TITLE 　　『 Under the cherry blossom 』

AUTHOR 　　　HISAYO

「暖かいわね。」
「あぁ。もう桜も終わりだな。」
モルダーとスカリーは公園の中をゆっくりとベビーカーを押しながら歩いていた。
肌寒く感じられる季節も終わり、肌にふんわりとした感触を与えてくれる春風が吹き始めた日曜日。
ウィルの日光浴もかねて３人で近くの公園に散歩へと出かけてきたのだった。
「ウィルもご機嫌ね。」
すでに１歳半になるウィルはベビーカーに座って嬉しそうに公園の景色を見回している。
「あぁ。ウィルはこの公園がお気に入りだからな。な、ウィル。」
「パァパ、だっこ。」
モルダーがのぞき込むとウィルはそういってモルダーに小さな手を伸ばした。
「あぁ。いいよ、おいで。」
モルダーは笑顔でベビーカーのウィルを抱き上げた。
「ほら、ウィル。高くて眺めがいいだろう。」
少し高めにウィルを抱き上げるように言うと、ウィルは楽しそうに笑い声をあげる。
「だめよ。そうやってすぐに抱いちゃうんだから。」
「いいじゃないか、なぁ？ウィル。」
スカリーは眉根をよせてモルダーを見上げるが、モルダーは愛しそうにウィルに頬ずりをした。
「なかなかウィルの抱き癖がとれないのはあなたのせいなのよ。」
「別にいいだろう。小学生とかになっても抱き癖がとれない子なんていないんだからさ。
　こんな風に抱くことができるのも小さいうちだけだよ。ウィルは男の子なんだしすぐに
　父親のだっこなんかいやがるようにかもしれないしさ。」
「それはそうかもしれないけど・・。」
「な、ウィル。パパのだっこ、好きだよな？」
「うん！」
モルダーがウィルの瞳をのぞき込んで言うと、ウィルはその意味が分かったのか大きく
うなずいてモルダーの首にその手を回した。
「ほら、な？」
「もう・・。」
渋い顔をしていたスカリーもウィルの満足そうな笑顔につられる様に笑顔をみせた。

「ここにしようか？」
「そうね。」
しばらく公園を歩くと、大きな桜の木の下に気持ちの良さそうな木陰ができていた。
モルダーはベビーカーに積んであったシートを広げると、そこにウィルをおろした。
ちょこんとお座りをして自分たちを見上げるそのウィルの表情にモルダーとスカリーは
微笑みあうと、ウィルを挟むようにそこに腰をおろした。
「桜ももう終わりね。」
「あぁ・・今年は少し桜も早かったかな？」
その大きな桜の木ははらはらときれいな薄いピンク色の花びらを３人の上に舞い散らせてくる。
駆け回る楽しさを覚えてきたウィルはシートからよいしょと一人で立ち上がると、その桜の花びらを
つかもうと一生懸命手を伸ばす。
しかし小さなウィルの手では春風によってふわふわと舞う桜の花びらをうまくつかむことができず
後一歩というところで花びらを逃がしてしまい、そのたびにウィルは不満そうな表情で次の目標の
桜の花びらを見つけては果敢にチャレンジするのだった。
そんなウィルの愛らしい様子をモルダーとスカリーは微笑みながら見つめていた。

「ウィル、がんばって。」
「ほら、もう少しだぞ。」

スカリーとモルダーで声をかけると、ウィルはきっと表情を引き締めてまた桜の花びらへと
向かっていった。
「今の顔・・・。」
そのウィルの表情をみてスカリーはくすくすと笑い出した。
「ん？」
「あなたにそっくり。」
「そうかな？」
「えぇ。」
「僕は君に似ていると思っているけど・・・ま、否定されることも多いから僕と似ているって
　ことにしておこうかな。」
「ふふふ、何度も言うけどあなただけよ。私とウィルが似ているなんていうのは。」
「ま、いいさ。僕は君とウィルが似ているところを１００個あげることができるけど
　ことごとく否定されそうだからこのまま黙っておくことにするよ。」
「それは黙っているとは言わないのよ。」
スカリーが甘くモルダーをにらむと、モルダーは楽しそうに肩をすくめた。
そして立ち上がると桜の花びらを追い回しているウィルを急に抱き上げた。
「お花とるのー！」
ウィルは不満そうに広い腕の中でモルダーに訴える。
「わかっているよ。パパと一緒にとろう。」
そういうとウィルをモルダーは肩車した。
「ほらウィル！ここまで高いと花びらもとれるだろう？」
「うん！」
ウィルは嬉しそうに桜の木に向かって手を伸ばした。それでもなかなかとれず、モルダーも
ウィルが手を伸ばす方向に右、左と桜の花びらの中を駆け回る。それがよけいに楽しいのか
きゃっきゃっと楽しそうな笑い声をあげた。
「気をつけて、滑らないでね。」
その二人のはしゃぎようにスカリーも楽しそうに声をかける。
「とったー！」
「よし、それじゃもっととってごらん。」
「うん！」
要領を得たウィルは嬉しそうに次々と小さな手のひらで桜の花びらをつかんでいく。
そんな天使のような笑顔を見つめ、スカリーは幸せそうに微笑み、モルダーとウィルを
優しく見つめるのだった。


ひとしきり桜の花びらをとることに専念していたウィルも両手いっぱいにたまると、
モルダーの肩車からおりて当然の様にスカリーにそれをプレゼントした。
「ありがとう。きれいね。」
「うん！」
スカリーの笑顔にウィルは嬉しそうにうなずくと、モルダーの手を再度引っ張った。
「パパ、もう一回。」
「ウィル、パパ、もう疲れた。。」
「だめ！もっと。」
「勘弁してくれよ。」
「いや！」
さんざん肩車をして右に左に動かされたモルダーがさすがに疲れを訴えると、ウィルはほっぺを
ふくらませて続きをモルダーにねだる。
「今度はママにだっこしてもらったら？」
「パパがいい！」
「おまえ、そういうときだけパパ、パパって言うんだから。ずるいぞ。」
「ママぁ。」
モルダーがどっかりと腰を下ろすと、ウィルは不満そうにスカリーの袖を引っ張った。
「パパ疲れちゃったんですって。」
「いやっ！もっと。」
「パパ、肩が「イタイイタイ」って言っているわよ。」
「イタイイタイ？」
スカリーのその言葉を聞くとウィルはたちまち不安そうな表情になってモルダーをみた。
「うん、パパここが「いたいいたい」なんだ。」
モルダーがそう言って自分の肩を示すと、ウィルはすぐにモルダーの腕につかまり、そのモルダーの
肩をなではじめた。
「パパ、イタイイタイなの？」
ウィルは小さい手で何回もモルの肩をなでる。
「うん。でもウィルにそうやってもらって治ってきたかな？」
モルダーが微笑みながら言うとウィルはさらに一生懸命モルダーの肩をなでて
「イタイイタイのとんでけー。」
と何回も繰り返した。
「「イタイイタイ」ない？」
「あぁ。ありがとう。すっかり治ったよ。」
モルダーがその愛らしさにウィルをその腕の中にだくと、ウィルは嬉しそうにモルダーの
顔をみつめた。
「ウィルの手は魔法の手だな。」
「まほう？」
「そうだよ。ママにも治せないようなものでもウィルは治せちゃうんだもんな。」
「パパ、イタイイタイないの？」
「ウィルが治してくれたからね。」
モルダーがウィルの問いかけに微笑んでうなずくと、ウィルはモルダーの腕から脱出しようと
もがいた。
「ん？どうした？」
その行為にモルダーがシートの上にウィルを立たせると、ウィルはにっこりと笑ってモルダーの
腕を引っ張る。
「ん？」
「もういっかい！」
「え？」
「もういっかい！」
ウィルはそう言って満面の笑顔で頭上の花びらを散らす桜の木を指さした。
「・・・・・。」
唖然としているモルダーをみてスカリーは思わず吹き出した。
「しょうがないわね。ウィルがイタイのを治してくれたんだから、やっぱりウィルのお願いは
　聞いてあげなくちゃ。」
「ダナ・・。」
「自分で言ったんでしょ？もういたくないって。」
自分を恨めしそうな表情で見るモルダーにスカリーは楽しそうに言った。
「分かったよ。さ、ウィルおいで！」
「うん！」
ウィルは観念して立ち上がったモルダーに嬉しそうに手を伸ばすと、先ほどと同じように高い
パパの肩車を誘導して花びらとりに専念し始めたのだった。



「もういっかい。」
「いや、もう本当に勘弁してくれ。」
「だめ！もういっかい。」
「もう一回やっただろう。」
「もういっかい。」
「ウィルぅ～。」
「もっとぉ！」
ぐったりとしているモルダーの腕をウィルは何回も引っ張る。
「ダナぁ・・助けてくれよ。」
得意の子犬顔で自分に助けを求めるモルダーにスカリーは小さく肩をすくめると、
バスケットの中からクッキーを取り出した。
「ウィルおやつを食べたら？」
「おやつ？」
「そうよ。はい。」
スカリーが微笑みながらそのクッキーをウィルに渡すと、ウィルは今まで続きをせがんで
いたことなど忘れたように、嬉しそうにクッキー受け取った。
そしてスカリーに手伝ってもらいながら袋から取り出すと満足そうに口に運ぶ。
「美味しい？」
「うん！」
スカリーが意味深な視線をモルダーに向けると、モルダーはさすがというように肩をすくめながらも
大きく安堵のため息をもらした。
そして目の前でちょこんと座っておいしそうにクッキーを食べるウィルをのぞき込んだ。
「ウィル。おいしそうだな。パパにも少し分けてくれる？」
嬉しそうにそのビスケットをもっているその小さな手を、モルダーがちょんとつつくと
ウィルは残り少なくなったビスケットをあわてて口の中にいれて飲み込んだ。そして
「ないない、なの。」
と両手を差し出して、モルダーを見上げた。
「それはウィルが今、食べちゃったからだろう。」
そのウィルの様子にモルダーが楽しそうに笑うと、スカリーもその様子に笑い出した。
ひとしきり楽しそうに笑ったスカリーだったが、ウィルを膝の上にのせると自分と同じ色の瞳を
まっすぐに見つめて微笑んだ。
「ウィル。誰かがちょうだいって言ったらちゃんと分けてあげなくちゃだめよ。
　ウィルだってちょうだいってお願いしたのにもらえなかったらいやでしょう？」
「・・・・。」
「ママの言うことわかるわね？」
ウィルはしばらく黙ってスカリーを見つめていたがやがてこっくりとうなずいた。
「うん。」
「そう。それじゃこれはパパと半分こして食べましょうね。」
スカリーはもうひとつのクッキーをウィルに渡すと、ウィルはそれを上手に半分に折って
「パパ、はい！」
とモルダーに渡した。
「ありがとう。」
モルダーが微笑んで受け取ると、今度は自分の分の半分をまた半分にわった。
「ママ。はい！」
「ママにもくれるの？」
「うん！」
「ありがとう。」
スカリーがウィルに微笑みかけると、ウィルは満足そうな笑顔をみせて小さくなったクッキーを
口に運んだ。
そんなウィルの様子にモルダーとスカリーは幸せそうに微笑みあった。



「眠った？」
「・・えぇ。」
スカリーの腕の中でひとしきり甘えていたウィルはやがて可愛い寝息を立て始めた。
「さんざん走り回っていたからな。疲れたんだろう。」
「そうね。」
クッキーを食べ終わった後、ウィルはモルダーと二人で芝生の上を駆け回り、たくさんの
桜の花びらを拾い集めてはスカリーの元に運んできたのだった。
「花びらだらけになっちゃったな。」
薄いピンクの花びらに囲まれてるスカリーにモルダーは微笑みかけた。
「ウィルがどんどんもってきてくれるんですもの。もういらないともいえないしね。」
「あぁ・・。何でもママに、ママにだからね。」
「あら？そんなことないのよ。あなたが仕事に行っているときはなんでもすぐにパパに
　とっておくってしまい込んでいるわよ。帰ってくるとちゃんと渡しているでしょう？」
「どんぐりとか葉っぱとか？」
「そうよ。いつでもパパ、パパって言っているわ。」
「へぇ。そうなんだ。僕の前ではママばかりいっているけどな。」
そういってモルダーは眠っているウィルの頬をちょんとつついた。
「だめよ。起きちゃうでしょう？」
スカリーはそういってモルダーからかばうように背をむけると、もってきたブランケットの上に
ウィルをそっと寝かせた。
ウィルはブランケットの上ですやすやと幸福の塊の様に眠っている。
そんなウィルの天使のような寝顔をみつめ、モルダーは思わず微笑みをもらした。
「さっきは参ったよ。もう痛くないって言ったらすぐもう一回だからな。」
モルダーは先ほどのウィルの様子を思い出し苦笑した。
「あなたがイタイイタイだって言ったら真っ先に心配していたけど・・。」
「ウィルは誰かが痛い思いをするのが嫌みたいだな。」
「えぇ。それが一番だめみたいよ。私がなにかにぶつけてちょっとでも痛がっていると飛んできて
　くれるわ。」
「そして「マァマ、だいじょ～ぶ？」って」
いつものウィルの口調を真似してモルダーが言うと、
「そう。そっくりね、さすが親子だわ。」
そんなモルダーの様子にスカリーはくすくすと笑った。
モルダーはそんなスカリーの微笑みを見つめると、ウィルの隣にごろんと横になった。
そしてウィルの寝顔をじっとみつめる。
「そっくりだって自覚しているの？」
スカリーもウィルにもってきた日傘で影を作ってあげながら、上目遣いでモルダーをみる。
「いや、そういうわけじゃないけど・・・。ダナ、影ない方が気持ちよさそうじゃないのか？」
そういってモルダーが日傘をとろうとすると
「だめよ。」
すぐにスカリーがそれを押さえた。
「でもそんなに強い日差しじゃないし。逆に寒くならないか？」
「だったらブランケットを掛ければ大丈夫よ。紫外線が強いし・・子供用のクリームは塗って
　きたけど、そばかすができちゃったりしたらかわいそうだわ。」
「そばかすって・・・ウィルは男の子だよ。」
「関係ないわよ。男の子だってそばかすは嫌なモノなの。チャールズだって多いでしょ？
　高校生の頃よく気にしていたわ。」
そういってスカリーはまた日傘の位置を調整する。
「そうかなぁ？チャールズ？？」
モルダーは滅多に逢うことはないが、兄のビルよりは数段気があう弟のチャールズの顔を
思い出しながら軽く首を傾げた。
「あるのよ。私とチャールズが特に酷いもの。赤毛にはそばかすがつきものなんだわ。」
「ダナだって気にするほどないじゃないか？」
「ありますっ！そばかすが多くてどれほど嫌な気持ちになったか・・・。あなたはそばかすとか
　できるタイプじゃないからこの苦労はわからないんだわ。」
「だって僕は男だしさ。」
「男も女も関係ないって言っているでしょう？ウィルは顔立ちはあなたにそっくりだけど
　もしかしたら肌質は私ににているかもしれないし・・・そうなったらそばかす、とっても
　できやすいのよ。小さいうちから防いでおいてあげなくちゃ。」
モルダーはそのスカリーの必死な様子に軽く笑う。
「何がおかしいの？」
「いや、ダナは自分の嫌いなところがけっこうあるんだな。」
「・・・あるわよ。」
「ここだって気に入らないんだろう？」
そういってモルダーはスカリーの二の腕を軽くつかんだ。
「ちょっとつかまないで！」
スカリーはモルダーの手を振り払おうと軽く暴れるが、モルダーはつかんだまま上目遣いで
スカリーを見る。
「前から太い太いってさんざん騒いでいるもんな。」
「だって実際に太いんだもの。」
「太くないよ。ちょうどいい感触だと思って僕は気に入ってる。」
「なによ、感触って・・・。」
「何ともいえない弾力性があってさ・・・。」
「やっぱり太いってことじゃないの！放してっ！」
「大きな声だすなよ。ウィルが起きるだろう。」
スカリーの膨れた表情にモルダーは楽しそうに笑った。
「そうやって意地悪言っていればいいんだわ。」
「本当のことだよ。ダイエットなんかして細くしたりしないでくれよな。」
「できることならとっくにやっています。体重が落ちたってここだけは落ちないんだモノ。」
そういうとスカリーはぷいっと横をむいた。
「なに膨れているんだよ。ま、そういうところがウィルとそっくりなんだけどさ。」
「１歳の子と一緒にしないで。」
「それじゃ、１歳の子と一緒のことしない。」
「・・・。」
そのモルダーの切り返しにスカリーは恨めしそうにモルダーをみる。
「ダナ・・。」
「なに・・きゃっ！」
モルダーに腕を引っ張られ、そのままスカリーは横になっているモルダーの胸に抱き込まれた。
「ちょっと・・誰かきたら・・・。」
「誰がきたっていいだろう。夫婦なんだしさ。」
「夫婦だってだめよ。」
「平気だよ。」
「だめですっ！」
スカリーはそういうとモルダーの腕から逃れようともがくが、それはかないそうにない。
「あんまり暴れるとウィルが起きるぞ。」
「あなたが放してくれればいいのよ。」
「それはだめ。」
「・・・もう。」
弱まることのないモルダーの腕の力にスカリーはあきらめたようにため息をついた。
そのとき、ウィルが小さな声をあげた。
「ほら、あなたがふざけるから起きちゃっ・・」
「・・・っては、いないみたいだな。」
驚いてウィルをみた二人はそのまま満足そうな笑顔をみせて眠り続ける寝顔にくすっと
微笑んだ。
「なにかいい夢でもみているのかしら？」
モルダーの胸の上に頭をおいたままスカリーはウィルをみつめた。
「満足そうな寝顔だからな。なにかおいしいモノでも食べているんじゃないのか？」
「ふふふ・・そうかもしれないわね。」
むにゃむにゃと口元を動かしているウィルにスカリーは小さく笑った。
「子供は不思議だな。ウィルの寝顔を見つめているとすごく安心できる。なにもかも忘れてずっと
　いつまでも見つめていたくなるよ。」
「あら？忘れたくなるような日常があるの？」
「そう言う意味じゃないさ。」
からかうような声を胸元で聞きながらモルダーは小さく笑った。
「でも本当よね。私も気がつくとずっとウィルの寝顔を見つめているときがあるわ。」
モルダーの腕の中からスカリーはそっと手を伸ばすと、ウィルのブラウンの髪を静かになでた。
「いたずらもするし、仕事も増やすし、疲れさせたりしてくれるけど・・・。」
「でも誰よりも僕たちを幸せにしてくれる。」
「えぇ。」
「ウィルも幸せになってほしいな。」
「そうね。私たちには笑顔しかあげることができないけど・・・。」
「でもきっと・・・僕たちの笑顔でウィルは幸せになってくれると思うよ。」
「・・・そうね。」

そのままモルダーとスカリーは幸せそうにウィルの寝顔を見つめ続けた。

「ダナ・・。」
「なぁに？」
まどろみの中からスカリーが答える。
「二人目、真剣に考えようよ。」
「どうしたの？急に。」
スカリーはくすっとモルダーの腕の中で笑った。
「ウィルみたいな天使がもうひとり増えるなんて最高だろう？」
「その分肩車も２倍しなくちゃならないわよ。今までの倍以上疲れちゃう様になるんだから。」
「でもさ・・・。」
モルダーは自分の胸の上にあるスカリーの赤い美しい髪にそっとふれる。
「え？」
「幸せも倍になるよ。いや、きっとそれ以上・・幸せは１０倍にも１００倍にもなる。」
「・・・そうね。」
スカリーはモルダーの体内から響いてくるような優しい声に小さく微笑み静かに瞳を閉じた。
「・・・今度は君に似た女の子が産まれてきてくれると嬉しいな。」
「・・・・。」
「ダナ・・？」
モルダーがそっと胸元のスカリーをみると、規則的な静かな寝息を立てているスカリーがいる。
「なんだ・・もう寝ちゃったのか・・。」
つぶやくように言うと、モルダーは隣でまた同じように寝息を立てているウィルをみつめる。
そしてもう一度スカリーの寝顔を見つめた。
「ダナの寝顔も、十分僕を幸せにしてくれるよ。」
モルダーはそういって幸せそうに微笑むと、ほんの少し体を起こしてスカリーの頭上にキスを贈った。

「SweetDream。」

そして片手をウィルの方に伸ばすと、二人を抱き込むようにしてモルダーもゆっくりと瞳を閉じた。

なにもかも包み込んでしまうような春の日溜まりの中・・
幸せそうに眠る親子３人の上に桜の花びらは、はらはらと美しくいつまでも舞い散っていくのだった。

END