DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : Work and Play

作：Angela Wardさん　　訳：bagpiperさん

「くそ！ふざけるなよ！」
Special Agent Fox Mulderは、検視結果の報告書に目を通したあと、いきなり喚きだした。

「あの能なし、こんなド田舎で’検死官’づらしてるくせに、言われたとおりの検査もできないのか？F.B.I.に特別捜査チームをよこせなんて要請しておきながら、殺人犯の素性を割り出すための証拠も集められないなんて、一体どういうことなんだ！」

Mulderは足下にあったゴミ箱を、思いっきり蹴り上げた。

「まるっきり”Spooky”モードだな、あれは。」Tom Coltonが聞こえよがしに言った。

「Colton、チーフにはいろいろ苦労があるんだからな。」Agent Guilbeauがたしなめるように言った。
「お前も、少しはまともなことを思いついてから口を開けよ。」

「あ、僕思いつきました。」Special Agent Andrew Chanが、うれしそうに口を挟んだ。
「ボスが信用できるような解剖医をつれてくればいいんじゃないですか。」

* * * * * * *

その日の午後遅く、Mulderは検死官のラボに飛び込んでくるなり、怒鳴り散らした。

「被害者を解剖するやつは誰だ？これ以上事態を悪化させたら、ただじゃおかないからな！」

「ご心配なく。」
彼の肩越しに、柔らかな声がそっけなく答えた。

「Scully！？！」Mulderは、びっくりして振り向き、妻の顔を見つめた。
「こんなところで何してるんだ？」

「Skinnerが電話を・・・電話を何本も、あなたのチームのメンバーからもらったらしいわ。所轄のラボじゃ埒があかなくて、捜査が滞ってしまっているから、できれば本部から解剖医を派遣してもらえないかって、Skinnerに頼み込んだんですって。」

「解剖のおかげか。だから解剖って好きさ！」
Mulderは腕の中に妻を引き寄せながらつぶやいた。
１０秒前とは人が変わったみたいに穏やかな気持ちになって、さっきまでの自分が嘘のようだ。
１分前までは、殺人すら犯しかねないほど、まさに’殺気立って’いたのに。
今の彼は、それとは正反対に、子犬がじゃれつくみたいにうきうきして楽しそうにみえる。

「なに言ってるんだか、Mulder。」Scullyが体をすり寄せて、言った。
「私は、解剖なんて別に好きじゃないわよ。私が好きなのは、あなただもの。」

Mulderは、かがみ込んで顔を近づけ、彼女に口づけた。
離れていた時間を埋めるように、ゆっくりと唇の感触を確かめてから、すこしずつキスを深めていく。
息が苦しくなって唇を離すと、彼は手のひらで彼女の顔を包み込んで、ちいさなキスを散らしながら囁いた。
「会いたかった。」

「ええ、わたしも。」

Mulderは、そのまま両手を彼女の腰まですべらせて、彼女を持ち上げると、近くの台の上に座らせた。
「君が欲しい。ここで。今すぐ。」

「Mulder、だめよ。」

「大丈夫だよ、Scully」
大きめの手術着の下に手を差し入れて、彼女の胸をまさぐりながら、彼が言う。

「Fox、だめだってば！赤ちゃんが・・・ね・・・」

あ、そうだった！
Mulderは、動かしていた手を止めて、Scullyのおでこに自分の額をくっつけた。
赤ちゃん・・・ふたりが、願ってやまなかった奇跡。
Scullyが現場の捜査を離れ、Quanticoに戻ったのもそれが理由だったんだ・・・

「ごめん、Dana。一瞬忘れただけだから・・・。ドクターがやめなさいって言ったの？」

あーあ！
彼は心の中で思った。
Scullyは、もうすぐ妊娠５ヶ月になる。
今からドクターストップなら、たぶん出産後も６週間はだめだろうから、あと半年は冷たいシャワーが僕の友ってことになるんだ。
でも、それとひきかえに得られるものの価値を考えてみろよ、と彼は自分に言い聞かせた。
今までこんなに幸せそうなScullyを見たことはない。赤ちゃんができたと分かってから数ヶ月というもの、彼女は文字通り光り輝いて見える。
しかも。
我慢するってことなら、６ヶ月どころの話じゃない・・・何年も何年も想い続けて、待ちこがれていたときのことを思い出してみればいいんだ。

「正確に言えば、やめなさいとは言われなかったわ、Mulder、でも注意してくださいね、って。彼女が具体的に言ったわけじゃないけど、それってたぶん、こんなところでしちゃいけませんよ、って意味だと思うわ。ベッドで・・・ね、Mulder。広いベッドと、柔らかい枕がたくさんなくっちゃ！」

「わかった・・・」

「じゃあ、解剖にとりかかってよろしいかしら？早く始めれば、それだけ早く終わるもの。」

「それでこそ、僕のScullyだ」彼がつぶやいた。
「常に理性的・・・」

「理性？とんでもないわ！」彼の首にかじりつきながら、彼女が答えた。
「さっさとお仕事を終わって、ホテルに戻りたいだけよ！」

「君、僕のことを誘ってるの？Scully」

Scullyは、”ふんっ”というような声を出した。
Mulderはそれを聞いて、思わず笑ってしまった。その声は、彼女がそそられているときの証拠だから。
彼女の頭を傾けて、その瞳を見つめながら言った。
「愛してる。」

「わたしもよ、Mulder」

ふたりは名残惜しげにキスを交わし、そして彼はしぶしぶ腕をほどいた。

「下の階の取調室が捜査本部になってるんだ。僕はそこにいるから。わかったことがあったら来てくれ。何かあればいつでも呼んでくれてかまわないし。」

「わかったわ。じゃあ、もう行ってちょうだい、Mulder。仕事に集中したいから。」

* * * * * * *

数時間後、Scullyは心地よくしぶきをあげる、温かなシャワーの下にいた。
かちかちに強張った筋肉を、お湯がゆっくりと癒すようにほぐしてくれる。
もちろんMulderがいれば、あの大きくて素敵な手で、やさしく背中をマッサージしてくれるのだけど・・・

シャワーをとめて出ようとしたとき、部屋のドアが開く音がきこえた。

「Scully？いるのか？」

「ここよ、Mulder」彼女はそう答えたものの、彼が捜査チームのメンバーと一緒かどうか不安になった。
だって、お腹の大きくなってきたこの体を隠すものが、ホテルのタオルしか見あたらないんだもの！

「入ってもいい？」

「すぐ出るわ。」
彼女は、ドアの隙間から頭だけのぞかせて、彼のほかには誰もいないことを確かめると、バスルームから出てきた。

Mulderは、低い声でオオカミの遠吠えのような声をまねた。

「ちょっと待ってね、なにか着るから。」

「だめ、着させないよ。なあ、そのままでいてくれよ。」

「Mul-der！」軽くにらんだような顔をして、彼女が言った。

「Scully、もし君がその気になれないんだったら、無理しなくていいんだよ。今日は疲れただろう？だけど君を見てるくらい、いいだろう？な？」

「じゃあね、条件があるわ。」
彼女はタオルを床に落として、ベッドにゆっくり近づきながら言った。

「いいよ、なに？」

「あなたも、よ。あなたが服を着てるのに、私だけなんていやよ。ハーレムの女じゃあるまいし。私が服を着ないなら、あなたもね。それが対等なパートナーってものじゃないかしら、ね？Mulder」

Mulderはすぐにうなずいて、着ていたものを脱ぎ、ヘザーグレーのボクサーショーツだけになってからベッドにあがり、彼女のそばに寄ろうとした。

「私は裸なのよ、Mulder」彼女がそれを押しとどめるように言った。
「あなたも、って言ってるでしょ？」

「うーん、ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」彼が小さな声で言いながらショーツを取り去ると、既に逞しく勃ちあがったものが顕わになった。

「恥ずかしいってなにが？Mulder。だって、これ・・・」彼女は手を伸ばして、指先をそっと絡めながら言った。
「男の人なら、自慢しちゃうようなことでしょう？」

「いや、だけど僕が考えてるのはこれだけなのか、なんて君に思われたくないんだよ。」

Scullyは笑いながら、小さな瓶を彼に手渡した。

「はい。これをね、お腹と腿に塗って欲しいの。妊娠線が出るのを予防してくれるんですって。」

Mulderは瓶の中に指を入れて、クリームを妻の体に擦りこんでいった。
まんべんなくゆっくりと手を動かす。

「きれいだ・・・君はとっても。」彼がささやいた。

「ありがとう。誤解しないでほしいんだけど・・・私もそう思うの。前は自分の体なんて好きになれないって思ってたのに、でも今はね、鏡に映った自分の・・・肌も輝いて見えるし、お腹が大きくなって・・・私たちの赤ちゃんがいるんだわって思ったら・・・きれいって思っちゃった。」

「そう、本当にきれいだ。前からきれいだったけどね。でも、ますますきれいになったよ。」

Mulderが、彼女のおなかを撫でていると、微かな振動が手のひらに伝わった。
彼は驚き、目を見開いて妻を見つめた。

「Dana？今、赤ちゃんが・・・お腹を蹴ったの？」

「そうよ。」彼女がにっこりして答えた。

まったく思いがけず、Mulderの眼に涙がこみ上げてきた。

「Dana、なんて・・・ほんとになんて、すごいんだ！」

彼は、目をしばたいて、涙を隠した。

「そう、ね、Fox。泣いてもいいのに。私もすぐ泣きそうになっちゃうわ。だってすごく・・・神秘的で素晴らしいことだもの・・・」

「いや、もう大丈夫。」彼は呟きながら身をかがめると、彼女をいたわるように、そっとひとつキスを落とした。
「誰でも驚くんだろうけど、でも僕たちにとっては、もっと特別なことだと思うんだ。僕たちの今までのことを考えてみれば・・・信じられないよ！」

「あなたの言うとおりだと思うわ、Fox。・・・あの、その気がなくなったんだったら言ってね。私わかるもの、赤ちゃんが動くのを感じるのって、素敵なことだけど・・・あんまりエロティックじゃないでしょ。」

「そんなことない。ずっと君が恋しくてたまらなかったんだから。だけど、君のほうこそ・・・いやならいいんだ。赤ちゃんが心配なんじゃないの？」

「ううん、私もずっとあなたのことばかり考えてたんだから。私の言うとおりにしてくれたら、赤ちゃんも大丈夫だし、ね・・・」
子猫が甘えるような声で彼女が言った。

うわあ！
彼は、自分の中心が熱く疼くのを感じた。
Scullyの言いなりになるなんて！

「まずどうすればいいのかな？」

「ヘッドボードにもたれて座ってくれる？脚はこっちよ。」

彼がその通りにすると、彼女は彼の上に跨って脚の上に腰を下ろし、目線を合わせた。

「じゃ、キスして。」

ふたりは心ゆくまでキスをした。
唇を重ねてキスを交わしたあと、彼はその唇をずらして、彼女の素肌に口づける。
首に、肩に、そしてまぶたに。口元を掠める感触を愛おしみながら、彼女の乳房を唇でとらえた。
彼女の手が、彼の体の上を滑るようにさまよう。背中から胸をさすり、そして顔をなぞってから、腕を撫で下ろした。
ようやく口を開いて、彼女が言った。
「Fox、私、もう・・・」

「了解、次の指示を待つ。」

彼のふざけた口調を聞くと、彼女は声を立ててくすくす笑いだし、彼の首の付け根に軽く歯を立てた。

「腰を持ってて。・・・それで、ちょっと手伝ってね。」

「うん！」

Danaが片手を添えて彼自身を入り口にあてがい、お互いの熱を確かめ合う。
そしてもう片方の腕を、彼の広い肩にまわして体重を支えると、彼女はそろそろと腰を沈めていった。

「・・・ああ、やだわ！Mulder！わたし・・・わたし、だめになっちゃう！」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女は、あっけなく達してしまった。
彼にしがみついて身を震わせながら、熱い吐息を洩らした。

しばらくして、彼女は目を開けて、はにかんだように彼に笑いかけた。
磁器のような頬が、薄く紅色に染まっている。

「ああ、びっくりした！すごくよかったの・・・でもなんだか恥ずかしい・・・だって、こういうのって・・・男の人だったら大問題になるでしょ？」

彼は軽く笑いながら答えた。
「たいした問題でもないよ、Dana。だけど、こんな風になったの、はじめてだろう・・・妊娠してることと関係があるのかな、それとも僕と離れて寂しかったせい？」

「ちょっとずつ両方とも、かしらね、たぶん。」

Mulderは、彼女の内側に残った静かな余波を惜しむように、ゆっくりと動いた。
手を絡ませて、腕に力をこめると、そっと彼女の躰を揺らす。
少しでも長く、彼女の中で、彼女を感じていたい。つかの間の別離が彼を熱くしていた。
ぎりぎりまで追いこまれ、最後の瞬間がそこまで近づいてきたのを感じると、彼女の腰をつかんで強く引きつけ、わずかの隙間も許さないほどきつく繋ぎとめた。

Scullyは微笑みながら、彼をじっと見つめる。
その瞳の色が幾重にも移ろい、やがて彼は、のどの奥で低く叫ぶような声を出しながら、彼女の中で果てた。
そして彼女は、彼の体から降りて横になり、彼の胸に腕を回してつぶやいた。

「愛してるわ。」

「僕もだ。愛してる。」

ふたりは、そっと唇を合わせてキスを交わす。
ふと、Mulderが口を開いた。

「おなかは空いてない？ルームサービスでも頼もうか。そうだ、ホテルに帰ってきたら君を食事に連れて行ってあげようと思っていたのに、君がシャワーなんか浴びてたものだから・・・もう・・・」
そして、彼はにやっとして言った。
「頭が真っ白になっちゃったんだよね。」

「ううん、ありがとう。でもお腹は空いてないのよ。」

「ちゃんと食べなきゃだめだよ、Scully」

「今は眠いの。それにちゃんと食べてたのよ。あなたがいない間も、母が食事を作ってくれて家に招んでくれたし、そうそう、三人組も一度食事に連れて行ってくれたのよ。それより、ずっとよく眠れなくて・・・」

「僕もだ。医者としては、不眠症は伝染性だって説明できるわけ？」

「Mulder、そんなこと言い出したら、私たちの間ではなんでも伝染性になっちゃうわ。妄想も信仰も夢も、ひまわりの種大好き症候群も・・・なんでもよ！」

「三人とはどこに行ったの？あいつら最近はどうしてるんだ？」

「Red Lobsterに連れて行ってくれたの、みんな元気そうだったわ。Langleyは神経質になってたけど。」

「Langleyならいつも神経質じゃないか。僕以上にパラノイアの症状が進んでるくらいだ。」

「というより、妊娠した女性がそばにいるってことに神経質になってたみたいよ。なんだかレストランで、すぐにでも赤ちゃんが出てくるんじゃないかってビクビクしてるの。まだ何ヶ月も先の話なのにね。」

Mulderは小さく笑った。
「Byersはどうしてた？」

「彼ってほんとにいい人ね。ほら、彼にはたくさん姉妹がいて、妊娠中のこともよくわかってるから、いろいろな話を詳しく聞かせてくれたわ。」

「Frohikeは？」

「ああ、もう大好き！たぶん彼って、おじいちゃんか何かになるような気になってるのよ。それでね、」彼女は言葉を切って、あくびをした。
「私たちふたりのためにベビーシャワーをしてくれるって。」

「ベビーシャワーって女の人だけでやるものだろ？」

「最近はそうでもないみたいよ。ふたりでカップルシャワーっていうのもいいんじゃないの。」

「Skinnerも呼んでいいのかな？」

「いいと思うけど、どうして？」

「もしもの場合に備えて、写真を撮っておこうと思ってさ。何かあったら、局内報に写真を載せてもいいんですか、って脅すんだ。『A.D. Skinnerベビーシャワーに乱入』という見出しでさ。」

Scullyは声を立てて笑った。
「あなたったら、ほんとに変なひと。」

「君、今ごろ気がついたの？Scully」

彼女はだまって目を閉じると、もう一度彼をぎゅっと抱きしめた。
よその町の、慣れないホテルにいるけれど、彼の腕の中にいる。一番安心できる場所にいる。
ここが彼女の家だ。

* * * * * * *

翌朝、Mulderは目が覚めると、自然と顔がほころんでしまうのを抑えられなかった。
気力も充実して、捜査もうまくいくような気がした。
Scullyを腕に抱いたまま目覚め、そしてふたりで一緒に捜査をするんだ！
こんなにしあわせなことって、他にあるかな？

「どこに行くの？」彼がベッドから抜け出すと、彼女が眠そうな声でつぶやいた。

「ちょっと走ってくる。君はまだ寝てて。」

１時間後。
Mulderは、ひげを剃り、シャワーも浴びて、すっきりと爽やかな顔で、ホテルのダイニングルームに降りていき、チームのメンバーと合流した。

「おい、Spooky、そういうすっきりした顔でにやにやしてるってことは、普通の男だったら、女と寝たんだろう、と言いたいところだけど、おまえの場合、完璧な検視結果を手に入れられたっていうのが理由なんだろうな。」Coltonが話しかけてきた。

「いや、両方なんじゃないですか。」Chanがぼそっと言った。
「しかも、おそらく同一人物によるものと推測できるんですけど・・・」

「なあ、Chan」Mulderが言った。
「君のデータ分析の手法は、僕も非常に評価しているんだが、その能力は捜査のためのものだと思うんだ。僕の私生活を、あれこれ分析したら許さないからな。」

もちろん本気で怒ってなどいない。
実際、この若い捜査官の観察眼にはキラッと光るセンスがある。
この数ヶ月一緒に仕事をしてきて、MulderはChanにとって、いわば師匠というか兄貴分のような存在になっていた。

「いつこちらにいらしたんですか？」Chanが訊いた。

「誰の話をしてるんだよ？」Coltonが横からたずねる。

「私のことでしょう。」と言いながら、ScullyがMulderの隣の席にすべり込んできた。

「まだ寝ていてもよかったのに。」Mulderが言った。

「ええ、でも私もご一緒して、心理学者さんが科学者のデータを読んでわからなくなったら、横から教えてあげた方がいいと思って。」

ウェイトレスが注文をとりにやってきたが、Scullyはスキムミルクだけを頼んだ。
こんなに朝早くから、食事はできそうにない。

ほかのメンバーも、それぞれ降りてきてテーブルに加わった。
皆、Scullyを見て一瞬驚きながらも、すぐに捜査チームの一員として当然の存在のように受け入れて、挨拶を交わした。
彼女は集まった捜査官たちに、分析結果の詳細を説明し、そこから推測しうる事実を述べた。

「なにかご質問は？」Scullyがきいた。

「あの、ひとつだけ。ただ捜査のこととは関係ないんですが、」
Briggsが言った。その場でただ一人の女性捜査官だ。

「いいわよ、どうぞ。」Scullyは言った。

きっと規律違反のことを言われるんだわ、と彼女は思った。
同じ捜査チームに夫婦が一緒に関わっていいんですか、とか。

「どうしてAgent Mulderの朝食を食べてしまわれたんですか？ご自分の分も注文して頂けばよろしかったのに。」

Scullyは、夫のお皿に目をやった。
もうパンくずしか残っていない。
何となく思い出したのだけど、しゃべっている間に手を伸ばして、トーストを一枚もらった気がする。
それに、ハッシュブラウンも。それから・・・サラダも。
つまり彼の朝食を全部食べてしまったということ・・・？

「あ、えーと、これには訳があって・・・」Scullyが言った。

「妊娠中でいらっしゃるからでしょう。」
Agent Guilbeauが優しい口調で言った。中年の黒人男性で、チームのメンバーの中で唯一の子持ちだ。

「子供たちが生まれる前は、私の妻もそうだったんですよ。朝起きてすぐは、食べ物を見るのもいやだって言うんです。妻になにか食べさせようと思ったら、私の食事を横からつまむようにさせるしかないんだということが、しばらくしたら分かってきましてね。まあ、そのおかげで私はダイエットもできましたよ！」

* * * * * * *

その日の午後、Scullyは昼寝をしていた。
ここのところずっと、彼女は疲れやすくなっていたのだが、Mulderとふたりで同じ場所にいられるという安心感が、彼女を癒してくれた。
そして気が抜けたのか、ウトウトして、いつの間にか寝入ってしまった。

Mulderは部屋に入ってきて、眠っている妻を見ると、立ったまましばらくためらっていた。

夫としての彼は、彼女の隣にもぐりこみ、彼女を抱き寄せて一緒にごろごろするか、そうじゃなかったら、せめて頬にそっとキスをして、そのままずっと眠らせておいてやりたかった。
だが、捜査官としての彼は、どうしても今すぐ、彼女の協力を必要としていた。

「Scully？」彼は囁き、指先で頬を撫でた。

「うぅん！後でね、ね？Mulder、愛してるわ。でも今はだめ・・・眠い・・・」

Mulderは笑いそうになりながら言った。
「そうじゃなくて、sweetheart。ちょっと一緒に資料を検討してほしいんだ。」

「・・・え？あっ！ごめんなさい！私ったら、遊びに来てるんじゃないのよね、仕事で来てるんだったわ。忘れてた。」
彼女は、身を起こして座り直すと、くしゃくしゃになった髪の毛をかきあげて耳にかけた。

「一緒にラボまで行ってもらえる？」

「ええ、ちょっと待ってて、すぐ来るわ。」

Mulderは彼女を待ちながら、身体中が興奮でゾクゾクするのを感じた。
この数週間忘れていたような仕事への情熱が復活し、捜査に対する意欲が湧きあがってくる。

Scullyはデータを何度も徹底的に見直し、詳細に検討した。
彼女とMulderは何時間も、いくつも推論を持ち出しては議論を重ねた。
その間、一回だけふたりが大声になったのは、彼のプロファイリングによれば、どうしても彼女の科学分析の結果とは矛盾してしまうという議論の最中だった。
真夜中になるころになって、ようやく、ふたりには事件の真相が見えてきた。
相手の目を見つめ合ったまま、ふたりにしか聞き取れないような声で言葉を交わしながら、お互いの考えを補強しつつ、ようやくたった一つの動かしがたい結論に到達した。

「これで、有罪に持ち込める証拠はそろったよな？」Mulderがたずねた。

「とりあえず令状請求はできるはずよ。だから逮捕の現場で他の証拠の捜索もすればいいわ。」彼女が答えた。
「被疑者の部屋に、被害者がいたっていう痕跡をひとかけらでも見つけられさえすればいいのよ。それが決め手になるはずだわ。」

「わかった。所轄の方に話を通してくるよ。この時間に令状を発付してくれる判事がいるのかも聞いてくる。それと・・・ChanとBriggsには、ヤツから絶対目を離すなって伝えておかなきゃ。」

「私は何をしたらいいの？」

「判事のところに令状を取りにいく前に、ホテルに寄ってあげるから、Scully。君はもう休まないと。」

「私も一緒にいくわ。」

「だめだ、Scully。危険すぎるよ。」

「Mulder、見損なわないで！私にとって危険なものは、あなたにだって危険ってことじゃない。」

「君が一緒にいたら、僕が危険にさらされる確率が高くなるんだよ、Scully」

「どういうことよ？」彼女は、疑わしげに片眉を上げてみせながら訊いた。

「Scully、じゃあ聞くけど、他の捜査官が撃たれそうになったら、通常どうすることになってる？」

「突き飛ばして、押し倒す。」

「君が撃たれそうになって、僕がそんなことできると思う？今の君の状態でってことだよ？僕は君の前に飛び出していくことしかできないよ。そしたら僕は撃たれるか、そうじゃなくても逆に相手を撃つかして、過剰防衛で懲罰委員会行きってことになるんだ。」

Scullyはため息をついた。
Mulderは正しい。そう、私たちにとって今一番大事なのは、赤ちゃんだ。

「論理で攻めてくるあなたって、大っ嫌い。」彼女が不満そうに言った。

Mulderは得意げな顔を彼女に向けようとして、彼女の瞳が涙であふれそうになっているのに気がつき、優しく微笑んでみせた。

「僕なら大丈夫、Dana」

「あなたを守れるのは私しかいないわ。」

「そうだよ、わかってる。・・・でも大丈夫だから。」

「危ないことはしないでね、Mulder」

「絶対にしない、約束する。」

「愛してるわ。」

「僕も愛してる、それから君もね、おちびさん」彼はそう言いながら、彼女の柔らかなお腹の上にそっと手をのせた。
「じゃあ、ふたりとも、ホテルに戻っていい子にしてるんだよ。」

「わかったわ、Daddy」Scullyは笑いながら答えた。

* * * * * * *

数日後、F.B.I.本部に戻ったMulderはチームのメンバーとミーティングを行った。

「この前の事件では、みんな本当によくやってくれた。」とMulderが言った。
「全員がそれぞれに力を出し合って、チームワークを発揮できたと思う。公判も滞りなく終了した。犯人はすでに連邦刑務所に収監されて、厳重警備の下にいる。二度と塀の外に出てくることはできないだろう。チーム全員のおかげだ、ありがとう、agents。」

「Agent Mulder、えーと、ちょっとお時間をいただけますか？」Agent Guilbeauが言った。
「これは我々全員の意見で・・・」

「聞かせてくれ、Guilbeau。何だろう？」

「Agent Scullyのことなのですが・・・」
Guilbeauはゆっくり話し始めたものの、どう先を続けるべきか考えあぐねているようだった。

「Agent Scullyの検視と分析結果がなければ、この事件の解決の糸口をつかむことは難しかったと思う。」
Mulderは、話を遮るように早口で言った。

もしチームのメンバーが、今回の捜査に、彼が自分の妻を同行させたことについて異議を唱えるのであれば、それは当然のことだろうし、そう言われてもしかたない。
しかし、どのような場合であっても、Scullyのプロフェッショナルな仕事に対する評価を傷つけるようなことだけは、絶対に許せない。

「それは我々もわかってます。ですから彼女に、このままずっとチームに加わっていただくことはできないのでしょうか？」Guilbeauがたずねた。
「それが無理なら、事件ごとにという形でも・・・。それなら今度また出張で捜査に出かけなければならないときには、一緒に来ていただけますよね？」

Mulderはびっくりした。
自分が想像していたのとはまったく逆のことを聞かされたからだ。

「君たちはみんな・・・彼女がチームに加わっても問題がないと？」

「問題？」Guilbeauが聞き返した。
「それどころか、素晴らしいことだと思ってます。彼女が２日もかからずにラボで見つけた手がかりを我々だけで見つけようとしたら、あと２週間は足を棒にして走り回らなければならなかったでしょう。この捜査チームにも、専属の科学捜査専門の捜査官が必要だと思いますし、それなら彼女がもっとも適任のはずです。それに、それだけじゃなくて、彼女が一緒の方が、あなたも、その・・・えーと・・・」

「Guilbeau、まわりくどい言い方するなよ、つまりこう言いたいんだろ？」Coltonが割って入るように言葉を差し挟むと、Mulderに向かって言った。
「お前は完全にイカレた役立たずだったってことだよ。あのとき俺達は特別チームからはずしてもらおうと思って離職願いまで書きかけたんだからな！ところが、あのAgent Scullyが合流したとたん、仕事に燃えて、しかもまともな人間らしくなったって話だろ。」

「何年も前のことだが、彼女が初めて僕のオフィスに来たときも、そうだったんだ。局内の異常者代表みたいに言われて要注意人物だった僕が、まあ人間らしく見られるようになったのは彼女のおかげだから。」

「それじゃ、また彼女とご一緒できるんですか？」Briggsがきいた。

「だが、同じ特別チームの中に夫婦が一緒にいるということになれば、いくつか問題も出てくるんじゃないかな。」

「ですが、ご結婚後も１年ほど、Xファイルで一緒に捜査をしていらしたんですよね？」Chanが指摘した。

「ああ。ただXファイルは独立捜査機関だったから、今回とは事情が違うと思うんだ。聞いてくれ、agents、僕もScullyにチームに加わってほしいし、彼女もそうしたいはずだと思う。だが、みんな、そうなった場合のことを考えてほしいんだ。おそらく僕は、ほかの誰よりもScullyの意見を尊重するだろうし、万が一、危険にさらされたときには、彼女の安全を優先させてしまうに違いない。そうすると、君たちにとっては不公平な状況が生まれることになるんじゃないか？」

「それもわかってますよ。」Guilbeauが言った。
「それでも、私たちは、彼女に来てもらいたいと思ってます。」

Mulderは笑顔になり、そして言った。
「では、こうしよう。僕は今夜、このことをScullyに話す。それで、もし君たちの中でこの件に関して疑問を持つ者がいるなら、２，３日中にSkinnerのオフィスに行ってそのことを伝えて欲しい。全員の同意を得られなければ、この話はなかったことにしよう。それから、誰がSkinnerに異議を申し立てたとしても、その捜査官の名前は、僕は絶対に聞かないことにするから。Skinnerとは今週末あたりに話しあうことになると思う。」

* * * * * * *

その日の夕方、Muderは早めに家に帰ってきた。
Scullyの車も、家の前にあった。
彼女は、最近Quanticoでの仕事を夕方前には終え、家に戻って休息をとることにしている。ハイリスクの妊娠中だということで、仕事の量も減らしているのだ。
Mulderは、抱えていた花束を、花瓶に生けた。
Scullyの声が聞こえないということは、まだお昼寝中なのだろう。

階段を上がっていくと、やっぱり彼女はベッドで休んでいた。
そして彼も、着ていた服を脱ぎ始めた。

「Mulder？あなた、何してるの？」Scullyは寝返りを打って彼を見上げ、眠そうな声でたずねた。

「局の規則を破ることにしたんだ。セクハラな上司になって、ある女性捜査官に手を出そうとしてるところさ。」

「あらま！どういうこと？」

彼女の隣に身を横たえながら、軽く笑った。
「君、僕のチームで一緒に仕事をしたかったら、僕と寝なさい。」

「どんなポジション？」

「赤ちゃんの負担にならないような姿勢ならなんでもいいよ・・・」

Scullyは、声を立てて笑い出した。
「そのポジションじゃないわよ、Fox！あなたのチームでどんなポジションをいただけるんですの？」

彼も笑いながら彼女の太腿に手を這わせた。
「証拠分析の担当官。実はこれ、チームのメンバーが言い出したことなんだよ。」

「ほんと？」

「うん。君の科学的観点からの分析能力ももちろんなんだけど、僕に対する影響力ってやつも見逃せないポイントだったみたいだな。彼らが言いたいことは、もうわかってるんだ・・・君がいなかったら、僕はなんにもできなかったってこと。」

「その言葉を聞くと、どきどきしちゃうわ。」

「どうして？」

「なんだか、また蜂に刺されて、目が覚めたら南極にいるんじゃないかって。まあ、そのこと自体は、Xファイルにいた私たちにしてみれば、たいしたことじゃないけど・・・あなたとキスしそこねたっていうのが、地団駄踏むほど悔しかったのよね・・・！」

Mulderは、ふっと笑うと、唇を近づけた。唇を重ねる寸前、彼は急に身を後ろに引いて叫んだ。
「痛っ！なにかに刺されたみたいだ！」

「やると思った。全然おもしろくないわよ、Mulder！」

Mulderはもう一度、唇を寄せて、今度は優しく彼女に口づけた。
息をするのも忘れてキスを交わした後、一瞬唇を離し、そして彼女はまた、すぐに彼の首をつかまえて引き寄せると、焦らすように口を開いて舌先を遊ばせた。彼も舌を突き出して先端を重ねると、ふたりはまたキスを深めていった。

「ポジションのことだけど・・・」しばらくして、彼女が小さな声で言った。

「証拠分析の担当官じゃ不満？」

「私が言ってるのは、そのポジションの話じゃないわ、Fox」甘えるような声で彼女が言った。

「なんだろう？気になるな。」

「そう？」彼女は、彼自身に指を絡めて弄びながら、たずねた。
「こちらはもう、’その気に’なってるみたいね・・・」

「Dana、そういうのやめてくれよ。じゃないと、君の手を汚してしまいそうだから・・・」

「あら、それは困るわ・・・少なくとも、今はね。もう少ししたら、それで我慢してもらうことになるかもしれないけど。できる間は、ちゃんと抱いて。」

「Day-na！」彼はのどの奥で呻き声をあげた。

彼女は横向きになると、彼に背を向けた。
「脚を下から持ってくれたら、あなたが・・・あぁ・・・そう・・・Fox・・・」

彼は、背中から彼女を抱きかかえると、ゆっくりと時間をかけて彼女を愛した。
あたたかな腕の中に彼女を閉じこめ、優しくゆりかごを揺らすように体を動かした。
手のひらを体のあちこちに滑らせながら、耳元で愛の言葉を囁くと、言葉にならないため息で彼女が答える。
燃えるような唇をうなじに押しつけて、首の線をなぞっていき、肩の先までキスで埋め尽くした。
彼女が少しずつ押し上げられるように昇りつめ、クライマックスに達すると、閉じた瞼の奥でいくつもの星が弾けて消えた。
彼女の内側が熱く脈を打って彼自身を包み込み、彼もまた、彼女に追いすがるようにして果てた。

そのあと、彼女は体の向きを変えて、彼の腕の中に顔を埋めると、眠りに落ちていった。
そして寝言のように、つぶやいた。
「そのポジション気に入ったわ・・・お給料くれなくてもいい・・・福利厚生の条件だけでじゅうぶん魅力的だもの・・・」