DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
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TITLE : Fumbling Towards Ecstasy

作：Jenna Tooms　　訳:tomo

5　-　Mary

“手を取ると彼女はおまえを炎に導いていく
　おまえに希望を取り戻させるために
　おまえが持とうとしなかった希望を”


1.

ここはいつものカウチの上でも僕のベッドの上でもない。
ずっと浅い眠りが続いていて、真っ暗な中自分がどこにいるのか分からなくなっていた。
そしてふと思い出して、ニヤッと笑った。

僕はスカリーにどんな夢を見たのか教えてあげよう、と体を縮めて腕を伸ばしたが、
手はシーツ以外何も触れず、ベッドはからだった。
一体どこへ？
〈やっぱり急ぎすぎたのか？〉

スカリーを探そうと、ベッドから起きあがろうとして体を動かしたら、背中に激痛が走った。
背中に焼けた鉄棒を押しあてられたような熱と痛みが骨盤の方まで走り、奥歯を強く噛んで
息を止めた。
寝る前にスカリーが手当をしてくれていたにもかかわらず、痛みは強くなっているようだった。
「スカリー？」
返事がない。咳払いして大声で読んでみた。
「スカリー？来てくれスカリー！」
スカリーが裸足で走ってくる音が聞こえ、すぐに彼女が冷たく優しい手で、熱くなった僕の背中を
慎重にマッサージし始めた。
「無理して動いたの？モルダー。」
「ただ立とうとしただけだよ。どこに行ってたんだい？」
「少し下に行って気分を落ち着けてたのよ、横になって。整体に行った方がいいんじゃないかしら、
モルダー。」
「君がそうしてくれてる方がいいよ。」
僕は枕に顔を埋めて息を整えた。マッサージされるとそのたび痛みも走ったが、さっきのような
激痛からは解放されていった。
「がまんできる？もっとベッドが固い方が背中にはいいんだろうけど・・・。」
「床に寝よう。君もその方がやりやすいだろう？」
僕はベッドから膝を起こして起きあがり、床にうつぶせに横になった。スカリーの手のひらと指が
背中を流れるように動き、彼女は慎重にまたマッサージを始めた。
痛みが彼女の手のひらに吸収されるように消えていって、眠気が戻ってきた。

スカリーはベッドから枕と毛布をひっぱり寄せて僕にかぶせ、キッチンへ新しい湿布と痛み止めと
水を取りに行ってくれた。僕は痛み止めを急いで飲み込むと、枕に頭を乗せて床に横になった。
僕はスカリーはベッドに戻ると思ったが、彼女も枕と毛布をベッドから持ってくると、僕の背中に
くっつくように横になり、腕を伸ばして僕の胸に手を置いた。スカリーは僕よりずっと小さいけれど、
彼女の包み込むような暖かさが全身に広がっていくのを感じた。
「眠って、モルダー。」
スカリーがそっと僕の頬にキスしてささやいた。
「おやすみ、スカリー。」
スカリーは僕の胸を優しくなでた。

僕たちは静かに横たわっていた。
今夜僕たちはいろんな思いを込めてベッドで横になった。一緒に寝たいと熱望して。
でも今その熱望はどこか変わった・・・何だ？スカリーはあきらめたのだろうか？
「スカリー、眠ってるかい？」
「いいえ、もっとマッサージしてほしい？」
「大丈夫だ。どうして気分を落ち着けに行ってたんだ？」
「え？」
「さっき『下で気分を落ち着けてた』って言ってたじゃないか。」
「ああ、そうね。」
スカリーはため息をついて僕の胸に置いていた手を下ろした。
「息苦しくなって目が覚めたのよ・・・胸がドキドキしてたわ。それで下に降りて水を飲んで、
あなたに呼ばれるまでカウチでうとうとしていたの。」
「もういいのかい？」
「ええ。ただ・・・言ったでしょう。これまで誰かと一緒に朝まで過ごしたことがないって。
ずっと・・・。今夜もパニックになってしまったのよ。」
「僕は安全な男だよ。」
スカリーはくすっと笑った。
「わかってるわ。でもそのせいじゃないのよ。」
「じゃあどんなことだい？」
僕は体の向きを変えて、スカリーの瞳を見つめたかった。
彼女にキスして息がこぼれるほど抱きしめて、どれほど愛してるかを彼女に伝えたい。
全てを受け止めると、全てうまくいくんだと、スカリーに伝えて安心させたかった。

スカリーのあたたかい息が首の後ろにかかった。
彼女は僕を後ろからきつく抱きしめて言った。
「あなたと一緒にいたいのよ。ただそれだけ。」
僕は彼女の手に自分の手を重ねた。
「また目が覚めたら僕を起こして。そして話そう。」
「話は・・・。」
「じゃあ、起こしてくれるだけで。いいね。」
「眠って、モルダー。」
「僕を起こすと約束してくれ。」
「きっと起こすわ。お休みなさい、モルダー。」

でも僕はずっと目を開けて眠らなかった。スカリーの手を握ったまま、ずっと彼女の呼吸を
聞いていた。

2.

朝起きるとスカリーの目には床のしみの模様がすぐ目に入っただろう。
スカリーの顔を手で包んで親指でゆっくり撫でながら謝った。
「ごめんよ、スカリー。つきあわせちゃったな。」
「平気よ。」
スカリーは肩をすくめた。
「床で寝て僕は体がこったよ。少しジョギングでもすれば良くなると思うんだけど。」
「まだ走らない方がいいわよ、特に一人でなんて。また転んで起きあがれなかったら・・・」
「レスキュー隊でも呼ぶよ。」
「まじめに言ってるのよ。とにかく一緒に行くわ。あたたかくして散歩しましょう。」
「ハーイ。わかりました、ドクター。」
スカリーは眉をひそめたが、顔は笑っていた。

「何だい？ドクターじゃいやなのかい？じゃあ何てニックネームをつけようかな。」
「『スカリー』でいいわよ。」
「『だっこちゃん』は？」
「モルダー・・・。」
「Sugar Britches（ズボン）は？」
スカリーは笑い出した。
「やめて、モルダー」
「『僕のかわいい lamb chop o'love（子羊ちゃん）』は？
「そんなこと言ったら『ペテン師モルダー』って呼ぶわよ。」
「やめてくれ。」
僕は彼女の膝をペシッと軽く叩いた。
「さあ、起きる時間だよ G-woman。」
「まだその呼び方の方がいいわ。」
スカリーは起きて腕を上に伸ばしながら言った。そして伸ばした腕を足の方に下げて、
手のひらを床にぴったりつけた。
〈wow、体が柔らかいんだな。〉
「モルダー、あなたも一緒にヨガをしたほうがいいかもね。」
「僕がヨガをしてる姿を想像できるかい？」
「やってみればいいのよ、G-man。さあ、どっちをしたい？ヨガ？それとも散歩？」
「散歩がいいな。君さえ良ければ。」
「私は昨日ヨガをしたからまだ調子良いわ。」
スカリーは柔軟体操を続けながらニッコリ笑って言った。
〈毎朝やってるのかな？〉
僕は手を頭の後ろで組んで横になった。そして彼女を見ると、すごくいいことに気が付いた。
スカリーが手を床につけるためにかがんだときに、チラチラとパジャマから胸の谷間がのぞいていた。
「降参、降参。」
僕が見ているとスカリーは輝くような微笑みをくれた。
「起きて、モルダー。散歩に行きましょう。」

3.

今朝は雪が降っていた。空は鉛色で、森は小鳥の声さえせずに静まりかえり、雪が溶けて枝から
落ちる音も、風が通り抜ける音もしなかった。ただ静かに雪が降って、全ての景色が僕たちの
周りで時を止めているようだった。
スカリーと僕は手をつないで歩いた。
僕は背中さえ痛くなかったら雪で天使の像を作ったり、雪を丸めて彼女と雪合戦をしたいと思って
いた。
一歩一歩用心深く歩くと、スカリーがしっかりと小さな手で、僕の手を握って歩くのを支えてくれた。
夜のような急激な痛みはなくなり、道にはった氷ですべったときにだけ軽い痛みが走るだけだった。
たぶんもう2、3日ですっかり良くなるだろう。

「Hey、スカリー。僕にクリスマスソングを教えてくれよ。」
「何の曲を歌いたいの？」
「明日のイヴに町の人たちは何を歌うかな。」
「あら、あなた行きたいの？」
「ああ。君は？」
「ええ。」
スカリーはためらいがちに言った。僕は不思議に思って彼女を見つめた。
「私は・・・邪魔されたくないのよ、他の人たちに。わかる？モルダー。」
スカリーはため息をついて言った。
僕は微笑んでスカリーの頬を手で包んで蒼い瞳を見つめた。
「よくわかるよ。」
「それでもあなたは行きたい？」
「ああ。他人に僕たちの邪魔なんかできないよ、スカリー・・・。僕は君のことしか考えていない
からね。でもスカリー、D.Cに戻ったとき、僕たちの関係はどうなるのかな。」
僕はずっとスカリーにこう聞くことをためらってきた。でももう待てない。
スカリーはまたため息をついて僕の手を取ると歩き始めた。
「わからないわ・・・もし私たちが・・まだ・・・。」
スカリーの頬が赤くなった。寒さのせいでじゃない。
「ここから、きっと変わると思うわ。」
「それに前の僕たちからも変わる、だろ？」
「ええ。以前の私たちから変わるわ。」
スカリーは緊張したように僕を見た。いや、怖がっているように。

僕は立ち止まって彼女をそばに抱き寄せた。
「以前よりずっといいんだよ。」
優しくスカリーにささやいて、彼女の頭の上にキスした。
スカリーは頬を僕の胸にすり寄せてきて、僕は何度も彼女の頭の上にキスを降らせた。
彼女の傷の上も。
僕は指でそっと傷に触れてささやいた。
「スカリー、ヤツを訴えようと思ったことはあるかい？」
僕はスカリーが低く、くすっと笑う声を聞いた。
「モルダー、私は彼のラストネームも知らなかったわ。」
「でもヤツを知ってるだろう・・見ただろう？」
「それにもうとっくに時効になるわね。」
「でも裁かれるべきだと思うだろう？」
僕がそう言うとスカリーは顔を上げて悲しそうに微笑んだ。
「たとえ裁かれても私の傷は癒えないわ。」
「ひとつの答えにはなるはずさ。ヤツは・・・」
「シーッ。モルダー、私は司法で復讐したいわけじゃないのよ。」
「復讐なんかじゃないだろう？スカリー。これは当然のことだよ。当然ヤツは裁かれるべきなんだ。」
「そうね。でも私はもう彼がどこにいるのかなんて知りたくないのよ。事件的に言えば未解決って
事になるんでしょうけどね。」
スカリーはつま先立ちして、そっと僕にキスしてまた胸に顔を埋めた。
「でも、スカリー・・・」
「モルダー、このことで私は強くなったわ。自分に強く生きてきたのよ。それにこれは親友のあなた
にしか話せないことなの。弁護士や判事や陪審員達や・・・TV裁判だって話すつもりはないのよ。
そのままにしておいて、モルダー。」

スカリーの親友。
君の親友。
どんなにその言葉が胸に響くか。
それは君が誰かに『ミセス・モルダー』と呼ばれてるのと同じくらい幸せな響きだ。

スカリーにキスを返すと、僕たちはお互いの腰に腕をまわして歩き出した。
「それでスカリー、君の・・・別の問題のことだけど。」
僕はついに話し出した。
「私がセックスしても感じないって事？」
「あ・・・ああ。例えばだけど、なにか代わりの事を考えた事ってあるかい？」
「代わりの事って、どういうこと？」
「え？だから・・・例えばほら、いろいろ・・技とか・・・」
なんとかデリケートに言おうとしたが、うまくいかない。
「そんなことはないわね。」
「前に・・・君がつきあった男とは・・・。」
「説明するのは難しいわ。」
「何も感じなかったんだろう？」
「そういうことでもないわ。」
「ならどんなことなんだい？教えてほしいんだ、スカリー。」
僕がそう言うと、スカリーはこれまで見たことがないほど顔がまっ赤になった。
「時々思い出すとドキドキすることがあるわ。」
スカリーは僕と決して目を合わさずに話し出した。
「想像の範囲でだけど、そういう時はあるわ。」

「昨日のことは思い出さない？二人でバスタブに入ったことは？」
「あれは想像じゃなくて、現実のことでしょう、モルダー。」
「君は僕とのことを想像したって言ってただろう？」
〈何で僕はスカリーにこんな事言ってるんだ？対抗心か？自己満足なのか？ただ嬉しかった
からか？〉
スカリーには、僕が嬉しかったからだと聞こえてほしいんだが。
「ええ・・・そうね。そうだわ。」
僕はスカリーの腰に腕をまわしてしっかりと抱き寄せて、かがんで彼女の耳に低くささやいた。
「僕もだよ、スカリー。僕も君とのことをずっと想像してた。」
「モルダー・・・。」
スカリーは爪を僕の腰にたてて、ため息のように言った。
「昨日の事は、僕が君とのことを想像した千以上の中の、まだたった一つ目なんだ。」
「もう・・・」
「君はどんなこと想像したの？スカリー。僕は最大限に実行してみせるよ。」
「モルダー私・・・」
スカリーは息を飲み込んでから、僕が聞いたことがないほど、まるで小さな少女のように弱々しく
言った。


「モルダー、今はただ一緒にいて・・・待っててくれる？その時になれば・・その時も一緒に
いるんだから、何でもできるわ。今は・・一緒に待っていてほしいの。」
「その時って言うのは、例えば今夜かい？」
「わからないわ、もしかしたらね。お願いだから急がせないで、モルダー。
私はまだ自然な準備が・・・例えばあなたが今この雪のなかでもしたいと思っても、私の体は
まだついていけないのよ。」
「ここじゃ僕だって寒すぎるさ、スカリー。」
僕はできるだけ明るく言った。こんなにおびえている彼女を見た時はいつ以来か・・・まるで彼女に
銃を突きつけた事件の時のように。でもスカリーは声とは反対に、僕の腰をしっかり抱きしめていた。
スカリーは僕の目をじっと見つめて、ゆっくりつま先立ちして僕の頭を彼女の方に引き寄せた。
僕は彼女のあたたかな唇に触れたとき、彼女が僕を信じてることを感じ取った。
僕の体も唇から徐々にリラックスして暖まっていった。

僕たちがキスしてると、空から雪が舞い降りてきて、一片の完璧な形の雪の結晶がスカリーの髪に
とまった。

「まるで天使のように見えるよ。」
僕が言うとスカリーは美しく微笑んだ。
「モルダー、急いで家に帰りましょう。背中が良くなったら一緒に雪で遊びましょう。」

〈どこででも君と一緒にいたいよ、スカリー。〉

僕たちは雪の中を歩き続けた。


4.

ここにきてから、僕はスカリーの想像以上に家庭的な面を知っていった。

散歩から帰ると、僕たちはシャワーを浴びて朝食を食べた。
そしてスカリーは僕をキッチンから追い払うと何か作り始めた。
仕方なくカウチに横になって小説を読もうとしたが、しばらくするとキッチンから焼けたパンや砂糖、
香ばしいシナモンの匂いが漂ってきてがまんできなくなった。
そっとキッチンに近づいて、砂糖やチョコレートで飾り付けされたクッキーをつまみ食いしようと
したが、すぐスカリーに見つかってしまった。

「だっていい匂いなんだよ、スカリー。」
上目づかいにして彼女に頼んだが効き目はなく、
「これはクリスマスのために作ってるのよ。あと2日くらい我慢できるでしょ。」

仕方なくまたカウチに戻って小説を読み、コーヒーでも飲もうとしたが、今度は別の理由で本に
集中できなくなった。スカリーがまた歌い出したんだ。

OK。ここで告白するけど、初めてスカリーの歌声を聞いたときは素晴らしいとは思わなかったよ。
それは、べつにオペラの「蝶々夫人」ほどに彼女が歌を歌えないからという意味じゃなくて・・・
でも、あたたかくて、甘くて、しわがれてて・・・とにかく、僕はあんなに優しくて、自分が赤ん坊
になったように眠りを感じられる子守歌の声を知らない。

僕は本を読むのをあきらめて横に置き、クッションを胸の上に置いて目を閉じた。
僕は彼女に-スカリーに-恋をするまでは父親になりたいと思ったことはなかった。
しかし彼女が母親になれる機能は奪われてしまった。だから僕の望みは自分勝手だろう。
だが彼らの陰謀は、僕たちから、僕とスカリーが熱望するものを奪い去ることが目的だったのでは
ないだろうかと思わずにいられない。

僕は時々ここで考えを断ち切って、もうこれ以上考えないようにしてしまう。

スカリーの歌声。
彼女は今クリスマス・キャロルを歌っていた。
スカリーの歌声は甘く、優しく聞こえて、まるで僕を慰めているように歌っているようだった。

“天なる神には
　御栄えあれ
　地に住む人には
　御使いこぞりて
　ほむる歌は
　静かに更けゆく
　世に響きけり ”

スカリーはどうやら合唱用の低い方のパートを歌っているようだった。誰がなんと言おうと、
ハズしたのではなく、合唱用のハーモニーの部分を歌ったに違いない。スカリーはきっとラジオに
合わせて歌っているんだ。

“今なお御使い
　翼を伸べ
　疲れしこの世を
　覆い守り
　悲しむ都に
　悩むひなに
　慰め与うる
　歌を歌う ”

僕は目を見開いた。スカリーはラジオに合わせて歌っているのではない。
誰かがスカリーの歌声に合わせて一緒に歌っている声がする。あの霊の声だ。
「レイチェル」
僕はつぶやいて起きあがった。テープレコーダーは2階に置いてある。今急げば・・・。

“重荷を負いつつ
　世の旅路に
　悩める人々
　頭を下げ
　栄えあるこの日を
　たたえ歌う
　楽しき歌声
　聞きて憩え

　御使いの歌う
　安き来たり
　久しく聖徒の
　待ちし国に
　主イェスを平和の
　君とあがめ
　あまねく世の民
　高く歌わん ”

僕は急いでテープレコーダーを持って来たが、最後の部分しか録れなかった。
〈スカリーは誰かと-明らかにあの幽霊のパートナーと-歌っていたんだ。〉
僕はキッチンへ向かった。
スカリーはレーズンの入ったシナモンロールに粉砂糖を振りかけていた。
彼女は歌うのをやめて、スプーンを僕の方に向けて言った。
「できたわ。一つだけなら食べていいわよ、モルダー。」
僕は答える代わりにテープレコーダーの再生ボタンを押した。
スカリーは自分以外の第2の声を聞いて、瞳が大きく開いた。
「誰の声？」
「レイチェルだろ？」
「ラジオよ、きっとどこかの。」
「レイチェルだよ。彼女は歌って君と完全にハモってた。ラジオにそんなことはできないよ。」
「モルダー・・・。」
「また君が何か古い歌を歌えば、僕はレイチェルも歌い出すと思うよ。賭けてもいい。」
「やめてよ、モルダー。」
スカリーはまた疑わしそうに僕を見た。
「歌ってみて、スカリー。何かクリスマス・キャロルを。」
僕はまたテープレコーダをまわした。
スカリーは目を丸くして、一度咳払いすると、
キッチンのカウンターにもたれて歌い出した。

“きよしこのよる
　星はひかり
　すくいの御子は
　まぶねの中に
　ねむりたもう
　いとやすく ”

何も、何の音もしなかった。
「ほら、違うみたいよ。」
「もう一度、続けて歌って。」
スカリーはため息をついたが、歌い出した。

“きよしこのよる
　御告うけし
　まきびとたちは
　御子の御前に
　ぬかずきぬ
　かしこみて ”

スカリーは2番を歌い終わろうとして息を止めた。誰かの声が歌の終わり近くで入ってきた。
僕は目を見開いて固まっているスカリーにうなずいた。スカリーは大きく深呼吸すると3番を
歌い出した。
今度は最初からハーモニーになっていた。

“きよしこのよる
　御子の笑みに
　めぐみのみ代の
　あしたの光
　かがやけり
　ほがらかに ”

「なんてこと」
スカリーがつぶやいた。
僕は人差し指を立てて見せた。テープレコーダーを録音のままにして静かに話しかけた。
「レイチェル、君と話がしたいんだ。現れてくれるかい？」

何も起こらない。

「話したいことがないのかい？レイチェル。ひとりぼっちなのかい？何か僕たちに助けてほしい
ことはあるかい？」

何も起こらない。何の声もしない。

オーブンのタイマーの音がチンと鳴って、僕たちは驚いて飛び上がりそうになった。
僕はため息をついてテープレコーダーを止めた。

「幽霊を捕まえられるようなチャンスは初めてだったよ。」
スカリーは、オーブンからシナモンロールをのせたトレイをさますために外に出した。
「死者たちの世界って・・・ひょとしたら思っているより近いところにあるのかもしれないわね。」
スカリーは考え深げに言った。

僕には答えられなかった。
僕たちは二人とも死に近い時、不思議な体験をしている。でも僕たちはそのことについて話し合った
ことはなかった。

「レイチェル、あなたがつらい思いをしていることは知ってるわ。早く天に導かれたいでしょう？
手伝わせて、レイチェル。手助けしたいのよ。どうすればいいか言ってちょうだい。」
スカリーは穏やかに話しかけた。
さっと風が吹き、同時にささやき声が聞こえた。
「キャメロン、キャメロン、キャメロン・・・」
「どうするの？」
「キャメロン・・・」
「レイチェル、どうすればいいか言って！」
「キャメロン・・・」

スカリーは僕を見た。
「モルダー、何とか二人を一緒にしてあげないと。そうすれば二人とも天国へ行けるんだわ。」
「どうしてわかるんだ？スカリー。」
「わからないわ。ただ・・・そう思うのよ。」
「でもどうすればいいんだい？」
「それは・・・わからないわ。」
スカリーはため息をついた。

「せめて姿がみられればな。」
「例え姿が見えてもどうにもできないかもね。レイチェルを森につれていくか、キャメロンを
この家につれてこなきゃならないわ。」
「できないな。僕らじゃレイチェルを家の外に誘い出すことすらできないよ、スカリー。」
「ええ。パンをまいただけじゃ、小鳥のように出てくれないわね。」


スカリーは微笑んでいたずらっぽく僕を見た。
「霊能者を呼んだらどうかしら。」
「あの偉大なヤッピーかい？」
「あなたは苦手でしょうけど？フォックス・モルダーさん。」

スカリーはそう言ってキッチンから離れようとしたが、僕は腕をつかんで彼女を抱き寄せた。
「行くなよ、スカリー。僕らはレイチェルとキャメロンのように結ばれているんだから。」
僕がうなじに鼻をこすりつけると、スカリーののどから低い笑い声が聞こえた。
「なんでもそっちの方に持っていこうとするのね、モルダー。違う？」
スカリーは僕の胸の真ん中に手を置いていった。

「結ばれるのはセックスだけじゃないさ。僕らは魂だって結ばれてるんだ。」
「あら、そう。」
スカリーはそっけなく言って僕の腕から抜け出すと、シナモンロールのトレイの方へ行き、
クッキング用のへらを使ってロールをトレイから一個一個出して網の上に並べていった。

「確か私たちの事じゃなくて、レイチェルとキャメロンの話をしていたはずよ。」
「レイチェルとキャメロンの話に関係あるよ、スカリー。」
僕はスカリーに近づいて、後ろから両手で彼女の肩を抱いた。
「僕は君を永遠に失いそうになったんだ。」
彼女の耳にささやくと、スカリーの震えが手から伝わった。
「君なしでは・・・君がいなければ僕はただ闇の中にいるんだよ、スカリー。」

スカリーは振り向くと、僕の首を引き寄せて激しくキスした。
唇から、彼女が怖がって僕に言おうとしないことがたまらないほど伝わってきた。
いや、ただ彼女が言えないだけなのかもしれない言葉が。うそをつけない正直な彼女の言葉が。

僕は彼女を抱き上げて2階へ運び、そこで僕の心を証明したい気持ちでいっぱいだったが、
思い出して、スカリーにキスしたまま、手を彼女の横のカウンターへ移して握りしめた。
スカリーは唇を離すと額を僕の胸にもたれさせた。
「モルダー私・・・」
「何だい、スカリー」
「今、あなたはしたいでしょう？あなたは十分待っててくれてるわ。でもお願い、モルダー・・・。」
「分かってるよ、スカリー。ゆっくりいこう。」
「したいわ。」
スカリーは僕の目を見つめてきっぱりと言った。
少しの間僕はボーッとなって言葉を失ってしまった。
「今？ここで？」
ささやき声でスカリーに尋ねた。
「今。2階の部屋で。」
スカリーは僕の手を取り、僕は彼女のあとをついていった。僕たちのベッドルームへ向かって。


僕たちは深く口づけ合いながらベッドに横たわり、長い間お互いの体を抱きしめて体の感触を
味わった。
スカリーの体の曲線をを手探りで感じ、口も腕も絡み合ってお互いの熱を感じていたが、
僕は彼女がいいと言うまで服のボタンには触らなかった。
スカリーはいいと言わなかった。
僕はできるだけ優しく、ゆっくりと、忍耐強くしていたが、スカリーは僕が胸やウェストより下に
手を触れると、たじろぐように身を引いた。

「スカリー。スカリー、本当は違うんだろう？」
僕はとうとう言った。
「違うのモルダー・・・モルダー。」
スカリーはためらうように言ったあと、ささやき声で僕に訴えかけるように話しだした。
「モルダー、あなたにキスするから、これからあなたにキスするから、そばにいるから、
その間ずっと私に話しかけてて、ね？声を聞かせて。話しかけててほしいのよ。」
「何を話せば？」
「何でもいいから。あなたの声を聞いていたいのよ。」

こんな時に一体何を話せばいいんだ？卑猥なジョークか？それとも昔話でも？
僕はスカリーのキスを受けながら彼女の髪に指をすべらせ、今にふさわしい言葉を必死で頭から
たたき起こした。


「“恋人よ、あなたは美しい。あなたは美しく、ベールの奥にひそんだその目は鳩のよう。
髪はギレアドの山を駆け下りる山羊の群れ・・・。”」

僕が暗唱し出すとスカリーは僕の唇に、顔のあちこちに、首筋に、手のひらや腕にキスを落として
いった。
そして僕のＴシャツをたくし上げると、胸にもキスを落としていった。

「“気高い乙女よ、サンダルを履いたあなたの足は美しい。ふっくらとしたももは、
匠の手に磨かれた彫り物のよう。秘められたところは丸い杯。かぐわしい酒に満ちている。
腹は百合に囲まれた小麦の山。乳房は・・・ああ、スカリー・・・乳房は二匹の子鹿、
双子のカモシカ。首は象牙の・・・スカリー・・・そうだよ・・・象牙の塔。
目はバト・ラビムの門の・・・門の傍らにある、ヘシュボンの・・・二つの池。
鼻はレバノンの塔。ダマスカスをみはらせる・・・。”」

スカリーが唇をあてたまま笑っている振動が、体のより下へ、下へ下がっていくのを感じた。

「“高く起こした頭はカルメルの山。長い紫の髪・・・王は・・・王はその房の虜になった。
喜びに満ちた愛よ。あなたはなんと美しく楽しい乙女か。”」

今スカリーの舌は、僕の腹の上を地図を探るように探検し、手で僕のスウェットパンツの横を
つかんでぐいっと引いた。
〈脱がせてくれるのか？〉
スカリーはそのまま引き下ろし、下着も一緒に僕から脱がせた。
そしていきり立っている僕に頬をすり寄せると、舌と指で探検し始めた。僕はシーツを握りしめて、
カラカラになったのどからなんとかかすれ声を絞り出した。

「“あなたの立ち姿はなつめやし、乳房はその実の房。なつめやしの木に登り、甘い実の房を
つかんでみたい。私の願いは、葡萄の房のようなあなたの乳房。りんごの香りのようなあなたの息。
うまい葡萄酒のようなあなたの口。その唇は甘美、甘い眠りを誘う。私は恋しい人のもの・・・
私は恋しい人の・・・”」

彼女の口の中にくわえられ、もう次の言葉は出てこなかった。
スカリーの名前を呼び続ける以外、何の言葉も思い浮かばなかった。
そしてついに、もう彼女を呼ぶ声さえ出なくなり、うめきながら荒く息をはき続けることしか
できなくなった。


僕が震えから落ち着いてくると、スカリーを下から抱きしめて、頭を彼女の首筋にすりつけて
深呼吸した。
「背中はどう？」

〈僕の何だって？〉
僕はめまいを起こしながら考えて、思い出した。
「もう痛くないよ。」
「良かったわ。でもあと2、3日はおとなしくしていないと。」
「ああ。」

「『雅歌』ね。」
スカリーは僕を抱きしめながらそっと言った。
「何？」
「あなたが暗唱してた詩よ。“どうかあの方が、その唇の口づけをもって、私に口づけてくださる
ように。葡萄酒にもましてあなたの愛は快く・・・”」
「“私は恋しい人のもの。あの人も私を求めている。コフェルの花房のもとで夜を過ごしま
しょう。”変だったかい？スカリー。」
「いいえ、とても素敵だったわ。」
「よかった。なにかエッチなジョークでも言おうとしたんだけど、思いつかなかったんだ。」
スカリーはくすくす笑った。
「思いつかなくて良かったわ。」

「スカリー、大丈夫かい？その・・・のどとか、平気かい？」
スカリーは少し考えてから言った。
「ブレスミントがほしいかしら。」
「多分荷物の中にあると思うよ。」
僕が起きあがろうとすると、スカリーが腕を引っ張った。
「冗談よ、モルダー。こっちに来て。」
「なんだ。」
〈冗談か。〉
僕は彼女に包まれるように腕の中に戻り、彼女のシャツの、胸のふくらみの上に顔を寄せて横に
なった。
スカリーは僕を眠らせるように、指先でゆっくりと僕の頬をなでた。
「スカリー、君は？僕にしてほしくないのかい？」
「何もしなくていいわ、モルダー。」
「スカリーそれは・・・僕とキスしても何も・・・何も起こらないってことかい？」

スカリーは長い間沈黙した。そしてほとんど聞き取れないほどのささやき声で話し出した。
「起こらないわ。」
僕は彼女の方に頭を上げようとしたが、スカリーは僕の頭を抱きしめたまま続けた。
「まだよ、モルダー。お願い、まだ待ってて。」
「君に触れたいんだよ、スカリー。お願いだ、触るだけでいいんだ。」
僕は彼女の細い脚を手でゆっくりと撫でた。
「触れさせてくれよ、スカリー。君を感じたいんだ。」
「モルダー、ダメよ。わかってちょうだい。私は何も感じないのよ。」
「スカリー。僕はただ自分の満足のためにしたいんじゃないんだ。ダイナーで話したことを覚えてる？
君はまだだって。僕を感じてほしいんだよ、スカリー。頼むから、僕にさせてくれ。」

スカリーは震えていた。くそっ。こんなに怖がらせているのか？
彼女は黙ったままだった。
「わかったよ。」
僕はそっと彼女の腕から体を離してベッドから出ようととしたが、スカリーの腕は僕を放さなかった。
「約束して。」
スカリーがささやいた。
「なんでもするよ。」
「私がやめてと言ったら、やめてくれる？」
「約束する。約束するよ、スカリー。」

「ゆっくりね。」
スカリーは聞き取れないほどの小さな声で僕にささやいた。
僕は彼女の腕の中から頭を上げて、Yesの代わりにキスした。スカリーはしっかりと僕にまだ抱き
ついていたが、ゆっくり腕をほどいて起きあがり、彼女の体を僕の下になるように横たわらせた。
優しくキスして、唇の端を僕の唇でですくい上げてる間も、スカリーは目をぎゅっとつぶったままで、
僕の肩につかまって、どうしていいか分からないように手を握ったり、僕の肩をこねるようになで
たりしていた。
僕はスカリーの腕をそっと取って、手のひらから指に口づけし、手首へ、甘い香りのするひじへと
キスを落とし、腕から彼女が力を抜いていくのを感じ取った。
スカリーは僕の頬を手のひらで包むと、引き寄せて、深く口づけた。
彼女の瞳は大きく見開かれて、蒼い瞳に心配そうな暗い影が宿っていた。

僕は彼女の瞼に、鼻の先に、唇にキスし、感触を味わいながら彼女の唇を開いて、舌を探検する
ようにすべり込ませた。
僕の手首を指でつかんでいたスカリーの手は腕の先へ伸び、肩から僕の胸へ下ろしていった。
彼女の指は、しばらく僕の胸のHairを指ですくうようにして遊び、乳首を通ってまた僕の顔を包む
ように戻ってきた。
長い間僕たちは舌を絡めてキスを味わい、決して唇を離さなかった。

僕は彼女に触れ、彼女のフランネルのブラウスのボタンをはずして素肌に手を入れた。
ブラウスを開こうと唇を離すと、スカリーは瞳を曇らせて僕を見上げた。
「もっと？」
「もっと。」
スカリーは微笑んで僕にささやき返した。
彼女は起きあがってブラウスを脱ぎ、手を後ろに回してブラをはずそうとした。
「待って。」
僕はスカリーの手を止めた。
スカリーは僕を見つめながら手を下ろし、僕のあごを両手ですくうように包み込んだあと、
ゆっくりと横になり、僕の次の動きを待った。
僕はじっくりと時間をかけて彼女を見つめた。
昨日彼女の体は見ているが、まだまだ満足していなかった。
他の人たちに言わせれば、彼女より美しい女だっているそうだが、彼女を見て、誰がそんな浅はかな
事を信じられるだろうか。
彼女の肌の柔らかさ、豊かな彼女の胸、細いウェストからヒップへの美しい曲線・・・
彼女の美しさはとても言葉にならない。『雅歌』にだって僕のスカリーの美しさも、
僕の彼女への愛も表現しきれないだろう。

僕はスカリーのウェス
トの横側からお腹の方へキスを降らせて、胸のふくらみの方へ口づけながら頭を上げていった。
肩から、デリケートなうなじへ舌をはわせ、首筋にゆっくりキスを落とした。
スカリーの手は僕の体にそっと添えられ、まるで僕の肌を覚えようとしているかのように、
指で軽く叩くようにダンスしていた。
僕はさっき彼女が望んだのと同じように、何か唇から言葉を聞きたいと思ったが、多分それは
難しいことだろう。

僕は片手で彼女の片方の胸のふくらみを包み、彼女に繰り返しキスした。手のひらに、彼女の蕾が
堅くなった感触を感じて僕は微笑んだ。スカリーは小さくすすり泣くように僕の口の中で声を上げた。
「モルダーあの・・・多分いいと思うわ。・・・唇で・・・。」
「僕は何もしてないよ、スカリー。それって何のことだい？」
「もう！モルダー、わかってるでしょう？」
「言ってくれ、スカリー。僕にどうしてほしいか言ってくれ。」
「お願い、唇で・・・私の胸にキスして、モルダー。」

僕は頭を下げて、ブラ越しに彼女の蕾に頬をすり寄せてささやいた。
「こうかい？」
「モルダー、お願い。」
「わかったよ。もうふざけないから。」
抱きしめるように手を伸ばして、彼女の背にあるブラのホックをはずしてそっと取り去り、
ふくらみの間の谷間に舌をはわせた。スカリーは僕の頭を抱いて、髪を手ですきながら大きく
深呼吸した。彼女はまだ震えていたが、僕の頭から手を離さずにいた。彼女は怖がってるんじゃない。
きっと迷っているんだ。

ついに、僕はまるで聖杯を手に入れたような感覚で彼女のサンゴ色の蕾を口に含んだ。
スカリーは少し驚いたように一瞬息を止めたが、すぐ僕にささやきかけた。
「やめないで、モルダー。」
僕は言葉に従って、含んだ蕾を口の中で吸った。キスして舌をはわせ、甘く歯を立てて彼女の蕾を
愛撫し、もうひとつのふくらみにも同じように口づけ、そしてさらに強くまたもとの蕾に唇を寄せた。
僕はスカリーののどからすすり泣きのようなあえぎ声と、短く切れた甘い吐息が続いて聞こえてくる
まで、彼女の胸を愛し続けた。

もうどれくらいこうしているのか分からなかった。1時間もこうしているように感じた。
確か僕たちが帰ってきたときは吹雪が始まっていたが、少し顔を上げると、さらに部屋の中が
暗くなり、彼女の顔が見えにくいほどだった。
続けていいかどうか問うように唇を離してスカリーの方に顔を上げると、彼女は後ろを向いて
しまった。
〈もうやめてほしいのだろうか？〉
しかしスカリーは後ろを向くと、ナイトスタンドの明かりをつけて、困っているような僕の顔に
ほほえみかけた。
「あなたの顔が見たいから。」

僕は微笑み返して言った。
「続けていいのかい？」
「もっとしたいってこと？」
スカリーはさっきのお返しのようにふざけて言った。
僕は彼女にキスした。そしてまたキスした。何度彼女にキスしても満ち足りず、底知れない空腹を
抱えているようにキスを繰り返し、彼女のジーンズのボタンを開け、慎重に腰から引き下ろして
いった。
スカリーはかがんでソックスを脱ぎ、ジーンズを脚から落として、白いサテンとレースだけを
つけた体で僕の腕に横たわった。
僕はこの状況に興奮して言葉が出なかった。
〈スカリーがほとんど裸のままで僕の腕の中にいる。〉

スカリーは表情から僕の興奮が読めたのかもしれない。
彼女は僕のあごに手を置いてキスし、そっと僕にささやいた。
「あなたがしたいと思うことをしていいのよ。私は何でもYesと言うわ。」

僕は興奮でめまいがして、うめきながら彼女のお腹に顔を埋めた。
スカリーはゆっくりと、優しく僕の髪を指でといて、僕の動きを待っていた。
僕は彼女の白いレースをそっと、そっと下ろして横に置き、彼女の太腿を手で分けていった。

ゆっくりと顔を下ろし、彼女の股の間を包む、シルクのように柔らかいHairの部分に口づけた。
指で花びらを分け、指を一本慎重に差し入れた。スカリーは息を飲み込み、瞳を閉じたが、
脚は僕が置いた位置から動かそうとはしなかった。彼女のつま先は丸まり、シーツに押しつける
ように外側に開いていき、ぎゅっとつかんでいた手の力を抜いていった。
指をゆっくり動かしていくと、彼女の中はどんどん濡れていき、僕の指の動きがスカリーの体を
支配していくのが分かった。

僕は彼女の花びらにキスして、熱い息を彼女のHairの盛り上がった部分にかけると、
スカリーの足首を手で引き寄せ、足をさらに開かせるように上に上げた。唇を密着させて彼女の
花びらの中の粘膜に舌をはわせ、入り口近くの蜜を徹底的になめ上げた。スカリーの息はずっと
走ってきたように早くなり、小さなあえぎ声と共に声にならないすすり泣きが唇からもれだした。

僕はスカリーの唇にもう一度キスして、彼女の脚を肩に担ぎ上げ、花びらの奥に隠された、
彼女の最も敏感な小さな突起にキスした。
「ああ・・・」
スカリーを見上げた。
彼女の顔には僕がこれまで見たことがないような、でもよく知っているような美しい表情が
現れていた。
〈やめてはいけない。〉
僕は勝利を感じてまた彼女のところに戻った。

僕が彼女の突起に優しくキスして、何度も舌でまわるように、まわるように、円を描くように、
味わうように転がしてまたキスに戻すと、彼女からまた甘い吐息とあえぎ声が聞こえ、
蜜があふれ出した。
「ああ・・ああ・・・」
僕は舌を伸ばして突起を下からなめ上げ、ゆっくりと、優しく、アイスクリームをなめるときの
ように舌を使った。舌でなめ上げ、すすり、転がし、舌を下ろしてまた全てをなめ取るように、
舌で全部を覆ってなめ上げ続けた。

「ああ、モルダー・・・モルダー・・・ああ、いいわ・・・ああ・・・モルダー、モルダー、
お願い・・・お願いやめないで・・・・」
もちろん僕はやめない。僕は少し唇を離して、小さくて、腫れてて充血している彼女の肉の突起を
唇で挟んで舌でいじりだした。
スカリーの口からまた違った、叫び声に近いあえぎ声が響き、僕の名前を彼女は叫んだ。

僕は彼女が怖がって声を出したのならすぐにやめたかもしれないが、スカリーは僕の与える愛撫を
味わって、言葉にならない声を上げ続けているようだった。

僕が唇で挟んだ突起を吸い上げるとスカリーは叫んだ。
彼女の声には驚き以上の感覚が彼女を襲い、思わず上げた声のようだった。
スカリーは、僕がこれで愛撫を終わせると思ったようだ。
〈まだ終わさないよ、スカリー。〉
僕は吸い続け、また指を彼女の蜜の中にゆっくり差し入れた。指を何度も差し入れ、抜き出し、
舌を使い続けて彼女をあえぎ続けさせ、言葉にできない世界に導き続けた。


スカリーはこれまで出したことがないほどのかすれ声であえぎ続け、激しい呼吸で彼女の胸が
激しく上下に動いた。
僕は最後に閉じたのがいつだったか忘れたほど見開いていたま目を閉じ、指と、舌で彼女の奥から
あふれてくる蜜を味わい、体中の神経を彼女の甘いあえぎと叫び声に集中させた。
今舌で味わっているものこそが本当の酒杯なのだ。

突然体中にスカリーのもだえが、震えが伝わってきた。
僕の肩に担ぎ上げられていた彼女の脚は絶え間なく震え始め、スカリーは僕の髪を、頭をしっかり
抱きしめて大きく体をのけぞらせ、僕の名前を叫びながら大きくあえいだ。

静止画のように一瞬動きが止まった。

そしてスカリーは体中を駆けめぐる波に悲鳴にも似た声を上げてヒップを跳ね上げ、ベッドの
ヘッドボードをガタガタいわせた。
僕は彼女の震えがおさまるまでしっかりと抱きしめた。

僕も息が切れて、スカリーの太腿に頭をもたれさせて、肩で息をしながら彼女の顔を見つめた。
彼女は瞳を閉じて、今どこにいるのか分からないような、例えようのない官能的な表情を浮かべて
いた。


僕は指をスカリーの中から抜いて起きあがり、きつく彼女を抱きしめた。
スカリーは僕の背中に腕をまわしたあと、力が抜けたように手を下ろして、僕の頬に手を当てて
僕を見つめた。

僕たちの呼吸が落ち着いてくると、スカリーはシーツと毛布を二人の体にかぶせて、僕の腕の中に
横たわった。僕はそっと彼女の背中に、うなじにキスし、お腹を優しく撫でると、彼女が瞳を閉じて、
眠りの中に引き込まれたのが分かった。

僕は起きてもっと彼女を見つめていたかった。
だが体は違うことを考えていて、彼女を抱きしめたまま、やはり僕も眠りの中に落ちていった。


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“天なる神には It Came Upon A Midnight Clear”はEdmund H.Sears作。
“きよしこのよるSilent Night”はJoseph Mohr作。
モルダーが暗唱していたのは“雅歌Song of Solomon”旧約聖書出。


→6　-　Elswhere　へ続く