DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : Skinner Finds Out ！−後半−

作：Angela Wardさん　　訳：bagpiperさん

　とりあえず、他の洋服に着替えておいた方が、いいかもしれない。
Mulderが、捜査中の事件に関して、重要な情報を彼女と検討しようとしているのに、彼女がしたいことは、ほら、なんていうか・・・あれ、だけなのかとか、彼に思われたくないし。
ただ問題は、彼女自身が認めざるを得ないように、彼が発見した証拠がどうのこうの言う前に、彼の腕の中で彼を感じていたい、と思っている自分がいることだ。
彼女は、このままでいることにした。
彼が、仕事をするために、気が散るっていうんなら、服を着ろって、自分で言えばいいんだわ。

Mulderは、鍵を開けると、ちょっとふざけてみたくなった。
「おーい、honey、ただいまぁ。」
Dick Van Dykeの演じるRob Petrieの声色を真似て、言った。

「お帰りなさい。」と言いながら、Scullyがカウチから立ち上がった。

やった！とMulderは心の中で言った。
Mary Tyler Mooreは、こんなんじゃなかったもんな。
彼は、ブリーフケースと旅行かばんを机の上に置くと、コートを肩から落とし、彼女の方に歩き出した。
Scullyは、楽しそうに笑いながら、Mulderが近づいてくるのを見た。
視線を下の方に移さなくても、彼の熱いこわばりを感じる。
顔を見れば、わかるのよ・・・
すこしだけ、焦らしてみたい。
彼女は、ゆっくりと後ろに下がり、リビングの反対側の壁に、ぶつかって止まった。

「それで、事件のことだけど、何を発見したの？」はずみそうになる息を押さえて、彼にたずねた。

「待って。」と答えると、彼は、体を折り曲げるようにして、彼女に口づけた。

もうだめ。彼の唇がそっと触れただけで、彼女はあっさり降参してしまった。
焦らすなんて、できない。
X-filesのことも、何もかも、彼女の心から消え去った。
今、考えられるのは、彼のことと、彼とこれから何をしようかってことだけ。
彼女は、切なげな声をあげて、彼に抱きついた。

「どうしたの？Dr. Scully！僕が帰ってきて、そんなにうれしい？」
Mulderは、なんとか唇を離し、息を吸い込んでから、彼女に言った。

「お願い、Fox、いじわるしないで。」

「そんなことしないよ。」彼女を抱き上げながら、優しい声で答えた。
夫の腕に抱かれて、彼女は、自分の脚を、彼の体に巻きつけた。
「でも、ベッドルームに行かなきゃ。ここじゃ、君を抱けないよ。」

「私は、かまわないわ。」彼女は、小さな声で言った。

「わかってる。でも、お隣の人には、文句を言われるよ。僕たちが、壁を揺らして、お隣が飾ってる額縁とか、全部落としたりしてさ。」

Scullyは、ベッドルームに運ばれていくあいだ、彼の首筋にキスを繰り返した。

「こら、Scully。吸血鬼事件のせいかな？それ以上やったら、キスマークが残るよ。」

「先週、私につけたくせに。」

「ああ。だけど、あれは君の・・・う、とにかく、スーツを着たら見えないところじゃないか。」

「これも、見えないわよ。首と肩のまんなかにキスしてるだけだもの。」

「まあ、いいけど。でも、キスしてくれるんなら、他のところでもいいよ。」

Mulderが、手を離して、彼女をベッドの上に置いた。
彼が、彼女を見下ろして笑いかけると、Scullyも、声をたてて笑った。

ああ、Ｙシャツ姿の彼女って、食べてしまいたいぐらい、かわいい。
しかも、大好きな眼鏡をかけてるし。
彼女を、運んでくる間に、シャツがずり上がって、ちらっと見えたんだけど、彼女の・・・
ふぅ。体が痺れて動かなくなる前に、服を脱がなきゃな。

「手伝うわ。」
彼女は、体を起こして、ひざまづくと、彼のネクタイに手を伸ばした。

「必要ないよ。」と言って、彼女の手をつかむと、彼女に、すばやく、すこし強めのキスをした。
「座って、見てて。」
Mulderは、ベッドから離れると、服を脱ぎ始めた。
彼は、わざと焦らすつもりはなかったのだが、ただ、せき立てられるみたいに、服を引きちぎってしまうのも、いやだと思った。
彼女はいない、と思ってみよう。普段どおりに、洋服を脱ぐんだ。彼は、自分に言い聞かせた。
彼女を見てしまうと、かなり、難しい任務だけど・・・。
Danaは、田舎のフェスティバルで、仔馬に乗る順番を待っている子供のように、体を揺らしながら、わくわくして、彼を見つめていた。

Mulderは、上着とネクタイをとって、靴を蹴飛ばすと、ホルスターをはずしてから、ソックスを脱いだ。
Scully は、しびれを切らして、ベッドから立ち上がると、彼に近づき、
「遅いわよ。手伝わせて。」と言った。

「だめだって。」彼は、彼女を、そっとベッドに押し戻した。
「待っててくれよ。」

彼は、シャツのボタンをはずして、脱ぎ捨てると、ベルトのバックルに手をかけた。
Scully は、彼がズボンを脱いでいる間に、自分のシャツのボタンをはずし始めた。厳密に言えば、「彼の」シャツだけれど、彼女が着ていたシャツという意味だ。
彼が、自分の張りつめたものを隠していた、グレーのボクサーショーツを取り去ったのと同時に、彼女は、シャツを脇に放り投げた。そして、眼鏡をはずして、ナイトテーブルに置いた。

「まあ。拳銃が、あるわよ。私に会えてうれしいって証拠？」Scully は、笑いながら言った。

「そうだね！さっき、僕が、他のところにキスしてもいいよ、って言ったの覚えてる？」

「ええ・・・」
彼女は、つぶやくと、ぴょんと飛び上がるようにして、ベッドの端に腰かけた。
そして、彼が、彼女の赤い髪の中に指を差し入れ、絡ませながら、自分自身に彼女の口元を近づけさせるのを、許した。
彼女は、一瞬、彼を見上げて微笑むと、彼の形を舌でなぞり、唇でとらえて、彼の固さを確かめるように口に含んだ。

Mulderは、膝から力が抜けていくような感覚におそわれた。
こんな誘惑、今すぐやめさせないと、楽しいことがはじまる前に、終わってしまう！

「Dana、sweetheart、ごめん、やめてくれ。」

「いいわよ。だったら、あなたが横になってちょうだい。」

「え、ああ、うん・・・」彼は、ちょっと戸惑いながら、答えた。
彼らの場合、彼女を上にして愛し合うのは、いつものことだったから。
彼女は、とても華奢なので、彼は、ときどき自分が上になるときには、彼女を壊してしまうんじゃないかと心配になってしまう。彼女が、こわがったことは一度もなかったのだが、彼の方がこわかったのだ。

彼女は、彼の、困惑を感じとると、いたずらっぽい顔で笑いかけた。
「今すぐってことよ。」

「うん、でも、僕、君に・・・」

「はやく！Fox！」
彼女は、力いっぱい、彼の腕を引っ張って、ベッドに引きずり込んだ。
そして、彼を押し倒して、上に乗ると、あっという間に、自分の中に彼自身を包み込んでしまった。
彼女は、のどの奥から、何かをねだるような甘えた声を出した。

「なにが欲しいの？Dana」

「・・・あなたの唇・・・」

彼女が、自分の体を彼に強く押しつけると、彼は、彼女に応えて、上体を起こした。
Scullyは、これまでもずっと、ひたむきな情熱で、彼と愛し合ってきたけれど、それでも彼は、こんなに熱くなった彼女を、見たことがなかった。

Mulder自身は、一度だけ、自分がそんな風になったことがあるのを、覚えていた。
ある晩、真夜中に目が覚めると、突然、どうしても彼女が欲しくなった。
つきあげるような衝動を、押さえることができず、眠っていた妻を、起こしもしないで抱いた。
彼女は、何をされているのかも分からないまま、まどろんでいたのに。
終わってすぐ、彼は、深く後悔した。
彼女を傷つけたり、怖い思いをさせてしまったのではないかと思うと、胸が痛くなった。
罪悪感に苛まれながら、彼が謝ると、彼女は、軽く笑いながら、『ちょっとびっくりしただけよ。途中から、私も楽しんでいたのよ。』と言って、あっさり許してくれたのだけれど。

今、彼女の求める瞬間を叶えるために、彼は、彼女の言葉に服従する。
彼女の胸に唇を押し当てて、おいしいものを少しずつ楽しむときのように、両の乳房を交互に味わい尽くした。
彼女は、夢中で身を躍らせると、そのまま彼の名前を叫びながら、崩れ落ちた。

「大丈夫？」
しばらく間をおいて、彼が、彼女の顔にかかった髪を、指でかきあげながら、きいた。

「うそみたい・・・」彼女は、にっこりと彼を見下ろした。
「でも、まだ、あなた・・・私、どうすればいいの？」

「つかまって。向きを変えてもいいかな。」

Scullyは、夫の体をぎゅっと抱きしめた。
彼女が、腕を首に回して、両脚で腰を締めつけると、彼は、膝で支えながら、ふたりの体を入れ替えた。
そして、彼女の体を貫いたまま、そっとベッドに押しつけた。
彼女が、彼を見上げて、ふっと笑う。

「それから？」と囁いた。
彼は、彼女が睡魔におそわれかけているのを感じた。
彼女は、いつも、終わるとすぐに眠りに落ちてしまうのだが、夫が満たされるまで、必死で、意識をつなぎ止めておこうとしていた。

「脚を、僕の背中の上にできる？無理はしなくていいんだけど。」

彼女は、懸命に、彼の言うとおりにしようとした。
少しずつずらして、ほとんど彼の肩にかかるくらいまで、脚を持ち上げると、彼自身が彼女の最奥に引き込まれ、彼は、うなるような声をあげた。
彼は、彼女の中で動き始め、すぐに、さっきの彼女と同じように、苦しいほど熱くなっている自分に気がついた。そして、熱にあおられるように、激しく体を打ちつけた。
心の片隅で、彼女に朝まで痛みが残ることを、心配してはいたけれども、次第に何も考えられなくなり、ただ感覚だけを追い、最後の瞬間、彼女の髪の中に顔を埋めて、彼女の名前を、何度も呼んだ。

Mulderは、妻の体の上で、力尽きた。
そして、彼も、急に眠たくなってしまった。彼が、ここまで強い眠気を、すぐに感じるのは、滅多にないことだったが、何しろ、昨夜は、ひとりぼっちのモーテルの部屋で、遠く離れて過ごす彼女を想いながら、ほとんど一睡もしていなかったのだから、当然と言えば当然かもしれない。

「愛しているわ。」
彼女は、夫の背中をさすりながら、言った。

「僕もだ。家に帰れて、嬉しいよ。僕たちのベッドに帰ってこられて嬉しい。」
そして、彼女の中にとどまっていた彼が、もう一度、そっと押しつけるように動いた。
「君の中に戻ってこられて、よかった。」

「ねえ、」彼女は、あくびをしながら言った。
「一緒にベッドにいられるのは、嬉しいけど、もし、あなたが、これからまだ・・・」

ふたりが、ピロートークを交わしながら、戯れていると、入り口のドアが乱暴にノックされ、聞き覚えのあるどなり声にさえぎられた。
「Agent Scully！！」

Danaと Foxは、いぶかしげに顔を見合わせた。

「Skinner！」
彼らは同時に叫んだ。

「起きて！」
Scullyは、彼の肩を押しのけながら言った。
「私が、用件を聞いてくるわ。緊急なのよ、きっと。」

Mulderが彼女の体から転がり落ちると、彼女は、ベッドを飛び出し、ローブをつかんで、身につけた。
その間も、Skinnerがドアを叩きながら、彼女を呼び続けるのが聞こえていた。

Scullyは、入り口まで行き、外をチェックして、たしかに、ふたりの上司であることを確認すると、解錠し、ドアを開けた。

「お入りになってください。」ドアを支えながら、言った。
「何かあったんですか？」

「君のパートナーの居場所を、きいているか？」

「僕ならここに・・・」Mulderが、暗がりから姿を現した。
彼は、なんとかズボンをはいて、シャツまではおって出てきたが、ボタンを留めている時間がなかった。
Skinnerは、無言で、ふたりを、見つめた。
ふたりが何をしていたか、あまりに明らかだ。

「この状況に関する説明は、後で聞きたいと思う。とにかく、今は、ふたりとも服を着て、本部まで一緒に来てくれ。」

「もう夜中ですが。」

「言われなくても、私は、時間くらい知っているんだよ、Agent Mulder！そして、君が、今晩、殺されかけたこともな！どうやら、ぴんぴんしているようだがね。」

「どういうことですか？」

「Agent Mulderのアパートで、何者かがガス栓をひねったらしい。もし、ここに来ていないで、自宅にいたら、君は、今ごろ病院行きだ。病院だったら、まだいい。モルグに運ばれていたかもしれないんだぞ。」

「誰が・・・？」Mulderがたずねた。

「まだ、わからん。だが、見当はついているだろう。」Skinnerが苦い顔をして言った。
「そのためにも、今すぐ、君たちが得ている情報を、全て報告して欲しい。そうすれば、証明できるはずなんだ。明日の朝まで待ってたら、間に合わないかもしれない。」

「分かりました。」Scullyが答えた。

「とにかく、君たち、服を着てきてくれ。すぐに、出かけたい。」

「分かりました。」Scullyがもう一度言った。
そして、Mulderを引きずりながら、ベッドルームに向かった。

「Scully、」
Scullyが、手早くローブを脱いで、着替え始めると、Mulderが話しかけた。
彼女は、シャワーを浴びる時間が、少しだけ欲しかった。彼女の体には、情事の残り香がまとわりついているはずだ。
でも、Skinnerを待たせるわけにはいかない。

「今はだめよ。早く着替えて、行かないと。話すのは後にしましょう。」

Mulderは口答えするように口を開きかけたが、すぐに口を閉じてうなずいた。

：　：　：　：　：　：

翌日の午後遅く、くたくたに疲れ切った連邦捜査官がふたり、彼らの上司の前に座っていた。
MulderとScullyは、まる一日、不眠不休で、働いた。
Mulderに至っては、二日間眠っていないも同然だった。ミネソタのモーテルで、たったひとり、まんじりともせずに、夜を明かしたからだ。

「何とか、事態の収拾はつけられたと思う。君たちのおかげだ。」Skinnerが言った。

「もう、帰ってもいいですか？」

「いや、まだ、問題が残っているだろう。わかっているはずだが。」

MulderとScullyはお互いをちらっと見てから、ため息をついた。

「局の方針として、同じ課に所属する捜査官同士の、不適切な関係を禁止していることは、君たちも承知していることと思っていたが？」

「僕たちは、不適切な関係なんて持っていません。」Mulderが答えた。

「『持っていない』？」

「はい、そういう関係ではありません。」Scullyが答えた。

Skinnerは、ふたりの捜査官を順番に見つめた後、重々しくため息を吐き出した。

「いいかね。この６年というもの、君たちには、さんざん、とんでもない話を聞かされてきた。エイリアン、政府の陰謀、吸血鬼、突然変異の肝臓摂取人間に心霊現象による犯罪まで、あらゆることをだ。その中には、私自身が信じられるものもあったし、信じていないものもある。しかし！昨日の夜、Scullyの部屋にいた君たちの間に、何もなかったんだと言われて信じるくらいなら、今までに聞いたおとぎ話のほうが、まだ真実味があるというものだ！」

「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、sir、」Scullyが言った。
「私たちは、何もなかったと申し上げているのではなく、不適切な関係ではなかったと申し上げているのです。」

「は？」

「僕たち、夫婦なので。」Mulderが説明した。

「結婚しているということかね？」Skinnerが質問した。

ふたりの捜査官が、同時にうなずいた。

「夫と妻という意味で？」

「当然です。」
「もちろんです。」

Skinnerは、眼鏡をはずして、眉間を軽く揉んだ。
ふたりが嘘をついているとは思えない。
そして、'Spooky' と 'Mrs. Spooky' が、本当に夫婦だったということを知ると、なぜか、妙に納得できてしまうことに気づいた。
「いつからだったんだ？」

「６ヶ月ぐらい・・・もうすぐ半年になります。」合唱するように、ふたりは声を揃えて言った。

「なぜ、私には、何も言ってもらえなかったのだろう？」

「あの、それは、おたずねにならなかったからです。」Scullyがためらいがちに答えた。
「それに、もともと私の任務には、彼を監視することも含まれておりましたから、常に、その、一緒にいることにしたほうが、より効果的に任務を遂行できるのでは、と思いましたし。」

Skinnerは黙って、彼女を見た。彼の表情からは、彼女の説明を信じていないことが、ありありとうかがえた。

「隠していた理由については、多分、想像しておられると思うのですが、」Mulderが言った。
「結婚したことをお知らせすれば、Scullyは、Quanticoの方に戻され、僕は、凶悪犯罪課に異動になるに決まってます。そのくらいだったら、まだ我慢できますけど、ScullyをSeattleにやって、僕をMiamiにとばすことだって、ありうるんですよね。」

「ご理解いただきたいのは、私たちは、ふたりでいられる時間を失うために、結婚したのではないということなのです。」とScullyがつけ加えた。

「しかし、この規則にも、それなりの根拠があると思う。」
Skinnerが言った。彼の声には、優しさが含まれていた。

「わかります。合理的な理由だと思っています。」
とMulderが言いだし、SkinnerとScullyは少し驚いた。

「同じ部署に夫婦がいると、一緒に働いている捜査官達は、何かと不愉快なことも多くなると思います。夫婦は、お互いに支え合ったり、擁護しあったりするだろうけど、他の捜査官達には、そこまでのサポートはしないでしょうから。バランスを欠いた状況だと言えます。もし、僕らが、以前配属になった対テロ対策班にいるんだったら、そういうことが理由になると思います。でも、僕らは、違います。X-files課は、独立の捜査機関として機能しているんです。捜査官も２人だけだし、基本的には、他の捜査官とチームを組むこともありません。正直言って、僕らの個人的な関係が、問題になるとは、とても考えられません。」

Skinnerはため息をついた。
「X-files課は、いつ閉鎖されるか分からないような部門だ。事実、２度も、閉鎖された。もし、そうなったら、君たちはどうするんだ？」

「やはり、私は、Quanticoに戻り、Mulderは凶悪犯罪課に配置転換されることになるのでしょう。」Scullyが言った。

「どちらか一人が、他のところにとばされたら？Washington D.C.から離れた地区へ。」

「いずれにしても、私は、Mulderの着任地に参ります。」Scullyが答えた。
「もし、そこで、局の仕事が続けられないのなら、地方検死官の仕事につくか、教職の道を探そうと思っています。」

Mulderはびっくりした顔で振り向いて、彼女を見つめた。
「Scully、僕は、結婚のために、君のキャリアを犠牲にして欲しいなんて、考えたこともないよ！」

「ええ、でも、私は、自分のキャリアのために、結婚を犠牲にできるとも思えないわ。」と、彼女は、はっきり答えた。
「自分のキャリアは、大切よ。でも、私には、あなたとの生活より大事なものなんて、ないのよ。時代遅れかもしれないけど・・・。もちろん、そんな選択をせずにすめばいいけど、万が一そうなったら、時差のあるところに住んで我慢するより、F.B.I.をやめる方が簡単だわ。」

Skinnerは、何も言わずに片手をあげた。
Scullyが、どちらかを選べと言われたら自分のキャリアを捨てる、と言ったことも、その選択にMulderが異議を唱えるだろうことも、彼には、すでに分かっていたような気がした。

「もし、君たちの主張を受け入れた上で、今後もパートナーを組むことを許可すると仮定しての話だが、」と、Skinnerが言い出した。
「しばらく様子をみることになるだろう。」

「このまま、一緒にX-filesの仕事をしてもいいんですか？」

「それを、今、考えているんだ。この半年で、君たちの事件解決率は、上昇しているし、Agent Mulderの非常識な行動に関する苦情も止んだ。結婚したことが、好影響を及ぼしているのだろう。しかし、君たちの友人として言わせてもらえれば、本当にこれでいいのか、悩んでしまうんだよ。」

「なぜです？」Mulderが聞いた。

「なぜなら、」Skinnerはゆっくり口を開いた。
「私は、夫婦で一緒に働くことのマイナス面は、結婚が、キャリアを台無しにするという点にあるのではない、と思っている。むしろ、お互いの仕事が、結婚生活をだめにしてしまうのではないかと思う。」

「男というものは、・・・失礼、Agent Scully、・・・ひとは、結婚相手から、無条件の、絶対的な支持を確実に得られると期待するものだ。また、そうあるべきだろう。しかし、仕事中に、プロとしての意見が食い違った場合は、どうだろうか。そして、仕事の場面で、賛同を得られず、後になって、それがもとで亀裂が生じるということは考えられないだろうか。」

「そのようにおっしゃることは、もっともだと思いますが、」Scullyが静かに言った。
「でも、ひとこと言わせていただければ、あなたは、完璧に公私の区別をつけて、プライベートから距離を置いておられました。私たちは、あなたの下で、働くようになってから何年も、奥様がいらっしゃることすら知らなかったくらいです。本当にそれが、結婚生活にとって良いことだったのか、私にはわかりません。」

Skinnerは２人の捜査官を見た。
このふたりは、普通の人間が２０年かけて経験するようなことを、たった６年でくぐり抜けてきた。
William Mulderの死。Melissa Scullyの死。Agent Scullyのアブダクトと癌。その闘病については、本人以上に、とまでは言えなくても、少なくとも、Scullyと同じだけMulderも苦しみ、困難な時期を、ふたりで乗り越えてきた。もちろん、彼らが病院のお世話になった回数は、数えきれるものではない。

Skinnerは、ため息をついた。
「君たちは、本当に、それでいいのかね？Agent ScullyをQuanticoに転属させて、Agent Mulder、君には別の捜査官と組んで、X-filesに残ってもらうことも可能だが。」

「いいえ、sir。Scully以外の捜査官とX-filesを担当するつもりはありません。できるとも思えませんから。もし、彼女を転属させるおつもりでしたら、僕も、正式に、転属願いを提出することにします。たしか、局の方針としては、同じ課の捜査官が結婚したり、恋愛関係に陥った場合、その両当事者を配置転換させる、ということだったと思います。もし、Scullyだけをはずして、僕をそのままX-filesに残すということなら、男女差別のにおいすら感じますよ。まるで、僕たちの結婚のせいで、彼女だけが処分されて、僕の方は免除されるみたいじゃないですか。」

Skinnerは思わず笑みがこぼれるのを押さえられなかった。
あのFox Mulderが自分からX-filesを放棄することがあるとは、それこそ、彼にしかできない愛情の示し方なのだろう。

「私たちは、今までどおり、一緒にやっていけるはずです。」Scullyが穏やかな声で言った。

「それでは、２、３確認しておきたいのだが、」Skinnerが話し始めた。
ふたりは、期待と感謝に満ちた顔で、Skinnerを見た。

「君たちには、今以上に、慎重になってもらいたい。知っていると思うが、局の中には、君たちの関係が実際どうなっているんだ、と勘ぐっている者もいる。おそらく、男女のパートナーが、ずっと一緒に働いていれば、どうしても、興味をひいてしまうものなのだろう。そういう輩に、詮索の種を与えるな、ということだ。君たちが、勤務時間内に、プライベートな行動を見せたことは一度もない、と私自身も言えるようにしておいて欲しい。それで、問題はないと思う。それから、いずれ、・・・これは仮定の話ではなく、将来あり得ることとしての話だが、転属命令が出たときに、私に泣きついてこられるのはお断りだ。最後に、重要なことだが、もし、誰かに訊かれるようなことがあったら、私は、君たちの結婚について、最初から知っていたということにしておくように。６ヶ月も私に隠していたとなれば、君たちの印象を悪くするからな。」

「でも、それでは、副長官のお立場が・・・」Scullyが言った。

「私は、管理職だぞ。局の方針に抵触する決定について問われたとしても、それは、私が扱うべき問題だ。」

「ありがとうございます！sir！」Scullyが言うと、

「本当にありがとうございます。」とMulderも続けて言った。

「もう、行っていいぞ。Agents。」

MulderとScullyはドアの方に歩き出した。
彼の手は、彼女の背中に優しく添えられていた。

「ああ、それから、もうひとつ。Agents。」

「なんでしょうか？sir」
ふたりが、振り向いて、Skinner副長官を見た。

「出張の際、１部屋しか使わないつもりなら、２部屋分の宿泊代を経理に回すのは、やめてもらいたい。いいな？」

「分かりました。sir。」
MulderとScullyは、声を揃えて答えた。

End