DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
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TITLE : Fumbling Towards Ecstasy

作：Jenna Tooms　　訳:tomo

7　-　Circle

“どんな愛も無視し続けるんじゃないかと
　僕はただ思い込んでいただけなのだろうか”
　
1.

Christmas Eve

去年のクリスマスイヴの夜は、僕は帽子の中にカードを投げ入れながら、
TVの『Rudolf Saves Christmas 』を見ていた。スカリーが10時頃に家族中が集まった祖母の家から
電話してきてくれて、僕の様子を気にしてくれた。僕は何事もないよ、と彼女に伝え、母に渡す
つもりだったプレゼントのことを思い出していた。
いや、僕はクリスマスの全部をひとりぼっちで過ごした訳じゃない。
男友達何人かとクリスマスにディナーを食べ、新しいコンピューターゲームで午前2時まで確か
遊んだ。
僕はクリスマスツリー用のライトを、球が切れるまでつけ続けていた。

今年のクリスマスはかなり違う。
居心地が良くて明るい家。
モミの木とシナモンとスカリーの香水の香り。
玄関ポーチにクリスマスの電飾。
たくさんの素晴らしいプレゼントに囲まれた、美しいクリスマスツリー。
窓際に置かれたmenorah。
室内にいつも流れる音楽。
そしてなにより、優しく、愛しい女性がそれら全てを僕にもたらしてくれた。

スカリーはさっきから1時間近く、サンディエゴにいる彼女の母親に電話をしていた。
僕は盗み聞きするつもりはなかったが、彼女がキッチンとリビングルームの間で話し始めたので、
話を聞かずにいられなかった。

「ええ、ここはいい所よ。モルダーと私は楽しんでるわ。ええ。1回だけ、モルダーがケガをして
背中を痛めたけど。でも大丈夫よ、他のことをしているから。ママ、ビルには言わないでくれる？」
彼女は少しの間沈黙して、苦笑しているような声が聞こえた。
「何だって言うの？別に休暇を楽しんでるだけよ。できるわよビリー。あら、止めるつもり？
私は大人よ。ママにあなたがおばあちゃんの家で、タラと朝の6時まで外出して戻ってこなかった
ことを告げ口してほしい？知ってるわよ、タラは私と同じ部屋だったんだから。覚えてる？
同犯じゃない？そう。愛してるわビル。ママとタラと赤ちゃんに私の分もキスを贈ってね。Bye。」
スカリーは電話を切って、カウチで本を読んでいる振りをしてる僕へ近づいてきた。
僕の足の方に腰掛けて、膝に腕を伸ばした。

「あとチャーリーに電話しないと。」
「大変だな。」
「チャーリーだけは私たちについてうるさく言わないと思うわ。ビルは私がサンディエゴに
行かないのを、あなたのせいだと思ってるのよ。」
「確かにそれは当たってるな。」
スカリーは笑って、爪で僕の膝をこすった。
「あなたはお母様に電話しなくていいの？」
「母はユダヤ教徒なんだ。クリスマスは別に関係ないよ。」
「でも、電話かけようとしてたでしょう？」
「後で。」
「モルダー・・・。」
「後で。」

僕は頑固に繰り返した。スカリーはきっと休暇はいつも兄弟や家族と過ごしてきたのだろう。
母には明日電話しよう。

スカリーは僕の膝に手をついて立ち上がると、足を開いて僕の前に立ち、読んでた本を僕の手から
取り上げ、本のページをざっと眺めて言った。
「改革はあった？」
「ああ、改革の所は面白いよ。登場人物達は改革をどこから初めていいか分からずにいるんだ。」
「レキシントンとコンコルドからすればいいのよ。」
スカリーはページをめくった。
「読んでるページが分からなくなるよ。スカリー、改革は一発の銃声から始まるのと、改革者達が・・そんな言葉はないか。人々が改革を思いたった時と、どちらが始まりと言うんだろうな。」
「“労働者達は改革する・・・しかし彼らは臭い”っていうジョークがあったわね。」
「ハハハ、でもさ、スカリー。改革はやっぱり虐げられていた人々が、これ以上の重圧に反対すると
決断したときから始まると思わないか？戦火が始まってからでなく。」
「最初の改革は、自分の心に勝つことからだと思うわ。」
「どういう意味だい？」
「虐げられていても、政府のやり方に逆らうより従っていた方が楽よ。不正や厳しい支配から
独立を宣言するのは、人の良心や理想が決定することなのよ。なぜならそうすることは、途方も
ない危険を覚悟しなければならないんだもの。革命戦争以前の創始者たちは皆財産を持った豊かな人
たちだったわ。そして戦後破産した。論理的な考えを超えて、独立は信念がもたらしたものなのよ。」

「スカリー。」
「何？」
「キスして。」
「『キスして』って何？どうかしたの？」
スカリーは笑って、でも、優しく僕にキスした。
「僕はこう言おうとしたんだ。『黙ってキスして』ってね。でも僕は礼儀を知ってるから。」
「まったくね、そう。無礼な男は嫌いよ。」
スカリーは僕の顔にキスを落とし始
めて、舌で時々顔をはじくようなキスもまぜながら僕にキスを続けた。
終わりがないほどに、彼女のたくさんの種類のキスが僕の顔を、口の中を溶けていき、
メープルシロップのような甘い味が残った。

「行きたい？モルダー。」
「クリスマス・キャロル？」
「ええ。それよ。」
「君は行きたいかい？スカリー。」
「どっちでもいいわ。きっと地元の小学生達が聖歌隊として歌うでしょうね。」
「いいね。“屋根の上で”を演奏するかな。」
「“ジングルベル ”も“バットマン”もね。」
「ある年父が僕とサマンサを地元の最悪な聖歌隊に入れようとしたことがあったんだ。
でも母が反対して免れたけどね。母は長いこと僕をユダヤ教にしようといろいろ教えたけど、
ムダだったよ。」
「その代わり無神論者になったのね。」
「“不可知論者”だ。無神論者は信じないことを言うけど、不可知論者は神に対して無知のことを
言うんだよ。僕は教会には何度か行っているよ。」
「いつ？」
「悲しいと思った時に。そしてサマンサのためにキャンドルに火をつけて捧げるんだ。」
スカリーはうっすらと微笑んでささやいた。
「あなたのためにキャンドルを捧げたことがあるわ。」
「僕に？」
「ええ。シベリアとニューメキシコであなたが失踪した時よ。あなたのお母様も祈って・・・
私もいつも祈っていたわ。」

スカリーはふざけて言っているのではない。彼女は幼い頃からずっと神を信じ続けている。
僕がいない間、きっと心から僕のことを祈っていただろう。
その時の彼女の姿が目に見えるようで、僕は心をしめつけられた。
「行こう、スカリー。もし退屈だったら抜け出せばいいよ。」
僕は優しく彼女にキスしてささやいた。
「もし退屈でも、二人でいられれば楽しいわ。」
スカリーはもう一度僕にキスすると、僕の腕から離れた。
僕はスカリーが出かける準備をしている間、そのままで待っていた。
本当のことを言えば、外になんか出かけずに、ここでスカリーと二人きりで過ごしていたかった。
ここで二人で愛し合って、D.C.の仕事の生活に戻るのに、まだ後一週間以上この家で二人で過ごせる
ことを祝いたかった。

スカリーがカウチの後ろに来て僕の肩に手を置くと、そっとかがみこんでキスした。
「さあ、モルダー。行きましょう。」
「おおせのままに。」
僕は立ち上がって彼女の後を付いて外に出た。

2.

〈スカリーは広場を“くるみ割り人形”のセットのようだと言っていたな。〉
確かに広場は魔法をかけられたように美しく光輝いていた。
木々には葉の代わりにライトがきらめき、その下では家族達が集まって賑やかにおしゃべりして
笑いさざめき、ステージの横では、かわいらしい聖歌隊の子供達が歌の練習をしたり、寒さで
お互いの手をこすり合わせたりしてはしゃいでいた。
そして広場の中央には、誰もが見上げるほどの大きなクリスマスツリーが大きな星飾りを付けて、
白と銀色の光で美しく装飾されて設置されていた。

「きれいでしょう、モルダー。」
「ああ。」
僕は笑顔でスカリーを見つめた。
スカリーも満足そうに微笑んで、僕の手をしっかりと握った。

温かいココアやリンゴ酒も用意されていて、僕たちはリンゴ酒をもらうと、手でカップを包みながら
クリスマスツリーの周りの人だかりに加わった。

聖歌隊のコーラスが始まった。
〈“きよしこのよる”。いい選曲だな。〉
僕たちは微笑みあった。スカリーも同じ事を考えているのだろうか。
「スカリー、レイチェルもここに来たかったかな。」
彼女の耳元でささやきかけた。
「きっと来たかったと思うわ。レイチェルは家から出られると思う？」
「彼女は気まぐれに出没するからな。わからないよ。」
「信じられないわ。私たち、なんて話をしてるのかしら。」
スカリーは笑って言った。
「もちろん君が体験した超常現象についてだよ。」
僕も笑って彼女の髪にキスして、肩を抱き寄せた。
スカリーは目を閉じて、指を僕の指に絡めながら、胸に体を預けるようにもたれかかった。

教会の聖歌隊、子供達の聖歌隊がクリスマス・キャロルを次々と歌っていった。
僕たちはリンゴ酒とココアを飲みながら抱き合いながらコーラスに聞き入っていた。
僕は聖歌隊の歌に偏見を持っていたのかもしれない。でも今夜はそれを皆裏切るように、
美しい歌声を響かせ続けていた。
しかしさすがに何曲も続くと少し飽きてきて、僕は広場をあちこちと眺め始めた。
すると、何者かの黒い影が、広場から路地に入っていく姿が目に飛び込んだ。

「スカリー、銃は持ってきてる？」
「バッジしか持ってきてないわ・・・何かあったの？」
「まだわからない。すぐ戻るから。」
スカリーは心配そうに僕の手を離した。
「気をつけて、モルダー。」
「Hey、誰に言ってるんだい？」
「いいから。気をつけるのよ。」

僕は黒い影を追って横道へ入った。路地は家の窓から漏れる光以外、何も照らすものはなく、
僕の足音と、後ろで聞こえる広場のざわめき意外なにも聞こえなかった。
〈なぜ追いかけたりしたんだろう？〉
ばかばかしいことに、僕は相手が何であるかも分からずに、ただ追いかけてここまで来た。
路地は小さな店と古いオフィスビルのある道へ続いていた。この道には外灯があり、高いポールの
上からあたりを静かに琥珀色に包んでいた。
〈セピア色の外灯？いや、違うぞ。〉

突然雪道を早足で走る馬の蹄と、ヒュッとしなる鞭の音が聞こえてきた。
しばらく音のする方を見ていると、2頭だての古い馬車に乗り、手綱を持って寒さに背を曲げた男が
見えてきた。彼は一軒の店の前で馬車を止めると馬車から降り、手綱を柱に固定した。彼は馬に何か
話しかけながら馬の口輪に軽く手をかけ、店の中に入っていった。

驚いて僕が顔を上げると、町の人々はみな19世紀の服装をして歩いていて、何か話したり荷物を
運んだりしていた。
女性は長くて、床まであるスカートをはき、男性はブーツを履いてつばのある帽子をかぶっていた。
僕がレザージャケットを着て帽子をかぶっていなくても、誰も僕を気にするでもなく、通り過ぎて
いった。


二人の若い男がこっちに向かってきた。
「無理だよ、彼女に一緒に逃げようなんて、言えないんじゃないのか？」
「僕たちが一緒になるにはそうするしかないんだ。彼女の父親は僕を嫌ってるんだよ。
僕をゴミだとしか思っていないんだから。」
彼の友人は大きくため息をついた。
「あの父親なら彼女を家に閉じこめて、誰にも会えなくさせるだろうな。」
「そうさ。でも僕は彼女を愛してるんだ。彼女も僕を愛してる。僕たちはうまくやっていけるよ。
僕は去年200ドルも稼いだんだよ。西部では7年は自由に暮らしていけるさ。僕たちはきっと自由の地
を見つけられる。」
「でも今日のイヴに行くのか？キャメロン。」

〈キャメロン。そうか、あの黒い影は彼らだったのか。〉

「ああ。クリスマスイヴだ。僕たちは駆け落ちするんだ。今夜一緒に逃げなければ、彼女は家に
閉じこめられて二度と会えなくなってしまう。僕たちは合図も決めたんだ。」
彼は立ち止まると静かに歌い出した。
“Silent night , holy night・・・”

「先週教会で彼女が歌ってたな。」
「それさ。僕たちは歌を歌って森の中でお互いを確認するんだ。」
「急ごう、キャメロン。吹雪が来そうだ。」
「もうここに来ることもないな。今日の深夜に出るんだ。アルデン牧師が助けてくれて、彼の家に
行けばすぐ結婚式を挙げてくれるそうなんだ。そしてニューヨークへの始発列車の時間まで、僕たち
をかくまってくれるんだ。」
キャメロンの友人がぽつりとつぶやいた。
「最後に駅まで乗せていってやるよ。」
二人は顔を合わせて笑った。

二人は建物の中に入っていった。キャメロンは入り口の前で前屈みになって立ち止まり、うろたえた
ように周りを見回した。そして僕を見つけるとうっすらと微笑んで、中に入っていった。

僕も周りを見回してはっと気が付いた。
さっきまであれほどいた人々も、馬車も皆消えて、僕一人が路地に立っていた。
外灯は普通の蛍光灯で、キャンドルでも、鉄製の凝った作りの外灯でもなかった。
背後から広場の合唱が聞こえてきた。

僕は広場へ駆け戻ってスカリーを探した。
彼女は人だかりの一番端で、周りに合わせて合唱隊に拍手を送ったりしていた。僕は急いで彼女の
後ろから近づいて、肩に手をかけた。
スカリーは素早く振り向くと、顔も体も心配そうな表情をいっぱいに浮かべて胸の中に飛び込んで
きた。
「Hey、スカリー。落ち着いて。」
僕は彼女をしっかり抱きしめた。
「30分も戻ってこなかったのよ。あなたがたとえ銃を持っていたって・・・あなたに何かあったら、
モルダー！」
スカリーの声は僕の腕の中からくぐもって聞こえた。
「何も危険なことはなかったよ。ただキャメロンに会ったんだ。」
「キャメロンに？ここで？」
スカリーは僕を見上げた。
「ただ会っただけじゃない。見たんだ、スカリー。すごかったよ。キャメロンが計画を彼の友達に
話しているのを聞いたんだ。二人は森の中で歌を歌ってお互いを見つけるつもりだったんだよ。
そして西部に逃げるつもりだったんだ。」
「タイムスリップでもしたというの？モルダー。」
「そうさ。キャメロンが僕を見たんだ、スカリー。僕をまっすぐに見て、少し微笑んだんだよ。」
「でも、どう二人を助けたらいいかは分からなかったんでしょう？」
「ああ。でも二人で考えれば・・・」
スカリーはため息をついて僕にキスした。
「今夜はゴーストハントは無しよ、モルダー。帰りましょう。」
「飽きたのかい？」
「そばにいなかったせいよ。二人きりになりたいの。」
「偶然だな、僕もだよ。」
スカリー僕の腕に軽くパンチした。
「黙って、モルダー。家に帰るわよ。」
「はーい、ママ。」
僕はスカリーの腰に腕をまわし、僕たちの車へ向かって歩き出した。

3.

帰りのドライブではスカリーは運転中ほとんどしゃべらなかった。
別に珍しいことではない。なぜならいつも彼女が運転するときは、僕は隣で眠っていることが
多いからだ。
でも今日は珍しいことに、スカリーはラジオをつけ、落ち着かないようにあちこちのチャンネルを
カチカチとボタンを押して変えていた。

家に着くと、スカリーは消してあったツリーのライトを点けた。
「モルダー、暖炉にも火をつけない？」
「いい子にして早く寝ないと、サンタがこないぞ。」
「少し話したいの。」

真剣な声だった。
僕が暖炉に火をおこしている間に、スカリーがココアを入れて、マグカップをリビングのカウチまで
持ってきてくれた。彼女は僕の横に腰掛けると足を組み、両手で包んだマグを膝の上に置いた。
僕たちはしばらく黙ってココアを飲みながら、暖炉でパチパチと炎が燃える音を聞いていた。
僕はココアに浮かんだマシュマロを舌で追いかけ、口に含んでスカリーにキスし、マシュマロを
彼女の口の中に渡した。
僕たちの唇は今夜飲んだリンゴ酒やココアで、べたついて甘くなっていたので舌で拭い取った。
「モルダー、続きは後でね。約束するわ。」
「それで、話って何だい？」
僕はココアをすすりながら尋ねた。
彼女も一口ココアをすすり、暖炉の炎を見つめながら話しだした。
「昨夜一人で考えたときに、あなたに言おうと決めたことよ。」

僕はスカリーの表情をじっと見つめながら、彼女が話を続けるのを待った。
しばらくしてスカリーはため息をつくと、とうとう話し出した。

「モルダー、私は・・・正直になれなくて・・・素直になれなくて、ずっとあなたに言えなかった
ことがあるのよ。」

僕は驚いてせき込みそうになった。
誰かいるのか？
〈僕はただ、ここで彼女の手助けをするだけで、D.C.へ戻ったら本当に彼女が愛している男と
一緒になるのか？一体誰が・・・スキナーか？そうなのか？スカリー。なんて事だ。僕は一体
何してるんだ？〉
「何だい？スカリー。」
僕は何とか冷静さを装って答えた。

スカリーはマグカップの縁に指を滑らせながら話した。
「私とあのセラピストは最初に、私の中の恐怖について話したわ。人間はみんな完璧
じゃないって・・・誰もがセックスに関しても何かしら悩みを持ってるって言っていたわ。」
「それはわかるよ。」
「でも、セラピーの中で自分が変われるかと思ったんだけど、そうはならなかったわ。そのことを
伝えたら、私には専門家のセラピーではなくて、もっと違うことが必要なんじゃないかって言われ
たのよ。」
スカリーは僕の方に一瞬視線を走らせた。
「あなたのことが何度もセラピーの中で話題に上がったわ。それで言われたのよ。あなたに助けを
求めてみてはって。私があなたと一緒にいて落ち着いた気持ちになれるのは明らかだってね。
そして私は決心したのよ・・・」

スカリーは炎を見つめたまま長い間黙り込んだ。
僕は彼女から目をそらさなかった。
とうとうスカリーは弱々しく言った。

「愛してるの。」

僕は息をするのを忘れて彼女を見つめた。
スカリーの頬は一瞬で赤くなり、決して僕と目を合わそうとしなかった。
僕はスカリーが両手で包んでいる、空っぽのマグカップをテーブルに置いて彼女の手を取り、
僕の口へ近づけてあたたかい指先にキスした。
スカリーは瞳を閉じて、唇をなめた。

「それであなたに頼んだのよ、モルダー。あの時、始めにあなたに伝えられれば良かったのに。
でも伝えられないままにしてしまって・・・」
スカリーの声は柔らかくて、あたたかだった。
「愛してるわ。あなただけにそばにいてほしいのよ。モルダー、愛してるわ。」
スカリーははっきりそう言うと、暖かなまなざしを僕にくれた。

今の僕の顔は、彼女の瞳にどう映っているだろう。
きっとバカみたいに目をきらきらさせて、喜びが顔中からあふれ出すような笑顔が映っていただろう。
スカリーは僕を見て微笑んで、手をそっと僕の手に重ねた。

「私の気持ちを知ってほしかったのよ、モルダー。あなたが深く問いつめないままここに来ることを
提案したとき、少し怖かったわ。なぜ問いつめないのか、私の気持ちを知ってるのかって・・・
あなたの気持ちも・・・不安だった。でも私を真剣に受け取めててくれたからとても嬉しかったのよ。
ずっと私を気遣ってくれてたわね。あなたは素敵な人だわ、モルダー。あなたがこんなに・・・
いいえ、知ってたわ、あなたが優しくしてくれることを。モルダー、あなたは本当に優しい人だわ。」

「僕はずっと君のそばにいるよ、スカリー。」

スカリーは微笑んで僕の片手を手に取った。
「昨夜外に出たとき、あなたのことばかり考えていたわ。どれほどあなたのそばにいられることが
嬉しいか、どれほどそばにい続けたいかを。でも気が付いたのよモルダー。あなたのそばにはこう
してい続けられないって。」
「なぜだい？どうして？スカリー。」
「あなたは心の中で恋人の事を考えることも、友達を作ることもせずに仕事に打ち込んできたで
しょう。生涯をかけて真実を探しているわ。だからD.C.に戻ったら、私は何も変わらなかったように
仕事をして、あなたの助けをしていこうと思ったの。でも忘れないで・・・」
スカリーは言葉を切ると、そっと僕の頬に手を伸ばし、そのまま僕の髪に指をすべらせた。
「いつもあなたを愛してるわ。」

僕は彼女の手にキスして、両手で包み込んで胸の上に置いた。
「スカリー、友達から恋人に関係が移るのは自然な事だって考えたことはないかい？」
「ええ、それはずっと前から考えて・・・」
「僕はもっとだ。君は最初から僕にとってただの友達なんかじゃなかった。いつもパートナー以上の
気持ちを持っていたんだよ。“以上”なんかじゃすまない。ずっと僕には君しかいなかったんだ。」
スカリーの瞳が見開いた。
「僕の心の中には、いつも君がいたんだ、スカリー。僕の心の中はどんな場所にも君がいるんだよ。
僕の心はみんな君のものだ。君の恋人になりたい。僕のものになってくれるかい？スカリー。」
スカリーの微笑みが広がった。
「ええ、モルダー。ええ。」

「僕はこれから・・・」
僕が言葉を伸ばすと、スカリーの眉が上がった。
眉にそっとキスして一言づつ続けながら、キスを彼女の顔に降らし始めた。

「君の恋人だ」
彼女の鼻に。

「君のパートナーだ」
彼女の右の瞳に。

「君の親友だ」
彼女の左の瞳に。

「そして君の夫に。」
彼女の唇に口づけた。


スカリーは驚いて一瞬体を硬直させたが、全てを預けるように腕を僕の首にまわして、
僕の胸に体をもたれさせた。
僕をカウチの端に押しつけて、ささやけるほどの距離でスカリーは唇を離した。
「言って、モルダー。」
「言うって何を？」
「『愛してる』と言って。ちゃんと愛してるって言わないと、Yesなんて絶対に言わないわよ。」
「僕を愛してるんだろう？スカリー。」
「からかわないで。」
スカリーは僕の鼻をぎゅっとつまんだ。
「イテッ。愛してるよ、スカリー。たとえ君がいじめっ子でもね。」
「慣れるのね、生涯いじめてあげるから。」
「文句は言わないよ。スカリー、それってYesってことかい？」
「Yesよ、モルダー。愛してるわ。」
「愛してる。愛してるよ、スカリー。」
この言葉は、なんて甘く幸せな響きを持っているのか。
僕たちは微笑み合って、ゆっくりとキスした。

突然スカリーが僕の腕から飛び抜けた。
「あなたにプレゼントがあるのよ。そうね・・・来て。」
「どこにいくんだい？」
スカリーは僕の両手をつかむと、勢いよく僕を起こした。
「2階よ、モルダー。あなたが欲しいの。あなたと愛し合いたいの。」
手から、彼女が話しながら少し震えているのが伝わってきた。でも瞳は僕を捕らえて決して
離れなかった。僕は彼女を抱きしめてキスし、そっと耳にささやいた。
「もう僕たちはセックス以上に結ばれてるだろ？」
スカリーは頬を赤らめて、濡れた唇で僕にささやき返した。
「ええ、モルダー。でも私がしたいの。私が・・・感じたいの。あなたを、体の中でも感じたいの。」

僕たちは深く口づけ合った。まるでこの世に僕たちだけしか存在しないように抱き合った。
「本当かい？」
「ええ。」

僕は彼女を抱き上げようとかがもうとすると、スカリーは僕の肩に手を置いて止めた。
「ケガするわよ。暖炉の火を消してきて、私に少しだけ時間をちょうだい。
ちょっと、用意したいから。」
「からかってないかい、スカリー。」
「からかってないわ。」
スカリーは微笑んで首を振った。
彼女が2階へ行く前に、僕はもう一度キスした。
僕は何度も深呼吸して手で顔をこすった。

暖炉で燃えている丸太を崩して灰に埋め、火を消し、ドアや窓に鍵がかかっていることを確認して
全ての電気を消した。今朝彼女が買ってきた花の香りをかいで、キッチンのカーテンを閉めた。
もう何も時間を稼げることを思いつかない。
僕も2階へ上がっていった。

僕たちのベッドルームは一変していた。
平らなところ全てにキャンドルが並べられ、部屋に美しい光と幻想的に揺れる影を作り、
やわらかな甘いピーチの香りがうっすらと漂よっていた。
開いたままの窓のカーテンを閉めようと手に取って、ふと考えた。
きっとスカリーは開けておきたかったに違いない。
僕はカーテンを開けたままにして、月の光が窓から照らすままにした。
スカリーが着ていた服はアンティークのイスにかけられ、バスルームからシャワーの音が聞こえた。

僕はこの間に自分も何か準備しようと思い立ち、荷物からコンドームの箱を取りだして
ナイトテーブルの横に置いた。僕たちは二人とも健康で、必要だと思うか分からなかったが、
その時のために側に置いておきたかった。

ベッドの端に座って、何とか自分を落ち着かせようとした。
〈今夜が初めてだ〉
スカリーが僕とのことを後悔しないようにしたい。
〈絶対にだ。〉
ゆっくりと。全てをゆっくり進めよう。
優しく触れて、話しかけて、彼女のまなざしを見つめて、口づけを続けよう。
今夜僕たちは文字通り一つになるんだ。

バスルームのドアが開くと、スカリーは足下まで流れるような、薄いピンク色のシルクの
ナイトガウンをまとい、肌がキャンドルの光で金色に輝いていた。
唇は濡れたように艶があり、僕を見つめるまなざしは甘く、光の中に溶けそうだった。

「メリークリスマス、モルダー。」
スカリーは僕を見つめたまま微笑んだ。
「メリークリスマス。」
僕が答えると、スカリーはそっと近づいて来て、僕の顔を優しく手の中に包んでキスした。
彼女の肩の、糸のように細いストラップに指をかけながら尋ねた。

「これは僕にかい？」
「いいえ、中身があなたのものよ。」
「じゃあもう一度、very・メリークリスマス。」

笑っているスカリーを腕の中に抱きしめ、長い、長い口づけを交わした。
口づけはあたたかく、甘く、彼女の息を僕は呼吸し、僕の息を彼女が呼吸した。
お互いの舌を追いかけて、すべらせて口の中をくすぐらせ、溶けるような感覚を味わい続けた。
手はひどく懐かしがるようにお互いの体を確かめ合い、肌は魔法のように魅惑的で、言葉では表せ
ないほど柔らかかった。僕たちはお互いの匂いも声も知っているはずだが、この数日と比べものに
ならないくらい、僕たちの肌は触れた部分からびりびりとしびれていくようだった。

僕がキスして歯を立てると、スカリーはめまいがしそうなほどの甘い声を唇からこぼした。
スカリーの瞳は驚きと喜びできらめいていた。
なぜなら今夜は僕たちの本当の初めての夜になるのだから。僕たちが祝い、宝物のように心の中で
思い出し続ける、素晴らしい夜になるのだから。

僕はいつも今夜のことを思い出すだろう。

柔らかな甘いピーチの香りに包まれた部屋。
かがんだときに胸をくすぐる彼女の髪。
キャンドルの光に照らし出されたスカリーの肌。
あまりに柔らかくて、どこまでがシルクのガウンか、どこからが彼女のものか分からなくなる肌。

全てを脱ぎ捨ててお互いのまなざしを受け止め、そのまま口づけを続けた。
スカリーのハスキーな声が僕の愛撫の一つ一つに反応して、どれほど感じるか、
どれほど僕を愛してるかをささやき続け、僕の頬にはいく筋も涙が流れた。
僕もずっと、そしていつも彼女を愛し続けていたから。
気が狂いそうなほど、この瞬間を待ち続けていたから。

僕たちは荒い息を吐きながら、夢中であえぎだした。
「これはいいかい？」
「ああ・・・いいわ・・・」
体中がお互いを求めて熱く燃えていった。
スカリーが僕に膝をついてまたがり、僕自身を彼女にあてがって、ゆっくりと貫いた。
愛し合いながら僕に向ける彼女の妖艶なまなざし。
絶頂を迎えたときの彼女の美しく官能的な表情。
僕は自分も絶頂を迎えて蒼い水の中に沈んでいくような感覚になっても、目を開けて彼女を
見守り続けた。


今夜のことを忘れない。
僕が年を取り、人生が終わるときが来ても、ダナ・スカリーが喜びに笑う表情を、そして愛し合った
彼女の表情を、決して僕は忘れないだろう。



8　-　Ice　に続く

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8　-　Ice

“何でも願いを言ってごらん、僕は何でも叶えるよ。”

1.

腕を伸ばすと、そこにスカリーがいる。この僕の喜びが分かるだろうか。

ふと何かで目が覚めた。
悪夢でも、ただの夢でもない。もしかしたらただ隣にスカリーが寝ているという新しい事実に
嬉しくて目が覚めたのかもしれない。彼女がそうしたくて、僕を求めて、僕を愛して眠ったと
いう事実に。
この素晴らしい夜を、甘い夜をもっと味わっていたくて、自然に目が覚めたのかもしれない。

それとも燃え尽きたキャンドルの匂いで目が覚めたのだろうか。煙のような匂いが鼻を突いた。
スカリーは裸のままで、汗と、たった今までの情事の名残を残してお腹の上に手を乗せて眠っていた。
彼女の髪は乱れて顔にかかり、唇は微笑んでいるようだった。
僕はそっと彼女の髪を分け、耳の後ろに流した。
ベッドのシーツは彼女の腰までしかかかっておらず、彼女の美しい背筋が見えていた。

スカリーは美しく満足げな表情で眠っていた。
僕は彼女の背筋に指を走らせた。あたたかい。
僕はさらに彼女の方に寄り添って寝そべり、ひじを突いて頭を支えながら、彼女のシーツを
そっと下げた。

蛇が自らの尾を飲み込んでいる。緑や青で彩色されたtatooは、まるで洞窟の中に描かれた絵の
ように原始的で力強く、美しかった。
〈美しいよ、スカリー。〉
指をtatooにそってなぞり、彼女の肌に針が刺った時の痛みと恐怖を感じようとした。
僕はtatooにそっとキスした。そして蛇の動きのようにtatooの形を舌でなぞった。
おかしな感じだ。
まるで彼女の肌の一番強い部分のようだ。
もう一度tatooにキスして、彼女の顔を眺めるために少し起きあがった。

まだ彼女は微笑んで眠っている。
胸が痛くなるほど彼女は美しかった。

指を丸めてスカリーの唇の上をすべらせてみると、彼女は丸まって僕の指から頭を動かそうと動いた。
またすべらせると、また彼女も僕の指から逃げるように動いた。
しばらくの間そうして遊んで目を覚まさせようとしたが、あきらめてベッドから降り、まだ消えて
いなかった分のキャンドルを吹き消した。
部屋の中は、窓からさし込む月の光だけに照らされた。
ベッドに戻ってシーツや毛布をスカリーが温かく眠れるようにかけ直した。
彼女は何か寝言を言って、僕の方にすり寄ってきて、また眠りの中に戻っていった。

素晴らしい夜だ。
僕は腕の中に彼女を抱き取るようにし、顔中に、髪に、首筋にキスして目を閉じた。

外は凍てつくような寒さにもかかわらず、僕たちのベッドの中はあたたかく、まゆの中にいるように
お互いを包み込み、僕たちは眠った。

2.

何か温かくて濡れたものが僕の唇に当たった。そしてスカリーの肌の甘い匂いが僕の鼻をくすぐった。
僕は満足げにため息をつくと、腕を伸ばして彼女のヒップの間に指を忍ばせた。
スカリーは僕に口づけながらくすくす笑い、さらに深く口づけようとした。
僕は少し意地悪をしたくなって、わざと口を開かずに、彼女の舌が歯の上で困っているのを楽しみ、
スカリーはこのバリケードを何とか崩そうと、一生懸命にキスしてきた。
とうとう僕は彼女の誘惑に負けて口を開いて、彼女の舌にからみつけた。
手を僕の髪から首へ下ろしながら、スカリーはため息をついて僕の口の中で文句を言っていた。
もちろん僕は彼女のものだと言うことを、彼女は知っているのだ。

僕は降参して目を開けたが、暗くてあまりよく見えなかった。
心の中で肩をすくめてスカリーの体を抱きしめ、軽いキスを贈りながらまばたきして、
まつげでくすぐった。
スカリーは笑って僕の首の下に手を置き、支えるようにして僕を起こした。

静まりかえった家の中は、肌と肌が擦れ合う音、濡れた唇が口付ける音、彼女ののどから聞こえる
小さなあえぎ声だけしかしなかった。

僕はスカリーの肩に手を伸ばして肩胛骨に触れ、背筋をなぞり、僕の手にぴったりな形の彼女の
おしりを手で包んだ。
〈僕のものだ〉
体中に喜びがわき起こって笑い出したくなった。
〈スカリーは僕のものだ！〉

そして僕は彼女のものだ！彼女は僕以上に僕の体を使いこなしてくれるだろう。
僕には確信がある。

スカリーの脚がゆっくりと僕の脚をなで下ろした。そして手で僕の顔と髪を、首筋から胸へ
ゆっくり撫でていった。僕の手を取って、彼女の豊かなふくらみへ導き、僕の目をじっと見つめた。
僕は我慢できないように手で包んでふくらみをこねるようにもみ、サンゴの蕾を指でつまんで
まわすように愛撫し始めた。スカリーは僕の口の中で甘くため息をついて、僕の肺の中を彼女の
香りでいっぱいにした。
僕は手で包みながら彼女の蕾を吸い、なめ上げて優しく歯を立て、彼女が悦びの声を上げるまで
じらすように口の中で転がし続けた。

僕がなめ上げるように蕾を吸い上げたとき、スカリーは大きなあえぎ声を上げた。僕は唇を一旦
離してもう片方のふくらみを口に含み、同じように口の中で転がすようになめ、吸い上げた。
スカリーは僕から少し体を離すと、かがんで僕自身の先端にキスした。
僕は彼女を起こすと胸の谷間に舌をはわせ、お腹からおへその周りに舌を走らせ、彼女の脚の間に
口づけた。

彼女は無意識に小さなあえぎ声を出し続けた。そして腕を頭の上で組むようにして恥ずかしそうに
顔を隠した。敏感な突起へ舌をはわすと、深いため息をついて、ヒップを僕の顔に、もっととせがむ
ようにぴったりとくっつけた。
僕の全ての神経は、彼女に悦びを与えることに集中した。
絶えずなめあげる僕の舌で、彼女の敏感な突起は震えるように揺れて鼻先をくすぐった。
彼女の濡れた甘い蜜が太腿まで流れ、僕の顔中もぬらしていった。
彼女は僕が舌を使いながら、中指をそっと中に入れて、彼女の弱いところを探そうと動き続けると、
叫ぶようにすすり泣いた。

突然スカリーが体を引いた。僕はどうしたのかと座り込んだまま、彼女を見つめた。
スカリーは体を起こして僕にキスし、僕の顔中にもキスした。
スカリーは僕があぐらをかくように座ってる膝の上に乗り、脚を僕の腰にまわして密着させた。
彼女が受け入れる準備はできてるし、僕の準備もできてる。
僕は彼女のお尻を持って僕の上に導き、ゆっくりと彼女を貫くように差し入れた。
完全に彼女の中に飲まれるまで、お互いの感触に大きなため息をついて僕たちはあえいだ。

僕はスカリーのヒップを持ち上げ、腰と一緒に上下に動かし続けると、彼女はますます僕にしがみ
つくように首に腕を回し、彼女に深く突き立てるたびに、耳元で熱い息をこぼし続けた。
スカリーは僕の首筋に顔を埋め、あえぎ声はあふれる蜜と共に、どんどん熱く、早く変わっていった。
僕は貫くたびにうめき声を上げ、何とかゆっくりしたペースを保とうと歯を食いしばった。
スカリーはすすり泣くようにあえぎ、僕の首筋に歯を立て、肩に爪を食い込ませた。

僕の我慢は限界に達した。
これまで長かった。僕は長い間この時を待っていた。スカリーもこの時を待っていた。
僕はつながっている部分に手を伸ばし、僕が突き上げるたびに、指で彼女の敏感な突起をそっと
撫でた。
スカリーは叫ぶようにあえいだ。僕の顔を両手で包んで深く口づけし、僕たちの動きが早く、
激しくなっても唇を離さなかった。

キスをつづけながら僕は膝を起こして彼女を横たえ、つながったまま彼女の太腿を上げて、
彼女の中めがけて突進した。彼女のふくらみを両手でつかんで、僕が突くのと同じようにふくらみも
激しく揺さぶった。
彼女に苦痛でないか、彼女のためにスピードを落としたかったが、もう戻せなかった。もうダメだ。
もう何も考えられない。ただ僕は彼女に向かって腰を激しく打ち付けて、脈打つ僕の長さ全てを
彼女の中に埋め込み、もう止めることなどできなかった。彼女の中の燃えるような情熱が僕を
つかんで離さなかった。


僕はさらに深くはいるために彼女の太腿をさらに広げて腰に巻き、彼女が僕と一緒に絶頂を迎えて
欲しいと願いながら、激しく突き上げた。彼女の足は最大限に広げられてベッドの上で跳ね続け、
頭を大きくのけぞらせて弓なりになった。
僕は舌を絡ませて深くキスすると、彼女の歯が僕の舌の上ですべり、ほとんどかみつくように舌を
刺激した。

突然彼女の全身が一瞬こわばり、爪を僕の肩に思い切り立ててのけぞった。
そして大きく長く叫び声を上げ、体が震えた瞬間、突き立てていた僕自身が何百本もの指で一斉に
握られたように捕まれ、僕は快感に叫び声を上げた。
僕の体はもう抵抗できなかった。そして僕自身を彼女の中で一斉に解放した。

心臓が破裂しそうに鼓動し、息が切れて彼女の上に崩れ落ちて動けなかった。
しばらくして、優しくスカリーが僕の胸を押した。僕がそっと体を離して引き抜くと、二人とも
ため息をついた。スカリーは眠そうに微笑みながら僕にキスし、胸元に頭を置いて僕に寄り添った。
すぐに彼女は眠りに落ち、僕はその天使のように美しい寝顔を少しの間だけ見つめることができたが、
僕もまたすぐに眠りに落ちていった。


3.

朝日の中で目を覚ますと、スカリーはバスローブを着てベッドのそばのアームチェアに座っていた。
スカリーは僕が目を覚ましたのに気が付くと微笑んだ。
「メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」
僕は目をこすりながら起きあがった。
「よく眠れたかい？スカリー。」

「ええ、とっても。途中に少し起きたけど・・・。」
スカリーは赤くなって僕から目をそらした。
「僕は幸せだったよ。」
「そうね。」
スカリーは笑ってアームチェアから腰を上げて、ベッドに近づいた。

「サンタクロースは来たかしら？」
「ああ、来たよ。プレゼントを置いていった。Heyスカリー、おいで。」
僕は彼女を優しく腕の中に包んだ。
「体は大丈夫かい？」
「もちろん大丈夫よ。そうね、少し・・・自分の大胆さに驚いただけ。」
「僕は好きだよ、スカリー。」
「ええ、多分そうだと思ったわ。私も好きだわ。」
スカリーは笑って僕の首に腕をまわした。
僕は彼女にキスして髪に指をすべらせた。
「すごい寝ぐせだ。」
「あなただってそうよ。」
スカリーは両手で僕の髪に手を入れて髪をすいたが、少しも直らなくてしかめっ面をして言った。
「小さい頃、針金みたいな髪の男の子だったでしょう。」
「もやしみたいな頭だったよ。」
「フフ、もやしのほうがもっとましだったかもよ。」
スカリーは指で髪をすいて遊び、両手を僕の首の後ろにまわしてためらうように僕に聞いた。

「モルダー、あの時言った事は本当？」
「言った事って？」
僕は彼女のローブの帯を引っ張って、結び目をほどきながら言った。
「結婚してくれって言ってたことよ。」
僕は結び目をほどくのも忘れて彼女を見上げた。
「当たり前だろう、本当のことだよ。僕がふざけて言ったとでも思っていたのかい？君はYesって
言ってくれたじゃないか。本当じゃなかったのかい？」

「本当よ、本当のことを答えたわ。あなたにうそはつかないもの。」
「愛してる。ああ、スカリー、愛してるよ。」
「私も愛してるわ、モルダー。」
僕たちは深く口づけ合い、きつくお互いを抱きしめた。

「スカリー、これから難しくなるな。」
「そうね。」
「あいつらは僕らを傷つけるのをやめようとはしないだろうな。」
「ええ。でも怖くないわ。」
スカリーは急に笑い出した。
「そうよ、モルダー。私は怖くないわ。」

「そうだね、スカリー。君は勇敢だよ。」
「勇敢？違うわモルダー、私が一人の時は、勇敢なんかじゃなかったわ。ただ傷を抱えた
“ダナ・スカリー”なだけだったのよ。でも今は違うわ。私にはあなたがいる。そう感じるのよ。」
「その通りだよ、baby。」
僕たちはお互いの顔中にキスし合った。
「あなたにbabyなんて呼ばれるのね。」
「僕は君の・・・」
僕はスカリーが、僕のことを名前以外で読んだことがないことを思い出した。
「私の“モルダー”よ。ずっと私の“モルダー”。」
「君の全てに。」
「あなたは全てよ。」

いつの間に開けたか覚えてないほど素早くスカリーのローブを開けて、飢えたように彼女の素肌に
手を走らせながら、彼女の唇をむさぼった。
クリスマスは後でも祝える。

キスを続けながら、スカリーは僕の腕の中からそっと抜け出そうとした。
「どこにいくつもりだい？」
僕は腕を放さずに、彼女の唇の上でささやいた。
「バスルームよ。シャワーを浴びなきゃ。」
「まったくスカリー捜査官・・・。」
「じゃあ、一人でお風呂に入る方がいいかしら？」
「シャワーだよ。シャワーがいい。」

スカリーは僕の手をバスルームまで引っ張りながら、バスローブを肩からすべらせて脱いだ。
そしてシャワーからお湯を出して温度を確かめ、カーテンにつかまりながらバスタブに入って
気持ちよさそうに目をつぶり、シャワーに打たれた。
「モルダー？来ないの？」
僕はすぐに彼女のそばに飛び込んでカーテンを閉めた。シャワーからのお湯の熱気が僕たちを包んだ。
スカリーは目を開けて微笑み、僕の首を引き寄せてキスした。
スカリーはシャワーが僕たち二人に降り注がれるように向きを変え、フワフワしたスポンジにボディ
ソープをつけて泡立て始めた。彼女が腕を上げると、泡が彼女の肘を伝って体に流れていった。

スカリーは微笑みながら、スポンジで僕の胸や首を洗い始めた。
「君の香りがするよ。」
僕は目を閉じてささやいた。
「ラベンダーの香りよ。ラベンダーの香りって好きなの。スパイシーで、重すぎなくて、とても
爽やかで・・・草原の上にいるような香りだと思わない？」
「ああ・・・」
「頭痛にも効くのよ。」
驚いて目を開けた。
「頭痛があるのかい？」
「いいえ、ただ私の秘密の解消法を教えてあげたのよ。学生の頃に発見したんだけど、頭痛がする
ときにラベンダー・スプレーを顔の上にすると、すっきりとして治るのよ。覚えておくといいわよ、
モルダー。いつか役に立つかも。」
「じゃあ、僕が頭痛の種になりそうな時は、あらかじめ用意しておくよ。」
「そうしてくれる？」
スカリーは笑って僕の耳からあご、首から肩を洗っていった。そして腕から手、胸から腹。
それから・・・スカリーは微笑みながら優しく僕の分身を丁寧に洗ってくれた。僕は壁に手をついて、
彼女が洗いやすいように足を開いた。

僕は子供の時以来、誰とも一緒にバスタイムを過ごしていなかった。驚きと、優しさと、これまで
想像したことがないほどエロチックな雰囲気だった。

とうとう洗い終わると、スカリーは立ち上がってスポンジを横に置いた。
「あなたのシャンプーは別のバスルームに置いてあるのよね。」
「ああ。」
「私ので洗ってもいい？」
「ああ。」

スカリーは手にシャンプーを取って、手の中で泡立て始めた。
「頭を下げて、モルダー。髪が濡れてないわ。」
僕は頭を下げてシャワーを浴び、顔と髪を濡らした。
スカリーが僕の髪をこすり始め、指で優しく洗い始めた。今度はシャンプーの香りが広がった。
「この香りも君のだ。“グリーンアップル”。」
「いい香りでしょう？」
「うん。」
「このシャンプーは薬品ぽい匂いがしないから好きなの。」
「ああ。」

スカリーは指を優しく動かしながら、僕の頭皮をマッサージした。
「少しかがんで、モルダー。背が高すぎるのよ。」
「ああ、ごめん。」
僕が前にかがむと、スカリーが僕の顔から泡を拭いた。
「目にはいると痛いから。」
「ありがとう。」
スカリーは僕をシャワーのお湯の方に寄せて、指を使いながらシャンプーを洗い流した。
「コンディショナーを使っていい？」
「いいよ。」
「シャンプーと同じ香りよ。」
「いいね。」

シャンプーの時と同じように、スカリーは優しく僕の髪にコンディショナーをしていった。
僕は目を開けて彼女を見つめたかったが、多分僕が見つめないでいた方が彼女がやりやすいだろうと
思って我慢した。
僕は彼女が届きやすいように前にかがんで、彼女の小さな手が、小さいけど強くて優しい手が、
僕の頭をマッサージしている動きに気持ちを集中させた。

スカリーはまた僕をシャワーの方に導いて、コンディショナーを洗い流した。
「できたわ。これで外に出ても大丈夫ね。」
「今日どこかに出かけるのかい？」
「いいえ、家でずっとあなたとこうしてたいわ。」
僕は目を開けてスカリーを見つめた。彼女の瞳は蒼くきらめいて、頬はバラ色に上気していた。
僕は微笑みながら、そっと彼女の固くなったサンゴに指を走らせてささやいた。
「今度は僕が洗ってあげるよ。」

スカリーも微笑んで、スポンジを僕に渡した。

4.

長く官能的なバスタイムの後、僕たちは暖炉の前にバスローブ姿で横になった。
クリスマスの朝のごちそうはまた別の日に食べることにして、シリアルを食べて二人でゆっくり
過ごすことにしたのだった。

スカリーはクリスマスソングのＣＤをかけ、僕たちは床に寝ころんでプレゼントを囲み、
ブラウンシュガー味のキスと一緒にプレゼントを交換した。
そして僕たちは数え切れないほどたくさんのことを話した。

「スカリー、僕たちは恋人としてどんな風に振る舞うのかな。」
僕はスカリーがプレゼントしてくれたブルーのカシミアセーターの上に横になりながら質問した。
「どうって？」
「実際の生活でさ。僕は誰からもクリーニング屋からシャツを取ってきてくれと頼まれたことも
ない男だよ。」
「私が前に一度頼んだわ。」
「ああ、そうだった。あの時は喜んで取りに行ったよ。とにかく僕の話だけど・・・僕たちが恋人に
なったからって、生活では大きな変化はないんだよ。」
ちょっと言葉を切って、わざとらしく眉を上げた。
「つまり僕たちはずっと恋人のように暮らしていたんだ。僕たちは一緒に旅行して・・・」
「仕事のためにね。」
「一緒に食事して。」
「仕事の時にね。」
「一緒に暗いところで張り込みして。」
「それも仕事よ。」
「持ち物を共有して。」
「モルダー、私たちは長いことパートナーとして生活していたのよ、私たちの愛は・・・
車を借りるとか私の部屋にひげ剃りを置いていくとか、そんなことでは表せないでしょう、
まあでもこれで、あなたの部屋を少し整理する権利は得られたのかもしれないわね。」
スカリーは僕にニッコリ笑って見せた。
「僕たちが一緒に暮らす場所を見つけるまではね。」
「そうね・・・あなたと一緒に暮らすって、考えてるより面白いことかもしれないわね。」
「僕と暮らすのは難しいと思っているのかい？」
「そうね・・・。」
「スカリー。」
「ええ。難しいと思うわよ、気むずかし屋さん。長い間独身の男性はかなり強い癖や習慣がある
場合が多いわ。」
「誰でも長く一人暮らしすれば癖ぐらいできるよ。僕たちなら例え悪い癖でもうまくかみ合って
やっていけるさ。」
「そうね・・・・ん。」
スカリーは笑って、僕がプレゼントした香水を手首に吹き付けて香りを試した。
「香水売り場の人は僕をバカだと思ったんだ。欲しい香水の名前を言ったり、聞いたりもせずに、
ひたすらカウンターの上の香水を全部嗅ぎまくっていたから。」
「なぜ聞かなかったの？」
「僕の好みを探してたんだよ。」
「それなら嗅いでばかりいないで一言、『僕はこんな香りが好きなんだけど、そう言った香りは
ありますか』って聞けばすぐ済んだのよ。」
スカリーは僕にパンチするようにシュッと腕を出した。僕は手首をそっとつかんで匂いを嗅いだ。
「やっとこの香りが気に入ったんだ。」
スカリーは香水のボトルを横に置いて僕にキスした。
「一生懸命に探してくれたのね。」
やわらかな声でささやき、もう一度キスした。
「これはごほうびかい？」
「おしおきのほうがいい？」
「ああ、いや、これで・・・んん。また僕の口を封じる気かい？僕は今重要な話をしようと
してたのに・・・スカリー、僕はもうずっと昔から本当に君のことを愛していたんだ・・・
それを何年間も、君にずっと伝えたかったんだよ・・・ちゃんと君に伝わっているかな？」
スカリーは僕の胸元に頬ずりして微笑んだ。
「伝わってるわ、モルダー。とても、とても伝わったわよ。」
「時々こんな事も考えたんだ。もし僕たちがＸファイルでなく、もっと普通の出会い方を
していたらってね。」
「もし普通の状況で会ったら、あなたは私ともう一度会おうとはきっと思わないわね。」
「そんなことはないよ、どんな状況でも、絶対に君が僕にとって唯一の人だって事が分かるよ。」
「あら、そう？」
「ああ、そうだよ。例えば僕たちが本屋で出会ったとするよ、君は『人体の成長』コーナーに
いたとする。」
「『参考文献』よ。」
僕の横に寄り添いながら訂正した。
「OK『参考文献』だ。君がその『参考文献』コーナーにいて、本を読んでる。タイトルは・・
『アインシュタインを超えて』だ。そんな本を読んでる君を見て、顔がかわいいだけじゃなくて、
かしこくて、それにいい脚をしてるなって思うんだ。」
「いい脚、なるほどね。」
スカリーは笑い出した。
「そうだよ、かわいい脚だよ。細くて、丸いピンク色の膝小僧で、きゅっと締まったかわいい足首を
してるからね。ヴィクトリア時代の男達がかわいい足首を持った女性を愛したのは知ってるだろう？」
「その時代の服装で足首が見えるの？」
「レディが馬車から降りようとするときに少しだけスカートを上げてチラッと見せるだろう、
男はそれに釘付けになって胸をドキドキさせてたのさ。」

「とりあえずわかったわ、それで『参考文献』のコーナーで何が起きるの？」
「そう、『参考文献』コーナーだ。僕は君に近づいて『短い歴史の時間』を読んだことはありますか、
って尋ねるんだ。」
「そして私は、ええ、もちろん読みました。って答えるのね。」
「僕は、コーヒーを飲みながら教えてもらえますか？って続けるんだ。」
スカリーが大笑いした。
「モルダー、あなた私の卒業論文の内容知ってるじゃない。」
「別にいいんだよ。君と知り合うきっかけになればいいんだから。今僕たちは“普通の出会い”を
話してるんだから。」
「ああ、そうだったわね。」

「とにかく、僕は君の大笑いを無視して提案するんだ。君は僕のバカな提案を受け入れてくれて、
一緒にコーヒーを飲みに行くんだ。そして僕たちは素晴らしい時を過ごす。君は僕の男らしさと
ウィットに富んだ会話に魅了されるんだよ。」
「あなたは？まだ私に魅了されないの？」
「僕は君がアインシュタインの本を読んでセクシーな靴を履いてる姿を見たときから魅了されて
るよ。」
「なんなのそのセクシーな靴って。」
「持ってるだろう？グレーのスエードでヒールの高い君の靴のことだよ。それを見るたびに男が
どんな気持ちになってるか、知らないだろう。」

「今度履くときは考えるわ。」
「うーん・・・僕がいないときはそうしてくれ。とにかく、それから僕たちはデートするんだ。
ランチに待ち合わせて・・・」
「OK。」
「僕は君の警戒を解いて、心の中の高い壁を少しずつ取り壊すんだ」
スカリーはしばらく黙った。
「高いかしら。」
「ああ、そう言う意味じゃないよ。誰だって警戒するだろう？僕はお洒落で流行ってるレストランに
君を誘って、チケットを渡すんだよ・・・そうだな、シェイクスピアのような劇のチケットを。」
「シェイクスピアは好きよ。」

「OK。シェイクスピアの劇だ。そして僕たちは劇を観てディナーを楽しんで、さらにお互いに魅了
されるんだ。周りの人はそんな僕たちのことを『なんて美男美女のカップルなんでしょう』って
顔で見てるんだ。」
「別に注目されないわよ、モルダー。」
「きっと注目するよ。みんな君を見てこう思うんだ『なんてきれいな美女なんだろう、一体あの
バカな連れと何をしてるんだ？』ってね。」
「あなたはバカなんかじゃないわ。」
「まあ、変人かもしれないけどね。」
「変人でもないわよ。」
「ありがとう、スカリー。レストランでは僕がおごってあげて、まだ家に帰りたくなくて、
僕たちは公園に散歩に行くんだ。靴を脱いで、裸足のまま芝生の上を手をつないで歩くんだ。」

スカリーの手が僕のバスローブの中に入って胸に触れた。
〈また欲しいのかい？僕はOKだよ。〉
彼女にほほえみかけた。

「歩きながら僕たちは気付くんだ。このひとときで心が通じ合えたことをね。そして月に照ら
されながら僕たちは見つめ合い、キスして、お互いに『愛してる』とささやき合うんだ。」
スカリーはため息をついた。
「おとぎ話ね、モルダー。」
「まだ終わってないよ、スカリー。ハッピーエンドを話してない。“僕たちは結婚して、悪党を
追いかけていつも愛し合いながら、末永く幸せに暮らしました。”」

スカリーが静かにため息をついた。
「5年かかったわ。今になるまでに5年もかかってしまったわね。」
「確かにそうだけど・・・僕たちはこれからの長い人生を、ずっと共に生きていくんだよ。」
スカリーはまたため息をついて、僕の胸から手を引いた。
「そうね、でも人生が後どれだけ残ってるか分からないわ。」
「スカリー、永遠という時間だって人間には知りようがないんだよ。僕はあまりにも何度も君を
失いそうになったから、毎日を悔いなく生きるようにしてるよ。」
スカリーは肘を立てて体を起こし、僕を真剣な瞳で見つめた。
「私もそうよ、モルダー。」

僕は彼女の顔を手で包み込んで、優しくキスした。
「多分君以上だよ、スカリー。」
「十分すぎるほどあなたは行方しれずになったり、死にそうになってたわ、モルダー。
名前を挙げてほしい？シベリア？ニューメキシコ？カナダ？もっと前は北極？」
「一緒に行ったら、戻ってこれないかもしれなかったんだ。だから僕一人で行ったんだよ。」

スカリーは指を僕の唇の上に置いた。

「モルダー、私を必ず連れて行って。私は行くわ。あなたが戻れないなら、私も戻らない。
あなたのそばから離れないわ。」
「スカリー・・・」
「それが条件よ、モルダー。あなたが危険を冒してるときに、座って待ってなんかいられないわよ。
あなたを永遠に失ったのか、それともただ帰りが遅くなっただけなのか、ただ家で待ち続けるのは
まっぴらだわ。そんなことをしてたら結婚してもうまくいきっこないわ、モルダー。」
僕はため息をついて彼女の手にキスした。
「OK、わかったよ。もうこの話はやめよう。でも、僕からも条件があるんだ。」

「何？」
「君の体調や気持ちを聞いたときに、いつまでも“I'm fine ”と言い続けるのはやめて
ほしいんだ。」
「本当の事よ。」
「スカリー、君はどんなに心も体もつらいときだって僕にそう言い張るじゃないか。
僕にはもう、本当のことを言ってくれ。」
「わかったわ・・・やってみるわね。」
「ああ。これから始めよう。」

スカリーはまた横になって、頭を僕の胸に乗せた。
「あなたに何も隠さずに気持ちを伝えられるのって、嬉しいことだと思うけど、性格を直すのって
難しいわね。」
「そうだな。僕たち二人ともさ。もう隠し事無しで気持ちを伝えるんだ、いいね？」
「わかったわ・・・でも時には愛してるからうそをつく時がないかしら。」
「これからの僕たちにはないさ。」
僕は確信してうなずいた。だが同時に、ずっと彼女に伝えていない秘密のことを思い出した。
このことは彼女に伝えなければならない。彼女に伝えられずにずっと心の中でしまっておいた秘密を。

でもまだ、今は言えない。時が来れば必ず伝えられるだろう。
きっと・・・できるのか？





→9　-　Hold On　に続く