DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : THE LINK-A romance in 6 chapters

作：Leyla Harrison　　訳:tomo

Part 1 - Alone in the Dark

「逃げろ、スカリー！」
あのとき彼はそう警告した。モルダーには次の引き金で弾丸が出ることがわかったのだろうか？
スカリーは自分がもう少しで殺されそうだったことを思い出して震えた。
〈モルダーに撃たれて〉
モルダーはもう少しで彼女を殺すところだった。
〈あの引き金が引かれていたら・・・〉
そのことがスカリーの頭に何度も浮かんでは消えていった。
その度にそんなことを考える必要はないと自分に言い聞かせ、怒りをおさえた。
モルダーは彼女を撃たずにモデールを撃った。彼女も、そして彼も無事だった。

スカリーはハンドルに痛いほど拳を打ち付けた。
もうこれ以上考えたくなかった。
車の窓をあけ、顔と髪を冷たい夜風に心地よくなびかせるままにした。

〈モルダーは自分の頭に簡単に銃をあてたわ〉
スカリーはぼんやりと考えた。
モルダーは自分の頭に銃をあて何の躊躇もなく引き金を引いた。しかし彼女の番になった時・・・。
スカリーには彼が撃つとは思えなかった。だが彼の指は引き金から離れず、スローモーションのよう
に弾倉が回った。


スカリーは怒りを込めてアクセルを踏んだ。高速道路の最高速度を超えてもアクセルを踏み続けた。
彼女は怒ると車を飛ばす癖があった。
〈あの時もそうだったわね。〉
スカリーはコミティでの事件を思い出した。
〈あの時も町を出るとき、信号を無視して空港まで飛ばしたわ。〉
彼女は思い出すと強くハンドルを握りしめ、急カーブを曲がった。
〈最悪ね。〉
スカリーはあの時ほど彼に対して怒りを覚えたことはなかった。

モルダーはどれほど自分の言葉が彼女を傷つけるか分かって言ったのだろうか？
彼女の背に対して言った言葉だ。スカリーは自分が思っている以上に傷ついていたことを感じた。
〈最後に誰かと愛し合ったのはいつだったかしら？〉
ジャック・ウィリスとは昔のことだし、その前だと大学時代に2人とつきあっただけだ。
〈自分が男性経験が多い方だとは思わないわ。でも、モルダーは一体どうなの？それに、彼は私の
　ことをどう思っているの？〉
スカリーはため息をついた。
〈まただわ。こんな事考えてはだめ。彼についても考えたくないわ。いえ、考え過ぎなのよ。〉
ウィンカーを出しスピードを緩めると、車を路肩の停車スペースに停車した。
考えで頭が熱くなっていた。スカリーは車から降りて冷たい夜風を吸い込み、他の車が彼女の横を
過ぎ去って行くのを眺めた。

モルダーがモデールを撃った後、スカリーは病院で彼に会った。その時の気持ちを、どう表現すれ
ばいいだろう。怒りと恐怖。彼女はモルダーにそっと手を伸ばし、モルダーは彼女の手をぎゅっと
握りしめた。胸が苦しくなって病室を出る少しの間、彼女の手は彼の指に包まれていた。
モルダーも少し遅れて病室を出て、別々にD.C.へ帰ってきた。

そして今スカリーは何かを感じていた。一体何なのか、明確な言葉が出てこない。
〈怒り？違うわ。〉
モデールへの怒りは消えた。事件の中で見たものに対する疑いや怒りは頭の外に押しやってあった。
彼女は事件の中での感情は、自分の感情とは別に切り離していた。仕事である、人々を巻き込んだ
恐ろしい事件から身を守る手段だった。
〈恐怖？それも違う。〉
モルダーが彼女をおいて、たった一人で病院へ入っていくことを決めたときから、
彼の身に起きる
ことが怖かった。これまでにないほど怖かった。もちろんモルダーは何百回と危険な目に遭ってきた
が、今日ほど彼女にとって恐怖を覚えたことはなかった。なぜ今回は特別なのか？

スカリーはSWATチームのトラックの外で、カメラと無線につながれてモルダーと一緒に行動して
いるようだった。いや、まるで彼の頭の中に入っていたようだった。彼女は彼になって動いて考え
ていた。
モルダーが振り向いて、カメラにモデールの顔が映ったと同時に銃口が向けられ、スカリーは
パニックになった。モデールがモルダーと彼女を結びつけているカメラと無線を引きちぎると同時に
むき出しの恐怖が彼女を襲い、イスから飛び上がった。彼女の感じた恐怖は連絡手段を奪われたこと
ではなかった。
彼女がそこにいて、モデールは彼女に向かって銃を突きつけたように感じたのだった。

スカリーは病院の中に入り、モデールが望んだようにゲームにつきあった。モデールの全ての注意が
彼女を通してモルダーに向かっていた。
スカリーにはモデールが何をしようとしているのか分かっていた。

「モルダー、だめよ」
モデールはモルダーに強く命令した。
「モルダー、やるんだ」
すべてはモルダーの抵抗にかかっていた。
モルダーは銃を自分の頭に突きつけ、引き金を引いた。カチッと言う音がスカリーの頭の中に
こだました。
彼女は計り知れない怒りと恐怖に飛び上がった。
そしてモルダーは彼女に銃を向けた。
心臓が止まった。

モルダーが以前彼女に銃を向けたのは2年前アラスカのアイシーケープに捜査に行った時の事だけだった。
〈でもあの時とは比べものにならないわね。〉
スカリーは疲れたように車に寄りかかった。
〈全く違う。〉
今回は彼女をを撃ちそうになったのだから。

〈どうしてあんなに簡単に自分の頭に銃を向けられたの？〉
彼は自分を守りたいとは思っていなかった。彼女を守りたいと思っていた。
〈彼は・・・何を？私を助けようとした？なぜ？彼は私の命しか考えていなかったのでもいうの？〉

スカリーはその考えを頭から押しやった。
自分のモルダーに対する気持ちはわかりきっていたが、今だけは考えたくなかった。
今考えるだけの気力は残ってなかった。
お互いが決して言わないこと、そしてこれからも決して口に出さないことについて。

〈もう遅い時間だわ。家に帰ろう。〉
口に出してはいけないこと。考え出すとこのことは事件や長時間の運転より彼女をへとへとに疲れ
切らせてしまう。スカリーは車に乗り慎重に車の流れに合流して家路についた。

+-+-+-+-+-+

午前3時過ぎにスカリーのベッドルームの電話が鳴った。
彼女は悪夢から目覚めて息をつき、ベッドに座り直して鳴っている電話をみつめた。
〈一体何の夢を・・・〉
思い出そうとしたが電話の大きなベルの音で思い出せなかった。
「もしもし？」
「スカリー、僕だけど」
彼女はナイトスタンドの灯りをつけた。
「モルダー？どうしたの？」
「別に。何でもないよ。ただ・・・眠れなくて。」
モルダーの声は疲れているようだったが、それより何か伝えたいことがあるような声だった。
「君を起こしてしまったね。ごめん。」
「大丈夫よ。夢を見てたの・・・どんな夢だったか思い出せないけど。」
会話がとぎれて二人は沈黙した。スカリーは部屋の壁を見つめ、
彼も同じ事をしている姿を想像した。
耳を澄ますと受話器から何かが通り過ぎていくような雑音が聞こえた。
「モルダー今どこにいるの？」
スカリーは思わずたずねた。
「車の中だよ、ドライブしてたんだ。言ったろ？眠れないって。」
スカリーは下唇をかんでから言った。
「うちに寄らない？コーヒーを入れるわ。そして話しましょう？」
「行くよ。喜んで。」モルダーはすぐさま応えた。
「今どの辺にいるの？」
「すぐ近くにいるよ。君が見えるくらい。」
電話はそこで切れた。スカリーはあきれて受話器を眺めた後、ナイトローブをはおってキッチンへ
向かった。
〈まったく〉
スカリーは部屋の灯りを点けながら考えた。
〈こんな夜中に私たちは一体何の話をしようっていうの？〉

モルダーは手の中の携帯電話をしばらく見つめた後ポケットにしまった。彼は車から降りると
まっすぐに歩き出した。
スカリーの部屋に灯りがつき、窓から彼女が部屋を移動していくシルエットが見えた。
モルダーはスカリーのアパートの前から電話をしていたのだった。


*************************************************************************

Part2 - Getting it out in the open

窓からスカリーのシルエットが消えると、モルダーは深いため息をついた。
今回の事件、今回のこと全てが彼の中にずっと積もっていたある気持ちを限界まで高めた。
今回の事件はまた、コミティでの悪夢のような事件以来ひびが入っていた二人の絆をより強く
結びなおした。
コミティにいた1日半の間に彼は思い出すと自分でもバカとしか思えないような行動をした。
もう取り返しは付かない。そして自分が彼女の背について言った言葉を思い出すとぞっとした。
彼女を傷つけた自分が許せなかった。
〈どうしてこんなに無神経なんだ？〉
そして今回の事件・・・。
モデールはまるでモルダーの心を見抜いたように彼の頭の中を占領し、モルダーの弱点をついた。
スカリーを。
モデールは二人がどんなに支えあって信頼しあっているのかわかっていた。モデールは電話で
モルダーをからかっていた。
いずれにせよ、今回の事件で二人の絆を再確認できた。モルダーの望んでいなかった形で。

スカリーに銃を向けたこと自体は謝ることではないとわかっていた。モルダーは銃を向けたく
なかったし、操ろうとするモデールと戦った。弾倉に銃弾がこめられたことを-どうしてわかった
のかわからないが-感じたとき、恐怖でこわばったスカリーに逃げろ！とどなった。
モルダーが自分の頭に銃をあて引き金を引いたのと同じくらい簡単に彼女に銃を向けたのだと
思っただろう。彼女の瞳からひとしずくの涙が流れた。
いや、彼女はモルダーに撃ってほしくなかったのだ。
〈あの涙〉
スカリーの頬をつたう涙がモルダーの心に深くしみわたった。

モルダーはスカリーの部屋に近づいていった。
なぜ彼ははここにきたのだろう？目的もなく車を飛ばして、なぜ彼のアパートに帰ろうと
しなかったのだろう？なぜスカリーのところへ？
モルダーはその答えをわかっていた。でもモルダーはその答えを彼女が同じように
わかっているか知りたかった。

+-+-+-+-+-+

「早いわね。」
スカリーはドアを開けてモルダーに中にはいるように手を振った。
「まさかアパートの前に座っていたの？」
モルダーが応えなかったので彼女は当たっていたのかしらと思った。
「モルダー？」
スカリーはドアの鍵を閉めながら声をかけた。二人はソファへ移動し、それぞれ両端に座った。

「スカリー、僕は座ってはいなかったよ・・・。」
〈くそっ〉
モルダーはスカリーに見えないようにぶつぶつ言った。
「でも、アパートの前にいたんでしょう、モルダー？」
スカリーには答えがすでにわかっていたが彼をからかった。
モルダーはスカリーを見ずにゆっくり話し出した。
「スカリー、僕は君に謝ることがある。」
スカリーはうつむいた彼の方に向き直った。
「今日の事じゃない。コミティで起こったことだ。」
これまでモルダーは誰にも謝ろうとしたことがなかった。これまで彼が間違っていると認めさせる
ことは誰にも出来なかった。それではなぜスカリーに彼の胸を押しつぶしている鉛について謝ろう
としているのだろうか。

「コミティで何が起こったというの、モルダー。あそこで私たちは珍しい一直線の天体現象の影響
　を受けてどうかしてただけよ。それに」
スカリーは何かいいジョークがないかと探した。
「もしかしたら生理前だったのかもしれないわよ？」


モルダーは初めて顔を上げた。スカリーの笑顔で彼の凍っていた心がとけた。
〈僕は彼女に何回恋に落ちただろう？〉
もう何度彼女に恋をしたかわからなかった。初めて彼女に会った日も、まだ彼女との絆が出来る前
でさえもモルダーは彼女に惹きつけられていた。彼女はモルダーと同じ考え方でないにもかかわらず、
彼にない部分を補い、ずっと二人は一つとして機能していた。
モルダーは彼女が振り向いてくれないと、絶望的だとわかっていても、完全に心の底から彼女を
愛していた。自分に振り向いてくれない理由を100は簡単に上げられた。FBIの規則、モルダー自身の
バカさ加減-。
その度に自分の心にうそをつき、彼女の前で取り繕ってきた。
モルダーはこれまでの人生でスカリーほど個人的にも、捜査官としても自分の感情に親密に、そして
共有しあった関係を誰とも結んだことがなかった。数少ない彼女とのちょっとした肉体的な接触は
自分たちの友情からしていると思っていたが、本当の自分の気持ちに気がついてもいた。疑いなく、
愛しているからしていることを。

「いじめっこだろ？」
モルダーはふざけていった。スカリーはくすっと笑ったが、微笑みはすぐに消えて真剣な表情に
なった。
「私も謝るわ、モルダー」
スカリーは今となっては彼の笑顔が見たいという気持ちだけだった。
今日のような日は特に。

「僕は君を撃たなかったよ」
モルダーは視線を落として静かに言った。スカリーは彼の表情をじっと見つめた。
「撃てるはずがない。」
スカリーは素早くうなずいた。
「でもモルダー、あなたは自分の頭に銃をあてて引き金を引いたわね？もし弾が弾倉に
　入っていたら・・・」

モルダーはあの時のスカリーの恐怖は想像する事しかできなかった。彼女が声を荒げ、大声で
怒鳴ることは滅多になかった。彼が自分の頭に銃をあてたとき彼女はモデールに怒りを爆発させた。
彼女の怒声は怒りと恐怖でふるえていた。
〈ごめんよ、スカリー。〉
彼女の泣き顔がぱっと浮かんだ。
モルダーの胸にナイフで引き裂かれるような痛みがまた走った。
〈君を絶対に傷つけないよ、スカリー。〉
モルダーは心の中で誓った。
〈絶対に。君に約束する。君を絶対に・・・。〉

スカリーはモルダーのそばに座り直して彼を見た。
「私たちはたくさんのことを乗り越えてきたわ、モルダー」
モルダーはうなずいた。スカリーは少しの間目を閉じた。
〈何を考えているんだい？〉
モルダーは彼女を見つめた。
〈それは良いことかい悪いことかい？）
モルダーは彼女の顔から首筋へゆっくりと視線を遊ばせた。スカリーに見られずに彼女を
眺められるめったにない機会だった。
〈君は美しい。〉
モルダーは自分の中でずっとふたをして我慢していた気持ちがあふれてくるのを感じた。

スカリーは突然目を開いた。
「私は時々ねモルダー、これまで私たちに起こったことを思い出すの。それは悪くなっていくんじゃ
　ないかって。私の父は亡くなって、あなたの妹は失踪してる。そしてあなたはお父様を、私は姉を
　亡くしたわ。私たちはこれまで失うことばかりだったわ。」
「でもメリッサが亡くなるとき、少なくとも君は最後にいい関係を持てたと思うよ。」
モルダーは自分の父親の死を思い出して言った。そのことはモルダーの心を苦しめた。

スカリーのまなざしは一旦はずれどこともなく眺めたが、すぐに彼の元へ戻ってきた。
「モルダー、メリッサは死んだのよ。最後にいい関係を持てたかどうかなんて・・・」
「スカリー、父は僕が隣の部屋にいる間に撃ち殺されたんだ。僕は父に伝えたいことも言えなかった。
　僕は父から聞くことも-」
「私の言いたいことはね」
スカリーは少し声を上げて彼をさえぎった。苦しそうな声だった。
「モルダー、私たちは大切な人を亡くしたわ。私たちはこの数年で大切な人を奪われていったのよ。」
「僕のは数年じゃない。」
モルダーは妹が宙に浮き、窓から出ていく光景を思い出したがすぐに振り払った。

「私がメリッサを巻き込まなかったら・・・」スカリーは目を見開いてモルダーを見た。
スカリーはふれてはいけない部分にふれようとしていた。
スカリーは自分が何者かに誘拐され死の淵を歩いた時以来、モルダーが自分に巻き込んだことに
罪悪感を持ち続けているのを知っていた。
「わかってるよ、スカリー」
モルダーは立ち上がって大声を出した。モルダーは怒っていた。 


「君がXファイルに巻き込まれていなかったら君が姉を失うことはなかった。君も誘拐されなかった。
　君が死にそうになることもなかった。わかってるさスカリー、僕のせいなんだ！」
「あなたのせいですって？」
スカリーは彼の前に立ち上がって声を荒げた。
「そんなふうに思っていたの、モルダー？私があなたのせいだと思っているとでも！？」
「違う、僕がそう思っているんだ！」
モルダーは叫んだ。
「僕がそう思ってるんだよ！思い出して見ろよスカリー、僕はサマンサを救うために何も出来なかった。
　君を救うために何も出来なかった。僕は君を引きずり込んだ。そして君は姉を失い、君は誘拐され、
　僕は君を救えなかった！」
モルダーは絶叫した。
「でもあなたは救ってくれたわ。」
スカリーは静かに、優しく言った。彼女の静かな声はモルダーを鎮めた。
「あなたは救ったわ。あなたの強さで。私を連れ戻してくれたのよ。」

*************************************************************************

Part3 
- We've Waited So 
Long

「君を連れ戻した？」
モルダーは彼女をじっと見つめて言った。
「何のために？君の姉が殺されるのを見せるために？」
スカリーの蒼い瞳が曇った。
「スカリー、君は僕を責めるべきなんだ！」
スカリーはソファに再び座りしばらく床を見つめた後、ゆっくりと言った。
「ねえ、今日はもう遅い時間だわ。」
モルダーはこれ以上続けると、彼女がアパートから追い出そうとしているのだと思った。
彼はスカリーの隣に腰を下ろした。
「そうだね、ごめん。大声を出して。」
スカリーは彼の方を向いた。瞳には涙が光っていた。
〈スカリー、泣かないでくれ〉
モルダーは彼女の瞳に祈った。

「あなたのことを責めたいと思ったときは何度もあったわ、モルダー」
スカリーは震える声で告白した。
「でも、できなかった。あなたを責めるなんてできなかった。」
彼女はこみ上げる涙を必死でこぼすまいとしていた。
「起こってしまったことなのよ。私たちはたくさんの人生の分岐点で何度も選択をして、私は
　今を選んだわ。私の選択はあなたといること。あなたが真実を見つける助けをすることよ。」

「でも、なぜ」
モルダーはあえいだ。
「なぜ君はそうし続けられるんだ？なぜあきらめないんだ？君はいつも科学的な証拠を求めて、
　いつも得られないでいるじゃないか。僕は君の期待にこたえられていないじゃないか。」

そのことはわかっている。スカリーは答えの代わりに手を上げ、手の甲で優しく彼の頬をなでた。
彼への怒り、失望に耐えられなかった。彼が自分の人生を変えたからだ、とどうやって彼に伝えれば
いいのだろう。自分の人生は彼に会う前と後で、大きく二つに分かれてしまったのだと、どうすれば
彼にわかってもらえるのだろう。
〈モルダー〉
スカリーは彼の頬を優しくなで続けながら思った。
〈なぜあなたといると思う？〉
スカリーは心の中で告白した。
〈それはあなたを愛しているからよ。〉

モルダーはゴクリと飲み込んだ。スカリーの澄んだ瞳から彼女の告白を受け取ったと思った。
彼女の羽のように軽い指が肌をかすめていき、首から背中までぞくぞく震えた。
もうずっと前から、彼女の陶器のようになめらかな肌、澄み切った蒼い瞳、火のように赤い髪、
彼女の聡明さ、いついかなる時も論理的に解釈しようとする頑固な性格・・・それら全てが彼を
惹きつけて離さなかった。
モルダーは目をつぶっても、彼女のシルエットや体の曲線をはっきり思い出せた。そして夢の中で
繰り返し再生していた。

スカリーは手の位置を変え、彼の首をゆっくりさすった。それはソフトなマッサージのようだったが、
二人のまなざしはお互いを見つめ合ったまま決して離れなかった。スカリーは息が苦しくなった。
これほど親密にモルダーの体に触れたことがなかった。
モルダーは筋肉質な体だと知っていたが、今自分の指に感じる筋肉の張りは信じられないほどだった。
スカリーはシャツ越しに彼の首から肩へと指を動かしていくと、彼の筋肉が緊張し、そしてリラック
スしていくのを感じた。
〈やめなくちゃ。〉
スカリーは思った。
〈こんなことするべきでないわ。〉

モルダーもそう感じていた。モルダーも呼吸するたび息が上がり、平静さを装うことが出来なく
なっていた。スカリーに触れられると、自分がどうにかなってしまうようだった。モルダーは
最後の気力をだし、彼女の手をつかんだ。
「スカリー・・・」
モルダーは彼女にやめてほしいのか続けてほしいのかわからなかった。

スカリーは彼が自分の動きを止めたことに驚いた。
「どうしたの？」
彼女の声は低く、甘くかすれていた。
二人はお互いの体の熱が伝わってくるほどすぐそばにいた。
モルダーはスカリーの手首をしっかりとつかんだまま彼女のまなざしを捕らえ、からみ合わせた。
見つめ合ったまま一瞬の沈黙が流れた。
ついにスカリーは手を離させようと動いたが、モルダーは離さなかった。
「モルダー」
スカリーが次の言葉を言う前にモルダーは彼女の腕を自分の背中にまわし、小さな体をソファへ
押し倒すと激しく彼女の唇を奪った。

スカリーは夢中で彼のキスに応えていた。彼女はモルダーの背中をきつくつかんでさらに引き寄せ、
息をするまもなく彼のキスに応えた。
モルダーは彼女の柔らかな唇を感じ、舌を探し求め、彼女の指が背中を伝うのを感じた。
とうとうモルダーは唇を離し激しく肩を動かして息をした。
「これは君を傷つけてる？」

モルダーは小さな体から体重を移しながら言った。
「僕は君を傷つけたくない。」
スカリーは同じように息をしながら言った。
「いいえ。」
モルダーは深く息を吸い込んで早鐘のような心臓の鼓動を落ち着かせようとした。

言葉を交わすまもなく、モルダーは彼女を腕に抱きかかえた。スカリーは少し驚いて息をのんだ。
初めて彼女と愛し合うのにハイスクールの子供のようにソファでするわけにはいかなかった。
スカリーは腕の中で羽のように軽く、モルダーはベッドルームへ運びそっと彼女をベッドの上に
寝かせた。モルダーは深呼吸をして自分を落ち着かせた。

スカリーは肘を後ろで付いて上体が起きあがれるように足を開いて体を動かした。彼女の髪は乱れ、
瞳はベッドから少し離れた彼を誘っていた。モルダーはそれを見て、もう、抑えられないと思った。
モルダーはベッドに近づき、彼女に近づき、ついにベッドの上に乗った。注意深く彼女の体の上に
なり、彼女の足の間に横たわっていった。
〈スカリー〉

二人の体は服を通して触れ合い、熱を感じ合った。モルダーは燃え上がるような欲望を感じて、
まだ二人が服を着ていることで自分を押しとどめようとした。
〈落ち着け。落ち着け。〉
あせって台無しにしてしまいたくなかった。

スカリーはモルダーの体の重みと、あたたかさと、甘く押しつぶされるような圧力を感じた。
ソファで彼にそうされたときよりも彼の体の全てを受け止めた。
モルダーの指が彼女の赤褐色の髪を通り、首筋から顔の輪郭、髪の生え際へと彼の唇が伝い、
額へゆっくりとキスをした。スカリーは彼を抱きしめるほかなかった。スカリーは体の熱が急激に
上がっていくのを感じて、彼のシャツのボタンに手をかけた。その時ゆるんでいたボタンがはじけ
飛んだ。
「モルダー」
スカリーはボタンを見てあえいだ。

「大丈夫」
モルダーは彼女に微笑みながら残ったボタンをはずした。スカリーは彼の肩からシャツを引き抜くと、
彼の裸の胸に指を走らせた。彼女がずっと夢に見た情景だった。指先で軽く彼の乳首をなでると
モルダーは息を止め、彼女が彼の体を探検するままにした。
スカリーの手は下へ移り、ベルトを不器用にはずした。モルダーはスカリーの唇に深くキスをし、
彼女の息と、あたたかさを味わった。スカリーは体に電流が走るのを感じた。

モルダーはスカリーのナイトローブに手を差し入れ、彼女のパジャマのボタンをはずして肩から
滑らせ、ベッドの上に置いた。モルダーはじっくりと、満足そうに彼女を見た。
モルダーは彼女の美しさを知っていた-これまで想像していた。それは何百回となく彼のファン
タジーの世界でしか見られなかったが-今まさに彼の前にあった。
モルダーは体をかがめて彼女の首筋にキスし、肩へとなめらかな肌に唇をはわせていった。
スカリーは彼の頭が胸までおりてきてやさしく手で包まれると、頭をのけぞらせた。彼は堅くなった
蕾の周りに舌をはわせてから口に含むと、優しく吸った。繰り返しもう片方の蕾も愛撫すると、スカ
リーの口から苦しそうなあえぎ声が聞こえた。

言葉に出来ない感覚がスカリーに波のように押し寄せた。モルダーは彼女のパジャマの下を腰から足
へと引き抜いた。彼は片手を彼女のショーツに走らせた。スカリーは彼にうなずき、彼は一気に同じ
ように引き抜いた。モルダーは彼女の胸に手をさしのべ、優しくそれぞれの蕾を愛撫した。そして片
方の手を少しずつ下ろしておなかを通り、彼女の脚の間へと手をすべらせていった。

スカリーが自分を見ていることに気が付いた。ふるえている。
「大丈夫かい？」
彼女はうなずいた。
「こわいのかい？」
彼女は首を振った。

モルダーがそっと花弁に指を差し入れて敏感な部分を見つけ優しく円を描くように愛撫すると、
スカリーのあえぎ声が大きくなった。モルダーは彼女に悦びを与えられたことと、彼がずっと聞きた
かった彼女のあえぎ声にぞくぞくして微笑んだ。強くなりすぎないほどの力を指に込めてさらに
愛撫を繰り返すと、吐息も、花弁の潤いもさらに増していった。スカリーは彼の与える刺激で腰を
くねらせた。

モルダーは指を濡れた中へ一本すべりこませた。そこはあたたかくきつく指を締め付けてきた。
彼は慎重に奥に深く指をすべらせると、スカリーは背中を弓のようにしならせ、彼のたくましい腕に
つかまった。
「ああ、モルダー」
スカリーはあえいで彼の腕に爪を立てた。
モルダーはスカリーの中が指を締め付け濡れるのを味わった。
スカリーははっと目を開け、彼を見てささやいた。
「モルダー、お願い。」
モルダーは指をそっと抜くと、急いでまだ着ていたものを全て脱いで彼女のもとへ戻った。

モルダーはかがみこんで彼女のおなかに、太腿に、そして脚の間の、彼女自身へとキスを下ろして
いった。スカリーの脚をゆっくりと広げると、彼女は少しふるえた。彼がその部分へキスしようと
すると、スカリーの手が止めた。
「どうしたの？」
モルダーはたずねた。
「まだ、だれにも・・・」
スカリーは恥ずかしそうにささやいた。
「とてもこわいの。」

「大丈夫」
モルダーはささやき、唇を近づけた。
「僕を信じて」

〈僕が初めて彼女を愛撫する。〉
スカリーの言葉は彼を喜ばせ、モルダーは彼女が受け入れる準備が出来るまで音をたてながら
彼女を愛した。

モルダーは起きあがって彼女の顔に近づき、深く口付け、腕で彼女を包み込むように抱きしめた。
鉄のように固くて熱い彼自身がスカリーの太腿にあたるのを感じて、彼女は唇から熱く、甘い
あえぎ声をもらした。スカリーは彼とこうなることを何度も夢みていた。

彼は少し後ろに下がり彼女の脚を腰に巻きつけるようにあげると、彼自身をスカリーの入り口近く
にあてがい、周りにすべらせて彼女の敏感な部分をもてあそんだ。スカリーは腕を彼の首にまわし
体が弓なりにのけぞった。唇は開いて熱い吐息と甘いあえぎ声を出し、瞳は耐えられないほどの欲
望で妖艶な光を出し、まぶたが重そうに半分閉じていた。
「スカリー」
モルダーは彼女にささやいた。
「ダナ」

モルダーがゆっくり彼女に沈み込むと同時に彼女のまぶたが開いて彼を見た。
彼が動くごとに彼女の瞳は大きく見開かれていった。
モルダーはすぐにも歯を食いしばらなければならないほどの快感に耐え、泣いているような顔に
なった。

「モルダー・・・」
荒い息の中、スカリーはそれだけ言うのがやっとだった。彼の感触は想像以上だった。
二人の体は一つになって激しく動き、ゆっくり動き、モルダーは彼女の背中を激しく揺らし、
腰を打ち付け、突き上げ、激しく、またペースを戻して彼女をどこまでも狂わせていった。
スカリーは彼の背中に爪を立てて彼に近いことを知らせ、モルダーは彼女の肩に顔をうずめ目を
閉じてあえぎ、最後に早く腰を打ち付けると、二人は同時に絶頂を迎えた。

モルダーは荒い息の中、まだ彼女の中から抜けたくないと思っていた。スカリーは目を閉じていて
頬にはいく筋かの涙が輝いていた。モルダーは涙をそっと唇ですくうと、彼女の唇に深くキスをし、
包み込むように抱きしめた。
「まだ・・・動かないで」
スカリーはささやいた。
モルダーは今夜のことを絶対に忘れないと思った。彼は一つになったまま、ずっと彼女を抱きしめて
いた。


*************************************************************************

Part4 - A Talk with Mom

朝。太陽の光がカーテンを通してきらめきモルダーは目を覚ました。
モルダーはこんなにぐっすり眠ったのは久しぶりだと思った。
目を開けると、昨夜のスカリーとの素晴らしい夜のことを思い出した。
二人は一晩中抱きしめ合った。
モルダーはスカリーに腕を伸ばした。しかしいるはずのスカリーの姿はなく、モルダーは驚いて
飛び起きた。
「スカリー？」
返事がない。
昨夜床の上にあった彼女のパジャマが近くのイスにかけられてあった。
彼は立ち上がってジーンズを身につけると、上半身は裸のまま部屋を歩き回り、スカリーの姿を探し
たが彼女はどこにもいなかった。
モルダーは疲れたように目を閉じた。
〈彼女は一体どこに行ってしまったんだ？〉

+-+-+-+-+-+

スカリーは昔の自分の部屋のベッドに横たわり、天井を眺めていた。
母親になぜこんな早朝に実家に来たのか説明するのは難しいだろうと思った。しかし彼女には他に
思い当たる場所がなかった。

彼女の体にはまだモルダーの肌の匂いが残っていて、スカリーは体を丸めて泣きたくなった。
なぜ彼女は自分のアパートの部屋から出てきてしまったのだろう？

昨夜のことは彼女がずっと望んでいたことだったのに。いや、それ以上のものだったのに。

古いABBAの曲がスカリーの頭に浮かんできて、彼女は憂鬱な気分で目を閉じた。

　゛私たちのうち一人が泣いてるってこと
　　二人のうちひとりが
　　孤独なベッドに身を横たえているってこと
　　天井をじっとみつめながら
　　いっそのことどこか他の場所にいられたらと
　　願っているんだってことを
　　ひとつの電話を待って
　　悔やんでいるのよ
　　バカな気持ちにとらわれて
　　なさけないと思う自分を
　　別れずにいなければよかったのにと
　　思っているのよ　″

スカリーはぎゅっと自分を抱きしめた。

「ダナ？」
母親の優しい声がドアの外から聞こえた。
「入ってもいい？」

スカリーは頬をこすって涙を拭き、ベッドに座り直した。
「ええ、ママ。」

マーガレット・スカリーが部屋に入ってきた。彼女にはなぜ娘がこんなに泣いているのかわからな
かったが、その原因はフォックス・モルダーにあるだろうと直感した。

ダナは古いベッドに座り、何とか微笑もうとしていた。マーガレットは彼女の隣に座ってたずねた。
「何があったのか話せる？」

スカリーはうつむいた。
〈隠しても仕方がない。〉
無理矢理作っていた微笑みを消した。
「どうしたらいいかわからないの。」
スカリーは低くつぶやいた。
「聞いたらママがどう思うか。」

「どういうこと？」
マーガレットはたずねた。

「モルダーのことよ、ママ」
スカリーは母親が考えていたとおりのことを答えた。
「彼と私は・・・つまり・・・」
スカリーは言葉をのばし、声は震えて瞳に涙が浮かんだ。
マーガレットは力づけるために娘に手を優しくかけた。
「私たちは寝たの。」

マーガレットは努めて反応しないようにした。
そのこととは思わなかった。
きっと『私は彼を愛しているのに彼は愛してないの』だの『彼は誰か他の人を好きなの』とでも
いうようなことだと思っていたのだが。
しかしそのことに反対ではなかった。娘がフォックスと恋に落ちるのは望んでいたことだった。
「なぜ泣いているの？」
マーガレットは娘にたずねた。

もう一年以上前から、娘とフォックスがきっと恋に落ちるだろうと直感があった。
でも今娘は泣いている。一体どうしたのだろう？

「私が出てきたの。」
スカリーは苦しそうに話すと涙が頬にこぼれ落ちた。
「朝起きて、彼をおいてきたの。私の部屋に。ひとりで。」

マーガレットはうなずいた。
「つまりあなたは彼と寝て気が動転して彼をおいてきたの？」
マーガレットはまだ混乱していたが、そうたずねた。

「ええ、いえ。」
スカリーはためらって答えた。
「わからないわ。」

「なぜ彼をおいてきたの？」
マーガレットは娘をせき立てた。二人のことを詮索する気はないが、もっと娘のことを知りたかった。

「わからないの。」
スカリーはひどく泣き出した。

マーガレットは泣いている娘を抱きしめた。
「もしかして・・・彼とのセックスがいけなかったの？」
マーガレットは娘にこんなプライベートな事を聞いたこともなかった。娘が怒らずにいてくれること
を願った。

スカリーは母親の肩から頭を上げ、しゃくりあげながら言った。
「いいえ、いいえ。」
スカリーは涙をぬぐって落ち着いて話そうとした。
「それは・・・すごくよかったの。」
スカリーは赤くなりながら認めた。
「ごめんなさい、ママ。まさか自分の娘がこんな事話すとは思わなかったでしょう。」

「ダナ、私も経験があるからわかるわよ。打ち明けてくれてありがとう。ただ、あなたが望んでいた
　ようではなかったのかと思って聞いただけなのよ。」

スカリーは首を振った。
「全て私が望んでいたとおりだったわ、いえ、それ以上よ。」
スカリーは思い出していた。二人が体を重ねるのは昨夜が初めてだったのに、スカリーはこれまで
経験したことがないほど興奮で激しく体が震えた。そしてモルダーが彼女の体をつかみうめき声を
上げたとき、彼は完全にエクスタシーの表情だった。
それを見たスカリーの頭に、モルダーが過去に他の女と同じように楽しんでいる姿を想像したので
ある。

「それじゃ、何があったの？」

「彼は私を愛してると言わなかったわ。」
スカリーは涙をこらえながら弱々しく言った。

「あなたは彼に愛してると言ったの？」
マーガレットはたずねた。

「もうずっと前から彼を愛していたことをあなたは伝えたの？」

スカリーは驚いて母親を見つめた。
「どうして知って・・・」
〈ママは知っていた。でも、ママが知ってるなんて知らなかった〉
「どうして知ってるの？」

マーガレットはそっと息をすると、懸命に答えた。
「私はあなたの母親よ。どうして知らないでいられるの？」
マーガレットは何とか娘をなぐさめたかった。そして思い出した。
「ダナ、彼もあなたを愛してるわよ。」
「ママは彼の母親じゃないでしょう、なぜそんなことがわかるの？」

「ダナ、それは彼の目を見ればわかるわ。ママにはわかるわよ。あなたへの想いが伝わってきてたわ。」
彼はそのことを言葉にして表さなかったかもしれないが、それが本当であることをマーガレットは
確信していた。マーガレットは娘の髪を優しく撫でながら言った。
「いい？ダナ。アパートに帰って彼と話すのよ。正直にあなたの気持ちを話すの。あなたの気持ちを
　直接聞いたら、彼の心もきっと開くわ。わかってるでしょう、あなた達は二人ともあきれるほど
　がんこで自分の気持ちを認めようとしなかったわ。でも今こそ本当に必要なときなのよ。」

「でも、仕事が」
スカリーは首を振った。
「スキナーが、上司が、誰か知ったら私たちはすぐ離されてしまうのよ。一緒に仕事をする限り、
　そういう関係になってはいけないのよ。規則に反するの。」

マーガレットは数週間前にみた夢を思い出していた。
メリッサが現れて、素晴らしいものを見せてくれたのだ。
ダナとフォックスの結婚式だった。
それは近い未来の情景で、式にはスキナー氏も出席していたのだった。
しかし現実では、彼の役は違うようだった。

「ダナ、頭で考えちゃだめ。あなたの心に従うのよ。」
マーガレットは優しく言った。

スカリーは心の中で母親の言葉を繰り返した。
そして自分が何をすべきか、やっと気が付いた。

*************************************************************************

Part5 - Tell Me How You Feel

モルダーは空腹を満たせるものはないかとスカリーのキッチンをガサガサかきまわした。
シリアルを見つけ、ボウルにいれてミルクと食べた。空腹がおさまると、スカリーの部屋を探検
しようと決めた。
〈スカリーはここにいない。だからきっとわからない・・・〉
モルダーは彼女がいないことにため息をついた。
彼にはどうしても知りたいことがあった。
いつも心の中で気になっていたことが。

まずベッドルームへ向かいクローゼットを開けた。中は驚くことのないスーツの列だった。多くは
モルダーも仕事場で見たことがあり、黒っぽいものが多かった。何色かのきれいな色のスーツもあ
り、彼はスカリーが着ているところを思い出した。
その他に赤いスーツ、グリーンのシルクシャツ、薄紫のスーツがあったが、これは彼女が着ている
ところを思い出せなかった。しかし彼女が着ればきっと似合うだろうと思った。

クローゼットの上の棚には何枚かのセーター、ジーンズやスウェットがあった。それらはモルダー
がもっと彼女に着てほしいと思う服だった。これらを着た彼女はより若々しく見えた。
モルダーが一番上の引き出しをあけると何枚かの布が飛び出てきた。それらは彼が昨夜見たものと
同じようにベーシックなものを含むランジェリー関係で、中にはレースやシルクのものがあり、彼
の知ってるスカリーと関連づけられなかった。
黒のストッキングや黒のスリップ。
〈これは彼女が着てるのはわかる。でもこれは？どこでこれを買ったんだ？〉
それは深い紫のキャミソールで、ちょうど彼女のヒップを隠す長さしかなかった。
モルダーには彼女が脚の間さえ隠せない長さのキャミソール-もちろんただのキャミソールではない-
をつけ、彼の前に立っている姿が想像できなかった。

モルダーは引き出しを戻すとバスルームへ向かった。そこは以前にも見ていたものがあった。石けん
やハブラシ、シャンプー、日用品。モルダーはシャンプーのボトルから香りをかいで戻した。それは
さわやかでフレッシュな香りで、これまで数えるしかない彼女を抱きしめた時に彼女の髪からした香
りと同じものだった。

キャビネットの中は化粧品が入っていた。
モルダーは大したものは見つからないと思った。
〈スカリーは化粧などしなくてもきれいなのに〉
彼はそう思っていたし、その通りだった。
ファンデーション、パウダー、アイライナー、マスカラ、口紅、そして・・・香水が2本。
一本は“クロエ”のものだとわかったがもう一本はわからなかった。その香水は金色のストッパーの
付いたコバルトブルーのサファイアのような色のボトルに入っていた。
〈“Sun Moon Stars”〉
モルダーはボトルの底にある名前を読んだ。
この香水は一度も使われてないようだった。
〈誰かからもらったのか？〉
モルダーは考えた。

もう片方のキャビネットにはあらゆる種類の薬や処方薬がいっぱいに入っていた。チレノール、
マトリン　・・・鎮痛剤。スカリーは痛みがあるとすぐ薬を飲んだ。
〈スカリーはいつも僕が頭痛の種だって言ってたっけ。〉
モルダーはため息をついて考えた。

古い鎮痛剤の処方箋、古いチレノールとコデインの処方薬、そして・・・モルダーの心臓の音が
大きくなった。2段目の棚に小さな丸い円盤状の薬があった。見つけてしまった。
モルダーにはそれ以上見なくてもわかった。
避妊ピル。
〈なんでこんなものを持ってるんだ？最近まで誰かと寝ていたのか？〉
そんなことは考えたくなかった。

モルダーはバンと音を立ててキャビネットの戸を強く閉め、もう一度バスルームを見回した。
〈いいバスルームだな〉
かぎ爪の付いたバスタブと、その横の棚にはバスオイルの小さなボトルがあった。
モルダーは彼女がバスタブに横たわり、温かいお湯と虹色の泡が彼女の首や体をおおっているのを
想像した。その時の彼女の肌。お湯と泡であたたかくやわらかく、モルダーは手を伸ばして彼女の
肌に触る・・・。

モルダーは頭を振るとベッドルームへ戻った。
机の上に小さなジュエリーケースがあった。モルダーは彼女が髪を耳の後ろに挟んだときに見える
シンプルなイヤリングとはずしたことのない金のクロスネックレス以外のアクセサリーを見たこと
がなかった。
ケースにはパールのイヤリング、金の輪のイヤリングなどがあった。
モルダーは朝、鏡の前でスカリーが身支度をしてイヤリングをつけている姿を思い描いた。そして
モルダーが後ろから彼女に腕をまわし、鏡で二人の姿を見ながら耳の後ろに軽いキスを落とし、指
で優しく彼女の髪をすく・・・。

モルダーは想像するのをやめて鏡を見た。一人の男しか映っていなかった。
〈スカリーはどこに行ったんだ？どうして出ていったんだ？〉
最後に覚えているのは彼女が腕の中で丸くなっていて、抱きしめ直して眠りに戻ったことだった。
その後に彼女は起きて服を着て、出ていった。
〈一体どこに行ってしまったんだ？〉

昨夜のことはお互いがずっと望み続け、がまんし続けていたことだと思っていたのに。
彼女は何のメモも、言葉も残さず離れていった。
〈どうして。〉

部屋の鍵がそっと開く音がしてモルダーは驚いた。
モルダーはリビングへ急いだ。
「スカリー」

「起きてたのね。」
スカリーは答えた。
「まだ寝てると思ったんだけど。」

モルダーは彼女を抱きしめようと部屋を横切って近づいたが、スカリーは彼を避け、鍵をテーブル
に投げてソファに座り、彼の方に顔を向けた。
「話せる？モルダー。」

「もちろん」
モルダーは彼女が懸命に声を出しているのがわかった。モルダーが隣に座ると彼女の目の縁が赤く
なっているのに気が付いた。
〈スカリーは泣いていた。〉

「昨夜のことだけど」
スカリーは話し始めた。
「昨夜は・・・なんというか・・・信じられなかったわ。」
モルダーはうなずいた。
「君は素晴らしかったよ。」
モルダーが低くささやくとスカリーは少し赤くなったように見えた。
スカリーは気を取り直して続けた。

「モルダー、でもあなたは・・・前にもあるでしょう？たくさんの女性とつきあったでしょう？」

〈一体彼女になんと言えばいい？〉
モルダーは困惑した。
〈愛し合うことで圧倒的な愛を感じたのは昨夜が初めてだったとどうやって説明したらいい？
　彼女への愛は絶対的だとどう伝えたらいい？〉

彼が昔関係した女性はほとんどが一晩だけの関係だった。性欲の問題だけだった。
ベッドでのことがすむと興奮はすっかり冷めていった。彼女が想像してるような「Hot」なことは
彼女だってよく知ってるようにAVビデオやＲ指定のスクリーンの中の女優としかしていない。
決定的なことに、モルダーはスカリーと出会ってからこの2年半、小柄で赤い髪で蒼い瞳の彼女の
ファンタジーばかり夢みていた。
どうすれば彼女に彼が抱えてきた想いすべてを伝えられるのか。
「スカリー-」

「いえ、話させて。昨夜のことはあなたにとってただのセックスでしかなかっただろうけど、でも、
　私には違うの。私は・・・。」
モルダーは彼女の話を止めた。
「スカリー、僕にとってはただのセックスじゃなかった。僕がどれほど長い間・・・こうなることを、
　君とこうなることを望んでいたか知らないだろう？」

スカリーはほとんど信じられないというショックで彼を見た。彼が自分のことを気にしてるとはわか
っていた。
彼女も、心のどこかで彼のことを想ってる気持ちが伝わるようにと願い続けていた。
しかし現実にはスカリーは自分の気持ちを心の奥に押しやり、決して誰にも見えないように覆ってし
まっていたのだ。彼にだってわかるはずなどないと思っていたのだ。
〈モルダーはきっとあることだけが欲しかったのよ。それが彼の言おうとしていることなんだわ。〉
スカリーはつぶやいた。
「わかってるわ。あなたはたぶん私とのことを想像して一度寝たいと思ってたんでしょう？」

「スカリー、君が思っているようなことじゃないよ。僕はただ君と寝たいんじゃない。僕は・・・」
モルダーは頭をかかえるように髪に指を走らせた。彼はこれまであまりにも長く自分の気持ちを押さ
えつけてきたので自分の正直な気持ちを話したら彼女に笑われるんじゃないかと怖れていた。
「君と愛し合いたかったんだ。君と愛し合いたい。僕のこれからの人生全てで君と愛し合っていきた
　いんだ。」
モルダーはそれだけ言うと床を見つめた。
うまく言えていないことはわかっていた。

スカリーは彼がセックスだけを求めていたのではないことがやっとわかった。彼はセックス以上のこ
とを求めていた。それは深いつながり。信頼と優しさの親密な関係。これまで二人が分け与えて共有
してきたこと、以上のもの。
「何ですって？」
スカリーの声は震え、弱々しかった。

モルダーが顔を上げた。スカリーの瞳の縁に涙がこぼれ落ちそうになっていた。スカリーは彼の言っ
たことが信じられなかった。モルダーは深呼吸した。
「昨夜のうちに言うべきだった。でも言えなかった。昨夜は現実だということが信じられなくてほっ
　ぺたをつねりたいくらいだったからさ。一晩中、朝になったら腕の中の君と目を覚まし、どれほど
　君を愛しているかを言おうと考えていたんだ。」

スカリーの頬に涙がすべり落ちた。モルダーは手で優しくふきとった。
「それで私は出ていったの。私は・・・あなたがただ私と寝たかっただけだと思ったのよ。」
スカリーは弱々しく言った。

「もちろん君と寝たいさ。」
モルダーは少し微笑みながら言った。
「でもそれ以上が欲しかったんだ。」

「愛してるわ、モルダー」
スカリーははっきりと言った。
モルダーはうなずいて彼女を引き寄せ、彼女の暖かさが感じるようにしっかりと抱きしめ、彼女
の髪と背中を優しく撫でた。スカリーは彼の裸の胸に頬を寄せた。彼の肌はあたたかく、心臓の
鼓動が聞こえた。そうしているとこれまで経験したことのないほど気持ちが落ち着いてきた。

「愛してるよ、スカリー」
モルダーは彼女の耳にささやいて、彼女の頭の上にキスをした。指で彼女の顔をそっと持ち上げて、
やさしく、力強く彼女の唇にキスをした。彼女の唇の角にキスを移し、また唇全てにキスを戻して
いった。スカリーも彼にまけないほどキスを返した。

スカリーはモルダーの胸に手を置き、彼の鼓動が早くなっているのを指で感じた。
「ベッドに戻ろうか」
モルダーが彼女に提案した。

「仕事が・・・。スキナーが・・・。」
スカリーがつぶやいた。

「今朝くらい奴を放っといても平気だよ。」
モルダーは悪びれなく言った。

「遅刻するわ。」

モルダーは彼女がそれ以上言わないようにキスで塞ぐとベッドへ連れて行った。
スカリーの服を脱がせて、彼が死ぬほどそうしたかったように腕の中に包んだ。
モルダーは彼女の顔を-美しい表情を-見下ろした。
今モルダーはなぜ彼女が出ていったのかわかった。なぜ彼女が泣いたのか。
二人がお互いへの気持ちを開け放した今、モルダーはもう一度彼女に伝えずにいられなかった。
「スカリー・・・」
彼は静かにささやいた。
「ダナ、愛してるよ。」
彼女にもう一度伝えると、心が晴れわたっていった。
スカリーは手を下ろし、彼のジーンズのボタンをはずした。
彼女の手の感触が彼の腹部に感じると、モルダーは自分の体が急激に熱くなっていくのがわかった。
スカリーの手がさらに下がり固くなった彼自身にたどり着くと、モルダーはうめき声を上げた。

スカリーは彼を見て微笑んだ。
「見せて」
彼女は恥ずかしそうに彼にささやいた。

モルダーは今朝こそ彼女がこれまでないほど、最高のエクスタシーを感じて身もだえするまで
愛し抜く、と心に書き留めた。
モルダーは激しく彼女にキスをし、どれほど彼女を愛しているかを証明し始めた。

*************************************************************************

Part6 - Fumbling Towards Ecstacy

モルダーは彼女の首筋にキスを降ろしながら腕をスカリーの背中に滑り込ませ、ベッドで彼女
を抱き締め直した。モルダーは彼女の体のカーブにそってキスを続けるたびにクリームのよう
な白い肌に酔っていった。

スカリーは驚きを表しながらも静かに澄み渡った瞳で彼を見上げた。彼に触れられるごとに体
中が彼を求めてうずいた。こんなことは初めてだった。モルダー以外の誰も彼女をこんなふう
に出来なかった。
モルダーに初めて会ったとき、まだ絆がなかったとき、あの頃今の二人を想像できただろうか。
一つのベッドに横たわりお互いの腕の中に包まれ、愛し合い、驚くべきパワーが二人の間を結
ぶのを想像できただろうか。

モルダーが彼女の唇にキスを戻した。スカリーは彼の唇ががさらに強く、もっと彼女を求めて
いるのを唇から感じ、頭へ下半身へ感情が流れ、体中を忙しく駆けめぐった。
モルダーは片手をスカリーの胸のふくらみへ移し、一本の指を蕾の周りの柔らかな肌にすべら
せた。彼はからかうようにわざともっとも敏感な蕾に触れずに周りだけをなぞり、じらした。
まるで彼がふくらみを刺激するだけで、彼女の興奮を自在にあやつろうとしているようだった。
ふいに彼の指が蕾に触れた。彼が親指と人差し指でつまんでゆっくりとまわすように、強くなり
すぎないようにそっと刺激すると、スカリーは思わずあえぎ声を出した。

スカリーの瞳が閉じて、小さなため息が唇からこぼれるのをモルダーは見て微笑んだ。
このときこそ、ずっと夢見たことすべてを彼女にみせる、彼が待ちこがれていたときだった。

モルダーは低くかがみ込んで指と唇を彼女の蕾へ落とし、唇を固くして蕾を吸った。片手を彼女
のおなかへ、脚へ、太腿へ、彼女自身へと降ろしていった時、突然ある考えが彼にひらめいた。
「スカリー、お願いがあるんだけど」
モルダーはささやいた。

数分後、スカリーはあのキャミソールを着て立っていた。モルダーが思ったとおり、
キャミソールは彼女の脚の間の彼女自身をかろうじておおっていた。
スカリーは恥ずかしそうに手を下ろして隠そうとしたが、モルダーの手が止めた。
「僕は少し自意識過剰なんだ。」
スカリーはうなずいた。

「隠す必要はないよ。」
モルダーは優しく彼女の手をどけると、代わりに自分の手を彼女自身をおおうように置いた。
ベッドに横たわると、モルダーは彼女にキスし口の中へ舌を差し入れ、抜き出し、彼女の気持ち
がキスに集中するように深く口づけを繰り返しながら、指を彼女自身のしっとりとした花びらの中
へ差し入れ、探検を始めた。

モルダーの指が彼女の花びらを分けて一番敏感なところを探り当て、ゆっくりと優しく円を描く
ように触れると、スカリーの唇が開き彼の口の中であえいだ。モルダーは彼女がさらにあふれる
ように濡れそぼり、敏感な部分がふくれて固くなったのを指に感じて、彼女の中の熱をさらに上
げるように動いた。指で円を描くように動き続け、スピードを上げ敏感な部分をいじめるように
指で押した。
「モルダー」
スカリーが息を詰まらせながらあえいだ。
モルダーは顔を上げた。彼は笑っていた。正真正銘の笑顔だった。
スカリーの体はもうこれ以上の彼の愛撫に耐えられないほどの悦びで燃え上がり、ベッドから
弓なりに体をのけぞらした。


スカリーが意識をなくそうとした寸前にモルダーはスピードを緩め、指を引き抜き彼女にキスを
した。
〈ああ〉
スカリーは燃え上がる体を、激しく弾む鼓動をおさえようとした。
モルダーはスカリーを抱きしめ、ふくらみと、その谷間にキスし、さらに下へ・・・。スカリー
はモルダーの頭を抱き、それが自分の体を下がっていくのを快感でぼんやりとした頭で感じた。
動きがふと止まり、モルダーは彼女を見上げてささやいた。
「いいかい？」

スカリーはうなずいた。モルダーはまた唇をはわし、彼女の脚へキスを移した。手でそっと彼女
の脚を大きく広げた。モルダーが彼女の膝の裏側から太腿の内側へ舌をはわせると、スカリーは
くすぐったさとうずくような悦びに身もだえた。
スカリーは彼の頭が膝を伝ってあがり、花びらにモルダーの熱い息がかかるのを感じて、
これから自分の身に起きることを予想して息を飲んだ。

モルダーは唇でそっと彼女の花びらをめくり、口で彼女の部分をおおった。
彼の唇が彼女の敏感な粘膜に触れ、舌でゆっくりと一枚ずつ彼女の花びらの中を探検しだしたとき、
スカリーはこれまで経験したことも、想像したこともない快感に泣き叫んだ。

耐えられないほどの急な快感に、スカリーは彼の頭を両手でつかんだ。
「モルダー、モルダー・・・」
スカリーは止めて欲しいのかやめて欲しいのかわからず、請うように歌うように彼の名を呼んだ。

モルダーはその間彼女の体を動かないように抱きしめたが、スカリーは彼の口の下で身もだえし、
腰がくねり、それはとても無理だとわかった。モルダーは彼女を怖がらせないよう、傷つけない
よう、衝撃を与えすぎないように注意し続けた。モルダーは彼女がさらに声を上げ絶頂に近づくと
直前に舌の動きを止め、スカリーを絶頂の縁に何度も何度もやり、甘い拷問を続けた。

モルダーが甘い拷問をやめて顔を上げると、スカリーの顔に一瞬‘やめないで’という表情が
浮かんだ。
「モルダー」
スカリーはあえぎながら訴えた。
「もうダメ・・・」

モルダーはうなずいた。彼女を見ているだけでモルダーも体が爆発しそうに熱くはりつめていた。
言葉を交わすまもなくモルダーは固く熱い自分自身を彼女へ沈み込ませた。一息に深く彼女の
中に進入するとモルダーはうめき声を上げた。スカリーの内側が彼をやわらかく、きつく包み込み、
さらに奥へ、さらに締め付けるように彼を誘った。
「ああ、スカリー」
彼の目は濡れて光った。

スカリーは微笑みで応えた。スカリーはモルダーの一突き一突きをさらに奥に感じられるように
腰を上げてさらに彼を引き寄せた。スカリーはつま先から頭まで衝撃が走るのを感じた。
モルダーは歯を食いしばり、うめき、彼女を抱きしめて動きを早めた。
二人はお互いの名前を叫び合い、同時に二人は衝撃に崩れ落ちた。

絶頂に達してもなお、モルダーは彼女の中で痙攣したように突き上げ続け、スカリーは彼を
抱きしめた。

お互いの腕の中で疲れた体を横たえ、息をつき、二人は何層もの甘い愛情で包まれた。
モルダーはスカリーの額にキスしてささやいた。
「愛してる」
スカリーは無意識に微笑み、彼のそばに寄り添った。

突然電話が鳴り、モルダーは飛び上がった。
「留守電が受けるわ」
スカリーは彼をベッドに優しく引き戻した。


「ダナ、いないの？あれから大丈夫だったかしらと思ってかけてみたの。」
マーガレット・スカリーの声が部屋に広がった。スカリーは声を聞いて微笑んだ。
マーガレットはなぜ娘が電話に出ないのかわかったようだった。
「今夜夕食を食べに来ない？ああ、それにフォックス、あなたも来てね。会いたいわ。」
電話が切れた。
モルダーはスカリーに微笑んでみつめた。

「母はあなたがいることを知ってたの。」
スカリーは自分から答えた。
モルダーは甘く情熱的にキスをしてきて、スカリーはめまいがした。
また電話が鳴った。
「もう！」
スカリーがつぶやくと、二人はくすくす笑った。

「スカリー捜査官、スキナー副長官だが。9時からのミーティングで君とモルダー捜査官を
　待っているのだが。今9時45分だ。」
「忘れてたわ！」スカリーは声を上げた。
「ミーティングがあったのよ！」
「あのオジャマ虫め。」
モルダーがうめいた。

スカリーは電話に飛びついた。
「サー？」
スカリーは子機を取り上げると落ち着いた声を出した。
「スカリー捜査官。君はミーティングに出るはずじゃなかったのかね。それとモルダー捜査官が
　どこにいるか知らないか？連絡を取りたいのだが。」
〈モルダーの言うとおりだわ、ほんとにオジャマ虫ね。〉
スカリーはスキナーの質問を思い出すと笑い出しそうになるのをこらえた。
モルダーはスカリーの汗ばんだ肩に腕をまわし、首筋にいたずらっぽくキスをした。
「サー、何とか探してみますわ。きっと近くにいるはずですから。」
「モルダーは君の部屋にいるのか？」
モルダーがまたキスしてきた。スカリーが腕から抜け出そうともがくと、モルダーはくすっと笑った。
「いえ、サー、彼はいません。つまり・・・連絡をきっと取れるということです。連絡が取れ次第
　そちらに向かいます。」
「待っているぞ。スカリー捜査官。」
電話は終わった。
「モルダー、行くわよ！」
スカリーは枕で彼をたたいて笑った。
モルダーは笑いながら彼女にキスをした。
「モルダー！」
モルダーは彼女の言葉が聞こえないように何度もキスを繰り返し、スカリーをベッドに押し戻した。
「愛してる。」
モルダーがささやいた。

「愛してるよ。ダナ・キャサリン・スカリー。」
その言葉は彼女が抱えていた怖れも、心配も吹き飛ばした。
モルダーは笑ってまたキスを繰り返した。

+-+-+-+-+-+

F.B.I本部

スキナー副長官はオフィスのイスに座り、机の上の今切ったばかりの電話を見つめていた。

スキナーにはスカリーの背後からモルダーがくすっと笑った声が背後から聞こえていた。
スキナーはバカじゃない。何があったのかくらいわかった。
彼らの行為に対して二人をつるし上げて脅し、説教を食らわせることはできる・・・のだが。

副長官の脳裏にスカリー捜査官の母親の顔が浮かんだ。
スキナーは大きなため息をついた。
「わかりました。」
スキナーは低い声でつぶやいた。

フォックス・モルダー捜査官とダナ・スカリー捜査官を思いだし、またため息をついた。
「二人とも慎重にやれよ。」
スキナーはつぶやいてふっと笑った。
素晴らしいカップルが誕生したのだ。

〈私だって人間らしい心も持ってるさ。〉
心の中でつぶやくと、スキナーはやれやれと頭を振った。


+-+-+-+-+-+

僕は満たされることなく過ごしていた

他の誰でもない　
僕が君を押し倒して
激しいキスをしてあげる
君の息をすいとってあげる
涙をふいてあげるから　
さあ
目を閉じていればいいんだよ

真実を見つけるために
本当の世界を見つけるために
何度も裏切られ
つまずき続けた

僕たちの間をじゃまするものは
何もない
だから僕はすべてを受け入れる

君の息がかかると
体の痛みがよみがえる
君の言葉が僕を生かしているんだよ

他の誰でもない　
僕が君を押し倒して
激しいキスをしてあげる
君の息をすいとってあげる
涙をふいてあげるから　
さあ
目を閉じていればいいんだよ

　　　　　　　　　　　　　　Sarah 
McLachlan「Possession」

END