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DISCLAIMER: The characters and situations of the television program
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.
TITLE
: For better ? or Worse ?
作：Angela
Wardさん 訳：bagpiperさん
F.B.I. Special Agents Fox Mulder とDana Scully は、事件の捜査でAlabamaにいた。
Scully の症状は、そこから始まった・・・
その日は、早朝から予定が入っていた。病院に勤める証人が、夜勤明けに彼らと会ってくれることになっていたのだ。
ところが、５時にアラームの音で目覚め、ベッドから立ち上がったScully は、激しい吐き気におそわれた。
夫と入れ違いに、彼女はかろうじてバスルームに駆け込んだ。
彼女の吐き気が治まってから、彼は、彼女の顔にかかった髪をかき上げてやり、濡らしたタオルを手渡した。
「大丈夫？Scully 。」
「うぅ。ええ、たぶん。」
「昨日食べたメキシコ料理のせいかなあ。」Mulderが言った。
「あのレストラン、ちょっと怪しかったからな。」
「そうね、」Scully が答えた。
「そう、私も、メキシコ料理のせいだと思うわ。そんなに特別な郷土料理って感じでもなかったけど。でも、もうすっきりしたから、本当に気にしないで。あなたは、平気なの？」
「全然平気さ。証人の方は、僕ひとりで会いに行ってこようか？」
「いいえ、もう大丈夫よ。」
* * * * *
Scully は、日中には、すっかりよくなったように感じていた。
軽くランチも食べられたし、午後は、地元警察のラボで、ずっと証拠の分析をして過ごした。
夕食の時間になって、夫と合流し、今度はこぎれいな全国チェーンのレストランに入ったときも、気分はよかった。
しかし、そのあと、地元の警察官と打ち合わせをしてから、ホテルの部屋に戻ると、まだ１０時前だというのに、目を開けているのがやっと、というほど眠たくなってしまった。
「まだ気分が悪いんじゃないのか？Dana 。」Mulderがきいた。
「ちがうの。本当よ。」彼女は、あくびをしながら答えた。
「ちょっと疲れたのかしら。夜明け前から起きてたから、きっとそのせいね。」
「君は、もっと長い時間働いている時でも、真夜中まで疲れ知らず、って感じにみえたけど。」
「そうね、多分、事件が解決したからだと思うわ。事件の捜査中は、アドレナリンが駆けめぐってるから頑張れるんだけど、容疑者を逮捕してしまうと、なんだか気が抜けちゃうのよね。前にもこんなことがあった気がするわ。」
Scully は、歯を磨いて、パジャマに着替えると、ベッドに入った。
Mulderは、まだ記憶が新しいうちに、Skinner に提出するレポートの下書きを、メモに残した。
しばらくして、彼は仕事を終えると、彼女の隣にもぐりこんだ。
本当はまだ、ちっとも眠くなかったけれど、男だったら、眠る以外にも、ベッドで奥さんとやることがあるんだな！
Mulderは、Scully を自分の腕の中に抱き寄せると、パジャマの下に手をいれた。
彼は、出張のときや、親戚の家に泊まりに行くとき、彼女が着るパジャマに愛着を感じていた。
見ためは、家で着ているナイトウェアよりおとなしい印象だけれど、彼女はそれを素肌に身につけていた。
夫の手が、太腿の間をかすめ、そっと腰のあたりをなぞったあと、背中を優しく撫ではじめたとき、Scully は、ため息を洩らした。
「こういうの好き？」Mulderが声をひそめてきいた。
「すごく好き。」彼女がうなずいた。
「でも、あなたが思っているような意味じゃないかも。」
「どういうこと？」
「あのね、あなたにそうやってもらうと、ほんとに安心できるし、いい気持ちなんだけど・・・私、今日はとにかく眠くて眠くて。・・・ごめんなさい。」
「かまわないよ。」彼はそう言いながら彼女の頬に口づけると、手を伸ばして明かりを消した。
「ゆっくり休んで、baby。」
* * * * *
翌朝、Mulderは、ランニングに行くために、早い時間にベッドをぬけだした。
Scully は、ドアの閉まる音を聞いて、彼が戻ってくるまでにシャワーを浴びておこうと思った。
ところが、ベッドから起きあがった瞬間、また、あの吐き気におそわれてしまった。
昨日の朝よりはましな気がするし、実際に吐いたわけではないのだが、本当にむかむかする。
その後、空港まで移動し、Washingtonに飛行機で戻ると、数時間、地下のオフィスで仕事をした。
Scully は、昨日と同じ間隔で、同じ症状が繰り返されていることに気がついた。
吐き気自体は、ランチのときにはおさまって、午後から夕方にかけて、気分がよくなっていた。
ところが、また、いつもの就寝時間より何時間も前に、ぐったり疲れてしまった。
そして、こんなに大好きな夫といるのに、ベッドに入って、したいことと言えば眠ることしか考えられなかった。
「Dana、これはメキシコ料理なんかのせいじゃないよ。ほかに原因があるんじゃないか？」
Mulderが、彼女に添い寝をしてやりながら訊いた。
「どこかで風邪でもうつされたみたいね。」彼女も言った。
「多分、初期感冒ってところだと思うわ。」
「明日は、仕事に行かない方がいいと思うけど。」
「どうかしら。明日は金曜日でしょう。一緒に行って、Skinnerへの報告も済ませてしまったほうがいいと思うわ。その方が、心おきなく、週末をリラックスして過ごせるし、風邪も早く治ると思うの。」
「あれから、また吐いたりしてないのか？」
「してないわ。」彼女は、正直に、事実を答えた。
「昨日の朝のあれだけよ。」
本当は、今朝も吐いてはいないものの、実は胸がむかむかしていた、ということまで夫に伝えて、彼を心配させる必要はない、と彼女は思った。
* * * * *
その症状は、その後も数日間、出たり出なかったりという状態が続いた。
週末の間は、症状も軽くなり、治ったように思っていた。
ところが日曜の午後、彼らが愛し合っているときに、Danaは別の症状に気づき、また不安になった。
Foxが彼女の胸に吸いついたとき、いつものように優しくしてくれたのに、彼女は、やめてもらわなければならないほどの痛みを感じてしまったからだ。
月曜には、新しいX-Filesの事件が入り、Kentuckyまで行くことになった。
そして、また、あの症状が、ぶり返した。
ほとんど揺れてもいない飛行機の中で、離陸直後から、彼女はひどい吐き気に悩まされた。
「家に帰ったら、医者に電話して予約をとらなきゃ。」Mulderが言った。
「ええ、そうした方がいいみたい。もう治ったかと思っていたんだけど、また、同じ症状だわ。」
* * * * *
今回の捜査では、Lexington支局の捜査官と、協力することになっていたので、MulderとScully は、念のため、別々の部屋をとることにした。
結婚前のように別々の部屋だが、内側に行き来できるドアのついている、並びの部屋を用意してもらった。
なぜ今回に限って用心深くするかといえば、支局捜査官の一人が、Welchという捜査官だったからだ。
WelchはMulderとアカデミーで同期だったのだが、その頃から、お互いに反発を感じていることは明らか、という間柄だった。
「お前のパートナー、どっか悪いのか？Spooky。」
早朝の打ち合わせで、Scully が２度目に席をはずしたとき、Welchがたずねた。
「風邪でもひいたんじゃないか。」Mulderが答えた。
「先週から調子がよくなかったんだ。週末休めば、元気になるだろうって言ってたんだが、まだ治ってないみたいだな。」
Welchのパートナーで、５０代後半の男性捜査官Agent Adams が、何か言いたそうに、口を開きかけたが、Mulderが目をやると、彼は口を閉じて、頭をふった。
４人の捜査官は、深夜まで長時間の激務をこなした。
MulderとScully がホテルに戻ると、彼女は見るからにくたびれきった様子だった。
Mulderは、とりあえず自分の部屋でしばらく時間をつぶすということもせず、しかも、自分のベッドを乱しておくとか、部屋のあちこちに、これ見よがしに、自分の持ち物を置いてみるとか、そういう細工もしておかなかった。
そして彼は、それを後悔することになる・・・
MulderとScully は、ふたりとも深い眠りに落ちていた。
廊下側のドアが叩かれ、彼は、びくっとして目が覚めた。
「おい、Mulder、起きろ！」Welchの声だった。
「また、事件だ。」
Mulderは、急いで内側のドアを通って、彼の部屋のドアを開け、廊下に出た。
そこには、Welch とAdamsが立っていた。
「わかったって。静かにしろよ。服を着てから、Scully を起こしに行くよ。」
Welch は、物も言わずに部屋に押し入った。
彼は、Mulderの、いかにも起きたばかりでくしゃくしゃの姿を見た後、視線を移して、きれいに整えられたままのベッドをじっと見た。
そして、部屋の中を横切って、なかば開きかけた続きドアのほうにずかずか歩いていった。
「おい！そっちには、Agent Scully が寝てるんだぞ！お前、いい加減に・・・」Mulderが言いかけたが、Welch は、Mulderにつかまる前に、ドアのなかに入り込み、明かりをつけた。
その時になってようやくMulderとAdamsが、ドアの入り口のあたりで、Welch に追いついた。
Welch は、ベッドに座っている寝起きのScully をじろじろ眺めた。
「事件ですよ。Agent Scully 。」
「みなさん、ここから出て行ってくださったら、私、着替えて、５分以内に合流しますわ。」と彼女が答えた。
「Agent Adamsと僕は、ロビーでお待ちしてますよ。」Welch は、口の端に卑しげな笑いを浮かべながら言った。
「あなたの・・・パートナーは別なんでしょう？今さら、彼の前で服も脱げない、みたいなフリをするなんて、僕らは馬鹿にされてるんですかね？」
Welchは、自分の言葉を強調してみせるかのように、Mulderの寝ていた跡が残るベッドや、デスクチェアに掛けられたMulderの洋服を、わざとらしく見まわした。
そして、踵をかえして出て行った。
Mulderは、２人の捜査官が去ったあと、しばらく口を開かなかった。
彼は、どの神様を信じているのか自分でもわからなかったが、とにかく神に感謝の祈りを捧げた。
（今夜、ホテルに戻ったとき、愛し合う余裕もないほど、妻が疲れていたことに感謝します。）
少なくとも、彼らはふたりとも、一応何かしら身につけていた。
彼は、ボクサーショーツの上にＴシャツを着ていたし、彼女も、パジャマを着て、しかもきちんとボタンをとめていた。もちろん情事の残り香が漂っているはずもない。
Scully は、ため息をついた。
「彼、私たちのことを報告するつもりなんでしょうね。」
Mulderがうなずいた。
「Agent Adamsと話し合ってみるよ。彼の方が上席捜査官だ。彼なら、Welch を説得してくれるかもしれない・・・期待はできないけどな。」
Scully は、もう一度ため息をついた。
「皮肉なものだと思わない？今夜は、本当に、私たち何もしていないのに、こんなことになるなんて・・・」
Mulderは、弱々しい笑顔で答えた。
「まったくだ。それより、君、具合はどう？」
「正直言って、だめみたい。でもいいの。私、Welch の靴に、わざと-うっかり、吐いてやるから。」
* * * * *
次の日の夜。
事件の捜査が終了すると、Scully はまっすぐホテルに戻り、Welch は、何処ともなく消えていった。
おそらく、本部の誰かに、Special Agents Fox MulderとDana Scully の関係を、ご注進しにいったのだろう。
X-Files 捜査課の２人の捜査官は、F.B.I.の規則に違反して、同じ課に所属する捜査官同士の不適切な関係にあります！とかなんとか・・・
Skinner は、このことをすでに知っているし、ふたりがパートナーとして一緒に働くことも了承してくれている。もちろん、慎重な行動を忘れずに、という条件付きだ。
ところが、それもぶち壊しになってしまった。
MulderとAgent Adamsは、支局のオフィスに残っていた。
「昨晩のことですが、」とMulderが話し始めた。
「Agent Scully は、具合がよくなかったんです。あなたも、昨日の朝、彼女の様子をご覧になったからご存知ですよね。僕は、彼女の容態が、夜中に悪化するかもしれないと思ったんです。それで、もし、彼女が、医務室とか病院に行かなければならなくなったら、すぐに僕を起こせるように、そばにいてやったほうがいいだろうと。」
Adamsは、ため息をついた。
「理由は知らんが、Welch は、君を目の敵にしているようだな、Agent Mulder。彼は、君たちの不適切な関係を本部に報告するつもりだと、さっき私に言ってきたよ。今、こうしている間にも、行動に移しているかもしれんな。」
「あなたは、どう思われたんですか？」Mulderが訊いた。
Adamsは、ふたたびため息をついた。
「もし、目撃したのが私だけなら、真夜中に大人の男女が何をしていようと、それは彼らのプライバシーであって、F.B.I.とは関係ない、と考えたはずだ。ただ今回の場合、Welchの報告についての確認を求められたら、君たちは眠っていたように見えたが、君はチェックインした部屋にはいなかった点、それから、Agent Scully の部屋に君の洋服があった点については、肯定せざるをえないだろうな。」
「そうですよね。」Mulderが言った。
「しかし一応、それとは別に、」とAdamsが前置きをしてから言った。
「私は、証言させてもらうつもりだよ。事実その日の朝から、Agent Scully の体調は、明らかに良くなかったということと、私たちが部屋に入っていったとき、２人ともきちんとした身なりでいたということだけは、言っておきたいと思っている。・・・あまり役には立たんかもしれんがな。F.B.I.というところは、男女の関係には、うるさいところなんだ。彼女の容態が悪くなったときに、君をすぐに起こせるように、同じベッドでやすんでいただけだと主張しても、局にしてみれば、十分パートナー解消の理由になるんだろうな。」
Mulderは、ただうなずいた。
まして彼のような人間が、他の捜査官に「事実の隠蔽工作」を頼むことなどできるはずもなかった。
* * * * *
金曜の午後、ふたりは、Washingtonに帰ってきた。
Mulderは、Scully を家に送り届けると、彼女が主治医に予約の電話をしている間に、スーツケースやかばんを家の中に運び込んだ。
「先生は、月曜の朝一番に診て下さるって。」彼女は電話を切ると、夫に報告した。
「僕も一緒に行くからな。」
「それで気が済むなら、どうぞ。でも、本当に風邪のウイルスかなにかだと思うわよ。来週、お医者様に行くころには治っているかもね。」
「先週も同じこと言ってただろ。」とMulderが彼女に言った。
「僕はちょっと、１，２時間、オフィスの方に行ってくるよ。報告書を仕上げて、Skinner に見せてくる。君は、家で休んでいた方がいい。」
Scully は、Mulderの言うことを素直にきいた。
そして、そのことが逆に、Mulderを心配させた。
いつもなら、彼をひとりで上司のところに報告に行かせるなんてことは、絶対にさせないはずなのに・・・
今の彼女は、それほどまでに体調が悪いのだと、あらためて思い知らされた。
* * * * *
５時をすこし回ったころ、Mulderは、Skinner の部屋のドアをノックした。
まだ、彼もデスクで仕事をしていた。
「Agent Mulder。入ってくれ。Agent Scully はどうしたんだ？」
Mulderは、ドアを閉めて、Skinner の机の真向かいに腰かけた。
「そのことで、お話があります。Scully がまた病気らしいんです。」
Skinner は、じっと彼を見た。
「癌が再発したということなのか？」
「まだわかりません。月曜の朝一番に、医者の予約をとりました。それで、その日は、ふたりで行きたいんですが。今は、家で寝ているように言ってあります。」
「いつから、おかしくなったんだ？」
「２週間ほど前です。最初は、場末のレストランで食べたものにでも、あたったのかと思っていました。彼女も、風邪くらいにしか思っていなかったんです。ですが、その症状がずっと長引いていて・・・。Scully は、多分なんでもないと・・・僕が心配しすぎだと言うんですが、でも・・・」
「月曜は、ふたりとも、そちらを優先していいぞ。ただし、結果をすぐに報告して欲しい。それでいいか？」
「もちろんです。こちらが今回の報告書です。X-Filesの事件としては、比較的まともな事件でした。もし、なにか疑問に思われることがおありでしたら、おっしゃってください。それから、もうひとつ、お知らせすべきことがありまして。たぶん、すぐお聞きになることだと思うんですが、Lexingtonの捜査官から公式の報告がくる前に、僕が自分で報告するのが筋だろうと思うんです。」
口元を少しほころばせて、Skinner が聞き返した。
「今度は何をやらかしたんだ？」
Mulderは、ため息をついた。
「ばれたんです。Lexingtonの捜査官達に。僕たちは、別々の部屋をとっていたんですが、続き部屋になっていて、それで僕たち、片方しか使ってなかったんです。」
「その捜査官達は、君たちが、その・・・」Skinner は、そこで口ごもった。
あの冷静沈着な上司が、言葉を失う姿を見られるなんてめったにないことなのに、今はそれを笑う余裕もない。
「僕たちは、眠っていただけです。Scully は疲れ切っていたし、とにかく具合も悪かったので。それでも、僕たちが同じベッドで寝ていた、というのは明白な事実ですから・・・」
今度は、Skinner がため息をつく番だった。
「もしかしたら、神の思し召しじゃないのか、Agent Mulder。いずれにしても、自分の妻が病気で療養が必要だということになれば、君だって、ふたりのことを公にしてしまったほうが、楽だろう。」
Mulderはうなずいた。
「そうかもしれません、sir。」
Skinner は、報告書を手にとって言った。
「もう家に帰りなさい。事件について何かあれば、あとで電話をするから。」
* * * * *
モルダーが家に帰ると、Scully は起きていて、パソコンの前に座っていた。
「寝てなきゃだめじゃないか。」Mulderは慌てて言った。
「ずっと寝てたわ。さっき、母から電話があったの。こっちに戻ってるのか知りたかったみたい。日曜日にミサのあと、ママの家でお食事でも一緒にしましょ、って言っちゃったんだけど。」
「それは楽しみだな！」Mulderは言った。
彼は、心底そう思って言った。
よくコメディのネタなんかで、夫と義母の敵対関係を茶化したりしているけれど、Maggie Scullyは本当に、彼の敬愛する人物のひとりだったのだ。
「私が何をしてたか、ききたい？」
「うん。」
「私の症状を入力して、医療データベースを検索してたの。いろいろな病名がでてきたわ。でも、命にかかわるような病気じゃないことだけは、たしかよ。」
「たとえば？」
「えーと、最も可能性があるのは、風邪のたぐいよ。私が言ってた通りよね。それから、症状からすると、伝染性単核症の可能性もあるけど、私の場合は、これはまず考えられないわ。」
「どうして？」
「とても感染力が強いものなの。もし私が罹ったら、今頃あなたにも、確実に伝染しているはずよ。」
「ほかには？」
「いろいろあるけど。でもほとんど、自然に治ってしまうか、すぐに治療できるようなものよ。あとは、慢性の病気ってことになるけど、深刻なものじゃないわ。」
「ちゃんと説明してくれよ。」
「ええ、あのね、私の症状によれば、成人期発症糖尿病の可能性もあるわ。糖尿病って、絶対完治しない病気なの。だけど、食餌療法と、必要ならインシュリンの注射で、症状を抑えることは簡単にできるわ。糖尿病患者でも大勢の人が、７０代まで生きているのよ。それから、ねえ、１５年くらい前に、新聞とか雑誌にもよく出ていたんだけど、慢性疲労症候群って覚えてる？」
「たしか、それ、ヤッピー風邪って言われてたやつだろ。」
「そう、それよ。どういう人がなるかっていうと、年齢も性別も生活形態も関係なくて、誰でもかかるかもしれないっていう病気なんだけど、患者の大半は私みたいな人なのね。女性で３０代、そしてストレスの多い職業に就いている・・・。これも治療する方法はないわ。でも、もちろん死ぬような病気じゃないし、症状も一進一退を繰り返していくだけよ。」
「だけど、やっぱり僕は、君の病歴も全部わかってる医者に見てもらうまでは、絶対安心できないな。」
「そうね。でも、とにかく週末は楽しく過ごしましょうよ！ね？」
彼は、うなずいた。
* * * * *
土曜日の午後になって、Scully の症状は軽くなり、彼女は、夜、外出することを思いついた。
「３人組にお電話してみない？アジトの近くのチャイニーズレストランで、お食事でもしないかって。」
「そんなことして、君、だいじょうぶかな。」
「今は、気分がいいの。それに、最近ずっと出張ばかりで、みんなの顔も見てないわ。」
「Dana、Frohikeに会えなくて寂しい、なんて言ったら怒るぞ。」
答えるかわりに、夫に向かって舌を出してから、Scully は電話をかけた。
ＴＬＧの留守電に、７時頃レストランで会いましょう、というメッセージを残した。
ところが、MulderとScully が、お店に着くと、Frohike とLangley だけが先に来ていて、彼らを迎えた。
「こんばんわ！」Scully は、ふたりの頬に軽くキスをしながら言った。
「Langley は？」
「いや、それが、あろうことか」とFrohike が言った。
「やつはデートにお出かけなんだ。」
Scully は、椅子に座りながら、ぽかんとした顔をして彼を見つめた。
「うそでしょう！？あなた達が、デートしてるなんて話、聞いてないわ！だって、私以外に女の影を見たことないもの！」
「それがLangley は、時々、デートに行くんだよ。」Byers が説明を始めた。
「彼はね、出会い系サイトで知り合った女性を、お茶かなんかに誘うんだ。」
「たいていの女性は、Langley をひとめ見るなり、叫び声をあげて、逆の方向に走り去っていくけどね。」とFrohike がつけ加えた。
「だけど、１年くらい前だったか、実際３，４回は会って、デートもしたって相手がいたな。」とByers 。
「そう、何度か家に戻らなかった夜もある。」とFrohike 。
「あなた方は、どうなの？」とScully がきいた。
正直なところ、本当に興味があった。
今日はじめて、彼女は、３人組の日常生活や、家族のことなどを、実はよく知らなかったことに気づいた。こんなに長い間、すてきな友人としてつき合っているのに。
「このWashingtonでは、デートとは無縁だね。」Byers が言った。
「だけど、僕は、６人兄弟の長男で、僕と末の弟の間には４人の妹がいてね、Pennsylvaniaの実家には、祝日だの結婚式だの卒業式だのなんだのって、よく帰るんだけど、そうすると妹たちが、友達を連れてきて、デートのセッティングをするんだよ。まあ、僕ものせられて、行くわけだけど。それで楽しく過ごせるし、家族には、僕はゲイじゃないってことをわかってもらえるしね。ああ、もしかしたら、君たちもそう思ったことがあるかもしれないけど、僕は、ゲイじゃないよ。」
「そんなこと、思ったことないわよ。」Scully は、真顔で言った。
「まだ、Suzanneに未練があるのか？」
「いや、あまり深入りしないほうがいいと思うんだ。」Byers が仏頂面をして言った。
「もう忘れたほうがいいよ、Byers 。」とMulderが言った。
「君からそんなアドバイスをもらう日が来るとは思わなかったな！なにしろこの男ときたら、四捨五入して１０年近くも、坊さんみたいな生活を送ってた理由というのが、まだ寝たこともない女性に操を立てて、『裏切るようなまねはできない』とかって言ってたのを、僕は知ってる。」
「ああ、そうだったかもな。だけど僕たちは、寝たことはなくても、起きている間は、ずっと一緒にいたんだから。」とMulderが答えた。
「僕たちは、ほとんど毎日、見つめ合い、話し合い、触れ合うことだってあったんだぞ。自分を覚えてもいないような女性のために、人生捨ててたわけじゃない。」
「ちょっと、みんな待って。」Scully が言った。
「あなた、私たちの話をしてるの？」
「ああ、うん、当たり前じゃないか。」彼女の夫がそう答えた。
「あなた、本当に、みんなにそう言ってたの？私を裏切りたくない、って？」
「うん。」と彼が認めた。
「Mulder！あなたったら！私・・・うれしいわ！」
「・・・いいから、Frohike の恋のゆくえを聞こうよ。」Mulderが言った。
「ゆくえ知れず、が正しい。」とFrohike が言い、小さく笑った。
「君は別だけどね、Scully 、僕は、ほんと女性には縁遠いんだ。Virginia叔母くらいかな。」
Scully が笑顔になった。
「前に一度話してくれた方ね。Virginiaに住んでるVirginia叔母さん、よね。仲がいいの？」
「まあね。叔母はいちども結婚してないんだ。それで、僕が父親に、結婚してないからって人生がみじめになるわけじゃないって言ってきかせようとしてると、僕の味方になって援護してくれるのさ。」
Scully は、また笑顔になった。
みんなと、陰謀だとかコンピュータシステムに侵入するとか、そういう話じゃないことをおしゃべりするのって、楽しいわ。
家に帰ったら、Suzanneの件をMulderと一緒に考えてみなくちゃ。
その夜の食事は、終始なごやかに愉快に過ぎていった。
突然、Scully は、喉元まで突き上げるような吐き気に見舞われた。
「ちょっとごめんなさい。」彼女は、口の中で言ってから、席を立ち、レストルームまで、文字通り走って行った。
そして、ぎりぎりたどり着くと、夕食で食べたものを全部もどしてしまった。
Mulderは、他の２人と一緒に、テーブルに残っていた。
「僕がなにか言ってしまったのかな。」Frohike が聞いた。
「ちがうんだ。」Mulderは、こわばった声で言った。
「彼女、病気なんだ。ここのところずっと具合が悪くて。月曜の朝一番で医者の予約もいれてある。」
「もしかして・・・癌が再発したってことか？」Frohike が心配そうにきいた。
「わからない。彼女はずっと、たいしたことない、風邪かなにかだって言い張ってる。今日は一日、調子がよさそうだったから、もう治ったのかと、僕も思い始めてたくらいなんだ。だけど、やっぱりまだ治ってなかったんだな。」
「どんな具合なんだい？」Byers がたずねた。
「とにかく、吐き気がひどいんだ。特に朝起きたときとか。それと、めちゃくちゃ疲れやすくなってる。」
「それって、まるで・・・」とByers が言いかけたが、すぐに首をふってやめた。
「いや、なんでもない。」
「なんて医者に言われたか、僕らにも知らせてくれよ。」Frohike が言った。
「もちろん。」Mulderが答えた。
* * * * *
日曜日。
Mulderは、朝のジョギングには行かずに、妻と一緒に教会に行くことにした。
妻に付き添ってミサに出ることなどめったにないのだが、スカリーの体が心配で、そばについていなければ気が済まなかった。
ミサの後、彼らは、妻の実家に車ででかけた。
「Fox、私、母に、病気のこと言うわ。」
「いいけど、なぜ？」
「ほら、前に癌で入院したとき、母より先にあなたに知らせたでしょう。あのとき、母に怒られたの。たった一人になってしまった娘の命にか
かわる事実を知る権利が、母親にはあるって。当然よね・・・。昨日、３人組にも知られちゃったし。」
食事の間に、Scully は、さりげなく、明日の朝お医者様の予約をとったという話をした。
それから、今の状態を簡単に説明した。
「Dana 、あなた・・・」Maggieは言いかけた言葉を、はっとして飲み込んだ。
「なあに？ママ。」Scully が聞いた。
「いえ・・・あの、ただ、私にも２０代と３０代の頃、そんなことがあったような気がすると思って・・・」
「何度もあったんですか？」Mulderがたずねた。
「ええ。」Maggieがうなずいた。
「もし、私と同じ症状なら、必ずよくなるわ。でも、お医者様には行かなきゃだめよ。」
「どういう病気？ママ。遺伝性ってこともあるでしょう？」
「いい加減なことは言えないわよ、Dana 。違う病気かもしれないし、用心に越したことはないもの。とにかく、お医者様に診せたら、すぐに結果を教えてちょうだい、いいわね？sweetheart。」
「わかったわ、ママ。」
* * * * *
家に帰ってくると、Scully は、大きなあくびをした。
「ちょっと、お昼寝するわね。ねえ、あなたも一緒にベッドでごろごろしたら？本を読むとか、テレビを見るとかできるでしょ。」
「うーん、そうだな。」とMulderが言った。
Scully は、枕に頭をのせたとたん、寝入ってしまった。
Mulderは、ベッドサイドのテーブルから雑誌をとると、面白い記事が載っていたらしく、それを読み出した。
１時間ほどすると、Scully がごそごそ動いて、夫に体をすり寄せてきた。
（あら・・・）
彼の体に脚を重ねようとしたとき、彼女が気がついた。
「Fox、私の "Victoria's Secrets" のカタログ見てるの？それとも、Frohike が、昨日なにか貸してくれたとか。」
「"OMNI"を読んでるんだよ、sweetheart。なんで？」
「んー、だって、Mulder。あなたが、エイリアン大好きなのは知ってるけど・・・だけど、これはないわよね。」
彼女は、ズボンの上から、そっと撫で上げて、言葉の意味をほのめかした。
「それ、雑誌のせいじゃないよ。君がそうやってなついてくるからだよ。」
「もっと、なついてほしい？」
「大丈夫なの？Dana 。ずっと具合が悪かったのに。」
「ええ、ちょっとだるいみたい。だからね、私はなんにもしないで、あなたを待ってるっていうのはどう？そしたら、あなたが私を抱いてくれるの。」
「"眠りの森の美女" みたいに？」
「そうよ、早く探しにきてちょうだい、王子様！」
Mulderは、笑いながら起きあがると、服を脱ぎ、またベッドにもどった。
そして、Scully の着ていたものも、ていねいな指先で、すばやく取り去った。
彼女の唇に、思いを伝えるキスを落とし、その奥にある彼女の思いを拾う。
「ん・・・」Scully のか細い声が、彼の耳にも届いた。
「さわらない方がよさそうだね。」
「そうみたい・・・」
「あのさ、sweetheart、なんだか大きくなってるんじゃないかな。それに、色もちょっと・・・」
「明日、お医者様に言うわ。大事なことかもしれないし。でも今は、あなたのほうが大事なの。」
Mulderの手は、妻の体をなぞり、おなかや太腿のあたりを、迷子のようにさまよいながら、下の方に降りていく。
せわしげなことはしたくない。
最後にようやく、彼の指が、秘かなあわいにたどり着く。
彼女の頬に、あごに、首筋に、口づけながら昂ぶらせ、愛おしむ。
彼は、身を屈めると、彼女の脚を肩の上に持ち上げた。
彼を誘い込むように開かれた場所。涙を湛えたような、その光と影に彼の目は奪われていた。
なんだか違う。いつもと、形も色も・・・このことも後で言うべきだろう。彼は頭の片隅にとどめておいた。
彼が襞の部分に舌を走らせると、彼女が、身をくねらせてうめき声をあげる。
しばらくすると、彼女が絶え入りそうな声で言った。
「Fox、やめて。」
「え？」
「お願い、私、もう・・・」
彼はうなずいて、彼女の脚を自分の腰にまわすと、そのまま彼女の中に沈みこんだ。
お互いの感覚を縒り合わせるように、ゆっくりと体を動かす。
そして、最後の時、彼女は身を震わせて、彼の名を呼んだ。
その後わずかに遅れて、彼も同じ時をたぐり寄せた。
残り火のような余情の中で抱き合いながら、Mulderは、妻が自分を見つめていることに気づいた。
彼女の顔には、今まで見たこともない表情が浮かんでいた。
「どうかしたの？sweetheart。」
「こわい・・・」彼女が小さな声で言った。
「明日のこと。お医者様はなんて言うのかしら。」
Mulderは、安心させるように笑いかけた。Scully が自分の恐怖を口にするなんて、よほどのことがなければあり得ない。
「なあ、僕も、こわいよ。だけど、初めて会ったときから今までのこと、考えてみてくれよ。何もかも全部、ふたりで乗り越えてきたんじゃないか。今度も、絶対、大丈夫だよ。僕が必ずそばにいるから。」
to
be continue....
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