DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : PILOT・-What Scully Saw

作：Madeleine Partous　　訳:tomoさん

TITLE: PILOT・-What Scully Saw

作：Madeleine Partous 
訳：tomo




〈おかしな話だわ〉
スカリーはドアをノックすると、先ほどの上司達との会話を思い出した。
〈オフィスにいたあのチェーンスモーカーは一体何者なのかしら。それになぜ私を？
Xファイルを始めるまでは優秀だった捜査官と接触するために、なぜ私を選んだの？〉
その捜査官は輝くような功績を残していたが、規則を守らなかったために上司達から
煙たがられていた。
〈あのチェーンスモーカーはなぜ私をあんな目で見てたのかしら。まるで私がかわいいだけの
新人秘書かなにかのように。失礼だわ。〉
中から返事がした。

「ここにはFBIの嫌われ者しかいないよ」
スカリーはドアの外に立ち赤褐色のストレートの髪を指で耳の後ろに挟んだ。
薄暗い地下室の廊下は捜査官達が捨てていった古いファイルとほこりのにおいがただよっていて、
ぼんやりとした影が映っていた。
〈まるで廃墟ね。〉
スカリーはFBIの地下室に来たのは初めてだった。
彼女は今のひねくれた声の持ち主のことを思いだした。

Fox 
William 
Mulder。

彼についての記録は読んであった。
クアンティコの連中はみなスプーキーモルダーのことを知っていた。
「キツネ男」、「変人」、「奇妙なヤツ」。
彼らはモルダーのことをあざ笑っていたが、それは本当は彼への妬みがそうさせていることを
スカリーは知っていた。彼らはイヤミなジョークでしか彼を賞賛できずにいるのだった。
スプーキーモルダーは彼の伝説について賞賛と恐れの声を同時に受けている人物だった。

スカリーは興奮せずにいられなかった。
連中を敵に回し、規則を守らずこんなところに一人で城を構えている彼に会うことを。
ドアを開けると同時に、緊張で心臓の鼓動が早くなった。

スカリーは自分が何を期待していたのかわからなかったが、少なくとも今目の前にあることでは
なかったと思った。
オフィスはまるで大災害の後のようだった。
山のようなファイルが部屋中のあらゆるところに積まれ、壁のボードには所狭しと新聞の切り抜きや
不気味な写真がピンで留められていた。
部屋はファーストフードの残り香と古くなったコーヒー、そして何より棚の上の大きな書物や
多量のファイルの古い紙のにおいが鼻をついた。
スカリーは壁に留めてある一枚のポスターに目を奪われた。
青い空にU.F.Oが浮かんでいるポスターだった。

I want to believe

彼女はこの部屋の主の背中を考え深げに見つめ、彼の体の特徴を記憶した。
堅く引き締まっていて、座っていてもわかるほどスラリとした体つき。
彼は座ったまま動かなかった。
〈彼も私と同じように緊張しているのかしら？〉
どうやら自分の方から声をかけた方が良さそうだった。
スカリーは背筋を伸ばして彼に近づいて手を伸ばした。
「モルダー捜査官ですか？ダナ・スカリーです。あなたの補佐として配属されました。よろしく。」
彼はくるりと振り向いてメガネ越しに彼女をじっと見つめた。

〈これまで見たことのないハンサムだわ。〉
スカリーは事前に記録に付いていた彼の顔写真を見ていたが、今目の前で自分を見つめている彼への
ショックは予想できなかった。
彼はしっとりと厚いワインレッドの唇をしていた。
スカリーは彼の瞳を見ようと無意識に目を細めた。
彼はいやいやながら-そう見えた-握手するために手を出し、男達がするような固い握手ではなく、
柔らかい握手をした。彼の手はあたたかく、少し汗をかいていた。
「これは驚いた。急に人を増やしてくれるとはね。ところで君は一体何をやらかして
こんなところにまわされてきたんだい？」
彼はさりげない様子を取り繕っていたが、本心はそうは見えなかった。
彼の様子は明らかにおかしかった。彼の態度には彼女を侮辱し、だまして、恥をかかせてやろうと
いう様子が見られた。
スカリーは唇をかみたかった。不幸なことに彼が警戒していることはある意味間違っていないことだ
ったから。

「とんでもない。むしろ光栄に思ってますわ。お噂はかねがね。」
それは全て本当のことだったが、彼女にはもっと言いたいことがあった。
遠回りな挨拶ではなく・・・。
不思議なことにこの瞬間、彼女の中に何ともいえない親しみが流れていた。スカリーは彼を
よく知っているような気がした。
〈そんなことあり得ないわ。ばかげている。〉

「へえ、ほんと。僕はまたてっきりスパイが来たのかと思ったよ。」
当たっていたが、でもそれは彼女のせいではなかった。彼女は自分から望んでこの場所へ来たのでは
ない。あのオフィスにいた誰かか、もっと上の上司か。少なくとも今目の前にいる男に望まれたわけ
でもなかった。
彼はどうやらお得意のプロファイルを始めたようだった。
〈私のことを何も知らないくせに。〉
この男は皮肉な態度をとるのが好きなようだった。彼はひねくれた男の役をのびのびと演じ、
彼女はそれに対して何も出来なかった。

「もし私の能力や資格に疑問をお持ちなら履歴書を・・・」
「君は医学博士であり」
彼は机の上にあったファイルを開きながら話に割って入った。
しかしそのファイルは明らかに彼女の履歴書でも、過去に書いた論文でもなかった。
〈一体何のつもり？〉
彼はかまうことなく続けた。
「今はアカデミーで教えている。他に物理学でも学位を取得し、卒業論文として
『アインシュタインと双子のパラドックスの新解釈』を書いている。」

スカリーは心の中で笑った。
〈おかしいわ。彼は私のことをみんな記憶してるって事なの？〉
彼の視線がさっと彼女に注がれた。彼女の中に理解できない気持ちがわき起こってきた。
〈彼の声はまるで私をバカにしたようだったのに、どうして蜂蜜のように甘く響くの？〉

「アインシュタインを書き直すとは、実に見上げたものだね」
彼はそういうとニヤッと笑った。

〈なんですって？〉
でもなぜかスカリーは笑いたくなった。彼と。
彼を笑ってやりたいんじゃない。彼が笑っているところを見たくなったのだ。なぜなら今の彼の
話し方は笑ってしまうほどひどい演技だったから。
名優フォックス・モルダーはわがままで気むずかしい男の子の役を演じていたが、絶望的なほどの
名演だった。
彼は自分の城を守ろうとしていたが、彼の目は同意を求めているように、賛成してもらえるように
何か訴えていた。
〈一体何を考えているの？〉

スカリーは彼の机の上の写真立てに目を奪われた。
〈誰？〉
彼女はじっと見つめた。小さな女の子が夏の日差しを浴びて笑っている。
〈娘？娘がいるの？いるかもしれないわね。〉
その女の子は8歳くらいに見えた。
〈彼が父親でもおかしくない歳だわ。でも・・・。〉
女の子は彼の孤独な雰囲気によく似ていた。それにスカリーは写真が古いことにも気が付いた。
その写真は60年代か70年代に撮った写真のように少し色あせ、女の子の服装や髪型も、
ちょうど彼女や彼女の姉が子供の頃していたものと同じだった。
スカリーはこの女の子が誰なのかわからなかったが、この写真は彼女の心を強く捕らえた。

「それは読んでのご感想？」
スカリーはむっとしたような態度を保ち続けたが、その表情もすきだらけだった。
スカリーは彼を見上げると心の中を見抜かれたようで息が苦しくなった。
「ああ、もちろんさ。」
彼は急に立ち上がりスライドを持って後ろを向いてしまった。彼の声は大きく甲高く変わっていて、
彼女はいたたまれない気分になった。
「おもしろかったよ。」
言葉とは裏腹に彼は何の関心もないように答えた。
〈いやな奴。〉
どうやら彼はユーモアで言っているようだったが、スカリーは彼の首を絞めてやりたくなった。
〈なぜ彼はわざわざあんな態度をとるの？〉
スカリーは自分のこれからのことを思うと頭が痛くなった。彼がどんな男であろうと彼は彼女の
新しいパートナーになるのだ。

二人は気が付かなかったが、もうすでに彼らの間には今会った人達のようなよそよそしい雰囲気は
なくなっていた。

彼は軽く続けた。

「しかし残念ながら、ここの仕事の役には立ちそうにないね。だが医学博士としての意見はぜひ
伺いたい。」
スカリーは彼が部屋の明かりを消す瞬間に、奇妙に引きつった表情が見えた。
どこか痛がっているような、何かを切望しているような表情が。

明かりが消え、彼はスライドプロジェクターのスイッチをつけた。
スカリーは光に反射して輝く、彼の純粋な瞳に釘付けになった。
「オレゴン州出身、21歳。」
スカリーは頭をふって何の話をしていたのか思い出そうとした。
だが彼がまだ何についてスライドを見せているのか説明していないことに気が付いた。
彼がプロジェクターの光の後ろに立ったため表情が見えなくなった。彼女は光に一瞬目がくらみ、
スクリーンの方へ顔を向けた。

若い女性の死体が地面に仰向けになっていた。
〈この少女は以前は生きていたのね。〉
恐ろしい死体の映像かと思ったが損傷がさしてない、普通の死体のようだった。
〈一体この死体のどこがおかしいというの？〉
問いかけるように彼の方を見た。
「死因は未だにわかっていない。」
彼の冷静な声がプ
ロジェクターの後ろから聞こえた。
「検死からは何も出なかった。何も。唯一腰のあたりにくっきりとした二つの斑点が認められた。」
次のスライドは女性の腰に2つのできものがある映像だった。
〈奇妙ね、何なのかしら？〉
「博士、この斑点を分析していただけませんか？」
彼はまるで彼女の機嫌をとっているような声を出した。
〈そう、私をテストするつもりなのね。〉
スカリーは振り返って彼のぼんやりしたシルエットを見た。
〈けっこうだわ。〉
彼女はゆっくりとスクリーンに近づいていった。

〈これは一体何なの？〉
自分でも知らずに目を見開いた。
〈他に痕跡を残さずこんなにはっきりとした跡をどうやってつけられるというの？腫れた跡も、
　乱暴された跡も、他に赤く反応したところもない。それでもこんなにはっきりと何かの跡が残
　っている。可能性としては・・・？〉
「可能性としては刺し傷か、感電死した跡とも考えられるわ。」
プロジェクターの音に負けないように声を上げて答えた。彼のように「何でも知っているんだぞ」
とでも言っているような自信のある声で。
しかし今の答えはただの推測だった。スカリーは動物には他にひっかき傷をつけずこんな跡をのこ
すことなどできないと知っていたし、何か注射されてできたものだとしても、こんな反応は見たこ
とがなかった。

彼はスカリーが考え込む前に次のスライドを映した。
「じゃあこれはどう？傷口周辺についてた物質の化学式だ。」
スカリーは複雑な化学式を少しの間見つめたがわからなかった。
〈一体これは何なの？こんな化学式見たことないわ。〉
混乱して唇が開いた。
〈何かの要素であることは間違いないわ。でも私の知っているのとは配列が違う。地球上の物質に
　あり得ない配列だわ。〉
それは明らかだった。
〈存在するというなら、この地球上のなにがこんな組織を作れるというの？本当に信じられないこと
　だわ。でも今の認識でいえることは・・・？〉
「これは有機物ね。でもわからないわ、タンパク質の一種か何か？」
スカリーは彼の表情を見ると興奮で脳にアドレナリンが走るのを感じた。
〈彼とこれからやっていくとしたら、少なくともその旅は退屈するものではないわね。〉
彼は記録に載っているように才能があるばかりでなく、ねばり強く何年もかけてこの捜査をしてき
たに違いない。そしてやっとつかんだこの証拠を分析して、強く前へ進もうとしていた。

しかし彼は天才的な説を披露することなく陽気に答えた。
「さあね、僕も初めて見たんだ。」
彼はこの事件をこの世のものではないものが関わっているかのように扱おうとしてるようだった。
スカリーは興奮で急に体の熱が上がり、歯を食いしばらずにいられなくなった。
〈モルダーが今の自分の状態を見たら一体なんて思うだろう？部屋の明かりが消えていて良かった〉
スカリーは自分の顔と体が興奮して赤くなっていることに気が付いた。

次のスライドがスクリーンに映った。
あの赤い印を持った別の死体。
「ほかにもサウスダコタであがった死体からと、テキサスの死体からも同じものが見つかった。」
スカリーは振り返って彼を見つめた。
スカリーはプロジェクターの光でぼうっと浮き上がって見える彼の姿を見ようとすこし首を傾けた。
〈彼は本当に・・・素敵だわ。〉
スカリーは今の自分の表情がどんなふうか考えなかったが、その表情は彼に衝撃を与えたようだった。
彼は顎を下げて一度まばたきをした。

スカリーは喜びが体を駆け抜けるのを感じて、もう少しで大声で笑ってしまうところだった。
ひととこんなふうに興奮を分かち合うなんてめったにない。彼の目は力強く圧倒的で、
彼も何か興奮してる事を訴えていた。この瞬間に彼に近づいたことがわかった。
彼をあざ笑うことなく、彼に妥協を迫ることなく、純粋に。
〈彼も同じように感じているかしら。〉

「それで見解は？」
スカリーの声が少しかすれた。
彼は咳払いをするまでぽかんと口を開けてこっちを見ていた。
「まだ仮説の段階だけどね。」
彼はゆっくりと近づいてきて、彼女の目と鼻の先まで近づいて立ち止まった。
スカリーは後ろに引き下がらずに彼と直面した。彼がかがみ込んだとき、彼の体の熱を感じる
ほどだった。
〈そういう戦法？私をおじけづかそうとしてもむだよ。〉
彼女は顔に潮風のような彼の息がかかっても1インチも動かなかった。
「でもたとえ話したところで君もFBIのお偉いさんと同じように、 僕の仮説を非科学的と
決めつけ無視するだろう。」
彼はまるで自分をあざ笑ってほしいかのように話した。
「どうだい、君は地球外生命体を信じるかい？」

今度はスカリーが目をぱちくりさせる番だった。彼はゲームをしようとしているらしかった。
〈私をここから立ち去らせようとして遊んでいるのね。〉
自分の城から追い出そうと。
〈あらそう。〉
彼がスカリーの香りをかげるぐらい近づいた。
スカリーは深く息を吸い込んだ。
〈負けないわよ。〉
自分は科学者だ。科学的に説明をする他はない。

「理論的に言えば、私の答えはノーだわ。地球に到達するまでに宇宙船の必要とするエネルギーの
　膨大さを考えると、地球まで航海するにあたる・・・」
彼は急にだるそうにうなずいて目を伏せ、机に寄りかかった。
「月並みな意見だな」
彼は急に話をさえぎった。瞳は暗くなっていた。
「このオレゴンで見つかった女性は地元では4人目の被害者だ。彼女の同級生3人は謎の死を遂げ
ている。しかも死因はどれも科学では説明がつかないものばかりだ。」
スカリーは唇をかんだ。

〈それはおもしろいわね。それこそ何の証明にもならないわ。〉
「とくれば、いっそのこと未知の世界に可能性を探るべきじゃないのかな。」
まるでメロドラマのように彼は言葉を選んで話しているようだったが、その言葉に裏はなく、
本当に彼はそう信じているようだった。言葉から彼の強い信念が感じられた。
〈でもちょっと待って〉
今度はスカリーが自分の信じることを話した。

「死因が不明だなんてあり得ないわ。もし自然死なら検死の段階で見落としがない限り何か見つかる
　はずだし、もし殺人なら、捜査のやり方に問題があったと考えるべきね。」
彼はまた微笑んでうなずいた。
その微笑は何かを薄いベールで隠しているようだった。でも誓ってもいいが、彼は何かの理由で楽し
んでいるようだった。
〈一体なんだというの？まるで何かおもしろいものをを見つけたように。〉
「私の経験からして、科学的に説明の付かない事実なんてこの世に存在し得ないんですからね。
答えは必ずある。要はどこを探すかよ。」
スカリーはわざと「どこ」を強調して言った。
彼は皮肉な表
情を変えずに、楽しそうにニヤッと笑った。
「そうとも、FBIのするどい目で」

彼は緊迫した空気がまるでなかったかのように机に向かって陽気に歩いた。
その表情はあたたかくて、友情さえ感じるほどだった。
「それじゃ明日の朝来てくれ。寝坊するなよ。」
彼は肩越しにさりげなく言ってまたイスに座り、机の上のスライドを調べだした。
「8時の便でうわさのオレゴンへ飛んで調査を開始しよう。」

明らかにスカリーは彼のテストに通ったようだった。
〈全くこの人は。〉
この瞬間にもっともユニークなカップルが誕生したのである。スカリーは笑った。
〈この人は。本当に最高ね。〉
ドアをそっと閉めるまで、スカリーは自分が笑っているのに気が付かなかった。
彼は振り返らなかった。
ドアを閉めると、彼女は自分をおさえられなくなった。
そして楽しそうに笑いだした。

〈誰か私を止めて・・・〉

END