DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : Double date

作：Angela Wardさん　　訳：bagpiperさん

F.B.I.本部の地下オフィス−
Dana Scully特別捜査官は、鳴っていた電話をとった。

「Scully. . .
あ、兄さん！なあに？
ええ、忘れてないわよ。夕食のことでしょう。
わかってるわ、もうCaliforniaに帰るのね。今夜しか会う時間がないんでしょ。
ええ・・・７時ね。
はい・・・Milano'sのお店・・・
え、大丈夫よ。指切りげんまんでもする？
もう、わかったわよ。
“出かける予定があるっていう日に、パートナーに引きずられて山奥まで獲物を探しにいったりはしません”
・・・約束します。
行くってば！Bill。
なにが？お友だち？士官学校のときの？
ううん、いいわよ。きょう街でバッタリ？ふぅん・・・こっちにいるって知らなかったの。
かまわないわ、Bill。そのお友だちにも今夜しか会えないんでしょ。
お夕食を一緒にするくらい・・・全然・・ええ、気にしないで。」

Scullyは受話器を置くと、いらいらした表情のまま、パートナーであるFox Mulder特別捜査官のほうに目をやった。

「お兄さん？」

Scullyが頷いた。
「日曜の夜から、こっちに来てたんだけど、なかなか会えなくて。今夜一緒に食事をするの。ふたりで、まあ１時間かそこらおしゃべりでもしようと思ってたんだけど、兄の友人って人も来るみたい。」

Mulderが笑いかけながら言った。
「そうみたいだな。今思い出したんだけど・・子供の頃さ、家族で出かけたりするとき、僕が友達を一緒に連れて行くとするだろう？そうすると、親は妹にも、誰かお友達を誘ってもいいって言ってたんだよ。なあ、もしなんだったら・・今夜なら僕もヒマだよ。」

Scullyも思わず笑顔になる。
「ありがとう、Mulder！でも、あなたを連れて行ったら、兄が逆上してひきつけをおこしちゃうわ。」

「その友達って誰？」

Scullyは肩をすくめた。
「知らない。名前は聞かなかったわ。士官学校で一緒だったとかって言ってたけど。」

***

JAG司令部−
Harmon Rabb海軍少佐が、鳴っていた電話をとった。

「Rabb. . .
やあ、Billか。
ああ、大丈夫。今夜のことだろう？
Milano'sに７時だったな。
妹さん？あのF.B.I.にいるっていう？
いや、別にかまわないよ。
妹さんも呼べばいいじゃないか。」

Harmは、電話を切ると、彼のパートナーであるSarah MacKenzie海兵隊少佐が、口元をわずかにほころばせ、からかうような顔で自分を見ているのに気づいた。

「デートでもするの？Harm」

「残念でした。Bill Scully海軍少佐だよ。士官学校で同期だったヤツさ。Californiaの海軍基地に所属してるんだ。いま、こっちに来てて、今夜食事でもしようって予定にしてたんだが、妹さんもちょうど出張から帰ったところだというんで、一緒に来るらしい。」

「その妹さんには、会ったことがあるの？」

「たしか紹介してもらった記憶があるんだけど・・言われても顔が思い出せないんだな。・・・というより、まず名前も知らない。なにしろヤツは、『俺の妹だ』って言っただけだから。」

「ねぇ、こっちの捜査状況で、大きな進展があったりしたら・・Milano'sまで行って、あなたに報告した方が・・いいわよね？」

「そうだな、進展があったら・・な。」

***

その夜。
Dana Scullyは、待ち合わせのレストランに到着し、兄の姿を探して店の中を見回した。
昼間、仕事中に着ていたスーツは着替えて、ミッドナイトブルーのシルクのワンピースに身を包んでいた。彼女にはぴったりで、体の線をきれいに見せてくれる。

Bill Scullyは、友人と座っていたテーブルから離れ、妹の方に歩いてきて挨拶を交わした。
彼女を連れてテーブルに戻ると、一緒にいた男性が立ち上がって迎えた。

あら！
Harmをひと目見て、Danaは心の中で思わず呟いた。
なかなか素敵な人じゃない。
背はMulderくらいかしら。でも、ちょっとがっしりしてるわね。
自分のパートナーの体型は、どちらかというとランナー向きなのだけど、この人はむしろフットボール選手みたいな感じ。
<ちょっと！だめよ>
彼女はすぐに思い直して、自分をたしなめた。
いい感じの人に出会ったというのに、どうしてパートナーを基準ににして比べなきゃならないわけ？

きれいなひとじゃないか！
Harmは心の中で思った。
Danaは、Scully家の中でも、一番いい遺伝子だけを受け継いで生まれてきたんだろう・・・間違いなく。
だけど、Macよりは小さいか。
<またやってしまった>
Harmは自嘲気味にそっとため息をついた。
魅力的な女性を目の前にしているというのに、すぐパートナーのことを思いだしてしまう。

「よろしく。」Harmが言った。

「こちらこそ。どうぞよろしく。」Danaも答えて言った。

３人が飲み物を注文し、メニューを見ながら料理を選んでいると、Billのポケベルが鳴った。

「すまないが、ちょっと失礼する。」メッセージを目をやってから、彼が言った。
「電話をかけてくるよ。もしウェイトレスが来たら、俺に構わず注文しておいてくれ。待たせちゃ悪いからな。」

実際、Billはなかなか戻ってこなかった。
DanaとHarmが、料理を注文した後、あたりさわりのない会話で時間をつぶしていると、ようやく彼女の兄が姿を見せた。

「大変申し訳ないんだが、呼び出しだ。」Billが言った。
「緊急会議があって、向こうの基地には夜行便で帰ることになった。」

「そうなの・・・困ったわね、もうオーダーを通しちゃったんじゃないかしら。」とDana。

「ああ。そのことなら、もう俺が支払いを済ませてきた。」Billが急いで言い足した。
「俺が二人を誘ったのに、こんな風に消えるのは申し訳ないし、その上、君たちに支払いまでさせるわけにはいかないからな。」

Harmが肩をすくめて言った。
「じゃあ、お言葉に甘えることにするよ。」

Danaは、兄の頬にキスをしてさよならを言い、男同士は握手をかわして別れを告げた。
それからしばらくして、皿が運ばれてきた。
食事をしながら、Harmがためらいがちに口を開いた。

「Dana、気に障るようなことをいうつもりはないんだが、もしかしてこれは全部、Billに仕組まれたことなんじゃないかって思わないか？ほら、いわゆる・・ブラインド・デートみたいな・・・」

「ええ、実は私も同じことを考えていたところよ。」彼女も頷いて言った。

「僕には１年ほどつきあっていた女性がいたんだが、最近海外に行ってしまってね」Harmが説明を始めた。
「僕たちは、お互いよく話し合った上で、別れることを選んだんだ。遠距離恋愛を続けていくのは無理だと思ったし。それを君のお兄さんにも話していたものだから、たぶん僕が独り身でいるのを、哀れに思ったかしたんじゃないかな。」

Danaは、にっこり笑い返して言った。
「というよりね、ほんとのことを言えば、兄が気にかけてるのは、あなたのことっていうより私の方かもしれないわ。私、F.B.I.で働いているでしょう、それでパートナーがいるんだけど・・・いつも一緒で・・・兄に言わせれば、一緒にいすぎってことらしいのよ。今夜のことは、兄が企んだことだと思うけど、きっと他の男性とも過ごす時間を持てって私に言いたいんじゃないかしら・・・」

「どうしてお兄さんは、そのパートナーが気に入らないんだい？」

「あの・・私も仕事柄、何度か怪我をしたりしたことがあるの。兄は・・・いろいろあって何故か、そういう事故もぜんぶ、Mulderひとりが悪いって決めつけてるみたい。」

「Mac言うところの『立証不可能な思いこみに基づく個人的見解』ってやつか。」

「Macって？」

「JAGで一緒に働いているパートナーだ。」

ちょうどそのとき、Scullyの携帯電話が鳴った。

「ごめんなさい。」そう言いながらテーブルを立ち、玄関ホールに出てから携帯を耳に当て、そして言った。
「Scully」

「あ、Scully？」

「Mulder？何かあったの？」

「いや、夕食にはありつけたのかな、と思ってさ。」

「助けに来てくれるわけ？」

「お兄ちゃんにいじめられてるのか？髪の毛でも引っ張られたか？」

「ううん、それどころじゃないわよ。兄ったら、ブラインド・デートをセッティングしたの！最初から、私と食事をするつもりなんかなかったのよ。私が、そのお友だちって人と一緒にごはんを食べるように仕向けただけなんだわ。だってね、私が来て５分もしないうちに、緊急の呼び出しだなんて言って、帰っちゃったんだから。・・・そういうわけで、私いま、謎の人物と向かい合ってお食事中よ。」

「謎の人物？頭が３つあるとかそういうヤツなのか？」

「やめてよ、Mulder。それがね・・実は・・とっても素敵な人なの！だからさっきのは冗談よ、助けに来てくれなくていいわ。じゃあ、また月曜日にね。Bye。」

Scullyが席に戻ると、Harmがきいた。
「パートナーから？」

「どうしてわかったの？」

Harmは、にやっと笑いながら言った。
「僕にもパートナーがいるって言っただろう？携帯にまでかけてくるのなんて、たいていパートナーか配偶者なんだよな。君の場合、独身なわけだから、パートナーからだろうって考えるのが妥当じゃないか？ま、それかまぐれあたりってところかな。」

「あの・・・お邪魔にならなければいいけど・・・たぶん、これから彼も来るんじゃないかと思うの。ほんと、今夜はあなたの予定を狂わせちゃったわよね。兄と食事をするはずだったのに、付録で私までついてきて、それで結局私だけになってしまったわけでしょう・・・そのあげく、私のパートナーまで一緒となると、もう滅茶苦茶ね。」

「気にしなくていいよ、Dana」

ちょうどその時、Mulderが店に入ってきた。
Scullyは目でその姿を追いながら、軽く手を挙げてみせた。
彼は、彼女のいるところまでやって来ると、Harmが立ち上がろうとする前に、ブースの中に身を屈めながら体を滑り込ませ、Scullyの背後に腕を伸ばしながら腰を落ち着けた。

「Mulder、こちらはHamon 
Rabb海軍少佐。士官学校で兄と同期だった方なの。Harm、こちらがFox 
Mulder特別捜査官。」

「どうも」
「お会いできて・・・」

ふたりの男たちは、不明瞭な声でモゴモゴ呟きながら挨拶を交わした。

「Mulder、あなたどこから電話かけてたの？もしかして、外の駐車場？」

「尋問するつもりなら弁護士を呼んでくれ。」

「弁護士ならここにいるよ。」Harmが冗談めかして、そう言った。

もし仮に、Harmがその気になったとしても、Dana Scullyが彼の恋人候補になることはないということは、はっきりとわかる。
Mulderは、言葉にこそ出していないものの、明らかに、彼女は自分のものだと言わんばかりの態度を示していた。
それはもう、誰の目から見ても疑いようのない態度だ。
さりげなく腕をDanaの背に回して、触れるか触れないかという距離を保ちながらも、肩を抱き寄せてしまいそうなほど近くに座っている。普通の同僚とか友人なら、ちょっと近すぎると言ってもいいだろう。
Harmの脳裏を、ひとつの疑問がよぎった。
この目の前にいる捜査官ふたりというのは、恋人同士なのだろうか？それとも、お互いに惹かれあっているということに気がつかないふりでもしているのだろうか・・・自分とMacのように？

来てくれたパートナーに悪いと思ったのか、Scullyは口調を変えて言った。
「はい、Mulder。よかったらこれ、食べちゃってくれない？私、おなかいっぱいになってしまって。」

「ありがとう、Scully。ちょっとつまませてもらおうかな。・・それで、Herman、君は弁護士だって？ということは、JAGで働いてるってことかい？」

「僕の名前はHarmonだよ、Hermanじゃない。そう、JAGの法務官なんだ、それで・・」彼はそこで言葉を切って、笑顔になった。
「ちょうど、僕のパートナーも来たみたいだ。」

Harmは立ち上がって、向こうに歩いていってしまった。

「いや、ありがたいお話だな」Mulderが、ぼそっと呟いた。
「海の男二人に囲まれてお食事か！」

「どうしてそんなこと言うの？Mulder」

「は？君だって、僕がミリタリー・ファンじゃないことくらい知ってるだろう？」

「そのことじゃないわ。どうして彼のパートナーが男だって思うわけ？あなたのパートナーは誰だったかしら？」

「彼のパートナーって、女性なのか？」

「そうよ。」

「・・・なあ、言うの忘れてたけど、このドレス、すごくよく似合ってるよ。」

Scullyが口を開こうとする前に、Harmがテーブルに戻ってきた。
濃茶の髪をした女性が一緒だ。

「こちら僕のパートナーで、Sarah MacKenzie海兵隊少佐。そしてこちらが、Dana 
Scully特別捜査官。DanaはBillの妹さんなんだよ。それから同じく特別捜査官で、彼女のパートナーであるFox 
Mulder。」

「どうぞよろしく。」ScullyとMulderは息を合わせたかのように、声を揃えて言った。

「おふたりにお目にかかれて嬉しいですわ。」Macが答えた。

ふたりのJAG法務官が、向かい側の席に滑り込み、腰を落ち着けたとき、Scullyは思わず口元を緩ませて笑顔になってしまった。
もし仮に、彼女自身がこの「お膳立て」に乗り気になっていたとしたら、たぶんこの時点でBillを殺してやりたい衝動に駆られていただろう。
Harmは結婚してもいないし、婚約者もいないのだろうけれど、今ちょっと見ただけですぐにわかった。
この人には「売約済」の札が貼ってあるようなものよ。
このふたりったら、こんなにくっついて座って、お互いの目を見つめ合って笑ってるじゃないの。

「私、ちょっと、あの・・事件のことで用があって・・・きたんです。」

「君、食事は？Mac」Harmがたずねた。

「食べたわ、ありがとう。みなさん、どうぞ召し上がってくださいね。そんな、一刻を争う急用ってほどでもありませんし・・・」

「僕たちもほとんど終わってるんだ。支払いはBillが済ませていってくれたしね。」Harmが言った。

***

お互いに丁寧な挨拶を交わし、ＪＡＧのふたりと、F.B.I.のふたりは、それぞれレストランを後にした。

Harmの運転で、Macをアパートまで送っていく途中、Harmは、士官学校からの旧友と再会する筈だったのがどうしてF.B.I.捜査官ふたりと食事をする羽目に陥っていたかを説明した。

「やっぱり私の言ったとおりじゃない。」Macは、ほらね、という顔で笑った。
「ブラインド・デートを仕組まれてたわけよね！でも、彼女・・・きれいな人だわ・・・Jordanよりずっとね。また会うつもりなの？」

Harmは、独りでに唇の片端があがってしまうのを抑えきれず、かすかに笑顔になった。
＜Macの言葉選びというのは、絶妙だな＞
Danaのことをきれいだと褒めながら、実はJordanはイマイチ、とほのめかしてみせたわけだ。

「そうだな・・・銃で撃たれてもいいっていう覚悟ができればな。あのパートナーは、あからさまに僕を牽制してただろ、侵入者に唸ってる番犬みたいだった。しかもあの男は、拳銃を持ち歩いてるヤツだし。ちょっと勇気がいるよな・・・僕もあんまり無謀なことはしたくないんだよ。」

***

MulderはScullyに向かってきいた。
「どこに駐車した？車まで一緒に行くよ。」

「車はないの」彼女が答えた。
「家まで送ってくれる？Billに、レストランまでタクシーで来いって言われたものだから・・・帰りは自分が送るって言ってたのよ。きっと、兄のばかげた筋書き通りに行けば、Harmがうちまで送ってくれることになるはずだったんでしょうね！」

「お兄さんは本気で、君が誰かとつき合った方がいいって思ってるのかな？」

Scullyは、お手上げね、とでも言うように肩をすくめてみせた。
「Billは、私のこと、あなたに振り回されてるって思ってるんじゃないかしら。」

「君はどうなんだ？僕に振り回されてると、そう思ってるのか？」

「いいえ。・・・思ってないわ。」
助手席側のドアを開けてくれたMulderに向かって、Scullyはそう答えた。

１時間後。
MulderとScullyは、彼女の部屋でコーヒーを飲みながら、すっかりくつろいでいた。
そのとき、電話が鳴った。

もちろんMulderには、Scullyの話していることしかわからなかったが、思わず大声で笑い出しそうになり、慌てて手で口を押さえた。彼女のお兄さんに聞こえでもしたら大変だ！

「もしもし。
あ、兄さん. . . どうしたの？もう空港なのね？
ええ・・そうね、夕食は楽しかったわ。兄さんも、もうちょっといられればよかったのにね。
なによそれ・・背の高いダークブラウンの髪のハンサムな男性が、うちまで送ってくれたかってこと？
ええ。実はそうなの。
もちろんよ、コーヒーくらいお出しするわよ。
今もおしゃべりしてたところ・・・そうよ、まだここにいるの。
さあ・・・
私だって、もう大人なんですからね、Bill。
どうしてよ？お休みのキスくらい・・・
・・・そんなことわからないわ。
大丈夫。・・ええ、気をつけてね。
TaraとMatthewにもよろしく言ってちょうだい、キスもね。
じゃあ、お休みなさい。」

Scullyが電話を切って、床にいるMulderを見ると、彼は肩を震わせて笑いをこらえていた。

「Scully！最高だよ！家まで送り届けたのが僕だって知ったら、君、殺されちゃうんだろうな。」

Scullyは満面の笑みを浮かべ、そして言った。
「ねえ、Mulder。聞いてたでしょ？いま私、ひと言でも真実と違うことを言ったかしら？兄さんがどう勘違いしようと、私のせいじゃないことはたしかよね。」

end