今回の事件は、収穫ゼロに終わった。
Mulderと私は、くたくたに疲れ切って、むなしい気持ちになりながら、ようやくホテルの部屋に戻ってきた。
しかも、私は、ひどい頭痛がして、周りが歪んで見えるほどだった。

「頭に氷をあててみる？」Mulderが優しく訊いてくれた。

「ありがとう、そうしてみる。一番強い頭痛薬を飲んだのに、効かないみたいなの。」

私が横になると、彼が氷を持ってきて、タオルに包んでくれた。

「なんでも言ってくれよ、なんでもするよ。」彼は、心配そうな低い声で、静かに声をかけてくれる。
彼は、私が痛い思いをしているのを見るのが、いや、というか耐えられないのだ。

「ちょっと眠ればいいと思うの。」と私は答えた。
「起きたら、よくなってるはずよ。」

「わかった。」彼は、小声で答えた。
「僕は、報告書を書き上げておくよ。」

「Mulder、報告できることなんて、何もなかったじゃない。」

「うん、だから、報告書にもそう書くつもりさ。」

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２０分ほどして、パソコンを閉じると、僕は、ベッドの方に歩いて行った。

「Dana、寝てるの？」そっと囁いてみる。

「ううん。」

「ちょっとは良くなった？」

「全然。なんだかもう・・・眠れたら、頭痛がなおるはずなんだけど、頭が痛すぎて眠ることもできないのよ。」

僕が自分の思いつきを口にしても、Danaが誤解しないよう、そっと祈ってから、僕は言った。

「僕なら、君を眠らせてあげられると思うんだけど、sweetheart。」

「どうやって？」

「あのさ、よく僕たち冗談で言うだろ？ほら、世の中では、ことが終わってすぐに眠ってしまうのは、男のほうだと思われているけど、僕たちの場合、先に寝ちゃうのは、君のほうだってこと。」

「Fox、むかしの奥様風なことは言いたくないんだけど・・・でも、今夜はだめよ、dear。本当に頭が痛いの。」

「そんな意味じゃないよ、Dana。どう考えても、激しい運動が頭痛に効くとは思えないし。僕が言ってるのは、君に感じてもらえたら、ってことだけだよ。」

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私は、黙って、彼の言葉を考えた。
普通の男性が言うような言葉とは思えない。
また、私の夫が、"普通の男性" じゃないことがわかってしまった・・・

「どうやって？」

「口か手で。君の好きな方でいいよ、両方っていうのもあり。」

「だけど、あなたには、悪い気がするわ。」

彼は、肩をすくめた。

「そんなことないよ。僕はずっと、欲求不満を飼い慣らしてきた男なんだから、Scully 。何年も、君のそばにいて、僕はただ、身を焦がしてるだけだった・・・。それに、実際、東洋のどこかの国では、自分が満たされなくても、相手を満足させることができるってことが、究極の愛の形だと考えられているらしいよ。たしかに、見返りを求めずに、ただ与えるということは、愛の本質だと思わないか？とにかく、僕は君を愛している。」

「ええ、もちろん、私もあなたを愛してるわ。いいわ。でも、ひとつだけお願いがあるの。」

「なんだい？」

「いつか、お返しさせてね。」

「そんなの、気が向いたときでいいよ、sweetheart。さあ、もう横になって。君を愛したい。」

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彼女は、目を閉じた。
僕は、彼女の唇に、そっと口づける。
それから首筋に、歯を立てた。

「っ！どうして、そんなことするの？」

「昔の心理学者風のやり方さ。別のところに小さな痛みを感じると、他の大きな痛みを忘れさせてくれるって。鍼治療の基本もそういうことらしいよ。」

「そうなの。」

僕は、彼女のシャツのボタンと、ブラのフロントホックをはずした。
そして、時間をかけて、彼女の胸を、唇でたどった。その谷間も、それからその頂きも、そして、そのふもとも、ゆっくりと、滑らかに整えていく。
小さな果実を舌で転がして、もう一つ残された果実も、残さず吸いあげる。
僕の手は、彼女の脚をさまよい、その間に、僕は彼女のおなかにキスをした。
Scully は、さっき、氷を持ってきてあげたときに、靴も靴下もスーツも脱いでしまっていたから、今、彼女が身にまとっているものは、脱げかけたシャツとブラともう一枚だけになった。
そっと探ると、そこはすでに潤っていて、僕は、密かに男のプライドをくすぐられるのを感じた。

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Mulderが、おへその下までキスを落としていく。そして、レースに沿って、指先を遊ばせながら、私に聞いた。

「どっちにするか、決めた？Scully 。」

「両方。」私は、呟いた。
こんなお願いをするなんて・・・でも、罪悪感を感じそうになる自分を抑えて、そう答えた。
いつか、私にも、お返しさせてね。

彼が、私の脚にむかって微笑みかけたような気がした。
彼は、覆いを取り去ると、花弁を丁寧に開いて、優しく舌を近づけた。

「Mulder、シャツを脱いで。」

彼の素肌を感じていたい。Ｙシャツの感触なんか、嫌い。

「え？ああ、わかった。」

彼は、あっという間に、Ｙシャツを脱いで、また、私の脚の間にもぐりこんだ。
そして、今度は、舌の動きにあわせて、指を動かしている。

私は、うめき声をあげた。
これは、頭痛のせいじゃない・・・

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Scully の体が揺れて、僕の顔に押しつけられる。
彼女をなだめるために、片方の腕を、彼女の腰にまわして抱きしめた。
僕は、これがすごく気に入った。
おかしな話かもしれないが、Scully が感じているという事実は、自分のこと以上に、ぞくぞくするような快感を覚えた。
彼女は、コントロールを重んじる女性だ。その彼女が、僕のために、自ら身を投げ出して、僕の手にかかって、コントロールを失うんだ。こんなに刺激的なことって、他にはありえない。
僕は、彼女の奥深く、舌を差し入れ、そのまわりを指先でなぞった。
そして、彼女の最後の瞬間に、僕は酔いしれた。
僕の妻が、僕の名を呼びながら、意識を手放す。
その時の、香り立つような熱を、味わいながら、僕は、五感のすべてで、彼女を感じていた。
彼女が静まるのをみはからって、彼女の体の上をたどり、僕は彼女にキスをしに戻った。

「おやすみ。」耳元でささやく。

「そばにいてね。」ちいさな声で、Danaが言った。

「もちろん、ずっとそばにいるよ。Dana。」

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翌週。

僕たちは、最後に、ある老農夫の話を聞き終わると、捜査を終了した。
僕たちが、その家を出ようとすると、やっと歩き始めたくらいの雑種犬が、僕たちの足のまわりで、クンクンなき始めた。

「あんたがた、おふたりさんは、犬なんかいらんのかね？」

Scully の目が、クリスマスの日の子供みたいに、ぱっと輝いた。

「そうねえ。」と言いながら、僕を見上げた。

「いや、僕らは、犬なんかいりませんよ。どうも。」僕は言った。

Scully は、車まで戻る途中、押し黙っていた。そして、名残り惜しそうに、後ろを振りかえった。
そのとき僕は、どぶネズミのような気持ちになった。いや、どぶネズミ以下かもしれない。
僕は、犬なんていらなかったけど、Danaは、飼いたかったんだ！
結婚してから、９ヶ月ほどの間に、僕は、彼女に、いろいろなプレゼントを贈った。財布の許す限り、高価なプレゼントも。
父が遺してくれた財産のおかげで、僕には比較的余裕があった。
彼女は、とても喜んでくれたけれど、彼女が本当に望んでいるものは、そういうものではないことも知っていた。
彼女が、心の底から切望してやまないもの。・・・僕たちの子供。帰らぬ人となったお姉さん。彼女の身に起きたことの真実を教えてくれる答え。・・・どれもが、僕の能力をはるかに超え、僕には与えてやれないものばかりだ。
だけど、今なら、彼女の欲しいものを手に入れてやれる！

「ちょっと待ってて、Scully。」僕は、そっけなく事務的な口調で、車の鍵を放りながら言った。
「すぐ戻る。」

僕は、農夫のところまで、駆けて戻ると、本当にこの犬の新しい家を探しているのか、確かめた。
そして、僕は - 僕たちは - この子を大事に育てることを約束して、その犬を、腕に抱き上げた。

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Mulderは、正しい。
私たちのような生活では、お魚以上に手の掛かるペットを飼うことなんて、できないもの。
それに、どうして私が、あんなに抱きしめたくなるような可愛い動物を欲しがるのか、心理学者じゃなくてもわかることだわ。
自分に赤ちゃんができないせいだって・・・
また今月も、昨日からはじまって、やっぱり私はだめなんだって、思い知らされたばかり。

だけど、Mulderだって、あんな言い方しなくてもよかったんじゃないかしら？
彼がドアをあけて、シートに座ったのがわかったけれど、私は、彼に顔を向けることすらしなかった。
彼が口を開くまで、ずっと窓の外を見つめていた。

「ひとつ、条件があるんだ、Scully 。」

「条件ってなによ。」私は、面白くなさそうに訊いた。

「『白鯨』の中から名前をつけないこと！」

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彼女が笑った。美しい花が咲くように。
ああ。彼女が、こんな風に笑ってくれるなら、仔馬でも、子猫でも、チンパンジーでもいい、僕はきっと、どんなことをしてでも、手に入れてやる。

「ありがとう、Fox！」彼女は、驚いたような顔をして、大きな声を出した。
僕と子犬を、一緒に抱きしめて、それから、僕にキスをした。
いつまでも終わらないキスが、僕の心の奥底にしみた。

モーテルの部屋に戻ると、彼女は、Elvis - ふたりで決めた名前がElvis - が眠ってしまうまで、子犬と一緒に遊んでいた。
こんなに幸せそうな彼女を見るのは、初めてのような気がして、僕は、心のどこかで、嫉妬すら感じた。

「なあ。僕も、おなかを撫でてもらえるのかな？」

「もちろんよ。」と彼女が答えた。
「シャツを脱いで待ってて。ちょっと手を洗ってくるわ。」

彼女が戻ってきたとき、僕はまだ、服を着たままだった。
彼女は、僕に近づくと、焦らすみたいに、ひとつひとつ時間をかけて、シャツのボタンをはずした後、そのまま肩からすべらせて、床に落とした。

「横になって、Fox。」彼女が僕に命じる。
背中がぞくっとするようなあの声で、命令する。

「あ。Dana、ただの冗談だよ。」

「何言ってるのよ。あの子より、自分の方が上だって確かめたくないの？ねえ、Mulder、犬よりあなたにさわる方が、いいに決まってるわ、絶対。私だって、何年間も、あなたに触れられずにいたんだから、もう我慢なんてしないわよ。むだな抵抗はしないこと。」

それはちょっとキビしくないか？あと何日かは、おあずけだってこと、僕だってわかってるのに。
彼女は、ベッドに僕を押し倒すと、僕の胸やおなかに、手のひらを押しあてるようにしながら、撫でてくれた。

「あなたの胸って、大好き。初めて見たときからだけど。」掠れた声で、彼女が呟いた。

「君は、僕の眼鏡が好きなのかと思ってた。それと、ジーンズをはいてる時とか。」

「それも好き。」

「じゃあさ、もし僕が、ジーンズをはいて、眼鏡をかけて、それでシャツを脱いでたら？」

答えるかわりに、彼女は僕の肩に、軽く歯を当ててから、僕の上半身にキスを落とし、舌を走らせた。
僕はうめきながら、声をしぼり出した。

「答えを聞いていないよ、Dana。」

「今度、見てから答えるわ。でも、それ、今日みたいな日じゃだめよ。私がどうするか知りたいならね。」

彼女は、ベルトのバックルに手をかける前に、僕の腿を撫で上げた。そして、ベルトをゆるめると、鮮やかな手際のよさで、僕の服を取り去ってしまった。
彼女が、身をかがめるようにして、僕の中心に唇を寄せる。

「だめだよ、Dana。」

「どうして？」

「今日のところは、これでおしまいにしないと。君だってつまらないじゃないか。」

「でも、あなたは、そうしてくれた・・・。」ほとんど消え入りそうな声で、彼女が言った。

・・・嘘だろ！？
彼女が言おうとしていることって、もしかして・・・そういうことなのか？
Danaは、ときどき、愛し合う前のつかの間に、その可愛い口で、僕を虜にする。あのハネムーンの夜が初めてだったのに、もはや当たり前のように、その巧みな唇で、僕を昂ぶらせるんだ。
もしかしたら、それ以上に、僕を熱くさせる理由というのは、彼女が他の男にはそれを許したことがないという事実かもしれないけれど。
だけど、それとこれとは・・・
これは、僕が胸の奥にしまいこんできた夢のひとつだ。
Scully は、あの結婚式の夜以来、僕の夢をいくつも叶えてくれた。
それでも、僕は、夢のままにしておいた方がいい、そういう夢もある、と思ってきた。

「ほんとに？」僕は、たずねた。

「そうしたいの。」と彼女が囁いた。
「ね・・・」