DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE : Merry Christmas,Mulder !
作：Angela Wardさん 訳：bagpiperさん
「Hey、Spooky！クリスマスパーティには行くだろ？」
僕は机の上に散乱している書類から顔もあげないで、首だけ振った。
「マジかよ。行こうぜ」Coltonがしつこく言い立てた。
「ヤドリギの下で、どっかの秘書をつかまえるんだ。」
「Mildredはどうだ？」僕はにやっとにして尋ねた。
Mildredは僕の秘書だ。５０代後半で、若干太り気味ではあるが、彼女は有能で心根がやさしく、僕は彼女のことを気に入っている。
だが、彼女をヤドリギの下にわざわざ引っぱっていこうとする者がいるとしたら、そいつはエッグノッグの飲み過ぎにちがいない。
「いや、そうじゃなくて」Coltonはいらいらしながら言った。
「美人秘書の話だ。」
「どっちにしてもScullyほどの美人はいない。」僕はそう宣言した。
実際それは確かだ。
ただひとりだけ、Scullyと比べてもいいと思えるのは、Skinnerの秘書のKimberlyくらいだろう。
彼女がきれいかも知れないと思う唯一の理由は、Scullyとよく似ているからだ。
Kimberlyは、Scullyより何歳か年下だし、背も数インチは高い。
だが遠くから後ろ姿を見かけて、一度だけだが、自分の妻と見間違えてしまったことがあったのだ。
「もう、いい」Coltonがあきらめたように言った。
「結婚してるやつには関係ないよな。」
***
パーティの誘いを断って、僕はもう３時過ぎには本部ビルを抜け出していた。
今日はクリスマス・イブだ。早く帰って、DanaやMelissaと一緒に過ごすのが待ちきれない。
Melissa・・・僕たちの美しい娘。この世に生まれて６週間目になる。
ガレージに車を入れてから、僕は足音を忍ばせて家の中に入った。
Melissaはまだ、１日の過ごし方が定まっていなくて、MelissaとDanaがいつ昼寝をしているか、僕にもさっぱり予測できないのだ。
僕がリビングルームに入っていくと、ふたりはクリスマスツリーの下にいた。
娘はぴかぴか光るライトに目を奪われて、ツリーをじっと見上げている。そして、その姿を母親が静かに見守っていた。
「きれいだよ」僕はScullyにささやいた。
「聖母子像みたいだ・・・」
「ありがとう」彼女も小声で返事をして、僕にそっとキスをした。
***
「きれいだよ」
僕はまた、同じ言葉を繰り返す。
クリスマスイブのミサに出かける用意をして、バスルームから出てきたScullyに向かってそう言った。
「あなたも、なかなか素敵よ、Fox」彼女が囁く。
僕はグレーのスーツを着ていた。
Scullyは、黒や紺のスーツより、こちらの方が好きだという。
彼女はベルベットのワンピースを着ていて、Melissaは、そのワンピースに合わせたみたいにぴったりの赤い服を着せられていた。
僕たちの娘の髪の毛（・・・と呼べるほどのものなのかはともかくとして）は、Scullyのような赤毛ではなく、僕の髪の色と同じ栗色をしていた。
「君は、緑の洋服は嫌いなのかと思ってた」僕は、彼女に言った。
「たしか、赤毛で緑を着るとクリスマスツリーみたいになるからって前に言ってただろう。」
「そうよ」彼女がうなずく。
「でも、今夜は特別。だって、まさに‘おあつらえ向き’だと思わない？」
僕も彼女に向かってうなずいた。
***
その夜、遅くなってから、僕たちは足音を立てないように、そっとリビングルームに忍び込み、ぶら下がった靴下に小さなプレゼントをいっぱいつめこんだ。
その靴下には、‘Melissa’という文字が刺繍してある。孫を溺愛中のおばあちゃまが、一針一針縫ってくれたものだ。
自分たちでも、ちょっと馬鹿みたいだとは思う。Melissaは、まだ生まれて２ヶ月にもなっていないのに・・・
だが僕たちは、これから先、毎年クリスマスには同じことを繰り返すはずだ・・・そんな未来に思いを馳せながら、僕たちは、記念すべき最初のプレゼントをこっそり置く瞬間を楽しんだ。
それからScullyと僕は、２階にあがりベッドに入った。
ふたりで寄り添って眠る。
いつまで、こうしてただ抱き合うだけの夜を過ごすのだろう。
僕は、あとどれくらい待てばいいのか、彼女に聞きたくなる気持ちをなんとか抑えていた。
彼女の体がもとに戻って、そして医者にも大丈夫だと言われたら、Scullyは必ず僕にもそう言ってくれるはずだ。
それまで彼女には、余計なプレッシャーをかけたくなかった。
「今までで一番楽しかったクリスマスって、いつ？」Scullyが眠たそうな声で、僕にきいた。
「今年。」
「もう！今年のは入れちゃだめ。ちゃんと答えてよ。」
「去年。」
「Mul-der！去年のクリスマスって、私たち、兄の家にいたのよ。兄のせいで折り畳みのカウチベッドで、リビングルームの真ん中に寝かされてたじゃない！」
「でも僕は、君を腕に抱いたまま眠ったんだよ、sweetheart、そして翌朝目覚めたときにも君がいた。だから僕には、最高のクリスマスだったのさ。」
「いいわ、じゃあそれ以外では？」
「一緒に幽霊屋敷に行って、あの幽霊たちに出会ったクリスマス。」
「本当は幽霊なんていなかったのよ。ただの妄想にすぎなかったでしょう！」
「Scul-lee！」僕は信じられない！という気持ちでそう言いかけた。
僕たちは確かにこの目で、本物の、生きた（というより「死んだ」が正しいか）幽霊を見たというのに、その存在を否定する彼女に、僕は必死で反論しようとして・・・でも、すぐにやめた。
たしかにそんなこと、どうでもいいことだ。いや、僕にとってはどうでもよくないのだが、クリスマスに妻と議論をしなきゃいけないほどのものじゃない。
それに、Scullyはふだん、非常にクールで落ち着いているが、このところ、分娩後の体調の変化のせいで、ときどき気分が落ち込みやすくなったり、ちょっとしたことで泣きそうになってしまったりするし・・・
「うん、そうかもしれない。じゃあ、“ただのボロ屋敷”で、君と一緒に幽霊を見たと思いこんだ、あのクリスマス。」
「思い出のクリスマスは、全部わたしと一緒のクリスマスなの？」
「そうだよ。」
「じゃあね、私と出会う前のクリスマスで楽しかった思い出は？」
僕は、しばらく黙って、過去の記憶を探った。
「まだ小さかった頃のクリスマスかな・・・まだSamanthaもいなくなる前で・・・いつも祖父母がやってきて、クリスマスの間ずっと一緒に過ごしたんだ。あの頃は楽しかったな・・・」
「かわいそう・・Fox・・・」Scullyはそう言って、僕の体をぎゅっと抱きしめた。
「Samanthaがいなくなってから私と会うまでの間に、楽しいクリスマスはなかったの？」
僕は、もう一度、記憶の糸をたぐった。
「ああ、あのクリスマスがあった・・・Oxfordで勉強していた頃、アメリカに帰らないで向こうでクリスマスを過ごしたことがあるんだ。ずっと友達の家に泊めてもらってね。あの時もなかなかいいクリスマスだったと思うよ。」
「Phoebe？」Scullyが、くぐもった声で言った。
僕は、小さく笑って答えた。
「いや、Phoebeじゃないよ。彼女は、たぶん無神論者だったんじゃないかな。ルームメイトのDavidの家に行ったんだ。彼の父親は牧師で、大家族だった。彼が一番年長だったんだけど、他も男兄弟ばかりで、一人だけ妹がいたんだ。まだ５歳くらいで、その頃まだサンタクロースを・・・イギリスではFather
Christmasって言ってたけど・・・ともかくその話をまだ信じてたんだ。で、僕たちはみんなで、こっそりその子の靴下にプレゼントを入れてあげたりしてさ・・・面白かったな。」
「そう・・・」Scullyの声は、半分眠りかけているように聞こえた。
***
翌朝、僕たちは夜明け前から起きていた。
もちろん、クリスマスの日に限ったことではないけれど・・・Melissaが生まれてから、僕たちはいつも夜明け前には起きるようになった。
ScullyがMelissaにお乳をあげている間に、僕はコーヒーポットを火にかけ、"温めて召し上がれ"のシナモンロールを天板にのせてオーブンに入れた。
それから、僕たちはツリーの下に集まって、それぞれのプレゼントを開けた。
Melissaへのプレゼントは、僕たちが交代で開けてやった。
そのプレゼントのほとんどは、本とか、おもちゃとか・・・そういうもので、もちろん、あと数ヶ月先か−もしかしたら数年先まで−使えないようなものだけれど・・・
Scullyは、僕に素敵なプレゼントを用意していてくれた。
シャツや本やCD・・・そして、僕が一番嬉しかったプレゼントには「パパへ。Melissaより」と書かれていて、それを開けると、中からフレームに収められた写真が出てきた。DanaとMelissaが、昨日の夜着ていたのと同じワンピースで写っている。
「ふたりとも美人だ。これは僕の机の上に飾っておかなきゃな。」僕はそう言った。
僕もScullyに、いくつかプレゼントを用意していた。そして香水のプレゼントには、「ママへ。Melissaより」などと書いてしまった。
だが、僕がドキドキしているのは、とても小さなプレゼントのことだ。プレゼントの山の一番下の方に隠すように置いてあるのだが・・・
結婚して以来、Danaに宝石を買うことは、もはや抑制不能な衝動と化していた。
しかも、ただのアクセサリーなんかじゃない。本当にいいもの−最高級の宝石でなければ気が済まないのだ。
僕はそのくらいしても構わないと思っているのだが−F.B.I.捜査官として相当額の給料は受け取っているし、両親が残してくれた財産もある。
それなのに、Scullyは、僕がお金を使い果たすまで無駄遣いするんじゃないかと心配してしまうことがあるらしい。
Scullyは、その小さな箱に手を伸ばしながら微笑んだ。
「愛するFoxからの・・・ちっちゃな箱」と彼女が言う。
「またアクセサリーか、キーホルダーか、どちらかでしょう。」
彼女は、箱を開けると、まるで吸い込まれるように、その中に入っていた指輪を見つめた。
それは大きなオパールの指輪で、まわりに埋め込まれた小さなダイアモンドが輝きを添えていた。
「あ、あのさ・・・」僕は小さな声になって話しかけた。
「君には、結局、婚約指輪も贈ってないだろう？だから・・・」
「Mulder、」彼女が、仕事中のような声でさえぎった。
「ハネムーンで、真珠のイヤリングを買ってくれたとき、あなたはこう言ったのよ。婚約指輪もあげられなかった代わりに、これを贈るよって。」
・・・それから彼女は、にっこり笑って、僕の唇にそっと口づけて言った。
「ありがとう！ほんとにきれい・・・」
***
そのあと、クリスマスの招待客が次々に到着した。
お義母さんが来たときには、僕たちはなんと、まだパジャマのままだった。まあ、いいか・・・彼女は「家族」なんだから。
Maggieがこんなに早く来たのには理由があって、彼女とDanaが相談の末決めたことなのだ。
今年の感謝祭には、Maggieの家にみんなで集まり、素晴らしいごちそうを囲んで過ごさせてもらった。Charlesは航海中だったが、Billの家族も一緒だった。
今回もMaggieは、自分の家でクリスマスのパーティをしてくれると言ってくれたのだが、Danaは、僕たちのこの家でクリスマスを祝いたいと言った。
そこでふたりは、お互いに譲り合い、パーティはここで開くことにして、買い出しも僕たちがしておき、その代わりMaggieは料理の腕をふるってくれることになったのだ。
昼頃になって、Langleyが姿を見せた。今日はLangleyひとりだけで、あのアジト以外の場所で、他のふたりが横にいない姿を見ると、なんとなく忘れ物をしているような頼りなさがあった。
だが、Byersは一週間ほどPennsylvaniaの家に帰省していて留守だし、Frohikeも、今日は年老いた父親と、Virginiaに住んでいるおばさんと一緒に過ごすことになっている。
「あなた、ご家族は？」Maggieが彼に尋ねた。
この長いつきあいにもかかわらず、彼の家族のことは謎に包まれたままで、F.B.I.のデータベースを使ってちょっと調べたこともあるのだが、結局わからずじまいだった。
ところが、Maggieは、ハイテクコンピューターにも見つけられなかった答えを、いとも簡単に手に入れた。
Langleyは、首を振って答えた。
「いません。母は、僕が大学の時に亡くなったので・・・。母は女手ひとつで僕を育ててくれたんです。いわゆる未婚の母で、僕がお腹にいるとわかる前に、父親はいなくなってたらしくて。で、母の両親は、妊娠を知ると、母を家から追い出してしまったんです。」
「なんてこと・・・」Maggieがつぶやいた。
Maggie自身は婚前交渉に否定的で、その考えを曲げることはないだろうが、二人の娘のうちどちらかがそうなって、誰かの助けが必要で、いちばん大変なときが・・・もし仮にあったとしたら・・・その娘を見捨てるようなことは決してしなかっただろう。
それからしばらくして、最後の客が到着した。Skinnerだ。
「あら・・まあ、こんにちは、Walter」Maggieが言った。
彼女の頬が、ほんのり染まったように見えた。キッチンで料理をしていたせいなのか、それともパーティの熱気のせいなのか、それとも・・・なにか他の理由が？
Danaは、自分の母親が、僕たちの上司をちょっと素敵だと思っているらしい、という説を唱えている。
それを聞いたとき、僕は、冗談だとばかり思っていた。Maggieは、Skinnerより１０歳は年上だし・・・と思っていたのだが、最近になって、そうとばかりは言えないということに気づいた。
正直に言って、どうしてそれをバカげた説だと思いこんでしまったのか、わからないくらいだ。
よく考えたら、Diana
Fowleyは、僕より６歳も年上だった・・・僕が２０代後半で、彼女が３０代半ばの頃・・・本気ではなかったにしろ、つきあっていたことは事実だ。
もしかしたら、３人の孫（Bill
Jr.のふたりの息子と、それから我が家のMelissaを入れて３人）を持つ「おばあちゃま」も、「女」であるということを、つい忘れてしまうせいのかもしれない。
これもまた、おかしなことだということに気づいた。
なぜなら、３０年後、Melissaが大人になって、その子供を連れて遊びにくる日がきたとしても、僕は間違いなく、妻と愛し合い、Danaはいつまでも僕にとっての「女」であり続けるだろうから・・・
「今日は、来てくださって本当にありがとうございます」ScullyがSkinnerに言っていた。
「でも、実は私ずっと疑問に思っていたんですけど、いつもクリスマスの時期なんかはどう過ごしていらしたんですか？」
Skinnerは、肩をすくめて言った。
「ここ数年は、特に何もしてなかったな。昔、Sharonと結婚していた当時は、感謝祭を私の親戚のほうで過ごして、クリスマスにはあちらの家に行くというのが、毎年の習慣だったんだ。だから今でも、毎年感謝祭は、Wisconsinにいる弟の家族と一緒に過ごしてる。ごちそうに、フットボールに、狩りにも出かけたり、楽しくやってるよ！もちろん、弟たちは、クリスマスにも是非来いと言ってくれるんだが、１ヶ月もしないうちにそうたびたび邪魔しにいくのも、なんだか気が引けてな・・・」
***
僕たちはテーブルにつき、目の前に並んだごちそうを楽しんだ。F.B.I.の職員全員を招くことができるくらいの量だ。
５人で食べても、まだまだあり余るほどの料理が残っていた。
ちょうど食事が終わったころ、インターコムのスピーカーから、Melissaがむずかって泣きだす声が聞こえた。
「ちょっと上に行ってくるわ。おむつを替えてミルクをあげたら、また降りてくるから、プレゼントを開けるの待っててね。」Danaが言った。
Scullyは、Maggieや僕以外の人間がいる前で授乳をすることには、やはりためらいがあるらしく、僕は彼女が戻って来るまでにはまだ間があるだろうと考えた。
「じゃあ、みなさんもう召し上がらないのなら、Foxに手伝ってもらってテーブルを片づけてしまいましょうか。」Maggieが声をかけた。
「残りはおみやげにして持って帰ってくださったら嬉しいわ。」
僕は、今から食べ始めても、Melissaが幼稚園にあがるくらいまでずっと食べていられるくらいのごちそうが残ってる・・・と思ったが、何も言わなかった。
Maggieと僕とで、パーティの残り物を全部冷蔵庫にしまおうとして格闘している間に、SkinnerとLangleyは、食器洗い機をセットしてくれていた。
それから、僕たちは全員クリスマスツリーの下に集まって、Melissaを囲んで「あぁ！」だの「おお！」だの、間投詞だけの言葉を口々に言い合っていた。
まず最初に、Melissaあてのプレゼントを開けた。
Langleyは、３匹のテディベアを持ってきてくれていた。ひとつは彼から。もうひとつはByersから。そして最後のはFrohikeからだ。
Maggieは洋服、Skinnerは絵本をプレゼントしてくれた。
僕たちはプレゼントを交換し、それぞれの包みを開けていった。
LangleyとSkinnerは、ふたりとも、僕たちが彼らにもプレゼントを用意してラッピングしていたことに、戸惑いを隠せず、驚いているようだった。
最後に、ツリーの下には一つだけ、ちいさな箱が残っていた。添えられたカードには、「MulderとScullyへ。Skinner」とある。
僕はその箱をDanaに手渡し、彼女はゆっくり包装紙をはがしていった。中身は、Scullyがいつも首にかけているのとそっくりのクロスだった。
Skinnerは、肩をすくめて言った。
「君たちは、ふたりともそれぞれ自分のクロスを持っていた方がいいんじゃないかと思ってね。そうしたら、もう何かあるたびに、かけたりはずしたりしなくてすむだろう。」
Danaは笑いながらSkinnerに頬を寄せ、そっとキスをした。それは彼にとって、まったく予期しなかったことだったらしく、彼は相当びっくりした顔をしていた。
***
夕方には、みんなそれぞれ家に帰って行った。
Langleyは、ByersやFrohikeも、あの３人が来年までかかっても食べきれないほどのお土産を貰って帰るに決まってるから・・・と言い張っていたのだが、なんとか言いくるめて、ヤツにも、ごちそうの残りをたくさん持って帰ってもらった。
Melissaをお風呂にいれて、寝間着に着替えさせると、Danaは、２階の子供部屋で、お乳をやって寝かしつけていた。
僕は階下に降りて、クリスマスツリーの前で、ちょっと感傷的な気分にひたっていた。
こどもの頃、クリスマスの夜が来ると、いつもこんな気持ちを味わっていた・・・全てが終わって、ぽっかりと穴が開いたようになり、過ぎ去った１年と新しい１年に思いを馳せるとき。
何年も、もうそんなクリスマスの感傷ともおさらばできたと思って、僕はせいせいしていた。
にもかかわらず、この一抹の寂しさというのも悪くない・・・僕は、懐かしい記憶とともに不思議な温かさに包まれていた。
Scullyが、顔をほころばせながら階段を下りてきた。
Melissaを寝かせるときのために、カウチの背には一枚のキルトがかかっている。
彼女は、それをツリーの下に広げてから、僕を見上げて、また微笑んだ。そして自分の隣を、ポンと手でたたいた。
ああ！Scully！そんなことをしたら・・・！
彼女に微笑みかけられただけで、血が逆流したようになって、僕は即座に反応してしまう。
わかってるんだ。彼女はつい数週間前に出産したばかりだってことも、それから一日中、昼も夜もなくMelissaの世話をしてて、寝る間もないくらいだってことも、それから今日は、Melissaをいれて６人のパーティだったんだし・・・そう、だから・・・早い話が彼女をここで押し倒したりしたらダメだってことくらい・・・よく、わかってる。
だけど、クリスマスツリーの下で愛し合うのはずっと前からの夢で、僕はこんなに彼女が欲しくて・・・
僕が彼女のそばに座り込むと、彼女はローブのポケットに手をいれた。
「もうひとつ、プレゼントがあるの、Fox。誰もいないところで渡したかったのよ。Melissaもね・・・バカみたいだわ、あの子はまだ赤ちゃんだし、わかるわけないのにね・・・」
Scullyは、きれいにラッピングされた箱を、僕に手渡した。
ちょうど歯磨き粉が入っているくらいの大きさだ。もしかして、もっとちゃんと歯を磨きましょうってことなのかな？それとも、僕がいつもチューブの真ん中から絞り出すことと関係があるのかな・・・？
そんなことを思いながら、箱をあけると、中にはK-Y Jellyが入っていた。
思わず頬が緩むのを感じながら、Scullyの顔をのぞき込むと、彼女は耳まで真っ赤になっていた！
「この間お医者様に行って検査してもらって、そしたら、もう・・・元どおりに・・・してもいいですよ、って言って下さったの。でも私、Melissaにお乳をあげてるでしょう・・・だから、そのせいで潤いが足りないかも知れませんって・・・」
「Dana」僕は、唇の先に彼女の名をのせて、顎に口づけた。そして喉のラインを辿りながら、首筋をキスで埋め尽くした。
「君さえよければ、それを僕に塗ってくれるのはもちろん嬉しいけど・・・でも、僕は先に、もっと別の・・・もっといいやり方で君を濡らしたいな・・・」
僕は、合わせ目から押し開くようにして、ローブを脱がせていった。彼女はその下に何も着ていなくて、僕の指先が喜びを伝えた。
さらにキスを続けながら、乳房に挟まれた谷間に口づけ、そのまま柔らかなお腹まで唇で辿っていく。さらに下をめざして、僕はようやく、赤い密やかな茂みに鼻先を擦りつけた。
そして、彼女の形を確かめながらゆっくりと舌を這わせて湿らせたあと、尖らせた舌先を動かして、彼女の内側を探ってみる。
Maggieの料理はとても美味しかったけれど・・・やはり、僕にとって今日いちばんのご馳走は・・・大好きなこの味と香りだった。
僕が一瞬顔を上げて彼女に笑いかけると、彼女が囁いた。
「横になって。」
その言葉に従い体を横たえると、彼女は僕の胸に手を滑らせて、それから腿をそっと撫で上げた。
そしてjellyを手にとって、勃ちあがった僕自身を手のひらで包みこみ、上下に動かし始めた。
彼女の手が、僕のまわりに潤いを広げながら、何気ないしぐさで僕を煽る。
僕は幸せな気分で、その感触にひたっていた。
「Fox？」彼女が小さな声で、僕の名を呼んだ。
「ん・・・？」
「すこし怖い・・・」
「僕もだ」安心させるように頷きながら、そう言った。
「君を傷つけるのが、一番怖いよ・・・だから、ちゃんと言ってほしいんだ、いいね？sweetheart。待って欲しいときとか・・・それより、いっそやめたほうがいいときは、言ってくれたら絶対そうするから。・・・上になる？」
「ううん、あなたが上の方がいいわ。あのね、それからもうひとつ、ドクターに言われたことがあるんだけど・・・あなたにも言っておいた方がいいと思うの。」
「ん・・なに？」僕は聞き返した。
僕の声は掠れ、焦ったように渇えていた。
彼女の話を聞かなきゃいけない、いや、聞きたいと思う。
僕は本当に！絶対に！Danaにとって厭なことや怖いことはしたくないし、これからのひとときを苦い思い出にしたくはないのだけれど、だが、もう３ヶ月も、彼女の中に入ってない・・・彼女の温もりに飢えて、僕の自制心は、ぼろぼろに摺り切れかけていた。
「あのね、授乳中は、もしかしたらオーガズムを得られないかも知れませんって・・・だから、その、つまりね・・・ホルモンバランスのせいだってことをわかっててほしいの。もし私が・・・だめでも・・・あなたのせいだなんて思わないでね。」
「わかった」僕は囁いた。
「愛してる、Scully」
「わたしも、愛してるわ、Mulder」彼女は、そう答えた。
僕が体の上に重なると、Scullyは僕自身にそっと手を添えて、その先端が彼女の入り口に触れた。
僕はあくまでもゆっくり進めるつもりだったが、不意に、彼女の脚がまとわりついてきた。その思いがけない力に誘われるように、僕は彼女の中に引き込まれていく。瞬きをひとつする間に、僕は根もとまで一気に埋め込んでいた。
その瞬間、僕は痺れたようになって、その感覚におののきながら目を見開いた。
「ああ、こんな・・・Ｓｃｕｌｌｙ・・」僕は囁いた。
「どうしたの？」
「違うんだ・・・君が、こんな・・・」
僕は息が詰まって、言葉を切った。霧散しそうになる思考を辛うじて寄せ集め、自分を襲った感覚がなんなのか見極めようとした。
「前は、君の中は滑らかで・・・熱くて、狭くて、濡れていても・・・まるでシルクのようだったんだ。でも今は・・・なんていうか、筋ができて波立ったみたいになってる。今まで君と愛し合ってきて、世の中にこれ以上のことはありえないって・・・ずっと思ってきたけど、でも今・・・こんな・・・とにかく、嘘みたいだ・・・！」
そしてわずかに腰を引き、もう一度、そろりと押し入った。
僕はふたたび、同じ感覚に酔いしれた。
Scullyは、僕の目を見つめたまま、ゆったりと顔をほころばせ、とろけそうな笑顔になった。
「感じるわ・・・」
僕はそのまま時間をたっぷりかけて、のんぴり体を動かし続けた。
ゆっくり引きだして、また押し戻し、ひとつひとつの動きを焦らず重ねてゆく。
ところが、しだいに彼女の方が、焦れたようになって、もっと・・・と僕を急かした。
ずるずると引きずるような刺激がもどかしくなったのかもしれない・・・僕は、腰を据えてペースを早めた。
いつもなら、Scullyが達するのを見届けてからだが、たぶん今夜は無理だろう。
そんなことを思いながら、僕はさらに突き上げ、彼女の中で昇りつめていった。
だが最後の瞬間、僕は、彼女の温もりに強く締めつけられるのを感じ、そして彼女は、吐息を洩らしながら僕の名を呼んだ。
僕たちはふたりとも、しばらく口がきけずにいた。
それからようやく、Danaが顔をあげて僕に微笑みかけ、その唇を開いた。
「すごくよかった・・・Fox」かすかな声でそっと囁く。
「私、いけると思ってなくて、でもそれでもかまわないって・・・あなたに抱かれて腕の中にいることが嬉しくて、ひとつに結ばれている感覚だけで幸せだったのに・・・でも気がついたら私、あなたと一緒に・・・ほんとに・・・ふぅ！」
「Dana、君がよかったんだったら・・・よかった。」僕も小さな声で呟く。
「僕が一番うれしいのは、君も楽しんでくれてるって感じることだから。」
「Mulder、"The 12 days of Christmas"って知ってる？
「ああ。」
「でね、"１２日"っていうのは、クリスマス“までの”１２日間のことだって思ってる人が多いでしょう？でも、カトリックの正式な祝い方によれば、本当は今日がクリスマス・シーズンの１日目なの。」
「へぇ・・・？」僕は曖昧に聞き返した。
たしかに興味深い話なのだろうとは思う。
でも今は・・・教会史の講義をききたい気分じゃない。
「Mulder」彼女が囁いた。内緒話をするようにひそめた声には、からかうような、面白がっているような・・・そんな響きがあった。
「私たちも、本物のクリスマス・シーズンを、これから毎晩お祝いしたほうがいいんじゃないかって思うんだけど・・・どう思う？」
僕は、にんまりして言った。
「大賛成さ、sweetheart」
end