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toto先生の初レッスンに寄せて。
Dedicated to toto-san who showed us the visual image of Scully sleeping
peacefully in *his* arms.
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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Morning After
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
僕は、ブランケットを引き寄せ、彼女をそっと包み込むように掛け直してやると、明かりを消した。
僕にしてみれば、この数日の間にScullyの身に起きた数々の出来事よりも、彼女がその全てを僕に−この僕と共有することを心から望んでいるみたいに−話してきかせてくれたことのほうが驚きだった。
もちろん僕は、彼女にベッドを譲って、自分はカウチで寝ようと思ったけれど・・・彼女の安らかな寝顔を見ていると、抱き上げたときに起こしてしまうのがかわいそうで、僕は静かに立ち上がり、足音を忍ばせて真っ暗なベッドルームに行き、洋服を脱いだ。
そして、愛する女性が、開いたドアの向こうの、ほんのわずか・・・すぐそこにいる、という温かな思いに包まれながら、僕はベッドに身を横たえた。
僕がベッドに入ってから数分もたたないうちに、彼女がカウチから起き上がる音が聞こえた。
彼女は、すぐにこの部屋を出て、帰っていく・・・。そう思うと、なぜか心が傷つけられたように痛んだ。
ところが、彼女はベッドルームのドア口のところに立って、僕の名を囁いた。
「Mulder？もう寝たの？」
「いや、Scully、起きてるよ。まだ話していたかった？」
「いえ、そうじゃないんだけど・・・そっちで一緒に寝てもいいかしら？」
「ああ、かまわないよ、Scully」
カーテン越しに照らされた月の光の中に、服を脱ぐ彼女の姿がぼんやりと映し出されている。
僕は、熱い視線を逸らすことができなかった。
そして彼女は、下着のまま僕の隣にもぐり込んできた。
Scullyは、僕に背を向けたまま横になる。僕は彼女の方に向きなおり、彼女のおなかに腕をまわすと、僕よりもずっと小さくて華奢なその体を抱き取るように、自分の胸に引き寄せた。
これが、ふたりで寝るときのお気に入り・・・
そんな言葉が頭に浮かぶと、僕は思わず可笑しくなって、ふっと自嘲的な笑いが漏れた。
Scullyのうなじに息がかかって、髪の毛がかすかに揺れる。
そう。僕たちはこうして、ふたりきりでベッドにいる。
だけど、いわゆるカップルでもないし、（普通に使われる意味では）「寝て」いない。
僕達は今までにも、事あるごとにベッドをともにし−厳密に文字通り−ただ一緒に眠っていた。
ゆっくりと薄皮を剥いでいくように、すこしずつ二人の距離が縮まって、こんな関係を作り上げてきたのだろう。
最初は、張り込みのときだ。
張り込み中は、どちらかが眠っている間、片方は起きていなければならないから、交代で睡眠をとる。
僕たちは、お互いの隣で順番に眠った。
彼女が僕の方に頭をもたせかけたり、僕が彼女の膝に頭をのせたりして眠ったものだ。
それから、森で一夜を過ごしたとき・・・。
僕たちは、体をくっつけ合って一緒に眠った。
あの夜、僕はScullyに、体温を奪われないようにしないといけないと、強硬に言い張った。
・・・ほんとうは、Floridaで凍死者が出たという話は、一度もきいたことがなかったのだが。
そのあと１年くらいして、僕達はベッドで一緒に眠るようになった。
初めて一緒に寝たのは、彼女のところで・・・あれは、彼女が異常者の恐ろしい罠にかかって殺されかけた日の夜だった。
そいつは、彼女のハートを−ふたつの意味でのハートを−盗もうとしたのだ。
数ヶ月後、今度は彼女が僕を抱きしめて一緒に眠ってくれた。
精神科病棟からようやく出られたその夜、彼女は僕に、ぬくもりと安心を与えてくれたのだった。
それから間もなく、僕のこのベッドで、僕たちは初めて一緒に眠った。
彼女を襲おうとした異常者に向けて、彼女が発砲した夜のことだ。
そして、僕の母が亡くなった日の夜にも、彼女はこのベッドで、僕についていてくれた。
一番最近では、ヴードゥの呪い殺人事件が解決した後、僕たちはCaliforniaのホテルで一緒に眠った。
あの夜、彼女は自分で思っている以上に動揺していたから・・・。
こうしてひとつづつ数えていくと、その間隔が短くなっているのがわかる。
初めてベッドをともにしてから、その次のときまでには半年あったが、そのときから３度目のときまでには、３ヶ月くらいだ。
そして今夜は・・・。この３ヶ月の間で、もう３度目だ。
すでに僕たちの間では当たり前のことのようになり始めているが、僕にとっては、胸が高鳴るようなひとときである反面、蛇の生殺しのような状態だ。
こんなことの繰り返しに、いつまで正気を保っていられるのか、自分でもまったく自信がない。
ふと、僕はあることに気がついた。
初めて・・・僕かScullyのどちらかが死にそうになったわけでもなく、僕たちの家族の誰かが死んだわけでもないのに、今こうして、ここにいる、ということに。
今夜の僕たちには、ベッドで一緒に眠るのに必要な理由などなかった。
僕達は、そうしたいという理由だけで、お互いの体を寄せ合っている。今夜は、悪夢なんて関係ないんだ。
Scullyが寝返りをうって、僕の方に向いた。
片足を曲げて、僕の膝の上にひっかける。
うわ・・・Scully、どうしてそんなことするんだ！？
「Mulder、あなたに言おうと思ってたことがあるの。今夜・・・さっきもずっと言いたかったの。でも私、なんだか怖かった・・・あなたがどう思うか・・・」
「この週末のこと？君が見つけた新しい自分の話かい？Scully」僕は低い声でそっと訊いた。
「ちがうわ。」彼女は、慎重に言葉を選びながら答えた。
「もっとずっと前からわかってたことなの。ただ、どうしても、あなたに伝える言葉が見つからなくて・・・でも、この週末に起きたいろいろなことが気づかせてくれたわ・・・いつまでも言わずに胸の内にしまっておくことは、お互いにとって、よくないことだって。」
「じゃあ、聞くのはよいことなのかな？Scully」
「たぶん・・・そうだといいけど、Mulder、でもわからない、ほんとに・・・」
「なんだよ、Scully、はやく教えてくれよ。ドキドキするのは、ほんと心臓に悪いんだ。」
彼女は黙って、僕の目をのぞきこんでいた。
しばらくの間そのままで、僕の髪を弄んだ後、指を僕の頬に滑らせた。
僕たちは、ひとつの枕の端と端に頭をのせ、数インチの距離まで顔を近づけて見つめ合っていた。
ようやく、彼女が口を開いた。
彼女の声は掠れ、ほとんど囁くように聞こえた。
「愛してるわ、Mulder。」
「僕もだよ、愛してる、Scully」
僕はホッとして溜め息をつき、彼女の方に唇を近づけていった。
すると、僕を押しとどめようとするように、彼女の指が僕の唇にそっと触れた。
「どういうこと？Mulder」
「え？」
「私を愛してるって、どういう風に？ずっと前にいなくなった妹さんの代わり？」
「ちがうよ、Scully、そんな意味じゃない。君を愛してるんだ・・・男として、君を愛してる。僕という男にとって、たった一人の女性だ、僕の魂の片われは君だったんだから。５億人の中からやっと見つけたんだ。君が僕を救ってくれたんだよ。君がいなかったら僕は何もできない・・・」
前にも言ったことのある言葉をもう一度伝えると、ほの暗い影の中で、彼女はふっと微笑んだ。
「Mulder？」
彼女が小さな声で僕の名を呼んだ。
彼女の声は掠れ、誘うような響きに震えていて、僕は初めて聞くその声音にぞくっとした。
「なんだい？」
「証拠を見せて。」
僕は腕を伸ばして、彼女の背中をそっとベッドに押しつけた。
彼女の体の上に覆いかぶさりながら自分の体をずらすと、僕はそのまま、彼女に問いかけるように、その瞳の奥をじっと見つめた。
彼女が本当に、最後の一線を越えるつもりなのか、確信が欲しい。
彼女は口元をほころばせると、ゆっくりと舌をのぞかせて唇を湿らせた。
それが全てだ。僕にはもう、彼女しか見えない。
僕は彼女に口づけ、それから、その唇の隙間に割り込むように舌を差し入れた。
その時を待ちわびていたかのように、彼女が舌を絡め、僕の口の中に押し入ってくる。
Scullyの舌を唇でとらえて受け入れる−ただそれだけのことで、僕は気が変になってどうかしてしまいそうだった。
そして彼女は、押し殺した息の下から小さく喘いで、のどの奥で微かに声をあげた。
泣いているようにも聞こえるその声は、初めて聞くScullyの・・・いや、女性がこんな声をあげるのを、僕は初めて聞いた。
だが、僕の耳の方はどうあれ、僕の下半身は、その声に直接反応していた。
すでに疼いてこわばっていたその部分は、一気に硬く張りつめて緊急事態を宣言した。
僕は、Scullyの胸に手を滑らせてから、そのまま背中にまわし、手探りでブラのホックはずすと、その小さな邪魔物を床に放りなげた。
そして、彼女の乳房の輪郭をなぞりながら、指先を這わせていった。
中心に向かって小さな円を描きながら、なだらかな稜線を愛おしみつつ頂に近づくと、かすかに色づき緊張したように固くなっている先端を、指の腹で擦って捏ねあげる。
そのあと、同じプロセスを唇で繰り返した。
唇から舌を突き出し、くすぐるように踊らせると、Scullyはまた‘あの’甘い声で僕を誘った。僕は、口を大きく開け、片方の乳房を頬ばると、音を立てて吸い上げたあと、もう片方にも唇を寄せた。
そして僕は、あちこちに口づけながら、少しずつ下の方に移動していった。
もっと彼女を・・・彼女の全てを味わいたかった。
ところが彼女が、僕を止めて言った。
「やめて、Mulder」
僕はビクっとして、我にかえった。
その瞬間、僕は、Scullyがカトリックであることを思い出した。もしかして宗教上の理由だろうか。
それとも・・・彼女が昔つきあっていた男は、僕の知る限りふたりだけだけど、どう見ても彼女よりずっと年上だったから・・・宗教上の理由というより、彼らには彼らの事情があったのかもしれない、年が年だし、そういう年齢的な事情とか。
「いやなの？」
「あなたを見ていたいの。あなたの目を見つめて、あなたの顔にキスしたい。」彼女は静かにそう言った。
「今度、して・・・」
『今度』
僕は、その言葉の意味を噛みしめた。
僕たちには未来がある。
これは一夜限りの刹那的なつながりじゃないんだ。
ずっと何年も、僕は、Scullyとこんな風になることを夢に見てきた。
だが、その夢の中で思い描く僕たちの姿は、なぜかいつも“この世の終わり”を暗示するような妄想の中にあり、僕たちは恐怖の中で抱き合っていた。
エイリアンに侵略された世界。窓の外には吼え荒ぶ狼男の群れ。そして僕は死の淵をさまよっている・・・あるいは彼女が。
「そうだね。」
僕はそっと囁き、唇で辿りながら元の場所に戻ると、もう一度彼女に口づけた。
心ゆくまでキスを交わしながら、僕は自分の指を彼女の脚の間に滑り込ませた。
そしてその柔らかな感触を愛おしみながら指先を押しつけると、彼女は息を呑んで、小さな悲鳴にも似た喘ぎ声を洩らした。
「Mulder、もうだめ・・・そんなの・・・だめよ。あなたがいいの、あなたが・・・中に来て、お願い！」
僕は黙って頷くと、自分でショーツを脱ぎ、それから、僕たちを隔てていた最後の一枚を、彼女から剥ぎ取った。
彼女が自ら広げた脚の間に自分の膝を割り入れたあと、腿の内側を辿り、僕自身の先端で探り当てたそこは、温かく潤っていて、僕はその感触を時間をかけて確かめ、そして、ゆっくりと押し入った。
「あぁ・・・！Scully・・・きついよ・・・君はすごく・・・」
僕はそっと押しつけた後、じわじわと腰をすすめながらも、押しつぶされそうなほどの感覚に耐えきれず、獣のようなうなり声をあげて、乱れた息の間からそう呟いた。
「Mulder、わたし・・・ずっと・・・」
「大丈夫？痛いなら・・・もうやめよう。」
「いいの、平気よ。このままで・・・ゆっくりしてね。」
彼女の体の奥を探るように突いたあと、わずかに退いてはもう一度貫く。幾度もそれを繰り返し、彼女が少しずつ馴れてくると、ふたりの呼吸が重なった。僕はそのリズムを崩さないように、焦らずゆっくりと腰を動かした。
Scullyが僕を見上げて微笑む。
そして、熱にうかされたように、僕にすがりつき、唇を押し当ててきた。
彼女の手は、僕の顔を撫でたかと思うと、腕から肩を通って背中に爪を立て、今度は胸の上でその指先を遊ばせる。そして僕の腰をつかみ、大腿をさすった。
そうしている間にも、彼女は、自分が届く範囲のあらゆる場所にキスを繰り返し、歯を立てて、かじりついてきた。
彼女がこの瞬間を楽しんでいることは嬉しいけれど、だけど僕だって、彼女が今してるみたいに、もっといろいろ楽しんだっていいんじゃないだろうか？
ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。
それで僕は、彼女を深々と貫いたまま、体勢を入れ替えた。
彼女を上にして、そして僕は、まだ触れられていない彼女の身体のすべてを自分のものにする・・・という企みは、しかし、思いもかけない結果を引き起こした。
彼女を抱いたまま仰向けになり、もう一度馴染ませるように、小さくひとつだけ突き上げると、その瞬間、Scullyの体がショックを受けたように大きくしなって硬直した。
いま・・・！ああ、Scullyが・・・！
彼女の内側がびくびくと痙攣して震え、もっと奥に呑み込もうとするかのように、僕自身を締めつけた。そして彼女は僕の名を叫んでいた。
やがて、吹き荒れていた嵐がおさまるように、なんとか呼吸を取り戻し、意識がはっきりしてくると、彼女はびっくりしたような目で僕を見つめた。
「こんなことって、Mulder！こんなことがあるなんて・・・！」
僕はずっと、彼女からこの言葉を聞きたかったんだ。
彼女のこの言葉を聞くことが、僕の７年間の夢だったと言ってもいい。
エイリアンの宇宙船や野人を見せても、彼女にこの言葉を言わせることはできなかった。
だけど今、僕に抱かれた彼女は・・・その言葉を口にした。
僕は彼女に笑いかけ、さらに腰を動かして突きあげると、溜まっていた熱が一気に溢れ出し、僕はそのまま彼女の中で果てた。
頭の中が真っ白になって、まるで衝突事故にでもあったような衝撃だった。
しばらくして−僕にはまるで何時間も経ったような気がしたが−ようやく目を開けられるようになると、Scullyが僕を見つめて微笑んでいた。
「愛してるわ。」彼女は、そう囁くと、体をずらして僕の体に抱きついたまま、胸の上に頭をのせた。
「僕も・・・君を愛してる。」
僕は辛うじて、それだけを言葉にできた。
僕は、体の芯に残った火照りを感じながら、彼女と抱き合ったままその余韻を楽しんでいたくて、頑張って目を開けていようとしたのだが・・・睡魔に襲われ、気を失うように眠りの中に引きずり込まれていった。
***
翌朝、僕はまだ夢の中にいるようで、いまだかつて経験したことのない幸福な気持ちで目覚めた。
僕は幸せの理由を思い出し、ほおが緩むのを感じながら、Scullyの方に腕を伸ばした。
ところが、そこに彼女の姿はなかった。
「Scully？」
僕はバスルームをのぞき、そして彼女の名を呼んだ。
返事がない。
リビングルームに行くと、昨日の夜使ったティーカップの隣に、僕宛てのメモが立てかけてあった。
僕はそれを開いて、読んだ。
“こどもみたいに眠っているあなたを起こすのは忍びないので、このまま仕事に出かけることにします。またオフィスで。Love,
Dana”
これは、正直言って僕の望んでいたこととは違う。
僕は、彼女を自分の腕の中に抱いたまま目覚めたかったのに！
だが、さっき彼女がいないことに気づいたとき脳裏をよぎった恐ろしい予感よりは、いい。
この文面を見るかぎり、彼女が昨晩のことはあやまちだったと後悔しているとは言えないし、名前の上に“Love”って書いてあるじゃないか。
きっと、いいしるしなんだ・・・と思いたい。
その日、僕は１０時過ぎになってようやくオフィスに着いた。
途中寄るところがあって、遅くなってしまったのだ。
Scullyはデスクの前に座って、ファイルの整理をしていた。
「Hi」
彼女は、すこし恥ずかしそうに微笑んで、甘い笑顔のままそう言った。
「おはよう。」僕はいつも通りの落ち着いた声で答える。
そして、（万が一この部屋が盗聴されているかもしれないということを考えて）彼女に近づき、耳元で囁いた。
「起こしてくれればよかったのに。」
「手榴弾を持っていれば起こせたかもしれないわね、Mulder。あなたってば、ぐっすり寝込んじゃってて、揺すったくらいじゃ起きなかったと思うわ。時差ぼけでしょうけど。」
「時差ぼけじゃないよ、Dr. Scully。後絶頂型昏睡って言うのさ。」
彼女の頬が赤く染まり、彼女は口の中でもぐもぐ呟いた。
「そうかもしれないけど・・・」
「何か言いたいことがあるんじゃないのか？」僕は訊いた。
「ええ。でもここじゃだめ。ちょっと外に出ましょう。」
僕はうなずいた。
たった今ドアを開けてオフィスに入ったばかりだけど・・・すぐに飛び出して行くなんてことは、僕のふだんの行動からして珍しいことではないし、べつに怪しまれることはないだろう。
僕達はしばらく歩いて、公園のベンチに腰掛けた。
ここにきて僕は、急に不安になった。
「Scully、どうかしたのか？」僕は訊いた。
どうか、どうか、彼女が昨夜のことはなかったことにしましょう、なんて言いませんように！
僕は祈った。
誰に祈ればいい？・・・キリストか、仏陀か・・・だれでもいい、誰かこの祈りをきいてくれ！
「わからないの、Mulder」彼女は静かに話し始めた。
「朝起きたとき、私・・・なんだかおかしかったの。」
「どうしよう！Scully、ぼくのせいなんだね？」
「違うわ」彼女は首を振って答えた。声の調子は変わらない。
「私も、最初は・・・昨晩のことのせいで・・・痛むのかと思ったの。昨日も言ったけど、ずっと・・してなかったことだし・・・それにあなたったら・・・すごいんだもの、Mulder」
僕はその言葉を聞いて一瞬笑って見せたが、すぐに当面の重要問題を思い出して真顔になり、彼女に尋ねた。
「じゃあ、どうしたんだ？Scully」
「Mulder、‘mittelschmerz’という言葉を知ってる？」
僕は、しばらく黙ったままで記憶の中から、その言葉の意味を探した。
女性の身体とか機能に関することだったような気がするが、定かでない・・・
「排卵・・・かな」僕は訊いてみた。
「正確には、そうじゃなくて」と、彼女がゆっくりと口を開いた。
「ドイツ語で‘middle
pain’っていう意味なのよ。排卵時に伴う疼痛で、そんなに長くは続かないんだけど、強い痛みを感じることがあるの。たいていの場合、朝起きてすぐに痛んだりするんだけど、まったくそれを感じない女性の方が多いわ。でも、私にはずっと・・・痛みがあったのに・・・それが、あのアブダクション以降は、なにも感じなくなってた。あれから月経周期も乱れていて・・・たぶん無排卵月経だったし。でも今朝ね、この５年で初めて私・・・痛みを感じたのよ。」
「Scully、そんなことありうるのか？君が・・・元の身体に戻ることが・・・？」
彼女は、ふぅっと息を吐き出すと、かすかに微笑んで見せた。
「一週間前の私だったら、きっと否定したに違いないわ。でも、この数日の間に起きたことが・・・それを考えると・・・私、わからない。あなたは？そうだったらいいと思う？」
僕は深く息を吸い込んで、これから言おうとすることが正しい答えであるよう、秘かに祈った。
「Scully、この数年の間に僕たちは、何度も恐ろしい事件に巻き込まれ、ひどい目に遭ってきた。ふつうなら考えられないような苦痛や失望もあった。妹がいなくなったのはずっと昔のことだけど、君と出会ってからのことを考えても、君はお姉さんを失い、お父さんも亡くなってる。僕は両親を亡くしたし、それに僕たちはお互いを失いかけたことだってある・・・それも１度や２度じゃない。だけど今、もし僕達の運命を変えられるとしたら、僕はたったひとつ・・・ひとつだけでいいんだ・・・君を元の身体にもどしてやりたい。僕の妹を奪った奴らは、僕の父を殺し、Melissaまで殺した・・・僕たちから懐かしい「過去」を奪っていったんだ。しかも、それだけじゃ飽きたらずに、君の体をめちゃくちゃにして・・・僕たちから「未来」まで盗んでいった。僕たちには、自分たちの子どもを望むことも許されないのか？君がいつか言っていたような“普通の暮らし”は、僕たちには夢でしかないのか？・・・そう、だから僕の答えは‘Yes’だ。君が感じた・・・それが本当だったら、と心から思
う。どんなことよりも、それが真実であってほしい。」
Scullyの瞳から涙が溢れた。
だが、その涙の向こうで、彼女は穏やかに微笑んでいた。
なにも言わず、彼女は僕の腕の中に体を預け、そして僕を見上げてそっとキスをした。
きっと、僕の言ったことは間違っていなかったんだ。
僕はそのまま彼女が落ち着くのを待った。
そして、彼女が泣きやむと、僕はポケットから箱を取り出した。
「なあに？」
「今朝、これを取りに寄り道してきたんだ。君に渡そうと思って・・・でも、その前にこれがどういうものなのか、僕の話を聞いてほしいんだ。」
「またキーホルダーをくれるの？箱の大きさが、ちょうどそういう感じだもの。」彼女が笑顔を見せて言った。
「ちがうよ、Scully。キーホルダーじゃないんだ。さあ、お話を始めてもいいかい？」
「ええ、いいわ、Mulder。」
僕は彼女に笑いかけ、そして話し始めた。
「子供の頃、僕は祖父母とすごく仲がよかったんだ。Samanthaもね。僕たち兄妹は、両親よりも祖父母から、愛されている実感とか家族の絆を教えてもらったような気がする。祖父は、Samanthaが・・・いなくなった年の夏に亡くなった。これは事件じゃないよ、祖父は年老いて・・・天寿を全うしたんだ。そして、Samanthaと祖父がいなくなった年のクリスマス、僕の家では誰も何のお祝いもしなかった。だけど、クリスマスの日の朝、祖母がやって来た。それで僕に、ふたりとも世界で一番大切な人を失ってしまったね、って言ったんだ。それから、自分の指から婚約指輪をはずして、僕の手にのせた。昔、祖父から贈られた大切な指輪だ。そしてこう言った−Samanthaが帰ってきたら、この指輪を渡してあげなさい。もし、いつまでも帰ってこなかったら・・・僕がSamanthaより愛することになる女性に贈りなさい−ってね。」
「おばあさんの婚約指輪・・・。１２歳の男の子にそのプレゼントの意味がわかるのかしら・・・」Scullyがつぶやいた。
「そう、そのときの僕にはわからなかった。」僕はうなずいて言った。
「それで僕は、タンスのひきだしにしまって、そのまま何年も忘れたままでいたんだ。ある夏、僕はOxfordから帰省していて、ふと指輪のことを思い出し、ようやくその意味がわかったんだ。どれだけ大切な、価値のあるものかって。それで、僕は銀行に貸金庫を借りて預けておくことにした。ただ、そのあとも、毎年手数料を払い続けていただけで、仕事に追われていたし、指輪のことを考える余裕なんてなかった。それが、数週間前、母の家を売却するために片づけに行っていて、やっと気がついたんだ・・・。もう、Samanthaにあの指輪を渡してやる日がくることはないんだって・・・。僕はすぐにでも君に渡しに行きたかった。なのに僕にはその勇気がなくて、結局、こっちの銀行の貸金庫に移しかえて、その時が来るまで待とうって自分に言い聞かせた。それで、今朝・・・僕は、指輪をとりに行ってきたんだ。」
「Mulder、あなたの言葉の意味を・・・私、そのまま受け取っていいのね・・・？」Scullyが静かな声で、僕に訊ねた。
「もし君がまだ、この指輪を左手にはめたくないなら・・・僕は、ひとりで勝手に先走ってしまったのかもしれないから・・・右手にはめていてくれればいいんだ。いや、ちがうな、持って帰ってドレッサーのひきだしにでも入れておいてくれればいい。でも、この指輪は君のものだ、Scully。もともと僕のものじゃないし・・・僕は祖母から、Samanthaが帰ってくるか、誰か他にこの指輪にふさわしい女性が現れるまで持っているようにって預かっていただけなんだから。そして、Samanthaはもういない・・・だから、これは君のものなんだ。」
「Muldeｒ」彼女が口を開いた。
「その大切な指輪にふさわしいと思うところに・・・あなたがはめて。」
彼女は、僕の方に手を伸ばしながら言った。
そして僕は、彼女が差し出した左手をとった。
end
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