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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Babylove
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
Special Agent Dana Scullyは、アパートの駐車場を出ながら、ちょうど鳴り出した携帯電話を開いて耳に当てた。
「Scully」
「Dana？ママだけど。」
「あ！ママ！？どうかしたの？」
「来週は、あなた達・・・Foxも、出張じゃないわよね？」
「今のところはね、ママ。でも、ほら、私たちのことだから・・・。いつ、どこに行くことになるか見当もつかないのよ。どうして？なにかあるの？」
「あなたったら何を言ってるのかしらね、感謝祭でしょう。ふたりとも予定がないなら、ディナーを一緒にって思ってるのよ。Chuckは洋上だし、Billはあちらの親戚の方に招かれているらしいの。だから、私たち３人だけで過ごせるわ。」
「すごく楽しみだわ、Mom。私たち、行けると思う・・・ただ、もし宇宙人が着陸するようなことがあったら、予定はキャンセルってことになっちゃうけど・・・」
「私も、だてに３０年以上ネイビーの奥さんだったわけじゃないのよ。予定変更には慣れっこだわ、dear。」
「ありがとう、ママ！じゃあ、またね。」
「ええ、sweetie、元気でね。」
Scullyはちょうど部屋のドアの前についたところで、電話を切った。
彼女がノブをまわして部屋に入ると、夫も電話で誰かと話していた。
「じゃまた、Mom」そう言うと、彼は受話器を置いた。
「お母様？」
「ああ。来週こないかってさ。感謝祭のディナーを一緒にして、一晩むこうでゆっくりしてこよう。宇宙人の誘拐事件があろうと突然変異の吸血鬼に襲われようと、絶対行くよって言ったんだけど。」
Fox
Mulderは、自分の妻が、曖昧な微笑みを浮かべて戸惑ったような表情を見せたことに慌てた。
「行きたくない？たしかに僕の母は世界一つきあいやすい人間って訳じゃないけどさ。でも一晩だけだし・・・それに、今、この季節のNew
Englandは本当に美しいんだよ・・・」
「そんなこと言ってないわ、Fox。ただ・・・私も、母からの電話をもらったばかりで・・・ちょうど今、切ったところなの。私の携帯の方にかけてきたのよ。それで、私も母に言っちゃったの、感謝祭にはふたりで行くわって・・・」
「うわ、これって新婚家庭の喧嘩のネタじゃないか？どちらの家族と一緒に休暇を過ごすかってヤツ。それだったら、さっさと済まして、早く“仲直りのキス”をしたいな。」
Scullyは肩をすくめながらスーツの上着を脱ぐと、ブリーフケースを置いた。
「喧嘩なんてする必要ないわ、Mulder。物事を論理的に考察して、どう行動すべきか決定するだけよ。」
「君の考えは？教えてくれれば、無駄な時間を過ごさなくてすむ。」
Scullyはため息をついた。
「たぶん、あなたのお母様のお宅に伺うほうがいいんじゃないかしら。私の母は近くに住んでるんですもの、いつでも会えるわ。だから感謝祭は、お義母様と一緒に過ごすのが公平だと思うの。母は、ひとりぼっちになる訳じゃないのよ、兄たちはいないけど、母には教会の友人もいるし、海軍仲間の知り合いも多いわ。おばもいるし・・・きっと誰かが感謝祭の食事に招んでくれるはずだから。」
「もっといいことを思いついたぞ！僕が母に電話をして、君のお母さんも一緒に行くことにしてもいいか訊いてみるよ。実際、ふたりを引き合わせたいしさ。普通だったら、結婚式の前までに紹介するんだろうけどね。」
「Mulder！あなたって天才！」
「君と出会ってずいぶん経つけど、ようやくわかってもらえたわけか！嬉しいよ！」
***
感謝祭の日の朝。
澄みわたった空気の中で、陽光がキラキラと輝いていた。
DanaとFoxは、朝早くから起き出して、いそいで荷物を詰めると、まずMaggie
Scullyを迎えに行った。
Mulderの予定では、昼前には母親の家に着いているはずだ。
「私まで招待してくださるなんて、お母様、ほんとうにお優しい方だわ。」
「母もお会いできるのを心待ちにしてました、Maggie。どうやら、僕のどうしようもない生き方について語り合える方がいらっしゃるというのが楽しみで仕方がないって感じでしたね、話してもわからない人の方が多いもので・・・」
まだ車もまばらで、Danaは、体半分を後ろに向けて、バックシートの母親とおしゃべりをしていた。
Mulderは、腕を伸ばして、妻の膝の上に手を置いた。ふたりが結婚してから、彼が新たに身につけたクセ・・・道が空いていて、そしてどちらかというと、彼女がパンツスーツではなくてスカートかショートパンツをはいているときにでてしまうクセだ。
今日の彼女は、厚手のざっくりした手編みのセーターに、デニムスカートを合わせ、ロングブーツを履いていた。
いつものScullyとは、ちょっと雰囲気が違う。彼女といえば、いつもオフィスに着て行くかっちりしたビジネススーツか、それ以外のときは、マニッシュにジーンズ＆Ｔシャツ（またはトレーナー）というスタイルのイメージだったから・・・
こんな彼女は、特別おいしそうに見えてしまうんだな・・・いや、もちろんいつものことなんだけど！
彼は、心の中でつぶやいた。
スカートには、前に大きなボタンが並んでいて、そして−絶対にわざとじゃないと彼は言い張るだろうが−そのボタンとボタンの間のすき間に、彼の指が１本、するっと忍び込んでしまった。
彼の指先に触れたのは、彼女の内腿のシルクのような素肌の手ざわりで、彼は一瞬自分の感覚を疑った。
彼女がブーツにハイソックスを合わせてはいていたのは知っていたのだが、その下にはストッキングをはいているものと思いこんでいたのだ。
彼は、感触を確かめるように、指をわずかに曲げて動かした。
やっぱり！
そのまま、じかに・・・素肌のぬくもりが指先を通して伝わってきた。
夫が太腿に触れてきて、Danaは身を捩りたくなる気持ちを必死で抑えた。
こんなこと、何でもないこと・・・なのに・・・嘘でしょう？
ふたりは点と点で触れ合って、脚の上に感じるのは彼の指先だけのはず・・・なのに。
そこから広がった熱が体の中を駆けめぐり、躰の芯をどうしようもなく痺れさせた。
後ろの席には自分の母親がいて、しかも、お義母様の待つ家に向かっているっていうのに！
Mulderは、Scullyの視線をとらえると、ふっと頬を緩ませて微笑みかけた。
そして、彼女もにっこりと笑い返した。
いいわ！気にしない！
ふたりは視線を絡ませて、うなずいた。ふたりはそれで分かりあえるらしい・・・いつものように。
***
感謝祭のごちそうは、どれもこれも美味しくて・・・Mulder自身はお湯を沸かすのが精一杯ということを考えると、その母親の料理の腕前がここまで素晴らしいものだとは、正直言ってScullyは思ってもみなかったほどだ。
最後のパンプキン・パイに舌鼓を打ち、食事が終わると、Mulderの母親が立ち上がってテーブルのお皿に手をかけた。
「Mrs.
Mulder、こんなにご馳走を作っていただいたんですから、片づけは私にさせてくださいね。」Scullyが言った。
「あら、そんなこといいのよ、dear。それに、私のことはTeenaって呼んで下さらなくちゃだめよ。だって、あなただって“Mrs.
Mulder”でしょう？」
「こうしたらどう？」Maggieが横から口をはさんだ。
「私がTeenaと一緒に片づけをさせてもらうわ。せっかくこうしてお近づきになれたんだから、いろいろお話もしたいもの。Fox、あなたはずっと車の運転をしてきて疲れたでしょう。Danaとお昼寝でもしてきたら？」
それを聞いたMulderは、可笑しくなって思わず吹き出しそうになった。
どういうわけだか、お義母さんは、いまだに、自分の娘に惚れている男の背中を押してやる必要があると思っているらしい。
ちがうんだなあ！
いま必要なのは、ふたりきりになれる場所だけだ！
「実は、Danaと一緒に散歩でもしてこようと思っていたんです」彼はそう答えた。
「僕の秘密の隠れ家を見せたいんですよ。ほんとうは‘女は入るな’っていう看板がかかってるんですけど、彼女なら、例外かな。」
「だいじょうぶなの？それ・・・Fox」Danaが疑わしそうな声でたずねた。
「森の中のツリーハウスのことよ。」Teenaが言った。
「息子のものなの・・・ものだったというか・・・私も、何年も見に行ってないから、今どうなってるかわからないわ。」
「じゃあ私、コートをとってくるわね。」Danaが言った。
***
森の中を、ふたりで手をつないで歩いて行く。
こんなふうに穏やかで普通の時間を夫と過ごすこと−それがどんなに幸せなことか・・・Danaはふと思った。
今このひとときだけは、エイリアンもいない、政府の陰謀もない。死体解剖も連続殺人の心理分析もしなくていい。
なんて素敵なの！
「Hey、ここだよ」大きな樫の木の前で立ち止まり、Mulderが言った。
「あ！ほら、踏み段がまだあるよ、父に手伝ってもらって僕が釘で打ったんだ。ちゃんと上まで、全部残ってると思うな・・・」彼は、首を仰け反らせながら上を見上げた。
「うん、葉も落ちてしまってるし、上まで行けそうだな。さあ、早くのぼってみろよ！」
「あ・・・ねえ、ちょっと、Fox。・・・ずいぶん高いところにあるのね。」
「だから？」
「私、高いところは苦手なの。」
「なに言ってるんだよ、Scully！もっと高いところで、もっと危なっかしいところでも平気だったじゃないか！」
「だって、それは仕事だからよ、もちろん・・・やらなきゃいけないときには、私だってのぼれます！ただね、高いところにのぼっても・・・面白くないと思うの。」
Mulderは、彼女を見つめた。
胸の奥に湧き上がった笑い出したくなるような温かい気持ちが、どこから来たものなのか自分でもわからない−彼女と何年も一緒に過ごしてきて、今はじめて彼女が高所恐怖症だということを発見したせいなのか−それとも、ずっと長い間タフで勇敢な面だけを見せてきた彼女が、いま自分だけにそれを打ち明けたせいなのか・・・
「いいよ」彼は、優しくそう言うと、彼女の頬に指先で触れた。
「いいよ、って何が？」
「ツリーハウスにはのぼらなくてもいいよ、ってこと。それでなくても、僕のせいで君は、仕事中に充分危ない目には遭ってるんだから。ふたりきりの時間を過ごすときまで、無理に君が怖がるようなことをするつもりはないんだ。」
「ええ・・・でも、あの、何か・・・上でしたかったことでもあるの？」
彼はにやりとして答えた。
「聞くなよ、Dana！君は、なんだと思ってたんだ？」
「Mulder、あなたって他のこと考えられないの？それとも、あなたの思考能力は全部、私とやることのあれこれを想像することに費やされてるわけ？」
「思考能力の『全部』じゃないよ。そうだな・・・まあ９８パーセント程度かな。」
「残りの２パーセントの能力だけで、あんなにすごい仕事ができるなんて、びっくりね！」
「なあ、それで？」
Scullyは、もう一度、上を見上げた。
「でも、ここは外だわ、Fox！」
「前にもしたこと、あるじゃないか。Hawaiiのビーチのときとかさ？あ、ほら、別荘でも・・・」
「え・・だけど、あれは夜だったし。今は、太陽の下で・・・お昼間なのよ！」
「上にのぼれば、木の中なんだよ、Dana。誰も来ないし、誰にも見られない。でも、君がそんなにいやなら、どうしてもとは言わないけどね。」
彼女は困ったように、ため息をついた。
問題は・・・どちらを選ぶかだ。
ツリーハウスの上で愛し合うか、それとも、お義母様の家に戻って「ちょっとお昼寝してきます」って言って・・・ママが訳知り顔でうなずくのを見なきゃいけないのか・・・
そう、もちろん。夜が来るのを待ちさえすれば、問題は何もない。
ただそれでは、ちっとも現実問題が解決しない。夫の手が、背中から腰を行ったり来たりしている状態で・・・それは無理だ。
「一緒に登ってくれる？ちゃんと後ろにいてくれる？」
「もちろん、sweetheart。途中で怖くなったら、手を貸して下に降ろしてあげるから。僕のこと、信じてくれるよな、Scully」
「信じてるわ、Mulder」彼女がそう答えた。
「あなたといると、強くなれるの。」
「うん、そして僕は君といると、まともな人間になれる。うまくできてるじゃないか？」
ふたりは、木に足をかけ、のぼり始めた。
Mulderの言葉はもちろん冗談なんかじゃない・・・約束を守るナイトみたいに付き従う彼の息遣いを背中に感じながら、Scullyは笑顔になっていた。
彼は長い腕と脚で、まさに包み込むようにして、彼女の後ろに寄り添っていてくれる。
ほんの少しだけ怖かったのは、一番上の段からツリーハウスまではかなり広くあいていて、最後はツリーハウスの床に手をかけてよじ登らなければならなかったところだ。
でも、彼女は勇気を奮い起こして、頑張った。
Mulderが彼女の背後からまわって、先に上にのぼると、彼女に手を差し出した。
ふたりは、お互いの手を固くつなぎ、彼女は一気に引き上げられて、気がつくと両足で立っていた。
「わあぁ！」あたりを見回したDanaは、思わず大声をあげた。
素晴らしい眺めだ。
四方を美しい秋の色彩に染めあげられた木々に囲まれて、まさに息を呑むような光景が広がっていた。
「なんだかどこまでも行けそうな気がするわ。」
「んー、Dana」彼がにんまりしながら言った。
「まだイケそうにないんだけど？」
彼の言葉の意味が一瞬わからなくて、ちょっと考えてしまった彼女だったが、それに気づくと、笑いながら彼の体をつかんで揺さぶろうとした。
ふたりは、お互いに手をかけて、まるで取っ組み合いでもしているように見えたが、そのうちに、Mulderが身を屈めて彼女の唇をとらえた。
時が止まってしまったかのように、ゆっくりと、心の奥まで溶かしていくような・・・彼女の大好きなキス。
だがそれもつかの間、一生懸命背伸びをしていた彼女の首と足の筋肉が攣りそうになって痛くなってきた。
ふたりが立ったままでキスする場合、これが問題なのだ。彼の背があまりにも高すぎて、すぐに疲れてしまう。
ようやく唇を離したふたりは、息を吸い込んで、お互いの瞳を見つめ合った。
そのままそろそろと、彼女を膝の上に引き寄せながら、Mulderが座り込んだ。
向かい合わせになって彼の膝にまたがると、彼女は、明らかにキスやなにかがもたらした効果とおぼしき兆候に気づいた。
そしてふたりは、もう一度唇を重ねた。さっきよりずっと安心してキスできる。
「どうするの？」キスが途切れたときに、彼女がそっと小さな声で訊いた。
「コートを脱いで、ベッドの代わりにしないか？今日はだいぶ暖かいし、大丈夫だろう」
「でも裸になったら寒いわよ・・」彼女が言う。
「だから全部脱ぐことないよ。必要なところだけ開けるか脱ぐかすればいいと思うけどな！」
彼は、肩を揺らして自分のトレンチコートを脱ぐと、自分の座っていた床の上に広げてから、妻のコートに手を伸ばし、その上に敷いた。
Mulderは、即席のベッドの上に横たわりながら、彼女のセーターの下に腕を潜らせてブラのホックをはずすと、ゆっくりと手のひらを滑らせ、柔らかな胸を包み込んだ。
いつまでも終わらない至福の夢・・・彼は、ぼうっとしながら両の乳房を交互に愛おしみ、長い指を使って中心をくすぐっては摘みあげ、からかうように弄んだ。彼女は、しっとりと潤い、身悶えしながら彼に応える。
「あ・・Dana、さっき服は脱がなくてもいいって言ったけどさ、やっぱりどう考えてもある程度は脱ぐか、邪魔にならないようにしなきゃ・・・！」
「たとえば、どれ？」彼女は、思わせぶりに微笑んだ。彼を見下ろしている彼女は、手を彼の肩にのせて、膝で彼の腰をはさむようにして坐っている。
「まずは、これから・・・」そう言いながら、スカートの中に手を差し入れて薄布を掴み、腿のなかほどまで引き下ろした。
それから、そのデニムスカートのボタンをはずしていった。上の方の３つのボタンは留めたままでいい・・・
「なあ、Dana、この洋服って完璧だ。君、わざわざこのスカートを選んでくれたんじゃないか？」
「そうよ、Mulder。朝起きたとき、自分の内なる声が囁いたのね。『さあ！今日は、全部脱がないでも愛し合えるような格好をしといたほうがいいわよ。あなたのご主人は、木の中にあなたを連れ込んで何かしようって言い出すかもしれないでしょう！』ってね。」
Mulderは彼女の唇に口づけたまま声を立てて笑い、それから、声をひそめて囁いた。
「僕のも、出して」
Scullyは、ふたりの体の間に両手を入れて、まずベルトのバックルをはずしたあと、ジーンズのボタンをはずした。
そして焦らすようにゆっくりとジッパーを下げた。
それから、すんなりと細い指先をその中に滑り込ませて、ボクサーショーツの布の間から、すでに張りつめている彼自身を引きだした。
彼女は、その大きさと硬さを確かめるように、手のひらで包み込んで上下に擦りあげ、そして絹のように滑らかな手触りを楽しみながら、ふつふつと滾るような彼の熱を感じていた。
Mulderは、片手を彼女の腰の方まで滑らせていき、脚のあいだをさぐった。
彼の手のひらにこすりつけるように、彼女が身をくねらせた。
ああ・・・こんなに濡れてる・・・！彼はもう少しで声をあげそうになった。
「Dana？」
「う・・・ん？」
彼は、片方の眉を上げて問いかけるように彼女を見つめた。
そして、彼女の内奥をまさぐっていた指を抜き去り、両手で彼女の腰を支えると、そっと下に押しつけるように静かに力をこめた。
「もう大丈夫？それとも、もうすこし・・・？」
「・・・いいわ」彼女は微かな声で答えると、彼自身に手を添えて、自分の体の内側に収めていった。
ふたりの体がひとつに繋がった瞬間、ふたりは同時にため息を洩らしながら、目を閉じた。
Scullyは、下から貫かれる感覚に身動きがとれず、熱い塊を体の芯でとらえたまま、もうそれだけで一気に頂点まで押し上げられそうになって、眩暈すら感じていた。
Mulderは、その声と眼差しだけで、完璧に彼女を虜にする。
今、現実に彼をその腕に抱きしめて、愛を交わすときがくるまでに、ふたりはずっと、焦らしあい、お互いを昂ぶらせながら、何時間も前戯に費やしてきたようなものだった。
内側をいっぱいに満たされて、大きな波が押し寄せる。
Scullyは、唇をかみしめながら、体をのけぞらせるようにして、すこしでも長く持ちこたえようとした。
そんなささやかな抵抗を試みるものの、彼がわずか数回突き上げただけで、なすすべもなく彼女は崩れ落ちていく。
彼女の内側が、激しく収縮をくり返し、彼自身をきつく締めつけた。
震えていた彼女の体が、落ちつきを取り戻すと、彼は妻を見上げて微笑んだ。
「君は・・・秋色の女王だよ・・・まっ赤に染まった葉の色と、君の髪の色が同じに見えるって、知ってたかい？」
「ありがと。・・・体を入れ替えた方がいい？」
「いや、このままでいい。もう少し深くすわってくれたら・・・」
「・・・ん・・・」彼女は小さく息をつき、前のめりになって夫の言葉に従った。
ふたりは、互いに指を絡ませて、彼はその手を握りしめたまま、彼女の体を上下に揺らし、さらに幾度も突き上げる。
そして、彼は・・・彼女の名を呼び、呻きながら果てた。
ひんやりと冷たい秋の空気が火照った体を包み、満ち足りた気分で横たわるふたりの上を、静かに時だけが流れていった。
***
その頃、Teena
Mulderの家では、TeenaとMaggieが、リビングルームに腰を落ちつけて、紅茶を飲みながら談笑していた。
食器洗浄機の、ブーンという音が向こうに聞こえる。
「わたくしね、DanaとFoxみたいに・・・メロメロな夫婦って、今まで見たことありませんでしたの。」Teenaが言った。
「私も、誰かにメロメロになるDanaというのは見たことがなかったんですのよ・・・Foxに出会うまではね」Maggieはそう答えた。
「それだって、結婚してからの話ですしね・・・。Danaは、もうひとりの娘とは正反対でしたの。Melissaは、１１才の頃から誰にでも愛想がよくて・・・亡くなるその日までそうだったんですわ。」
Teenaは一瞬口をつぐみ、そして言葉を継いだ。
「あなたも、お嬢さんを亡くされていらしたこと、忘れてましたわ。おつらいことだったでしょうね。」
「ええ・・・。私ども家族の全員にとって悲しいことでしたし、もちろん、他のときならよかったという意味ではないのですけど、とくにDanaにとって・・・父親を亡くしたばかりで姉まで失うことになって、どんなにか辛かったろうと思いますわ。あの子は、ふたりと、それは仲が良かったんです。Danaは父親似なんですが、Melissaは私のほうに似ていて・・・」
「『なぜ』・・・ということを考えたことは、おありになる？他にもお子さんがいらして、その中でどうして、あの子だけが？・・・そんな風に思われたことはありませんでしたか？Samanthaがいなくなってからずっと・・・Foxも私も、そのことにとらわれて縛られてきたって、自分でもわかってるんです。」
「ありますわ。私も、絶望のなかで何度も祈りを捧げてきました。そして、自分なりに答えらしきものを見つけたつもりです。もちろん、あなたの経験と同じものとは言えませんけれど・・・Samanthaがあなたのもとから奪われたときは、まだ小さい女の子だったのですものね・・・」
「どういうことですの？」Teenaがたずねた。
「どう言えばいいか・・・難しいのですけれど」Maggieが言葉を選びながら、話し始めた。
「もちろん私は、Melissaをとても愛していました。申し上げたように、子どもたちのなかで、私に一番似ているのがあの子でしたし、DanaもMelissaのことが大好きで・・・兄弟たちもですわ。でも・・・あの子はどこか掴みどころがなくて・・・。ほかの３人の子供達はみんな、自分の能力を生かして、自分の人生を捧げられるような仕事についています。ですが、Melissaは半年かそこらで仕事を辞めては、また別のことを始めるといった具合だったんですの。Melissaが死んだとき、一番上の息子はすでに結婚していて、今ではもう子どももいます。Charlesは、まだ結婚していませんが、男性が３０才を過ぎても結婚していたいのは決して珍しいことじゃありませんし、私にとっては、いまだに手間のかかる赤ん坊みたいなものです。それに・・・数年前、Melissaがまだ生きていた頃から、Foxの人生にはDanaが必要だということは、すでにはっきり分かっていたことだったのですわ。Melissaには、そんな風に必要とされる相手がいませんでした。将来そういう人が現れたかどうか、それは私にもわかりませんが・
・・私が、Melissaの死について、自分を納得させられることがあるとしたら、唯一・・・あの子を亡くしたことは死ぬほど辛いことでしたが、最低でもひとつの悲劇だけで終わったということです。万が一、Danaが死んでいたとしたら・・・それは事実上、Foxも殺していたことになっていたかもしれませんもの。」
「そうですわね・・・“事実”とは一体どういうことなのか、わたしにはわかりませんけれど」Teenaが静かな声で答えた。
「Foxが彼女を失うようなことがあったら、息子は自殺していたと思いますわ。あの子が１０代の頃、Samanthaがもう２度と戻らないのではないかということがだんだん重くのしかかってきて・・・いつ息子が自分で命を絶ってしまうかと・・・私ずっと恐ろしくて、それこそ生きた心地がしませんでした。息子が、もう一度、人を愛せるようになるまで・・・２０年もかかったんです。またあんなことがあったら、息子はたぶん二度と立ち直れないと思って、私・・・」
「娘はいつまでも一緒ですわ」Maggieは笑顔で言った。
「Danaは強い子ですもの、父親ゆずりでね・・・」
***
その夜。
Foxが暖炉に火をいれ、リビングルームのカウチでDanaとふたり、寄り添いながら炎を見つめていた。
母親たちは、両脇に置かれたアームチェアに腰掛けていた。
「カウチにもまだ座れる場所がありますけど」Danaは両足を引き寄せて、夫の体に凭れながら眠たそうな声で呟いた。
「私たちは、ここでいいのよ」Maggieが頷きながら言った。
Maggieは、Danaが自分にはあまり似ていない娘だと言った自分自身の言葉を、訂正したくなっていた。
いまのDanaは、とてもリラックスして見える。
Maggieにも憶えがある・・・夫と愛し合い、その余韻を残したまま、寄り添い合ってぼんやりとまどろみながら過ごす時間・・・他にはもう何もいらない・・・
４人も子供がいる我が家では、なかなか難しいことではあったのだけれど・・・！
「Williamは、いつも・・・」Maggieが話し始めると、Teenaが不思議そうに聞き返した。
「William？」
「Danaのお父さんもWilliamだったんだよ、Mom」Foxが説明した。
「うちのDadと同じ名前なんだ。・・・お義兄さんもなんだけどね。」
「ねえFox、私たちの父親の名前が同じだってことをX-Filesの事件扱いにしなかったなんて意外だわ！」Danaが軽くからかうような調子で言った。
「うーん、だってただの偶然だと思ってたからさ、sweetheart、あの世代の男性には珍しくない名前だろ。」
「でも、お陰で私たち、男の子が生まれても、どちらの父親の名前を貰うかで喧嘩しなくてもいいわね。」Danaがつぶやくように言った。
「あなたがた、こどもを作るつもりなの？」Teenaがきいた。
FoxもDanaも口を開こうとする前に、彼女が慌てて言った。
「ごめんなさい。とんでもないお節介なことを訊いてしまったわ。聞き流してちょうだいね。」
「いいんだよ、Mom」Foxが言う。
「ええ、ほんとうに・・・Teena、全然気にしていませんから」Danaも口を揃えて言った。
「そう・・・つまり、私たち、欲しいとは思っているんです。ただ、それが可能なのか、私にもわからないんですの。数年前に病気を患ってますので、たぶん普通の方法では妊娠できないだろうって医者には言われてるんです。ですから、もしかしたら医療技術の手を借りることになるかもしれませんわ・・・」
「それから“あたりまえ”のことだけど、Danaの体が大丈夫だと医者が１００パーセント保証してくれることが大前提だ。」Foxがつけ加えて言った。
「自分の遺伝子を残すためだけのために、Danaの体や命を危険にさらすなんて僕にはできないから。こどもができなくても・・・養子をとってふたりで育てたっていいんだし。」
「ねぇ、Dana・・・」Maggieがためらいがちに口をはさんだ。
「これもお節介な質問だってことはわかってるのよ・・・ごめんなさいね、あなたを困らせるつもりはないんだけど、でも、あの・・・あなた達、なにも・・・つまり避妊とかそういう・・・」
「してないわ、Mom・・・でも、私たち結婚して７ヶ月足らずだし・・・まだコウノトリは来ないみたい。ママは・・・ね？パパと結婚して７ヶ月くらいっていったら、もう妊娠後期に入ってたんじゃなかったかしら？」
「結婚して９ヶ月と９日目にあなたのお兄さんが生まれたのよ。知ってるでしょう？dear」
「まぁ・・・」Teenaはびっくりして一瞬言葉を失った。
「・・・私たちは、４年目にようやくFoxを授かったんですのよ・・・」
***
母親達がふたりとも寝室に引き上げると、Mulderはカウチの上で脚を伸ばして仰向けに寝そべりながら、Scullyを抱き寄せ、彼女も体を重ねて横になった。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」彼が歌うように呟いた。
「何のこと？」彼女は、夫の胸にあごをちょこんとのせて、彼の瞳を見つめた。
「どちらの夢をみようかな・・・？暖炉の、燃える火の前で君を抱くか・・・昔の僕の部屋で君と愛し合うか・・・」
「階段を上がったところには、うちの母も・・・お義母さまもいらっしゃるのよ・・・私は、できればちゃんとドアの閉まるお部屋でお願いしたいわ。」
「君のチャレンジ精神は、どこにいっちゃったんだ？Scully」
「今日のぶんは使い切っちゃったわよ、ツリーハウスでね！」
彼は笑いながら、寝返りをうつようにして体を入れ替えると、カウチから抜けだして起きあがった。
「じゃあ、行こう。」彼は手を差し出しながら言った。
彼女は首を振って、両腕を伸ばしてみせた。
「抱いていって。」
「抱いて・・って？僕の部屋は２階なんだぞ！？」
彼女は黙ったまま、笑顔で腕を広げて待っていた。
彼は、頭をふりながらため息をつくと、彼女を抱き上げた。
彼女が腕を首に回して、脚をウエストに巻きつけてくると、彼は１年以上も前、南極で死んだように動くなくなってしまった彼女の体を肩に担いだときのことを思い出した・・・そうだ、あのときにくらべれば、こんなの軽いものだ！
彼女をベッドに座らせてから、部屋の鍵をかけると、彼女がセクシーな笑顔を向けていた。
「こんどは服を脱ぐのね？」
「いや。僕が脱がせるのさ。おいで」
彼女は、パッと顔を輝かせるようにして、夫の胸に引き寄せられた。
そして彼は、Scullyの着ていたものをゆっくりと脱がしていった・・・ひとつ剥ぎ取るごとに、彼女に触れて口づける。
自分の目の前にいる一糸まとわぬ姿の妻を見て、彼は微笑んでから言った。
「わあ！１０代の頃、僕は毎日夢に描いてたんだ・・・美しい裸の女性が僕の部屋に来ないかなって・・・でも君は、どんな夢も霞んでしまうほどの美しさだ・・・」
「その夢の女と、なにがしたかったの？」
「そう・・・まず、彼女は僕の服を乱暴に引き裂いて−いま君も、そうしたいように見えるけど−それから僕たちは愛を交わすんだ・・・くたくたになるまで愛し合って、最後は二人で泥のように眠るんだ。」
「すごいのね、lover」
彼は手を伸ばして、彼女の顔を包みこみ、そして急に真剣な声になって言った。
「僕の夢をすべて叶えられるのは、君だけだ・・・君が夢の女だ、Dana。だって僕は・・・さかりのついた１０代のあの頃ですら、誰かと寝たかったわけじゃないんだよ・・・誰かに愛して欲しかったんだ。」
「私、あなたを愛してるわ、Fox。心から愛してるの。」
「うん、知ってる・・・僕も君を愛してる、Dana。」
***
それから・・・。
かつて義理の息子のものだった部屋の隣にあるゲストルームで休んでいたMaggie
Scullyは、微かな物音で半ば目を醒ましかけた。柔らかな忍び声が、ハミングのように響く。
一瞬考えてから、音のするほうと声の主に思い至った彼女はにっこりして、頭を枕に押しつけて、ふたたびに眠りについた。
たしかに。Maggieは普通の主婦だったし、娘はキャリアウーマンかもしれないけど・・・それでもやっぱり、そこには変わらぬ真実というものがあるのだ。
***
妻が、体をすり寄せてきて小さく体を丸めると、Mulderは、彼女の顔を優しく撫でながら、そっと話しかけた。
「Dana?」
「ん・・？」
「母が言ってたことを、考えてたんだ。」
「なあに？」
「ほら・・・だから・・・僕が生まれるまでに４年かかったっていう話さ。それに、Samanthaと僕の間も、４年あいてるんだよな・・・。君の家族とはずいぶん違うだろう？君のご両親は、結婚８周年を祝う頃には、君とMelissaと、ふたりの男の子がいたわけだ。」
「それがどうかした？lover」
「ちょっと考えてみたんだ・・・、もしかして・・・つまり、僕たちってこんなに愛し合ってて、それでも子供ができないのは、君が罹った病気のせいなんじゃないかって、ずっと思ってきたじゃないか。だけど、もし、君のせいじゃなかったら？僕の方に問題があるんだとしたら？もしかして・・・その、いわば・・・“空砲”っていうことも・・・」
「Fox、ふたりで１年目の結婚記念日までは待ちましょうねってことにしたでしょう？うちの両親みたいに結婚してすぐ子供が・・・どうしても欲しいってわけじゃないから、って・・・。それで、もし私が妊娠できなかったら、二人で検査を受けに行きましょうよ。それから、不妊治療をするか養子をもらうことにするか決めればいいじゃない。私はその方針を変える必要はないと思うけど？いずれにせよ、その時にはあなたも、一応いくつか基礎検査をすることになるんでしょうけど、私は、あなたの方に問題があるとは思ってないの・・・でももし、あなたにほんのちょっとでも問題があるとしたらよ・・・とても簡単なやり方で、改善できるか試す方法があるわ。ただあなたは、それを気に入らないと思うけど・・・」
「なんだい？」
「ちょっと抑えてみるとか・・・」
「は？」
「産科医療は私の専門じゃないけど、知識として言えることは・・・つまり、たくさん愛し合ったからって妊娠の可能性が高くなるわけじゃないってこと。男性の方が、その・・・すごく我慢してて・・・週に２，３回くらいっていうほうが、たぶん女性は妊娠しやすくなるんじゃないかと・・・。１日に２回みたいな−あなたのことよ−それだと、なんていうか・・・つまり・・・薄まっちゃうっていうか・・・」
「あ。」
「だから私、１年間はこのまま待ってみましょうって言ってるの。それに、毎日同じ職場で働くのをやめるとかしなくちゃだめだわ・・・だって、仕事の間もずっとあなたと一緒にいたら、３日おきに・・・なんて私の方が耐えられなくなっちゃうもの・・・」
「なあ、Agent Scully！君ってさ・・・僕のこと好きなんだろう。」
「そう言ってるでしょう、Mulder」彼女は、眠たそうな声で呟いた。
「いつもね・・・」
end
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