|
DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Birthday Presents
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
Dana Scullyは鏡に向かって笑顔をつくった。
＜３８才にしては、まあ・・・いいほうよね＞
彼女は、自分を納得させるようにそっと頷く。
事実、今日は、今までの人生の中でも最高の誕生日として思い出に加えられることだろう。
兄弟や懐かしい友人たちからのバースデイ・カード。
それに、TLGの３人組からは、デイジーとカーネーションの花束も届けられていた。
だが何よりも、この誕生日を特別なものにしているのは・・・廊下の向こうの部屋から聞こえる・・ほら、いま泣き出した、あの声。Melissa。
Scullyは、大急ぎで飛んでいき、３ヶ月になる娘を抱き上げた。
おむつを取り替えてから、揺り椅子に腰かけてお乳を与える。
我が子が乳を吸う間、Scullyは小さな声で子守歌を口ずさんでいた。
歌い終わると、彼女は娘に話しかけた。
「ママがお歌を歌ってあげるのはMelissaだけですからね、おりこうさんだものねぇ。ママはお歌が上手じゃないの・・・でもいいわよねぇ・・あのね、パパにも昔、歌ってあげたのよ、パパが歌えって言ったから・・・。ママとパパはFloridaの森の中にいたの。パパったら、寒いよ寒いよって。でも、パパ・・・あれから、ママに歌えって言わなくなったんだから・・・」
「パパはね、あの歌の“君と朝まで愛し合おう♪”っていうところを夢見てただけなのさ・・・」
面白がっているような声が低くひびいた。
「あら、いたのね・・気がつかなかったわ」
Scullyが、夫のFox Mulderを見上げて微笑んだ。
Mulderは、部屋を横切って近づいてくると、娘のマシュマロのように柔らかな頬に、そっとひとつキスを落とし、それから、顔を傾げたままでいる妻の唇に、ゆっくりと長いキスを贈った。
ふたりがMelissaを抱いたまま階段を下りていくと、テーブルの上にはラッピングされたプレゼントがあった。
さっきScullyがキッチンを通ったときにはなかったものだ。
「ねぇ、もう開けてもいい？」
「だめ。お義母さんが来られるまで待ってなきゃ。ケーキとプレゼントを持ってきて下さるんだから。」
しばらくすると、Maggie Scullyが到着した。
FoxがDanaをバースデイ・ディナーに連れていきたいというので、その間Melissaを見ていてくれることになっていたのだ。
Melissaが生まれてから、ふたりきりで出かけるのは今夜が初めてのことだった。
Maggieは、家に入ってくるなりケーキとプレゼントの包みをテーブルに置くと、義理の息子にも、今日の主役である自分の娘にも、まったく目もくれず、まっすぐにMelissaのベビーシートの方に歩いていった。
「おりこうさんにしてた？」
Melissaが、答えるみたいに喉を鳴らして、はしゃいだ声をあげた。
MaggieとMulderは、"Happy
Birthday"の歌を歌い、それから、Mulderがケーキをカットしている間に、Maggieが孫を抱きとり、Scullyはプレゼントの包みを開けた。
Maggieからのプレゼントは、新しいワンピースだ。
薄いライラックの色合いの、ゆったりとしたデザインで、前ボタンが並んでいる。
妊娠中に増えた体重がまだ元に戻りきっていない授乳中の母親には、うってつけのプレゼントだといえる。
Mulderは、彼女のお気に入りの香水と、その香りと同じアロマのリラックス・バス・セットを用意していた。
Scullyは、夫からのプレゼントが宝石の類でなかったことに、内心安堵のため息をついた。結婚してからの約２年間のうちに、彼はおびただしい数の指輪やプレスレット、イヤリングなどを、妻に贈り続けた。もはや彼女の身を飾るのに、余ってしまうほどの数だ。しかも、そのすべてが本物の宝石で、ひとつとして例外はなかった。
そして、“Melissaからママへ”と書かれたプレゼントには、Scullyの好きな作家の最新作が２冊、包まれていた。
「本当にありがとう」Scullyは、ケーキを頬ばりながらそう言うと、母親にキスを贈り、そして娘にも唇を寄せ、それから、夫に口づけた。
「でも、お夕食の前に、ケーキをいただくなんて・・・どうかしらね？」
Maggieは、声を立てて笑った。
「すっかり“お母さん”風の口をきくようになって・・・Dana。『デザートを食べたかったら、しっかり野菜をとりなさい！』なんて、みんなにやかましく言ってるんでしょう」
「いつも、野菜を口に入れさせようと頑張ってますよ」Mulderが言った。
「というより、これはもう結婚前からずっと言われ続けてるんだけど、ね」
「ママの教育の賜物よ」Danaが言った。
「食べ終わってすぐにせき立てるなんて、ほんとはイヤなんだけど」Mulderが言い出した。
「ゆっくりディナーを楽しみたいし、Melissaが次にミルクを飲む時間までには帰ってきたいから・・・もうそろそろ出かけた方がいいと思うんだ」
「ママ、今夜は泊まっていってくれるでしょう？」Danaが訊いた。
「ええ、dear、夜道を車で帰るのは大変だから、できれば運転したくないのよ。それに、泊まっていけたら、明日の朝、Foxがお仕事に出かけたあとにでも、ふたりでいろいろ相談できるじゃない？あなたが、パートタイムでF.B.I.の仕事に復帰したら、Melissaをうちで預かることになるけど、何を買って準備しておけばいいのか、詳しく聞いておかなくてはね」
「お義母さんに買っていただくものなんて何も・・・」Mulderが口をはさんだ。
「“僕たちが”用意すべきものの相談をしてくださらなきゃ困ります。週に３日もベビーシッターを引き受けてくださっただけでも大変なことなのに・・・お金は受け取れないっておっしゃるし・・・。だからせめて、子供部屋やプレイルームなんかをしつらえてくださるのに必要なものがあるなら、それは僕たちのほうでやらせてください」
Maggieは、天井を見上げてため息をついた。
「いいわ。それであなたの気が済むなら、そうしてちょうだい。だけど、お願いだから、ふたりとも、Melissaを週に２，３日みることが、まるでとてつもなく迷惑な厄介ごとを押しつけてるみたいに言ったりするのは、もうやめて欲しいわ。わたしは、本当に楽しみで引き受けさせてもらったことなんですからね。自分の住む町に孫がいて、いつでも会えるなんて、わくわくするわ。もちろん、Billのところの子供達も大好きよ。でもあの子達には、１年に１回か、せいぜい２回くらいしか会えないでしょう、別れ際になってようやくうち解けられるっていう感じなのね・・・」
「近いうちに会いに行くの？」Danaがきいた。
「ええ、実は明日の朝にでも話そうと思っていたんだけど、あなたが仕事に戻る前に、１，２週間ほどCaliforniaまで行ってくるつもりなの。Melissaと一緒に過ごすようになったら、旅行もそうそうできなくなるでしょうからね」
その言葉に、Danaは頷き、それからふたりは家を後にした。
「ところで、私たち、どこに行くの？」Scullyがたずねた。
「君の誕生日に、連れて行ってあげるところといえば、決まってるじゃないか」Mulderがすました顔で答えた。
Scullyは、大げさに息を吐き出して、瞳を見開いてにらんだような顔をしてみせた。
「Mulder、私たちって、結婚する前から数えても、まあ・・とにかく８年間も一緒にやってきたわけよね。だけどあなたが、私の誕生日に外へ行こうって誘ってくれたのは、たったの１回だけだわ！しかも、あのパブに行って、食事を始めたとたん、Max
Fenigのお姉さんだと称する女性がやって来たのよ」
「だから、そこへ行こうと思ってさ」Mulderが、わが意を得たりとばかりに頷きながら言う。
「思い出の場所は大切にしなくちゃな。それから、一応確認したいんだけど、僕は昨年の誕生日にも、君をディナーに連れて行ってあげるって言ったこと・・・憶えてるだろう？事件の捜査で、Omahaまで行っててさ、僕はおいしいステーキハウスで食事でもしようって誘ったのに・・・“君が”ホテルの部屋にいたいって言い出したんだ。部屋でお祝いしたいって・・・君の生まれた日を・・・生まれたままの姿で・・・ね」
「・・・ん、そうね」Scullyも思い出したように、そっと頷いた。
「ねえ、それから、いつか誕生日プレゼントだって言って、パッティング・コーチをしてくれたわね。たしかあれは、２ヶ月遅れだったと思うけど・・・あの時ね、本当に楽しかったわ！」
「僕も、さ」
***
ふたりでパブに足を踏み入れた瞬間、Scullyは、郷愁にも似た懐かしさで胸がいっぱいになるのを感じた。
この店は、ワシントン地区に棲む“法の番人”たちのたまり場のような店だ。F.B.I.捜査官にとどまらず、司法省や麻薬取締局の役人たち、地方警察の警官たち・・・彼らの足が自然と向いてしまう場所なのだ。
Melissaが生まれてから、あの小さな娘と一緒に家の中で過ごす時間を愛おしく思うのと同じくらい、この場所で、仲間うちの情報や噂を拾ったり、昔なじみの友人とおしゃべりするのは楽しいはずだと、Scullyの心は浮き立った。
ふたりが席について、注文を済ませると、Quanticoの科学分析官が通りかかった。昨年、彼女のクラスを受講し、その後、Scullyと同じラボで働いていた。
「あ！Dr. Scullyじゃないですか！？お久しぶりです」
「元気そうね、Agent Matthews」
「いつ復職なさるんですか？」
「あと２，３ヶ月は先になりそうね。でも、主人が局にいるおかげで、いろいろ話は聞いているのよ」
食事がきてから、Mulderは、Scullyがどことなく、うわの空でいるのに気づいた。
「なにか考えごと？sweetheart」
「Agent
Pendrellのことを思い出していたの。ここで私のお誕生日をしてもらってから・・・彼がこの場所で亡くなったのは、その直後だったわ」
「別のところにすれば良かったな・・・」Mulderが申し訳なさそうに言った。
「そうじゃないの」Scullyが遮った。
「全然、ちがうのよ。Matthewsを見ていると、なぜかPendrellを思い出してしまって・・・。だから、このお店のせいじゃなくて、彼に会ったせいだと思うわ。いろんなことが一気によみがえっちゃったの。Pendrellは私が一番親しかった捜査官だったと思うし・・・あ、勿論あなた以外でってことだけど・・・それに、お互い気心が知れてつきあいやすかったから・・・。でも、本当はあなた、彼のことがあまり好きじゃなかったんじゃない？」
「いや、いいやつだと思ってたよ。彼の専門知識には一目置いていたしね。ただ、ちょっと嫉妬してたんだな・・・それだけさ」
「嫉妬！？Pendrellに？どうして！？」
「ちょっと、君！なに言ってるんだよ、Scully」Mulderがむきになって大げさな口調で言った。
「ヤツが君に首ったけだったのは一目瞭然だったじゃないか！局でも半分の人間は知ってたことだぞ」
「えぇ・・・でも、私はそんな風には思っていなかったし・・・。だって、彼は友だちだったけど・・・それだけだったもの」
「わかってる。それでも僕は、ずっと不安だったんだよ。いつか彼は、それこそ急に光が射しこむみたいに、君の目をとらえて自分のほうに向けさせるんじゃないかって・・・。君たちがふたりで、難しい話をいつまでも続けている間、僕はその辺に転がってる丸太みたいに黙って座ってることしかできなかったからね・・・あの暗号みたいな専門用語を聞きながら、誰かが通訳してくれるまでボンヤリ待ってるだけだった」
「でも、私は一度も彼のこと、そんな風に見たことないわ」Scullyはまた同じ言葉をくり返した。
「それに彼にふさわしいのは、もっと別のひとよ・・・だれだと思う？・・・と言っても、今生きていればの話だけれど」
「誰だい？」
「Melissaよ」
「Melissa？君のお姉さんの・・・Melissaだよな？」
「もう！私たちの娘のわけないじゃない！そうよ、姉さん。Pendrellに初めて会ったのは、姉さんが亡くなる数週間前だったんだけど・・・それからしばらくして、なんとなく彼の気持ちがわかって・・・ふと思ったのよね、もし姉が生きていたら、きっとふたりはお似合いのカップルになったんじゃないかしらって」
「Melissa&Pendrell？？」Mulderは聞き返しながら頭を振った。
「想像もつかないな。だってPendrellは、まじめ一本槍のカタブツで、君の姉さんは・・・そう、もちろん僕は２，３回しか会ったことはないけど、ほら、なんていうか・・・印象として・・・」
「“ぶっ飛んでる”・・・」Scullyが代わりに言い足した。
「そこがまさにポイントなの。Melissaは、誰かしっかり繋ぎとめておいてくれるような人が必要だったし、逆にPendrellには、もうちょっと柔らかく解きほぐしてくれるような相手が必要だったわけ。あのふたりは、TVドラマの『ダーマ＆グレッグ』みたいな感じになったと思うのよ・・・」
「だけど、Pendrellが好きだったのは、君だったんだから」Mulderが指摘してみせる。
「それはちょっと、無理じゃないかな？姉妹のうち、片方から、もう片方に気持ちが移るなんて・・・」
「でも、実はScully家の歴史からすれば、おあつらえ向きのお話なのよね・・・私、祖父母の話をしたこと、あったかしら？」
Mulderが首をふった。
「あのね、祖父は、大伯母のEleanorと同い年なの。１９２０年代のことになるけど・・・ふたりは高校の同級生で、祖父はEleanorにベタ惚れだったのね。祖母は、ふたりよりちょっと年下なんだけど、祖父は、よく曾祖父の家にも遊びに来てたけど、Eleanor伯母のことしか目に入ってなくて・・・実際ふたりは、一緒にダンスパーティに行ったりして、何度かデートもしたし、伯母のほうも、祖父のことはそれなりに好きだったらしいんだけど、恋愛感情ではなかったのよ。それで、妹の祖母の方が、祖父のことを気の毒がってしまって、家に入れてあげてクッキーを焼いてあげたり、宿題を手伝ってもらったり・・まあ、そんなようなことをいろいろしていたわけ。でね、そうこうするうちに、祖父ははたと気づいたの。ずっと“おちびローズ”なんて呼んでいた女の子が、いつのまにか見事な花を咲かせて、美しくて思いやり深い、すばらしい女性になっていたことに・・・見当違いのほうばかり見ていて、それに気づかずにいたのね。それで結局、祖母が高校を卒業した年の夏に、ふたりは結婚したのよ」
「すてきな話だ」Mulderが言葉を結んだ。
Scullyは、くすくす笑い出した。
「素敵な話、というだけじゃなかったわ。高校生の頃の姉と私にとっては、すごく大きな歯止めになってたの。男の子と“いくところまでいく”ってこと、考えられなかったもの。どんな忠告より強力よ・・・だって、万が一にも、つき合っていた相手が、いつか自分の義理の兄弟になるかもしれない、なんていう可能性を思うと、ぞっとしないでしょう。自然に“その手のこと”も避けちゃったのよね・・・」
「なるほど・・・。いい話を聞かせてくれたから、僕も打ち明け話をしようか。ほんとは内緒にしておくつもりだったんだけど・・・。この店で、君の誕生日を祝ったあの夜、僕にはもっと別の計画もあったんだよ・・・結局じゃまが入ったけどね」
「え？お食事と、それにキーホルダーの他にもまだ、なにかあったの？」
「ああ」Mulderがうなずいて言った。
「なあに？」
「ダンスに誘って・・・それから、もし君さえよければ・・・ロマンティックなひとときを過ごしたくて・・・。実は、アパートにワインも用意してあったんだ。君に寄ってもらうつもりでさ。焦りたくはなかったし、一方的なのは嫌だったけど、でも、できれば・・・ちょっと、バースデイ・キスくらいなら、してもいいかな、って」
「でも・・・Mulder・・・」Scullyは、不思議そうな顔になって、ゆっくり口を開いた。
「それ、ずいぶん前の話でしょう。あなたが私にキスしようとしたり、好きだって言ってくれたり・・・そういうことって、あのお誕生日から１年以上も経ってからのことだわ！そんなに昔からいろいろ考えてくれてたなら、どうしてあんなに時間がかかったの？」
「いろいろあったからな・・・」Mulderは、ため息をついて話を続けた。
「まず、あいつだ。Eddie Van Blandhtのこと、覚えてる？」
「忘れるわけないわ」
「じゃあさ、あのあと少しも経たないうちに、僕が君を家に招待して、ワインをすすめて、ちょっとお喋りでも・・・なんて言って、ロマンティックなムードを演出したらどうだったと思う？まるでヤツの二番煎じじゃないか。僕のほうが先に思いついてたことだって、いくら言い張っても、たぶん君は信じてくれなかっただろうしな。それからはもう・・君は癌に冒されて・・死んでしまうんじゃないかって・・・。それで、僕は・・・なんでだろう、たぶん勇気を失くしてしまったんだな。運命のいたずら、というか、運命が陰謀を企てていたのかも」
「それで、今があるのよ」Scullyは、優しく微笑みながら言った。
「たしかに、長い時間が過ぎたかもしれないわ。でもきっと、それでよかったんだと思うの。私たちが、こんなに固い絆で結ばれて結婚できたのも、ずっとパートナーでいられて、友情を育んできた年月があったからだと思うもの。ね、考えてみて！今の私たちったら・・・お互いの存在と、それにかわいい赤ちゃんまでいるのよ！」
***
MulderとScullyが家に戻ると、ふたりを出迎えるように温かく耳をくすぐる泣き声が聞こえ、Maggieが優しい声でMelissaをあやしていた。
「ちょうどいいところに帰ってきたわ」
部屋に入ってきたふたりに向かって、Maggieが言った。
「５分くらい前から、むずかりだしたの。おむつを替えて、お寝間着を着せてあげたわ。あとは、ママのミルクが欲しいんですって。」
「はいはい、おりこうさんにできたのねぇ」Ｓｃｕｌｌｙが声をかけた。
母の声が聞こえたとたん、泣きやんで、喉を鳴らしながらしゃくり上げる我が子に微笑みかけると、Scullyは急いでブラウスのボタンをはずし、リビングルームのアームチェアに腰を下ろしてから、Melissaを抱きとった。
「まるで、餓死寸前の赤ちゃんだと思ってるみたいだ・・・」Mulderが、いくぶんつまらなそうに言った。
「今、お乳をあげたら、あと６．７時間は眠っていてくれるはずよ」Scullyが答えて言った。
Melissaがミルクを飲む間、３人の交わす言葉が静かに響いていた。授乳を終え、ゲップをさせてから、Scullyが言った。
「この子を寝かせてくるわね。Foxと私も、もう部屋に行くわ・・私たち、また明日の朝も早いし。でもママは、まだテレビでもなんでも、好きなように過ごしていてね」
「私もそろそろ休むわ、dear」Maggieが言った。
そして、３人とも階段をのぼり、子供部屋に忍び足で入ると、Melissaを揺りかごに寝かせてやった。
Maggieは、廊下の奥にあるゲストルームに向かい、MulderとScullyは、こちら側にある寝室に引きあげた。
「君、もう・・くたくたに疲れちゃってる？」
Mulderは、ドアを閉めると、Scullyを腕の中に引き寄せながら、小声で囁くように訊いた。
「私、眠いなんて言ってないわよ、Mulder」彼女が、柔らかく言い返すように答えた。
「でももう、ベッドにはいる時間かしらね」
「それならよかった。だってまだ、僕の計画には続きがあるんだ・・あの誕生日の夜みたいにね。さ、服を脱いだらベッドに横になって」
Scullyは、もの問いたげな眼差しを夫に向けたが、彼は、ただ黙って微笑み返していた。
それで、彼女は、彼の言葉どおりベッドに横たわった。
Mulderは、バースデイ・プレゼントのギフトセットの中からボトルを取りだし、瓶をふってローションを手のひらにのせた。
それから、妻の背中にローションを広げていく。優しいけれど、しっかりと力強い手の動きが、体の上を移動していった。
塗り込められた香りに、彼女の肌が匂い立つ。
ウエストまでくると、さらにローションを足して、柔らかなヒップを丸く撫でた。彼はいつまでも離れがたく、その部分には特に念入りに、手を這わせていた。
そして、のろのろと両手を太腿にずらし、さらにふくらはぎに下ろしてゆく。行き着くところは彼女の小さな足。
両方の足を、愛でるように手のひらで包み込み、ゆっくりと指でさすった後で、彼はそっと囁いた。
「上を向いて」
寝返りをうって仰向けになると、Mulderは、もと来た道を辿るように脚の線を撫であげて、Scullyは、静かに息を吐き出した。
それから彼は、腕やおなかにもローションを塗り広げながら、マッサージを続けた−乳房だけには触れずにいたが−ようやく最後にボトルを置いて、彼は妻に口づけた。
あせらずにゆっくりキスを深めながら、わずかに押し入れた舌の先端で甘えるようにくすぐって、焦らすように煽ってゆく。
ふたりが息を吸い込みながら唇を離すと、彼は体をずらしてScullyの上に覆い被さってきた。
＜なあに？＞
Scullyは、いつもと違うもどかしさを感じていた−夫が体の重みをかけてこないのだ。
腕で体を支えて・・・筋力トレーニングじゃあるまいし・・・
「Fox、ちょっと、あなたったら一体なにしてるの？」
「雑誌で読んだんだけどさ」
「雑誌って・・あなたのじゃない雑誌のこと？」可笑しそうな声で聞き返す。
「そうさ」頷く彼。
「ただ、今回ばかりは、正真正銘ぼくのじゃない。オフィスのトイレに誰かが忘れていったんだ。で、僕はペラペラめくってみた。ほら、GQとかMaximみたいな、そのへんのスーパーとかドラッグストアでも売ってるようなやつだよ。写真の女の子たちは服も着てるしさ。服っていうか、まあ・・・せいぜい君が持ってるVictoria's
Secretのカタログ程度だよ・・・ほんと」
「それで結局・・・その“たしかに本当に絶対に”あなたのじゃない雑誌で、あなたは何を読んだわけ？」
「『正常位は過小評価されている』そうだ。『驚くほど刺激的になりうる』らしいよ。・・と言っても、若干の工夫をこらす必要はあるけど・・・」
「どういうこと？」
「うん・・一般的な認識によると、正常位と言えば、ふつう男が動いて・・・女性はその下で横になっているだけだって。ほとんどのカップルが、たいていの場合そうしてるってさ・・・でも、Scully、こう考えたらどうかな・・・」彼は声をひそめて囁いた。昂まっていく欲望のせいで、彼の声は少し掠れている。
「君を上にするとき、僕はいつもじっとしているってわけじゃない。まあ、ときどきは・・できるだけ体を動かさないで、君の好きにさせてあげるけど・・・。でも、そうじゃないときは、君を上にのせたまま、ほとんど僕だけが動いてるってこともあるよね」
「つまり、立場を入れ替えたらどうかって話？」
「まあね。僕は君の上で体を支えて、体重をかけないようにじっとしてる。それで君が、僕の下で動くんだ・・・横にでも上にでも・・・好きなように」
「いいかも・・・しれないわね」止めていた息を吐き出すように囁いた。
「私、やってみていい？私があなたを中に入れるの」
「君がもう大丈夫なら」
Scullyは頷くと、腕を伸ばして彼の中心をつかんだ。
彼女のほうは、彼を昂ぶらせるために特別なことは何ひとつしていないのに−したことと言えばキスと、それから前戯と言っても、彼が躰のすみずみにまで触れていった時間があるだけなのに−彼はすでに熱を集めて勃ちあがり、強い脈動が彼女の掌にも伝わってきた。
Scullyにとっては、さほど驚くことでもなかった。
というのも、彼女自身、彼のものを口に含み、唇と舌で愛を伝えていくだけで、いくらも経たないうちに、内側から溢れてくるほど潤って、しっとりと濡れてくることを知っているからだ。
相手を悦ばせることで、自分自身が熱くなる−これも、結婚していて味わえる幸せの一端だろう。
そして。
彼女は、彼に手を添えたまま自分の中に引き入れた。
先端を入り口に収めても、彼は身じろぎひとつしなかった。
彼を全部欲しいなら、自分で彼の身体に抱きついて、根元まで埋め込むようにしないとだめみたい・・・。
彼女は両脚を開き、少しずつずらすようにして持ち上げると、夫の背中の上で絡ませてから、肩を起こした。
両方の乳房がぴったりと押しつけられて、彼のごわごわした胸毛と擦れ合った。
なめらかに身体を滑らせ、よりどころを求めて両手で夫の腕にしがみつくと、彼女はうねる波のように揺れる自分の体を支えた。
「ぁ・・・あ！」彼女は、うめくような声を洩らした。
「ほんとう・・・すごく・・いいわ」
「あぁ・・」彼も息を切らしていた。
「僕は今まで、君を下にするのがあんまり好きじゃなかったけど・・・だって・・君をこわしてしまいそうで・・・君はちっちゃくて、僕はでかいから・・・でも、これなら平気だ。君は自由に動けるし・・・」
Scullyは、答える言葉も失っていた。
頭の芯が痺れたようになって、まともに考えることもできず、まして、きちんとしゃべることなどできるはずもない。
以前は・・・彼女がこの体位でオーガズムを得るのは難しくて・・・できたとしても、それはいつも、夫が指や唇を使ってギリギリまで昂ぶらせ、追いつめてから、絶頂寸前で彼が入ってきて、最後の淵をふたりして転がり落ちるのだ。
だけど今は。
彼女が自分で腰を突き出し、彼に押しつけている。
そして彼女は、自分の内側が欲望にひきつれたようになって収縮していくのを感じることができた。
わずかな時をおいて、彼女はびくびくと震える柔肉で彼を包み込み、そして、彼の名を吐息の下で囁いた。
Mulderは、彼女が鎮まるのを待って、おでこにそっと一つキスを落として微笑んだ。
「Dana、ちょっとだけ早くするよ・・・いいかい？」
「ええ、Fox、いいわ」
そしてMulderは、動き始めた。彼女の腰をシーツの上に押しつけたまま、彼は妻の内側に突き入れては退き、また貫いた。
そのリズムに、しばらくの間夢中になり、だがやがて、彼女の名を小さく呼んで、彼は果てた。
「Happy Birthday、Scully」彼はささやいてから、彼女に深いキスを贈った。
「ん・・・素敵なプレゼントだったわ・・・」彼女は眠りの中に引き込まれながら、そう答えた。
***
翌朝、夜明け前。
Maggie Scullyは、孫の泣く声で目が覚めた。
Danaが起きて赤ちゃんのところにいくはずだと思い、彼女はしばらくそのままでいたが、ドアの音も娘の声も聞こえてこなかったので、Maggieは自分で子供部屋に向かった。
「おはよう、Melissa」Maggieが声をかける。
彼女の声は優しかったが、その言葉を口にしたとき、そこには、ほの甘い哀しみが広がった。
かつてその名で呼ばれた娘のことが心をよぎったのだ。
「おむつを替えてあげましょうね。そしたらママのところに行きましょう」
Melissaの支度がすむと、彼女は廊下の向かい側にある主寝室のドアを開けた。
娘の泣き声にハッとしたDanaが、すぐに目を覚ました。裸のまま起きあがると、恥ずかしがるそぶりも見せずに座り直して、Melissaのほうに腕を伸ばした。片方の胸からは乳があふれ始め、白い滴をたたえている。
「ママ、連れてきてくれてありがとう」Danaは、静かな声でそう言うと、娘を抱いた。
「私たち、いつもはドアを開けたままにしているのよ。Melissaの声が聞こえるように・・・でも、昨日の夜は、忘れちゃったみたい」
Maggieは、自分の娘に優しく微笑みかけた。
ベッドに近づくまでに、床に脱ぎ捨てられた洋服をいくつも避けながら踏み越え、そして、Danaがはだかのままでいるというだけでなく、見たところFoxも右に同じ、という状況から判断すれば、どうしてドアが閉められていたのか推測もつくというものだ。
だが彼女はひとことしか言わなかった。
「階下に行って、コーヒーでもいれているわ。朝食にしましょう」
義母が出ていくと、Mulderは低い声で唸った。
「あああ、まったく！Scully！ぼく、あのあと起きて、服をかごに突っ込んで、ドアを開けておかなくっちゃって思ってたのに・・・そのまま眠っちゃったんだ・・・。お義母さんは、どう思われただろう！」
「昨日の夜、あなたと愛し合ってたって思ったんじゃない？」Scullyは、笑いをこらえたような声で言った。
「でもね、こんなに明らかな証拠の揃った現場に踏み込まれると、ちょっと恥ずかしい気はするけど、母もそんなにびっくりしなかったと思うわ。だって、私たち、Melissaを“自然に”授かったわけだし・・・ということは、母も私たちが何をしてるかってこと、ちゃんとわかってるわよね」
「だけど、Melissaが生まれてまだちょっとしか経ってないのに。お義母さんは、きっと僕のことを、まるで我慢できないやつって思われるよ・・・」
Scullyが声を立てて笑った。
「それはどうかしら？もしかしたら母は・・・“もっと”仲良くしてほしいって思っているかもしれないわよ・・・だって、ねぇ、知ってた？Bill兄さんとMelissa姉さんって、たった１１ヶ月しか離れてないのよ。」
end
|