DISCLAIMER: The characters and situations of the television program 
"The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting,
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TITLE : An X-cellent Valentine's Day

作：Angela Wardさん　　訳：bagpiperさん

　「スカリー、僕ちょっと、この男に会ってくるよ、どんな情報があるのか確認してくる。個人的には、ただの異常者だって思うんだけど、まあ１５分くらい大したことないだろう？」
　ダナ・スカリーは、自分たちのオフィスの反対側に座っている夫を見やった。
　「一緒にいくわ。」
　「いや、いいよ。」
　「なあに、モルダー、どうかしたの？」彼女は、不審に思ってたずねた。
　モルダーは、ため息をついた。
　彼にとって、妻と同じ職場だということの唯一の欠点がこれだ。妻をびっくりさせるようなプレゼントを内緒で仕込んでくるために、どれほど苦労しなければならないか、彼は、クリスマスのときに身にしみて知った。
　「君、カレンダー見ないの？」
　「２月のまんなか・・・何かあったかしら？・・・あ！バレンタインデーのこと？」
　「そうだよ。明日だよ。いいかい、車とかオフィスとか家の中とか、どこかで包みを見つけるようなことがあっても、君、調べちゃだめだよ。」
　「モルダー、私たち８年近く一緒にいるけど、私、あなたがバレンタインデーの存在を知っていたということすら知らなかったわ！」
　「というわけで、僕にもいろいろ予定があるんだな。じゃ、また後で。」
　
その情報提供者は、やっぱりただの異常者だった。そいつに比べれば、ＴＬＧの３人でさえ普通に見えるくらいだ。
　モルダーは、その男と会った後、カードショップと花屋に寄った。花を注文して、明日の夕方６時の閉店までに受け取りに来ることにした。
　本当は、花屋が、彼らのあのオフィスまで届けに来てくれる方がいいのだけれど、それは余りに思慮にかける行動だろう。彼とスカリーが今までどおり、パートナーとして仕事をしていきたいのなら、彼らのプライベートの秘密を絶対に知られないようにしろ、というのがスキナーの命令でもあった。

　ほんの一瞬立ち止まり、考えたあと、モルダーはＦＢＩ本部に戻る前に、もう１軒だけ寄ることにした。その店は、彼が独身時代、非常にお世話になった場所でもある。しかし、彼はこの１年ほど、そこには足を踏み入れてもいなかった。用がなくなったからだ。

　「まあ、めずらしい」薄い色の金髪をした女性がカウンターで彼を迎えた。「しばらく見なかったわね。」
　「やあ、トリクシー」彼は愛想良く答えた。彼は、ビデオや雑誌の前を通り過ぎ、ギフトコーナーに歩いていった。そこに並んでいた商品のいくつかを見て、彼は、（変態・・・）と思った。しかし、彼の直感と記憶のおかげで、すぐにお目当てのものを２つ見つけることができた。
　彼は、品物を入り口のカウンターに置いた。
　
　「あらら」トリクシーは、彼を褒めそやすように言った。
　「わかったわ。あなたも観客から選手にステップアップしたってことね？」
　「いくら？」彼は、彼女の質問を無視して聞いた。
　「ねえ、あなたが気に入りそうなビデオが入荷してるわよ。ソフトコアだしマイルドで、意外と筋立てもしっかりしてるの。ふたりで見るのにいいかも。」
　モルダーはうなずいて言った。
　「また今度にするよ。仕事があるんでね。」
　トランクの中の古い毛布の下に、さっき選んだカードと一緒にプレゼントを隠すと、モルダーは仕事に戻っていった。

　その日、オフィスを出てから、モルダーはスカリーに聞いた。
　「明日だけど、僕がどこか予約しておいて君をびっくりさせるのがいいかな？それとも、どこか行きたいレストランがある？」
　「好きなところを言っていいのかしら、モルダー」
　「いいよ」
　「じゃあ、今からスーパーマーケットに行って、お肉とワインと甘いものでも買っておきたいわ。明日は、家でディナーにしましょうよ。」
　「どうして？」
　「理由は３つあるわ。」指を３本立てて見せながら言った。
　「ひとつ。バレンタインデーの日にはレストランは混んでいるものよ。５時とか９時過ぎとかの時間でいいなら別だけど、そうじゃなかったらマクドナルドになっちゃうわ。つまり、素敵なレストランの普通の時間帯は予約でいっぱいってこと。ふたつめ。局の誰かに見られる危険性もあるわ。バレンタインデーに、キャンドルライトのディナーを楽しんでるなんて、怪しまれるでしょうね。私たちが一緒に働きたいなら、”慎重さ”も求められるってこと。三つめは、最近出張が多かったから、ほとんど毎日外食だったってこと。週末は家にいたけど、日曜日の夕食はママのところに行ったし。」
　「僕には、４つ目の理由もわかるぞ。」
　「なあに？」
　「もし僕が、ディナーの席で、興奮しちゃって、僕の頭にうかんだ夢のようなことを、実際の行動に移したら、絶対ふたりとも逮捕されるな！」
　彼女は、”スカリーらしい”目つきで彼をにらむと、彼の腕に向かってげんこつを突き出した。

　翌朝、スカリーは、モルダーより先に起きて着替えた。いつもは彼女の方が、お寝坊だったので、これはふたりにとって珍しいことだ。
　「どこに行くの？」
　「早めに仕事に行くわ。」
　「どうして？」
　「今日は早退して、ディナーの用意をしたいから。」
　「ほんとに！？」
　「ええ。家であなたの帰りを待つっていうのをやってみたいのよ。」彼女が優しく言った。
　「一緒に帰ってくるより、その方が、つまり、素敵だと・・・思うの。」
　実際、その方がモルダーの計画にも好都合だ。帰ってくる途中で花屋にも寄れる。
　「わかった。じゃあ、君は自分の車で行くんだね？」
　「そうするわ。午後からQuanticoの仕事もあるし。じゃあね、お先に行ってきます。」

　スカリーがラボから出てきたのは４時過ぎだったので、彼女はこのまま自宅に帰ってもいいだろうと考えた。
　家に着いてシャワーを浴びると、体の線をきれいに見せるワンピースに着替えた。モルダーが好きなミッドナイトブルーのワンピースだ。
　それから、買ってきた大きなハート型のプラスチックケースに、ひまわりの種の袋を詰め込んだ。確かに、バレンタインデーに、妻から夫への贈り物がひまわりの種だというのは、普通ではない。でも、彼女とモルダーの人生に、普通のことって存在しただろうか？

　スカリーは、パンとポテトをオーブンに入れ、お肉には下味をつけて、サラダも用意した。そして、ロマンティックな音楽をかけてから、テーブルセッティングを整えて、ろうそくに灯をともした。お肉を焼くのはモルダーが帰ってきてからだ。彼が手伝ってくれるはず・・・。
　他になにかあったかしら？そう、思い出したわ。
　すでに彼女は、彼が結婚してすぐに買ってくれたイヤリングをつけていた。それに、いつものように、家に帰った瞬間に結婚指輪もはめていた。しかし、彼が去年のクリスマスにくれたブレスレットは、お料理の間、はずしておきたかったので、まだ身につけていなかった。彼女は急いでブレスレットを取りにベッドルームに向かった。

　アクセサリーをつけて、鏡に映った自分を見ているとき、彼女は、ドレッサーのそばの床に紙切れが落ちているのを見つけた。レシートか何かだろう。スカリーは、家計のほうか仕事関係のほうか確認しようと思って、それを拾い上げた。
　それを、ひと目見るなり、彼女は打ちのめされ、惨めな気持ちになった。

　スカリーは、そのレシートを前にも見たことがあった。モルダーとパートナーを組むことになって以来、結婚するまでの間に２回ほど、そういうレシートが、出張の際の必要経費のレシートに偶然紛れこんでいたのだ。２度とも、彼女はモルダーに返しながら、冷たく「スキナーが経費と認めてくれるとは思えないわ。」とだけ言った。

　モルダーは、結婚前、ＡＶ鑑賞の趣味を隠したことはなかったけれど、そのことについて、スカリーは、複雑な思いを抱いていた。
　彼女は、その手のビデオや雑誌で、女性が単なる性の対象に貶められているという点を忌み嫌っていた。しかし、一方では、モルダーみたいに魅力的な男性が、他人の演技でしかないＡＶを見て、いつも時間をつぶしている、ということは、きっと現実につきあっている人がいないからなんだわ、と確信し安心もできた。
　その頃の彼女は、自分の気持ちを分析することを、あえて避けていたので、どうして自分のパートナーが独り寝をしているということで、自分が安心できるのか、考えようともしなかったが。

　結婚してすぐに、モルダーは、自分のビデオや雑誌のほとんどをフロヒキーにあげてしまった。「ほとんど」というのは、彼が、’Play Boy’数冊（なぜか彼は頑強に主張した）と、ビデオを何本か手元に残しているからだ。ただし、もう２度と新しいのは買いません、と彼は彼女と約束したのだ。

　スカリーは、震えながら、深く息を吸おうとした。
　彼女も、結婚するまでに何の経験もなかったわけではなかったが、彼女の経験というのは、数えるほどしかなかった。実際に数を数えることもできるほどだ。結婚前のそういう相手は、みんな、彼女が積極的にふるまわないことや、彼女の抑制のきいた態度に、不満をもらした。だから、彼女は、結婚したら、自分が深海魚みたいにつまらない女だってことを知られてしまうと思いこんでいた。しかし、モルダーは、１ヶ月もたたない内に、彼女のそういう考えを、剥ぎとってしまった。・・・文字通り・・・と彼女は思いながら、わずかに微笑んだ。
　彼は、忍耐強く、優しく、そして情熱的に彼女を励まし続けてくれた。

　でも、そういう結婚生活も、だんだん色あせていくんだわ。
　ずっと長い間、体の関係とは別の意味で、気持ちを確かめあい、ふたりの関係を築き上げてきた。そして、健康な男と女である以上当然のことだが、いつしかお互いを求めた。それなのに、そういう気持ちも、きっとなくなってしまうのだ。
　彼女は、事実と向き合った。
　察するに、モルダーは、彼女自身よりも、自分をかき立ててくれる何かを必要としているのだろう。
　彼女は、結婚前のような見方をしてみようと思った。
　なにも夫が不貞をはたらいているのを見つけたわけじゃないわ。そうよ、そうじゃない！それに、楽しみにしていたバレンタインの夜に、ふたり揃ってＲ指定のビデオを見ることが彼の計画だったとしても、それが何よ。
　そう考えても、まだ彼女は、怖くて震えがとまらなかった。手足に力も入らない。
　その時、彼女は、入り口のドアが開く音を聞いた。

　to be continued......