DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Return to Reality
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
Mulderの体がわずかに動いて、彼は目を開けた。
夢の中に迷いこんだのか、それとも夢から目覚めたのか？よくわからない・・・
Scullyが、彼の胸を枕にしたまま眠っている。曲げた膝を、彼の太腿のあいだに割り込ませて、ぴったりと寄り添っていた。
この２日間のできごとは、鮮明に思い出すことができる。
まず病院で目が覚めた。
どうして病院に運ばれたのかも、何が起きたのかもわからなかったが、記憶喪失ではない。
自分のことも、Scullyのことも憶えていたし、自分たちの仕事のことも言えた。Skinnerのことも答えられた。
ただ、近い過去のできごとが、彼の記憶から消えていたのだ。
Scullyによれば、この消えた過去のどこかで、自分たちの関係は方向転換したのだという。まさに彼が何年も夢見ていたとおりの方向に。
僕たちは、結婚してるんだ。
家に帰ってからの時間を、幸せな気分で思い出しながら、彼は下半身が甘く疼くのを感じた。
彼女の言うことなら、信じられる。Mulderは、彼女の言葉を疑うつもりはなかった。
しかし、それでもまだ、何かもやもやしたものが残っている。
Scullyが嘘をついているというよりは、なにか大切なことを言わずにいるのではないかという気がする。
最後のパズルピースを持っているのは彼女なのだろうか？
そうだとしても、彼女は自分のためを思ってそうしてくれているんだろう。
それは間違いない。
ふたりが結婚しているということ、さらにＸファイルが閉鎖されてパートナーも解消になったことを受け入れるだけでも精一杯だ。
しかも１０年近くもF.B.I.の面汚しみたいに貶められてきた自分が、いまさら局の'敏腕捜査官'扱いだなんて理解不能だ。
その上、ふたりで犬を飼って、家も買って。
・・・たしかにこれ以上のことを言われたらパニックになるかもしれないな。
Mulderは、妻の体をじっと見つめた。
Scullyは少し肉がついたのかもしれない。ちょっとお肉がついたほうが、かわいいくらいなものだけど・・・
'結婚する'前にも、彼女の裸を見てしまったことがある。だが、そのときの記憶よりも、彼女の胸は大きいように思えるし、しかもお腹が、前ほど平らじゃなくて、やや丸くなっているような気がする。
洋服を着ているときの彼女は、そうは見えなかったし、「太った」というほどのことではない。
だが、服を脱ぐと、わずかだが、明らかに何かが違った。
身体のほかの部分 - 腕とか足とかお尻は、前と変わらないのに・・・
Scullyが、彼の腕の中で身動きしたあと、彼の顔を見上げて微笑んだ。
「気分はどう？」
「いいよ。あ、でもちょっと、お腹がへったかな。」
彼女は、彼のおでこにキスをしながら言った。
「よかった。いい傾向よ。ちょっとバスルームに行ってくるけど、待っててね。そしたら下階におりて、なにか作るわ。」
Mulderは、彼女が裸のままでバスルームに消えていくのを、うっとり見送りながらも、内心では驚いていた。
まさかとは思うけど、Scullyっていつもこんなことをするんだろうか？
僕の前でも、平気でヌードのまま歩き回ったりして？
愛を交わすときの彼女が情熱的だったということには、実は、それほどびっくりしなかった。
彼女にはそういう面があるはずだと、ひそかに、ずっと思っていたから。
ただ、体を離してしまえば、あっという間に冷めて、また普段どおりのクールで慎み深い彼女に戻ってしまうものと決めこんでいたのだ。
彼女は、シャワーを浴びにいったのだろう、と彼は思った。
たいていの女の人は、情事のあとの残り香が身にまとわりつくのを嫌がるっていうし・・・
ところが、彼女はすぐに戻ってきて、ベッドの端にあったショーツと、床に落ちていた彼のTシャツを拾って身につけた。
「それ、僕のシャツだけど。」彼が指摘した。
「そうよ。愛し合った後は、いつもあなたのシャツを着たくなっちゃうの。ああ...でも、もしいやなら、やめるわ、脱い・・・」
「ちがうよ、あ、いや、全然いいんだ、Scully」彼は口ごもりながら言った。
どういうことなんだ！？
７年間もかけて描いてきた"僕の夢リスト"が、今日の午後だけで全て叶ってしまうんだろうか？
「それで僕は？別のシャツか何かを着ればいいのかな？」
「いつもは着せてあげないわ。」いたずらっぽい笑顔を見せて、彼女が答えた。
「あなたの裸の胸が好きだから。」
Mulderは、Scullyをもう一度ベッドに引きずりこみたい衝動と戦った。
だけど、３時間のあいだに３回も、なんて言い出して野獣みたいに思われるのもいやだし・・・それに本当にお腹もへってるし。
二人でキッチンに行くと、彼女がきいた。
「サンドイッチでいい？それとも、もっとちゃんとしたものを作った方がいいかしら。」
「サンドイッチがいいな。」
もしこれが、いつかSpenderの親父が演出して、FowleyとDeep
Throatが出てきたような薬物作用による幻想なら、あの肺ガン野郎は、演出の腕をあげたと言ってもいいだろう。
今回の幻想は、何年もかけて夢見てきたことが全て実現しているのだから。
"Scullyと結婚する"
彼の夢の中で、結婚というものがこれほど重要な意味を持ってくるなんて、昔なら考えられなかったことかもしれない。
たしかに、パートナーになってから最初の１年か２年くらいは、単なる妄想でしかなかった。
眠っている間にみる夢も、起きている間に見る夢も・・・夢といっても、ただ彼女を抱いてみたかっただけだ。
オフィスで、モーテルのベッドで、自分の部屋のカウチで、シャワーの中で・・・思いつく限りのロケーションの中で描いた妄想。
だがやがて、彼女と愛し合うという妄想よりもずっと強く、切実な「夢」を、ひそかに胸の中で育ててきた。
彼女と人生を共に歩みたい。人生のすべてを共有したい。
そして今、その願いが叶い、彼は夢見た人生の中にいる。
Scullyはつま先立ちになって、棚の一番上からグラスをとろうとした。
そのとき、Tシャツの裾があがって、ちらっとショーツがのぞいた。
彼は、ほとんど無意識に、シャツの下に手を忍ばせて、そっと腰をつかんだ。
彼女が面白そうな顔をして振り向き、かすかに眉を上げてみせると、彼は、はっとして手を離し、口の中で呟いた。
「ごめん。」
「なにが？」
「あ・・・いま君にしたことだよ。もうしないから・・・」
Scullyは、大きな目で彼を睨むと、彼の手をとって、もとの場所に戻した。
「Mulder、こんなのいつものことなんだから！あなたに触られるのが嫌いだったら、あなたと結婚なんてしてないと思わない？言っておきますけど、私は好きよ。」
サンドイッチとアイスティを用意して、テーブルについてから、彼が口を切った。
「それで、Scully、僕と結婚してよかったと思ってるの？」
「ええ、とっても。」彼女がにっこりして答えた。
「じゃあ、結婚してて、なにが一番きついこと？」
「'今'きつくなってることじゃなくて？」彼女は、下の方に視線を送りながらきいた。
「セクハラ発言は僕の担当なんだけど、Scully。・・・いや、そうじゃなくて真面目に答えて。いろいろ意見が対立したり、なにか言い争いをしたりってことはあるだろう？ふたりの間に'溝'が生じるようなこととか。」
Scullyは、しばらく黙って考えてみた。
「ほんとうに、正直いって何も思いつかないわ。私たち、最悪のことは経験し尽くしたんじゃないかしら。地獄の淵まで行ったけど、二人で生き延びてきたんだわ。それに、私たちは、結婚する前にお互いのことを知り尽くしてると思わない？だいたい、お互いの癖とか変わったところなんて、もう全部分かってることじゃない。今さら、あなたが無茶をしたくらいで、わたしが驚くわけないでしょう？たしかに、１ヶ月ちょっと前まではふたりでX-Filesにいたわけだし、捜査のことで意見が食い違うことなんて、昔からのことよね。でも、プライベートでってことなら・・・ねえ、Mulder、結婚して、私たちの関係で何か変化したことがあるとしたら、私は'正式に'あなたの５０億人の中のひとりになったってことと、一緒に眠るようになったことくらいじゃないかしら・・・ということは、私たちの間の'溝'って、埋まることはあっても深くなることはないんじゃないかと思うけど。」
「わかった、'溝'とか対立とかって言葉は、ちょっと大げさだったかもしれない。だけど、最低限決めとかないといけないようなことってあるだろう？大したことじゃなくても、ほら、たとえば・・・朝、どちらが先にシャワーを浴びるか、とかそういうことだよ。」
Scullyは、笑いながら彼を見た。
「シャワー問題なんてあっという間に解決よ、Mulder。一緒に使えばいいんじゃない。」
Mulderは、泡だらけになったScullyが自分と一緒にシャワーを浴びている姿を想像して、危うくうめき声を洩らしそうになり、唇を噛んだ。
「でも、そうね・・・ひとつだけ、ちょっとどうしようって思って、戸惑ってたことがあるわ。」
「それ何？」
「お金のこと。」
Mulderは肩すかしを食ったように思った。
Scullyが言い出すとしたら、例えば過剰な性欲とか、部屋を散らかしっぱなしにすることとか、義兄への態度とか・・・そんなようなことだと思っていたからだ。
しかし、前にどこかで読んだ記事の記憶が、頭をよぎった。
たしか、多くの夫婦は、セックスや家のことや親戚づきあいなどの問題よりも、むしろ金銭問題で諍いをおこすものだって書いてあった気がする。
「さっき書斎で、小切手帳を見たんだけど、口座を共有名義にしてるみたいだな。」
「そうよ。これは、あなたが言い出したことだったわ。ハネムーンから帰ってきてから、私たち、貯金を全部一つの口座にまとめたの。あなたによれば、私たちはこれから同じ夢を見て生涯を歩んで行くんだって・・・毎日の生活も人生の希望も、全部お互いに委ねて生きていくんだから、財産もひとつにすればいいんだって。」
「じゃあ、僕のお金の使い方が問題だとか？」
「私が言いたいのは、そういうことじゃないの。つまり、私は今まで、あまりお金を持ってなかったし、そういうのに慣れていなかったってだけよ。」
「どういうこと？」
「Mulder、私たちはお金には全然不自由してないってこと。自分たちの給料のほかに、あなたのご両親の遺産からの不動産収入があるし、お祖父様達が残してくださった株の配当金や、信託財産・・・私はそういうことを知らずに育ったのよ。うちは、普通の家庭だったと思うの。ただ、父は将校だったけど、それでも海軍のお給料で、６人の家族を養っていくのは大変だったと思うわ。父と母は、大学に入学した年までは授業料を払ってくれたんだけど、２年目からは、授業料をアルバイトと奨学金で稼がなければならなくて。メディカルスクールのときは、学資ローンで払ったから、F.B.I.に入局してからも、お給料のかなりの部分をその返済にあててたの。もちろん私も、必要なお金は持ってたけど、必要以上に持つっていうのは、はじめてなのよね。あなたは、しょっちゅう私にプレゼントを・・・すごく高価な贈りものをしてくれるでしょう。とても嬉しいのよ。嬉しいんだけど、Mulder、慣れるのに時間が必要だったの。ドレスやパンプスに何百ドルもかけるのは贅沢だって気がしてたから。
これが自分の新しい生活なんだって、最近ようやく受け入れられたところなの。」
「もうひとつ質問があるんだ、Scully。ちょっと気になるんだけど、なにか・・・大事なこと・・・多分、僕たちが結婚してるってことと同じくらい大切なことだと思うんだけど、この数週間の間に起こったこと...じゃなかったらこれから起きることで、僕に話してないことがあるんじゃないか？」
彼女はゆっくりうなずいた。
「その通りよ、Mulder。話してないことがひとつだけあるの。だけど、悪いことじゃないから。ふたりで一緒にわくわくできるようなことよ。もし、すごく落ち着かなくて、どうしてもききたいんだったら、教えてあげる。だけど、２，３日待って、あなたが思い出すか、自分で答えを見つけるかした方がいいんじゃないかしら、って気もするんだけど。」
Mulderは笑顔になった。
「びっくりプレゼントみたいだな、Scully。２，３日なら我慢できるよ。そうだなあ、じゃあ、４８時間くれよ。それまでにわからなかったら、答えをきくよ。」
そして、彼らはおしゃべりをやめて、静かに食事をした。
黙っているというよりMulderは祈っていた -
神の存在には日頃から疑念を抱いていたにもかかわらず、真剣に祈りを捧げていた。
どうか、今ここにある現実が、真実でありますように。
もしこれが、ただの夢だったなんてことになったら、そのときの落胆に耐えきれるか自分でも自信がない。
本当に、彼は毎晩、Scullyの安らかな寝息を聞きながら眠りにつき、そして毎朝、彼女を腕に抱いて目覚めるという幸せを手に入れたんだろうか？
彼には、もうひとつ夢があった。何度も見た夢。少しだけ・・・ほんの少しだけ、妄想モードかもしれないけど。
朝、眠っているScullyを、温かいベッドのしわくちゃのシーツの中に残して、ジョギングに出かける。
そして帰ってきたら、ベッドまで彼女に朝食を持っていってあげる。
他の女性には、したこともなければ、しようと思ったことすらないことだ。
そして、彼女が食べ終わったら、ふたりは・・・
・・・この夢は叶ったことがあるんだろうか？・・・彼は思いを巡らした。
そのあと、午後はテレビをみたり、犬と遊んだりおしゃべりをしたりして過ごした。
それからキスも。
もうこれからは、いつでも好きなときに - 右フックを食らう心配をせずに -
Scullyにキスができるという説は、彼を魅了し、この新しい説を、何度も実践して確認せずにはいられなかった。
夕食には、Scullyがオムレツを作ってくれた。
食事が終わってしばらくすると、彼女は、お風呂にはいると言って２階にあがっていってしまった。
Mulderはカウチに座ったまま、見るともなしにテレビのチャンネルを変えながら、Scullyの言った「びっくりプレゼント」の中身に心を馳せていた。
仕事関係の話だとしたら、僕たちのどちらかが昇進するのかも。
それとも、とうとう地球外生命体の存在を立証できる証拠を手に入れたとか。エイリアンが光速で地球に接近してきているという事実かもしれないし・・・
それとも、もしかしたら・・・
さらにそれらしいシナリオを思いついて、彼は、まっすぐ座り直して考えた。
養子をもらおうとしてるんじゃないだろうか？
寝室をひとつ、空っぽのままとってあることもそれで説明がつく。ふたりが引き取る子供の年齢や性別がわからなかったら、どんな部屋を用意してやったらいいかわからないからな。
それなら、Scullyが犬と遊んでいるとき、"Daddy"なんて言葉を使っていたのも納得がいく。
Mulderは、この推理が正しいかどうか、２階に行って確認することにした。
「Scully？」彼は、バスルームのドアを軽くノックしながら彼女を呼んだ。
「入っていいわよ、Mulder。」彼女の声がした。
バスルームに入ったとたん、一瞬で、Mulderの頭の中にあった推理もシナリオも全て消え去った。
Scullyが、ふわふわの泡だけを身にまとってバスタブに沈みこみ、そして彼に微笑んでいる。
「見ててもいい？」
「もちろん。」
Mulderの熱い瞳が彼女に釘付けになる。
彼女の体がすっかり露わになっているより、ある意味で、このほうが官能的だ。
ほとんどが泡に覆われていたが、ときどき胸の谷間や太腿のなめらかな素肌がちらっとのぞいた。
「Scully、ちょっと聞きにくいことなんだけど・・・いろいろ・・・きいてもいいかな？」
「なあに？Mulder。いくらあなたでも、さすがにこの状況は普通じゃないものね。なにをききたいの？」
Mulderは、大きく息を吸い込んだ。
訊くんだったら早いほうがいい。
「僕、今までに、なにか・・・君がいやがるようなことをお願いしたことある？」
「ない。」
「なあ、正直に言ってくれていいんだよ、Scully！」
「ないってば！Mulder。変なお願いをされたことなんて一度もありません！」
Mulderは軽く鼻を鳴らすと、次の質問をした。
「じゃあ、僕のビデオはどこにいったんだ？ああ、つまり'僕のじゃない'やつの話だけどさ。」
「ほとんど、Frohikeにあげちゃったわ。でも何本か、あなたのデスクの引き出しの一番下に入ってるはずよ。一緒に見たかった？」
「一緒に見てくれるの？あれを？僕と一緒に？」
彼女はゆっくりとうなずいた。
「私たち、一度だけ、一緒に見たことあるのよ。んー、まあ、途中までだけど。多分、比較的見やすいものを選んでくれたんだと思うけど、実際、私が思っていたよりは、悪くなかったわ。ミステリー仕立てのお話風になってて、登場人物もちゃんと描かれてたし。ただ、ベッドシーンが・・・その、詳しすぎて・・・」
「途中までしか見なかったっていうのは、露骨すぎて、いやになっちゃったってこと？」
彼女は首をふった。
「ちがうの。その映画を途中まで見ててね、私たち、そういうことって眺めてるより自分たちでする方が楽しいんじゃないかしら、ってことになって・・・それで、テレビを消しちゃったのよ。」
「今日さ、ベッドで話してたときのことなんだけど、口を使うっていう話が出ただろ。僕が口を使ってあげるのは・・・好き？」
「ええ・・・」彼女は、ほとんど聞きとれないような声でゆっくりと答えた。
Mulderの口元が緩んだ。
「君は、僕にしてくれるの？」
「ええ・・・」また同じように、彼女が答えた。
Mulderは、Scullyの答えを聞いたとたん頭に浮かんだイメージに、くらくらしながら、小さくため息をついた。
「後ろからっていうのはどうなの？Scully」
「好きよ。でも、私たちのって・・・正しいやり方じゃないかも。」
彼は思わず笑い出した。
「『正しい』ってどういう意味？Scully」
彼女は真っ赤になってしまった。
顔だけでなく、首から下のお湯の中に隠れている胸の部分まで真っ赤になったにちがいない。
「えーと、それは・・・つまり本とか、あの、ビデオとかだと・・・女の人が膝をついて腕を伸ばしてるでしょう？そういうの、してみたことはあるのよ・・・でもね、私、ほんとうは、お腹の下に枕を置いてうつ伏せになってるほうが好きなの。あと、ふたりで横になって抱きかかえられたみたいにするのとか。もしかしたら、私たちの身長が違いすぎるからかもしれないし・・・よくわからないけど・・・でも、そのほうが・・・いいの・・・」
「それならきっと、僕たちは『正しい』んだよ、Scully」
Mulderは、バスタブまで歩いていき、そのそばに腰をおろした。
そして、ボトルを手にとると、手のひらにたっぷりボディソープをとって泡立てた。
Scullyの脚を持ち上げて、なめらかな肌理を指先に感じながら、すみずみまで丹念に洗ってやった。
石鹸のあわを流してから、足首をつかんで口元に寄せると、彼女のつま先についばむようなキスをいくつも落としていく。
Scullyは、のどの奥から、か細い声をあげながら、小さくあえいだ。
「・・・濡れちゃうわ、Mulder・・・」
「当たり前じゃないか、Scully。バスタブにつかってれば、びしょ濡れだよ。」
「・・・わかってるくせに・・・」
彼は、思わせぶりな顔をして笑った。
「ああ、わかってる・・・」
「ジーンズを脱いで、一緒に入らない？」
「それもいいけど、今夜はベッドにお誘いしたいな。」
Scullyは、笑いながら立ち上がり、体についた泡を洗い流した。
Mulderは、自分もジーンズとトランクスを脱いでから、バスタオルをとって、彼女の体を包むと、滴をひとつひとつ丁寧に拭きとっていった。
「Mul--der・・・」
Scullyは焦れて、せがむような声で言った。
彼は、驚いて思わず笑顔になる。
身も心も、すべてさらけ出したScullyが、早くベッドに連れて行って、なんて本気でお願いするなんて。
・・・夢が叶いすぎて、ばちが当たりそうな気がしてきた・・・
Mulderは、ベッドカバーをはがして、シーツの上に彼女をそっとおろした。
唇を重ねてキスを交わし、夢の続きを探り合う。
少し焦ったように、唇を押しつけながら彼女の体をたどり、下の方に降りていく。
しとやかに投げ出された脚の合間に顔をうずめると、彼女の中に舌を押し入れて、満足そうに唸った。
夢にまで見た彼女の香り！ほろ苦く、そしてほの甘い、至福の味。
舌先を巧みに動かして、彼女の奥に生まれた熱をかき立てる。
熱い波に押し上げられるように昇りつめたその瞬間、彼女は、背中をのけぞらせて、彼の下で叫び声をあげた。
Mulderは、今度はのんびりと、彼女の体をキスでたどりながら、上の方に戻っていく。
そして、耳元でささやいた。
「うつ伏せになってくれるかなあ？さっき言ってたこと・・・試してみたいな。」
「ちょっと待って、Mulder」
「少し休む？」彼が、声をひそめてたずねた。
彼女はにっこりした。
「そうじゃないの。私にしてくれたことを、お返ししてあげようと思って。ね、横になって。」
Scullyが、胸に口づけたあと、お腹にもキスをしながら下の方に下がっていくと、Mulderは、低い声でため息をついた。
ぼうっとした意識の中で、Mulderはぼんやり考える。
Scullyの温かな吐息が、僕の中心に近づいていく。
それは、いままで夢の中で思い描いていたとおりのものなんだろうか？
いや・・・まったく、ちがうものだ。
この本物の現実には、くだらない妄想などはるかに及ばない。
舌先が軽く触れただけで、電気が体の中を走り抜けたような衝撃を感じて、Mulderの体が一瞬こわばった。
彼女は、ゆっくりと唇でその形をなぞっていく。太い幹の部分から、熟れた果実のまわりまで存分に味わってから、先端を口に含んだ。
戒めるようにきつく吸い上げたかと思うと、あやすように柔らかく撫で上げて、彼をぎりぎりまで追いつめる。
「Scully、もし今夜のメインディッシュを楽しみにしてくれてるんだったら、もう・・・離してくれなきゃ・・・」
彼女は、顔をあげて微笑んだ。
「枕をかして、Mulder」
Scullyは、枕を腰の下に置いて体勢を整えたあと、振り向いて肩越しに笑顔をみせた。
Mulderは、ゆっくりと彼女の中に入っていって、のどの奥のほうで呻いた。
やんわりと拒まれるような狭さに締めつけられる。
「痛くない？」
「ええ、大丈夫・・・いいわ・・・とっても」
彼女が、息を吐き出しながら答えた。
「Scully、さっきうつ伏せになるのがいいって言ってたけどさ、だけど・・・どうかなあ、もしかしたら、肘をついたらもっといいんじゃないかな・・・。そしたら僕も、君を抱きしめられるし。」
「そうね、Mulder」彼女は、そう言いながら上体を起こした。
「そのほうがいいかも・・・」
Mulderは慎重に、体の位置を変えた。
彼は、腕に体重をかけて肘で支え、わき腹を滑らせて胸まで手を伸ばすと、手のひらに乳房の重みを受けとめ、すいつくような柔らかい感触を愛おしみながら、ゆっくりと体を動かした。
繰り返される同じリズムに馴らされて、煽られて、せつなくなる。
Scullyはもどかしげに腰を揺らして、彼を欲しがった。
絶え入りそうな息の音だけが聞こえる。
Mulderは、妻の内側で自分自身が引き絞られる感覚におそわれた。
昼間のときとまったく同じように、その瞬間、なすすべもなく彼女の最奥に引きずり込まれていく。
彼は、最後に激しく突き上げながら、彼女の乳房を手のひらで絞りこんだ。
Mulderは、指先に濡れた感触をおぼえて、ゆっくりとScullyの体の下をなぞるようにして、手を引き戻した。
両手のくぼみにはミルク色の雫が残っていて、彼はびっくりして自分の手のひらを見つめた。
これが最後のパズルピースだ！
カチッと音をたてて、パズルができあがった気がした。
まぎれもない真実が目の前にある。
空っぽの部屋は子供部屋になるんだろうという推理は、たしかに正しい。
だけど、養子なんかじゃない！
Scullyの体を仰向けにして、彼はびっくりした表情のまま彼女を見つめた。
「赤ちゃんだ！」
彼女は、にっこりしてうなずいた。
「そうよ、Mulder」
彼は、愛おしそうに顔を寄せて、彼女に口づけた。
堰を切ったように、記憶が甦ってくる。
彼女の体調がおかしくなったとき、彼が感じた暗闇の中の恐怖 -
疲れやすくなって、めまいや吐き気が治まらなくて、ふたりは、また不治の病が再発したのだと思いこんでいたのだ。
そして、それは全て新しい命の芽生えのしるしだと、ドクターに告げられた瞬間、ふたりを包んだあたたかな光を思い出す。
彼の脳裏に、忘れていた記憶が一気に押し寄せてきた。
結婚してすぐの頃、Hawaiiで過ごした日々。
形式的には、Honolulu支局に捜査協力を依頼されて行ったのだけれど、実質的には、１ヶ月もパラダイスでのハネムーンを過ごしたことになる。しかも、経費はF.B.I.持ちで。
コンピュータの殺人プログラムを、Texasの紙一重的な天才と一緒につきとめた事件。
JAGの海軍士官たちと合同捜査をしたときには、同じ艦船にCharles
Scullyも乗船していたことも思い出した。
もっと最近の事件だと、Navajo族の居留地で、砂漠の中の星を見ながら、夜を明かしたことがある・・・
そう、それから、昨日病院でSkinnerとScullyが口にしていた"Chan"の顔も思い出せる。
そして仕事関係の記憶以上に鮮明な・・・プライベートの思い出。
愛し合っているときに、自分の名を呼ぶScully。
初めての、新しいことを試してみようといって誘うと、小さくうなずく。はにかんだような甘い笑顔で。
そして、それよりももっと鮮やかによみがえる思い出 -
ようやく手に入れた大切な「愛」。
彼女を腕の中に抱いたまま迎える朝。
公園を散歩しながら、手をのばして絡めた指の感触。
真っ暗な部屋の中でベッドに横たわり、おしゃべりをする。お互いの声がだんだん遠くに聞こえて、夢の中に消えていくまで・・・
「Scully、思い出した！ああ、どうしよう！sweetheart、なんてことしちゃったんだ！」
「なんのこと？」
彼が何を言っているのかさっぱり分からない。
「今日のこと！もし、覚えてたら、一日に３回も君を抱いたりしないよ。君だって！・・・君は、僕たちの赤ちゃんのことを考えなかったの？だいじょうぶだったかなあ・・・」
そう言いながら、なだらかな丘のように見える彼女のお腹に、そっと一つキスを落とした。
「だいじょうぶよ、Mulder。赤ちゃんを傷つけるようなことも、お腹がつぶれるようなこともしてないもの。」
「でも・・・だけど、君はもっとゆっくりしてなくちゃ。ドクターに言われたこと、忘れてるんじゃないのか？」
「Fox、今日私たちがしたことってなに？お昼寝して、ごはんを食べて、おしゃべりして、愛し合っただけよ。一日中ずっと、のんびりしてたってことじゃない。ね、私を信じなさい。」
「わかってるよ、Dana。・・・君だけを、僕はいつも信じてる・・・」
end
