
僕は風の音にかき消されそうなレイチェルの声に耳を澄ませてついていった。
時折おぼろげにだが、レイチェルの姿が真っ暗な中に浮かび上がった。

「“私たちが夢見た遠くはるかな地
　　空の下で灼けるような大地
　　私たちが何者であろうと
　　友情が私たちの魂を深く結びつけ
　　私たちの広い夢の世界で
　　いつまたお会いできるのでしょう”」

僕は懐中電灯さえ持ってこなかったので、真っ暗な森の中をつまずいてよろめきながら、歌声の後を
死にもの狂いでついていった。

「“夢の寿命が尽きたとき
　　希望の光が消えたとき
　　美しさ、豊かさ、名声
　　全てが忘れ去られたとき　
　　不滅の魂だけが残り
　　また私たちはきっと会える”」

声がやんで何歩か歩いたとき、レイチェルがそこで歌をやめたことが分かった。
「レイチェル！ここで見捨てないでくれ！スカリーを探す助けをしてくれ！レイチェル！」
何の答えもなく、ひどい吹雪の音しかせず、激しく降る雪で視界はほとんどなかった。

僕は木から木へと手探りで進んだ。
「レイチェル！頼む！レイチェル！」
突然まぶしい光が現れて、とっさに手で目を覆った。
目を細めて光を見ると、目の前にレイチェルがほとんど生前のようにしっかりと見える体で
立っていた。
僕は木の間を、レイチェルの後を追ってスカリーを探し続けた。

〈スカリー、頼む、スカリー、死なないでくれ。僕から離れていかないでくれ。〉
両手を口にあてて大声でスカリーを探した。
「スカリー！スカリー！どこにいるんだ！」
レイチェルが振り向いて、ついてこいと言うように手をふった。
僕は彼女を信用してついて行った。スカリーのために。
スカリーを見つけるためなら、どこまででも行く。

一体どれくらい歩いただろう。指も鼻もつま先も氷のように麻痺してしまっていた。
僕はジャケットの中にもぐるように縮こまり、しかし顔はレイチェルを見失わないようにしっかり
前に向けて歩き続けた。僕の髪や服は雪のせいでびしょぬれになり、すぐに氷に変わっていった。
「スカリー！」
僕は大声で叫んだ。
レイチェルはまた僕に前に進むように促した。前へ、前へ。

〈もしこれが間違っていたら？レイチェルはただの悪霊で、僕を惑わして死なそうとしているだけ
だったら？先に僕が死んで、スカリーを見つけられなかったら？〉
「スカリー！」
レイチェルは森の中に拓けた場所に進み、吹雪をよけられるような大木の根元を指差した。
僕はレイチェルの指差した場所を見て、ホッとして力が抜け、雪の中に膝から倒れそうになった。

スカリーが寒さに震えながら膝を抱えて座っていた。そして横には、まるで彼女の守護天使のように、
吹雪から彼女を守るようにキャメロンが立っていた。
「スカリー！！」
僕は走って、スカリーを腕の中に抱きしめた。
「もう大丈夫だ、baby、僕がいるよ。もう大丈夫だ。」
「モルダー・・・。迷ってしまったのよ、家に帰りたいわ、モルダー。」
スカリーの声は疲れ切ったように弱々しかった。
「帰ろう、baby、一緒に帰ろう。」
僕は彼女を胸に抱きかかえて立ち上がろうとした。
「モルダー、見て！」
スカリーがささやき、僕は振り向いた。

レイチェルとキャメロンが降りしきる雪の中、お互いをじっと見つめ合っていた。
レイチェルは震えながら手を上げてのどを押さえ、つぶやくように唇を動かした。
キャメロンはよろめくように前に進み、そしてレイチェルに向かって走り出し、彼女もキャメロンに
向かって走り出した。
二人が抱き合った瞬間、あたりは白く金色のまぶしい光に包まれた。
まるでかがり火の中にいるようにまぶしい中、レイチェルとキャメロンは固く抱き合い、キスを繰り
返し、お互いの顔を何度も見てまたキスを繰り返した。

激しい風の音がしていて確信は持てないが、その時僕の耳に、まるで天使のような二人の笑い声が
森の中に響き渡ったのが聞こえた。
二人の姿は光と共にだんだん小さくなっていった。またたくようにきらめいて、木の枝から枝へ
踊るように光がはね、二人がしっかりと抱き合ってる姿が見えた後、光は来た道を戻り始めた。

僕はスカリーを抱き起こした。
スカリーは僕の腰にしっかりと腕をまわして体を預けるように歩き出した。
彼女は顔を上げなかったが、僕をしっかり抱きしめるように光を追って歩いていた。

家にたどり着くと、光は屋根の上をはね、窓ガラスに光を映して煙突まで跳ね上がり、そのまま
高く上がって夜の闇に消えてなくなった。

「やっと二人は出会えたのね。」
スカリーがそっとささやいた。



+-+-+-+-+-+
“When Shall We Meet Again”は19世紀の聖歌。作者は不明。



→12　-　Fumbling Towards Ecstasyへ

12　-　Fumbling Towards Ecstasy

“もう僕は愛を怖れない
　もう僕は何も怖れない
　全ての怖れは取り去られた
　僕は幸せを求めるために生きていく”


1.

僕はスカリーの体を温まらせるため、熱いシャワーを浴びるようにさせた。
その間にスープを温め、マグカップに注ぎ、ナイトテーブルに置いて彼女が出てくるのを待った。

ベッドのヘッドボードがあたる壁にへこみができていた。
この数日であまりにベッドをひどく揺らしたせいだ。
僕は指でへこんだ部分をなぞり、ため息をついた。
僕はあまりこうしたものを直す作業が得意じゃない。まずパテでも埋め込んで、壁に合わせた色を
塗ればいいんだろうか。

バスルームのドアが開いてスカリーが出てきた。
一番あたたかいパジャマを着て、上からフランネルの僕のシャツをはおり、厚い靴下をはいて、
頭にタオルを巻いていた。
スカリーはベッドの中に入り、あたたかい毛布にくるまった。

僕がスープの入ったマグカップを渡すと、「ありがとう」と言って僕を見つめながら一口すすった。
「あれで終わったのかな。」
「何のこと？」
「レイチェルとキャメロンのことだよ。あれでもうこの家や森に霊は出なくなるのかな。」
「ええ、そうだと思うわ。家の感じが変わったように思う？」
〈ああ、変わってしまったよ。〉
でもそれはスカリーが言ったような意味じゃない。僕はここにいる間ずっと幸せだった。
でももうこの家を出たら、二度とこの家に戻ってくることはないだろう。
スカリーが僕を愛するのをやめたことを思い出させるこの家には。

「ああ、感じが変わったよ。」
「二人を引き合わせることができたのね。二人は天に導かれたんだわ。ようやく安らかに
眠れるのね。」
スカリーはスープを飲みながら、ベッドの周りをうろつく僕を見つめ続けた。
スカリーはマグカップを置き、ベッドのマットレスを軽く叩いた。
「モルダー、ここに来て。」
僕はそこに座ったが、顔を彼女の方に向けられなかった。
「言ってくれ、スカリー。」
「私が何を言うと思ってるの？」
「さよならでも、やっかい払いができるとでも、何を言われてもかまわないよ。」
スカリーの手が肩に優しくかかり、僕は目をつぶった。

すぐに僕は恋しがるだろう。
スカリーが僕に触れるときの肌の感触。
僕の涙を拭い、手を握り、毎夜僕の背中にくい込んだ指と爪の感触。

「モルダー、さよならなんて言うつもりはないわ。もう怒ってないのよ。」
僕は振り向けなかった。
スカリーは落ち着いて考えられる人間だ。感情的ではなく、もっと理論的に別れる理由を
話すのだろう。
僕にはまだ彼女がFBIに移動願いを書いてないこと自体が驚きだった。

「モルダー、お願いだから私を見て。」
スカリーはそう言って僕の背中をゆっくりさすった。
できない。彼女の顔を見られない。
これから彼女の口から出る言葉を、彼女を見つめながら受け止めることなんか絶対にできない。

スカリーは両手で僕の肩をつかみ、彼女の方に向けさせた。
僕は我慢の限界を超えて、彼女の胸に顔をうずめて泣きだした。
スカリーの体を離さないように、腕を腰に巻き付け、僕は泣いた。

「シー・・・、シ・・・、love。」
スカリーはささやいて僕を優しく抱きとめ、髪にキスしながら頬を撫でた。

「シ・・・、大丈夫よ、ここにいるわ。私はどこにも行かないわよ。」
「できない、スカリー！君を離せない。言わないでくれ、スカリー！」
「何も言わないわ、大丈夫よ、モルダー。」
「君を愛してるんだ。」
「わかってるわ、baby、私も愛してほしいわ。私も愛してるのよ。」
「スカリー・・・、スカリー・・・」
僕は彼女を見るために少し後ろに下がり、手で彼女の顔を包み込んだ。
「僕を許してくれ。」
スカリーは微笑んだ。
「ええ。でもまだ全部許したわけではないのよ。」
「・・・OK・・・わかったよ。」
僕は涙をぐっと飲み込んで、腕をそっと離し、ベッドから立ち上がろうとした。
「どこにいくの？」
スカリーが僕の腕をつかんだ。
「別の部屋に・・・ここにいてほしくないだろう？」
スカリーはため息を付いて僕の腕を引っ張った。
「モルダー、あなたは誤解してるのよ。モルダー、愛してるわ。たとえ私を怒らせても、愛してるわ。
笑わせてくれるときも、愛してるわ。私が理解できないようなことをしても、愛してるわ。あなたが
暴走しても、愛してるわ。私に涙を流させても、愛してるわ。5分でも黙っててほしいと思ったとき
でも、あなたを愛してるわ。」

スカリーはそっと僕の頬に触れ、ゆっくりと僕の顔を上げて優しく見つめた。
「知らない内に私を傷つけたときも」
スカリーは優しくささやいた。
「あなたを愛してるわ。」

「でも・・・でも・・・君は出てくと・・・」
「外の空気を吸いたかったのよ、モルダー。頭を冷やしたかったの。後で言い過ぎたと後悔するよう
な言葉を続けないために。もう言ってしまったけど、でも、モルダー、あなたが必要なのよ。あなた
がくれるどんな愛もほしいわ。」

僕はスカリーの肩に頭をもたれさせた。
スカリーは耳にキスして、優しく僕の髪を撫でた。あたたかい指の感触が流れるように動いた。
「信じない？」
スカリーはしばらく僕の髪を撫でながらささやいた。
「信じたいよ。信じてみたいよ。」
これまで愛することや愛を受け入れることは、僕の人生の中で一度もうまくいったことがなかった。
一度として幸せな結果をもたらさなかった。いつもだまされていた。
でも今スカリーは僕を愛してると言ってくれている・・・。
スカリーはうそが嫌いだ。
彼女はうそをつかない正直な人間だ。うそをついて僕を利用しようなんて一度も考えたことが
ないだろう。

僕は座り直してスカリーをまっすぐに見つめた。
「真実を言ってくれ、スカリー。もし本当の気持ちなら、僕を愛してると言ってくれ。今、本当に
僕を愛してると言ってくれるかい？」
スカリーは微笑んでうなずいた。
「心から言えるわ。あなたを愛してる。」
僕は愛しさで胸が締め付けられ、のどから声を振り絞った。
「愛してるよ、スカリー！」

僕たちはしっかりと抱き合った。
スカリーの髪に顔をうずめると、体中に彼女の優しい感触と優しく響く心臓の鼓動が伝わってきた。


スカリーは僕をなだめるように、背中を撫でてつぶやいた。
「でもまだ、私の妊娠の問題が残っているわね。」
「ああ。でも、言ったけど、君の卵子は健康で何のダメージも受けていないんだ。医学の力を
借りれば、高い確率で成功する、と聞いたよ。」
「ロマンティックなやり方ではなさそうだけど、でも必要ね。」
「とても必要なことさ。」

「モルダー、子供を作るとしたら、私の年から言ってあまりそう長く待つわけにはいかないわ。
長く待てば待つほどいろいろな問題が出てくるの。でも、私は本当に赤ちゃんがほしいのよ。」
スカリーは言い出しづらそうに言った
「わかってる。」
「家でよく考えて、調べてみたいわ。どれだけの人がこの方法で出産してるか。そして受精させ
て・・・。でもまたガンが再発するのかしら・・・話が脱線するけど、担当医にもう子供ができない、
と言われたときは、うずくまって泣いたわ。まるで知らない内に視力を奪われて、盲目になってしま
ったようだったわ。」
「僕がすぐ言うべきだったんだ。持ち帰ったときすぐに。」
「でもあの時では何にもならなかったかもしれないわ。」
「でもきっと君を安心させることができたよ。」
「もしかしたらね。でも、今は分かってるからいいのよ、モルダー。先のことを考えましょう。
今は、あなたがどれだけ協力してくれるかを知りたいだけよ。」
「どんなことをしてほしい？」
僕は耳元でささやいた。

「え・・・普通の事よ。子供達をサッカーやダンスの練習に連れてってあげたり、自転車の乗り方を
教えてあげたり。学校の月謝を払ったり、おやつをあげて・・・週末の朝、子供達にミッキーのパン
ケーキを焼いてあげて。おむつをかえて・・・普通の事よ。」
「たったそれだけ？もっとないのかい？」
「一つ一つやっていきましょう。すぐ次のことが来るわ。」
「早く始めたいよ。Foxジュニアに小さなDanaたちを見たいよ。」
「私もよ！でも名前は変えるわ。」

僕は微笑んでキスし、スカリーの手を両手で包んで心臓の上に置いた。
「結婚してくれ、スカリー。」
「Yesよ、モルダー。」
「そして僕と子供を持とう。」
「ええ、モルダー。」
「そして一緒に年をとろう。」
「ええ、モルダー。ずっと一緒よ。」

スカリーは優しくキスを返して、僕の胸に顔をうずめた。

ずっと長い間スカリーを抱きしめ続けた。
もう一度キスしようとすると、背中にまわされてたスカリーの手がすべり落ち、彼女が眠ったことに
気が付いた。

ナイトスタンドの明かりを消し、一階へ下りて戸締まりを確認した。
窓から外を見ると、吹雪はおさまってきたようだった。
僕はしばらく窓ガラスに手をあて、白くついた手の跡が消えていくのを眺めた。


もう遅く、寒くてとても疲れた。
でも何のことはない。僕の愛のすべてが二階であたたかそうに眠っている。

窓から離れ、ドアノブを動かして玄関に鍵がかかっているのをもう一度確かめ、僕もベッドへ戻った。


2.

朝の8時をまわったときに電話のベルが鳴った。
「スカリーです。」
スカリーは受話器を取ると、反射的に答えた。
「ママ？ハッピー・ニューイヤー！ええ、私たちは大丈夫よ。昨日ちょっと冒険したけど、でも大丈
夫。え？産まれたの？いつ？男の子だったの！マシュー・ウィリアム。いい名前ね。ああ、良かった
わ。みんなはどうしてるの？ビルのことはいいわ。そう、きっとかわいいでしょうね。たくさん写真
を撮ってね。ええ。ママも疲れてるでしょう、明日私たちもすぐに行くわ。愛してるわ。マシューに
私達からのキスを贈ってね。Bye。」

スカリーは受話器を置いて、僕に嬉しそうにほほえみかけた。
「また叔母になったわ。」
「おめでとう。男の子だって？」
「ええ！マシュー・ウィリアム・スカリー。」
「新年生まれの子だな。」
「深夜の2時頃産まれたんですって。病院でも新年一番目に産まれた赤ちゃんなのよ。マシューの
写真をポスターにするそうよ。」
僕は腕を伸ばしてスカリーの背中を撫でた。
「大丈夫かい？」
「ええ！すごくうれしいわ。」
「すぐに僕たちもお母さん達にいいニュースを聞かせられるよ、保証する。」

スカリーは微笑んで、僕の頭の上にかがみ込んでキスした。
「モルダー、今回の休暇では私が楽しみにしてたことが少ししかできなかったわ。」
「え？何だい？」
「もっとスキーができると思ったのに、一回だけよ。」
「ああ、うん・・・。」
「それにこの休暇で、あなたがどんなにベッドに誘うのが上手かわかったわ。こうして私が一緒に
寝てるんですもの。」
「僕は魔法が使えるのさ、スカリー。」

スカリーは笑って、僕の胸に頭と腕を乗せた。
「私も魔法の言葉を知ってるわ、モルダー。」
スカリーの表情は真剣になった。

「何より愛してるわ、モルダー。わかってもらえるかしら。」
「分かってるよ、スカリー。」
僕はスカリーの頬を優しく撫でながらささやいた。

「僕はもっと愛してるよ。」

スカリーは頬を染めて微笑み、キスした。そして僕の胸に頬を寄せた。
「まだ眠いわ。」
スカリーはあくびした。
「おやすみbaby、僕が見守っててあげるよ。」
スカリーの髪を優しく撫で、彼女の呼吸が深く、ゆっくりになっていくのを聞いていた。

そうさ、僕は彼女を愛してる。完璧に・・・わかるだろう？


3.Epilogue

事件報告書
フォックス・モルダー特別捜査官

リー・ロビンソン夫人によると、彼女の所有するコブ・クリークの家、また森の中でキャメロン・
デールとレイチェル・マクアリスタの霊を目撃することはなくなった。
来年のクリスマス・シーズンに出没する可能性もあるが、ほとんどないと言っていいだろう。

スカリー捜査官は、新年に二人の霊が私とスカリー捜査官を媒体にして出会い、消滅したため
霊現象がなくなったのではないかと推測している。
理由を述べることはできないが、私の推測も彼女と同じである。

レイチェル・マクアリスタ　1860生-1878没
キャメロン・デール　　　　1859生-1878没

以上2名の霊現象は消え、調査を終了した。
ケースNo.XGH-47
832（非公式調査）

証拠資料：霊とおぼしき声の録音テープ
　　　　　（正体不明の声とD・スカリー捜査官、F・モルダー捜査官）
　写真1.
　レイチェル・マクアリスタとキャメロン・デールの墓

　写真2.
　リー・ロビンソン夫人所有の家

添付資料：教会に残っているレイチェル・マクアリスタとキャメロン・デールの出生記録。
　　　　　メソジスト派教会（ヴァーモント州コブ・クリーク）


4.

そして・・・僕たちに女の子が産まれた！

名前はKatherine Hope Muldeer
1998年10月13日生まれ
7ポンド14オンス
両親：Fox&Dana Mulder



End