DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended.

TITLE : Skinner Finds Out ！−前半−

作：Angela Wardさん　　訳：bagpiperさん

　Dana Scully特別捜査官と、Fox Mulder特別捜査官が、揃って、F.B.I本部の廊下を歩いてきた。
彼らは、上司である、A.D.Skinnerに呼ばれていた。
途中、何人かの捜査官とすれ違い、会釈したり、挨拶を交わしたりしたが、他の捜査官達は、彼らを無視しながら、通り過ぎるのを待って、「Spooky夫妻・・・」などと声をひそめて言い合った。

ScullyとMulderは、全く聞こえないふりをしていたが、いかにもアカデミーを卒業したばかりといった風情の、支局の新人捜査官が、無邪気に質問しているのが耳に入った。 
「本当に夫婦なんですか？パートナー同士の結婚は、認められていないんじゃないんですか？」

これを聞いたMulderの顔には、微笑みが広がった。勤務時間中には、ほとんど見せることはないが、Scullyしか知らない彼の最高の笑顔を、彼女に向けた。
「そうだよ。」
彼は、Skinnerのオフィスの前で、彼女の耳元に囁いた。
「本当に夫婦なんだ。・・・これを知ったら、何人の職員が、心臓発作を起こすんだろう。」

「職員なんて、メじゃないわ。」Scullyは、彼だけに見せる無防備な笑顔で言った。
「私が心配なのは、あなたを一日中ひとりじめにできるのは、この私だけなの、って教えてあげたら、何人の女性捜査官が自殺したくなるのかしらってこと。秘書や調査員は、数にいれないことにするけど。」

「まあ、Ice Queenが誰のせいで溶けちゃったのかを知って、死にたくなる男性捜査官の数に比べれば、大したことないと思うね。」

ふたりは、Skinnerのオフィスに入ったときにも、まだ、お互いの笑顔を見つめ合っていた。

「なにか、面白いことでもあったのかね。」Skinnerがぶっきらぼうに言った。

「いえ、何も。sir」Scullyがあわてて言った。

Mulderは、口を開かなかった。彼は、上司と話すのは、Scullyに任せておいた方が、事がうまく運ぶということを、経験上知っていた。

「ブラックオイルが死因だと思われる事件が起きた。」

「何ですって？」Scullyが驚いて言った。

「どこで？」Mulderがたずねた。

「死体は、Minnesotaで発見された。」Skinnerが答えた。
「私のコネを使って、検死はQuanticoで行うよう、AtlantaのＣＤＣを説得した。４１歳男性だ。Agent Scully、打ち合わせが済み次第、行って検死にとりかかってくれ。言う必要はないと思うが、最大限の注意を払って、最低でも、バイオハザード・レベル３の体制をとって、死体を扱うように。」

「僕の方は？」Mulderがきいた。

「Dulles発の飛行機を予約した。離陸まで２時間もない。ぎりぎりのスケジュールだが、君には経験もあるし、頼むよ。Minnesotaまで行ったら、できるだけのことを調べてほしい。ただし、Agent Mulder、注意しておくが、ＣＤＣの調査には首をつっこむな。向こうは、この件を伝染病の面から調べているんだ。」

「あの、Scullyが検死を終えるのを待ってから、ふたりで行った方がよくないですか？詳細が分かってからの方が、捜査対象を絞れますから。」

「今夜中に、向こうに行って欲しいんだが、Agent Mulder。君たちふたりが、チームとして行動した方が望ましいということは承知しているが、１日か２日、単独で捜査くらいできるだろう！」

「ええ、もちろんです。sir」Scullyが言った。
彼女とMulderは、ふたりとも同じことを考えていた。
結婚してから半年、今夜、初めて、離ればなれの夜を過ごすことになる・・・。

「Agent Scully、そろそろQuanticoに行ってもらえるだろうか。」Skinnerが言った。彼の声には、依頼というより、命令の調子が含まれていた。
「Mulderには、まだいくつか、伝えることがあるんだ。今夜、電話をかけさせるから、そのとき、検死結果を報告してやってくれ。」

「あ、はい。わかりました。」Scullyは言った。
最悪！と彼女は、心の中で思っていた。
地下のオフィスに、一緒に戻ることもできないの？普通の夫婦が、よく外でしてるみたいに、別れ際に、軽くキスを交わして抱きしめる、くらいのこともしちゃいけないなんて！
彼女は、気持ちを押さえて、Mulderの広い肩に手を置き、少し力をこめると、明るく笑いかけた。
「私がいないと、トラブルに巻き込まれる傾向があるんだから、Mulder、気をつけてよ。」

「わかってる、Scully。あとで連絡する。」

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Scullyは、検死結果をレポートにまとめてしまうと、肩をぐるりと回した。
Skinnerの考えは正しかった。彼の予想通りの結果だ。

レポートをプリントアウトしているとき、彼女の携帯電話が鳴った。発信者が、夫の番号だとわかると、彼女は笑顔になった。

「なあに？」彼女の声には、優しく誘うような響きがあった。

「おい！君、F.B.I.の捜査官だろ。他の捜査官からの電話にも、そうやって出るつもりなのか？」

「あなたからだって、知ってたもの・・・」

「君の方は、どうなってる？」

「実はね・・・」

彼は、くすくす笑った。
「僕がきいてるのは、検死結果だからな、Scully！」

彼女は、思わず、ため息をつきそうになった。
電話で、きわどい会話を楽しむのは悪くない。でも、今みたいな状況では、気持ちだけが昂ぶって、どうしようもない火種が体の中に残るだけだ。それに、無駄話をしていたら、Mulderがこっちに戻ってこられるのを、遅らせるだけだし。

「思ったとおりよ、Mulder。」彼女は事務的に言った。
「Dallasの連邦ビルから出てきた死体と、同じ状態なのよ。」

「防疫装備は着けてるか？あれがどうやって感染していくのか、まだ何もわかってないんだから。だけど、致死性の物質であることだけは、たしかなんだ。」

「Mulder、私には、免疫があるはずよ。ワクチンを打ってくれたの、覚えてるでしょう？」

「Scully、どんな小さな不安も排除したいんだよ！ワクチンの効果が、いつまで持続するのかもわからないじゃないか。」

「わかったわ、Mulder。気をつける。約束します。」

「よし。僕は、こっちで、もう少し捜査を続けてみるよ。できれば、明日の夜には、D.C.に帰りたいな。それが無理なら、君がこっちに来るとか。とにかく、今夜、もう一度電話するから。」

「ええ、じゃあね。」
「じゃ。」

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Scullyは、家に帰ると、部屋中を見回した。
Mulderがいないだけで、こんなに空っぽに見えるなんて、不思議な気がする。
彼女は、何年もひとりでここに住んでいたのに、たった数ヶ月の間に、ここは、「家庭」になっていたのだと気づいた。
でも、彼がいないと、「家庭」じゃないわ。

スーツを脱ぎながら、Scullyは、何に着替えようか決めかねていた。
ジーンズとＴシャツを着るには、遅い時間だし、といって、パジャマになるには早すぎる。
・・・彼女は、自分の思いつきに、ひとりでに頬がゆるんだ。
服を全部脱いでしまうと、シャツをとり上げた。前の晩、すごく急いで、夫が脱ぎ捨てたＹシャツだ。
彼女がそのＹシャツを着ると、ほとんど膝まで隠れてしまう。袖を何度か折り返し、手を出してから、身に馴染ませると、彼女は安心したように息をついた。

彼女は、キッチンに行って、手紙と留守電をチェックしてから、軽く食事をとった。
その後、何回か洗濯機を回し、冷蔵庫の中を整理し、請求書の支払いに小切手を切った。
Mulderと一緒にいると、こういう家事や雑用をする時間がなくなっちゃうのは、どうしてなのかしら・・・
ひと通りのことを終えると、彼女は、眼鏡をかけて、パソコンの前に座り、仕事を始めた。

１１時過ぎになって、ようやく、Mulderから電話があった。
すでに、彼女は、ベッドルームに移っていたが、ベッドの上に書類を広げて、まだ仕事を続けていた。
ベッドの上というのは、独身時代の彼女が、よく仕事をする場所でもあった。最近の彼女は、夫と一緒に遊んでばかりいたけれど。

「Scullyです。」彼女は、受話器に向かって、不愛想に答えた。

「変なの。」夫の声がした。

「どうして？変人のプロと争うつもりはないけど。」

「だって、君、局から借りてる携帯に出たときは、セクシーだったのに、今、僕らの家の電話にかけたら、つっけんどんに『Scully！』なんて出てさ。逆じゃないか？」

「ああ、それは、携帯に電話をくれたときは、あなただってわかってたけど、今は、番号通知が知らない番号だったからよ。モーテルからかけてるんでしょう。」

「うん。僕は、固定電話派だからね。特に、今回みたいな事件の捜査中は、気をつけないと。・・・何してた？」

「えーと、洗濯に、支払いに、お掃除に・・・」

「わあ、”奥さんぽい”んだな！」

「Mulder、何よ、その”奥さんぽい”って。私の一番好きな”奥さんぽい”ことは、あなたがいてくれないと、できないのよ。こんなの、ただの暇つぶしだわ。」

Mulderは、何も答えなかった。

「Mulder、今、ニヤニヤしたでしょう。聞こえたわよ！」

「どうして、ニヤニヤしてるのが聞こえるんだ？」

話をそらせようとして、彼女は、話題を変えた。
「・・・それで、今回の事件は、やっぱりエイリアン絡みだと思う？」

「Dana？」

「え？」

「今、なに着てるの？」

「Mulder、関係ないこと言わないで。」

「答えて。」

「んー、ちょっと、恥ずかしいのよね。」

「へえ！いいじゃないか！何を。着て。いるのか。答えて。ほしいな。」

「あなたのＹシャツ。」

「僕の？」

「そう。昨日の夜、あなたが、とっても急いで脱いだシャツ。」

Mulderは、目を閉じて、赤い髪をしたおちびさんの妻が、自分の白いＹシャツに包まれている姿を想像し、大きく息を吸い込んだ。

「Ｙシャツだけの君なんて、最高だな。」

「あ、それは、どうかしら、Fox。」

「どういうこと？」

「あと、眼鏡もね。」Scullyは、笑いながら言った。
なんだか楽しくなってきたわ。
彼女は、自分が眼鏡をかけていると、彼がよろこぶのを知っていた。
この点に関しては、彼女も、彼の眼鏡をかけている姿に、うっとりしてしまうので、お互い様なのだが。

電話の向こうで、Mulderが小さくのどを鳴らしたのが聞こえた。
「他には？」

「クロスのペンダント。私たちの結婚指輪。私のは、帰ってからすぐ指にはめたわ。あなたのは、ネックレスに通したまま、私が、身につけてますからね。」

「そう、指輪だよ！今日、別れる前に、Skinnerが地下のオフィスに寄らせてくれてたら、君から指輪を受け取ってこれたのに、って思ってたんだ。」

「地下で、したかったのは、それだけ？Agent Mulder？」

「今、身につけているものは、それだけ？Agent Scully？」

「ふふ。そうよ。」Scullyが、軽く笑った。

「君のそばに、いたいな。」

「私も、あなたにいて欲しい。きいてなかったけど、明日の夜には、帰ってこられるのよね？」

「うん、多分ね。他の犠牲者は、見つからなかったんだ。検死解剖した死体が発見された場所というのが、へんぴなところでね、周りに人家がないんだ。おそらく、被害が広がる前に、死んだんだろうな。それに、ミネソタの寒い秋と、テキサスの夏とでは、状況が違うと思う。あのウイルスは、低温状態では、活動を抑制されるみたいだから。」

「愛してるわ。」
Scullyがいきなり言った。唐突だとはわかっていたけれど、どうしても言いたくなった。

「僕も、愛してる。だけど、やっぱり、Skinnerが地下室に戻る時間をくれてたとしたら、やばかったな。きっと、君のせいで、捜査官らしくないこととか、ちょっと君を抱きしめるとか、してたにきまってる。」

「Mulder、私のせいってどういうこと？あなたこそ、”ちょっと抱きしめるとか”じゃ済まなかったはずよ。」

彼は、笑い出し、そして言った。
「Sweetheart、明日、家に帰ったとき、今と同じかっこうで、待ってて欲しいな。」

「いいわ。どうしてもっていうなら。」

「そう、どうしても。そろそろ、電話を切った方がいいと思うんだ。」

「どうして？おしゃべりしていたいわ。」

「僕も、君と話していたいけど、電話じゃなくて、じかに、君のささやく声を聞きたいんだよ。事件をさっさと片づけて、早くそっちに帰りたいし。」

「わかったわ、あなたがそう言うなら・・・」

「ここの番号、わかってるんだよな。」

「ええ、大丈夫。」

「よし。じゃあ、おやすみ、sweetheart 。」

「おやすみなさい、lover。」

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翌朝、Scullyが、３杯目のコーヒーをすすりながら、不機嫌な顔で、パソコンをにらんでいた。
コーヒーを２杯以上飲むと、気分が悪くなるのだが、仕方ない。
昨日の夜は、ベッドで眠る彼女の横に、体の一部のように馴れた夫の温もりがなかったので、なかなか寝つけず、睡眠不足におちいっていた。

ドアをノックする音にも、いらいらして、「何か用！？」と、大声を出してしまった。

「あのう、Dana？頼まれていた、資料をお持ちしました。」と、Holly Pattersonが答えた。
彼女は、ScullyとMulderの事件の調査を、手伝ってくれる職員だ。

「ああ！ありがとう。Holly。」

「いえ。具合でも悪いんですか？」

「大丈夫よ、ごめんなさい。あなたに当たるつもりはなかったんだけど、Mulderが、Minnesotaに行ってるから、それで・・・」
Scullyは、はっとして、その先の言葉を呑み込んだ。

「ランチでもご一緒しませんか？もう、お昼ですよ。」Holly が優しく笑いかけながら、誘った。

彼女自身は、Scullyより１０歳近く若いけれども、もの欲しげな顔をした他の女性職員に、Scullyのパートナーを紹介してほしい、なんて言われてたらどうしようかしら。
Scullyは、少し迷った。
彼女は、母親や夫以外の人間には、あまり打ち解ける方ではなかったので、親しくつきあう人も限られていた。
それでも、Hollyには、友情に近いものを感じてもいた。

「そうね、いいわ。ありがとう。どこに、行きましょうか？」

ScullyとHollyは、F.B.I本部から数ブロック離れた、静かなレストランに行き、席についた。
「すてきなところね。あなたは、Mulderより、いい趣味をしているわ。彼はね、いつも、騒々しいところとか、汚いところに行きたがるのよ。」Scullyは、言った。
「あ、でも。一度、Wisconsinの事件のときに行った、バーベキューのお店は、おいしかったわ。」

「わたし、Agent Mulderを見ると、思い出す人がいるんです。」

「だれ？」Scullyには、想像もつかなかった。神様は、Fox Mulderを造られたとき、従来型の人間とは全く別のものになさったはずなのだけれど？

「Batman、なんです。」ちょっと照れたように笑って、Hollyが答えた。

「そうなの。たしかに、闇の世界で、悪人を追って飛び回っているところは、似ているかもしれないわね。ただ、彼に、お金持ちで遊び人風の分身がいるとは思えないけど。私は、誰になるの？Robin？」

「いえ、Catwomanに見えますよ。たぶん２作目だと思うんですけど、Catwomanが出てくる、映画はご覧になりました？」

「一度見たわ。何年か前になるけど。Mulderとパートナーを組む前ね。」

「たしか、Bruce WayneがCatwomanにしゃべってるシーンがあって、Catwomanっていっても、Catwomanじゃない時なんですけど、自分は、闇の中で生きる人間だから、って言うんですよ。それで、彼女の方は、そんなのかまわない、自分を心配してくれる、普通の男性だって答えるんですね。異常者は、願い下げだけど、って。この映画を、この間、またビデオで見たんですけど、この台詞のところで、なぜか、お二人のことを、考えたんです。」

「そう、わかる気もするわ。少なくとも、私たちは、同じ世界にいるわね。だけど、Batmanって、Catwomanを捕まえようとしてるんじゃなかった？」

「そうなんですけど、逃がしてあげるんです。彼女は、本当の悪人じゃないんですもの。ちょっと泥棒をするだけで、人殺しはしませんから。」

「Mulderと私が、相手にしている犯罪者も、変な衣装を着ていてくれれば、わかりやすいのにね。そうしたら、仕事も楽になると思うわ。」

このランチの時間は、彼女の気持ちを明るくし、５時少し前には、レポートの仕事も終えることができた。
もちろん、Mulderからの、ちょっとあぶないメールを読んだことも、気分がよくなった理由のひとつだ。
彼のような、被害妄想症的に用心深い人間が、誰にアクセスされるかわからないメールに、読まれたら困るようなことを書くはずはないので、見た目は、ただの経過報告だったけれど、言葉の裏の意味を使って、きわどい文章に仕立て上げていた。

彼女は、家に帰り、約束どおり、昨日と同じシャツに着替えた。
待ちかねていた電話が、鳴ったのは、１０時になろうとする頃だった。

「はい。」Scullyが、電話に出た。

「Scully、僕だけど。今回、僕は、絶対たしかな証拠をつかんだと思う。」

それを聞いた瞬間、個人的な感情を上回る、彼女のプロとしての関心が、顔をのぞかせた。
「ほんと？」

「ああ、でも、今は、話さない方がいい。あと、１時間ぐらいで、家につくから、そのときに。」

「わかったわ、気をつけてね。」

「じゃ。」

Mulderの電話は、盗聴されていた。
The Cigarette-Smoking Man は、はげ頭の部下に向かって、うなずいた。
「今だ。奴のアパートに行って、ガス栓をひねってこい。いいか、少しずつだ。部屋に入った途端に気がつくようじゃ、意味がない。だが、すぐ気を失うように加減するんだ。そして、気がつく前に、とどめを刺しておけ。」

to be continued...