DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : Just another day in paradise

作：Angela Wardさん　　訳：bagpiperさん

僕は、Williamをお腹の上にのせてカウチに寝そべりながら、ＴＶでフットボールの試合を観ていた。
時々僕は、William に話しかける。父と子の対話と言ったら、少し大げさか？

「な、今のがタッチダウンだ。わかるか？son。」

William は、わかったでも言うように、喉を鳴らした。
そのとき、家の中を歩き回っていたScullyが足を止めて僕の方を見た。目の奥で笑っている。

僕は、シャツを脱いでいた。
Scully に言われたからだ。彼女は、僕とWilliam が素肌で触れ合う方が親子の絆を深められるし、それがWilliam にとって一番いいことだと思っているらしい。
僕はScully に、「君が、僕の胸や腹を見ていたいっていうのが理由なんじゃないか？」ときいてみた。どうせ、「あなた大丈夫？Mulder。」なんて言い返されるのがオチだろうと思いながら。
なのに、彼女はにっこり笑って、僕に言った。
「そうね、ええ、そうかも。それも理由のひとつだわ。」
これだけの年月を一緒に過ごしてきてもなお、まだ彼女には、どきっとさせられてしまう瞬間があるんだな。

上半身裸でいることは、ちっともかまわない。
Scully は、僕が適温だと感じる以上に、部屋の温度を上げて暖めている。
彼女は、Williamのためだって言っているけど、僕らは何年間もレンタカーの中で、エアコンの温度をめぐるバトルを繰り返してきた。だから僕は知っている。彼女は、部屋を亜熱帯気候のようにしておきたいだけなんだ。
いいさ。Williamと僕は、すでに完璧な作戦を立てていて、後は決行するだけなんだから。・・・彼女が仕事に出かけたら、すぐに行動を起こし、サーモスタットの主導権を奪還する予定だ。

「あ、Scully 、ちょっとここでWilliam を抱いていてもらえるかな？」
彼女がまた通りかかったとき、僕は声をかけた。
「ビールをとってきたいから。」

「Mulder、私がビールをとってきてあげる方が早いんじゃない？」

「あー、うん。」・・・たしかに。
「だけど、カウチに寝っころがってフットボールを見ながら、大声出して『Hey、honey、ビール持ってきてくれ。』なんて言えないよ。それくらいなら、自分でとりに行ったほうが・・・」

「Mulder、誰もそこまでしろとは言ってないわよ。」彼女は笑いながら言った。

それで僕は、そのまま息子を抱いて、フットボールを見ながら寝そべっていた。
そして最愛の女性・・・命より大切なただひとりの女性が、僕にビールを運んできてくれる。
僕は一瞬、異次元空間に迷いこんだような錯覚にとらわれた。"男の夢かなえます"の世界。
Scully がカウチにあがってきて、僕たちのそばに横になり、体をすり寄せてきた。
・・・僕の夢はいくつ叶ったのだろう。

多くの女性とちがって、彼女はフットボールに関して最低限の基礎知識は持っているし、僕が歓声をあげるたびに、「今のなあに、どういうこと？」なんてことを聞いてきたりはしない。
彼女が言うには、Bill Jr.のおかげだそうだ。彼は、ジュニア・ハイからハイスクールを卒業するまでフットボールをやっていたので、彼女もそれを見ながら育ち、いつのまにかフットボールが好きになっていたらしい。
まあおそらく、この点については、あのBilly兄に感謝すべきなんだろう。

しばらくすると、William がむずかりだした。

「だよな、son。今のはどう見ても反則だ。」僕は、何とかなだめようとして言ってみた。

Scully は、軽く笑いながら言った。

「レフェリーに抗議してるんじゃないと思うわ、Mulder。おむつを換えてほしいのよ。もうお昼寝の時間だものねえ、ミルクを飲んだら、ねんねしましょうねえ。」

彼女は、僕の胸の上からWilliam を抱き上げると、おむつを換えにベッドルームに入っていった。
コマーシャルになったので、僕もトイレに立った。
この父にして、この子あり。ってね。
ついでに、もう一本ビールを出して、Scully にはオレンジジュースをグラスについでから、カウチに戻り、コーヒーテーブルの上に飲み物を置いた。

Scully とWilliam もじきに戻ってきて、また元の場所におさまった。
何かで読んだが、父親の多くは、母親の授乳に全く興味がないか、疎外感を抱くかするらしい。
だけど、僕の経験からすると、そういうことは考えられない。
ひとつには、Scully がいつも、今みたいにしてくれるからだと思う。
僕のそばで横になって、寄り添ってくれる。彼女の乳房が僕の胸に触れ、僕は、Williamの頬の動きのひとつひとつを肌の上で感じることができた。William が懸命に吸いついているScully の胸からは、脈をうって乳があふれ、命の鼓動のように僕に伝わる。
'興味'などということをはるかに超えて、これは僕にとって、静かな感動をもたらす経験であると同時に、心からリラックスできる時間だ。
僕は、世界一の男になったような気がする。あたたかな腕の中で、自分の家族を守り、生きていく。

「反対のお乳も飲ませなきゃ。」Scully が、コマーシャルの時に言った。

「あっち側の端に移ろうか？そしたら君も、ゲームを見ていられるだろう？」

「ううん、いいの。私も眠ってしまいそうだから。」

僕は、声を立てないよう注意して、ゲームを見続けることにした。
息子だけじゃなく母親の方にも、休息が必要らしい。
僕には、ふたりが眠りに落ちていく瞬間がわかる。
力強く動いていたWilliam のあごが、だんだんゆっくりした動きになり、やがて止まった。
そしてScully の規則正しい寝息が聞こえてくる。
僕は、自分の胸の上に、小さな水たまりが広がっていくのを感じた。Williamのよだれか、それともScully か・・・もしかしたら両方かもしれない。
なぜだろう。他人のよだれなんか・・・やめてくれって思うどころか、僕は胸の上にたまったその感覚に酔いしれてしまう。嬉しいような、誇らしいような、この気持ちこそ、もしかしたら愛とよぶべきものなのかも知れない。

僕は、眠っているScully の体を、手のひらでなぞった。
ほとんど無意識の動きだが、僕は今でも、胸がいっぱいになる。いつでも、どこでも、望むときに彼女に触れることが許される、と思うたびに胸がしめつけられるほどだ。
彼女のはだけたシャツの下に手を忍ばせて、背中から肩にかけてさすった後、ショートパンツの柔らかなコットンの上から、形のよい丸みを撫でた。いつのまにか僕は、彼女の脚にまで手を伸ばし、ふくらはぎから太腿の上の方まで何度も行ったりきたりさせていた。

試合が終わり、ＴＶを消した。
ふたりを胸に抱いて横たわったまま、静かに幸せを味わっていると、Scully が目を覚まして囁いた。

「William を寝かせてくるわ。」

彼女はすぐにリビングに戻ってきた。彼女は、シャツもブラも開けたままで、僕は少し焦った。
いつもと違う。
たしかに、Scully は母乳を与えるときにも恥ずかしがったりしないし、そんなことを思ってもいないのだろうが、いつもはWilliamが'ごちそうさま'をしたら、すぐに服を整えてしまう。
彼女は、ドアのところで立ち止まり、言った。低いけれどよく通る、彼女の声。

「ベッドにきて、Fox。」

そういうことか！・・・彼女が僕を"Fox"と呼ぶのは、'あのとき'かその前、くらいだ。
ようやく僕は、どうして彼女がシャツをそのままにしていたのか、その理由に気がついた。

「疲れてるのかと思ってたよ。」

お互いの洋服に手をかけて脱がせながら、僕は小さな声で言った。僕はシャツを着ていなかったし、彼女も脱ぎかけていたから、時間はかからない。

「うとうとしてただけなの。あなたがずっと触っていたし。」

「あ、ごめん・・・」僕が言いかけると、彼女は首をふった。

「ちがうの。うれしかったのよ。あなたが私に・・・って。」

ベッドに横になり、ふたりの隙間を埋めるように抱き寄せて、抱きしめる。
いま僕たちの間に、愛すべきお邪魔虫はいない。さっきまで一緒にいた、可愛いおちびくん。
そして、口づけを交わす。誓いを立てるように唇を重ね、愛の言葉をやりとりするように舌を絡める。
いつでも望むときに、彼女にキスできる・・・今でも信じがたいことだけど、これも確かに現実だ。
彼女の体に手を這わせ、足の間をさぐると、そこはすでに十分すぎるほど潤っていて、僕を驚かせる。
起きあがって彼女の目をのぞきこみ、答えを求めるように片眉をあげてみせた。

「言ったでしょ、あなたの手が好きよ、って。」言い訳をするみたいに言って、彼女が微笑んだ。

「それなら、僕も・・・」

もったいぶって駆け引きする必要なんて、どこにもないから。
彼女の中に身を沈めると、どちらからともなくため息が洩れた。二人の体がひとつになって、溶け合う瞬間だ。
そして、僕は彼女の目を見つめながら、あせるでもなく、じらすでもない、ただ彼女の呼吸に合わせるようにゆっくりと体を動かした。

僕が以前、観ていたようなビデオ（僕のじゃないけど）を基準にすれば、これは特別なことでもなく、刺激的なことでもないのかもしれない。
僕たちは今、ごくありふれたかたちで愛し合っている・・・

もっとも、この数ヶ月で僕たちは、かつてとは全く違った次元で、愛し合うことの意味を知るようになった。
僕がアブダクトされる前も、僕たちは愛にあふれ、かけがえのない時間を共有した。
それなのに、そこにはいつも、どうしても拭いきれない悲しみが、小さなしみのように残っていた。
どんなに強く愛を交わしても、どれだけの夜、体を重ねても、そこに新しい生命が宿ることはない - 決してありえない - そう僕たちは思いこんでいたからだ。
けれど、それが間違っていたことを知った今、全ての夜は祝福された思い出に変わり、この世の - この星の - 永遠の奇跡を信じている。

Scully が、細い糸をたぐるように昇りつめる。その限界が近づくと、僕は手をすべらせて彼女の腰をつかみ、角度を変えて突き上げた。
それに応えるように彼女の内奥で、僕自身が締めつけられ、そして彼女は、すこしずつ息を吐き出して、最後にそっとため息をつくと、美しく微笑んだ。
僕はまだ、なごり惜しく彼女の中で動き続け、だがついには全てを解き放つ。僕は、のどの奥からうなり声をあげて、彼女の名を呼んだ。
そのあと体の向きを変えながら、腕を伸ばして彼女をしっかりと抱き寄せた。

「Scully ？」

「なあに・・・？」

「愛してる。」

「わたしもよ、Mulder。愛してるわ。」

もうなにも望むものはない。
フットボール、ビール、僕の息子、そしてScully ・・・僕のことを愛していると言ってくれるScully 。
どこにでもある１日の、至福のとき。Just another day in paradise.

End