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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: First Noel
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
私は、Mulderの体に腕を回して抱きしめながら、クリスマスツリーを彩ってキラキラと瞬いている光を見つめた。
私たちは今、兄の家にいて、リビングルームのカウチを広げた折り畳み式ベッドで休んでいる。
本当は、夫が、結婚して初めて迎えるクリスマスをBill
Jr.の家で過ごしたくなかったことは知っているし、正直に言えば、私もそう。
でも、これは私の母のためだ。
今年は、兄も弟も、ふたり揃って上陸休暇中で（私たちのような海軍一家にとっては奇跡に近いと言ってもいい）、生きている子供たち全員と、お嫁さんひとりに・・・お婿さんもひとり、それからたった一人の孫も一緒に、ひとつ屋根の下でクリスマスイヴを過ごすことが、どんなに母にとって喜びとなるかを考えれば、異を唱えることができる者などいるはずがない−クリスマスの童話に出てくる“グリンチ”なら話は別だろうけれど・・・
「どうして僕たちが、こんなところに寝かされてるのか、ワケを聞かせてもらえるかな？廊下の向こうには、ちゃんとドアも閉まる部屋があって、そこにはすごく立派なダブルベッドがあるのに・・・」Mulderが非難がましい声で言った。
「しかも、お義母さんが、交換してくれるって言ってくださったんじゃないか。」
私は、彼の肩に顔を埋めたまま、くすくす笑った。
部屋を取り換えてくれるって言ってくれたのは、ママだけじゃなくて、Charlesも部屋の変更案を申し出てくれていた。−自分がこのカウチ・ベッドに寝るから、ママには子供部屋でMatthewのベッドの隣の簡易ベッドで休んでもらって、FoxとDanaはゲストルームを使えばいい−と言ってくれていたのだけれど、Billは、ふたりの提案をことごとく却下したのだ。
いわく、簡易ベッドであろうと、カウチベッドであろうと、母のような年齢の女性には寝にくいし不向きだと言い張った。
私は心の中で、他にも理由があるくせに・・・と思っていた。
「あなたは心理学者じゃないの、Mulder。閉めきったドアの向こうで、『あなたと』私がふたりきりになって一緒のベッドで寝るのを、兄が反対したのはなぜだと思う？」
「Dana、僕たちは『夫婦』なんだよ！君の兄さんは・・・うちのベッドで僕たちが何をしてるか知らないのか？」
「私たちの家なら、いいのよ。３０００マイルも向こうのことだもの。兄さんは、自分の妹が自分の領地内で誰かと『寝る』ってことに耐えられないんだと思うわ。」
「Scully、これから１週間もずっとここにいるんだよ？」
「兄さんたら、ちっともあなたのことわかってないんだわ・・・Lover、あなたなら、どんなに困難な状況に陥っても、必ず独創的な発想で問題を解決してくれるはずだって・・・私は信じてるけど・・・」
「ああ・・・そうだよ・・・」彼が掠れた声で囁いて・・・
そのとき、ドアが開いて兄が出てきたので、私たちは口をつぐんだ。
兄はネイビー仕様の下着姿のまま、廊下を歩いてくる。かんべんしてほしいわ・・・私は吹き出してしまった。
***
「ふたりで何してるんだ？」
Bill Jr.が、僕たちを見下ろして訊いた。
僕は片方の手を頭の後ろにやって、もう片方はこれ見よがしにScullyの肩に回した。
文句あるか？僕は夫なんだ。
笑いをこらえながら僕の首筋に顔をうずめている彼女の唇が、声も立てずに震えている。
僕は、きつい嫌味をかましたくなる衝動に駆られた。
・・・だが、こいつも一応、Danaのお兄さんだということを思い出し、クリスマス精神にのっとり、寛容な心を持つことにした。
たぶんDanaは、僕がどんな言葉をヤツに投げつけても許してくれるだろうけれど、お義母さんは違うかもしれない。
義理の息子としては珍しいのかもしれないが、僕は妻の母親を心から尊敬しているのだ。
・・・それで僕は、口を閉じ、喉まで出かかっていた言葉を呑み込んだ。
「もう寝ようとしているところです」とだけ言っておく。
「長い一日だったし、東海岸とは時差もあるので・・・」
「あぁ、ツリーのライトがうるさいか？」
「いえ、僕は別に。ツリーのライトが気になって眠れないかい？sweetheart」
Billが、僕たちのささやかな“にわかベッドルーム”に進入してきてから初めてDanaが口を開いた。
「いいえ、楽しんで見てるの。飽きたら自分たちで消すわよ、おやすみなさい、兄さん。」
「おやすみ、Dana。おやすみ、・・・フ・・Fox」
Bill Jr.は向きを変えて、廊下の向こうに歩いていった。
僕は、家庭内暴力に走らずに、この一週間を乗り切れるのか不安になってきた。
この家では、全員が口を揃えて僕を“Fox”と呼ぶからだ。
Maggieはかまわない。もちろんDanaも。だが、兄弟と義姉には、“Mulder”と呼んでもらいたいのだ。
いちばん引っかかってしまうのは、TaraがMatthewに話しかけるとき、僕らのことを“DanaおばさんとFoxおじさん”と呼ぶことだ。Matthewが部屋にいるといつも、甘ったるい声でそう呼ばれている。
Taraがそう言うたびに、僕はSamanthaのことを考えずににはいられない。
この地球上に−地球外でもいいが−僕のことを“Foxおじさん”と呼んでくれる子供が、もしかしたらいたかもしれないのにと・・・
ともかくBillが自分のベッドに戻ったので−少なくともしばらくは出てこないだろう−僕はDanaの方に向き直った。
シルクのナイトシャツの下に両手を差し入れ、そのまま背中に回して素肌の上を滑らせた。
そのシャツは、何ともないふつうのデザインだったが、その下には何も着ていなくて、思わず頬がゆるんでしまう。
Danaの顔をのぞきこむと、彼女は夢見るような表情のままツリーを見つめていた。彼女はそれはもう、信じられないくらい美しくて、僕は一瞬、本気で涙が溢れそうになった。
***
「なにを考えてるんだい？」彼が耳元で囁く。
私は、彼の方を向いて笑った。
「あなた。・・・とMelissa。それから、昔のクリスマスと、今年のクリスマス。」
「どういう話？」
彼の手が、私の背中を行ったり来たりして、腰や腿を撫でる。私はもっと彼の近くにいたくて、夫の体にぎゅっとしがみついた。
彼の手はほんとうに大きくて・・・そして優しい。その感覚に、私はあらためて、心が震えるように酔いしれた。
ふたりきりのとき、いつも彼に触れられて・・・そのたびに私は、際限なく溺れていく麻薬みたいだって思う。
仕事で夜遅くなったり、一日中ずっと人前にいたりすると（今日みたいに−飛行機から兄の家に来て、教会に行って・・・帰って来たと思ったら、兄の巡回があって・・・）私は、まるで禁断症状のように、体に触れる彼の手を求めて身を焦がしている自分に気づく。
「あのね・・・」私は言った。
「ここでこうして、あなたと一緒に寝ていたら・・・小さい頃のクリスマスを思い出したの。やっぱり海軍基地にあった家で・・・２０年も前の話だわ。」
「それで？」彼が先を促した。
「それで・・・たぶん１４歳くらいだったと思うの。祖父母が−母方のね−と過ごした最後のクリスマスだったから。ハイスクールの２年目の年に、ふたりとも３ヶ月と間を置かずに亡くなったのよ。私たちが住んでいた家は、この家に似てて・・・きっと海軍住宅ってどれも同じような感じなんでしょうけど。・・・とにかくね、姉と私の部屋は祖父母に使ってもらって、私たちはクリスマスツリーの下で、カウチを広げて折りたたみベッドで一緒に寝たの。それで、ふたりで将来の夢についてお喋りして・・・とくに結婚相手のことを真剣に語り合ったわ。そのとき言ってたことを思い出していたのよ・・・」
「君たちの夢の夫はどんな人だったんだ？僕はどのくらい‘ハズレ’てる？・・・それとも聞かない方がいいかな・・・」
彼は、小さく笑ったように見えた。
でも、その瞳のずっと奥には、針のような不安が、切実な祈りに姿を変えて潜んでいた。
私たちが結婚して、もう８ヶ月になるというのに、まだMulderは時々、私が‘ほんとうに’彼を愛しているという事実を、そのまま受け入れてただ信じる−ということができないときがあるようなのだ。
「そうね・・・Melissaは、派手でかっこいい仕事をしている人と結婚したいって言ったわ。俳優だったか、ロックシンガーだったか忘れちゃったけど、プロスポーツの選手だったかもしれない・・・ともかく、そういうゴージャスな人と豪邸に住むのが夢だって言ってたの。」
「それで君は？」
「えーっと・・・私が姉に言ったのは、医者になりたいってこと。それで、私のことを大切にしてくれて、私が医者だとしても怯まないような男の人と結婚したいって言ったの。この点に関しては、あなたも合格ね。あなたは私のこと、すごく尊重してくれてるし、男の自尊心を満たすために、何も知らないおばかさんのフリをして欲しいなんて思わないでしょう？」
「Dana、頭の悪い女のほうがいい、なんていうヤツは・・・」
「ね、姉にも言わなかったことを聞きたい？姉には笑われると思って、言わなかったのよ。」
「どうかなぁ・・・僕はその基準に合ってる？」
「ふふ・・・」
「いいよ、わかった。なに？」
「実は。私は背が高くて、濃い色の髪をしたハンサムと結婚したかったの。」
「お！背と髪だけはO.K.だな」彼が言った。
「それにハンサムよ。」私はそう言って、彼の鼻の頭にそっとキスをした。
「それでね、私は、たった１４歳だったの。・・言ったわよね、でも、それでも私は、夢見てたわ・・・その頃の私は、本ばっかり読んでる真面目な子だって思われてたんだけど・・・」
「君が！？Scully、君が真面目だって言われてたって？」彼は、軽くからかうように言った。
私は彼の肩先に、そっと歯を立てた。彼にからかわれると、いつもそうするように・・・
彼が私を引き寄せる。そして私は、大きいのは彼の手足だけじゃなくて・・・他の部分も、大きくなっていることに気づいた。
「それでね、私・・・それだけじゃないって思って欲しかったの。賢い妻っていうだけじゃなくて・・・私のことをセクシーだって思ってくれるような人と結婚しようって決めてたの。すごくたくさん愛してくれて・・・抱いてくれるひと。しかも、ありきたりじゃなくてね、いろいろ思いついたりして楽しくなくちゃだめ。・・・あなたは、この条件にもぴったりでしょ？Mulder」
「うん、たしかに！特にその“いろいろ思いつく”ってところが・・・」
彼が唇を近づけてきて、そう言った。
私の耳を口に含んで、舌を這わせる。
そうしながら、腿の上まで滑らせた長い指で、私をくすぐった。
私は声を殺して、小さく喘いだ。誰にも聞こえないけれど、彼の耳にだけ届くような・・・かすかな吐息がこぼれる。
私たちが今、ここで何をしてるかなんて、絶対、兄に聞こえるわけはないはずなのに、なぜかまた、兄の寝室のドアが開いた。
「おにいちゃんのお出ましだ・・・おうちの中をパトロール・・・」Mulderが私の首に唇を押しあてたまま、こっそり呟いた。
彼は、私の腰に添えていた手を、しぶしぶ肩の上まで引き戻した。
私はといえば、あまりのバカバカしさに可笑しくなって、思わず忍び笑いを洩らしていた。
「Dana？」
「なあに？兄さん」
「何か困ったことはないか？」
「なんにも。大丈夫よ、兄さん。」
私がそう答えると、二人の男たちは、ふんっと鼻を鳴らした。
Billはそのまま背を向けて−とりあえず、いったんは−自分の部屋に戻っていった。
***
僕は今、本気でDanaが欲しい。
だが、妻の兄貴の見世物になんかなりたくない。
ヤツにだって奥さんがいるんだろう？
どうして彼女は、ほんの３０分かそこらでもいいから、ヤツを引き留めておけないんだ？
そのとき僕は、突然、枕の下に隠しておいたもののことを思い出した。
「そうだ、sweetheart」僕は小声で話しかけた。
「お義母さんが言ってらしたけど、君の家には、クリスマスの“きまり”があったんだろう？」
「え？」
「クリスマス・イブの夜、寝る前にひとつだけプレゼントを開けてもいい、ということにしてたって聞いたよ。それで、これを開けてもらおうと思って用意しておいたんだ。」
僕たちは、そっと体を起こして座り直した。
僕は廊下の向こうに目をやって、またBill
Jr.が飛び出してこないか確認した。どうやら彼の姿はないようだ。
僕は彼女にプレゼントを渡した。
「あなたのはツリーの下に置いてあるの・・・持ってくる？」
「いや、僕はいいよ。とにかくこれを開けて。」
Scullyは、ラッピングペーパーを手早くはがした後、それを丁寧に折りたたんで自分の枕の下に押し込んだ。
それからプレゼントの箱を開け、レースで縁どられたミッドナイトブルーのテディを取り出した。
結婚前の僕の趣味を知る者には冗談かと思われるかもしれないが、妻にランジェリーを贈るのは、実はこれが初めてだったのだ。
「まぁ、Fox！きれいだわ・・・！嬉しい！・・・ね、ちょっとバスルームに行って着替えてこようかしら・・・見たいでしょ？」
「うーん。いや、baby、今はやめとく。非常に魅惑的な申し出だけど、それでまた、ホームパトロール警官が出動するのはごめんだからな。それよりさ・・・」
「ちょっと待って。これを箱にしまってから聞くわ。兄さんに見つかったら、あなた殺されるもの。それにもし、Charlesに見られたら、いつまでもからかわれて、そのうち私が弟を殺したくなるかも・・・！」
Scullyは、プレゼントを箱に戻すと、いそいで枕の下にしまい込み、それから僕の方に向いた。
「いいわ。なあに？」
僕は黙って顔を傾け、彼女に口づけた。
口を結んだまま、柔らかく掠めるようなキスをそっと押しあてる。
Scullyは、僕の唇に吸いついてみたり、それから軽く歯を立ててかじりついてみたり、なんとかこじあけようとしていろいろ試しているが、僕はもう少し焦らしてみたくて、そのままじっとしていた。
しまいに、彼女はしびれを切らしたように、のどの奥のほうから低い声でうなってみせた。
もし彼女が大声を出したら、間違いなくBillが飛んでくるだろう。
それで僕は、妻が望むものを与えるために、唇をゆるめて彼女に応えた。
彼女はほっとしたように満足げな吐息をついて、そして僕たちは舌を差し入れて、お互いを求め合った。
息が切れるまでキスを交わし、唇を離してから、僕は彼女の肩に手を当てて、そっと体の向きを変えた。
僕の胸に彼女の背中をぴったりと引き寄せて、僕たちはふたりで、Billが必ずやまた現れるであろうドアのある廊下の方に体を向けた。
「つまり、こういうこと・・・。もしまた偵察兵が来たら、すぐに動くのをやめて、そのままじっとしてるんだ。そうしたら、ただふたりで横になって眠ってるみたいに見えるだろう？でも・・・君、ちゃんと静かにできるのかなぁ・・・」
「あなた、何が言いたいの？」
***
「僕が言いたいのはね・・・Dana」彼はそう言いながら、ナイトシャツの下にもぐらせた手を、背中の上の方まで滑らせて、それからゆっくりと撫でおろしてきて私の膝のうしろで止まった。
「つまり。わかってるかもしれないけど、君は、抱き合ってるとき・・・可愛い声でないたり、歌うみたいに喉を鳴らしたり、囁き声で甘えたりするってことさ。はっきり言って、すごくそそられるんだ。僕は・・・君の声の虜だけど、でも今夜だけは・・・その声を聞いたら、やばいことになってしまうかも・・・」
「私、そんな声出さないわ・・いつもは・・・」私は小声で言い返した。
だけどその時、彼の指先が私の中に忍び込んできて、私は思わず‘そんな声’をあげそうになって、慌てて唇を噛みしめた。
「あぁ、そうさ」彼が、声をひそめて言った。
「シャワーの中で愛し合うときは、違うな・・・水しぶきの音が、何もかもかき消してくれるから、君は小さな声で鳴いたり囁いたりは、しない。君はもう、最後には叫びだして・・・」
彼は、私の耳を舌でなぶり、そして私は・・・あちこちに火をつけながら体中を這い回る夫の手を感じながら、でも必死で唇を噛んで、目を開けたままでいようとしていた。
本当なら目を閉じて・・・それこそ小さな声で夫の名を呼びたかったけれど、そんなことをしたらきっと兄が飛び出してくるだろう。
そして私は、見つかるかもしれないという危険を冒しているというこの状況が、いつにもまして体を熱くする理由なのだと気づいた。
私は高校時代、あまりデートの経験はなかったので、あの頃にはわからなかったけれど・・・今ようやく、姉の気持ちを理解したような気がした。
姉が、恋人とカウチでいちゃいちゃしていたとき、数ヤードしか離れていない廊下の向こうには両親の寝室があって、ママかパパが、いつ出てくるかわからなくて・・・きっと、ものすごくドキドキして、のぼせたみたいになっていたにちがいないわ。
私はこの両腕で、Foxを抱きしめることもできず、彼の瞳を見つめることもできない。
それに、いま私が感じていること−この現実に酔ってしまいそうなことも、言葉で伝えることができない。
でも・・・私たちは、いつもと同じ・・・。
お互いの動きを、まるで自分の体の一部のように感じとることができる。
私が欲しいものも、欲しいときも、彼には全部わかっていて、私は望んだ通りに満たされていった。
打ち寄せる波が幾重にも重なって、頂上まで届きそうになる。私は、Mulderの肩口に、唇を押しつけた。
大きなうねりにのみ込まれて、体の奥で最後の波が砕け散った瞬間、私は顔を伏せて、彼の腕に埋もれたまま、声を殺して二の腕にかじりついていた。
そのあと、彼も同じ波に揉まれながら、私のうなじに唇を押し当てて、うめき声を飲み込んだ。
ふたりとも落ち着いて、眠りかけた頃になって、Billがまたやってきた。
私たちは黙ったままでいたから、たぶん彼は、私たちの規則正しい息の音を聞いて、私たちは眠っていると思ったにちがいない。
彼が戻っていくと、Mulderが私の耳に囁きかけた。
「Sweetheart？」
「・・ん・・・？」私はもう眠たくて、ぼんやりと答えた。
「君、おにいちゃんに、どうやって言い訳するんだ？僕の腕にキスマークなんかつけちゃって・・・」
***
クリスマスの朝。
僕たちは、TaraとMatthewとBill
Jr.がリビングルームに入ってくる音で目が覚めた。
MaggieとCharlesもすぐにやって来た。
皆でツリーの下に集まって、プレゼントを開けるのだ。
プレゼントの山のうち半分は、Matthewのものだった。
小さな子供には、誰もが馬鹿みたいにいろいろなものを買ってくる。Danaと僕ですら、その一員だ。
Danaからプレゼントは、僕の気に入るものばかりだった。
Houdiniについて書かれた本。
“この地球＜ほし＞の知的生命体を探せ”という言葉がプリントされたトレーナー。
Maggieやほかの皆からのプレゼントも嬉しかった。
正統派ロックのCDや、SF物のビデオ・・・。Danaが僕の好みに関する情報を、親戚じゅうに流してくれたに違いない。
だが僕にとっては、Danaが僕からのプレゼントを開けたときの顔が、なによりも一番うれしくてゾクゾクする贈り物だった。
ダイアモンドとサファイアのプレスレットと、ひまわりの香水。
僕が彼女の手首にブレスレットをはめてやり、金具を留めていると、彼女は全員が勢揃いしている真ん前で、僕にキスをした。
MaggieもCharlesもTaraも、にこにこしながら、それを見ていたが、Bill
Jr.だけは憤怒の形相で、血管が切れそうに見えた。
ちっちゃなMatthewはといえば、自分のプレゼントの包みを破くのにいそがしくて、叔父と叔母の間の愛情表現には全く無関心のようだ。それでなくても、この子は２歳にすらなっていないのだし・・・。
クリスマスの食卓では、二つの出来事が立て続けに起きて、あやうく楽しい一日をぶち壊しにするところだった。
ところが、不思議なことに、その二つがうまく重なりあったおかげで、それぞれが大ごとに至らずに済んだのだ。
その日はBill
Jr.の友人が食事に招かれていた。近くに住む家族がいないのだそうだ。
食前の祈りを捧げてから、Taraが、皆さんにお知らせしたいことがありますと言い出した。
−ふたりめの子供を授かったのだという。
僕は、彼女にお祝いを言いながらも、Danaが黙って内に閉じこめてしまった絶望を、痛いほどに感じていた。
僕たちの場合、ふたりの血を引く普通の子供を持つことは、おそらく望めないのだろう・・・
僕自身は、それほど強くそのことにこだわってはいない。
だが、彼女が今、やり切れない思いを抱えていることは、よくわかるつもりだ。
Danaは、テーブルクロスの上を滑らせて手を伸ばし、僕の手をとって、一瞬つよく握りしめた。
そのとき、窓から射しこむ光がプレスレットに反射して、キラッとまばゆい光を放った。
Bill Jr.の友人が、その輝きに目を留めた。
「Hey、いや、これはまた素晴らしいブレスレットをしているんだね、Dana！」
「ありがとう。主人のクリスマスプレゼントなのよ。」
「僕の両親は宝石商をしているんだ。」彼が言った。
余計なことを！！僕は心の中で毒づいた。・・・Danaに殺されるかも・・・
「僕も見る目はあるから判るんだが、それはまさに最高級のサファイアとダイアモンドだな！」
***
私はもう少しでテーブルクロスにワインをこぼすところだった。
サファイアですって？
ダイアモンド・・って・・・？
私は、まさか本物の宝石だとは思っていなかったのだ。
もちろん激安ショップに並んでいる品よりは、きっといいものなのだろうとは思っていたけれど・・・でも、そんな・・・
母は、Taraに赤ちゃんのことをあれこれ訊き始めた。
−予定日は？赤ちゃんの名前はもう考えてるの？超音波検査で、赤ちゃんの性別を事前に調べてもらうの？−などなど。
おかげで私はプレゼントのことを、ひとりで落ち着いて考えることができた。
私はすっかり忘れていたのだが−そしておそらく、Mulderはこの点に関しても心理学的要因を列挙してくれるはずだけど−私の夫は「お金持ち」なのだった。
その事実は、もちろん知らないわけではないし、過去に知らなかったわけでもない。
初めての事件の時に、彼はSamanthaの失踪について話してくれて、そのとき、彼の家族にはお金があるというようなことも言っていた。
それから数年後、お父様が亡くなってから、その遺言によって単独相続人に指定されていたことも彼から聞いた。彼のご両親は離婚しているし、妹さんは２０年以上も前にいなくなっているからだ。
ただ、そういうことを知らなくても、Martha's Vineyardに住み、Rhode
Ilandには別荘を所有し、Oxfordに留学できる身分というのは、海軍住宅で過ごし、州立大学に進学した者から見れば、まるで別世界の住人だ。
ところが、そうしたあまたの違いがありながら、私たちの金銭感覚は不思議なほど似通っていた。
私たちは、ふたりともお金に対して、ほとんど無頓着といってもいい。
きちんとした身なりを整え、閑静な住宅地に居心地のよい部屋を借りられて、さらに私は、いくつかの学資ローンの支払いも自分で続けていて、一応余裕がある。だが、私たちは揃って、高級車にも豪勢な旅行にも興味がない。
結婚前の私たちは、働きづめで仕事しかなかったから、プライベートの楽しみにお金を使う暇もなかった。
そして結婚してからの私たちは・・・お気に入りのプライベートの過ごし方というと、お互いが家にいさえすれば、ただで楽しむことができることばかりだった。
そんなMulderの唯一の欠点は−彼がお金を散財してしまう唯一のものとは−私への高価なプレゼントだった。
この件に関しては、前にも話し合いを試みたこともあるのだが・・・でも私は今、はたと気がついた。贈り物を心から喜んで受け取ることこそ、クリスマス精神のはずだ。分不相応だとは思うけど、贅沢なプレゼントを私に送ることを彼が楽しみにしているなら、その気持ちを大切にしてあげるべきなのかも・・・
食事が終わって、テーブルの片づけを手伝っていると、Mulderがそばに来て、私の耳元で囁いた。
「さぁ、Scully、言いたいことがあるなら今のうちに言ってくれ・・・怒ってるよな？」
「ブレスレットのこと？」
「うん・・・」彼は、とっておきの子犬顔でうなだれてみせた。
「怒ってるわけないわ、Fox。たしかあなたの言葉だったと思うけど、夫たるもの妻にプレゼントを買う権利があるんですものね。なんといっても今日はクリスマスだし。」
Mulderは、素早くキッチンを見回して、私たちが今、たまたまふたりきりでここにいるということを確認すると、私を壁に押しつけてキスを仕掛けてきた。
そのキスは、ほんの短いあいだだったけれど、彼は私の唇を激しく吸い上げたかと思うと、すぐに舌を絡めてきて、私たちはお互いを探り合った。
彼が唇を離すと、私は息を切らせたままで笑った。
そして幸いなことに、私たちがそうしている間に、近くを通りかかったのは私の母だけだった。母なら、夫婦がこういうことをしていても、飛んできて引きはがしたりはしないから。
***
僕たちがここで過ごす最後の日がやってきた。
特筆すべきは、Bill
Jr.と僕が、お互いに殺し合いをせずにやってこれたことだろう。
Chuckは、ずいぶん気を使ってくれた。もちろん、Danaをはじめ、MaggieやTaraのおかげでもある。
それから、ちっちゃなMatthewにも何度か助けられた。険悪な雰囲気の僕たちの間に、よちよち割り込んできて、その空気をやわらげてくれたのだ。
そして今夜、Bill
Jr.が、いまだかつてない友好的な態度を示し、彼が毎週楽しんでいるというポーカーの集まりに、Chuckと・・・僕も一緒にどうかと誘ってきた。
先日クリスマスの日にやってきた友人の家でやるらしい−あの両親が宝石店を営んでいるとかいう男だ。
僕はDanaのほうに向き、片方の眉をあげてみせた。
彼女はかすかにうなずき、その唇のかたちは“go”と言っていた。
・・・それで僕は、その誘いに応じることにした。
ポーカーをやるのは、ずいぶん久しぶりのことだ。
以前はよくやっていた−僕がまだ２０代で、凶悪犯罪課にいた頃のことだ。Reggieは、プロ並みの腕前を持っていた。
最近では、つきあう友達といえば例の３人組だが、やつらは滅多にポーカーなんてしやしない。
ポーカーは、不得意ではなかったのだが、すっかり腕が錆びついていて、最初のうちはずっと負けてばかりいた。
さらに他のメンバー達の雰囲気をつかむまでに若干の時間を必要としたが、参加者全員（僕以外は全員が海軍士官だった！）のささやかなプロファイルをして、くせを見極め、簡単な心理学の応用を試み・・・かつ、場に出されたカードを正確に覚えていられるという僕自身の記憶力を総動員して、その後の勝負では、何度も勝ち続けることができた。
そこでは、Danaの兄弟まで含めた全員が、僕のことをMulderと呼んでくれた−という事実だけでも、僕はこのポーカーゲームを楽しむことができた。
おかしなことといえば、Bill
Jr.の友人達は、彼を‘Scully’と呼ぶのだが、そうするとChuckは、自分に話しかけられているものの勘違いするらしく、僕のほうは、Danaが来たのかと思って部屋を見回してしまうのだった。
僕たちは、誰もがしたたかに飲み続けた。
しかも、僕が普段飲むようなビールではなくて、スコッチだ。だが、Billの家までは数ブロックしか離れていないし、歩いて帰ることになっていたので僕は気にも留めなかった。
ポーカーゲームがお開きになって−僕の財布は勝負前よりも重たくなった気がするが、かなり酔っぱらってしまったのもまた確かだ−皆、リビングルームに移動してビデオを見始めた。
・・・前に見たことのあるものだった。というか、昔の僕のコレクションの中にあったもので・・・Danaと結婚してからFrohikeに譲ったものと同じものだった。
男達は、わいわい軽口を叩きながら、画面に映るあれこれを自分の奥さんや恋人がしてくれるかどうか、言い合っていた。
僕は、賢明にも、Danaの兄弟達が同席していることを考えて、いろいろなやり方を試したことがあるかどうか−についてのコメントは一切差し控えていた。
実際、今週は、そうたくさんいろいろなことをしたわけではないし・・・僕たちは、ずっとリビングルームに寝ていたから、Danaも僕も、いつも通りというわけにはいかなくて、多少気もつかわなければならなかった。
僕はいちどだけ、朝、妻がシャワーを浴びているところに忍び込んで、ふたりで楽しいひとときを過ごした。
彼女は僕の目を見つめながら、甘く濡れた声を聞かせ、そして僕は、彼女が昇りつめてゆく瞬間を、自分の目で見つめていることができた。
だが、それもその朝だけのことで、あとはクリスマス・イブにカウチでの‘一件’があっただけだ。
Bill Jr.の声がして、僕は現実に引き戻された。
彼は、不満げに呟いていた。
「Taraがこんなことをするはずはないな。１００万年待っても、ありえない。」
僕は画面の方に目をやった。
妻の義姉が「しないこと」ってなんだろう・・・
・・・なるほど。
どうやらDanaとTaraは、幸いにしてというか・・・限界線を引くところが違うらしい。
Bill
Jr.とChuckと僕が、足元をふらつかせながら数ブロックの距離を歩いて戻り、ようやく義兄の家まで辿りついたときには、とっくの昔に真夜中を過ぎていた。
家に入ろうとすると、玄関のところにメモが貼りつけてあった。
「なんだって？」Chuckが訊く。
メモをはがして、逆さにしたりひっくり返したりしたあげく、ようやくBillは紙をまっすぐに持ってメモを読み始めた。
「BillとChuckとFoxへ
私たち、疲れたので先に休みます。
今日はDanaをリビングのカウチには寝かせられません。
３人が帰ってきたとき、起こされたらかわいそうですから。
お母様が、ひと晩くらい簡易ベッドで眠るのは“ちっとも”かまわない、
と言って下さいましたので、今夜はそのようにしていただきました。
Danaには、ゲストルームで休んでもらっています。
Foxもそちらへどうぞ。
Chuckは、カウチでお願いします。
Love,
Tara」
僕は、弾む気持ちを抑えきれずに廊下を急ぎ・・・もう少しで口笛を吹きながら走り出すところだった。
そして、妻が眠る寝室のドアを開けた。
***
眠っていた私は、ドアのひらく音で目が覚めた。
Mulderがベッドに近づいてきて・・・そうしたら、いきなりバン！と音がして、彼はむこうずねをベッドの脚にぶつけたらしく、くぐもった声で悪態をついた。
ふっとスコッチの香りがする。
「酔ってるの？Mulder」
「うーん・・・たぶん。車じゃなかったから、かまわないと思ったんだ。まったく最悪だよ・・・最悪だろ？」
「そうね・・・でも・・・」私の言いかけた言葉は、宙をただよって消えた。
私は、部屋に射しこむ月明かりの中にボンヤリと浮かぶ夫の姿に、目を奪われていた。
彼が早業のように１枚１枚服を脱いでいくのを、うっとりと見つめてしまった。
そして彼は、カバーをめくって、私の隣にするりと滑りこんできた。
「クリスマスにあげた香水をつけてくれてるんだ・・・」彼はそう言いながら、私の首筋に顔をうずめて、大きく息を吸い込んだ。
「そうよ・・・。ね、ブレスレットも。」
「気に入ってくれて嬉しいな。」彼は小声で囁き、私の腕に手を這わせ、手首まで指先でなぞりながら下ろしていった。
「Fox？」
「ん？」
「あなたからのクリスマスプレゼント・・・“全部”つけてるの・・・」私は、彼の耳元で囁いた。
「え！？うわぁ・・・ほんとうだ・・・！」彼は両手を私の体に滑らせて、テディを縁取るレースをひとひらずつ確かめるようにたどっていった。
「こんな時間になっちゃって・・・怒ってるよな。しかも飲んでるし。」
「いいのよ・・・」私はゆっくりと、小さな声で答えた。
「こんなことが毎日だったら困るけど・・・でも、いいの。怒ってないわ。だって、結婚してから初めてでしょう？私の兄弟と男同士で夜遊びするなんて。三人が一緒に出かけてくれて、私も嬉しいわ。」
「Dana？」
「なあに？」
「僕は今、とても自分に腹を立ててる。君と愛し合いたいけど・・・この１週間ずっとそうしたかったのに・・・くそ・・ちょっと飲み過ぎたよ。どうも・・・ダメ、みたいだ。」
私は彼に向かってにっこりした。
たしかに・・・。
彼はいつもなら、元気いっぱいのご挨拶をしているはずなんだけど・・・
でも私は医者だ。人間の体については、かなりよく知っている。
特に、いま目の前にいるこの男の体にかけては、世界一の腕前をもつ専門家だと言っていいと思う。
「だまって・・・」私は声をひそめて言った。
「私の言うとおりにして。横になるのよ・・・力を抜いて・・・」
まず、私は彼のあごに唇を寄せ、そこから順にゆっくりと下のほうに辿っていく。唇の先でそっとつつくような小さなキスをあちこちにばらまいて・・・
おへその辺に近づくと、私は舌先で素肌をとらえて、濡れたキスを繰り返した。
彼が落ち着きなく手足を動かし始めると、なんとなく兆しが見えてきて、私はひとりで頷いた。
とはいえ、私が彼の中心まで辿りついたとき、そこはわずかに勃ちあがりかけているだけだった。・・・でも大丈夫。
私はそれを唇に含んで、吸いあげた。口の奥までのみ込んで、音を立ててしゃぶり続けていると、やがて私は、自分の舌と口蓋の間に捕らわれた彼自身が熱を帯びて、硬さを増し、逞しく奮い立つのをまざまざと感じた。
私は、そのまま彼の周りに円を描きながら撫で回すように舌を絡めた。それから、口から出してやり、今度は根元から舐め上げて、小さな子供がソフトクリームを舐めるみたいに・・・ゆっくりと、何度も舌を行き来させた。
彼がうめき声を上げると、私はちょっとだけ得意な気分を味わって、笑いながら彼を見上げた。
「しー！おとなりはBillとTaraの部屋なんだから。兄に殺されるわよ！」
「じゃあ、僕にもさせて・・・」
私は笑いながら頷いた。
彼は、テディに手をかけるとあっという間にはぎ取ってしまい、まるで急いでいるみたいに私の体に直に触れてくる。
唇に素早くキスをしてから、彼はそのまま私の脚の間に顔をうずめた。私の唇には、スコッチとひまわりの種の香りだけが残された。
私は、脚を広げて彼を誘い込む。渇望が満たされて、私は、彼から与えられる悦びの淵に溺れた。
瀬戸際まで追いつめられて身を捩らせると、彼はつと顔を上げ、そのまま体を起こして、次の瞬間には私の中にその身を沈めていた。そして、私の内側に押しつけるみたいにして、何度も腰を動かしてくる。
私は、思わず声をあげそうになって、枕の端を噛んでこらえていた。
ひとしきりして、私はそっと囁いた。
「逆になってもいい？・・・上の方がいいの・・・」
彼の顔に笑みが広がった。
そして、彼が寝返りをうって仰向けになり、私を強く引きつけた−そのとき、堰を切ったように体の奥が熱く溶け出して、私は絶頂に達してしまった。
どうして！？もう少しの間、彼の上で揺れていたかったのに・・・
でも私は、熱くなりすぎていたのだろう・・・ただ体の向きを変えただけなのに、その瞬間の内壁を擦られる感覚が、一気に私を押し上げたのだ。
私は少しかがみ込むようにして背中を伸ばすと、彼の上で体を動かした。
彼の両手は、私の胸をさまよい・・・それから突然思いついたように、その両手で私の腰をつかんで、きつく繋ぎとめると、下から突き上げてきた。
激しく上体を揺さぶられて、私は逃げ場を失ったようになり、少しだけ怖いような気がした・・・けれど、彼が私の中に熱いものを解き放ち、そしてその顔には紛れもない歓びの色が浮かんだとき、私はただ幸せに包まれながらそれを見ていた。
***
翌朝目覚めてから、僕達はもう一度、愛を交わした。
たいして焦らしあいもせず、ただ普通に正常位で、ほんのつかの間楽しんだ−という感じだが、僕達はシャワーを浴びて服を着てからも、顔がゆるみっぱなしで、ふたりで目を合わせては笑っていた。
Danaが昨晩から荷物をまとめ始めてくれていたので、身の回りのものをスーツケースにしまい、帰りの支度を整えた。
それからふたりで、朝食をとりにキッチンへ向かった。
・・・と、そこは口論の真っ最中だった。
「いい加減にしてほしいわ、Bill。どう考えても失礼よ！」Taraが言っていた。
「お客様をお迎えしてるのに！」
「Tara、客の半分は俺と一緒だったんだぞ！俺は、一晩男同士で遊びに出かけようと思っただけだし、そしたら多分君たちも・・・母さんやDanaとで、よく知らんが、女同士の話やらなんやら、楽しくやれるだろうと、そう思ったんだ！見ろよ、Danaだって、彼に飛びかかったりしてないじゃないか、そうだろ？」Billは、そう言いながら僕の方を手で示した。
どうやらBillは、僕への反感を押し殺してまで、男同士で結束を固めてこの場をしのごうとしているらしい・・・
僕は、あやうくニヤニヤしそうになった。
・・・昨晩、たしかにDanaは、すごい勢いで僕に飛びついてきたと言えると思うのだが、多分それは、Danaのお義姉さんが兄上に‘飛びかかった’というのとは、ちょっと意味が違うのだろうな・・・
「じゃあ、Danaに聞くわ。どう思う？」Taraが言い出した。
「あなただって、Mulderが朝帰りして・・・午前３時によ！しかも酔っぱらって帰ってきたんだから怒ってるわよね？」
「そんなに遅かったの？・・・Mulderにも同じことを聞かれたわ・・・怒ってるかって・・・」Danaは、まるで時間稼ぎをしているように、のろのろと言葉をつないだ。
「それで？なんて言ったんだ？」Billが口をはさんだ。
「昨日の夜、Foxにも言ったのと同じことを、お二人にも言うけど・・・」Danaがゆっくりと話し出した。
「私、いつもこんなことをするようじゃ困るけど、でも今回ひと晩かぎりのことなら怒らないわって言ったの。Taraが兄さんに・・・その、腹を立てる権利があるかどうかっていう質問なら、私は答えられないわ。だって、これが毎度のことなのかどうか、私は知らないんだもの。もしこんなことが、兄さんが国内にいる間、毎週とか一週間おきにっていうことなら、それはやっぱりTaraだって怒るはずだと思うけど、でも、もし一年に何回かっていう程度のことなら、もしかしたら・・・Taraもちょっと大げさかもしれないと思うし・・・」
Danaは、言い終わると、僕に寄り添いながら、僕の顔を見上げて微笑んだ。
僕は、彼女の頬のラインを指先でなぞった。
そこにChuckが入ってきた。
「おい！一目瞭然ってやつだなぁ！きのうお楽しみの夜を過ごしたのは誰か、聞かなくてもわかるってもんだ。かたや笑顔で見つめ合ってるし、かたや睨み合ってる・・・。だから、やめとけって言っただろ、兄さん。最後の１杯がマズかったな。」
***
私はどうしても我慢できず、とうとう笑い出してしまった。
ママが入ってきて何がおかしいのって聞かれたけれど、答えるどころじゃなかった。
口がきけたとしても、言えるわけない。
私の顔、赤くなってるんじゃないかしら・・・
Chuckは、私たちをひと目見ただけで、夫と私が‘なにを’したか正確に言い当ててみせた上に、私たちの兄さんに向かって、昨日はViagraでも必要だったんじゃないか、みたいなことを仄めかしたのだ・・・
兄は全員を睨みつけ、特にMulderのことをギロリと恐い顔で睨んでから−Mulderが何か言ったわけじゃないのに−足音を響かせて部屋を出ていった。
Taraは、すぐにMatthewをこども用の椅子に座らせてから、Matthewの食事の準備にとりかかり、私たちはそれぞれ自分のコーヒーとロールパンを用意して、テーブルについた。
「夜だけじゃなくて・・・朝も楽しかったです、ってお兄さんに言ってきたほうがいいかな？」Mulderが、私の耳元でささやいた。
「あなた、死にたいの？Mulder」
「でも、お兄さんのせいばかりにしたら気の毒かもしれないんだな。」
「どういうこと？」
「後で教えてあげるよ。」
***
僕たちは−ようやく−Washingtonに向かう帰途についた。
飛行機に乗ると、お義母さんは窓際の席に座り、うとうとし始めた。Danaは真ん中の席で、僕は通路側だ。
彼女が僕の耳に向かって囁いた。その声を聞くと、ぞくっとして僕の体の奥で何かがよび覚まされる。
「それで？兄さんひとりのせいにしたらかわいそうってどういう意味だったの？」
「お義母さんは眠っておられるよね？」
Scullyが頷くと、僕は声を低く落として話を続けた。
「あのさ、昨日の夜、ポーカーが終わってから、例のご友人がビデオを持ってて、それを・・・観たんだけど・・・」
「もしかして、結婚する前にあなたが見ていたような類の？」
「うん、前にも見たことあったよ。でも僕はずっと沈黙を守って会話には加わらなかったんだ。それは誓う、ほんとだよ。どんな場合であれ、ぺらぺら喋るつもりなんてないけど、特に君の兄弟がいるところで話すようなことじゃないからね・・・」
「じゃあ、ほかの男性陣は、いろいろ‘おしゃべり’していたわけね？」
「そう・・・どうでもいいようなことさ。まあ、だいたい自分たちの妻や恋人がいろいろな・・・コトをしてくれるかしてくれないか、っていうような話だ。」
「それで、その話が兄とどうつながるのよ？」
「本当に聞きたい？」僕は訊いた。
「聞き始めた以上、最後まで聞かせていただかなくちゃ。」
「うん・・・そのビデオの途中でさ、女性が男に・・・なんていうか、ほら・・‘いいこと’をしてやるシーンがあったんだ。その‘いいこと’っていうのは・・・昨日の夜、君が僕にしてくれた・・・あれなんだけど・・・。そうしたら、Billがブツブツ言ってたんだ。多分ひとり言のつもりだったと思う。たまたま聞こえちゃったんだよ・・・Taraはきっと・・・その・・・してくれないな、って。」
「ほんとに？」彼女は眉をあげて、あの見慣れた"Scully-look"を僕に向けた。
「あぁ・・うん。お兄さんは、そう言ってた。Taraの言い分は分からないけどね、聞いてないから。」
「Mulder？」
「うん？」
「今夜は家に帰れるのね。自分のベッドで寝られるわ。」
「Scully？」
「なあに？」
「それって、ほんとうに“寝る”だけの意味じゃないよな？」
彼女は一瞬伸び上がるようにして座り直すと、狭い座席の隣からぴったりと体を寄せてきて、僕の手をとって指を絡めた。
end
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