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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: For better ? or Worse ?
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
* * * * *
次の日の午前中。
Scully は、医者に症状を説明し、血液検査と尿検査を受けた。
その後、服を着替えると、Mulderと一緒に、部屋に入った。
「Dana 、あなたの症状からすると、なんと言ったらいいか、あの、非常に難しいんですよ。いくつか、プライベートな質問をさせてもらうことになりますが。」
医者は、Mulderの方に目をやってから言った。
「私たちの間に隠し事はありませんから、お気遣いなく。」
彼女は、そう言いながら手を伸ばし、夫の手を握った。
「そうですか、いいでしょう。一年ほどまえに、こちらに検査にいらしたとき、その時点では性交渉を持っておられないと答えられておられますよね、数年間なかったということになっていますが。現在も、そうなんでしょうか？」
「いえ。」Scully が答えた。
「何年もなかったことはその通りですが、今は、違います。ちょうど前回の検査の、少しあとから現在まで、ということになりますけど。」
「それは、一対一の関係ですか、それとも複数の相手がおられたという・・・」
「私たち結婚しているんですが！！」Scully とMulderが、同時に言った。
「結婚なさっておられる？」と医者が言った。
「あの、こちらのMr. Mulder は、お仕事の同僚でいらっしゃるとばかり思ってました。」
「私達は、パートナーであり、夫婦でもあるんです！」Scully が強い調子で言い放った。
「何か問題でもあるんでしょうか？」
「いえ、まさか、そうじゃありません。」と医者が言った。
「ちょっと、急いで検査をし直してきますから。・・・すぐ戻ります。」
「何だったんだ？」
医者が部屋を出ていくと、Mulderがきいた。
「なんだか、まるでＳＴＤ-性感染症-の疑いがあるみたいな言い方だったわね。」Scully が答えた。
「だけど、あり得ないわよね。」
「どう考えてもあり得ないよ！Dana 、僕は、君と結婚する前は何年間もしてないし、そのずっと前だって、絶対にカバーしてたんだから。しかも、僕は検査だって受けてる。２回もだよ。昔、最後につき合った相手と別れてから、１回受けてるし、僕たちが結婚する半年くらい前にも、一度受けてるんだ。２回とも、何ともなかった！」
「もういいわよ、Fox、わかってるわ。お医者様が戻られてから、お聞きしましょ。」
しばらくして、医者が眉間にしわを寄せて、困惑した表情で戻ってきた。
「いいことと悪いことをお知らせしなければなりません。」彼は言った。
「まず、いいことの方から申し上げますと、すぐに対処すれば、何も心配なさることはないということです。それから、悪いことのほうですが、どうやら、数年前にこちらにいらした時、私のほうで、間違った診断を下してしまっていたようなのです。」
「どういうことですか？」
Scully は、怪訝そうな顔をしてたずねた。
「ええと、どういうことかと言いますと・・・そう、前に不可能だと申し上げたんですが、でも、あの、妊娠なさってるんですよ。」
Scully は、びっくりして目を大きく見開いた。
「え？」
「もちろん、できるだけ早く処置できるように、こちらの方で手配しますから。」
「なんの処置ですか？」Scully は、意味がわからず、思わず聞き返した。
「あなたの病歴を考えれば、堕胎せざるをえないのでは・・・」と医者が言いかけた。
「だめよ！」Scully が叫んだ。
「絶対に、堕ろすなんてことしませんから。私は、カトリックなんです。信仰にも反することですし、どんなことがあっても、私は赤ちゃんが欲しい・・・この赤ちゃんが欲しい。産みます、私。」
「Miss Scully、」また、医者が話しかけた。
「私は、Miss Scully なんかじゃありません！」彼女が、きっとなって言い返した。
「医者同士の話をなさりたいなら、Dr. Scully で結構です。でも、妊婦としての私にお話があるなら、Mrs. Mulder と呼んでいただきたいわ。」
医者は、ため息をついて、Mulderの方に向きなおった。
「あなたなら、奥様に、どうすべきか、きちんと言ってきかせてさしあげられますよね、Mr. Mulder。このまま出産を迎えるようなことは、奥様の命にかかわることですから。」
「でも僕としても、Dana の信仰にかかわることや良心に反するようなことを、強いるつもりはありませんよ。」
医者は、頭を振りながら言った。
「そうですか・・・。では、どうしても、あなた方の決心が変わらないということであれば、ハイリスクのケースが専門の産科医がいますから、私の方からきいてみます。今週中に診ていただけるといいんですが、現に危険な状態なんですから。正直に申し上げて、３５歳以上の初産だということは、大したリスクではないんです。しかし、あなたの病歴を考慮すると、やはりこれは、超ハイリスクと言わなければならないでしょう。」
数分後、医者が戻ってきて言った。
「あちらのドクターと連絡がとれました。彼女のところで、予約のキャンセルがあったらしくて、午後一番であれば、診ていただけるそうです。・・・お二人とも、理解しておられるのですね？妊娠によって、ホルモンバランスが変化した場合、癌を悪化させるおそれがあるんです。そして、癌を治療するための、化学療法や放射線治療は、胎児に悪影響を及ぼすことになります。」
「そんなこと、いま考えるべきことではないと思いますけど。」とScully が言った。
「この４年、癌は再発していませんし、心配はしておりませんから。」
* * * * *
医者の部屋を出ると、Scully は立ち止まって、Mulderを見上げた。
「Fox？」
「ん？」
「赤ちゃんよ！」
彼女は、大声で言うと、彼の腕の中に飛び込んだ。
Mulderは、笑いながら、彼女の体を抱きしめたまま、ぐるっと回った。
「うれしい？」彼がきいた。
「ええ！あなたは？」
「ものすごくうれしいよ！ちょっと心配だけど・・・あの医者のせいだ。だけどほんとに、ものすごくうれしいよ！」
「私ったら馬鹿みたいね。ほんと、１５歳の女の子にだって、私が妊娠していることくらいわかったはずよ。」Scully が言った。
「誰でも知ってる症状ばかりじゃないの。朝気持ちが悪くなって、疲れて、胸が痛くて・・・だけど、まったく思いつきもしなかったのよ。」
「もしかしたらお義母さんは、気がついておられたんじゃないかな。それに考えてみたら、Byers も・・・」
「母は４人も子供を産んでるんだから、わかるわ。だけど、どうしてByers が？」
「僕が君の症状を説明しているとき、ヤツがなんか言いかけたんだよ。そうだ、Byers は大家族の長男だろう？そういうこと、よく知ってたのかもな。」
「お医者様の診察が終わったら、すぐ母のところに報告に行きたいわ。」
「そうだな。ランチは食べられそう？」
「何か軽いものなら、食べられると思うわ。」
* * * * *
先ほどの医者に比べ、今度の産科医は、明るい素敵なドクターだった。
彼女は、中年の黒人女性で、はきはきと話しかけた。
「あなたの病歴やカルテを拝見しました。あちらからファクスしてもらったの。では、ちょっと診てみましょうね。」
簡単な診察の後、MulderとScully はドクターの部屋に呼ばれた。
「あなたの場合、プラス面とマイナス面の両方があります。」彼女が話し始めた。
「３０代後半の初産という点に加えて、数年前大病を患っていること、これは、どうしてもマイナスということになるわ。でもね、プラス面がたくさんあるの。あなたが現在とても健康だということ、あなたの身長に対して適正体重を保てていること、血圧も良好で、喫煙もしないんでしょう？お酒は飲む？」
「夕食のとき、たまにグラスワインを飲むことがあります。」Scully が答えた。
「それ以外では、いただきません。」
「そう、じゃあ、出産までは一切のアルコールを摂らないことにしましょう、安全第一ですからね。それからもうひとつ、あなたの味方になるのは、あなた方が幸せなご夫婦でいらっしゃることかしら。今回の妊娠は、計画なさってたの？」
Scully は笑顔になった。
「いえ、そうじゃないんです。でも、赤ちゃんが欲しくなかったという意味ではありません。つまり、私が癌の治療をしているとき、おそらく後遺症として子供を持てなくなるだろうと言われていたものですから・・・」
こんな簡単な言葉では、Scully の身に起きたことを言い表すことはできない。
しかし、癌と不妊の問題が関連していることは事実だったし、その全ての経緯をドクターに説明することはおそらく不可能だろう。
「夫は、そのことを知っていました。その頃はまだ、夫ではありませんでしたけど・・・私の闘病中、親しい友人として、ずっとそばにいてくれたのが彼なんです。結婚した後、私は、できることなら子供が欲しいと、彼に話して、それで私たち、１年 - 最初の結婚記念日まで待ってみようということにしました。１年が過ぎたら、専門医のところに行くことにしていたんです。体外受精ということも含めて何か手段がないか相談しようと。それで、だめだったら、養子をとることも考えようって言っていたんです。ですから・・・こんなにあっさりというか・・・普通に愛し合って子供ができたなんて・・・夢みたいです。数週間後には、１年目の結婚記念日で・・・これ以上の贈り物はありませんわ。」
「本当によかったわね。」とドクターが言った。
「現代の医療技術がこれだけ進歩していても、まだ奇跡にはかなわないんだわ。絶対に不可能といわれた女性が妊娠した例は、もちろんあなたが初めてではないのよ。ところで、お仕事のことですが、フルタイムで働くのはよくないと思います。上司に提出できるよう診断書を書きますからね。だいたい週に２５−３０時間を目安にして、それ以上働いちゃだめですよ。それから、月に２回は、こちらで診察を受けて下さい。他にも何か少しでもおかしなことがあったら、すぐに連絡するようにしてくださいね。それでは、こちらが栄養剤の処方箋です。・・・ということで。おめでとう！Dana ！」
* * * * *
Scully は、幸せな気分で、病院をあとにした。
そして、体の中に小さな炎がゆらめくのを感じた。この数週間で初めて、こんなにも夫が欲しい。
昨日の午後も、ふたりの時間は楽しかったけれど、本当は、自分のこと以上に、Foxの気持ちを思って彼の望みを叶えたかったというのが正直なところだった。
でも、今は・・・ふたりきりになれるのが待ちきれない！
車に乗り込むとすぐに、Scully は、伸び上がるようにして彼に近づいた。
募る想いを伝えるように、キスを交わす。深く合わさった唇が、いつまでも離れがたい。
「・・・どういうこと？」
「愛してるってこと。」
「僕も、愛してる。さあ、お義母さんに知らせに行こう。」
* * * * *
MulderとScully は、手をつないで、家のほうに歩き出した。
Maggieがドアを開けて、訝しげな顔で、ふたりの姿を見つめていた。
「ちょっと待って。あなた達、その顔には見覚えがあるわ。Las Vegasで駆け落ちして帰ってきたときの顔よ。今度はいったいなんなのかしら？」
「ママ！赤ちゃんなの！」
Maggieは、Dana を強く抱きしめた。
「ああ、Dana ！なんて素晴らしいの！・・・昨日から、そうじゃないかって思っていたのよ。でもずっとあきらめていたことだったでしょう？」
「そうなの。私も、どうして赤ちゃんができたのか、わからないの。」
「Honey、１１歳の時、ママが教えてあげたでしょう？」
Mulderが声をたてて笑うと、Scully は真っ赤になって彼をにらんだ。
「ママ！私の言ってる意味、わかるでしょう？」
「ええ、ええ、もちろんわかってるわよ。奇跡ってことね？sweetheart」
彼女はそこで、しゃべるのをやめると、娘の顔にかかった髪をかきあげて、彼女の目を見つめた。
「大丈夫なの？初めての赤ちゃんだし、昔の病気のこともあるわ。危険はないの？」
「あるかもしれないわ、ママ。でも、私は大丈夫。」
「Maggie、もっとDana にお話をきかせてやって欲しいんですが、僕たち、これからすぐオフィスの方に戻らないといけないんです。」
「そうなの、son。じゃあ急がないと。明日の夜、電話するわね、honey。そのとき色々おしゃべりしましょう。」
「わかったわ、ママ。愛してるわ。」
「私もよ。それから、私の孫にもよろしくね。」
* * * * *
F.B.I. Assistant Director Walter Skinner は、机の上の書類を凝視していた。
まず、ひとつめの問題は、処理できる。おそらく、ふたつめも、なんとかなるだろう。だが、３つめは、どうだろう。
彼の手元には、X-Files課を閉鎖する旨の司法省からの通達が、届いていた。
現在のX-Files課は、非効率かつ不必要、ということになっていた。
Mulderとは違って、Skinner は、あらゆる政府筋の決定には陰謀が隠されている、などと疑ってみることはしない。
というより、これはむしろ、X-Filesが、不運にも予算削減の犠牲になったということでしかないだろう。
もうひとつの辞令は、なんとF.B.I.長官本人から直接送達されたものだった。
それによれば、Special Agent Fox Mulder を現在の職務から解任した上で、連続殺人捜査の特別対策班の指揮をとる任務に異動させるように、とのことだった。
まるで、すべての物事がめぐりめぐって、またもとの場所に戻ってきたかのようだ。
かつてMulderは、優秀なプロファイラーとして輝かしい成果を残したからこそ、X-Filesの仕事を自ら選ぶことができた。
そして、今。彼の命とも呼ぶべきX-Filesでの成果が評価され、彼を再び、凶悪犯罪のプロファイルの仕事に引き戻そうとしている。
３つめの書類は、先週Mulder自身から報告を受けた件だ。
Agent Welch からの申述書で、Special Agent Fox Mulder と Special Agent Dana Scully の間における不適切な関係についての告発がなされていた。
どうやら、この申述書は、局の半分の人間が受け取っているらしい。ということは、Assistant Director Kersch や Assistant Director Cassidy も含まれているはずだ。
Skinner は、同じ課に所属する男女の捜査官同士の関係についての告発ほど、A.D. Joanna Cassidy を激怒させるものはないことをよく知っていた。
これらすべての問題に加えて、Scully の病気が再発したという。
Skinner は立ち上がり、廊下に出ようとしたところで、MulderとScully のふたりに出くわした。
「お時間をいただけますか。」Mulderが言った。
Mulderが言うのと同時に、Skinner が言った。
「君たちに話があったんだ。」
３人は、一瞬沈黙し、ふたたびSkinner が口を開いた。
「部屋に入ってくれ。」
ドアを閉めて、椅子に腰かけると、Skinner が言った。
「君たちに、異動の辞令がきている。」
Skinner が話し始めたとき、Scully も言いかけた。
「私たちを、X-Filesからはずしていただけないでしょうか、sir。」
Skinner は、ふたりのAgentsを見つめた。
「どうも、同じことを言おうとしているようだが、Agents 、話す順番を決めたほうがよさそうだな。」
「はい、sir。」Scully が静かに言った。
「では、まず君たちの話から、聞こう。」Skinner が言った。
「君の病気のことはきいているよ、Agent Scully 、病院へは寄ってから来たのかね？前の病気を思い出して、気にかけていたんだ。君たちの友人としても、心配していたところだ。診断の結果を教えてもらえるだろうか？」
「それが・・・病気ではないんです、sir。」
「病気でなければ、どういうことなんだ？」
「私、あの、妊娠しているんです。それで、３５歳以上の初産だということに加えて、過去の病気のこともあり、ハイリスクの妊娠であることは確かです。ですから、しばらく、勤務時間を減らすことにして仕事を続けたいのですが。もし、手続きのために必要でしたら、こちらに診断書を頂いてきました。」
「それは、おめでとう！・・・と言わせてもらうよ。ふたりとも望んでいたことなのだろう？」
「もちろん心から望んでいたことです。」Mulderが答えた。
「しかし、あの病気のせいで、あー、つまり、解決できない問題が残されたと思っていたのだが、Agent Scully 。」
「私たちも、そのように思っておりました、sir。どうしてこうなったのか、私にもわからないんです。」
MulderとScully は、めずらしくSkinner が笑うのを聞いた。
Skinner と出会ってからの数年間で、過去に一回しか聞いたことがない。
「君のお母さんは、"花とみつばち" の話をしてくれなかったのかな？」
Scully は顔を赤らめて、Mulderがからかうように笑った。
「なあDana 、自分で墓穴を掘ってるってわかってるか？今日、これで何度目だっけ？」
「ちょっと、Mulder、どうしてあなたは私のあげ足ばかりとって・・・」Scully は言いかけて、ふと、その言葉の別のイメージが頭に浮かび、思わず笑い出してしまった。
「諸君、ちょっと落ち着こうじゃないか。」
Skinner は、分別ある大人らしく聞こえるように言ったつもりだったが、まったくそうは聞こえなかった。
「はい、もう、大丈夫です。」Scully が言った。
「ただ、本当に、私うれしくて・・・」
「私も、君たちと同じようにうれしく思っているよ。君たちの転属命令を受け取ったときに、このニュースを聞けて、ちょうどタイミングもよかった。」
「どういうことなんですか？」Mulderがたずねた。
「また、X-Files課が閉鎖されるんですか？」
「そうだ。」Skinner が答えた。
「だが、君の陰謀説を唱えるのは、ちょっと待ってくれ、Mulder。公平にみて、今回ばかりは予算の都合としか思えない。君たちが、出張のとき、一部屋しかとらず、少しばかり宿泊費を節約してくれたとしても、やはりX-Files課の出張経費は、他の捜査官の平均と比べれば、かなりの高額支出だと言える。」
「どこに異動になるんですか？」Mulderがきいた。
「これが、君の異動先だ、Agent Mulder。」
Skinner は、長官からの辞令を、彼に手渡した。
「長官から？長官が僕に、特別チームの指揮をとれとおっしゃってるんですか？」
Mulderが驚いて言った。
「そういうことだ。」Skinner が言った。
「Spookyだかなんだか知らんが、君がF.B.I.で最も優秀なプロファイラーであることは誰にも否定できない。がんばれよ。彼らにも認めさせてやるんだ。私も、協力は惜しまないつもりだ。」
「私はどういうことになるのでしょう？」Scully がきいた。
「君がしばらく仕事を減らしたいということであれば、その希望に添うことができるはずだ。」
「どんな仕事ですか？」
「Quanticoの方で教えているAgent Palmerを知ってるかね？」
「もちろん知ってます。もうすぐ退職なさると伺っておりましたが。私が、あちらで教えていたときもお世話になって、いわば恩師にあたる方です。」Scully が言った。
「そうか。彼女もいま、君と同じように、仕事を減らしたいと言ってきているらしい。ご主人が進行性の難病にかかって、大変な状態なんだそうだ。できるだけご主人と一緒に過ごす時間が欲しいと。それで、とりあえず、彼女のクラスを半分、受け持ってもらえないかね？」
「それは願ってもないお話ですわ。」
「最後にもうひとつ、君たちに伝えておくことがある。」Skinner が切りだした。
「なんですか？」Mulderがたずねた。
「近々、君たちは査問会議にかけられことになるだろう。君たちの不適切な関係を告発してきた者がいる。」
「くそ！」Mulderが思わず言った。
「Welch ですね？」
「ああ。しかも、彼はA.D.Cassidyまで抱き込んでいる。」
「私たちはどうしたらいいのでしょうか？」Scully がたずねた。
「ありのままで構わない。」とSkinner が答えた。
「だが、この時機で助かったと思う。本日をもって君たちは公式にX-Filesを離れ、本日付で公式に異動の辞令を受けている。査問会議が開かれるのは、早くても今週末だろうから、その場で君たちの関係について質問されたら、君たちが夫婦であること、しかしすでにパートナーではないことを主張できる。それから、わかっていると思うが、私は君たちのことを最初から知っていたということにしておけよ。配偶者をパートナーにすることを禁じた規則に違反することを知りながら、それを暫時許可していたのは、この私だと。」
「そんなご迷惑をおかけするのは・・・」とScully が言った。
彼は、首を振った。
「かまわんよ。前例もあることだ。いずれにしても、私は、危険を背負って妊娠している身ではない、Agent Scully 。私のことより、自分のことを心配しなさい。」
「いつもお世話になって、私たち本当に感謝しています。」
「あの、今、前例があるとおっしゃいましたよね。夫婦がパートナーとして働いていたということなんですか？」Mulderがきいた。
「いや、夫婦ではないんだ。」Skinner が言った。
「だが実際、夫婦に適用される規則というのは、厳密に言えば存在しないわけだ。君たちも知っての通り、同じ課に所属する捜査官同士の不適切な関係を禁じた規則はある。しかし、夫婦の場合は不適切とはいえない。そうであれば、その規則は、夫婦には適用されないはずだ。一方、別の規則があって - 私はこれを引用してみようと思っているんだが - 肉親同士をパートナーにはしないということになっている。肉親という中には、配偶者、兄弟、親子・・・すべて含まれるはずだ。話は７０年代にさかのぼるんだが、この規則に反して、ふたりの兄弟が同じ犯罪対策班にいたらしい。それが有名なマフィアとつながっていて、問題になったんだな。CassidyとWelch は、この問題をセックススキャンダルに仕立て上げようとしているようだが、私は別のアプローチで攻めてみるよ。単に、君たちが家族だという点に絞って論じるつもりだ。」
「私は、妊娠のことを申し上げるべきでしょうか？」Scully がきいた。
「仕事を減らす理由について訊ねられたら、健康上の理由だと答えればいい。さらに、その内容についても聞かれたら、危険を伴う妊娠中なのだと言いなさい。だが、彼らの質問が、Agent Mulderとの関係を問いただすものだとしたら、いきなり "彼は、お腹の子の父親です" などと言ってやる必要はないと思う。さあ、これでいいだろう。早く行って、地下のオフィスの荷物を整理してくるように。明日の朝から、君たちには新しい職場に行ってもらうんだからな。Mulderは凶悪犯罪、Scully はアカデミーだ。」
ふたりは頷き、オフィスを後にした。
* * * * *
オフィスを片づけ、私物を箱に詰めてしまうと、MulderとScully は最後にもう一度、この地下のオフィスの光景を目に焼きつけた。
ずっと、ふたりで過ごしてきた場所だ。
そのとき、Scully が、いたずらを思いついた子供のような顔で笑うと、ドアのところまで行って鍵をかけた。
「なにしてるんだ？babe。」Mulderがきいた。
「ねえ、Mulder、結婚してすぐの頃、私が言ったこと覚えてる？いくら夫婦でも、F.B.I.のパートナーである以上、このオフィスで愛し合うなんて、私たちの神聖な職場を冒涜することよ、って。」
「ああ、覚えてる。」彼はため息をついて言った。
「でも、それでよかったんだと思うよ。まあ、君をこのデスクの上に押し倒すっていうのは、ずっと憧れていた夢だったからな、それが叶わないままここを出ていくのは、寂しい気もするけど。どうしてそんなこと急に？Scully 。」
「Mulder。本日の午後をもって、私たちはパートナーではなくなったわけよね。それに、このオフィスは、もう私たちの神聖な職場でもないのよね。」
Mulderは、後ずさり、デスクの端をつかんで体を支えた。
彼の今の姿！なんてセクシーなのかしら。
上着を脱いで、ネクタイをゆるめて・・・シャツを腕まくりしている彼。
彼、わたしだけのものなのよ！
「Scully 、それ本気か？ "僕の夢" だったとは言ったけど、僕が勝手に思い描いてた妄想なんかのために、君が無理することないんだから。僕たちの子供だって・・・いるのに。」
「だれが "あなたの" 夢だと言ったのかしら？」
と言いながら、Scully は彼の前にひざまづき、ジッパーを下げると、茫然自失に陥っている夫が抵抗する前に、唇を寄せた。
Mulderの食いしばった歯の間から、うめき声が洩れる。
Scully が、僕に・・・このオフィスで・・・
永遠の夢が、つかの間の現実に変わる。遠い夢が、今、彼を優しく戒める。
彼女は最後に軽く口づけると、立ち上がって言った。
「服を脱いでくださらない？Mulder。それから、デスクの方へどうぞ。」
「はいはい、奥様。」Mulderが答えた。
彼が、妻の言葉に従ってデスクに身を置くと、彼女は、彼の前に立ち、着ていたものを一枚一枚、焦らすようにゆっくりと床に落としていった。
そして、デスクに近づくと、彼の上に体を重ねた。
彼は、彼女のうなじに手を伸ばして引き寄せると、唇をとらえ、夢の続きを味わった。
Scully が切なげにあえぐと、彼はちょっと微笑んだ。
そして、背骨をたどり、やわらかな丸みをなぞってから、彼女の内側にその指先を埋めた。
温かな潤いが、彼の指を濡らす。
彼がもう一本指を滑り込ませ、感触を確かめるようにそっと動かしたとき、彼女が囁いた。
「待って。」
「痛いの？」
「ううん、そうじゃなくて・・・。私・・・一緒がいいの、あなたと。」
彼は黙ってうなづくと、妻が体をずらして、彼を迎え入れるのを支えた。
彼の上で、彼女が揺れる。
彼女の美しい顔がばら色に染まり、彼女の温もりが絡みつく。そしてじわりと締めつけられたとき、彼はこの現実に魂を奪われた。- Scully と、オフィスのデスクで愛しあう夢 - その夢が今は現実。
その瞬間、彼女と時を同じくして、彼もあの高みに達した。
一緒に昇りつめた高みから、ふたりで揃って降りてくると、彼女は、音も立てずに深いため息をつき、夫の肩に顔を埋めた。
「こら、sweetheart、こんなところで寝ちゃだめだって。今、誰かに見つかったら、即刻F.B.I.を追い出されちゃうよ。夫婦だなんて言い訳は通用しないぞ。」
「んー、ええ、そうよね。」
ふたりは、名残りを惜しむようにゆっくりと、服を身につけた。
そして、Mulderは、もう一度、オフィスを見渡した。
ここにはもう、やり残したことも、思い残すことも、何もない。
彼は、段ボール箱を抱えると、もう片方の腕を、Scully の肩に回した。
ふたりが、メインフロアでエレベーターを降りたとき、Special Agents Carla Stonecypher と Michael Kingsley にばったり会った。
Stonecypher とKingsley のふたりも、３０代後半の男女で、長い間パートナーを組んでいる。
ただし、MulderとScullyとの共通点はそれだけだ。
彼らは、教科書どおりの規則を絵に描いたような捜査官だったし、詐欺や横領といった知能犯系の犯罪の専門家だった。
それに、StonecypherとKingsley を見て、ふたりの間には何かあるんじゃないか、などと疑う者は一人もいないだろう。
（見た感じだと、彼は結婚してるわね。しかも、カトリックの女性と。・・・私もだけど。それで、すごくたくさん子供がいるはずよ・・・６人とか。）とScully は心の中で考えた。
Stonecypher の方は、同性愛者だというもっぱらの噂だった。
Scully はその噂を気にとめたことはなかったが、といって、あながち嘘だとも言い切れない気がした。
「お、君たち、聞いたぞ。パートナー解消だってな。X-Files課もなくなるんだって？」Kingsleyが声をかけてきた。
「私も聞いたわ。残念ね。」Stonecypher が、いかにも同情しているような声で言った。
「あなたにはX-Filesが子供みたいなものだったんじゃない？」
「ああ、もういいんだ。」Mulderが笑って答えた。
そして、Scully の背中に手を添えて、駐車場の方に歩き出しながら、つけ加えた。
「今は、本物がいるからね。」
MulderとScully がロビーを歩いて行くのを見送って、Stonecypher は自分のパートナーの方を向いた。
そして、怪訝そうな顔をしてたずねた。
「あの人、どうしちゃったの？」
* * * * *
家に戻ると、Scully はソファに横になり、Mulderが夕食の準備を始めた。
彼の料理の腕前は、もちろんシェフ並と言えるほどのものではなかったが、持ち前の集中力をもってすれば、スクランブルエッグや、具だくさんスープにサンドイッチを作るくらいのことは簡単にできた。
彼が、お皿をテーブルに並べているとき、ドアをノックする音が響いた。
外をチェックすると、Frohike がいた。
Mulderはドアを開けて、友人を中に招き入れた。
「どうも、おふたりさん。邪魔しちゃ悪いと思ったんだが、近くまできたついでにね・・・医者が何と言ったか聞きたくて。」
Scully は、笑顔で、Frohike とMulderを手招きして、自分の横に座らせた。
「お医者様はね、赤ちゃんですよ、って！」にっこり笑いながら、Scully は言った。
Frohike は、一瞬たじろいだ後、ぎこちなく腕を伸ばして、大切なふたりの友人を抱きしめた。
「それはすごい！」
End
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