|
DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Babylove
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
Special Agent Wayne Allenは、F.B.I.本部ビルの廊下を足早に歩いていた。
この場所に戻ってくることができて、最高の気分だった。
個人面接がうまくいけば、Omaha支局から本部に栄転だ。
Spooky Mulderの率いる特別捜査チームの一員となって働くのは危ない橋を渡るようなものだ、ということは百も承知だ。だが、とりあえず本部に戻れさえすればいい、いずれまた別の部署に配置転換してもらうことだってできるはずだ。
Allenは、連続殺人事件特別捜査チームのオフィスのある廊下の角を曲がった。
そこに懐かしい顔が、向こうから歩いてきた。
「Dana？」彼は、びっくりしながら声をかけた。
「Dana Scullyじゃないか？」
「ええ・・」
その小柄な赤毛の女性はそう答えながらも、眉を寄せて考えているようだった。
会ったことがあるような気がするけれど、すぐには名前が思い出せない、といった表情だ。
「僕だよ、Wayneだ。Wayne Allenだよ。アカデミーで一緒だったじゃないか、おぼえてるだろう？ちょっと待った、おい君、妊娠してるのか？」
「あ、そうそう、Allen！思いだしたわ。」
Scullyは、なぜこの男が驚きを隠そうともせずに大騒ぎしているのかがわからず、困惑していた。
たしかに、彼女自身も妊娠がわかったときには相当びっくりしたけれど、だが、彼女が不妊の問題を抱えていた事実は誰も知らないはずだ。
それに、そう・・・たしかに第一子出産にはちょっと遅いかもしれない。でも、ここはWashingtonD.C.だ。キャリアウーマンが３５歳を過ぎてから結婚して子供を産むなんてことは、めずらしい話じゃないと思う。
Allenは、まだ興奮からさめやらない様子で、頭をゆっくり振った。
「君は、局でも有名なアイスクィーンだったのに！是非お目にかかりたいものだな、君が溶けちゃうほどのヤツってことだろう・・・そいつ、何をやって君をこんなふうにしたんだ？まったく大した'タマ'だよな。」
Scullyが答えるまえに、Allenの背後で低い声が静かに響いた。
「なにか？」
ほとんど無意識に、Allenは声が聞こえた方に振り向いた。
すると、４０歳になろうかというくらいの、栗色の髪をした背の高い男が、彼を見下ろしていた。
「僕がDanaの夫だが。」その男が言った。
「君は？」
「僕はWayne Allen特別捜査官です。今日はFox Mulder特別捜査官と面接の約束があって来たんですけど。連続殺人事件の特別チームの管理官をなさっておられる方で・・・」
その男性は頷いてから言った。
「ちょうどよかった。こちらが僕のオフィスだ。」
３人が立っていた場所にちょうどドアがあり、彼はAllenの横を掠めるようにして腕を伸ばすと鍵を開けた。
「入って座っていてくれ。僕はちょっとDanaと話があるから。すこし待っていてもらえるかな。」
そして、妻の方に向き直ると訊ねた。
「それでドクターはなんだって？」
「順調ですって。」Scullyはにっこりしながら答えた。
「Mulder、あなたって面白いわよね、そう思うでしょ？」
「どうして？」彼は、まったく意味がわからず聞き返した。
「だって１００人中９９人の夫は『Danaは僕の妻だが』って言うと思うのよ。なのにあなたったら『僕がDanaの夫だ』ですって！・・・そんな言い方してくれるなんて素敵だわ。」
「ハハ！僕なら“Mr. Doctor Scully”って言われてたって全然気にならないね。僕は君の夫だってことが気に入ってるんだから。」
「パートナーだってことよりも？」彼女は笑顔で訊いた。
「うーん、まあ、それも良かったな。たださ、やっぱり夫となると、パートナーだったときにはできなかった‘いろんなこと’ができるようになるからなぁ・・・」
「愛してるわ」
「僕もだ。愛してる。もう家に帰る？」
「ええ、そうするわ。もう遅いし、Quanticoに戻っても仕事はないと思うの。」
「うん、そうしたほうがいい。僕も午後は、さっきの“大失言”病に冒されてる捜査官と面接があるだけなんだ。他の仕事は入ってないから、早く帰れるよ。」そう言うと、廊下を通り過ぎて行く捜査官達の視線を気にも留めずに、顔を傾けて妻の唇に優しく口づけた。
「もう行かなきゃ、sweetheart。気をつけて運転するんだぞ。帰ったらちゃんと休んで・・・」
「はいはい、じゃあね。お仕事がんばって。」
***
Allenは部屋に入ると、椅子に深く腰かけた。
彼は、この特別捜査チームに加わるチャンスをダメにしてしまったという後悔の念に苛まれ、もうお別れのキスでもして立ち去るべきかと思いあぐねていた。
そしてもう、これで一生Omahaから出られない・・・あそこに骨を埋めることになるんだ。
本部の出世コースにのって、F.B.I.エリートの面々と酒を酌み交わすつもりだったのに！
彼はここにきてようやく、この数年の間に聞かされた噂やゴシップの数々を思い出していたが、時すでに遅しとはこのことだ。
「ScullyはＸファイル課に転属されて、パートナーは、あのAgent Mulder−それで最近じゃ彼女、‘Mrs. Spooky’って呼ばれてるらしい」
「Sculyが入院したってさ。で、Mulderは病院のベッドのそばから離れようとしないって話だ」
「Mulderが失踪したそうじゃないか。Scullyが局じゅう走り回って誰か一緒に捜してくれって大騒ぎしたっていうのはほんとかな？」
自分も捜査官のはしくれだ。ほんのちょっと頭を使えば、Scullyのお腹の子の父親が誰か・・・せめてAgent Mulder−かも知れない−という可能性くらいには気づいて当然だったんだ。
しかも彼のところに面接を受けにきていて、上司になるかもしれない相手だったというのに・・・
Mulderは部屋に入り、自分の目の前で文字通り縮み上がっているその捜査官を観察し始めた。
廊下で耳にしたAllenの発言はあまりにも不作法なものではあったが、彼の捜査官としての評判は良好で、しっかりと経験を積んだ立派な経歴の持ち主であるとの情報を得ていた。
Mulderが腰かけると、Allenは咳払いをして、椅子にまっすぐ座り直した。
「あの・・まず、先ほど廊下で僕が申し上げたことについてお詫びさせて下さい。素人じゃあるまいし、全く配慮に欠けた発言でした。僕は、ただ驚いてしまっただけで・・・もちろん、あんな無礼な言葉の言い訳にはなりませんが。」
Mulderは黙って頷いた。
こうやって謝罪をしてくるというのは、廊下での会話がなかったようなフリをして、すました顔をしているよりずっと好感がもてる。
Mulderも、これでこの話は終わりにすべきだとわかってはいたが、好奇心には勝てず、彼にこう尋ねた。
「君の言いたいことはよく分かった。だが、どうしてそんなに驚いたのか聞かせて貰えるかな？」
Allenはきまり悪そうに体を動かした。
「あの、本当に申し訳なく思っています。奥様を侮辱するつもりはなかったんです。・・・それにもちろんあなたのことについても・・・」
Mulderは、ふっと小さく笑った。
「そうか、あれは称賛の言葉だったわけだ。どうやら君は、僕が特別なことをしたのかと驚いてくれたみたいだな。なあ、知ってたか？毎年けっこうな数の男たちが奥さんのお腹の中に、こどもをこしらえてるらしいぞ。」
Allenは申し訳なさそうに溜息をついた。
「そんな・・・僕はただ・・・僕の知っていたScullyは・・あ、知っていたと言っても１０年も前にたった数ヶ月アカデミーで一緒だったというだけですが、彼女はキャリア志向の女性なんだと思っていました。今回、本部で再会して、もし彼女が副長官とか部総括なんかになっているというなら僕もここまで驚かなかったと思うんです。それが、彼女に会ってみたら・・今、８ヶ月くらいですか？あまりに当時とかけ離れていたものですから・・・」
Mulderは、分かったというように頷いたが、心の中では、笑いとも怒りともつかない気持ちの間で揺れ動いていた。
***
Mulderが帰宅すると、家の中から食事の用意をしている匂いが漂ってきた。
結婚している幸せを噛みしめる瞬間だ。
そして今でも、彼を夢見心地にさせてくれる。
ふたりはたいてい外で食事をしてくるか、一緒に夕食の準備をするのだが、Scullyはたまに−赤ちゃんができてからは特に−こんな風に、まるで古き良き時代の奥さんのようにキッチンで夫を迎えることがあった。
「おいしそうだね、darling」彼は身をかがめ、妻の耳元にキスをしながら言った。
「そう？もうできるわ。座って待ってて。」
夕食の途中、Scullyが言い出した。
「Fox、昼間は言わなかったんだけど、もうひとつドクターに言われたことがあるの。」
「Dana、何かあったのか？」Mulderが問いかける。
その声には、パニック寸前の響きが含まれていた。
「そうじゃないのよ、lover」彼女はいそいで、安心させるようにつけ加えた。
「私は大丈夫。赤ちゃんもね。ただ、安全のため、というか赤ちゃんがこのまま私の中で元気に育ってくれるように、生活スタイルをちょっと・・・変えた方がいいって・・・ドクターに言われたの。」
「仕事を完全にやめろってこと？」Mulderがたずねた。
この妊娠がわかってから、ScullyはQuanticoへの転属を希望し、仕事の量も減らしていた。
今では週に２５〜３０時間しか働いていない。
当初の計画では、出産予定日の前の週まではこのままのペースで仕事を続け、それから６ヶ月間の出産休暇をとることにしていた。
その後は、母親に赤ちゃんを見てもらいながら、パートタイムの仕事を続けるつもりでいた。
「ちがうの、仕事の話じゃなくて・・・。ほら・・私たちふたりですることよ。」
MulderにはScullyが言おうとしていることの意味がすぐにはわからなかった。
少し考えてから、ようやく答えがパッとひらめいた。
「ああ！・・・もう、しちゃだめだって？」
「だめだって。」
「特になにをしちゃいけないかってことを、具体的にきいた？」
まだどこかに希望がのこっていないか、すがるような思いでMulderは言ってみた。
Scullyはうなずいて言った。
「ドクターはとても丁寧に、とても医学的な説明をして下さったわ。最後までするかどうかにかかわらず、性交自体が危険ですって。それから、それだけじゃなくて・・・指とか口を使うとしても・・・オーガズムに達することも危険だって言われたの。普通の女性だったら、出産まではそれまで通りに過ごしていいんだけど、私のドクターはハイリスク専門の先生だし、妊婦には出産予定日の６週間前からセックスは避けるようにってアドバイスされるわけ・・・クリントン大統領の辞書に載ってる意味だけじゃなくて・・・ってことだけど。ねぇ、あの・・・がっかりしちゃった？」
「Dana、それって『あなたは一度でも嘘をついたことがありますか？』みたいな質問だよ！YesかNoか−どう答えてもまずいじゃないか！もし、僕が『当たり前だ、ああもう！イヤになるよ！３ヶ月もできないなんて我慢できない。』なんて言ったら、まるで僕がセックス中毒か何かみたいに聞こえるだろう！？でも逆に、『いや、はっきり言って平気だよ。結婚前のことに比べたら、３ヶ月なんて全然たいしたことないからね。』って答えたら、君と愛し合うのをどうでもいいことみたいに考えてるって思うだろう？僕は君を泣かせたくないからね。」
「それで・・・？」
Scullyは答えを促すように片方の眉をあげてみせた。
Mulderはため息をついた。
「じゃあ、これだけは言っておくよ・・・君を愛してるんだ。それに僕たちの赤ちゃんも。君たち二人を守るためなら、命だって惜しくないって思ってる。ちょっとの間‘お楽しみ’を我慢することが必要なら、そんなことくらい簡単なことだよ。」
「あなたはね、なにも全部我慢しなくたっていいかも・・・」Scullyが小さな声で言った。
「ふたりでできなくても、私があなたのためにいろいろ・・・ね、やってあげられるもの。」
Mulderは笑いかけて言った。
「なあ、Dana。僕たちはいつだって対等なパートナーだったし、これからだってそうだろう？今さらそれを変えるつもりはないな。」
***
それから数日後の朝。
目覚めると、Mulderの下半身は熱く疼き、すでに固く勃ちあがっていた。
朝、わずかに勃起したまま目覚めるのは、よくあることだったが、今朝は完全に張りつめてズキズキと脈打っていた。
・・・なぜ？
彼はしばらく考えて、ふと思い出した。
この数週間、Scullyは急に大きくなってきたお腹に合わせて、大きめのたっぷりしたコットンのナイトウェアを着ていた。
セクシーなネグリジェとか‘彼の’Tシャツとか・・・または何も着ないか・・・という今までの彼女に比べると、ずいぶん控えめで可愛いらしいものなのだが、彼女は相変わらず、その下は素肌のままで何もつけていなかった。
そして昨日の晩、寝ている間に、ナイトウェアがずり上がって彼女の腰がむき出しになり、その柔らかな温もりがぴったりと彼に押しつけられてきたのだった。
背後から見る限り、彼女は以前のままで、ちっとも変わっていなかったので、妊娠しているとは思えないほどだったが、お腹は大きくせり出して、新しい命が日々育っていくことを実感させる。
彼は、彼女のお腹に手を滑らせて、そのまま包み込むように抱きしめると、自分の体に引き寄せた。
彼の中心が熱くなる。彼自身に火をつけたのは、彼女の柔らかな感触か、それとも、手のひらに感じる鼓動・・・愛する妻のお腹の中に自分のこどもが確かに生きているという感覚なのか・・・
それは彼にもわからない。
Mulderはため息をついた。
少し固くなってる程度なら朝のジョギングの間に鎮まるのだが、このままでは家の外に出ることもできない。まるで太いきゅうりを突き出しているみたいだ・・・！
とりあえず今朝のエクササイズは、やめにして、まずシャワーを浴びてこよう。
彼は、バスルームに行き、シャワーの栓をひねった。
温かいシャワーを浴びて冷たいシャワーを浴びる・・・それだけだ−彼は自分に言い聞かせた。
彼は手のひらで石鹸を泡立てると、胸から腹に手を滑らせていった。
すみずみまで丁寧に洗うだけ・・・彼は、そう心の中で思った瞬間、我知らず思い出し笑いをしていた。
ああ・・・そういえば。ティーンエージャーの頃にも、自分のやってることを正当化するために同じ言葉を使っていたな・・・
だけど、今はもう大人なんだから。そう、いい歳をした大人-４０歳になったばかりだし-それに、結婚だってしてる。
ぜったい、こんなこと・・・してる場合じゃない・・・
「だいじょうぶ？」
いきなり、心配そうに小さな声が聞こえて、彼はびっくりして跳び上がりそうになった。
「Scully！まだ寝てたんじゃなかったの？」
「シャワーの音で目が覚めたの。それで、どうして朝のジョギングに行かないのかしら・・・って考えてたら、もしかして昨日ケガでもして、私に内緒にしてるんじゃないの？って思って、ちょっと見にきたのよ。」
軽く鼻を鳴らして、彼が笑った。
「Scully、いつどうやって、僕が仕事中にけがをするんだ？Ｘファイルはなくなったし、僕は最近、ほとんどオフィスにいるんだぞ。」
Scullyも笑って言った。
「そうだったわね。でも、やっぱりジョギングに行くのは無理だったみたいね。私も入っていい？」
「ああ、もちろん、Dana」
彼はそう答えると、シャワーカーテンを大きく開け、手を貸して彼女をバスタブの中に入れてやった。
「それで最初の質問に戻るけど・・・だいじょうぶ？私が洗ってあげましょうか？」
「ああ、頼むよ。君の後ろにタオルがあるだろう？」
「ねぇ、あなた、手を石鹸でフワフワにして何かしようとしていたように見えたけど？言ってくれれば私だって上手にできるのよ。」
Scullyはボディソープを両手を泡立てると、Mulderの腕を撫であげ、背中から肩を通って胸をかすめて、腹筋をなぞっていった。
そして、彼の中心までたどりつくと、片方の手で下から果実をふたつ捧げ持つように包み込み、さらに太い幹の部分に器用な指をからめて、上下に滑らせた。
「Dana、それ以上したら、君の手を汚してしまうから・・・」
「全然平気よ、そうして。・・・あなただって、もう動けないでしょ？それに私たち、シャワーの中にいるんだから・・・後で洗ってくれればいいわ。」
「本当にいいの？」
「ええ、ただ・・・ちょっと気になるんだけど・・・」
「なにが？」
「どうしてこんなになっちゃったの？“あなたのじゃない”ビデオか何かでも見たの？アパートから持ってきた箱の中にまだ隠れてたのかしら？」
Mulderが笑いながら答えた。
「まさか！ぜんぜん違うよ、Scully。君のねまきが夜の間にめくれててさ、ちょうど君の腰が僕に押しつけられていたから・・・ああ！そう・・・baby、すごくいいよ・・・」
「そう・・・嬉しいわ。Mulder」
「え？」
「男の人ってたいてい、こんなにお腹が大きくなっちゃうとね・・・奥さんのことをセクシーだって思えなくなるらしいから。」
「Dana、僕さ、９０歳になっても君のことセクシーだって思う自信があるな。うん、絶対！」
次第に強くなる脈動を指先に感じながら、Scullyもその手の動きを早めていく。
彼女の手に包まれたままMulderが達した瞬間、その手のひらに熱いものが溢れた。
それから。
彼は、妻の体をていねいに洗いながら、ゆっくりと肩から腰までマッサージをしてやった。
***
ふたりとも体を拭いて服を着てから、Mulderがたずねた。
「今日、何かあったっけ？」
Scullyはにっこりして言った。
「ベビーシャワーじゃない。まさか忘れてないわよね？」
Mulderは軽く唸ってみせた。
「たぶん僕、あえて考えないようにしてたんだな。どうして君ともあろう人が、ベビーシャワーをあの３人がやるって言って、平気な顔して許していられるのか不思議だよ。」
「だってFrohikeが是非って言ってくれたのよ。彼ったらすごく乗り気なんだもの。断るなんてひどいこと、できると思う？それに、ともかく彼らのアジトじゃなくて、この家でやってもらうってことには妥協してくれたんだし。」
「だけど実際、Langleyって昼間にあの隠れ家から出てくるってことがあるのかな？あいつ、実は夜中しか出歩けない吸血鬼なんじゃないかと疑ってるんだよな。」
「３人揃って来てくれるって言ってたわ。大丈夫よ、Byersがいるもの、彼がお目付役になってくれるわよ。それから、母もくるはずなの。誰かと一緒らしくて、母と話した感じではOliveおばさんが来てくれるんじゃないかと思ってるんだけど・・・」
***
昼食後しばらくすると、３人組がやってきた。
少なくとも、まず準備段階においては、このベビーシャワーはMulderが思っていた以上に上出来で、きちんと事が運んでいるということを、彼も認めざるを得なかった。
彼らは、お店で焼いてもらったデコレーションケーキや、デリで調達した大皿にのったサラダの他に、飾り付け用の道具のはいった箱も持ってきていた。
ピンクとブルーの薄紙で、家じゅうの窓を“Ｘ”の文字で飾り立てたときには、Mulderもいい加減やりすぎだろうとは思ったが、それでもかなりまともな方だろう。まあ、彼らなりに・・・。
ＴＬＧのほかには、まず職場の友人として、本部の方からHollyとKimberlyがやって来た。
それから、Quanticoで教えている年輩の女性捜査官Ann Palmerも到着した。
後は、MaggieとOliveおばさんがくれば、パーティーの始まりだ。
玄関のベルが鳴って、Mulderがドアを開けようとすると、曇りガラスの向こうに、２人ではなく３人の人影が映っていた。
Mulderはそれを見ても、Maggieが言っていた‘連れ’というのはもうひとりいたのかもしれないと思っただけだった。
Mulderがドアを開け、MaggieとOliveに挨拶しようとすると、彼の背後からScullyの叫び声が聞こえた。
「Tara！？」
「久しぶりね、Dana。」Tara Scullyはそう言いながら玄関をくぐると、義妹にキスをした。
「お邪魔でなければいいんだけど・・・」
「Tara、まあ、私びっくりしちゃったわ！Californiaからわざわざ？まさかベビーシャワーのためにきてくれたの？」
Taraは、ちょっと肩をすくめて笑った。
「実はね、Billが行ってこいって。」
「またそんな冗談を！」Mulderが言った。
「それが冗談じゃないのよ。」Taraが首を振った。
「あの人ね、何ていうか・・・反省してるのよ。あなた方が結婚してからも、まともに接してこなかったでしょう。そろそろお互いの間にある溝みたいなものを埋められたら、って。これがいい機会になるんじゃないかって思ったみたい。」
Taraを見たときに陥ったショック状態から立ち直れないまま、最後のゲストが到着し、Mulderはさらに驚いてしまった。
「Skinner. . .？」
「やあ、Agent Mulder。すまない、遅くなってしまった。」
***
女性陣は、ベビーシャワーにつきもののプレゼントを用意してきてくれていた。
産着やタオル、ブランケットに乳母車が並べられた。
ＴＬＧからのプレゼントは、たしかにハイテク機器ではあるが、Mulderが怖れていたような不気味なものではなかった。
子供部屋に設置したマイクを通して、寝室やキッチンにいても赤ちゃんの様子がわかるというモニター機能のついたインターコムと、それからデジタルカメラもプレゼントしてくれた。赤ちゃんの写真を撮って、メールでみんなに送って欲しいという意味らしい。
そしてScullyは何よりSkinnerのプレゼントに大笑いして喜んだ。
“Ｘ”の飾り文字がついた大きなおむつバッグだったのだ。
「それで、赤ちゃんには何という名前を考えていらっしゃるんですの？」Kimberlyがたずねた。
「女の子だったら、Melissa Samantha。男の子だったら、William Samuelにするつもりよ。」Scullyが答えた。
「Melissa Samantha かWilliam Samuel・・“何”ですか？」
「えっ？」
「あ、つまり、ご主人と違う名字でいらっしゃるから、お子さんはどちらの姓を名乗ることになるのかな？と思って・・」
Scullyは声を立てて笑った。
「Mulderよ。当たり前じゃない。おかしいかしら、私、自分で思っているよりずっと保守的な人間だったんだわ。結婚しても、自分の呼び名を変えようとは思わなかったんだけど、でも子供の名前にScullyの名字をくっつけようとは考えもしなかったのよ。」
「それでいいのよ、dear」Maggie Scullyが言葉を添えた。
「Billには２人の男の子がいるし、Charlesも婚約を発表したわ。Scully家の名前をあなたについでもらう必要はないんだもの。」
「俺としちゃ、君たちも男の子が生まれるように祈った方がいいと思うけどな。」Langleyが口を挟んだ。
「どうして？」Scullyがたずねた。
実のところ、男の子が欲しいというのが彼女の希望でもあった。
Mulderの方は、娘がいいと言っているのだが・・・
でも、よりにもよってLangleyにとって男の子と女の子で何が違うといういうのだろう？
「だって、君の名前は赤ちゃんと違うってことになるわけだ。たとえば、医者に行ったときなんかのことを考えてみろよ。いちいち君が親だってことを説明しなきゃならないんだ。ほら、“Melissa Mulder's Mother”ってすごく言いにくくないか？」
「ということは、君たち、まだ赤ちゃんが男の子なのか女の子なのか知らないんだな？」Byersがたずねた。
「ああ。」Mulderが答えた。
「もしかしたら、この子が僕らにとって、たったひとりの子供になるかも知れないということを考えると、Danaは最後まで楽しみにしていたいって言うんだ。それで、ドクターにも知る必要はありませんって伝えたんだよ。」
「おい、ちょっと待て。それはどういうことかね？」Skinnerが眉根を寄せながら言った。
「君は今まで何かに取り憑かれたように、あらゆる事象の全容を解明しようとしてきたじゃないか、Mulder！その君が、自分自身の子供のことだっていうのに、本当に９ヶ月も男か女か調べられずにいられるのか？簡単にわかることなんだろう？」
「ええ」Mulderはニヤリとしながら答え、手を伸ばしてScullyの指に自分の指をからめて握りしめた。
「最近、僕も成長して、新しい見方をするようになったんですよ。たまには、謎のままにしておくのも新鮮でいいな、と。」
***
数週間後。
Scullyが目を覚ますと・・・何かが違った。
背中の筋肉がゾクゾクと痺れたように感じられて、やがてお腹のほうにまでその感覚が広がってきた。
何もしていないのに筋肉だけが痙攣し、それが等間隔をおいて何度も繰り返されることに気がついた。
彼女はカレンダーに目をやった。
１１月。第１日曜日。
出産予定日だ。
おそらく心理的なものによる体調の変化だろう。
彼女は医者だ。出産予定日といっても、その日に出産する女性の方が稀だという知識は持っていた。
とくに初産の場合、出産予定日を過ぎることの方が普通だ。一週間くらいは当然で二週間ということだってあり得る。
というわけで、なんとなくそれらしきものを感じながらも、これは出産の兆候ではない、と結論づけて、彼女はもう一度眠ることにした。
その日の昼過ぎには、Mulderが妻の様子がおかしいことに気づいた。
「Dana、大丈夫かい？なんだか・・・幽霊でも見たような顔をしているよ。Ｘファイルにいた頃、僕が異常な事件の捜査を始めると、よくそんな顔をしていたな・・・」
「Fox、約束してくれる？これから私が何を言っても、“I Love Lucy”に出てきたLucyのダーリンみたいな真似は絶対にしないって。」
「もしかして・・いよいよ、なんだね。」彼は、平静さを保とうとしながら言った。
「ええ、もしかしたら、ね。たぶん、何でもないとは思うんだけど。」
「とにかくドクターに電話をしよう、Dana。せっかくここまで無事にやってこれたんだ、今になってリスクは冒せないよ。仮に何でもないってわかったって、恥ずかしいことじゃないんだし。だってそんな早合点をするのが、有史以来僕たちが初めてだとは到底思えないからね。」
そう言うとすぐに、Mulderはドクターに電話をし、応答サービスに伝言を残した。
ドクターは、ハイリスクの出産を専門に扱う産科医だ。Scullyは、３５歳を過ぎてからの初産であるということに加え、数年前ガンを患い、死の淵をさまよった経験があるという二つの理由から、出産には危険を伴う可能性もあると言われていた。
そのようなこともあって、ドクターは数分後には折り返し電話を掛けてきてくれた。
ドクターと話をした後、受話器を置くと、ScullyはMulderのほうに向き直って言った。
「あのね、やっぱりドクターも私たちと同じ意見だそうよ。おそらく何でもないとは思うっておっしゃったけど、私の病歴からしても、電話で話しただけでは何とも言えないし保証もできないから、病院の方に来て下さいって。そしたらすぐに診てくださるわ。」
「荷物を用意して持って行った方がいいかな？」
「そうね、一応、持っていくわ。ねえ、病院に行くって時になったら母にも連絡するって約束してたけど、状況がわかるまで、まだ電話しなくていいわよね？」
Mulderもうなずいた。
***
Scullyを診察したドクターは彼女に微笑みかけた。
「それで、どうなんでしょうか？」
家に帰ってもうしばらく様子を見ましょう、慌てずにね。・・・などと言われるのがオチだろうと思いながら、Scullyが聞いた。
「そうね・・まず、Dr. Scully、よく気がつかれたと思うわ。さすがにご自分の身体のことは分かっておられるのね。」
「どういうことですか？」Mulderがきいた。
「ええ、つまり、Mr. Mulder、奥様は陣痛が始まりかけているということですよ。初めてのお子さんを出産される場合、たいていの女性は、もっと後にならないと陣痛の兆候にも気づかないことが多いのですけれど・・・」
「それじゃ、今日赤ちゃんが生まれるんですか？」Scullyがびっくりしてたずねた。
ドクターは、笑顔になって言った。
「長い一日になるわよ、honey、まだまだこれからですからね。ひょっとしたら、赤ちゃんが生まれるのは、明日の早朝になるくらいかもしれません。でもとにかく、分娩の準備に入りましょうね。」
「Mulder、ママに電話しなくちゃ。」Scullyが興奮したように大きな声を出した。
***
ドクターの予想に反し−そしてMaggie Scullyも、初産はふつう長い時間がかかることになるからと冷静な見通しを立てていたのだが−Danaの状態は、かなり順調に推移し、夕刻を過ぎる頃には子宮頸もじゅうぶんに広がってきていた。
「Fox？」
陣痛の様子をチェックしていた付き添いのナースが、いったん部屋を離れたとき、Scullyが小さく呟くような声で、夫の名を呼んだ。
「なんだい？Sweetheart」
「私ね、ちっともこわくないの。なんだかワクワクしてるのよ。」
「Dana、君と出会ってから、ふたりでくぐり抜けてきたことをひとつひとつ思い出していたんだ−お互いの命すら失いかけたことがあったって−これまでのことを考えたら、今この瞬間が奇跡だよ。僕も同じさ、ワクワクしてる。なぁ、大丈夫かい？」
「ええ」彼女は答えると、彼の手を握りしめて言った。
「お願い、そばにいて。ずっと一緒にいてね。」
***
陣痛の間隔が短くなって、胎内の収縮がしだいに強くなってくる。
Scullyは、押し出すような感覚の中で、もう思いっきり力んでしまいたいという衝動とたたかっていた。
ナースが、まだ・・・もうちょっと・・・我慢して、と声をかける。
いつまでも続くかと思われた時間が過ぎ、ようやくドクターの「さあ、いいわ！」という言葉が響いた。
そして・・・。
１１月の最初の日曜日。夜９時ちょうど。
６ポンド１２オンスのMelissa Samantha Mulderがこの世に誕生した。
Mulderは口もきけずに、ただじっと生まれたばかりの自分の娘に見入っていた。
ドクターがScullyの腕の中に赤ちゃんをそっと置くと、Mulderがささやいた。
「Scully？」
「なあに？」のんびりと歌うような声で彼女が答えた。
その目は、腕の中の小さな赤ちゃんに注がれたままだ。
「覚えてるかな・・・Xファイルにいた頃のことだけど、僕はエイリアンの宇宙船とか、海獣だとかいろいろ見てきた・・いや、‘見た’と思ってきただろう？」
「そうね・・・」
「僕は今まで、こんなにきれいなものを見たことはない。世の中にこんなに美しいものがあるなんて・・・」
Scullyは、赤ちゃんを見ていた目をあげて、涙で曇った夫の瞳を奥を見つめた。
「愛してるわ。」
「僕も愛してる、Scully・・・それからMelissa、君もだよ。他に言葉が見つからないんだ・・・うまく言えないけど、この気持ちは絶対に忘れないよ。」
end
|