DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: Aunt Dana's Daddy
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
Special Agent Dana Scullyは、パートナーに向かって笑いかけながら言った。
「ねえ、Mulder、Californiaまで引っぱってこられて、ただの'から騒ぎ'だったなんて、ちょっとひどいわよねえ？ただですむとは思ってないんでしょ？」
「ああ、Scully、わかってるよ。なにをしたら許してくれる？」
「そうねえ、」彼女が答えて言った。
「車のキーをかして。」
Special Agent Fox Mulderは、レンタカーのキーを、しぶしぶパートナーの手にのせた。
もちろん、彼女のことは信頼している。
１００パーセント、絶対に。
だが、彼女の目には、何かを企んでいるような怪しい光があった。前にも見たことがあるような気がする。
ふだんの彼女は、まじめでクールな女性なのだけれど・・・
車がLos Angelesの中心を離れて、南に向かって走りだすと、Mulderはイヤな予感がした。
まさか今からMexicoに行くわけではないだろうし、Mexicoに行くのでなければ、L.A.の南にあるものはSan Diego。そして、San Diegoといえば、彼女の兄貴が住んでいるところだ。
「Scully、まさかBill Juniorに会ってから帰ろうなんて思ってないよな？」
「兄に会いたかったら潜水用具が必要ね、Mulder。今、兄は潜水艦に乗船していて、遠く離れた沖の方で、深海に沈んでるんだから。」
Mulderは、ほっとして座り直した。
ところが、車はいつか来たことのある海軍基地に向かっている。
「Scully！だましたな！お兄さんの家じゃないか！」
「私は、兄の家に寄らない、とは言わなかったわ、Mulder。Billには会えないって言ったんじゃない。TaraとMatthewに会いにきたのよ。」
「へえ、」まだ油断は禁物、という言い方だ。
「どうして？」
「どうして、ってべつに・・・」Scullyは答えながら肩をすくめた。
「お義姉さんと甥だし。この間の朝、丁度あなたが南カリフォルニアの事件の捜査に行くって言い出したあと、Taraから電話をもらったんだけど、こっちに来ている間に、時間があったらディナーでも一緒にどうぞって言ってくれたのよ。それで今日、捜査は終了したし、帰りの飛行機は明日の朝だから、今晩なら寄れると思って。」
「ホテルで僕だけ落としてくれればよかったのに。」
「だって、私たちふたりを招待してくれたんですもの、Mulder。たぶん・・・」
「たぶん、なに？」
「母と私は、クリスマスをBillとTaraの家で過ごしたでしょう。そのとき、あなたのことが話題になって、ずいぶんいろいろ・・・話したんだけど。Bill Juniorはあなたのことが好きじゃないのは知ってるでしょ。もちろん、母も私も、あなたのことを愛し・・・えーと、好きよ。でもBillは、Taraにも自分の意見に賛成して欲しかったわけ。従順な妻ってそういうものだと思ってるんじゃないの？だけど、彼女は反対もしなかったけど、賛成もしなくて中立の立場を守ったのよ。だって彼女があなたに会ったのは、Matthewが生まれる直前のことだったし、あなたのことはよく知らないんだものね。それで、Billが航海に出ている間に、私たちがふたりで遊びに行ったら、彼女もあなたのことを理解できるんじゃないかって、そう思ったみたいよ。」
「そうなんだ。じゃあお行儀よくしなきゃ。」Mulderが言った。
「そんなこと心配してないわよ、Mulder。でもね、エイリアンの話とか、政府の陰謀に軍が関与してるとかそういう話は、やめておいたほうが無難かも。」
「じゃあ、何をしゃべればいいんだよ。」
「あたりさわりのないことよ、普通の話題・・・スポーツとか映画とか、わかるでしょう？」
「Scully、僕がみる映画といえば・・・」
「もう！じゃあ映画はだめ。音楽ね。それからイギリス。」
「イギリス？」
「BillとTaraは、来年あたり転勤であちらに行くかも知れないんですって。あなたは、イギリスの大学出身なんだから、現地の情報を教えてあげられるんじゃない？」
「わかった。」Mulderはうなずいて言った。
どうやら今回のことは、Scullyにとって大事なことらしい、ということは彼にもわかった。
彼が"普通"に振る舞うことができる、ということに関して彼女は若干の疑問を残しているみたいだけど、やる気になれば大丈夫！
Taraがふたりを迎えて、挨拶を交わそうとしたとき、小さなつむじ風がScullyの足元に巻きついてきた。
「Danaおばちゃん、Danaおばちゃん！」Matthewが大声で呼んだ。
「まあ、Matthew！」Scullyは答えながら、彼を抱き上げて、鼻の頭を軽くつまんでやった。
「このしと、だあれ？」Matthewは、人見知りをするように、叔母のパートナーを指さしながらきいた。
「Mulderよ。」
「よろしく、Matthew。」Mulderが言った。
「ディナーは、あと２０分ほどでできるの。喉がかわいたでしょう？何がいい？」Taraがたずねた。
「じゃあ、私たちはアイスティをいただくわ。」
Taraが飲み物を用意して持ってきてくれたとき、電話が鳴りだした。
電話に出ると、彼女は厳しい表情になった。よくない知らせだったことは、その押し殺したような声からも推測できる。
「Tara、どうしたの？」彼女が電話を切ると、Scullyがきいた。
「Billになにか・・・？」
「ちがうの、Billじゃないわ。親友のご主人が・・・ヘリのパイロットなの。空母に物資を運んでて、墜落したって。報告が入ったばかりで、まだそれしかわからないの、けが人も、死者の数も・・・生存者も・・・」
「すぐに行ってあげて。」Scullyが言った。
Mulderには、その声に含まれているトーンまで聞きとることができた。
彼女の『ごちゃごちゃ言ってる場合じゃないわ、とにかくそうして』という、彼にも聞き覚えのある声音だった。
「でも、あなたとMulderをお招きしておいて・・・どうしたらいいの。」
「私たちは大丈夫だから。留守番をしながら、Matthewの面倒もみているわ。早く行って、お友達についててあげなきゃ。」
Taraはうなずいた。
「ありがとう、Dana」
* * * * * * *
「ママは？おんも？」ドアが閉まったとき、Matthewが言った。
「そうよ、いいこね。ママは、ちょっとおんもなのよ、でもDanaおばちゃんとMulderが一緒にいますからね。」
ScullyとMulderは、Matthewを子供用の椅子に座らせ、食器を並べてから、自分たちも腰かけて食事を始めようとした。
ところが、この小さな子どもが手を組み合わせて言った。
「・・・くだしゃい。」
Mulderは、あやうく「レストランじゃないよ、なあ。」と言いそうになったが、Scullyが「あ、そうね、忘れるところだったわ。」と言った。
Scullyは、すぐに心をこめて十字を切ると、Matthewも小さな手で一生懸命その真似をした。
Mulderは所在なげに座っていたが、Scullyは、MulderとMatthewの手をとると、はっきりとした静かな声でお祈りの言葉を捧げた。
伝統的なカトリックの食前の祈りだということはMulderにも分かったが、最後にパートナーは、もう一言つけ加えて祈った。
「それから、ヘリの乗員全員が無事に家族のもとへ帰れますように、どうぞ彼らをお守りください。アーメン。」
そして彼女は、二人の手を、ぎゅっと包み込んでから、もう一度十字を切った。
食事が終わると、Matthewは、お腹の中に入れたのと同じくらいたくさん、食べ物を顔や髪だの手だのにくっつけて、キッチンの床にもばらまいていた。
「選ばせてあげるわ、Mulder、仕事はふたつ。」Scullyが笑いながら言った。
「子どもとキッチンとどっちがいい？」
「楽な仕事を選ぶに決まってる、キッチンさ。」Mulderが答えた。
「Matthewは君にまかせるよ。」
キッチンを片づけてから、Mulderは、楽しそうな笑い声と水しぶきの音に引き寄せられるように、上階のバスルームに上がっていった。
ScullyはMatthewをきれいに洗ってやりながら、自分までびしょ濡れになっている。
なにも言わずにそっと、Mulderはドア枠に体をもたれさせて、パートナーが甥を入浴させている光景に見入っていた。
なんだか、すごく楽しんでるみたいだ。
彼女がこんなに楽しそうにしてるのは、いつ以来だろう？
一緒に野球をした夜・・・かもな。
Scullyはバスタブから、子供を抱き上げたとき、ドアのところに立っていたMulderに気がついた。
「びっくりするじゃない！」彼女は笑いながら言った。
「なあScully。濡れたTシャツ姿って、いいもんだな。」
そしてMulderは、好奇心を隠そうともせずに、胸にはりついた薄いコットンの生地にあからさまな視線を走らせた。
Scullyが、いつもの「うるさいわ、Mulder」を言うものとばかり思っていた彼は、彼女の次の行動に、不意をつかれて慌ててしまった。
彼女はシャツを頭から脱ぐと、彼に向かって投げつけ、びしょびしょになった布が、彼の顔を直撃した。
「乾燥機に入れてきてちょうだい。私は、Matthewのパジャマを探して、TaraのTシャツを借りてくるから。」
Mulderは、上半身にきれいなレースのブラしかつけていないパートナーを見て、笑顔になった。そして、なんだかやけに可愛くみえる彼女にむかって言った。
「かしこまりました、奥様！」
Scullyは、主寝室に行って、引き出しからTシャツを取りだした。
そのとき、彼女はブラもびしょ濡れになっていることに気がついた。それで、彼女はそれもはずしてから、Tシャツを頭からかぶって着た。
Scullyの声が聞こえたとき、Mulderは階段の下の方にいた。
「ちょっと、そこの捜査官殿！」
「なんだい？捜査官殿！」彼は言いながら、上を見上げた。
「これも、シャツと一緒に乾燥機に入れておいて。」
上を向いたままの彼の顔の上に、ブラを落として言った。
Mulderは笑いながらうなずいた。
彼が乾燥機の場所を探しあて、濡れたものを入れてまわし始めると、ScullyとMatthewが下階に戻ってきてブロックで遊んでいた。
Mulderはふたりのそばに行き、そして、どうしても彼女をからかいたくなって口を開いた。
「なあScully、女性に服を投げつけられたのなんて、たしかにずっと前の話だけどさ、でも僕の記憶が正しければ、レディが紳士に向かって、身につけていたものを投げてよこすということは・・・ふつう彼女は彼と・・・」
「Mulder、うるさいわよ！」Scullyが言った。
「だめでしゅよ、Danaおばちゃん」Matthewが厳かに、咎めるような口ぶりで言い出した。
「うるしゃい、だめ。いっちゃだめ。」
「ああ、そんなこと言っちゃいけないわね？」Scullyが聞いた。
「ごめんなしゃいっていってー」
Scullyは、にやにやしながら自分を見ているパートナーを見上げた。
彼は、ちいさな子供に叱られている彼女を見て、明らかにうれしそうだ。
彼女は、子供の頃に、きょうだいげんかをしたりして、'謝りなさい'と言われたときのことを思い出した。
こういうときは、いやいや謝るよりも、思いっきり大げさに謝ったほうが、効果的だし面白い。
「Mulder、あんなこと言ったりして、ほんとうにほんとうにごめんなさい。ほんとうに、とっても悪かったわ。」
さも後悔しているように、ささやくような小さな声で言いながら、首をかしげて顔を寄せた。
「許してくれる？」
「もちろんだよ、Scully」Mulderが言った。
「じゃー、キシュしてあげてー」Matthewが言った。
君のお父さんがこのことを知ったら、君は、死ぬまで外出禁止を言い渡されると思うけど・・・
Mulderは心の中で思いながら、頬が緩むのを感じた。
彼は、Scullyの首の後ろに手を添えて、そっと引き寄せた。
そして彼女は、唇に軽く口づけると、ふっと微笑んで、そのあとMatthewに目を移した。
しばらく遊んでいるうちに、カウチの下に入り込んだブロックを取ろうとして、Mulderが膝をついて四つん這いの格好になった。
すると、Matthewが手を叩いて大喜びで叫んだ。
「おんましゃーん！」
「は？」Mulderがたずねる。
「おうまさんのお背中に乗りたいんですって。」
Scullyが代わりに言ってやり、パートナーが口を開く前に、Matthewを抱き上げると、Mulderの背中に乗せてあげた。
Matthewは、Mulderのシャツを握りしめて、その背中にしがみついた。
Mulderは、家じゅうを回ってやった。ときおり、馬のいななき声を真似てやると、Matthewはきゃあきゃあ言って喜んだ。
Scullyは、顔をほころばせながら、ふたりを見ていた。
なんだか、すごく楽しそうじゃない？
この人がこんなに楽しそうにしていたのって、いつ以来なのかしら？
ふたりで野球をした夜・・・かしらね。
そのうち、Matthewが大きなあくびをした。
「おもちゃを片づけて、絵本を読んであげましょうね？」Scullyが言った。
Matthewが絵本を選ぶと、Scullyは膝の上に甥を抱き上げて、揺り椅子に腰を落ちつけた。
絵本の読み終わると、Mulderに小さな声で囁いた。
「明かりを消して。」
ほの暗い光の中で、彼女はMatthewを包み込むように抱いて、静かに体を揺らしてやった。
やがて、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「僕がベッドまで運んできてあげようか？」
Mulderが、声をひそめてたずねた。
「立ち上がるから手を貸して。そしたら私が行ってくるわ。」彼女が答えた。
Mulderは、手を背中にまわし、もう片方の手で彼女の腕をつかんで支えてやった。
Scullyは、眠っているMatthewを落とさないようにそっと立ち上がると、二階のベッドに運び、おでこにそっとキスをしてから、階段をおりてきた。
「乾燥機が終わったみたいだから着替えて、シャツをTaraの部屋に返してくるわね。すぐ来るわ。」
Scullyが戻ってきたときには、Mulderが揺り椅子に座っていた。
彼女がその前を通り過ぎようとしたとき、彼女のウエストに彼の手が伸びてきた。
やさしく抱き寄せるように膝の上に彼女をのせると、Scullyは彼の方を向きながら体を丸めた。
「今度は私を寝かしつけてくれるのかしら？」
彼女の声には、面白がっているような響きがあった。
「まあね」Mulderは静かな声で答えた。
そして、もう一言。
「なあ、Matthewって賢い子だと思わないか？君に子守歌をせがまないなんて、よくわかってるよ。」
Scullyはくすくす笑い出して、肩を軽くこづいた。
「Mulder、うるさいわ！」
「あ、Scully！今わざと言っただろ。この家では『うるさい』って言ったら、罰として何をするか知ってるもんな。」
「Matthewはもう寝てます。」彼女が言い返した。
「彼には聞こえるかもしれないよ。君は子供のことを知らないんだな。かわいそうに、君が言うことを聞かなかったせいで、あの子は現実適応能力が欠如したり、さまざまな障害が起きるかもしれないな。本当だよ、Scully、僕は心理学者なんだから。」
「ちがうわ、あなたは屁理屈学者よ。なんだかずるい。」彼女が言った。
「でも・・・まあ、いいわ。Mulder、あんなこと言ってほんとうにごめんなさいね。」
そして、首を傾けて、彼の唇にキスをした。
さっきより長く、そして深いキス。
そう、今はちっちゃな観客もいないわけだし！
ようやく唇を離して、ScullyはMulderの目を見つめて微笑んだ。
そして、頭を彼の肩に預けて、言った。
「こういうのが好き。」
「ん？」
Mulderは聞き返した。
彼女の言う意味がよくわからない。
「あなたの膝に座ってキスするのが、ってこと。立ってキスするより楽だもの。首が折れそうになっちゃうんだから！」
Mulderはくすっと笑って言った。
「たしかに、１０インチの身長差は命がけだな。」
Scullyは黙っていた。
静かになって、ゆっくりとした息の音だけが聞こえてくる。寝入ってしまったらしい。
いつも驚いてしまうことだが、どんな場所でも、いかなる状況下でも眠ることができるというのは、一つの才能だと言ってもいいかもしれない。不眠症気味の自分とは大違いだ。
でもなんだか嬉しいような気もする。
彼女が自分に寄り添って寝る - 寝るといっても'眠る'という意味だけど -
ってことは、自分を信頼して安心してくれているってことだから。
彼は、彼女の美しい髪に手をやり、そっと撫でた。
「Love you」Scullyがつぶやいた。
「へ？」
Mulderは聞き返した。
今、聞こえた言葉って聞き間違いじゃないよな？
ああ・・・だけど自分に言ったわけじゃないんだな・・・
多分、海軍基地の住宅で過ごしたりしたから、昔を思い出して、子供の頃にもどってるんだろう。
髪を撫でているのは、パパだって思いこんでるのかも。
Scullyはパートナーの首にむかって、密かにほほえんだ。
意外と鈍いのよね・・・
眠っているふりをしてるってわからないの？
Scullyは顔をあげて、Mulderの瞳の奥を見つめた。
柔らかな笑みが、彼女の唇に広がる。
「Mulder」
彼女が口を開いたとたん、玄関のドアが開く音が聞こえた。
「Dana？Mulder？」Taraの声だ。
「こっちよ、Tara。」Scullyは言いながら、立ち上がるとランプをつけた。
「お友達のご主人はどうだったの？」
Taraは、安堵のため息をついて笑顔になった。
「大丈夫だったの。ヘリが突っ込む寸前に脱出できたんですって。乗員は全員無事だったのよ。ちょっと低体温症になっているほかは、心配ないらしいの。」
「よかったわ。」Scullyが言った。
「じゃあ、私たちはもう失礼しないと。明日の朝早くに、Washingtonに戻らないといけないから。」
「うちに泊まっていけば？」Taraがたずねた。
「Matthewが夜明けと同時に家中の人間を起こしてくれるわよ。そしたら飛行機の時間にも間に合うでしょう？」
ScullyはMulderの方を向いて、片方の眉をあげて見せた。
「たぶん今晩中にL.Aに戻っておいたほうがいいと思うんです。」Mulderが言った。
「朝の渋滞に巻き込まれるよりは、楽でしょうから。それに、スーツケースも置いてきてしまったんですよ。」
「じゃあね、Tara」Scullyは、頬に唇を寄せて言った。
「ええ、Dana。今晩のことは、本当にどうもありがとう。お元気でね、Mulder」
* * * * * * *
週末、Scullyは義姉から電話をもらった。
挨拶を交わした後、Taraが言った。
「あなたとMulderは、Matthewにすてきな思い出を残してくれたみたいね。あの子ったら、あれからずっと、ふたりとなにをして遊んだかとか、なにを読んでもらったかとか、もうそればっかりよ。」
「私たちも楽しかったわ。でも、Mulderとあまり話せなくて残念だったわね。私はMatthewに会えただけで良かったけど、あなたはMulderに会ってみたかったんでしょう？せっかく私のパートナーのことを知る機会だったのに、５分くらいしか一緒にいられなかったものね。」
「Dana」Taraが静かな声で言った。
「Matthewは彼に心酔しちゃってるみたい。ぞっこんなの。私ね、息子は人を見る目があると思ってるのよ。」
「あら、ご主人よりも？」Scullyは軽い調子で言った。
「そう、この件に関しては・・・ね。それで、あの、あなたに謝らなくちゃいけないと思って・・・」
「Tara、お友達についていてあげるのは当然のことじゃない、私たち全然気にしてないわ。」
「あ、そのことじゃなくて、」Taraが言った。
「私、家に戻ってから、あなた達に泊まっていったらって言ったでしょう？あのとき、ちゃんと言えばよかったと思って・・・ふたりには一緒の部屋を使ってもらって構わないのよって。」
「え？」
「だって、ほら、うちにはひとつしかゲストルームがないでしょう？でも、ダブルベッドがあるんだから、どちらかにはカウチで寝てもらいます、なんて言うわけないじゃない・・・」
「Tara、」Scullyは言いかけてから口ごもった。
Mulderと彼女の間の微妙な関係をどうやったら説明できるだろう？
ふたりの間にあるものが、少しずつ変化していって、それがなんなのか自分自身つかめずにいるのに・・・？
「ほんとに気にしないで。あのときは、私たち歯ブラシも着替えも持ってなかったし・・・ほんとにそれだけなんだから。」
「そう？・・・あ、Matthewがお昼寝から起きたみたい、行かなきゃ。ともかくMulderによろしく伝えてね。また電話するわ。」
「じゃあね。」
* * * * * * *
数週間後、Bill Juniorが家に戻ってきた。
彼が帰ってきた日の翌日は日曜日で、家族のしきたりとして、日曜日のディナーの前には、普段の食事のときよりも長めのお祈りを捧げることになっていた。
今日の糧を神に感謝した後、Billが無事に家に帰ってこられたことも感謝し、さらに家族の全員のことを祈った・・・おばあちゃんとおじいちゃん、おばあさま、Charlesおじさん、Danaおばさん・・・
「それからMudderもおまもりくだしゃい。」Matthewがつけ加えた。
「Mother？」とBill Juniorがきいた。
「ちがうー。MUDDER！」
「Mudderってだれだったかしら？」Taraもきいた。
「DanaおばちゃんのDaddyでしょー」
なんでパパとママはこんな大事なことを忘れちゃってるんだろう？
Matthewは、泣きそうになりながら説明した。
「ああ、Mulder・・・そう・・・神様、どうかMulderのこともお守りください。」
Bill Juniorは、目を見開いてから、感情を抑えるようにもう一度目を閉じて、最後に「アーメン」と言った。
そして、十字を切ると、食事をとり分けた。
そのあと食事がおわってから、BillはTaraに向かってきいた。
「どうして家族のためのお祈りのときに、妹の'腐れパートナー'のことまで祈ってやらなきゃならないんだ？」
「お話したはずよ。この間、彼とDanaがLos Angelesの事件の捜査でこちらに来ていたの。それで夕食にお招きしたんだけど、Joeのヘリコプターが墜落したものだから、逆にベビーシッターをお願いすることになっちゃったのよ、って。」
「それはもう聞いた。だけど、どうしてMatthewはMulderをDanaの父親だって思いこんでるんだろう？」
「あの子はそんなこと思ってないわよ。」
「Tara、聞いただろう？Matthewは、MulderのことをDanaおばちゃんのDaddyだって言ってた。」
「Bill、Matthewは、あなたのことも『私の』Daddyだって思ってること知ってる？おじいちゃんは、おばあちゃんのDaddyだって言ってるわ。あの子くらいの年の子供に、夫婦の概念なんてわかるわけないもの。あの子にとっては、夫婦は『Mommy』と『Daddy』なのよ、子供がいようといまいとね。」
「もしかして、Matthewは、MulderとDanaが結婚してると思ってるってことか？」Billがたずねた。
「そうみたいね。」Taraはにっこりしながら、答えた。
end
