DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
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TITLE : Happy Birthday

'Married'シリーズ「以前」ということで・・・・。
Ｓ６の半ばくらいに設定してあるそうです(^^)

作：Angela Wardさん　　訳：bagpiperさん

　「いいこと考えた。」
モルダーがスカリーに話しかけた。

「いいことって、何？」

「地下のオフィスにこもりきって、誕生日を過ごすよりはいいことさ。」

「ＴＬＧのところに、行ってきたじゃない。」と彼女が反論した。
「フロヒキーなんて、私にチョコレートをプレゼントしてくれたわ。」

「あー、僕からのプレゼントは家に置いてきちゃったんだよ。」

「またキーホルダーをくれるの？」

「言わない。」

「スキナーが次の事件の指示を出すまでに、この報告書を仕上げておかなくちゃいけないのよ。スキナーが言ってたわ。『セントラル・パークの、ど真ん中にエイリアンが降りてきても構わん。３件もたまっている報告書を、私に提出するまでは、ワシントンから一歩も出るな！』・・・ですって。」

「それなら、家に持って帰って、そこで書けばいいよ。」

「だれの家よ？」

「君の家。」とモルダーが提案した。
「こうしよう。君は、書類を持って家に帰る。僕は、自分の家に寄って、着替えてプレゼントをとってくる。それで、君の家に行く途中で、夕食になりそうなものを買っていくよ。」

「いいわ。」


スカリーは、家に帰って、郵便物を分類しながら、思った。
こういう誕生日の過ごし方だって、ちっとも悪くないわ。
兄さんや弟からのカードも届いているし、どうやら、モルダーがディナーを用意してくれるみたいだし。

彼女は、Ｔシャツとカジュアルパンツに着替えると、フロヒキーがくれたチョコレートの箱から、一つ選んで口に放りこんだ。

フロヒキーって、本当に優しい人だわ。
パートナーのことばかり気にして、ほかの人に見向きもできなくなってるなんて、良くないことなのかも。

あら、やだ、私ったら、何考えてるの？
彼女は自分に問いかけた。
しかし、あいかわらず、彼女は自己否定の達人だった。
心の中に、フォックス・モルダーが浮かんだようなときは、特に。

しばらくして、モルダーがやって来た。
ピザとワインのボトルを抱えているが、バースデイ・プレゼントらしきものが見あたらない。

「プレゼントはどこなの？」

「こら、スカリー。そんな言い方は、お母さんに叱られるぞ。」

「モルダー。私が、あなたに、今夜うちに来てもいいって言った理由はひとつ。あなたがディナーとプレゼントを持ってきてくれるって約束したからよ。」

「それと、僕のことが好きだから、だろ。」

「ええ、まあ、そうね。」

彼女がその言葉を口に出したとたん、二人の捜査官は、沈黙に包まれた。
針が落ちても聞こえるほどの静寂だ。

スカリーは、何か言わなければ、と焦った。
そのとき、ありがたいことに、救いの手がさしのべられた。
厳密に言えば、手ではなく、ドアベルの音だったが。

モルダーがいてくれるし、拳銃も持っている、という安心感があるのか、彼女は、外の様子のチェックもしないで、ドアを開けた。

「ママ！どうしたの？」

「ダナ。もう帰ってるんじゃないかと思って。プレゼントとケーキを持ってきたのよ。」

「まあ、ママ、そんなわざわざ・・・。さあ入って。私たちもちょうど夕食にしようとしていたところなの。ママはもう、食べたの？」

「あら！」
マギー・スカリーは、娘の隣で、わずかに下がって控えるように立っていた、背の高い男に気がついた。

「こんばんわ、フォックス。」

「こんばんわ、ミセス・スカリー。」

テーブルの上には、ワインが用意されている。
そして、娘とフォックス・モルダーは、ふたりともカジュアルな服に着替えている。いつも仕事の時に着ているような服ではない。
突然、マギー・スカリーは、自分がふたりの邪魔をしに来てしまったのではないかと不安になった。

「ねえ、ダナ、私ったら、あなたとフォックスが、今夜、ディナーを一緒に過ごすことになっているなんて、知らなかったものだから・・・。週末に話したときは、お誕生日に特別な予定は入っていないって言ってたでしょう？」

「急に決まったのよ、ママ。実は、モルダーに買収されてね。彼が、ディナーを持ってきてくれる代わりに、今晩、ここで仕事をすることになっているの。」

「ピザならたっぷりありますよ、ミセス・スカリー。僕が、ばかみたいに大食らいしなければってことですけど。」

「絵本のタイトルになりそうね。”くいしんぼうフォックスとピザ”」
スカリーは、笑いながら言った。

「そういうこと言うから、君にはファーストネームで呼ばれたくないんだ。」
と言いながら、モルダーは、スカリーの鼻の頭を、指で軽くつついた。

マギー・スカリーは、夕食の席に加わったが、ピザをひと切れしかとらず、車の運転があるからと言って、ワインも飲まなかった。
ピザを食べ終わると、スカリーは、テーブルを片づけて、コーヒーポットとケーキを運んできた。

「とてもおいしいです、ミセス・スカリー。」とモルダーが言うと、

「ほんと、おいしいわ、ママ。」とスカリーも声をそろえて言った。

「ダナ、早く、プレゼントを開けてみてくれない？私も、そろそろ帰らなくては。夜遅くに、運転したくないし、あなた方も、仕事が残ってるんでしょう？」

「僕のことなら放っておいて、ゆっくりしていらして下さい。」とモルダーが言った。

スカリーは、母親が差し出した箱を受け取った。
箱を開けると、中には、パステルカラーの、春らしいワンピースが入っていた。

「ああ、ママ、なんて素敵なの！ありがとう。」
スカリーは、母親の頬にキスをするために、身を乗り出した。

「どういたしまして、ダナ。」

「このプレゼントも開けてみたら？」
モルダーが、いつのまにかテーブルの上に置いていた小さな箱を、指さしながら言った。

「ええ。でも、これオールスターのビデオにしては、小さいわね。やっぱりキーホルダーなのね。」

「いいから、開けてみてくれよ、ダナ。」

スカリーは、楽しそうに、にこにこしながら、その小さな箱のリボンをほどいた。
モルダーのプレゼントって、いつも・・・。
・・・とは違う。
箱を開けた瞬間、それまで笑顔だった彼女が、息をのんで、びっくりした表情になった。
箱の中に入っていたのは、想像していたような、ふざけたものではなかった。
ブレスレットだ。
ブルーと透明のガラスを交互に紡いだデザインの、一連のブレスレットだった。
彼女は、無意識に、母親のプレゼントのときと同じ言葉と動作をくり返した。

「ああ、フォックス、何て素敵なの！ありがとう。」
そして、身を乗り出して、彼のあごに小さくキスをした。

この数年で、初めて、彼女が自分をファーストネームで呼んだこと。そして、何でもない感情表現かもしれないけれど、それがとても自然なキスだったこと。
たったこれだけのことに、モルダーは、奇妙なほどたじろいだ。

「どういたしまして、ダナ。」彼は、静かに言った。

「ダナ、ワンピースを着てみてちょうだい。見てみたいわ。」

「ちょっと待ってて。」
スカリーは、プレゼントを抱えて、ベッドルームに消えた。
数分後、薄青と浅緑とライラックに彩られたワンピースに着替えた彼女が、姿を現した。

「よく似合っていると思わない？フォックス。」

「本当に、きれいです。」モルダーは頷いた。

スカリーは、パートナーと母親が座っているところに、戻ってきた。
そして、腕を差し出しながら、言った。
「ブレスレットをはめてくれる？自分でできなかったの。」

彼は、急いで、ブレスレットの留め金をかけてあげた。
そして、心の中で呪文を唱えて、自分を鎮めようとした。
『ママが隣に、ママが隣に・・・』
パートナーを、こんなに近くで感じていると、体が火照ってしまいそうだったからだ。

「ダナ、本当に、もう行かなくては。」とマギーが言い、スカリーの頬にもう一度軽くキスをした。

「ママ。ケーキとワンピースをありがとう。嬉しかったわ。気をつけてね。」

「あなたもね、ダナ。」

「車までお送りします。」とモルダーが申し出た。

モルダーが母親を送って出ていったあと、スカリーは、お皿やコーヒーカップを片づけた。
一瞬、コーヒーをもう一杯注いでおこうかと考えたが、結局、ワインのボトルを開けてしまうことにした。
そして、グラスをコーヒーテーブルに置くと、カウチに座り込んだ

モルダーは、部屋に戻ってきたとき、ちょっと意外な気がした。
スカリーが、まだワンピースを着たままだったからだ。

「じゃあ、報告書にとりかかろうか。」

「そうね、そうしましょ。」彼女は、ため息まじりに答えた。

仕事をしている間、モルダーは、何度も、スカリーの脚のほうに、こっそり視線を走らせた。
素足だ。
ストッキングもはいていない。
そして、あのワンピースは、彼女がオフィスで着ているようなスカートより、だいぶ丈も短い。

手を伸ばして、彼女のふくらはぎに触れ、そして・・・
ばか！やめろ！
彼は、自分に言い聞かせた。

零時になる少し前、ようやくモルダーが言った。
「できたよ！スカリー！この書式に、君がサインしたら完成だ。」

「どこ？」
と言いながら、スカリーは立ち上がり、彼が座っていた一人掛けの椅子の方に歩き出した。
そのとき、彼女がつまづいた。
ワインのせいかもしれないし、疲れていたせいかもしれない。もしかしたら、パートナーの大きな足が邪魔だったのかもしれないが、とにかく、彼女は転びかけた。
モルダーは、手を伸ばして彼女をつかんだ。
そして、彼女は、彼の膝の中に倒れ込んだ。

「おっと、スカリー、これは魅惑的なお誘いだな。」とモルダーが言った。
そして、いつもの「スカリー顔」か、きつい一言が飛んでくるのを待ち構えた。

しかし、彼女は、予想もしなかったことを口にした。
「んー、そうよ。正解！」
彼女は、彼にすり寄って、腕を首に回すと、もう片方の手を、彼の胸にそっと置いた。

「スカリー？」
モルダーは、彼女の目をのぞきこもうとして、彼女の頭に手をやった。

スカリーは、自分でもよく分からなかった。
彼女は、普段、ふざけたり思わせぶりなことは、一切しない。
でも、今日は、お誕生日なのだし、一日くらい、論理的で理性的で分析的な自分を忘れてもよいのでは？

彼女は、モルダーが顔をふり向かせようとしているのに、反抗するようにして、彼の耳をそっと舐めた。
「モルダー、今夜は、素敵なお誕生日をありがとう。」と彼女が囁いた。
「ケーキも食べたし、プレゼントももらったわ。でも、まだ、パーティー・ゲームをしてないわよね。何かしない？」
そう言って、彼の耳に息を吹きかけた。

モルダーは、うめき声が洩れそうになるのを、必死で堪えていた。
明らかに、スカリーは、ワインを飲み過ぎたんだ。
彼女のキスが下りてきて、今度は喉を攻められた。
やめさせなくちゃ。僕たちが、ふたりとも、後悔するようなことをしでかしてしまわないうちに。

「考えたんだけど」
と彼が言いかけると、すぐに、彼女は、彼の唇を指で封じた。

「あなたは、考え過ぎよ。」彼女は小さな声で言った。

モルダーは、自分の中で昂ぶっているものとせめぎ合いながらも、この言葉には、思わず、くすくす笑いだしてしまった。
「じゃあ、今しゃべっているのは誰？」

彼女は、やわらかな笑顔を、彼に向けた。
「そうね。私たち、ふたりとも考えすぎだわ。キスして。」

モルダーは、言われたとおりにした。
彼は、彼女の顔を上向きにすると、唇を近づけた。
彼は、さりげなく、軽いキスをしようとした。そして、慎重に、唇をあわせた。
ただの友達同士が交わす、ちょっとしたバースデイ・キスだ。
唇にするキスだけど、挨拶がわりのキスと、たいして違わない。
この数年の間、お互いに、ほっぺたや額にしてきたようなキスと同じだ。
そうすれば、今までどおり、パートナーでいられるんだから。
彼は、自分に言い聞かせていた。

それなのに。
彼が、唇を離すと、スカリーが、また、彼に笑顔を向けた。
そして、いたずらっぽい顔で笑っている。
彼女は、体の向きを変えると、別のキスを仕掛けてきた。
熱く濡れたようなキスを、忍び込ませて、彼の心を捕まえる。
スカリーは、彼の下唇をそっと舐めると、その舌を、彼の口の中に差し入れた。
モルダーも今度は、同じようにして、彼女に応えた。
彼は、どこか他のところでも反応していた。
彼の膝の上に座っている彼女が、それに気がつかないはずはない。

モルダーは、片手を下ろして、彼女の太腿を撫で上げた。
彼女が身をよじると、彼は、さらに上の方まで、指をすべらせた。
息が苦しくなったスカリーは、唇を離して、彼の首に顔を埋めた。
彼は、脚から手をはずし、ワンピースの薄い生地の上から、彼女の胸を探った。
彼の手には、ふたりを隔てる何かが感じられた。彼を、彼女の素肌の感触から遠ざけている。

「ああもう！ダナ、ワンピースの下に何があるんだ？」

「捜査官なら、調べて、解決してちょうだい。それがＦＢＩの基本だって、昔、あなたが言ってたわ。」

モルダーは、あと１０秒以内に、自分のとるべき道を決めなければならないと思った。
もうこれ以上は、彼の自制心が、すり切れてしまいそうだった。
スカリーを、膝の上から押しのけて、今すぐドアから出て行くか。
あるいは。
彼女をこの腕の中に抱き上げて、ベッドルームに運び、そして、彼女を泣かせるまで、彼女と愛し合うか。
ふたつにひとつだ。

「スカリー、」
彼が言いかけた、その瞬間、スカリーの電話が鳴りだした。

「留守電が出るわよ。」
彼女は、彼の腕や肩から胸にかけて、空いた手で触りながら、まだ首にキスを這わせていた。

留守電に切り替わったとき、ふたりの上司の声が聞こえた。
「スカリー捜査官！」スキナーの声がとどろき渡った。
「電話に出なさい！」

モルダーとスカリーは、顔を見合わせた。
「えーと、そう、電話に出たほうがよさそうね。」
「重要な用件みたいだから。」

モルダーがうなづいた。

彼女は、ゆっくりと、彼の膝の上から下りると、部屋を横切って、電話をとった。
「Ｓｉｒ？」

「モルダー捜査官がどこにいるか知らないかね？」

「彼なら、ここにいます。提出する報告書を、たった今、仕上げたところです。」

「モルダーに替わってくれ。」

「はい、お待ち下さい。」

モルダーは、向こうから歩いてきて、電話を受け取った。
彼は、'Yes, sir' と言いながら、スキナーの話を聞いた後、電話を切った。

「大至急、オフィスに来てほしいんだそうだ。」とモルダーは言った。
「事件だ。どうやら、町の住民全員がアブダクトされたらしい。くそ！！」

「え？」

「行きたくないよ。あのイカれた局にいる捜査官は、僕たちだけなのか？」

「モルダー、まさにＸファイルの事件じゃない。あなたの人生をかけた仕事でしょう？」

「じゃあ、その人生の、今だけでいいから、仕事したくないんだ。」

スカリーは、彼に笑いかけた。
「着替えてくるわ。一緒にオフィスに行きましょうね。」

モルダーは、リビングルームに立ったまま、スカリーを待った。
ズボンの中に、氷をひとつかみ入れた方がいいような気もしたが、何とか書類をかき集めて整理した。
彼女は、すぐに、ダークカラーの地味なパンツスーツに着替えて、戻ってきた。

モルダーには、わかっていた。
スキナーからの電話が鳴らなかったら、ふたりの間に何が起きようとしていたか、彼女は、決して、口にすることはないだろう。
去年の夏、彼の部屋の前の廊下で、キスを交わしかけたときのことを、ふたりとも忘れたふりをしてきたように。
また、ニアミスってわけだ。
彼は、ため息をついた。
たぶん、これでいいんだ。
彼女をこれだけ自分につき合わせている上に、これ以上、昼も夜も、自分のものにしようとするなんて・・・そこまで彼女に甘えていいのか、彼は、まだ自分の気持ちを確かめることすらできずにいた。

「出張の用意もしてきたわ。飛行機に乗ることになったら、あなたの家に寄るだけで済むから。」

「そうだね。それは僕が持つよ。君は、ブリーフケースと、かばんを持って。」

ふたりは、彼の車まで、無言のまま歩いた。

車を走らせ、ＦＢＩ本部の近くまで来たとき、スカリーが手を伸ばして、ハンドルの上のモルダーの手に触れた。
街灯のあかりが、彼女の手首で反射して、きらりと光ったのを見て、モルダーは驚いた。
彼がプレゼントしたブレスレットだ。
彼女は、そのまま身につけていたのだ。
それに気づくと、彼は、微笑んだ。
もし、彼女が、ブレスレットの値段を知ったら、彼を殺しかねない。
彼は、スカリーや彼女の母親が、日常的には、シンプルなアクセサリーしか身につけないことを知っていた。
もし、彼のパートナーが、本物のダイアモンドとサファイアのジュエリーが、自分の手首を飾っていることに気がついたら、大変なことになるだろう。

「モルダー？」

「なんだい？スカリー。」

「いいお誕生日だったわ。ブレスレットとディナーを、ありがとう。それから、あの、ほんとうにありがとう。」

モルダーは、彼女の手を持ち上げて、口元に寄せた。
そして、彼の唇の下で、彼女の脈拍が早くなったのを感じて、また、微笑んだ。

「どういたしまして。」
彼は、そう答えた。

End